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アイロニーの記述的研究(2) : アイロニー性を中心に

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(1)文学・芸術・文化. 1 7巻 1号. 2 0 0 5 .7. アイロニーの記述的研究(2) 一一アイロニー性を中心に一一一. 春木茂宏. 1.序 本稿の目的は、アイロニーという伝達手段に関する観察を行うことであ る。特に、アイロニー表現に見られる程度差(アイロニー性と呼ぶ)につ いて、いくつかの文脈情報の操作を行いながら、その振る舞いを観察する。 日常の言語経験からの直感にしたがうと、アイロニーと呼ばれる表現に も程度差が見受けられる。話し相手がアイロニーを言っているかどうかと いう白か黒かと解釈だけではなく、冗談ともとれる軽い程度のアイロニー と解釈できる場合もあれば攻撃性の強いアイロニーとしか解釈できないよ うな場面に出くわしたこともあるはずである。確かに直感的には、アイロ ニーは他の修辞表現と比較すると、そのような意味的にグレイな領域を伝 達するのに長けているように感じられる。もっと極端に言ってしまえば、 そのような機能を果たすべく発達してきた伝達手段といってもよい。しか しながら、アイロニー性について直接的に分析されてきた研究はほとんど ないといってよい。ましてや、それを記述的に考察するという研究は皆無 に等しい。そこで、本稿では、アイロニー性の記述を行うことを大きな一 つの目的としている。その上で、その記述から考えられる理論的展望につ いても述べていくことにする。 本稿の構成としては、 2節では、アイロニーであると解釈されるか否か、 アイロニー性の増減、および、合意の深さとアイロニー性の関係の 3点を 分析する。そこで明らかになるのは、アイロニーとして解釈されるには話 し手(および、聞き手)の思考と発話のズレが条件となっている点、アイ. -92-. (3 1).

(2) アイロニーの記述的研究(2) 春木. ロニー性には想定に付与される確信度が影響している点、さらに、合意の 深さとアイロニー性との関係にも確信度が関与しているという点である。. 3節では、 2節の観察をふまえた理論化への展望が示される。そこでは、 アイロニ一理論を構築する際の理論的装置の前提的要素が提示される。ま た、解釈結果である出力が実はアイロニー解釈過程での入力でもあるとい う非常に興味深い点も述べられる c 最後に注意しておかなければならない点は、本稿での観察は基本的には 聞き手の解釈過程に焦点を置いている点である。話し手のアイロニー認識 過程と聞き手のアイロニー解釈過程を同じであると考えるが、厳密な点で は違う可能性もある。例えば、話し手の認識の段階では聞き手が持つ知識 体系の情報を利用することは出来ないが、発話されたアイロニーが聞き手 の解釈過程に入った場合、状況からある程度の話し手の知識を利用しつつ 自分の知識を活用することは可能である。この意味においても、話し手の アイロニー認識と聞き手のアイロニー解釈は区別しておく必要があり、本 稿は聞き手の解釈過程に依った分析であることを述べておく。. 2 . アイロニー性の観察:程度差から見たアイロニー この節では、アイロニーに見られるアイロニー性について詳しく観察を 行なう。アイロニーという言語現象は、ある発話がアイロニーであると解 釈できるか否かという基準だけでなく、アイロニー性という程度差の基準 もあり、それがどのような振る舞いであり、どのような要因があるかを観 察する。. 2 . 1 . アイロニーの必須条件:アイロニーと解釈できるかどうかについて まず、アイロニー性の中でもある発話がアイロニーであると解釈できる か否か、すなわち、アイロニー性が現れる場合と現れない場合を観察して. 唱. 'A. n u u. (32).

(3) 文学・芸術・文化. 1 7巻 1号 2 0 0 5 .7. たい。その際手がかりになるのが、春木 ( 2 0 0 3 ) で得たアイロニーの特性 である。. ( 1 ) アイロニーの特性. a. 言葉と思考との聞にはズレがある.. b.ズレの中でも反対という関係が際立つている. c.否定的態度を表しやすい.. d.ジョークと密接な関係がある.. l a )と ( l b ) の特性に焦点を当てて観察を その中でも、特にこの節では ( 行っていきたい。春木 ( 2 0 0 3 ) での結論のーっとして、ある発話がアイロ ニーであると解釈されるためには、話し手の発話と思考との聞に何らかの ズレがあることが一つの条件であった。この点を検証する意昧も含めて、 まず、このズレの認識に焦点を当てて、観察を進めていくことにする。 2 ) のような文脈と発話を観察することにす 議論を簡便にするために、 (. る。さらに、説明の便宜上、アイロニーの意昧を持つと解釈される(話し 手が発した)発話のことを「トリガ一発話」と呼ぶことにする。また、 「想定j という語は思考(知識体系や信念体系)の中のある一つの命題的 な情報であるとする。後に、「トリガー想定Jという語を用いるが、これ はトリガ一発話が聞き手の解釈過程において命題的な情報として扱われて p る場合を指すことにする。. ( 2 ) a. 文脈 1 :親が子供の部屋に入る。その部屋はよく整理整頓され. ているか、もしくは、散らかり放題である。. b . 文脈 2:(親が抱く子供の部屋に関する想定) :1p :きれいな部 屋│か、もしくは、. 1 , p :汚い部屋│かのどちらかである。. c.親が子供に対して発するトリガ一発話: 1 p :きれいにしている. -90-. (3 3).

(4) ア イ ロ ニ ー の 記 述 的 研 究 (2) 春木. ね│か、もしくは l-P:汚い部屋│のどちらかである。. まずは単純な場合から考えてみるご親が子供の整理整頓されている部屋に. P :きれいな部屋│という想定を抱き、また、散ら 入った場合、通常は 1 かり放題の部屋に入った場合は、 l-P:汚い部屋│という想定を抱く。つ まり、親が現実の部屋の状態に対して一般的な判断をする場合には、親の 思考は以上の 2通りになる。アイロニーには思考と発話のズレがあるとい うことから考えるので、 2通りの思考と 2通りのトリガ一発話の組み合わ せを考えてみる。. 1 P :きれいな部屋│¥発話 l p:きれいにしているね) b. 思考 l p:きれいな部屋│¥発話 1 , P :汚い部屋│ c. 思 考 { 一 . . . , p 汚い部屋│ ¥ 発 話 1p:きれいにしているね i. ( 3 ) a. 思考. d . 思考. 1 , p :汚い部屋│ ¥ 発 話 1 , p :汚い部屋│. まず、 ( 3 a ) および ( 3 d ) に関しては、想定とトリガ一発話の聞にはズレ がない条件であり、思考をそのまま言葉にした字義的解釈である。問題は ( 3 b )と ( 3 c ) である. O. この二つには思考と発話のズレがあるが、解釈に. 3 c ) 関しては違いが現れる。典型的なアイロニーとして解釈されるのは (. である。ここでは、部屋の状態に対する評価に関して否定的な想定を抱き つつ肯定的なトリガ一発話を発する場合である。一方、 ( 3 b ) のようにズ レが生じていても、肯定的な想定を抱きつつ否定的なトリガ一発話を発す る場合は、アイロニーとは解釈しにく~. ) c しかしながら、可能な解釈はあ. る。それは、ジョークを言っているという解釈か、もしくは、 トリガ一発 話を字義的にとって、話し手はこの部屋のことを汚いと思っているという 解釈である。このような振る舞いの違いは、アイロニーの特徴の一つであ る。つまり、他の文献でも言われているとおり、否定的な内容を肯定的な. (34). -89ー.

(5) 文学・芸術・文化. 1 7巻 1号. 2 0 0 5 .7. 言葉で表すことが出来るが、その逆は不可能(もしくは非常に困難)であ る。まず、これがアイロニーの大きな一つの特徴である。このアイロニー の特徴も記述すべき重要な点の一つであるが、 (3b) の振る舞いの遣いか らはさらなる観察の視点を与えてくれる点で、有用で、ある。それは、話し手 のメシタルステイトに関する聞き手の判断が、解釈の重要な鍵になってい るという点である。ジョークの方は話し手の思考には j pf があると聞き 手は判断しているが、字義的解釈の場合は話し手の思考には j p f がある とは判断しきれていない(正確には、 トリガ一発話に引きずられて話し手 は j , p }という想定を抱いているのかもしれないと判断してしまった) 3 c ) のアイロニーの場合にも当ては ということである。そして、これは ( 3 ) の例に関して、話し手 まる。この点を詳しく見るために、もう一度 (. の思考が聞き手には判断できていないという文脈に変更して観察してみる. O. ( 3')の網掛けの部分は、話し手の思考が聞き手には把握できていないこ. とを表している。. ( 3 ' ) a. b.. ¥ 発 話 jp:きれいにしているね) ¥発話 j , p :汚い部屋i. c.. ¥発話 j p:きれいにしているね). d .. ¥発話 j , p :汚い部屋│. ( 3' a d ) のどの場合においても明らかであるが、話し手の抱く部屋に関す. る想定が不明な場合、聞き手にとって可能な解釈はトリガ一発話の字義的 意味だけになる。この観察から分かるように、アイロニー(および、 ジョーク)の解釈には思考と発話のズレ、すなわち、話し手のメンタルステ イトに見られるズレが明確に認識できではじめて可能となることがわかる。 さて、ここまでならばそれほど複雑ではないが、アイロニーの振る舞い はそれほど単純ではない。それは次のような非意図的なアイロニーの例を. -88-. (3 5).

(6) アイロニーの記述的研究(2) 春木. 見てもらうとよく理解できる。. ( 4 )[Ap r o f e s s o ro fm a t h e m a t i c st r i e st oshowt h a th i st h e o r γ I Ss u p e r i o rt ot h a to fag e n i u syoungm a n ' s .Butt h eyoungm a n ' sdemon-. . s t r a t i o ni sf a rb e t t e rt h a nt h ep r o f e s s o r ' sJ Ana s s i s t a n to ft h ep r o f e s s o r :( T ot h ep r o f e s s o r )Sometimesp e o 困. p l eg e tl u c k y .Y o u ' r eab r i l l i a n tman. i l lH u n t i n g ) (Fromt h emovieGoodW. ごの状況において、助手が教授にアイロニーを言うはずがない。そのよう なことを言って自分の立場を悪くするする必要はないし、二人の人間関係 も良好で、ある(という設定である)のでアイロニーを使って攻撃をする必 要もない。確かに、天才青年の理論は教授のそれよりも優れていたが、そ れはたまたまであって教授は才能があるのだと慰めているというのが助手 の本来の意図である。しかしながら、この教授にとっても第 3者である観 客にとってもこの助手の発話はアイロニーとして解釈されるのである。こ れはどういうことであろうか。どういう要因からアイロニカルな解釈が導 き出されたかを観察してみよう。アイロニーはズレの認識が必要となって いるのは先に見たが、助手の思考と発話にズレがないことは教授自身にも 観客にもよく理解できているので、話し手である助手のメンタルステイト ではズレがないことは明らかである。すると残るは聞き手である教授(も しくは解釈者としての観客)のメンタルステイトの問題として考えるのが 自然なことである。もう少し詳しく述べると、聞き手である教授の思考の 中では天才青年にやりこめられたという現実から派生する{自分はあの青 年よりも能力的に劣っている iという想定があり、そこに助手によるトリ ガ一発話によって{あなた(=教授)は能力がある│という想定が入って きてズレが出現することになる。ここに、アイロニーとしての解釈が導き (3 6). -87-.

(7) 文学・芸術・文化. 1 7 巻 I号 2 0 0 5 .7. 出されると考えられる。 この観察は重要なことを示唆している。それは、アイロニーの解釈には 話し手側の認識のズレだけではなく、聞き手側の認識のズレも関係してい るという点である。そうであるならば、アイロニーの分析には話し手だけ でなく聞き手のメンタルステイトも考慮、に入れた観察も必要となってくる O そこで、 ( 2 3')で行ってきた観察に、話し手と聞き手のメンタルステイ トを考慮した場合を加えて詳しい観察を行ってみることにする。 まず、議論を複雑にしないために、聞き手にとって話し手の思考は明確 に理解されているという条件を付けることにする。 I そして、 ( 2 ) と同様 の文脈で話し手(親)と聞き手(子供)のメンタルステイトを考慮に入れ た場合の組み合わせを ( 5 ) で考えてみる。. ( 2 ) a. 文脈 1 親が子供の部屋に入る。その部屋はよく整理整頓され. ているか、もしくは、散らかり放題である。. b . 文脈 2 (親が抱く子供の部屋に関する想定):j p :きれいな部 屋│か、もしくは、 j-.p :汚い部屋)かのどちらかである。 p :きれいにしている c.親が子供に対して発するトリガ一発話: j. ね│か、もしくは j-.p:汚い部屋│のどちらかである。. ( 5 ) の図はある発話が伝達された際に抱く聞き手の解釈過程の中での状況. を表している。図では、話し手が抱いていると聞き手が解釈する想定(以 後、話し手想定と呼ぶ)、 トリガ一発話が表示する想定(以後、 トリガー 想定と呼ぶ。トリガー想定もあくまでも聞き手の解釈過内での想定である ことに注意されたい。)、および、聞き手がすでに抱いていた想定(以後、 聞き手想定)を表している。. s(=話し手)で示されている円の下部にあ. る想定が話し手想定、上部がトリガー想定を表し、. H (=聞き手)で示さ. れている円の下部にある想定が聞き手想定を表している。この図は現実世. -86-. (3 7).

(8) アイロニーの記述的研究(2) 春木. 界においてトリガー想定が話し手から聞き手に伝達されているように見え るが、そうではなく、あくまでも聞き手の解釈過程の中での認知状態と捉 えていただきたい。. ( 5 ) a.. e.. ED. c.. g.. E n. d.. これらの組み合わせを順に見ていくことにしよう。 これらの中でも解釈が比較的明確なものがあるので、それらから見てい. 5 a ) および ( 5 h ) では、話し手の意図した意味はトリガ一 こう。まず、 ( 5 a ) ば部屋がきれいだと思ってそ 発話の字義的意味であると解釈される。 ( の思考をそのまま発話している場合であり、 (5h) は部屋が汚いと思いそ 5 c ) も可能な解釈は 3通りあるが明 う発話している場合である。次に、 (. 確である。つまり、話し手と聞き手とも部屋はきれいだと思、っているとこ ろに{汚い部屋│という発話は、ジョーク、負け惜しみ、意図不明という. 3通りの解釈になる。また、 ( 5 f ) も解釈は明確で、これが典型的なアイ (38). -85-.

(9) 文学・芸術・文化. 1 7巻 1号 2 0 0 5 .7. ロニーの解釈となる。さらに、 ( 5 g ) も解釈が明らかである。つまり、話 し手は{部屋が汚い)と思ってそう発話しているが、聞き手にとっては {部屋はきれい│であるので、話し手の意図はトリガ一発話の字義的意味 であり、さらに、合意的な意図としては聞き手への注意や整理整頓への要 請にもなる. O. 聞き手に対する批判的な解釈であるが、直接的に表している. ためにアイロニーとしての解釈が出てくるわけではない。 次に、解釈を決定するのに比較的複雑な残り 3つの組み合わせを見てみ る. O. まず、 ( 5 b ) の場合、話し手が考え通りのことを発話していることは. 明らかであるので、字義通りの意図があると解釈できる。しかしながら、 もう少し詳しく考えていくと、解釈が 2つに分かれることになる。一つ目. f と思っていたけれども、{他人から は、聞き手は自分では{部屋は汚 p 見ればきれいな部屋なのだろう│や 1 (もっと積極的に解釈した場合は)私 は話し手に褒められた}という聞き手想定である自分の考えを修正する方 向ヘ促す解釈である。 2つ目は、(話し手はきれいだと思ってそう言って いるのであろうが、私としてはそうは思えない。少し嫌みを言われている ようにも感じる iという話し手の意見を受け容れずに聞き手自身が元々 持っていた考えを優先するような解釈である。これらの解釈の遠いは(聞 き手がトリガー想定と比較して)聞き手想定をどれだけ強く信じているか ということが関係していると言い換えることが出来る。つまり、前者の解 釈の場合、元々聞き手想定. 1 ,p 1を抱いていてもトリガー想定 1 p lを. 信じることによって聞き手想定がある程度修正されるのであるから、聞き 手想定に対する信じる度合いはそれほど高くない(少なくともトリガー想 定よりは高くな p )。一方、後者の解釈では話し手から│きれいだ│と言 われでも部屋の状況が汚いとしか思えない場合であり、すなわち、抱いて. 1 ,p fがトリガー想定 1 p f と比べても強いということ p l を抱い が言える。後者の解釈で興味深いのは、話し手が話し手想定 1 いた聞き手想定. てそれを発話しているのも明らかなのであるから、話し手にアイロニーの. -84-. (39).

(10) アイロニーの記述的研究(2) 春木. 意図があるとは解釈できないにもかかわらず何かしらアイロニカルな解釈 も行ってしまうことである。 ( 4 ) で取り上げた、教授と助手とのやりとり の非意図的なアイロニーもこのケースである。 5 b ) の例において注目すべき点は、可能な二つの解釈の内どち この (. らが選ばれるかに関して聞き手側の解釈過程におけるトリガー想定と聞き 手想定との相対的な強さの関係である。一般的に言うならば、ある意昧で 新情報であるトリガー想定と既知情報である聞き手想定との間で、どちら の情報の方が聞き手にとって確かであるのかという判断によって、解釈の 仕方が異なってくる。この点はアイロニーの重要な要素を表している。そ れは、アイロニーの解釈には解釈過程における想定が持つ確からしさと聞 き手の信念体系の変化が関与しており、そして、結果的により否定的な想 定が信念体系の中で、残ってしまう場合にアイロニカルな解釈が導かれると 5 b ) でさらに詳しく観察してみよう。聞き手 いう点である。この点を (. の解釈過程において、話し手は考えを字義的に発話していると判断してい るので、 トリガー想定 j p:部屋がきれ p l の確からしさは聞き手にとっ ても比較的大きい。しかしながらその一方で、、元々信念体系にあった. j -, p :部屋が汚 p l は自分の判断であるために確からしさは当然かなり強 いものである。すなわち、相反する二つの想定が解釈の場で同時に存在す ることになるが、通常このような状態は認知的には不自然なことである。 したがって、何らかの修正を加えられることになるが、この場合、他人で. p l の確からしさよりも聞き手としては自分自身 ある話し手が判断する j が抱いていた想定{一, p l の確からしさの方が依ってたつ根拠や経験が多. p l は信念体系に い分残ることになるであろう。すると、 トリガー想定 j -, P l が残ることになる=このように考えると、アイ は取り込まれず、 j. ロニー解釈には信念体系の更新や修正に関連する想定レベルの要因と、結 果的に否定的な想定が残り解釈の出力のようになってしまう点が重要であ ると考えられる。つまり、一連の解釈過程を経るとアイロニーの伝統的な. (40). -83~.

(11) 文学・芸術・文化. 1 7 巻 1号 2 0 0 5 .7. 定義が示すように「ある表現で反対の(別の)意昧を表す」ということが 起こるのである。ただし、この例が非意図的アイロニーであるのは、「話 し手はトリガ一発話でその字義的意味である話し手想定を表している」こ とが明らかであるために、話し手の意図性は否定されてしまうことは加え て述べておかなくてはならない。 2 次に ( 5 d ) の例を観察してみる。現実世界ではほとんどないような状況 であるので解釈も難しいが、おそらく、この場合は、話し手の意図として はジョークもしくは負け惜しみであるが、 トリガー想定と聞き手想定が同 じであるために、字義通りの意味とも解釈されるであろう。もうすこし正 確に言うと、(否定的想定ではあるが)聞き手本人の考えも認められたよ うな解釈も受けるという意味で字義通りの意味とも解釈できると言うこと である。ジョークと負け惜しみについては話し手想定とトリガー想定との ズレから起こると考えられるが、他の要素も関係してくるであろうから本 論ではこれ以上立ち入らないことにする。 3 最後に ( 5 e ) について観察してみる。この例は非常に示唆に富むもので、 解釈も 2通り考えられる。一つ目の解釈は、非常に攻撃性の強いアイロ ニーとして解釈される場合であり、二つ目は、「話し手はアイロニーを 言っているようだけれども、事実に関する認識は間違っているから(話し 手は部屋が汚いと思っているだろうけれど十分きれいであるから)、どう ということはな p J という攻撃による影響が少ない場合である。つまり、 アイロニーの攻撃性の程度という点に関して、逆の解釈になっている。こ のように、場合によって異なる程度を表す攻撃性が出てくる部分が非常に 興味深い。詳しくは別の文脈をもうけて観察を詳しく行った 2 . 2節で見る ことにするが、ごく簡単にまとめておくと、ここにも聞き手想定に対する 確からしさの程度が大きく関係してくる。聞き手想定. l P ! に対する確か. らしさが非常に高い場合、相対的に相手の認識(話し手想定)が間違って いるとする判断され、その結果話し手想定とトリガー想定の聞のズレが見. -82-. (4 1).

(12) アイロニーの記述的研究. 2) 春木. l. えなくなってしまい攻撃性が弱まることになり、二つ目の解釈を導く。一 方、聞き手想定に対する確からしさが非常に低い場合、結果として聞き手 想定は誤りであるとして捨て去り話し手想定を受け入れてしまう。つまり 話し手側の話し手想定とトリガー想定のズレによるアイロニーの解釈と現 実(部屋の状況)を肯定的に捉えていたことが誤りであったという認知の 変化との二つによって増幅されると考えられる。 以上、それぞれの場合を観察してきたが、これらの観察をまとめてみた い。特に、アイロニーであると解釈されるかどうかという点と攻撃性の程 度の 2点を述べておきたい。まず、 トリガ一発話がアイロニーとして解釈 されるかどうかという点だけ考えてみると、アイロニーとして解釈される のは ( 5 b )、 ( 5 e )、 ( 5 f ) の 3つの場合に限られるので、この 3例について 詳しく見てみる。解釈としてアイロニーであることが明確かどうかという 点を考えると、以下のような順になるであろう。. ( 6 ) アイロニー解釈の明確な順(アイロニー性の順). >. ( 5 f ). ( 5 e ). >. ( 5 b ). まずは典型的なアイロニーの例である ( 5 f ) は非常に容易にアイロニーで あると解釈できる。つぎは (5e). となる~. ( 5 e ) の解釈は 2通りあるもの. の攻撃性の弱い場合ですら話し手の意図がアイロニーであると解釈できる ためである. O. ただし ( 5 e ) が攻撃性の強い解釈の場合は、 ( 5 f ) よりも解. 釈が容易である場合もあることも考えられることは付け加えておく。最後 に 、 ( 5 b ) は非意図的なアイロニーであるので、同じ状況を複数人が観察 している場合、アイロニーとして解釈しない人もあることから、アイロ ニーの解釈の明確さは一番低いと考えられるごこの順番についてはアイロ ニカルな解釈が導けたとしても話し手の意図がアイロニーであるのかとい う要素と聞き手にはアイロニカルに聞こえるという要素が複合的に関連し 4EA. QO. (4 2).

(13) 文学・芸術・文化. 1 7巻 1号. 2 0 0 5 .7. ている 04 次に攻撃性に関しては以下の様な順になると考えられる。. ( 7 ) アイロニーの攻撃性の高い順 a. ( 5 f ). >. b. ( 5 e ). > (5f) > (5b). ( 5 e ). >. ( 5 b ). ここで、攻撃性の順位に 2通りのパターンが現れるのは。それは先にも述 べたとおり、 ( 5 e ) の振る舞いによって変化してくると考えられるからで ある。まず、 ( 7 a ) の場合、つまり ( 5 e ) の攻撃性が弱 p 場合を考えてみ る 。 ( 5 f ) では話し手も聞き手も{一, p 部屋が汚 p l と思っていることが. l が伝えられた時に 明らかであるので、 トリガー想定 jp :部屋がきれ p 典型的なアイロニー解釈が行なわれ攻撃性に関しでもある一定のものにな 5 e ) の攻撃性が ( 5 f ) のそれと比較して低いと解釈できる原 る 。 5 次に、 (. 因は次のような点が考えられる。すなわち、 ( 5 e ) では話し手想定とトリ ガー想定にズレがあることを認識しておりアイロニーとしての解釈とその 攻撃性を認識はしているが、聞き手想定は相対的に話し手想定よりも確か である(話し手の考えていることが間違っている)と解釈することによっ て、話し手想定が無意味なものであると判断し、その結果、話し手想定と トリガー想定のズレに対する認識が薄くなってしまう。このズレの認識の 弱化が攻撃性の減少にもつながっていると考えられる. O. したがって、 ( 5 e ). と ( 5 f ) を比較した場合、攻撃性の程度は ( 5 f ) のほうが大きいと考える ことが出来る。 ( 5 b ) に関しては話し手側にアイロニーとしての意図がない. ) と解釈 のであるから攻撃性の程度に関して低い(もしくはまったくな p 7 b ) の順位の場合であるが、 ( 5 e )と されるのが自然である O 次に、 ( ( 5 f ) との逆転が起こる部分だけを考えてみる。それは聞き手想定 j p l が解釈過程のある時点において. j~pl. -80ー. に変化してしまうことが原因であ. (4 3).

(14) アイロニーの記述的研究(2) 春木. る。この変化をもたらす要因は、聞き手想定に比べて話し手想定の方が確 からしいという解釈による(少なくとも部屋のきれいさに関する認識につ いての)話し手に対する信頼度の増加とその信頼度による話し手想定とト リガー想定のズレの際立ちの増加であり、結果としてアイロニー性および 攻撃性が増加すると考えられる。さらにこの変化によってもたらされるの は、結果的に聞き手想定が誤りであることから部屋に対する認識は. j-.p:部屋は汚 pl とp う否定的なものになり、他人からの批判も受け入 れやすくなることが攻撃性の相対的な増加につながっていると考えられる。 以上、アイロニー性と攻撃性に関して詳しく述べてきたが、アイロニー の特性を記述するという観点から考えると、この節で述べてきた観察から 次のようなことがまとめられる。まず、アイロニー性の判断に関しては話 し手側の話し手想定とトリガー想定のズレの認識が必要である。聞き手側 でのトリガー想定と聞き手想定のズレもアイロニカルな解釈を導く要因に はなっているが、これは発話がアイロニーとして解釈される場合の必要条 件でも十分条件で、もない。しかしながら、話し手側でのズレがある場合は、 5 b )、 ( 5 e )、 ( 5 f ) 聞き手側のズレがアイロニーの強度を強めることは、 (. の議論から明らかであろう。次に、アイロニーの詳細な振る舞い(特に攻 撃性)を考える際にかなりの程度で影響を与えているのは、話し手想定と トリガー想定のズレの認識だけでなく話し手想定と聞き手想定に関する確 からしさ(以降、確信度と呼ぶ)や相対的な確信度の遠いである。以上の ことを考えると、これらの観察が示唆している重要な点は、想定レベルで の解釈過程であるという点と、想定に対する確信度がアイロニーの解釈過 程には必要不可欠で、あるという点である。アイロニーを説明する枠組みに は少なくとも以上の 2点が取り入れられていなくてはならないということ が言える。. (44). -79-.

(15) 1 7巻 1号. 文学・芸術・文化. 2 0 0 5 .7. 2 . 2 . アイロニー性(および攻撃性)の増減 この節では、アイロニー性の程度差について焦点を当てて詳しく観察を 行なっていきたい。その際、話し手想定への確信度の差によるアイロニー 性の増減について詳しく述べて p く06 次のような文脈を考えてみる。ある学期テスト(平均点 8 4点)の結果が 返ってきた状況で AとBが点数を見せ合っている。 AとBはクラスメート である。仲は悪くないが親友というほどではない。会えば気軽に話や冗談 が言い合えるくらいの間柄である。このような文脈において Aが Bのテス トを見て「出来るなあ! Jと発話したと考えてみる。さらに、ここでは話 し手想定が聞き手にとって明らかでないという、より自然な状況を仮定し てみる。そして、このような状況において、それぞれの点数を操作してど のような解釈の結果が出るのかを観察する。もちろんアイロニーを生み出 すような発話に焦点を当てるが、点数の操作による話し手想定の確信度の 違いに注目したい。. ( 8 ) a. A=100点一平均8 4 点 -B=69 点. ・ ー. アイロニー. b . A=100点一平均8 4 点 -B=84 点. 一+. アイロニー. c. A= 100点一平均8 4 点 -B=96 点. 一+. アイロニカル. d . A=100点一平均8 4 点 -B= 100点. →. 字義的解釈(?). a. A=96 点一平均8 4 点 -B=69 点. 一一惨. アイロニー. b . A=96 点一平均8 4 点 -B=84 点. 一+. アイロニー. c. A=96 点一平均8 4 点 -B=96 点. →. 字義的解釈(?). d . A=96 点一平均8 4 点 -B= 100 点. →. 字義的解釈. ( 10 )a. A=84 点一平均8 4 点一 B=69 点. →. アイロニー. b . A=84 点一平均8 4 点 -B=84 点. →. ジョーク. ( 9 ). 。 口 ヴ t. (45).

(16) アイロニーの記述的研究(2) 春木. c . A=84 点一平均8 4 点一 8=96 点. → 字義的解釈. d . A=84点一平均84 点 -8=100 点. →. 字義的解釈. ーー+. アイロニカルかっ. ( 1 1 )a . A=79点一平均84 点一 8=69 点. ジョーク. b . A=79点一平均8 4 点 -8=84 点. →字義、またはアイロ ニカルかつジョーク. c . A=79点一平均84 点 -8=96 点. →. 字義的解釈. d . A=79点一平均84 点 -8=100 点. →. 字義的解釈. ( 1 2 )a . A=69 点一平均8 4 点 -8=69 点. →. ジョーク. b . A=69 点一平均8 4点 -8=84 点. →. 字義的解釈(または、 非意図的アイロニー). c . A=69点一平均84 点 -8=96 点. →. 字義的解釈. d . A=69点一平均8 4点一 8=100 点. →. 字義的解釈. →. 字義的解釈(または、. ( 1 3 )a . A=52点一平均84点 -8=69点. 非意図的アイロニー). b . A=52点一平均84 点 -8=84 点. →. 字義的解釈. c . A=52点一平均84 点 -8=96 点. →. 字義的解釈. d . A=52点一平均84 点 -8=100 点. →. 字義的解釈. 以上の振る舞いから観察できるのは次のような点である。 まず、アイロニーであると解釈できるかどうかに関しては、 Aの点数が. Bの点数よりも高い場合である(( 8 a )、 ( 9 a )、 ( 1 0 a )、(l1a ))。ここで注 意すべきは少なくとも 2点ある。第一に、アイロニーとして解釈できるか どうかは現実の点数が高いか低 p かということが重要なのではなく、 A と. (46). -77-.

(17) 文学・芸術・文化. 1 7巻 1号. 2 0 0 5 .7. Bの点数の比較により、 Aが発したトリガー想定 jp:Bは実力がある│ の確信度が低くなることが影響を与えているという点である。第二に、. ト. リガー想定の確信度の低さにより、話し手想定の確信度との比較において、 トリガー想定が話し手の意図ではないと解釈し話し手想定が解釈の第一候 補として残るという点である。 ( 8 a )、 ( 9 a )、 ( 1 0 a )、 ( 1 1 a ) の 4つの例で は 、 Aの方が Bよりも点数がよいことは双方に明らかなので、 トリガー想 定の確信度は明らかに低く、 トリガー想定は Aが本当に伝えたいことでは ないということが解釈できる。さらに、 Bの方が A よりも点数が悪いとい う状況から話し手想定 j , p :Bは実力があるとは思えな p ! は容易に推 測されるため、聞き手にとってトリガー想定と話し手想定のズレの認識が でき、最終的に確信度の差により話し手想定が話し手の意図として解釈さ れる。このように、 トリガー想定と話し手想定のズレの認識だけでなく、 確信度によるトリガー想定の否認と話し手想定の顕在化がアイロニー解釈 の特徴である。 7 以上はアイロニーと解釈できるかどうかであったが、次に本節での中心 であるアイロニー性の程度差について観察したい。特に ( 8 c )と ( 1 1 a ) の例の振る舞いを観察することにする。まず、 ( 8 c ) については、 Bの点 8 a,b ) のアイロニーとしての解釈から、 ( 8 c ) のアイロ 数の遠いにより、 (. ニカルな解釈へとアイロニー性が減少している。ここでも現実の点数の変 化というよりも、現実の点数の変化によるトリガー想定の確信度の遠いと して捉える方がこの振る舞いがよく理解できる。 ( 8 a,b ) のように、 B の 点数が Aの点数及び平均点より進かに下回る場合や平均点である場合には、 Aが100点を取ったという事実から推測するとトリガー想定. l p: Bは実力. がある)に対する Bが抱く確信度は低い。したがって、 トリガー想定が話 し手の本当の意図ではなく、他に本当の意図があると推論できる。当然、 100点を取った A にとって、平均点やそれを下回る点数を取った者に対し. ては j ,p : Bは実力があるとは思えな p l という話し手想定を持つのが. -76-. (4 7).

(18) アイロニーの記述的研究(2) 春木. 容易に推測できるために、それが話し手の本当に思っていることであろう と解釈できる。 8 c ) のように Bの点数が上がることにより解釈に変化 これに対して、 (. が出てくる。 Aの点数には達しないものの、平均点を大きく超え満点に近 p 点数であるので、 Aが発話したトリガー想定に対する聞き手の確信度は. p: Bは実力が 高くなって Lぺ。つまり、一般的に見ても Bの点数から l 0 0 点を取った Aから ある│というような想定を人々は抱くであろうし、 1. P ! であると思っていると判断しでもおかしくないと推論できる みても 1 からである。このようにトリガー想定 とで、. l P ! に対する確信度が高くなるこ. トリガー想定と話し手想定のズレが認識しがたくなりアイロニー性. が減少するということが考えられる。しかしながら、それと同時に、 Aの 点数はあくまでも満点であるので、 Aからすると Bの実力は. l -, P I と見. なせないこともないとも推論できる。この推論によってトリガー想定の確 信度が低くなり話し手想定とのズレを認識することは可能であり、アイロ ニーとしての解釈をすることも可能である。以上のように想定に対する確 信度がアイロニー性に影響を与えていることは分かる. O. さらに、この例で. 特に興味深い点は、現実の点数そのものの尺度だけがアイロニー解釈に影 響を与えているのではないということである。現実の点数が基準となって いれば、この例では A が満点であっても B も満点近いので、 A が l p:B は実力がある!と思い発話しでもそれがそのように解釈できるはずである。 しかしながら、どこかアイロニカルな解釈が出てくるのは、現実的に Bが 良い点数を取ったということではなく、その Bの点数を Aがどのように評 価しているのかという点、つまり、 Bの点数をよく評価した Aの発話(ト リガー想定)に対する確信度が影響を与えているのである。このように考 8 c ) の解釈を導き出しているのは、現実の点数という尺度と同 えると、 (. 時にある想定に対する確信度の尺度というこつの尺度が複合的に影響を与 え合っている。. (4 8). -75-.

(19) 文学・芸術・文化. 1 7巻 1号. 2 0 0 5 .7. 次に、(l1a ) の例を考えたい。この例では Aの点数は Bの点数よりは高 いものの平均点を下回っている。この場合、 Aの実力は Bよりも上である という現実と、一方で、、 A も B も一般的なレベルからする低いという現実 がある。これらの現実的状況から、 Aのトリガー想定を解釈すると次のよ うに考えられる。 Aよりも Bの方が点数が低いという現実から Aは話し手. l -, p : Bは実力がな L討を持っていると推論できる。この状況でト p f が発話されるので、これらの想定の聞にズレが認識され、 リガー想定 l. 想定. アイロニーと解釈できる。しかしながら、 A も B も一般的なレベルから見 ると低いという現実から推測すると A と Bの点数の差はあるようでないも のとみなしでもよいように解釈できる。この大まかな解釈により、話し手 想定の確信度が低くなりアイロニー性が減少すると考えられる。ただし、 この場合、 トリガ一発話の確信度も低くなる。おそらくこの点がジョーク の解釈を引き起こす要因となっているのであろうが、ジョークに関しては ここではこれ以上触れないことにする. O. 最後に、現実の点数ではなく確信度がアイロニー性に影響を与えている 1 3 a ) の例で再確認したい。 ( 1 3 a ) は A も B も平均点より下回っ ことを (. ており、 Aの方が Bよりも点数が低い場合である。この場合、字義的解釈 か、または、話し手にはその意図はないが聞き手にはアイロニーに解釈で きる非意図的アイロニーかのどちらかである。非意図的であるがここには アイロニー性が増える要因がある。いくら A よりも点数が良いとは言え、 平均点を下回るのでトリガー想定. l p f に対する確信度は聞き手 Bにとっ. ては低くなる。もちろん A は自分より点数が低いのだから、本心からそう 発話していると解釈できたとしても、平均点を下回るという現実から判断 する確信度の方が聞き手にとっては根拠がはっきりした判断となる。この 意味で、 トリガー想定は聞き手にとっては確信度が低く、現実からさらに 明確に推論できる想定 l -, p1に対する確信度は高いため、. トリガー想定. は却下されてしまう。そして、この聞き手側のズレの認識とトリガー想定. -74-. (4 9).

(20) アイロニーの記述的研究(2) 春木. の却下はアイロニーとしての条件であり、これがアイロニー性を高めるこ ととなる。この例でも、現実の点数からだけ考えるならば、解釈の可能性 はトリガ一発話を字義通りに解釈することだけである。しかしながら、聞 き手は平均点という別の基準を用いることによりトリガ一発話の確信度を 歪曲的に下げてしまい、結果としてアイロニー性を高める解釈になったの である。そして、この点がアイロニー性に確信度が関係していることに対 する一つの証左となる。 さて、以上のように、確信度の変化によるアイロニー性の変化を観察し てきたが、この節の観察をまとめると以下のようになる O 一般化すること が可能かどうかは今後の研究を待たなければならないが、少なくともここ で取り上げた例からの観察では、. トリガー想定の場合でも話し手想定の場. 合でも、想定の確信度が下がるとアイロニー性が下がるということは明ら かである。そして、前節でも取り上げたような話し手想定とトリガー想定 のズレがアイロニーの解釈に重要な役割を果たしていることや、想定の確 信度がアイロニー性に影響を与えること、さらには、アイロニーとして解 釈を受ける場合には、. トリガー想定は話し手が本当に伝えたいことではな. いとして解釈が行われることが観察できる。さらに興味深い点は、二つの 尺度. ある事柄に対する客観的な評価の尺度とその評価に関する想定の確. 信度という尺度ーがアイロニー解釈を含めた解釈全体に影響を与えている という点である。. 2 . 3 . 想定に対する含意の深さによる確信度とアイロニー性 これまでの節では想定に対する確信度がアイロニー性に影響を与えてい ることが明らかになってきたが、想定に対する確信度は発話の合意による 解釈の間接性からも導き出される為、間接的発話からもアイロニー性が影 響を受けることが予測できる。つまり、直接的な発話によるアイロニーは アイロニーとして解釈されやすいが、間接的な発話によるアイロニーはア. 門. i. qd. (5 0).

(21) 文学・芸術・文化. 1 7 巻 1号. ∞. 2 5 .7. イロニーとして解釈することが困難になってくると考えられる。この節で は、この点について観察していくことにする。方法としては、文脈も話し 手が持つアイロニーの意図も同じであるが、話し手が選択する発話の間接 性(合意性)の変化によって、聞き手の解釈が影響を受けることを示して pく。なお、この節では「合意想定」という語を用いるが含意想定とはト リガー想定を手がかりに推論された含意的想定のことを指す。. ( 14 )[背の低い人に対して] a.背が高いなあ。 a ' . 見晴らしが良くて羨ましいよ。. b. 空気が薄くて大変だね。 b '.高山病に気をつけてゆっくり歩いた方がいいよ。 C.. 気温が低くて大変だね。. c ' . 風邪なんかひくなよ。. d.気圧が低いと不便だね。 d '.ご飯が炊けないと大変だろ。. ( 14 ) の例では、背が低い人に対して背が高いことを意味する字義的発話 ( ( 14 a ))、および、合意発話 ( ( 1 4 a ' d ' ))によりアイロニーを伝達する場 合である。つまり、話し手想定として j-.p:背が低 L討を抱いているが、. ( 1 4 a d ' ) のそれぞれがトリガー想定として発話される。また、 ( 1 4 a,b,c , d ) のそれぞれに対して、 ( 1 4 a ',b ',c ',d ' ) はより間接的(合意的)に発話 されている例である. O. この例の観察から分かる点は次のような 3点である。第一に、 トリガー 想定の合意を解釈できなければ、その発話がアイロニーであるとは解釈で きない。第二に、. トリガー想定の合意が解釈できると、直接的発話による. アイロニーよりもアイロニー性が強まる場合がある(という直感がある)。. -72-. (5 1).

(22) アイロニーの記述的研究(2) 春木. 第三に、 トリガー想定の合意の解釈が出来てもその解釈に確信を持てない 場合、合意の深さが深くなるにしたがって、アイロニー性も減少する。以 、 を1 / 贋に見ていきたい。 下では、この 3点 まず、 トリガー想定の合意が解釈できない場合当該発話がアイロニーで あるとは解釈できない場合を考える c このことは非常に容易に理解できる。 ) の例において、(14 a ) と(14 d ' ) を比較してみよう。背の 例えば、(14. 低い人に対して、│背が高 p f ということは話し手想定とトリガー想定の ズレを簡単に認識させることが出来る。しかしながら、背の低い人に向 かつて│ご飯が炊けないと困るであろう!と発話することは、そうそう簡 1 4 d ' ) をアイロニーと解釈する 単にはアイロニーであると解釈出来ない。 (. ためには、. i 背が高いということは高度が上がる│、 i 高度が上がると気圧. が低くなる)、{気圧が低くなると沸点も下がる│、│沸点が下がると煮炊き が地上のようにはうまくいかない(のでご飯もうまく炊けない)f という、 少なくとも 4つの想定を推論過程に導入して解釈を行わないといけない。 この合意がうまく解釈できない場合、 トリガー想定に関する解釈は│ご飯 が炊けなくて因るであろう(と話し手は思っている)f というものになり、 話し手の想定とのズレは全く認識できないどころか、場合によって意図不 明の発話になる。このように合意発話によるアイロニーはその含意が解釈 できない場合には、アイロニーとして解釈できなくなる。この点において、 合意はアイロニー性に影響を与えている。 その一方で¥第二の点のように、合意が解釈できるとアイロニー性が高 1 4 a )と ( 1 4 a ' ) を比較してみよう。背の低い人に向 くなる場合がある。 (. f と発する場合と│見晴らしが良くて羨ましい(と話 かつて、{背が高 p し手は思っている)1 と発話する場合を比べると、後者の方がアイロニー 性や攻撃性が強いと解釈できる場合がある。例えば、非常に混雑していて a ' ) の方がア アーテイストの姿がよく見えないライブ会場でならば、(14. イロニー性は大きいと言える。ただし、注意すべきは合意が解釈できると 司 t. 唱 -. (52).

(23) 文学・芸術・文化. 1 7巻 1号. ∞. 2 5 .7. 必ずアイロニー性が高くなるということではない点である。 ( 1 4 a )と. ( 1 4 a ' ) の比較においても文脈が変わればより直接的な(14 a ) の方がアイ ロニー性が相対的に高いと解釈できる場合がある。例えば、大学生の話し 手と聞き手が聞き手の小学校時代のクラス写真を見ており、聞き手はクラ スの中で一番背が低いということが明らかである場合、│見晴らしが良く. l と発話するよりも│背が高 p l と発話する方が明らかにアイ て羨まし p 1 4 a ' ) のような間接的な言い方ではズレの認識がしにく ロニー性が高い。 ( いということが要因であると考えられる。この点は後で詳しく説明する。 さて、この第二の点については、興味深いことが観察できる。それは、 アイロニーというのは何らかの尺度的な解釈が入るが、一見同じ尺度が用 いられていると考えられるアイロニーも尺度以外のどの要素に焦点が当て られているかがアイロニー性の解釈に影響を与えているという点である。. ( 1 4 ) の例で考えると、<背の高さ>という尺度でズレの認識が行われる が、ライブ会場ではくよく見えるかどうか>、写真ではく背の高さそのも の>というように、焦点の当たる要素が異なっている。特にライブ会場で の場合は、<身長>に影響されるく視認性>に焦点、が当たっている。ここ ではこれ以上触れないが、少なくともアイロニーが単なる同一尺度上にお けるズレの認識というにはとどまらない場合があることは明らかである。 第三の点は、合意の深さが深くなればとアイロニー性が減少するという. 1 4 a,b,c ,d ) では、<背の高さ>をく高度>として捉え高 関係である。 ( 度が上がることによる影響のいくつかを用いて、{背が高い!という想定 を含意している。ただし、後になるにつれて、高度との関係が一般的なも のではなくなる。 8 つまり、合意を導き出すために必要となる背景知識の 探索が深くなる。これにより合意の深さも深くなって p く。そしてそれぞ れの発話がアイロニーであるかどうかを観察していくと、後の例になるに したがって、アイロニーとして解釈しにくくなる。議論を容易にするため. 1 4 ) における話し手と聞き手の人間関係を「会えば気軽に話すクラ に 、 ( -70-. (5 3).

(24) ア イ ロ ニ ー の 記 述 的 研 究 (2) 春木. スメートだが、特にいつも一緒に行動しているほどではない間柄。二人の 間では特にこれまでアイロニカルな会話が行われたことはない。聞き手は 身長が一般的な平均よりも低い。そして、問題となる発話は初めて話し手. a ) は直接的なアイ が聞き手に対して行う」と仮定してみる。まず、(14 ロニーであるので上記のような文脈であっても聞き手の身長が低いという 事実によってのみ話し手想定とトリガー想定のズレは認識できる。次に、. b ) ではく気温>についてはく高度>との関係について推論しないと ( 14 いけないので合意は深くなる。常にアイロニーを言い合っている関係なら. 1 4 b ) の発話がどういう合意 いざしらず、ここで仮定した人間関係では ( を表しているのか解釈することは難しくなる。さらに、(14 c ) ではく高 度>と<酸素濃度(と高山病)>との関係を探索するのが一段と難しくな る。最後(14d) のく気圧>との関係になると最も困難になる。仮に聞き 手が (14d) を聞いて{そういえば高度が上がると気圧が低くなるんだっ たなあ。気圧が低いと言っているということは高度が高いと言っているの か。高度が高いとは身長が高いということだろうか│と推論をして、最終. f と解釈でき、現実から推論できる話し手 的に含意想定として{背が高 p f とのズレが認識できてもアイロニー性が低い。 想定│聞き手は背が低 p この現象は第一のポイントで述べたトリガー想定の合意が解釈出来なけれ ばアイロニーとして解釈できないという現象と一見関係しそうである。し かしながら、 トリガー想定の合意が解釈できているという点は決定的に異 なるものであるので、他に何か要因があるはずである。 では、なぜ合意の深さがアイロニー性の現象に関係しているのであろう か。これに関する結論はさらに詳細な記述的研究が必要になってくるであ ろうが、 ( 1 4 a ',b ',c ',d ' ) の例の観察が手がかりを与えてくれる。 ( 1 4 a ) と ( 1 4 a ' ) は{身長が高 p f ことと 1(目線が上がり)見晴しがよくなる│ こととの語用論的関係であり、(14 b ) と (1 4 b ' )は 1 (背が高いために高 度が上がると強調し)気温が低下する iことと│風邪をひく│こととの含. (54). -69-.

(25) 文学・芸術・文化. ∞. 1 7 巻 1号 2 5 .7. 意的関係であり、 ( 1 4 c )と ( 1 4 c ' ) は 1(背が高いために高度が上がると 強調し)酸素濃度が低 P ! ことと│高山病とその予防│についての推論的 d ) と(14 d ' ) は 1(背が高いために高度が上がると強調 関係であり、(14. (沸点が下がることによる)煮炊きの困難 し)気圧が低下する│ことと 1 さ│についての推論的関係である。それぞれの場合において、合意の深さ が一段階深くなっている。これら 4つの場合のそれぞれにおいて推論が必 要となってくるが、その推論関係にも推論を成立させるための背景知識に 関する確からしさが関係してくる。この推論に利用される背景知識に関す る確信度が関係していると考えられる。. a ' ) の場合では、│身長が高い│ことが 1(目線を上げ)見晴らしが ( 14 良くなる│ことを引き起こしていることを推論しなければならない。この ような状態の変化による因果関係はほとんど全ての人が経験的に認識して いるものであり、明確な(背景)知識として入っている。 ( 1 4 b ' ) では、 1(背が高いために高度が上がると強調し)気温が低下する│ことと│風邪. をひく. iこととの推論関係であるが、 i 気温が低くなる風邪をひく確率が. 高くなる│という背景知識があれば推論は容易である。この背景知識につ いてもたいていの人が、遠足や登山やキャンプなどで山に登るにつれてだ んだんと寒くなるという経験や薄着をしていたために風邪をひくような経. a ' )と ( 1 4 b ' ) 験があると考えられるので推論は容易であろう。ただ、(14 との比較では、日常生活でも座っている状態から立った状態になると目線 が上がり見晴らしが良くなるのは頻繁に経験しているが、気温が下がるく らい高いところに行く日常経験は相対的には少ないので、(14 a ' ) の背景. b ' ) 知識の方が想起しやすく推論もしやすいと考えられ、その意昧で、(14 の方が合意としては深いといってよい。続いて、 ( 1 4 c ' ) の場合、 1(背が 高いために高度が上がると強調し)酸素濃度が低 P ! ことと│高山病とそ の予防)についての推論関係であるが、│高度が上がると酸素濃度が低下 し高山病になる確率が高くなる│という背景知識があれば、この推論は比. -68-. (5 5).

(26) アイロニーの記述的研究(2) 春木. 較的容易である。しかし、 ( 1 4 a ',b ' ) に比べると、背景知識を想起するこ とが困難であると言ってよい。その意味で推論が深くなるのであるが、し かし、ここで注目すべきは 1(背が高いために高度が上がると強調し)酸 素濃度が低 P ! という想定や│高度が上がると酸素濃度が低下し高山病に なる確率が高くなる│という背景知識としての想定に対しては、聞き手が 1 4 a ',b ' ) において用いる 抱く確信度が低くなっているという点である。 (. 背景知識は多かれ少なかれ日常経験より得られるもの、つまり、直接経験 1 4 c ' ) の背景知識となると、書物に により確かめられるものであるが、 (. よる知識の獲得はあっても、酸素濃度が薄くなるほど高いところに行く経 験は非常に少ない。もちろん、登山を趣味としている聞き手の場合は異な るが、そうでない聞き手にとっては{高度が上がると酸素濃度が低下し高 山病になる確率が高くなる}という背景知識としての想定は間接的な知識 獲得であり、それ故その想定に対する確信度も ( 1 4 a ' .b ' ) のそれらに比 1 4 d ' ) を観察すると明らかになる。 べると低くなる。この点はさらに (. ( 14 d ' ) はl(背が高いために高度が上がると強調し)気圧が低下する│こ ととl(沸点が下がることによる)煮炊きの困難さ│についての推論関係 であるが、この場合でも、│気圧が下がると沸点が下がる!という背景知識 があれば推論は可能で、ある。しかし、このような背景知識は書物や伝聞に よる二次的獲得が一般的であり、さらに、高度の高いところで煮炊きをす るという状況は酸素を必要とするあらゆる行動に比べると、現実体験に基 づく機会は少なくなりさらに確信度を下げる c このように合意といっても、 その合意を解釈する際に用いられた背景知識にも確信度があることが分かる。 なぜ合意が深くなるとアイロニー性が減少するのかという疑問に対する 答えはこのような観察から明らかになる。アイロニー解釈を引き起こすト リガー想定の合意を解釈するという推論過程においては背景知識としての 想定が用いられるが、合意が深くなればなるほど用いられる背景的想定も 確信度の低いものが用いられることになる。用いられる背景的想定の確信. (56). -67ー.

(27) 文学・芸術・文化. 1 7 巻 1号. 2 0 0 5 .7. 度が減少するということは当然推論結果である合意想定に対する確信度も 低くなることを意昧する。そして、この合意想定の確信度の減少がアイロ ニー性の減少につながっていると考えるのが、先の疑問に対する妥当な答. . 2節で見たアイ えであると考えられる。言うまでもないが、この答えは 2 ロニー性の増減と同じ要因によるものである。 以上、本節では合意の深さとアイロニー性の関係をアイロニー解釈に用 いられる想定に対する確信度という視点から観察し分析を加えた。ここで 観察してきたことはアイロニーの振る舞いに影響を与えていることは明ら かである。. 3 . 理論化への展望 この節では 2節で観察してきた点をもう一度まとめ、理論化ヘ向けての 基礎的視点を与えることを目的とする。 2節での観察から得られたアイロ ニーの特徴は以下の 9点である。. (i)話し手想定とトリガー想定のズレ(とその認識) [ 2 .1.節] (i) トリガー想定と聞き手想定のズレ(アイロニー性を高めるが、必. 2 .1.節] 要条件でも十分条件でもない。) [ ( i i i ) 否定的な話し手想定を抱きつつ肯定的なトリガー想定を発話する。. トリガー想定が真に伝えたい意味ではない。 [ 2 .1.節]. ( i v) 聞き手の信念体系の変化に関係し、否定的な想定が結果的に導き 出される場合にアイロニーとして解釈される。 [ 2 .1.節] (v) アイロニーの程度差について、話し手想定とトリガー想定にズレ. があるとき((i))にトリガー想定と聞き手想定にもズレがある 場合 ( ( i i ) )、アイロニー性は強くなる。 [ 2 .1.節]. ( v i ) アイロニー性の増減には、想定に対する確信度が影響を与えてい -66-. (57).

(28) アイロニーの記述的研究(2) 春木. る 。 [ 2 .1.節]. ( v ii)アイロニー解釈に関連する想定の確信度が下がるとアイロニー性 2 . 2 .節] および攻撃性が低下する。 [ ( v 温)ある事柄に対する客観的な評価に関する尺度とその評価に関する. 想定の確信度という尺度の二つの尺度が複合的にアイロニー解釈. 2 . 2 .節] に影響している。 [. ( i x) 合意性が高くなるとアイロニー性が低下する。合意を推論する際 に必要な背景的想定の確信度が下がるために推論結果の合意想定 の確信度が下がり、話し手想定と合意想定とのズレの認識は薄く なる。結果として、(v i i)と同様に、アイロニー性および攻撃性が 低下する。 [ 2 . 3 .節]. まず、これら全てに通して関連している非常に基礎的であるが必要不可 欠な要素は、想定とそれに付与される確信度である。すなわち、我々が持 つある事柄について知識や考えとそれらどれくらい確からし Lゆミという点 である。この点は日常のコミュニケーションについては当然のことである。 われわれは日常のコミュニケーションでは様々な知識や考えを伝達し合う が、全てについて 100%確信していることはない。「そうであったような気 がする」や「違うかもしれないけど Jなどと思いながら、時には確信がな いことを言語的に明示しながら伝達を行っている。当然これはアイロニ一 発話においても現れるはずである。しかしながら、一般的にアイロニ一理 論では通常は想定の方に焦点、が当てられ確信度については十分に取り上げ られることはない。しかし、上の観察は、想定のみならずそれに付与され る確信度についても理論装置の中に組み込まれる必要があるという点を強 く示唆している O 理論化に際しては確信度が付与された想定レベルのプロ 1 5 ) のような表示を扱う必 セスが提案されるべきであり、少なくとも (. 要があろう。. (5 8). -65-.

(29) 文学・芸術・文化. ∞. 1 7 巻 1号 2 5 .7. ( 1 5 ) cvxlP :a s s u m p t i o n l. ( 1 5 ) ではある想定 ( a s s u m p t i o n )1 P1があり、その確信度 ( c( o n f i r m a t i o n )v ( a l u e ) ) が X であることを表している。確信度については絶対的な 尺度で計量することは不可能であり無意味なことであろうが、相対的な程 度差が存在していると仮定し理論化することは可能で、あろう。 次に、このような想定を仮定して、アイロニー特有の条件を考えると以 下のようになる。まず、(i) か ら (i i i ) により、話し手想定とトリガー 想定と聞き手想定の関係が組み込まれる必要がある。例えばアイロニーが 発話された場合の解釈プロセスである段階は ( 1 6 ) のようなものが考えら れる。. ( 1 6 ). トリガー想定:c v 3 1 P:太郎は背が高い) 瓦. メ¥. ;ス、レ. :ズレ. j 乙一一一. J 乙一一一. 話し手想定: c v 7 1 , . . p:太郎は背が低い│. 聞き手想定: α71 , . .P:太郎は背が低い│. i i ) と(i v ) より、解釈プロセスの別の段階で ( 1 7 ) のような さらに、(i 状態が現れるはずである。. ( 1 7 ) 子 官 、 、. J-. II. l. ←①トリガー想定の却下 ←②ズレの消滅. v 7 1 , . .p:太郎は背が低い )11(←③話し手想定の残存) │話し手想定:c. -64-. (5 9).

(30) アイロニーの記述的研究(2) 春木. ( 17 ) は「あることを言って逆の(別の)ことを意味する Jというアイロ ニーの伝統的定義の基礎となっている部分であろう。話し手はそう信じて いないトリガー想定をあえて発話することでズレを引き起こす。しかし、 聞き手側もトリガー想定が話し手の本心ではないことを理解するので、 ト リガー想定を却下し同時にズレの認識も消滅させてしまう。その結果、残 るものは話し手想定だけであり、それが話し手の本心であろうと解釈する。 さて、ここで注目すべき点は、話し手の本心だと解釈した話し手想定が アイロニー解釈の出力段階ではじめて導き出されたのではなく、そもそも ズレの認識を引き起こす要因としてはじめから存在してる点である。これ は一般的な合意表現の解釈プロセスとはかなり異なっている。一般的な合 意表現の解釈プロセスでは、話し手の意図は必要な背景知識を導入しつつ 推論規則に従って最終的に出力するという考え方が用いられている。例え. 1 8 ) において(18 a ) の発話は ( 1 8 b g ) にあるような ば、間接発話行為 ( 1 8 h ) のような合意を表していると解釈されるこ 想定を用いて推論され ( とになるが、このような例ではその推論プロセスの入力や途中段階に. ( 1 8 h ) という想定が関与しているのではなく、推論の結果(出力)とし て導き出される。. )a.この部屋は暑いなあ。 ( 18. b. 1 話し手はこの部屋を暑いと思っている i c. 1 通常人間は暑さには不快感を感じる│. d . 1 人聞は不快感をなくしてほしいと願うものである i e. 1 聞き手である私は今窓のそばにいる│ f . 1 窓を開けるとこもった部屋の暑さを逃がし温度下げることが. 出来る i g. 1 今私が窓を開けて暑さを逃がせば話し手の不快感はなくなる j. h. 1 話し手は窓を私に開けてもらいたいと願っていると考えるの (60). -63-.

(31) 文学・芸術・文化. 1 7 巻 1号. 2 0 0 5 .7. が妥当である│. それに対して、アイロニーの場合、話し手の意図であると解釈される話し 手想定は解釈プロセスの最初の段階から存在しズレの認識を引き起こして. .1.節で見たようにズレの認識が起こらなければ、つまり、話し手 いる。 2 が話し手想定を抱いているだろうと仮定しトリガー想定と話し手想定のズ レが認識できなければ、そもそもアイロニーとして解釈できないのであ るJ 乱暴に言うならば、聞き手は解釈結果をはじめから知っているので ある。この点がアイロニーを他の修辞表現と比べて扱いにくいものにして いる要因であると考えられる。解釈結果であると考えたい想定がそもそも はじめから存在しているプロセスとはどのようなものであるのか。一見す ると言いたいことがわかっているにも関わらず全く別の(逆の)ことを発 話して、その言いたいことを表しているのであるから、コミュニケーショ ン方法としてはかなり冗長な手段であると認識する必要があるのと同時に、 また、その理論化も通常の合意表現のそれとは異なる発想、が必要となって くる。鍵となるのは、入力の一部と出力が同じであるという点である。 最後に加えておかなければならないことは、想定の確信度とアイロニー 性の関係である。 2節において現段階で可能なある程度の考察は加えたが、 この二つの関係をうまく反映できるような理論が望ましい。現在のアイロ ニ一理論で確信度とアイロニー性を組み込んだものは寡聞にして知らない。 先にも見たように、アイロニー性に関してはかなり複雑で少し条件が変わ れば全く正反対のアイロニー性(および攻撃性)が出てくる場合もある。 しかしながら、人間の解釈というのはそのような複雑なことが出来るので あり、アイロニ一理論もその複雑さを少しでも解明できるものが望ましい のは改めて言う必要もないだろう。. -62一. (6 1).

(32) ア イ ロ ニ ー の 記 述 的 研 究 (2) 春木. 4 . 結語 以上、本稿では、アイロニー性という点に焦点を置いてアイロニーの特 性を観察し、理論化ヘ向ける展望も示した。この観察はまだ部分的なもの であるが、 3節で示したように興味深いことがいくつか明らかになった。 その中でも特に興味深いのは、ズレの認識、想定の確信度、確信度の変化 とアイロニー性の変化、アイロニー解釈過程での入力と出力の同一性であ る。これらの特徴の内、間接的にではあるが、ズレの認識を理論的取り入 れている理論は反義理論 ( S e a r 1e( 1 9 7 9 ),G r i c e( 1 9 8 9 ),M a r t i n( 1 9 9 2 ),. G i o r a( 1 9 9 5 ),S e t o( 19 9 8 ) ) と呼ぶべき流れである。また、アイロニ一 理論のもう一つの流れである話者態度把握理論 ( S p e r b e randWilson. ( 1 9 81 ) , W ilsonandS p e r b e r( 1 9 9 2 ) ) と呼ぶべき理論は、上記の特徴に 関しては間接的にも取り入れらてはいない。しかしながら、どちらの理論 にしても本稿で観察した特徴について全てを説明できるものはなく、現段 階では不十分といわざるを得ない。アイロニー研究はこの数年で増加して きているが、まだまだアイロニー現象の記述を詳細に行い、それに基づい て理論化されているものは少ない。筆者自身も現象の記述に取り組み続け ていくつもりであるが、記述の蓄積が他の文献でも行われアイロニー研究 がさらに綴密で幅の広いものになっていくことを期待する. O. 註. 1 これは話し手と聞き手の間の共有知識の問題である。ある特定の知識に関して、両 者が非常に明確に言明し確認し合わない限り、それがお互いに共有されていると確 信することは身体としての境界があるためにほとんど不可能である。ここではその ような共有知識についての議論を避けるために、あえて、話し手と聞き手が(少な くとも聞き手は)アイロニー解釈に必要な想定を共有していることを確認している という条件を付けることにする=. (62). -61-.

参照

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