著者
久 洋子
雑誌名
教育学論究
号
3
ページ
63-69
発行年
2011-12-25
URL
http://hdl.handle.net/10236/8603
実習における「自己課題」に関わる指導方法の探究( 1 )
―
「自己教育力」育成の観点からのアプローチ ―
An Investigation into Methods of Supervision in Relation
to “Self-Challenge” during Practice Teaching
(1)
:
― Approaches from the Perspective of “Self-
Education Ability”―久
洋
子
*Abstract
This study aims to examine the state of teaching practice supervision by caregivers and teacher training courses. It focuses on methods of supervision that support changes made by students and teachers during the process of teaching practice “self-challenge” as well as examines the topics under investigation.
The first approach considers “the concept of self-education ability” from several sources. The next approach aims at how self-challenge is being handled as well as the need to conduct an examination of supervision methods to gain an actual understanding. Furthermore, this paper also considers previous themed research published by the Japan Society of Research on Early Childhood Care and Education to investigate teaching practice supervision methods. I would like to explore the future of teaching practice supervision from the above perspectives.
キーワード:自己課題、自己教育力、自己評価
はじめに
本研究は、最終的には、保育者・教員養成課程に おける実習指導のあり方を探究する目的とするが、 本稿では、初めのステップとして、実習に臨む学生 が自己と向き合い設定する「自己課題」を支援する 指導方法のあり方を探究したいと考えている。 さて、保育者・教員養成課程の「実習」は、その 専門性を具体的に認識して自己課題を見出すという 意味において自己評価・自己教育力を培う過程であ るということができる。実習はその専門的知識・技 能の習得につながり資格取得が可能となる経験であ ると認識することは正当なことであるが、究極的に は、主体性をもって専門性を認識した保育者・教員 として使命感を持って子どもの保育・教育に専心す る資質を形成するものであるという観点が求められ ている。学生自身が、資格習得のためだけの実習と いう認識ではなく、資質形成のための実習という認 識をもって臨むことである。真の資質形成とは、具 体的な知識・技能の習得のための課題を見出すと共 にこの課題に取り組む自らの姿勢、生き方ともいう べき自己教育力の形成に至る「自己課題」認識であ る。そして、この課題認識に立って実践に向かって 歩み出し、自己評価→自己課題の発見→実践の過程 を進む力が養われることである。 そこで、本研究の初めのアプローチとして、まず、 近年、クローズアップされてきた「自己教育力」の 用語について、「中央審議会報告」で示された施策 からの理解、文献における諸説を参考に、その概念 を把握したいと思う。次に、実習に臨む学生の「自 己課題」の設定の内容の実際から考察できることを 見出したいと思う。さらに、このテーマに類似した 先行研究を「日本保育学会の発表論文」からピック アップして指導方法についての示唆を得たいと考え ている。1 .「自己教育力」の形成過程
( 1 )「自己教育力」を考える起点となった施策 「自己教育力」が教育用語として、特に教育関係 雑誌等に取り上げられる契機となったのは、1985 (昭和58)年の中央教育審議会教育内容等小委員会 の『審議経過報告』であった。 * Youko HISA 教育学部准教授 63産業構造に変化、国際化・情報化、受験戦争の低 年齢化、知識詰め込み教育の弊害、小中学校のいじ め、不登校の増加、都市化、核家族化を背景とした 家庭、地域の教育力の低下などを背景として、個性 重視、生涯学習への移行、変化への対応としての教 育改革施策「生きる力―自ら学び自ら考える力の育 成個性を生かす教育の推進」の柱として4つの視点 が示された。 ①「自己教育力」の育成 ②基礎・基本の徹底 ③個性と創造性の伸張 ④文化と伝統の尊重 ところで、この「自己教育力」の意味は、1992(平 成4)年施行の学習指導要領では「主体的に学ぶ意 志、態度、能力」であるとして、これからの変化の 激しい社会における生き方として、特に中等教育で は、自己を生涯にわたって教育し続ける意志を形成 することが求められる」と記載した。 しかし、この生涯を見据えた人間教育そのもので ある「自己教育力」の課題について、その意味と構 造をどのように読み解くかによって、教師の指導の 観点が異なってくるのではないかと考えられるので ある。 「自己教育力」に関する研究は、比較的新しい研 究分野であるとされているが、筆者は、三枝(1985) の論稿「自己教育力を考える」より、その意味と構 造を把握することとする1)。 ( 2 )「自己教育力」の意味と構造 三枝は、ドイツの教育史研究で著名なパウルゼン (Friedrich Paulsen)の研究論文の中の「自己教育」 の文脈からこの意味と構造を示唆するものを見出し た1)。 パウルゼンによると、大学の時代とは、若者か大 人へと移行する時であり、自己教育・陶冶の課程が 開始するとして、「真理の探究それ自体が自己教育 の目的であり、この自己教育・陶冶の前提は自由で ある。自由に対しては責任(抑制・規律)が伴う。 そして、自己の理性と力によって、内的人間に形式 を、生活に内容を付与すること、それが新しい課題 である」2)。 パウルゼンの「自己教育」観は、人間としての内 面の教育、学問の真理探究の自由と責任をもって生 きる、自らの生き方のあり方を問う。 この理論からみると、自己教育としての実習と は、理論と実践の真理の探究過程であり、その生活 (体験の場)にあっては自由と共に責任(抑制・規 律)が伴う自己教育・陶冶の過程である。 ( 3 )自己教育力の形成 野地(1985)は「自己教育力の中核をなすのは、 “ことばを養う”こと、“ことば自覚”の問題であ る」3)と示唆する。言葉に無関心である、言葉を軽 視するところからは自己を育てることはできない。 それは同時に「聞くこと」「話すこと」「読むこと」 「書き表すこと」言葉の自覚に立って、理解力・表 現力を高めていくようにすることであり、“ことば を養う”“ことば自覚”を深めることが、学ぶこと の原動力となり、自らの創造の営みにへと導かれる のである。自己教育力の形成においては、まず、「聞 く力」の育成から“ことば自覚”へ、“ことばの養 い”への導きが重要なのである。 パウルゼンの理論との関係から考察すると「自己 教育力」の形成の過程で重視されるべきことは以下 の三つの要素ではないかと考えられる。 ①存在の承認、自己肯定観の尊重 一人ひとりの人間としての尊厳、内面の心情、 考えの受容、学ぶ主体の意欲、意志の尊重から 「個性と創造性」が伸びる。 指導者側の自己の観点への固執、偏見による レッテル、評価や意欲、自己教育力の阻害が起 こる可能性があることを認識する。 ②共同性(対話・討議)による学びと省察 一人が学ぶ、発達することは、他者との関係に よって助長される。共に学び、同時に教えあう、 学びあう共同体としての構築が望まれる。「省 察」は、一人ひとりが自律した個別的課題をも ち、画一的・権威的ではなく多様性を尊重し批 評しあうところに創造的な進展が生まれる3)。 ③言葉の自覚、言葉を養うこと 聴くこと・話すこと・読むこと・書くことなど の言葉を養う、豊かにすることが理解力、表現 力、理解力等を高めることを常に自覚している ことである。 1)三枝孝弘 1985 自己教育力を考える 学校教育研究所年報 学校教育研究所 p.5 2)三枝孝弘、同上書 pp.5∼6 3)野地潤家 1985 人文科学の立場からみた自己教育力の形成 学校教育研究所年報 p.17 教 育 学 論 究 第 3 号 2011 64
特に、「聴く力」は、学ぶことの原動力となる が、常に、自ら感じ、考え、生き方について探 求的であることが、「聴く力」を高め、自己教 育力の基盤となる。 ( 4 )自己教育力育成に関わる指導内容・方法の課題 さて、梶田(1997)は、“自己を育てる”という ことについて「人間としての主体的なあり方が、自 覚をもち、自分自身に対する統制力を持ち、自分自 身の願いとする方向に形成していく自己成長性・自 己教育性をもつことであり、自己の責任と努力で、 自分自身の自己としてのあり方を形成していくこと である」4)として、自分自身の活動をみつめ直す、 振り返り、反省の過程の重要性を説く。 これは、実習という学習経験の中で、自分自身に ついての学習が必要であることを示唆している。そ の過程を整理すると、以下のように考えられる。 ①実習の仕方を学習して、実習に臨む。 ②実習の中で保育・教育の機能の実際を学習しな がら、自分の能力に気づく。 ③自分自身で取り組み、その成果を確認して自己 評価をする。 しかし、この自己発見・自己認識に至る場合に は、その学習内容の準備と気づきの観点など、指導 者側の準備と配慮が十分になされていなければなら ない。多様な自己発見を統合して見出す「自己課題」 は、保育者・教員養成課程における「自己教育力の 形成過程」で指導内容、指導方法が問われる課題で もある。
2 .保育現場で求められる「自己評価」に
基づく自己教育力
( 1 )子育ち・子育て支援ニーズの多様化に伴う主 な施策 近年、子どもを取り巻く環境は、社会的、経済的 状況の変化に伴い、都市化、核家族化、少子化、情 報化、国際化、女性の社会進出等などの著しい変化 を背景とする子ども育ちの支援、家庭の子育て支援 の役割を担う幼稚園・保育所に対するニーズが多様 化してきた。施策としては、2006(平成18)年12月 に交付・施行された「教育基本法」に、第十一条「幼 児期の教育」が新たな事項として加えられた。その 後、2008年(平成20)年「児童福祉法」改 正、「保 育所保育指針」「幼稚園教育要領」の改訂告示、翌 年2009(平成21)年の施行に至る。 「保育所保育指針」においては、子どもの最善の 利益を考慮し、その福祉を積極的に増進する生活の 場で養護と教育を一体的に行うことを特性として明 記した。 また、「幼稚園教育要領」「保育所保育指針」にお いても「保育者に求められる専門性、資質向上の観 点を明記し、保育者・幼稚園・保育所の「自己点検、 自己評価に関するガイドライン」として項目が具体 的に特記された。 ( 2 )保育現場に求められる保育の専門性の向上と 「評価」の重要性 ①「保育所保育指針・幼稚園教育要領」に示された 評価の意義 「保育所保育指針」では、第4章「保育の計画及 び評価」において、自己評価は「保育の計画や保育 の記録を通して自らのその専門性の向上や保育実践 の改善に努めなければならない」さらに、留意点と しては、「子どもの活動内容やその結果だけでなく、 子どもの心の育ちや意欲、取り組む過程などに十分 配慮すること。職員相互の話し合い等を通じて専門 性の向上のための課題を明確にすると共に保育所全 体の保育の内容に関する認識を深めること」とあ る。 また、福祉サービスの第三者評価事業に関する指 針が2004(平成16)年に各都道府県に通知され、実 施に至っている。 「幼稚園教育要領」においては、各園の建学の精 神や教育目標に基づき運営されていることに配慮し つつ、自己評価と共に、全教職員による評価、保護 者や地域住民を対象とするとの連携協力を得なが ら、「評価」→「改善」を図ることにも言及してい る。 このように、施策において、子どもの心身の健全 な成長を願い、実質的な保育の質の向上を目指し、 各保育所・幼稚園での取り組みが求められている。 ②「反省・評価」の意味とあり方 津守 真は、「保育の実践と、保育後に実践した 保育を省みる作業の両方をあわせたところに保育が ある」とし、保育後の保育の反省、精神作業のこと を「省察」と呼んだ」5)。 4)梶田叡一 1997 自己を育てる 金子書房 p.11 5)田中亨胤・尾島重明・佐藤和順編著 2007 保育者の職能論 ミネルヴァ書房 p.102 実習における「自己課題」に関わる指導方法の探究(1) 65表 1 実習後に記入した自己課題の観点抽出数 自己課題の観点 抽出数 ①子どもの理解 23 ②保育者の援助(計画・実践・反省) 36 ③保 育 の 技 術 面(ピ ア ノ・手 遊 び・絵 本・歌 な ど)を磨く 12 ④実習に臨む姿勢・態度・行動 27 この省察は、「保育の実践の最中に子どもとの間 で体感として直接に体験された、最初の記憶に立ち 戻ることは、省察の作業の原点である。(略)自ら の中に次第に自由に成長させていく性質のことであ る。評価は裁きではない。子ども、そして共に保育 するものにとって希望のある明日の園生活を導き出 す具体的な行為である」と述べている6)。 佐伯 胖は、「反省・評価」においては、対話性 のある自律的連帯・同僚性、共同性であるべきであ り、指示的、権威主義は研修の停滞状態になること を示唆している7)。 保育者の専門性は、多様な他者と「対話」を生成 し、学び合うことによって向上するが、同時に、対 話の質が問われることになる。 保育現場では、概して、新任保育者と先輩保育者 との関係で、「評価される者」と「評価する者」、「質 問する者」と「答える者」といった先輩が「正解」 を発信する側として存在している傾向が否めない。 反省・評価が「結果的にどうやればよかったのか」 のみの観点とする場合、その現場で「実際に何が起 こっていたのか」「子どもの思いはどのように動い ていたのか」「その状況を保育者は、どのように捉 えて行動したのか」等のプロセスを省みる自発的問 いかけ、探索的な省察が欠けてくることになる。保 育者の専門性は、「今、起きていることの読み取り が、多様であり、時に『わからないこと』を共有し ながら、異なる見方や解釈に出会う中で、よりよい 捉え方、援助のあり方を探求していくことによって 養われていく」ことを認識して、実習における「反 省・評価」の観点の指導に関わりたいものである。 ( 3 )保育者養成課程に求められる「自己課題→自 己評価」の積み重ねと課題 保育者を目指す学生が、常に、自己肯定観の意識 をもって自らの保育者としての課題・反省点が自ら の保育者としての専門性の向上につながることを覚 えて「反省・評価」の過程を歩む姿勢を培いたいも のである。 現在、本学で実施している実習では、実習開始前 に実習に臨む心構えとして捉える「自己課題」や実 習後に今後の自分の歩み方の指針ともなる「自己課 題」記入を課している場合が多い。「自己評価」は、 実習終了後に実習園の評価表を参照して行い、今後 の「自己課題」を明確にする手立てとしている。 「自己課題」と「自己評価」は、システム的には 連動しているが、学生の自己と向き合い、省察する 内的作業としては共通するものであり、この二つの 内容が、学生の意識の変容と実際の行動化に関係し ていく検証が必要なのではないかと思われる。
3 .実習生の自己課題意識についての一
考察
筆者は、2年生、3年生、4年生の実習担当を3 年間継続して、全体的傾向として課題の変容がある ことを実感しつつ、この課題がその後、どのように 学生一人ひとりの中に意識化され、実際に自己教育 的観点から変化していっているのかを確認して支援 していく方法を模索したいと願っていた。そこで、 この度は、調査の対象としては少数であるが、試行 的に筆者の担当する2年生と4年生の分級の学生の 「自己課題」の記述から考察できることを把握して みたいと思う。 ◇【倫理的配慮】 この項目において、学生の「自己課題」の記述 を統計的に分析した内容を記載することについて は、学生一人一人の了解を得たことを感謝をもっ て報告いたします。 (1)調査対象:2年生分 級 の22名。「実 地 教 育 研 究」実習後に自由記述した「自己課題の内容 の観点別に表出した。 この2年生は、1年次「体験実習Ⅰ」を5日間経 験。春学期に「実地教育研究」で4月末から6月末 まで各実習園で1:30まで、毎週木曜日8回の参 観・参加実習を行った。 !具体的な記述"( )は抽出数 ①「子どもの理解」 6)同上書 P.102 7)佐伯胖 1999 学び合う共同体 東京出版会 P.165 教 育 学 論 究 第 3 号 2011 66表 2 保育所実習前の自己課題の観点抽出数 自己課題の観点 抽出数 ①子どもの理解 20 ②保育者の援助(計画・実践・反省) 50 ③保育の技術面(ピアノ・手遊び・絵本・歌な ど)を磨く 4 ④実習に臨む姿勢・態度・行動 57 ・子どもの発達・個性を理解する(12) ・子どもの気持ちを理解する(5) ・一人ひとりの存在を尊重する(4) ・子どもの遊び、興味関心を知る(2) ②「保育者の援助」 ・子どもへの声かけ(8) ・援助の仕方・タイミング(6) ・環境構成の仕方(5) ・子どもとの関わりを積極的に(3) ・一人ひとりに合った援助(3) ・けんかの対応・注意の仕方(3) ・全体への目配り(2) ・安全への配慮(2) ・見守る援助(2) ・客観的に見る力(1) ・指導案の立て方(1) ③「保育の技術面を磨く」 ・ピアノ(4) ・手遊び(3) ・歌(2) ・絵本の読み聞かせ(2) ・知識(1) ④「実習に臨む姿勢・態度・行動」 ・健康管理(7) ・豊かな表情(4) ・遅刻をしない(3) ・意欲的に質問する(3) ・臨機応変に動く(2) ・学ぶ姿勢(1) ・新しいことに目を向ける(1) ・反省の態度(1) ・感謝の気持ちを持つ(1) ・キリスト教保育の理解(1) ・講義と実際とを結びつけて考える(1) ・育ちへの願いを持つ(1) ・先生をよく見る(1) (2)調査対象:4年生分級の22名。「保育所実習」 前に自由記述した「自己課題」の内容の観点 別に抽出した。(3年生で、教育実習(春学期 に「参観・参加実習」、秋学期に「本実習」3 週間、「施設実習」10日間を経験。4年生の6 月に、20日間の「保育所実習」を行った) !具体的な記述"( )は抽出数 ①「子どもの理解」 ・発達・個性・性格等の理解(12) ・子どもの気持ちを理解する(8) ②「保育者の援助(計画・実践・反省)」 ・発達に合った援助(16) ・子どもの安全への配慮(6) ・自発性を尊重する関わり(5) ・先生の保育の方法に倣う(4) ・教材研究の取り組み(4) ・全体をよく見る(3) ・子どもの興味関心に即した環境構成(3) ・排便の気づき(3) ・臨機応変な対応(3) ・シミュレーションをよくする(2) ・まとめる指導力(1) ③「保育の技術面」 ・ピアノ(2) ・手遊び(2) ④「実習に臨む姿勢・態度・行動」 ・意欲的に質問する(15) ・責任感を持つ(8) ・身だしなみ(7) ・挨拶をする(5) ・積極的に行動する(5) ・健康管理(4) ・園外でも実習生の自覚(3) ・守秘義務を守る(3) ・助言は素直に受け入れる(2) ・提出期日を厳守する(2) ・学ぶ姿勢を持つ(1) ・チャレンジする気持ちを持つ(1) ・感謝の気持ちを持つ(1) (3)考察 2年生は、参加・参観実習を経験した後の自己課 題であり、4年生は、保育者養成課程における最後 実習における「自己課題」に関わる指導方法の探究(1) 67
の実習前の自己課題である。責任実習を経験した4 年生の記述には、「保育者の援助」「実習に臨む姿 勢・態度・行動」にその特徴が現れている。特に、 「実習に臨む姿勢・態度・行動」に関する記述の多 さである。このことは、実習生の実習に臨む姿勢の 重要性が実習経験の積み重ねと共に強く意識化され ていくのではないかと考えられる。 さらに、特に4年生に顕著に見られたのは「意欲 的に質問をする(12)」であったことに注目したい。 2年生の実習が13:30までということもあり、協議 の時間がなかった実習園が多かったことも関係して いると思われるが、4年生が、実習を重ねたことに おいて、先生の保育観、保育の方法をよく理解する ためのコミュニケーションが重要であると実感して いることが伺える。しかしながら、このことを分級 の学生の68%が記述していることに注目すると、分 級で、実習が長期に渡り、責任実習を実践すること から「実習に臨む自己課題についての話し合い」の 時間に担当教員が特に強調して伝え、グループディ スカッションをした内容であったことから、強く意 識化されたと考えられる。実習の指導の折に強調さ れた事柄と学生の体験との相互関係で「自己課題」 として明確になる可能性を含んでいるとすれば、実 習における指導の観点、あり方への示唆といえる。 総括的な考察としては、実習を積み重ねること で、子ども理解に基づく「保育者の援助」の多様性 に気づき、「関係性」を重要視する課題意識が明確 化してくるのではないかと思われる。これは、保育 現場における共同性、人間関係、コミュニケーショ ンの重要性の自覚が定着化してくるということでは ないかと思われる。 以上のように、少数での分析ではあるが、相対的 に実習課題意識は、変容していくと思われる。しか し、この変容の過程に指導者がどのような内容を学 習事項として準備して、どのように伝えたのかが問 われる。「自己課題の変容に関係する指導方法の検 討」は、実習システム全体における指導者の課題で あり、一人ひとりの課題として自己教育的観点から の指導のあり方の問題であるということができる。
4 .実習における「自己課題・評 価」を
テーマとした先行研究例
先行研究としては、約20年間(1988∼2011)の日 本保育学会発表論文」の中から特にテーマに即した ものをピックアップして、保育所・幼稚園実習、実 習期間や時期等の違いはあるが、特に、「実習事前・ 事後の自己課題の指導内容」に焦点を当てて考察を 行った。 Ⅰ.小澤(1991)による報告では、学生が、自己課 題の目標設定を高く定め具体化して、その目標に 向かって自己教育していく方法を身につけること を目的として、自己評価を実習前と実習後に行っ た。考 察 対 象 の 人 数 は、40名 で あ っ た。そ の チェック項目は、(1)参加態度(2)幼児への かかわり(3)保育方法の理解 (4)実習園へ の適応、に分類され、4項目ごとにさらに具体的 な10項目を提示して5段階評価をする。(5)実 習を通しての自己変容については、「人間として の意志、心情、態度等について自分自身が変わっ たと思うところは」の質問に A・B・C 段階で答 える。(6)作文を書く 以上の取り組みから新たな指導課題として、個 人差に応じた指導の必要性が明確になったと考察 されている8)。 Ⅱ.渡邊(1995)の報告では、実習前・実習中・実 習後も自己課題についてアンケート調査を行い、 その課題意識の変容についての実態把握を行っ た。その結果、課題意識の変容か捉えられたが、 指導の課題としては、その変容の因果関係を明ら かにすることによって実習達成への方途が明らか にされると考察している9)。 Ⅲ.野村・中谷(1999)の報告では、各学生が最重 要課題を一つあげ、その成果を5段階評価して、 その評価に至った理由の記述を資料として、学生 指導の重点を考えている。この取り組みの結果、 学生の自己課題解決のための指導の内容が明確に なり、専門的知識の習得、教材の研究、技術の指 導の他に、幼児への熱い思い、困難を乗り越える 強い意志、教育に携わる喜び、使命感、人間的魅 力などを伝え、指導することの重要性に気づかさ 8)小澤恒三郎 1991 教育実習の効果を高めるための指導方法の探究―学生の自己課題と自己教育力の育成を中心とし て― 第44回 日本保育学会発表論文 347 pp.694―695 9)渡邊俊彦 1995 保育実習における学生に関する調査研究Ⅰ 第48回 日本保育学会発表論文 110 pp.220―221 教 育 学 論 究 第 3 号 2011 68れたと考察している10)。 Ⅳ.加藤・松原(2007)による保育者養成による自 己の「実習課題の取り組み」では、1年次と2年 次に実習を行うが、実習の事前に「実習課題とし て取り組みたいこと」と事後に「研究テーマ」を 設定している。この「研究テーマ」の検証と分析 は2005年、2006年の研究発表で検証分析を行って いるが、「実習課題として取り組みたいこと」か ら「研究テーマ」へと関係付けていくことで、新 たな課題意識につながっていくことが立証された ことによって、今後は、「研究テーマ」に結びつ くような実習課題の取り組みを働きかけることに よって保育者の資質の向上につながると考察して いる11)。 以上の研究報告から、今後の「自己課題」に関 わる指導方法のあり方を探求するにあたって参考 になる貴重な示唆を得た。