漸増負荷テスト時における漸増時間の違いが
呼吸循環系の応答に及ぼす影響
駒井 説夫・本間 聖康*・白石 龍生・上林 久雄**
(*人文学部保健体育教室.**大阪教育大学保健学教室)
Effect of Incremental
Duratic n During Incremental
Exercieson Cardio-respiratory Response.
Setsuo KOMAI * , Kiyoyasu HONMA*,TatsuoSHlkAISH** and Hisao KAMBAYAsH.**
゛Departmeat of Health aad PKysical Education、Facuritji 0/ Humraa几Ities; **Department of HeaUfi Science、 Osaka Kyouiku. Uniuersity.
Abstract
Four healthy male subjects were studied randomely three incremental exercise tests to exhaustion on the cycle ergometer to investigate effect of incremental duration on cardio-respiratory parameelr and anaerobic threshold. Every incremental exercise test was in-creased 20weach min (lmin-test), 2min (2min-test) and 3min (3min-test). Oxygen intake (Vo2), minute ventilation (VE),C020ut put (vc02・), respiratory exchange ratio (R), heart rate (HR)and blood lactate were measured, at each exercise test. The anaerobic threshold was chosen using two criterion, 1) VO2 at which systematically incresed in blood lactate above resting levels, 2)vo2 at blood lactate concentration reached 4mmol. The peak Vo 2 was not significantly different for three incremental exercise tests. In constant, peak VCO2 and R were significanty higher in lmin-test than other exercise test. The v02 at which blood lactate increased systematically above the resting levells was similar for each test. The v02 at which blood lactate reached 4mmol was greater in
lmin-test than other tests.
は じ め に
全身持久力を測定する運動テストのうち従来より最も多く実施されてきたのが,最大酸素摂取量
の測定であるがI )i:i)l(i)lK)近年,最大下の運動負荷で全身持久力を評価できると。いうことから無酸
素的作業間値の測定も数多く実施されるようになっている5
)IO)n)12)14)。'全身持久力を測定する叱
当っての運動負荷方法としては,何度も実験を繰り返す煩雑さが軽減されるということから一般的
には漸増負荷テストが用いられている18)19)。しかしながら,漸増負荷テストは運動強度及び漸増
時間などのエルゴメトリー上の手法が漂準化されていないため漸増負荷テストで得られた測定結果
を単純に比較できないという問題点もあるのが現状である2)。従って,エルゴメトリーの違いが測
定結果にどのように影響するかを明らかにすることは測定結果を比較するうえで極めて重要なこと
であろう。そこで,今回はエルゴメトリー上の指標を標準化する一助としてこれまで報告例の少な
い8)17)漸増時間の違いに着目した。すなわち漸増負荷テストを行った際の漸増時間の違いが最大運
動時に得られる酸素摂取量,炭酸ガス排出量及び呼吸交換率などの呼吸循環器系のパラメーター及`
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び血中乳酸濃度を基準とした無酸素的作業闘値(AT)にどのような影響を与えるかについて検討
を加えた。 ト,`
実 験 方 法
被検者は健康な成人男子4名を用いた。各被検者の年齢,身長,体重及び最大酸素摂取量は表−
1に示した。運動にはモナーク社製自転車エルゴメーターを用い被検者がほぼ疲労困慰に至るまで
Table
1. Physical Character‘istics
of乱biects
Subject S.K. A.U T.S H.N 鸚ean 人ge (years) 29 24 22 24 25 Height (c重) 169 173 162 174 170 ・Velght ( kg ) 54 63 8 & 61 59 Vo,nai (1/羞in) 2.9 0 2.8 5 2.9 4 3.0 6 2.9 4
漸増時間の異なる3種類の漸増負荷運動を行った。被検者は30分間の椅座位安静状態を保ち,終末
の5分間に安静値の測定を行い,その後自転車エルゴメーター上に移り,1分間当り50回転のペダ
ルテンポで自転車駆動を開始した。開始時の負荷は無負荷状態(Ow)とし,その後20wずつ増加
し被検者が疲労困慰になるまで運動を継続した。各負荷の漸増時間は1分間漸増テスト(lmin-test)
では1分毎に,2分間漸増テスト(2min-test)では2分毎に,3分間漸増テスト(3min-test)
では3分毎に運動負荷を増加した。なお,それぞれの漸増テストの実施間隔は1週間以上とした。
測定項目は呼吸循環諸量(酸素摂取量,換気量,二酸化炭素排出量,呼吸交換率,心拍数)及び血
中乳酸濃度であった。 ,。
いずれの実験の場合も呼気ガスの採取はダグラスバッグ法に・より・各強度の運動負荷終了前より1
分間採取し,更に,酸素及び二酸化炭素のガス濃度を労研式ガス分析器により分析することにより,
それぞれ換気a
(VE
= STPD),酸素摂取.m(vo2)。炭酸ガス排出量で(vco2),呼吸交換率
(R)を求めた。心拍数(HR)は胸部双極誘導法を用い心電計により1分毎に測定記録した。血
液サンプルはあらかじめ加温された指先より安静時及び各運動負荷終了15秒前に採取し酵素法によ
り血中乳酸濃度を求めた。なお,実験手順の概要については図一1に示した。
Vo^max
は今回の
実験では被検者が疲労困慰になるまでに測定され’るV02の最大値とした。(なお,いずれの場
合もVo2maxの判定基準として報告されている:’)最大心拍数が180拍/分以上,Rが1.1以上の
条件を満たしていた。)ATは血中乳酸濃度の変動から求め2つの判定基準を用いた。すなわち
Work Load
(watts)
吻吻o
Rest y ご La mmo 5.0 4.0 3.0 2.0 1.0 Time ( m in.)Fig. 1. Protecol of the experiment
subj.
A.U
−︲︲ 4mmol 一一 Rest O・5 1.0 1.5 VOa ( I -min ) 2.0 2.53min-test
o H.R. 200 C E ・V・VR・VFig. 2. Determination of anaerobic threshold
1)V02 at which systematically increased in blood lactate above resting levels 2)V02 at blood lactate concentration reached 4mmol
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血中乳酸濃度が安静水準よりも増加する時点のVo2(break
point) "'*と血中乳酸濃度が4mmol
に達した時点でのVo2(4mmol闇値)を用いた8)
15)。なお,図一2叱血中乳酸濃度の変動から求め
たATの判定例を被検者A.U.について示した。 '
結 果 と 考 察
表−2はピーク時の呼吸循環系の各パラメーター(Vo2,
Vco2, VE, R, HR,
HLa,
Work
load)
Table 2. Peak values of cardiorespiratory parameters in three incrementa!e eχercise tests・
l≪in-test 2・in-test 3Bin-test VO>aaχ (里1/・in) VCOa (・1/里in) VE(STPD) 2.go ±0.11 ‘2.84 ` ・ ±0.18 2.78 ±0.19
『゜ ̄゛¬
3.65 ±0.27 100.8 ±14.7 3.20 ±0.13 83.0 ±3.8 3.16 ±0.12 85.8 ±2.2『 ̄ ̄゛ し
1.26 ±0.04 HR 185 (beats/ain)±6.2 Lactate (・・ol/l) Vork Load (≫atts) 11.7 ±1.45 1.13 ±0.05 182 j・ ±6.3 10.0 ±l;90 l.lS ±0.05 182 ±10.8 10.0 ±1.42 F=1¬ 260 ±16 215 ±10 215 ±10Values
are ■ean ●SD j●。=Pく0.05
・
を漸増時間別に4名の被検者の平均値及び標準偏差で示したものである。
Vo
max 2及びHRは
いずれの実験の場合も有意な差はなく,ほぼ等しい値を示した。7方vc02及びRの値はlmin-test
では, 2min-test及び3min-testに比べ有意に高い値を示した。更に換気量も統計的には有意な
差は認められなかったものの,いずれの被検者も1
min-testで最も高い値をしめした。
Kinderman
ら7)は2分間漸増と3分間漸増テストによってvo2maxを比較,したところ,漸増時間に関係なく
両者ともほぼ等しい値を認めた。更にHughason とGreen''*は階段式の漸増運動負荷ではなく,
傾斜式のランプ入力負荷を用い,ランプ速度の速い運動負荷(65.4w/min)と遅い運動負荷(17
w/min)テストを行い,その際のピーク時における呼吸ガスパラメーターを比較したところVo2max
はランプ入力速度に関係なく近似した値を示したが,
VCO2及びR値は本研究で用いた漸増時間の
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短い運動負荷に相当する速いランプテズトでは遅いランプテストに比べ有意に高い値を本実験果と
同様な傾向を認めている。このように,これまでの研究報告を考えあわせるとvo2max値は漸増
時間長短に影響されずほぼ等しい値が得られるが,炭酸ガス排出及び換気量は漸増時間の短い運動
ほど顕著に高い傾向が見られ呼吸循環ノ代謝系の適応が運動負荷に対して不十分な状態であること
を示唆している。このような状態で運動を継続すると,めまい,呼吸困難,四肢のしびれなどを引
き起こす原因になることが指摘されているので9),特に,体力水準の低い被検者が実験に参加する
場合,漸増時間を充分考慮する必要があるだろう。いずれにせよ,最大運動時の呼吸循環パラメー
ター測定に当っての漸増時間の決定は被検者の体力に応じて選択することが望ましいだろう。
表−3は血中乳酸濃度が安静値よりも増加する時点でのVo2
(break-point)及び4mmol濃度に
Table 3. The VO2 at anaerobic threshold in three incremental exercisetests AT is expressed as oxygen intake in ml.min Lactate.break point (nl/ain.) Iain-test 2≫in-test 3ain-test 113 0±69 10 6 3±107 10 9 8±7.8
values are ■ean 士SD
4・Jiolthreshold (●1/・in.)
ト
217・6・±104 2090±151 19 7 0±91 ・=Pく0.05 ・ ■ ㎜ ■達した時点でのvo2(4mmol闇値)を漸増時間別に4名の被検者の平均値及び標準偏差で示した ものである。 break-pointではいずれの漸増時間においても有意な差はなくほぼ等しい値を示した。 Wassermannら17)は1分間漸増テストと4分間漸増テストを用い血中乳酸濃度が安静水準よりも増 加する時点すなわちbreak-point時点でのvo2を比較したところ両者には有意な差はないこ とを報告し本研究と同様な傾向を示している。従って,報告例は少ないが, Wassermannら及び本実験結果から判断すると, break point 時におけるvo2の値は1−4分の漸増時間においては
漸増時間の影響はないものと考えられる。一方, 4mmol闘値では漸増時間が延びるに従ってV0 2 の値は減少する傾向を示し1 min-testは3min-testに比べ有意に低いことが認められた。(P <0.05)Kindermannら7)はトレッドミル走及び自転車エルゴメーターによる2 ―5.5分の漸増運 動を比較した結果,漸増時間の延長によりVo2は減少することを報告し,本実験結果と同様に 漸増時間に影響されることを認めた。このようにbreak-pointよりも高い4mmol濃度をAT の判定基準として設定した場合,漸増時間の長短に影響を受けるのは,おそらく乳酸の骨格筋から 血中への流出の時間的な遅延によるものと考えられる。すなわち,漸増時間の短い運動ほど乳酸の ● ● 1血中への出現が遅れ,そのために同一のV02の運動でも短時間漸増ほど乳酸濃度が低水準にな ると考えられる。このことは, 4mmolを基準としてATを表す場合, 1 min-testでは4mmolの
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高知大学学術研究報告 第35巻‘(
1986)‘自然科学
基準に達した時の・vo2を過大に見積もることになり,正確なATの判定が困難となるだろ
う。従って,この判定から求めた運動強度を運動処方に利用することは身体に過度の負担となる可
能性があるだろう。 ト。 ト。
以上漸増負荷運動における1−3分にわたる漸増時間の違いが個人のVo2max及び血中乳酸濃
度から求めたATにどのように影響するか検討してきたが,最も急激な負荷増加方法である1
I ・ 。
1や
分テストでは他のテストと同様のVo2max値を示したが,々co2の排出堰およびR値が著明
に高い値を示しまた乳酸濃度が4mmol/1に達する‰2の値も高い値を示した。このことは
漸増時間の短いt分間テストの場合,最大テスト時には過剰なCO2排出による身体への大きな
負担,となる可能性,運動処方時における至適運動負荷決定を過大評価する誤りを招く恐れのある
ことを示すものである。従って本研究結果より最大負荷テストの場合では,被検者の安全面や運動
処方の面からは至適運動強度の過大評価を防ぐためにも1分以上の漸増時間を設定する必要がある
と考えられた。
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