p
進簡約群の構造
今野拓也
∗2014
年
5
月
30
日
はじめに
この原稿ではp進簡約群の表現論の基礎となる,p進体上の連結簡約線型代数群の構造 について解説する.もとより線型代数群の理論は膨大でその歴史も長いため,ここでは以 下の原稿で必要となる事実に内容を限ることにした.また証明に関しては,本サマース クールのテーマから幾分外れていること,表現論のための代数群の構造論についてはより 詳細な別原稿を執筆中であることなどから,すべて割愛することにした.全体のページ数 の制約などを考えると適切な判断であったと考えている. 1節では線型代数群やその準同型,Lie環,Jordan分解などの基本的な定義を解説した. 同節の最初にも断ったがこのノートを通じて定義体の標数は零であるとしている.正標数 の場合は定義の一部を変更せねばならず,また簡約代数群と絶対簡約代数群の差などが生 じて記述が複雑になる.その一方で指数写像を用いる表現論の結果のほとんどは正標数の 場合には成立しないため,わざわざ扱う動機もないと考えた結果である.線型代数群の定 義は,サマースクールの後半で係数拡大や係数制限などの操作を多用することを考えて, 関手としてのアフィン群スキームと見る方法を採用した. 2節ではトーラスや冪単代数群など,線型代数群の構成因子となる可解代数群を扱って いる. 続く3節では代数閉体上の線型代数群の構造を解明する.定義体を代数閉体とするこ とにより,初等的な代数幾何を用いて極大連結可解部分群,いわゆるBorel部分群の構造 や,Borel部分群全体のなす旗多様体の構造が理解できる. ∗九州大学大学院数理学研究院.〒819-0395福岡市西区元岡744番地 電子メール: [email protected] ホームページ: http://knmac.math.kyushu-u.ac.jp/konno/4節では前節の結果を連結簡約な線型代数群に適用して,その構造がルートデータと呼 ばれる組合せ論的なデータで理解できることを説明する.特に4.3 節ではBruhat分解や 標準放物型部分群などの重要な結果が用意される.4.4節ではChevalleyによる代数閉体 上の簡約代数群の分類定理と,その応用であるLanglands双対群の定義を与える. 一般の標数0の体上の連結簡約線型代数群の構造は5節で解説される.前節の結果と1 節のGalois降下を組み合わせることで,放物型部分群の構造や相対ルート系についての 帰結が得られる.最後の5.3節ではp進群の表現論や保型表現論で特によく用いられる制 限ルートの幾何的性質をまとめておいた. 最後の 6節では定義体を標数が0の非アルキメデス局所体としている.まず表現の記 述に不可欠となるL群の定義を解説し,“不分岐”準指標の群がL群の部分トーラスと見 なせることを示した.またBruhat-Titsビルについて簡潔に復習し,それを用いて極大コ ンパクト部分群や岩澤,Cartan分解を用意した.6.3節ではこれらの分解にまつわる積分 公式を与えた.
目次
1 基礎概念 3 1.1 線型代数群の定義 . . . 3 1.2 係数体の操作 . . . 7 1.3 連結成分の群と単位成分 . . . 9 1.4 Lie環 . . . 10 1.5 有理表現とその応用 . . . 13 2 可解代数群 15 2.1 冪単代数群 . . . 15 2.2 乗法型代数群 . . . 17 2.3 可解および冪零代数群 . . . 19 3 代数閉体上の線型代数群 20 3.1 線型代数群の作用と等質空間. . . 20 3.2 連結可解群の構造 . . . 22 3.3 Borel部分群 . . . 23 3.4 旗多様体 . . . 254 代数閉体上の簡約代数群 26 4.1 半単純階数1の場合 . . . 26 4.2 ルートデータ . . . 27 4.3 簡約代数群の構造 . . . 31 4.4 連結簡約群の分類 . . . 33 5 簡約代数群の構造 35 5.1 極大トーラスと有理点 . . . 35 5.2 相対ルート系 . . . 36 5.3 放物型部分群 . . . 38 6 p進簡約群 44 6.1 L群など . . . 44 6.2 位相的構造 . . . 46 6.3 測度と積分公式 . . . 49
1
基礎概念
このノートを通してF は標数が0の体を表す.F が正標数を持つ場合もこのノートの 結果の多くは成立するが,その場合には定義や議論を変更,あるいは増補しなくてはなら ないからである.1.1
線型代数群の定義
1.1.1 線型代数群 あまり代数幾何の知識を呼び出さなくてもよいように,F 線型代数群を可換F 代数の 圏ComAlg F からの群関手として定義する.有限生成な可換F 代数で被約,つまり0以外 に冪零元を持たないものをアフィンF 代数と呼ぶ. 定義1.1. F 線型代数群とは,可換F 代数の圏ComAlgF から群の圏Gpへの関手Gで,群 構造を忘れる忘却関手ω : Gp ⇝ Set との合成ComAlgF ⇝ GpG ⇝ Setω があるアフィンF 代 数Aで表現されるものとする:G(R) = HomF -alg(A, R), R∈ ComAlgF.
ComAlgF からGpへの関手の間の自然変換のことである. 以下ではわかりやすさを正確さに優先して,しばしば座標環 F [G] の元 f に対して f (g) := g(f ), (g ∈ G(F ))と書いて,f をG(F )上の多項式関数のように扱う. 注意1.2. 実は標数が0の体上のHopf代数は被約であることが知られている(Cartierの定 理[5, 11.4])から,上の定義でAの被約性は必要ない. G の演算 G(R)× G(R) ∋ (g, h) 7→ gh ∈ G(R) はComAlgF から Set への関手の射 G× G → Gを定め,米田の補題によって,ある∆ = ∆G ∈ HomF -alg(A, A⊗F A)に対
応する:
gh = mR◦ (g ⊗ h) ◦ ∆, g, h ∈ G(R) = HomF -alg(A, R).
ただしR∈ ComAlgF の乗法をmR : R⊗F R→ Rと書いている.同様に{1} ,→ G(R),
G(R) ∋ g 7→ g−1 ∈ G(R) は関手の射{1} ,→ G, G → G を与え,それぞれϵ = ϵG ∈ HomF -alg(A, F ), S = SG ∈ EndF -alg(A)に対応する:
1 = eR◦ ϵ ∈ G(R), g−1 = g◦ S ∈ G(R), g ∈ G(R).
ここでeR : F → RはRのF 代数構造を与える準同型である.このときG(R)が群であ
ることは,(A, ∆, ϵ, S)を用いて次のように言い換えられる.
(i) 余結合律: (idA⊗ ∆) ◦ ∆ = (∆ ⊗ idA)◦ ∆. (ii) ϵは余単位: (ϵ⊗ idA)◦ ∆ = idA= (idA⊗ ϵ) ◦ ∆.
(iii) S は対合射(antipode): mA◦ (S ⊗ idA)◦ ∆ = eA◦ ϵA = mA◦ (idA⊗ S) ◦ ∆.
すなわち(A, ∆, ϵ, S)はF -Hopf代数[8, 2章1.2]である. 再び米田の補題から,F 線型代数群の準同型f : G → H はあるf♯ : F [H]→ F [G] に 対応する.fR : G(R) → H(R), (R ∈ ComAlgF)が群準同型になることは,f♯ がF -Hopf 代数射,すなわち ∆G◦ f♯ = (f♯⊗ f♯)◦ ∆H, ϵG◦ f♯= ϵH, SG◦ f♯ = f♯◦ SH (1.1) を満たすことに等価である.こうして次の事実を得る. 命題1.3. F 線型代数群GにF -Hopf代数F [G]を対応させる関手は,F 線型代数群の圏 LAGF からアフィンF 代数であるF -Hopf代数の圏AffHopfF への圏同値である.
例1.4. (0)自明なF -Hopf代数A = F , ∆ = idF : F → F ⊗F F , ε = S = idF はF 線型
代数群としての単位群1(R) ={1}を与える.
(1) A = F [x], ∆(f )(x, y) := f (x + y), ε(f ) := f (0), S(f )(x) := f (−x)によって定ま るHopf代数には,加法群Ga(R) = Rが対応する.
(2)正整数n∈ Z>0に対して,n2+ 1変数((xi,j)1≤i,j≤n, x)の多項式環F [(xi,j), x]を det(xi,j)x− 1の生成するイデアルで割った商環をAとする.
∆(f ) (((xi,j), x), ((yi,j), y)) := f ((∑n k=1 xi,kyk,j ) i,j, xy ) , ϵ(f ) := f ((δi,j), 1), S(f )((xi,j), x) := f (
x∆(j,i)((xi,j)), det(xi,j) )
とおけば,(A, ∆, ϵ, S)はF -Hopf代数になる.ここで行列T = (ti,j)の(i, j)小行列を
T(i,j), (i, j)余因子を∆(i,j)(T ) := (−1)i+jdet T(i,j)と書いた.全単射
Mn(R)× ∋ g = (gi,j)7−→ (
f 7→ f((gi,j), det g−1) )
∈ HomF -alg(A, R)
により,対応する線型代数群は一般線型群GLn(R) :=Mn(R)× であることがわかる.特 にn = 1のとき,GL1は乗法群とも呼ばれ,Gmと書かれる.有限次元F ベクトル空間 V に対して,関手 GL(V ) : ComAlgF ∋ R 7−→ EndR(R⊗F V )× ∈ Gp もF 線型代数群である. 1.1.2 準同型の像と核 F 線型代数群Gの座標環F [G]のイデアルIが
∆G(I)⊂ I ⊗F F [G] + F [G]⊗F I, ϵG(I) = 0, SG(I)⊂ I
を満たすとき,これをF [G]のHopfイデアルという.例えば IG := Ker ϵG をF [G] の
添加イデアルというが,これは最大の Hopfイデアルである.Hopfイデアル I ⊂ F [G] に対して,∆G, ϵG, SG は商環F [G]/I 上のF -Hopf代数構造を引き起こす.これに対応
するF 線型代数群H をGの部分群という.自然な射影ι♯H : F [G] ↠ F [G]/I = F [H]
に付随する準同型 ιH : H → G が自然な埋め込みである.以下では部分群H ⊂ G に
付随するHopfイデアルをI(H) ⊂ F [G] と書く.さらに任意のR ∈ ComAlgF に対して
より一般にF 線型代数群の準同型f : H → Gが埋め込みとは,f♯ : F [G] → F [H]が 全射であることとする.このとき任意のR∈ ComAlgF に対してf : H(R) ,→ G(R)は単 射である. F 線型代数群の準同型f : G → H に対してKer f♯ ⊂ F [H]はHopfイデアルである. 付随するHの部分群をf の像と呼び,Im f ⊂ Hと書く.またf♯(I H)⊂ F [G]の生成す るHopfイデアル(f♯(IH))に付随するGの部分群をf の核と呼んでKer f で表す.
F [Im f ] = Coimf♯, F [Ker f ] = F [G]/(f♯(IH)).
(R ∈ ComAlgF に対して Ker f (R) は,g ∈ HomF -alg(F [G], R) で f (g) = g ◦ f♯ が
eR◦ ϵH : F [H]↠ F [H]/IH ≃ F → Rに一致する,つまり1∈ H(R)の逆像からなる.)
f : G → H が射影であるとは,f♯ が単射であることとする.体上の Hopf代数の場
合には,これは f♯ : F [H] → F [G]が忠実平坦であることに同値である.特に準同型
f : G→ H が同型であるためには,f♯: F [H] → F [G]∼ がF -Hopf代数同型,すなわちf が全単射であることが必要十分である.
例1.5. (i) GLn(R)∋ g 7→ det g ∈ Gm(R)から定まる準同型det : GLn → Gmは,Hopf
代数射
det♯: F [Gm]∋ f(x1,1, x)7−→ f(det(xi,j), x)∈ F [GLn]
に対応する.これは単射だから det : GLn → Gm は射影である.添加イデアルIGm =
(x1,1− 1)の像は(det(xi,j)− 1)であるから,Ker(det)はF [(xi,j)]/(det(xi,j)− 1)に付
随する部分群(特殊線型群) SLn(R) ={g ∈ Mn(R)| det g = 1} ⊂ GLn(R) である. (ii)正整数n∈ Z>0に対して,n :Gm(R)∋ t 7→ tn ∈ Gm(R)はHopf代数射 n♯: F [Gm]∋ f(x1,1, x)7−→ f(xn1,1, x n )∈ F [Gm] に対応する自己準同型n :Gm → Gmを与える.(一般に(R×)n ⊊ R× だが) n♯ は単射な のでこれは全射準同型である.n♯(I Gm) = (x n 1,1− 1) だから,この核は1のn乗根の群 µµn(R) ={t ∈ R | tn = 1}である.
1.2
係数体の操作
関手として代数群を導入する利点の一つは,係数体の操作の意味が明確になることで ある.
1.2.1 係数拡大と係数制限
GをF 線型代数群,E/F を拡大体とする.可換E 代数の圏ComAlgE はComAlgF の忠 実部分圏だから,関手 GE : ComAlgE ∋ R 7−→ G(R) ∈ Gp は定義可能で,E[GE] = E⊗ F [G]を座標環とするE線型代数群である.これをGのE への係数拡大という. 次にE/F を有限次拡大として,HをE線型代数群とする. ComAlgE ∋ R 7−→ E ⊗F R∈ ComAlgF とH の合成関手
RE/FH : ComAlgE ∋ R 7−→ H(E ⊗F R)∈ Gp
はF 線型代数群になる.これをH のE から F への Weil係数制限という[6, 1.3].ここ では体上の線型代数群しか導入していないために体拡大で述べたが,E/F が有限次 (分 離)拡大の有限直和,すなわちエタールF 代数の場合にも意味をなすことに注意しておく. 例1.6. E/F を二次拡大として,そのGalois群の生成元をσ と書く.F 線型代数群Gを 取り,そのE への係数拡大の F への係数制限を G := R˜ E/F(GE)で表す.GがF 上で 定義されていることから, σG : ˜G(R) = G(E⊗F R) G(σ⊗idR) ∼ −→ G(R),˜ R∈ ComAlg F により自己同型σG ∈ Aut( ˜G)が定まる.一方,F 代数同型α : E⊗F E → E∼ ⊕2で合成 E = E ⊗F F // E ⊗ F E α ∼ // E ⊕ E
がz 7→ (z, σ(z))であるものがある.これに付随して,G˜を再度E に係数拡大したものか らの同型αG : ˜GE → G∼ E× GE が αG : ˜GE(R) = G(E⊗F E⊗ER) G(α⊗idR) ∼ −→ G(E⊕2⊗ ER) = (GE× GE)(R) により定まる.α の作り方から,σG はこの同型で成分の入れ換えαG(σG)((g1, g2)) = (g2, g1)に移る. 特にG = GLn とする.自己同型θn ∈ Aut(GLn)を θn(g) := Ad(In)tg−1, In = á 1 −1 . .. (−1)n−1 ë で定める.このときG = R˜ E/FGLnの自己同型 ε := RE/Fθn◦ σGLn : ˜G(R) σGLn −→ ˜G(R) = GLn(E⊗F R) idE⊗θn −→ ˜G(R) の固定部分群 UE/F(n)(R) = ¶ g∈ ˜G(R)| ε(g) = g©, R∈ ComAlgF はF 線型代数群UE/F(n)⊂ RE/FGLn を定める.これをn変数準分裂ユニタリ群とい う.E への係数拡大の同型 αGLn : UE/F(n)E(R) ∼ −→ {(g, θn(g))| g ∈ GLn,E(R)} pr1 ∼ −→ GLn,E(R) があることに注意しよう. 1.2.2 Galois降下とE/F 形式
有限次 Galois拡大E/F を取る.F 線型代数群G の係数拡大GE の座標環 E[GE] =
E⊗F F [G]は右辺の第一成分への自然なGal(E/F )作用を備えている.逆にE 線型代数
群H の座標環E[H]上のE/F 構造,すなわち準同型
φ : Gal(E/F )−→ AutF -Hopf(E[H])
であって
を満たすものが与えられているとする.このとき
E[H]Gal(E/F ) :={f ∈ E[H] | φ(σ)(f) = f, σ ∈ Gal(E/F )}
はアフィンF -Hopf代数で,付随するF 線型代数群をGと書けばH = GE である.この GをE/F 構造φに関するH のF 形式という.
1.3
連結成分の群と単位成分
アフィンF 代数Aのエタール部分F 代数E, E′ ⊂ Aの合成E.E′ ⊂ Aは再びエター ルである.このこととAのネーター性から,最大エタール部分F 代数π0(A) ⊂ Aが存在 する.アフィンF 代数A, Bに対して, π0(A⊗F B) = π0(A)⊗F π0(B) (1.2) が成り立つ[5, 50頁 定理].特に F 線型代数群G の座標環の最大エタール部分F 代数 π0(F [G])を考えると,∆(π0(F [G]))⊂ π0(F [G]⊗FF [G])と(1.2)からπ0(F [G])はF [G] の部分Hopf代数である.これに付随するF 線型代数群を π0(G)と書き,Gの連結成分 群という.これはπ0(F [G]) ,→ F [G]に付随して射影G↠ π0(G)を備えている.F を含 む代数閉体Ω を取れば,Ω⊗F π0(F [G])はΩ の有限直和だからπ0(G)(Ω)は有限群で ある. 一方,π0(F [G]) = F [π0(G)] ≃ ⊕r i=0 Fi を体の直和への分解とすると,その余単位 ϵπ0(G) はF に同型な直和成分(それをF0とする)への射影である: ϵπ0(G) = pr0 : π0(F [G])−→ F0 = F よってG0 := Ker(G↠ π0(G))とおけば, F [G0] = F [G]⊗π0(F [G]),ϵπ0(G) F はF を最大エタール部分代数とする F -Hopf代数である.このようなF -Hopf代数は整 域であることが示せるので,G0はF 代数多様体として連結な線型代数群である.これを Gの単位成分という.整域F [G0]の分数体F (G0)のF 上の超越次数をGの次元と呼び, dim G := tr.degFF (G0) と書く.例1.7. (i) G = µµ3とすると, F [G] = F [x]/(x3− 1) ≃ F [x]/(x − 1) ⊕ F [x]/(x2+ x + 1) 自身がエタールF 代数なので,π0(F [G]) = F [G], π0(G) = Gで,ϵGは右辺の第1成分 F [x]/(x− 1) = F への射影である.このように単位成分は常にF 線型代数群である.一 方でSpec(F [x]/(x2+ x + 1))はF が1の原始3乗根を含むか否かによって連結性が左 右される. (ii)Ga, GLnの座標環は整域なのでこれらのF 線型代数群は連結である. (Gm× SLn) (R)∋ (t, g) 7−→ á t 1
0
. ..0
1 ë g ∈ GLn(R) に付随する座標環の準同型F [Gm]⊗F F [SLn]→ F [GLn]は単射だから,F [GLn]の部分 環F [SLn]も整域になるので,SLnは連結である.また同型αGLn : UE/F(n)E ∼ → GLn,Eから係数拡大E ⊗F F [UE/F(n)],従ってF [UE/F(n)]も整域になるので,UE/F(n)も連
結である.
1.4
Lie
環
可換環R上のLie環,またはR-Lie環とは,R加群Lとブラケットと呼ばれるR双線 型写像[ , ] : L⊗RL→ Rの組で,
[x, x] = 0, x ∈ L;
[x, [y, z]] + [y, [z, x]] + [z, [x, y]] = 0, x, y, z ∈ L
を満たすものである.またR-Lie環LからL′ へのR線型写像f : L→ L′ で, f ([x, y]) = [f (x), f (y)], x, y∈ L
なるものをLie準同型という.
例1.8. R代数AとA加群M を取る.R線型写像D : A→ M でLeibnitz則D(ab) = aD(b) + bD(a), (a, b∈ A)を満たすものをA上のM 値R微分と呼び,それらのなすR 加群をDerR(A, M )と書く.特にM = Aのとき,DerR(A) := DerR(A, A)は
をブラケットとするR-Lie環である. ■定義 GをF 線型代数群とする.G(F )はF [G]に右移動ρG および左移動λGで作用 する: x (ρG(g)f ) = f (xg), x (λG(g)f ) = f (g−1x). これからG(F )のDerF(F [G])への作用 ρG(g)D := ρG(g)◦ D ◦ ρG(g−1), λG(g)D := λG(g)◦ D ◦ λG(g−1) が定まる.X ∈ DerF(F [G])で左G(F )不変,すなわち λG(g−1)(X(f )) = X(λG(g−1)f ) g∈ G(F )
を満たすものの空間g(F ) ⊂ DerF(F [G])は部分 F -Lie環である.これをGのLie環と
いう.以下このように,線型代数群のLie環を対応するドイツ小文字で表す.作用ρG と λG は可換だから,準同型Ad : G → GL(g(F ))が Ad(g)X := ρG(g)◦ X ◦ ρG(g)−1 により定まる.これをGの随伴表現という. ■双対数による記述 R∈ ComAlgF に対して,商環R[τ ] := R[X]/(X2) (τ はXの像)を R上の双対数の環と呼ぶ.F 代数準同型 R[τ ]∋ a + bτ 7−→ a ∈ R がある. 命題1.9([5], 12.2). (i) F 線型代数群Gに対して次は全単射である. g(F )∋ X 7−→ eτ X := ϵ + τ ϵ◦ X ∈ Ker (G(F [τ]) → G(F )) (ii)上の全単射でブラケットおよび随伴表現を右辺に移したものはそれぞれ eτ1τ2[X1,X2] = eτ1X1eτ2X2e−τ1X1e−τ2X2, eτ Ad(g)X = Ad(g)eτ X で与えられる.ただし最初の式は τ2 1 = τ22 = 0 で定まる F 代数 F [τ1, τ2] に対する G(F [τ1, τ2])内の等式である.
F 線型代数群の準同型f : G→ H に対して図式 G(F [τ ]) −−−−→ H(F [τ])f y y G(F ) −−−−→ H(F )f は可換だから,Lie環準同型 df : g(F )−→ Ker (G(F [τ]) → G(F ))∼ −→ Ker (H(F [τ]) → H(F ))f −→ h(F ) (1.3)∼ を定める.さらにdf は随伴作用と整合している: Ad(f (g))df (X) = df (Ad(g)X), g ∈ G(F ), X ∈ g(F ). 例1.10. (1) Ker (Ga(F [τ ])→ Ga(F )) = F τ だから LieGa(F ) = F である.Ga(F [τ ]) は可換だからブラケットは恒等的に0で,随伴作用も自明である. (2) G = GLnのとき,命題1.9と全単射 Mn(F )∋ X 7−→ eτ X = 1n+ τ X ∈ Ker (GLn(F [τ ])→ GLn(F )) (1.4) により,GLn(F )のLie環gln(F )はMn(F )と同一視される.ここでX ∈ Mn(F )は X(f ) = df (1n+ τ X, (1− τtrX)) dτ τ =0 , f ∈ F [GLn] で定まるDerF(F [G], Fϵ)≃ g(F )の元と同一視されている.命題1.9の式を(1.4)に適用 すれば,ブラケットと随伴作用はそれぞれ [X, Y ] = XY − Y X, Ad(g)X = gXg−1, X, Y ∈ gln(F ), g ∈ GLn(F ) となることが容易に確かめられる. (3) det(1n+ τ X) = 1 + trτ XだからSLn(F )のLie環は(1.4)により sln(F ) :={X ∈ Mn(F )| trX = 0} と同一視される.ブラケット,随伴作用は(2)と同様の式で与えられる. (4) Gが準分裂ユニタリ群UE/F(n) (例1.6参照)の場合, Ker(RE/FGLn(F [τ ])→ RE/FGLn(F )
)
の元g = 1n+ τ X, (X ∈ Mn(E))に対して,例1.6の記号でε(g) = 1n− τAd(In)tσ (X) である.よってUE/F(n, F )のLie環は uE/F(n, F ) = { X ∈ Mn(E)| X + Ad(In)tσ(X) = 0 } で与えられる.
1.5
有理表現とその応用
1.5.1 有理表現 F 線型代数群Gの有理表現とは,有限次元Fベクトル空間V と準同型ρ : G → GL(V ) の対(ρ, V )のことである.代数群を調べる上では有理表現に関する次の事実が重要な役 割を果たす. 命題1.11. (i) F 線型代数群 Gは忠実な有理表現,すなわち有理表現(ρ, V )でρ : G ,→ GL(V )が埋め込みであるものを持つ. (ii) (Chevalleyの不変直線定理).F 線型代数群Gとその部分群H に対して,Gの有理表 現(ρ, V )と1次元部分空間L ⊂ V で, H(R) ={g ∈ G(R) | ρ(g)(R ⊗F L) = R⊗F L} , R ∈ ComAlgF となるものがある. ■指標群 F 線型代数群Gの1次元有理表現,すなわちGからGmへの準同型χ : G→ GmをGの指標という.Gの指標の集合をX(G)と書けば,これはGm の演算に関して 群をなす: (χ1χ2)(g) = χ1(g)χ2(g) = g◦ Ä χ♯1⊗ χ♯2ä◦ ∆, g ∈ G(R), χi ∈ X(G). さて,χ ∈ X(G)に付随する Hopf代数射 χ♯ : F [Gm] = F [x, x−1] → F [G] はfχ := χ♯(x) ∈ F [G]× から一意に決まる.さらに∆ Gm(x) = x1 ⊗ x2 (例1.4 (1))から,χ ♯ が Hopf代数射であることは ∆G(fχ) = fχ⊗ fχ と書き表される.そこで ∆(f ) = f ⊗ f (1.5)を満たすf ∈ F [G]× の集合をF [G]mと書けば X(G)∋ χ 7−→ fχ ∈ F [G]m (1.6) はアーベル群の同型である.特にX(G)は有限生成アーベル群であることがわかる. 1.5.2 Jordan分解 有理表現の最初の応用はJordan分解である.X ∈ Mn(F )はF の代数閉包F¯ 係数の行 列環Mn( ¯F )の中で対角化可能なとき,半単純と言われる.また Xn = 0, (n ≫ 0) とな るとき冪零行列と呼ばれる.g ∈ GLn(F )が冪単とは,g− 1nが冪零行列であることと する. 命題1.12(Jordan分解,[5] 9章). (i)任意のX ∈ Mn(F )に対して,半単純なXs∈ Mn(F ) と冪零な Xn ∈ Mn(F )で,X のF 係数多項式に書けるものがただ一組あって,X = Xs+ Xnが成り立つ. (ii) 任意の g ∈ GLn(F ) に対して半単純元gs ∈ GLn(F ) と冪単元 gu ∈ GLn(F ) で g = gsgu = gugsを満たすものが一意に存在する.さらに gsはgのF 係数多項式であ る. (iii) GをF 線型代数群とする.g ∈ G(F ) に対して,gs, gu ∈ G(F ) で,任意の有理表 現(ρ, V )に対してρ(gs) = ρ(g)s, ρ(gu) = ρ(g)u となるものがただ一組ある.特に忠実な (ρ, V )を考えればg = gsgu = gugsである.同様にX ∈ g(F )に対してXs, Xn ∈ g(F ) でdρ(Xs) = dρ(X)s, dρ(Xn) = dρ(X)nとなるものが一意に存在する. 命題の(iii)の分解g = gsguをg∈ G(F )のJordan分解といい,gs, gu をそれぞれgの 半単純部分,冪単部分と呼ぶ.特にg = gs, (g = gu)のとき,gは半単純元(冪単元)と呼 ばれる.同様にX ∈ g(F )が半単純(冪零)とは,X = Xs, (X = Xn)であることとする. Gの忠実有理表現ρ : G ,→ GLn を取れば,Gの冪単元の集合は Gu :={g ∈ G | (ρ(g) − 1n)n= 0} と書けるので,Gの閉部分代数多様体であることに注意しておく. ■半単純自己同型 F 線型代数群Gの自己同型θ ∈ Aut(G)はF -Hopf代数の自己同型 θ♯: F [G]→ F [G]∼ に対応している.θが半単純とは,次の二条件が成り立つこととする. (i) θ♯ は局所有限.すなわちF [G]はθ♯で保たれる有限次元部分空間の合併である.
(ii) 任意のθ♯ 安定な有限次元部分空間 V ⊂ F [G] への制限 θ♯|V ∈ GL(V, F ) は半 単純. 1.5.3 商群 有理表現の二つ目の応用は商群の構成である.線型代数群の準同型 f : G→ H があれ ば,その核Ker f ◁ Gは正規部分群で,像Im f を商群G/ Ker f と定めてよい.逆に正規 部分群N ◁ Gに対する商群G/N が存在する: 命題1.13(線型代数群の商群). F 線型代数群Gとその正規部分群N ◁ Gに対して,F 線 型代数群の射影π : G↠ ¯Gで次を満たすものがある. (i) Ker π = N . (ii) 準同型f : G→ H でKer f ⊃ N となるものに対して,次の図式を可換にする準同 型f : ¯¯ G→ H がただ一つ存在する. G π // f @@@ @ @ @ @ @ G¯ ∃! ¯f H このG¯ をGのN による商群と呼んでG/N と書く.
2
可解代数群
この節では線型代数群の構造を部分群によって解明する際に基本的な役割を果たす可解 代数群について見ていこう.2.1
冪単代数群
2.1.1 冪単代数群と冪単根基 F 線型代数群Gが冪単とは,その任意の0でない有理表現が単位表現を部分表現に持 つこととする.冪単代数群は上三角冪単行列の群の部分群である: 補題2.1. (1)標数0の体F 上の冪単線型代数群は連結である. (2) F 線型代数群Gに対する次の二条件は同値である. (i) Gは冪単代数群である.(ii) Gの任意の0でない有理表現(ρ, V )の基底{v1, . . . , vn}を適当に取れば,それに ついての行列表示GL(V )≃ GLnでρ(G)が Un := à 1 x1,2 . . . x1,n 1 . .. ... . .. x n−1,n
0
1 í ∈ GLn の部分群になる. これからUnは冪単線型代数群の例である.補題の(ii)から冪単代数群の部分群は冪単 である.また定義から冪単代数群の商群や拡大も冪単である. 一般にF 線型代数群Gの冪単な正規部分群U , U′◁ G があれば,その部分商U ∩ U′, U′/U ∩ U′ は冪単だから,拡大 1−→ U −→ UU′ −→ U′/U ∩ U′ −→ 1 も冪単正規部分群である.この議論により(次元)最大の冪単正規部分群Radu(G) ◁ Gが 存在することがわかる.これをGの冪単根基という.Gが簡約とはRadu(G) = 1なる こととする*1.定義から商群G/Radu(G)は簡約であるが,簡約部分群L⊂ Gで G = LRadu(G) = L⋉ Radu(G) となるものが存在するとき,LをGのLevi成分と呼び,この分解をLevi分解という. 例2.2. F 線型代数群Gが既約かつ忠実な有理表現ρ : G ,→ GL(V ) を持てばGは簡約 である.実際,このときRadu(G)不変ベクトルの空間VRadu(G) は自明ではない.とこ ろが冪単根基は正規部分群だからVRadu(G) ⊂ V はG不変であり,(ρ, V )の既約性から V = VRadu(G), すなわちRad u(G) ⊂ Ker ρ = 1である.この簡単な考察から,GL(V ) やSL(V ),係数拡大が簡約な準分裂ユニタリ群UE/F(n)などは簡約である. 後で用いるために次の補題を述べておこう. 補題2.3. 可換な冪単F 線型代数群はGaの有限直積に同型である.*1Fが正標数を持つ場合には分離閉包Fsepへの係数拡大の冪単根基Radu(GF¯)とRadu(G)F¯が一致し
2.2
乗法型代数群
■対角化可能代数群 F 線型代数群Gの指標群X(G)はF [G]× の(1.5)を満たす元から なる部分群F [G]mと同型であった.Gが対角化可能とは,F [G]がF ベクトル空間とし てF [G]mで張られることとする.GLnの対角元からなる部分群を Tn := á t1 t20
. ..0
tn ë ti ∈ Gm と書く.対角化可能という名の由来は次の通りである. 補題2.4. F 線型代数群Gについて次の2条件は同値である. (i) Gは対角化可能である. (ii) Gの任意の有理表現(ρ, V )の適当な基底を取れば,それについての同型GL(V )→∼ GLnでIm ρ⊂ Tnとなる. これから特に対角化可能代数群の部分群は再び対角化可能である. 有限生成アーベル群X (演算は乗法的に書く)に対して,その群環F [X]には ∆(x) = x⊗ x, (x ∈ X)となる F -Hopf代数構造が一意に定まる.これに付随する対角化可能F 線型代数群をGと書けば,G(R) = HomF -alg(F [X], R) = Hom(X, R×), R∈ ComAlgF
である.特に G 7→ X(G) は,対角化可能 F 線型代数群の圏から有限生成アーベル 群の圏への反同値を与える.具体的には,アーベル群の基本定理による同型 X(G) ≃ Zr⊕⊕s j=1 Z/djZを取れば,それに付随して同型 G ≃ Grm× s ∏ j=1 µµdj (2.1) が定まる. 対角化可能代数群Gの有理表現ρ : G→ GL(V )は補題2.4により V = ⊕ χ∈X(G) Vχ, Vχ ={v ∈ V | ρ(t)v = χ(t)v, t ∈ G} (2.2)
と分解する.Vχ ̸= 0となる χ ∈ X(G) を(ρ, V )のG ウェイトと呼んで,その集合を PG(V )で表す. 2.2.1 乗法型代数群とトーラス F の代数閉包 F¯ を固定し,Galois群Gal( ¯F /F )をΓ = ΓF で表す.F 線型代数群G に対して,係数拡大GF¯ の指標群をX∗(G) := X(GF¯)と書く.X∗(G)は[3, X§3]の意 味の位相的Γ加群である.また同書の記号で X(G) = X∗(G)Γ (2.3) である. Gが乗法型とは,GF¯ が対角化可能,すなわちF [G¯ F¯] = ¯F [X∗(G)]となることとする. Galois降下(1.2節)により,G 7→ X∗(G)は乗法型F 線型代数群の圏からアーベル群と して有限生成な位相的Γ加群の圏への反同値であることがわかる. 乗法型代数群Gで連結,すなわちG = G0 であるものをトーラスという.例1.7 の考 察と(2.1)から,これはGF¯ がGmの有限直積に同型であること,あるいはX∗(G)が有 限生成自由アーベル群であることに同値である.前段落から特に T 7−→ X∗(T ) はF トーラスの圏から,アーベル群として有限生成な自由位相的Γ加群の圏への反同値 である.X∨(T ) := Hom(Gm, T )の元をT の余指標という.これらはT の乗法に関して アーベル群をなす.X∗(T ) := X∨(TF¯)とすれば, ⟨ , ⟩ : X∗(T )⊗ X ∗(T )∋ χ ⊗ µ∨7−→ χ ◦ µ∨ ∈ X(Gm, ¯F) =Z は完全双対性である. F トーラスT が分裂しているとは,ΓがX∗(T )に自明に作用している,言い換えれば T が対角化可能なことである.位相的Γ加群M に対して M (Γ) :=⟨σ(m) − m | m ∈ M, σ ∈ Γ⟩ , MΓ:= M/M (Γ) と書く. 補題2.5. T をF トーラスとする. (i)最大の分裂部分トーラスAT ⊂ T が存在し,X(AT)はX∗(T )のΓ不変商X∗(T )Γ の 自由部分である.AT をT の分裂成分という. (ii)指標の制限X(T )∋ χ 7→ χ|AT ∈ X(AT)は同型X(T )⊗ Q ∼ → X(AT)⊗ Qを与える.
2.3
可解および冪零代数群
■交換子群 F 線型代数群Gの部分群H ,ι→ G,H と正規部分群N ,ι→ GN を取る.交換子写 像γ : H× N ∋ (h, n) 7→ [h, n] = hnh−1n−1 ∈ Gは (m1,3⊗ m2,4)◦ (∆ ⊗ (S ⊗ S) ◦ ∆) ◦ ∆ : F [G] −→ F [G] ⊗F F [G] とι♯H ⊗ ι♯N : F [G]⊗F F [G]↠ F [H] ⊗F F [N ]の合成γ♯ : F [G]→ F [H] ⊗F F [N ]に対 応する.ただしmi,j : F [G]⊗4 → F [G]⊗2 は⊗1≤k≤4 xkにxixj を対応させるF 代数準 同型である.これらの積を取る写像 γr : Hr× Nr ∋ (h1, . . . , hr, n1, . . . , nr)7−→ [h1, n1]· · · [hr, nr]∈ G, (r ∈ Z>0) に付随するF 代数準同型 γr♯ : F [G] → F [H]⊗r⊗ F [N]⊗r の核を Ir := Ker γr♯ ⊂ F [G] とする.容易にわかるとおりIr ⊃ Ir+1 が成り立つので,I := ∩ r∈Z>0 Ir ⊂ F [G] とお く.するとI ⊂ F [G]はHopfイデアルである.これに付随するGの部分群をH とN の 交換子群といい,[H, N ] = [N, H]と書く. 特にH = N = Gのとき[G, G]をGの導来群と呼び,D(G) = Gderで表す. 補題2.6. (i) D(G)は商群G/N が可換代数群になる正規部分群N ◁ Gのうちで最小のも のである. (ii) Gが連結ならばD(G)も連結である. ■可解群と冪零群 F 線型代数群Gの導来列 G = D0(G) ▷ D1(G) ▷ D2(G) ▷ . . . を帰納的に Dk(G) := D(Dk−1(G)) によって定める.十分大きい n ∈ N に対して Dn(G) = 1となるとき,Gは可解であるという. 補題2.7. F 線型代数群Gに対する次の二条件は同値である. (i) Gは可解代数群である. (ii) 正規部分群の列G = G0▷ G1▷ G2▷· · · ▷ Gn = 1で,各Gi/Gi+1, (0≤ i < n)が 可換代数群であるものが存在する.これから,可解な線型代数群の部分群や商群,可解代数群による拡大も可解である. よって冪単代数群の場合と同様の議論により,F 線型代数群Gは最大の連結可解正規部 分群Rad(G)を持つことがわかる.これをGの根基という.F 線型代数群Gが半単純と は,Rad(G) = 1となることとする. またF 線型代数群Gの中心降下列 G = C0(G) ▷ C1(G) ▷ C2(G) ▷ . . . (2.4) を帰納的にCk(G) := [G, Ck−1(G)]と定める.Gが冪零とは,十分大きいn∈ Nに対し てCn(G) = 1となることとする.明らかにCk(G) ⊃ Dk(G)であるから,冪零代数群は 可解である. 例2.8. (i)定義から可換な線型代数群は冪零だから可解である.また補題2.1のUn の中 心降下列を計算すれば,Un, さらには一般の冪単代数群が冪零であることもわかる.特 にF 線型代数群Gの冪単根基Radu(G)は根基Rad(G)に含まれ,従って正規部分群で ある. (ii) GLnの上三角元からなる部分群 Bn := à x1,1 x1,2 . . . x1,n x2,2 . .. ... . .. x n−1,n
0
xn,n í ∈ GLn は可解だが冪零ではない.その冪単根基は補題2.1のUnでTn はLevi成分である.3
代数閉体上の線型代数群
この節ではF を標数0の代数閉体とする.この場合の線型代数群の構造論はChevalley にまでさかのぼる[1].3.1
線型代数群の作用と等質空間
F 線型代数群G はアフィンF 多様体 Spm(F [G]) (座標環F [G] の極大イデアルスペ クトル) と見なされる.F 多様体 X へのG の作用とは,F 多様体の射 µ : G× X ∋ (g, x)7→ gx ∈ X で g1(g2x) = (g1g2)x, 1x = x, g1, g2 ∈ G, x ∈ Xを満たすものである.x∈ X に対して射µx : G∋ g 7→ gx ∈ X の像Gx := µx(G)をx のG軌道という.またg∈ Gに対してµ(g) : X ∋ x 7→ gx ∈ X はF 多様体の自己同型 である.閉集合Z ⊂ X の安定化群Stab(Z, G) Stab(Z, G) :={g ∈ G | gZ ⊂ Z} = ∩ x∈Z µ−1x (Z) はGの(閉)部分群である. 補題3.1. F 線型代数群GがF 多様体Xに作用しているとする. (i)任意のG軌道O⊂ X はその閉包O¯ の開部分集合で,特にX の部分多様体である. (ii) G軌道O ⊂ Xで閉集合であるもの(閉軌道)が存在する. F 線型代数群Gが作用するF 多様体X がG等質空間とは,X が単一のG軌道から なること,つまりX へのG作用は推移的であることとする.G等質空間の間の(F 多様 体の)射f : X → Y がG同変とは, f (gx) = gf (x), (g∈ G, x ∈ X) が成り立つこととする.G自身は左移動作用(g, x) 7→ gxによりG等質空間と見なされ る.等質性は次のような強い帰結を生む. 補題3.2. 連結なF 線型代数群Gの等質空間の間のG同変な全単射はF 多様体の同型で ある. さて,部分群 H ⊂ G に対して剰余類集合 G/H がG 等質空間になることを見てお こう. 定理3.3(等質空間の存在). F 線型代数群Gとその部分群Hに対して,G等質空間X と G同変射π : G→ Xで次の普遍性を満たすものが存在する. 普遍性.射f : G→ Y で左H 剰余類上定数である: f (gh) = f (g), (g ∈ G, h ∈ H)に対 して,射f : X¯ → Y で次の図式を可換にするものがただ一つある. G π // f @@ @ @ @ @ @ @ X ∃! ¯f Y 定理 3.3 の (X, π)を G のH による商空間または等質空間と呼んで,G/H で表す. N ◁ GがH に含まれる正規部分群ならば,商群G/N , H/N が考えられる.このとき定
理の普遍性によりG↠ G/N ↠ (G/N)/(H/N)に付随する射
G/H −→ (G/N)/(H/N)∼ (3.1)
はG等質空間のG同変な全単射だから,F 多様体の同型になる.
補題3.4. F 線型代数群Gとその部分群H に対して,dim G/H = dim G− dim H が成 り立つ.
定理3.3の等質空間の一意性から次の部分Lie環と部分群の間の対応が成り立つ.F が 正標数を持つ場合にはこの類似は一般には正しくない.
命題 3.5 ([2] 12.5, 13.1). (i) F 線型代数群の準同型 f : G → H に対して,Ker df = Lie(Ker f )である.
(ii) F 線型代数群Gの部分群H, K ⊂ Gに対して,Lie(H∩ K) = Lie H ∩ Lie Kである. (iii)特にGが連結なF 線型代数群のとき,連結部分群H ⊂ Gは部分Lie環h ⊂ gと一 対一に対応する. この事実により,以下の構成は一般の場合に比べて随分と簡単になる.
3.2
連結可解群の構造
次の定理は3.2,3.3節の構成の鍵となる. 定理3.6(Borelの固定点定理). 連結可解なF 線型代数群Gが完備多様体X に作用して いるとき,XはG固定点を持つ. これからまず次の帰結を得る. 命題3.7(Lie-Kolchinの定理). 連結な可解F 線型代数群Gの有理表現(ρ, V )に対して, V の基底を適当に選んで,それに関する行列表示 ρ : G → GLn でρ(G) が例 2.8 の Bn ⊂ GLnに含まれるようにできる. 特に Gの忠実有理表現ι : G ,→ GL(V )に命題を適用して,Gを適当な自然数nに対 するBn = Tn⋉ Unの部分群とみなせる.G∩ UnはJordan分解の定義(命題1.12) か ら冪単集合Gu で,D(Bn) = Un からGu ⊃ D(G)が成り立つ.自然な射影Bn ↠ Tn によるGの像をT と書けば,これはトーラスで線型代数群の完全列 1−→ Gu −→ G −→ T −→ 1がある. 命題3.8(連結可解群の構造). Gを連結可解F 線型代数群とする. (i)冪単根基Radu(G)は冪単集合Gu ⊂ Gに一致し,G/Guはトーラスである. (ii)任意の極大トーラスT ⊂ Gに対して,G = T ⋉ Gu, NG(T ) = ZG(T )が成り立つ. (iii) Gのすべての極大トーラスは互いにGu(F )共役である.
3.3
Borel
部分群
代数閉体上の線型代数群の構造はBorel部分群と呼ばれる部分群たちを通じて解明され る.この節ではBorel部分群を定義し,それらの満たす性質を述べる.■Borel 部分群と Borel 対 F 線型代数群 G の極大連結可解部分群を Borel 部分群と いう. 例3.9. 例2.8 (ii)のBn ⊂ GLnは連結可解部分群で,命題3.7からGLnの任意の可解部 分群はBn の部分群に共役だから,BnはGLnのBorel部分群である. 定理3.10(Borel部分群の共役定理). Gを連結なF 線型代数群とする. (i) Borel部分群B⊂ Gに対して準射影多様体G/B (定理3.3)は射影多様体である. (ii) 2つのBorel部分群B1, B2 ⊂ Gは互いにG共役である. GのBorel部分群BとBに含まれるGの極大トーラスT の組(B, T )をBorel対とい う.例えば(Bn, Tn) (補題2.4参照)はGLn のBorel対である. 系3.11. Gを連結なF 線型代数群とする. (i)任意の極大トーラスT ⊂ GはあるBorel対(B, T )に含まれる. (ii) 2つのBorel対(B1, T1), (B2, T2)は互いにG(F )共役である. 特にGの極大トーラス T の次元rkG := dim T はT の取り方によらない.これをG の階数という. 部分群P ⊂ GでG/P が射影多様体であるものを放物型部分群という. 系3.12. 部分群P ⊂ Gが放物型部分群であるためには,あるBorel部分群を含むことが 必要十分である.特に連結可解な放物型部分群はBorel部分群である. 補題3.13(商群のBorel対). f : G ↠ HをF 線型代数群の全射準同型とする.
(i) Borel部分群B ⊂ Gに対してf (B)⊂ HはBorel部分群である.H の任意のBorel部 分群はこうして得られる. (ii)極大トーラスT ⊂ Gに対してf (T ) ⊂ H は極大トーラスになる.H の任意の極大 トーラスはこうして得られる. ■Cartan部分群 まずWeyl群の定義にも用いられる次の結果を用意しておく. 命題3.14(対角化可能部分群の剛性定理). F 線型代数群Gの対角化可能部分群Dに対し て,NG(D)0 = ZG(D)0 が成り立つ. これとBorel部分群を組み合わせることで,極大トーラスの中心化群の構造がわかる. 補題3.15. 連結なF 線型代数群GのBorel部分群Bを取る. (i)自己同型α : G→ G∼ がB上で恒等射ならばそれは恒等射である. (ii) Bの極大トーラスT がZ(B)に含まれるなら,G = Bである. (iii)極大トーラスT ⊂ G の連結中心化群H := ZG(T )0 はT を唯一の極大トーラスに持 つ可解群で,NG(H)0 = H を満たす. 極大トーラスT ⊂ Gの連結中心化群H := ZG(T )0をGのCartan部分群という. ■稠密性および連結性定理 導入したCartan部分群を使うことでBorel部分群たちの合 併を記述できる. 命題3.16(稠密性定理). Gを連結F 線型代数群とする. (i) GのCartan部分群たちの合併はGの開稠密部分集合を含む. (ii) GのBorel部分群たちの合併はG自身である. (iii) G(F )の任意の半単純 (冪単)元はある極大トーラス (Borel部分群の冪単根基)に属 する. これからトーラスの中心化群の連結性が従う. 命題3.17(連結性定理). 連結F 線型代数群G内のトーラスS の中心化群ZG(S)は連結 である. また連結部分群ZG(S)⊂ GのBorel部分群は次で記述される. 補題3.18 (トーラスの中心化群のBorel 部分群). 連結なF 線型代数群 G 内のトーラス S ⊂ Gを取る.Sを含むBorel部分群B⊂ Gに対して,ZB(S) = ZG(S)∩ B はZG(S)
のBorel部分群である.ZG(S)の任意のBorel部分群はこうして得られる. さらにこれらの帰結として次の大事な結果を得る. 命題3.19(自己正規化性). 連結F 線型代数群GのBorel部分群Bの正規化群NG(B)は B自身である.
3.4
旗多様体
Gを連結なF 線型代数群とする.GのBorel部分群の集合をB(G)と書く.Borel部 分群の共役定理3.10と命題3.19から,Borel部分群B⊂ Gに対して G/B ∋ gB 7−→ Ad(g)B ∈ B(G) は全単射である.これにより等質空間G/Bの構造を移してB(G)をG等質空間と見る. これをGの旗多様体という.トーラスS ⊂ Gに対してB(G)内のS 固定点の集合を B(G)S :={B ∈ B(G) | B ⊃ S} と書く.F 多様体の分離公理からB(G)S ⊂ B(G)は閉部分多様体である. ■極大トーラスの作用 極大トーラスT ⊂ Gに対して命題3.14, 3.17 からNG(T )0 = ZG(T )0 = ZG(T )だから,商群 Ω(T ) = ΩG(T ) := NG(T )/ZG(T ) = π0(NG(T )) は有限群である.これを(G, T )のWeyl群という. 補題3.20. 作用 NG(T )× B(G)T ∋ (n, B) 7→ Ad(n)B ∈ B(G)T はΩ(T )のB(G)T へ の単純推移的な作用を引き起こす.特にB(G)T は有限集合である. ■冪単根基の記述 前節の構成を使って,連結線型代数群の冪単根基が記述できる.Gを 連結なF 線型代数群,T ⊂ Gを極大トーラスとする. I(T ) :=( ∩ B∈B(G)T B )0 はG の連結可解部分群で T を極大トーラスに持つ.命題 3.8 から Levi 分解 I(T ) = T ⋉ I(T )u が成り立つ.定理3.21(Chevalley). I(T )u = Radu(G)である. この定理は簡約代数群に対する次の帰結を与える. 系3.22. Gを連結簡約F 線型代数群とする. (i)極大トーラスT ⊂ Gに対してZG(T ) = T である. (ii) Gのすべての極大トーラスの交わりは中心ZG に一致する. (iii)トーラスS ⊂ Gの中心化群ZG(S)は連結簡約である.
4
代数閉体上の簡約代数群
ここからは標数が 0の代数閉体F 上の簡約線型代数群を考える.その構造はルート データという組合せ論的なデータによって,階数1の半単純代数群の場合に帰着される. まず F 線型代数群Gの根基Rad(G)による商群G/Rad(G)は定義から半単純であっ た.その階数をGの半単純階数と呼んでrkssG := rk(G/Rad(G))と書く. 補題4.1. Gを連結簡約なF 線型代数群とする.(i) Rad(G) = ZG0 であり,従ってrkssG = rkG− dim ZG である. (ii)導来群Gderは半単純で,ZG∩ Gderは有限群である.
(iii)極大トーラスT ⊂ Gに対してTDer := T ∩ GderはGder の極大トーラスで,Gder の
任意の極大トーラスはこうして得られる.またrkGder = rkssGである.
4.1
半単純階数
1
の場合
命題4.2 (半単純階数1の簡約群の構造). Gを連結簡約なF 線型代数群でrkssG = 1で あるものとする.極大トーラスT ⊂ Gを取る.G := G/Z¯ G0 と書き,T のそこでの像を ¯ T で表す.(i) Gder はSL2またはPGL2 に同型で,G = GderZG0 が成り立つ.
(ii) Ω(T ) ≃ Z/2Zで ZG(T ) = T である.随伴表現 (Ad, g) のT ウェイト分解はある
α̸= 0, ∈ X( ¯T )⊂ X(T )を使ってg = t⊕ gα⊕ g−αと書けて,dim g±α = 1である. (iii) T で正規化される冪単部分群U±α ⊂ GでLieU±α = g±αとなるものがただ一組あ り,B(G)T ={B±α:= T U±α}である.
Ω(T )の生成元をrαと書くと, rα(χ) = χ− ⟨α∨, χ⟩ α, χ ∈ X(T ); rα(µ∨) = µ∨− ⟨α, µ∨⟩ α∨, µ∨ ∈ X∨(T ) である.
4.2
ルートデータ
4.2.1 定義と基本性質 ルートデータとは, • 階数有限自由アーベル群X,その双対アーベル群X∨ := Hom(X,Z), • 有限部分集合R⊂ X, R∨ ⊂ X∨ からなる四つ組Ψ = (X, R, X∨, R∨)と,全単射R∋ α ↔ α∨∈ R∨で次の条件を満たす ものである. (i) ⟨α, α∨⟩ = 2, α ∈ R. (ii) α∈ Rに対して rα : X ∋ λ 7−→ λ − ⟨λ, α∨⟩ α ∈ X, rα∨ : X∨ ∋ µ∨7−→ µ∨− ⟨α, µ∨⟩ α∨∈ X∨ とおけば,rα(R) = R, rα∨(R∨) = R∨. Rの元 αをルート,α∨をそのコルートという.定義からrα(α) = −αだから−R = R である.ルートデータΨi = (Xi, Ri, Xi∨, Ri∨), (i = 1, 2)の同型ϕ : Ψ1 → Ψ2とは,準同 型ϕ : X1 → X2 であってϕ(R1) = R2,tϕ(R∨2) = R∨1 を満たすものとする.ここでtϕは ϕの随伴写像:⟨tϕ(λ∨), µ⟩ = ⟨λ∨, ϕ(µ)⟩, (λ∨∈ X∨, µ∈ X)を表す. ル ー ト デ ー タ の 基 本 性 質 は ル ー ト 系 の 構 造 に 帰 着 さ れ る .ル ー ト デ ー タ Ψ = (X, R, X∨, R∨) に 対 し て ,V := R ⊗ X, V∨ := R ⊗ X∨ と お く .ま た R およびR∨ で生成されるX およびX∨の部分群をそれぞれQ, Q∨ と書く.R, R∨ それ ぞれの零化域を X0∨ :={λ∨ ∈ X∨ | ⟨α, λ∨⟩ = 0, α ∈ R} , X0 :={λ ∈ X | ⟨α∨, λ⟩ = 0, α∨ ∈ R∨}で表し,QR := R ⊗ Q, Q∨R := R ⊗ Q∨, V0 := R ⊗ X0, V0∨ :=R ⊗ X0∨ とおく.双対性 X× X∨ → Zの係数拡大V ⊗RV∨ → Rに関して双対な直和分解 V = QR⊕ V0, V∨ = Q∨R⊕ V0∨ がある.これについてRはQR内のルート系になる: (i) Rは0を含まず,QR を張る. (ii) α∈ Rに対してα∨ ∈ HomR(QR,R)で(ルートデータの定義の記号で)次の2条件 を満たすものがある. (a)⟨α, α∨⟩ = 2; (b)rα(R) = R. (iii) α∈ Rに対してα∨(R)⊂ Zである. ルート系に対する[7, VI章]の結果から従うルートデータの性質のうち,このノートで用 いるものを挙げておこう. 事実4.3. ルートα ∈ Rの定数倍が再びRに属するならば,それは±2α, ±α, ±α/2のい ずれかである. ルートαが非可除とは±α/2 ̸∈ Rであることとする.Rが非可除ルートのみからなる とき,ルート系RおよびルートデータΨ は被約であるという.非可除ルートの集合を Rindで表す. ルートα ∈ Rに対するrα は定義からルートデータΨの自己同型である.{rα}α∈R で 生成されるAut(Ψ)の部分群をΨのWeyl群と呼び,W (Ψ)と書く.rα の固定超平面 Hα ={λ ∈ V | α∨(λ) = 0} をαに付随する壁という.壁の合併の補集合 Vreg :={λ ∈ V | α∨(λ) ̸= 0, α ∈ R} の各連結成分をΨの(Weylの)部屋と呼んで,それらの集合をW(Ψ)で表す.部屋C ⊂ V に対して ∆(C) :={α∈ Rind | Vα ⊂ ¯C, α∨(C)⊂ R>0 } をCに付随するRの基底という.
事実4.4. (i) W (Ψ)はW(Ψ)に(従ってRの基底の集合にも)単純推移的に作用する. (ii) Ψが被約だとする.任意の部屋C ∈ W(Ψ)に対して,(W (Ψ),{rα}α∈∆(C))はCoxeter 系である*2.またW (Ψ)∆(C) = Rである. (iii)部屋C ∈ W(Ψ)に対して,∆(C)は自由アーベル群Qの基底である. (iv)部屋C ∈ W(Ψ)に対してR+(C) := R∩(∑ α∈∆(C) Nα)とおくと,R = R+(C)⊔ −R+(C)である. R+(C)の元をCに関する正ルートという.一方,部分集合P ⊂ Rで (i) α, β ∈ P かつα + β ∈ Rならばα + β ∈ P , (ii) R = P ⊔ −P を満たすものをRの正系という.Rの正系はすべてR+(C), (C ∈ W(Ψ))の形である. 注意4.5. ルートデータΨ = (X, R, X∨, R∨)を取れば,Ψ∨ = (X∨, R∨, X, R)もルート データである.これをΨの双対ルートデータという.Aut(Ψ)不変なV 上の内積により V とV∨を同一視すると, α∨= 2α (α, α), α ∈ R (4.1) となる.特にrα はHα を固定超平面とする内積空間(V, ( , ))の鏡映変換である.また各 α∈ Rはα∨の正実数倍と同一視されるので,W (Ψ)とW (Ψ∨)およびWeylの部屋の集 合W(Ψ)とW(Ψ∨)も同一視される. 被約ルートデータΨ = (X, R, X∨, R∨)とV =R ⊗ X 内の部屋Cを取る.ΨにC に 付随する基底を加えた六つ組 (X, R, ∆(C), X∨, R∨, ∆∨(C)) を基底付きルートデータという.事実4.4 (ii)からW (Ψ)はrα, (α∈ ∆(C))で生成され, W (Ψ)∆(C) = R, W (Ψ)∆∨(C) = R∨だから,基底付きルートデータは四つ組 RD = (X, ∆(C), X∨, ∆∨(C)) か ら 完 全 に 回 復 で き る .そ こ で 以 下 で は 基 底 付 き ル ー ト デ ー タ を こ の 四 つ 組 で 表 す こ と に す る .基 底 付 き ル ー ト デ ー タ の 同 型 ϕ : (X1, ∆(C1), X1∨, ∆∨(C1)) →∼ (X2, ∆(C2), X2∨, ∆∨(C2)) と は ,ル ー ト デ ー タ の 同 型 ϕ : (X1, R1, X1∨, R∨1) ∼ → *2W (Ψ)は{rα}α∈∆(C)で生成され,rα, rβ, (α, β ∈ ∆(C))は(Z/2Zも込めた)二面体群を生成する.
(X2, R2, X2∨, R∨2)であってϕ(∆(C1)) = ∆(C2),tϕ(∆∨(C2)) = ∆∨(C1)を満たすもので ある.従って例えば基底付きルートデータRD = (X, ∆(C), X∨, ∆∨(C))の自己同型群 をAut(RD)と書けば,事実4.4 (i)から Aut(Ψ) = W (Ψ)⋊ Aut(RD) である. 4.2.2 簡約代数群のルートデータ Gを連結簡約なF 線型代数群としてその極大トーラスT を取る.随伴表現(Ad, g) の 非自明なT ウェイトの集合をR(G, T ) :=PT(g)∖ {0}と書いて,その元をT のGでの ルートという.χ∈ X(T )に対してTχ := (Ker χ) 0とおく. χ ̸= 0ならIm χ⊂ Gmは非 自明な連結部分群だからχ : T ↠ Gmは全射で,補題3.4からTχ⊂ T は余次元1の部分 トーラスである. 特にルート α ∈ R(G, T ) に対して αG := Z G(Tα) とおく.αG は半単純階数 1 の 連結簡約線型代数群なので,系 4.2 が適用できる.特に ⟨α, α∨⟩ = 2 となる α∨ ∈ X∨(T ∩αGder) ⊂ X∨(T ) がただ一つある.これをα ∈ R(G, T ) のコルートと呼んで, R∨(G, T ) :={α∨| α ∈ R(G, T )} ⊂ X∨(T )と書く. 補題4.6. B ∈ B(G)T に対してR(B, T ) := R(G, T )∩ PT(b)はR(G, T )の正系である. 命題4.7. 連結簡約なF 線型代数群Gと極大トーラスT ⊂ Gを取る. (i) ΨT(G) := (X(T ), R(G, T ), X∨(T ), R∨(G, T ))は被約ルートデータである. (ii) Aut(X(T ))の部分群としてΩ(T ) = W (ΨT(G)). (iii) B ∈ B(G)T に対して C(B) := {λ ∈ V | α∨(λ) > 0, α∈ R(B, T )} と定めれば, B(G)T ∋ B 7→ C(B) ∈ W(ΨT(G))はΩ(T )作用と可換な全単射である. B ∈ B(G)T に対して,C(B)に付随するR(G, T )の基底の集合を∆(B, T )⊂ R(B, T ) と書いて,その元をBに関する単純ルートという. 例4.8. (G, T ) = (GLn, Tn)のとき, X(Tn) = n ⊕ i=1 Zϵi, X∨(Tn) = n ⊕ i=1 Zϵ∨ i , ϵi : Tn ∋ diag(t1, . . . , tn)7−→ ti ∈ Gm, ϵ∨i :Gm∋ t 7−→ diag(1, . . . , i ∨ t, . . . , 1)∈ Tn
と書ける.例1.10 (2)と Ad (diag(t1, . . . , tn)) ( xi,j ) =(tit−1j xi,j ) (4.2) から,R(GLn, Tn) ={αi,j = ϵi− ϵj | 1 ≤ i ̸= j ≤ n}で, (αi,jG) der= à 1i−1 a b 1j−i−1 c d 1n−j í Å a b c d ã ∈ SL2 から,α∨i,j = ϵ∨i − ϵ∨j である: ΨTn(GLn) = (⊕n i=1 Zϵi,{ϵi− ϵj}i̸=j, n ⊕ i=1 Zϵ∨i , { ϵ∨i − ϵ∨j}i̸=j ) .
4.3
簡約代数群の構造
4.3.1 ルート部分群とBorel部分群 G を連結簡約なF 線型代数群として,極大トーラスT ⊂ G を取る.系 3.22 (i)から ZG(T ) = T だから,ウェイト分解 g = t⊕ ⊕ α∈R(G,T ) gα がある.各 α ∈ R(G, T ) に対して dim gα = 1 で,Ad(T ) 安定な冪単部分群 Uα ⊂ αGder ⊂ GでgαをLie環に持つものがただ一つある(系4.2 (iii)).補題2.3から,同型
uα :Ga −→ U∼ α がある. 命題4.9. (i) B = T ⋉ Bu ⊂ GをBorel部分群とする.R(B, T ) = {α1, . . . , αn}と番号 付けを取り,X∨(T )の基底{ϵ∨1, . . . , ϵ∨r}を固定すれば, Gr m× G R(B,T ) a ∋ (t1, . . . , tr; (xα)α)7−→ r ∏ i=1 e∨i (ti)· ∏ α∈R(B,T ) uα(xα)∈ B (4.3) はF 多様体の同型である. (ii) α̸= β, ∈ R(B, T )に対して,cα,β(j, k)∈ F , (j, k ∈ Z>0, jα + kβ ∈ R(B, T ))があっ
て,関係式 Ad(t)uα(x) = uα(α(t)x), t ∈ T, x ∈ Ga; [uα(x), uβ(y)] = ∏ jα+kβ∈R(B,T ) j, k∈Z>0 ujα+kβ(cα,β(j, k)xjyk), x, y∈ Ga. が成り立つ.ここで右辺の積はR(B, T )の番号付けの順に取るものとする. 4.3.2 Bruhat分解 簡約群 G のBorel 対(B, T ) を固定して,B の冪単根基Bu をU と書く: B = T U . w ∈ Ω(T )の代表元nw ∈ NG(T )の両側剰余類 BnwB ⊂ Gは代表元の取り方によらな い.これはB× B軌道であるからGの局所閉集合で,従って部分多様体である. invB(w) :={α ∈ R(B, T ) | w(α) /∈ R(B, T )} とおけば,F 多様体の射 GinvB(w) a ∋ (xα)α∈invB(w)7−→ ∏ α∈invB(w) uα(xα)∈ U の像Uw ⊂ U は命題4.9 (ii)から部分群である.同命題(i)と同様にこの射はF 多様体の 同型である. 定理4.10(Bruhat分解). 連結簡約F 線型代数群GとそのBorel対(B, T )を取る. (i) w∈ Ω(T )に対して,Uw−1× B ∋ (u, b) 7→ unwb∈ BnwBはF 多様体の同型である. (ii)直和分解G =⨿w∈Ω(T ) BnwBがある. 4.3.3 標準放物型部分群 Bruhat分解を使って簡約代数群の放物型部分群が記述できる. 命題 4.11. 連結簡約な F 線型代数群 G とその Borel 対 B = T U を取る.部分集合 S ⊂ ∆(B, T )に対して,TS := ( ∩ α∈S Ker α) 0 , MS := ZG(TS)とおく.後者は連結簡約 である(系3.22 (iii)). (i) PS := MSB ⊂ Gは放物型部分群で,その冪単根基はUS :=∏α∈R(B,T )∖QS Uα であ る.Levi分解PS = MS⋉ US が成り立つ. (iii) Bを含むGの放物型部分群はあるS ⊂ ∆(B, T )に対するPS である.特に任意の放 物型部分群は連結である.