AI は社会に対してこれまで何をしてきたか
そして AI は社会に対してこれから何をすべきか
What AI has done for our society?And what AI should do for our society from now?
松原 仁(はこだて未来大学)
Hitoshi MATSUBARA (Future University Hakodate)
Abstract: Some AI researchers say that AI is always researching on things what computers cannot do. When computers learn to do something, it is omitted from AI. AI has done many things, but the things are not considered as results of AI research. We, AI researchers, have to claim that not only what we want to do but also what we have done.
人工知能は常に(人間にできて)コンピュータにまだできていないことを研究する領 域であるという定義がある.この定義によればできるようになったことは人工知能から離 れていき,残った「まだできないこと」を研究していることになる.確かに以前はコンパイ ラや数式処理などが人工知能の領域にはいっていたが,アルゴリズムが確立すると人 工知能の領域とは見なされなくなった.仮名漢字変換も乗換案内も同様の経過をたど りつつある.また,人工知能の研究者は何をしたいかという夢を語ることは多いが,何 ができるようになったと語ることは少ない.常に困難に挑戦するチャレンジ精神は尊い が,人工知能の最終目標がコンピュータに人間のような知能を持たせることであるとす れば,その目標の達成までにはまだ時間がかかるので,適切な中間目標を立ててそ れを着実にこなしていく必要がある.人工知能の研究者はできていないことをできるよ うにすることに興味を持ち,自分が思いついた新しい手法でできるようになったことを 例題によって示せればそれで満足して,他の「できていないこと」に興味の対象を移す 傾向が強い.例題で示したのはその手法が原理的には正しく動くということであり,そ の手法が社会の広い範囲で利用可能になるためにはさらに多くの工夫が一般には必 要になる.人工知能はその多くの工夫をすることを怠ってきたと言える.ここでは人工 知能を社会に受け入れられるものにするために人工知能研究の価値観をどのように 転換すべきかについて考えたい.