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特別講演要 旨細胞死 (
アポ トーシス)のシグナル伝達機構 と生体における役割
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京都大学大学院生命科学研究科 細胞死 (アポ トーシス)は、高等生物の発生過 程における形態形成 ・恒常性維持 ・免疫系を含め た生体防御 ・或いは老化な どに深 く関与 してお り、 生体 にとって必要不可欠な生命現象である。 ヒ ト ではアポ トーシスの制御機構が異常 になると、ア ポ トー シスの促進化による免疫不全や神経変性疾 患等が発症 し、抑制化が起 きると自己免疫疾患や 癌等 の重病を引き起 こす ことになる。 このためア ポ トー シスの制御機構は、非常に精密且つ複雑に 調節 されている。アポ トー シスの誘導には、サイ トカイ ン ・抗原 ・ウイルス ・薬剤 ・放射線 ・活性 酸素な ど多種多様な因子が関わっているのに対 し、 アポ トー シスの実行段階では、カスバ-ゼ と称す る一連 のシステイ ン-プ ロテアーゼが実行因子 と して 中心的な役割を担 っている。つま り、アポ ト ー シスの誘導 シグナルがカスバ-ゼーカスケー ド に伝 え られ、段階的にカスバ-ゼが活性化 して 種々の蛋 白質 を切断す る。 このプロテアーゼを介 する不可逆的な反応が細胞 を死に導 くのである。 これまでに、晴乳類では 14種類のカスパーゼが 同定 されているが、その うちアポ トー シスのシグ ナル伝達 にはカスパーゼ 2・カスパーゼ 8・カス バ-ゼ 9・カスパーゼ 10が initiator分子 とし て、その下流の effector分子 としてカスパーゼ 3・カスパーゼ 6・カスパーゼ 7が関与すること が明 らか となっている (1)。 サイ トカ ンである TNFや Fasリガン ドが細胞表 面にあるそれぞれの レセプターに結合す ると、ア ポ トー シス誘導 シグナルが細胞に伝わ り、細胞は 数時間後 には消滅 して しまう。カスバ-ゼ8は、 これ らレセプター (デス レセプター と総称)が活 性化 されて細胞内にアポ トーシス誘導 シグナルを 伝えるために最初 に関わ る分子である。 図1に示 すよ うに、アポ トー シスの刺激が入ると、アダプ ター分子FAI)I)を介 してカスバ-ゼ 8は レセプタ ーに結合 し複合体 を形成す る。その中でカスパー 蕊 ㌘-
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''eiff;;toI芸孟㌫二 アポ トーシス ''effectorカスパーゼによる 図 1 デス レセ プター を介す るアポ トー シス誘導 シグナル伝達経路 の模式図4
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」 ■1 5●やrObo sv叫 A 図2 相 同組 み換 えによ る ES細胞へ の変異型 カスバ -ゼ 8遺 伝子 の導入 表1カ スパ ーゼ8遺伝子 欠損 ヘテ ロマ ウス 同士 の交配 によ って 出来た個体 の解 析 _ 各接合 型 の個 体 数 (%) _ _ ホモ接合型腔 の 野生型(+/+) へテロ(+/-) ホモ(-/-) 異常な個体数 (%) 3-4週齢仔マウス 22(30) 51(70) 14.5-20日旺 48(36) 71(53) 12.5E]目旺 ll.5日日腔 10.5日日旺 9.5日日腔 8.5日日艦 18(32) 31(58) 48(27) 100(60) 72(33) 87(42) 16(34) 21(46) 6(37) 8(50) 0(0) 15(ll) 6(10) 24(13) 54(25) 9(20) 2(13) 15/15(100) 6/6(100) 24/24(100) 3/54(6) 0/9(0) 0/2(0) 文献 (3)よ り改変. ゼ8は活性型 に変換 し細胞質へ と移動す る。そ し て、effector分子であるカスバ-ゼ 3やカスパ ーゼ 了を切断 し活性化す るOまたカスバ-ゼ8は、 Bcト2ファミ リーの一つであるBidを切断す る。 切断 され たBidの断片が ミ トコン ドリアに移行 し、 細胞 質へ のチ トクロームCの流出を促 し、 ミ トコ ン ドリアを介 したアポ トー シスのシグナル伝達系 を活性化す る。直接力スパーゼ8によ り、或 いは ミ トコ ン ドリアを経 由 した シグナル によ り活性化 され たカスパーゼ3やカスバ-ゼ 7は、転写因子 ・ 核蛋 白 ・構造蛋 白 ・酵素な ど200種類 を超 える基 質蛋 白質 を切断す る。その結果 として、細胞が生 きる能 力を失 うことになる。 このよ うにカスパー ゼ8は、 レセプター を介 したアポ トー シス誘導 シ グナル伝達 には必須な分子である(2)0 これ までの研究 によ りカスバ-ゼ8を介す るア ポ トー シスの シグナル伝達経路は大筋で明 らかに 相同組み換えによる 改変型遺伝子 文献(3)を改変 なった ものの、一方で生 体 にお ける役割 について は不 明な点が多い。そ の ため、我 々はカスパーゼ 8の遺伝子欠損マ ウス を 作製 し、カスパーゼ8が 機能 しな くな った場合 に 生体 にお いて どのよ うな 影響が認め られるか調べ た(3)。カスパーゼ 8の 遺伝子欠損マ ウスの作製 は、 これ までに汎用 され ている発生工学的手法 に 従 って行 った。 まず 図2 に示す相 同組み換 えの方法で、染色体上のカスパ ーゼ 8遺伝子対 の一つが改変 した ES(embryonic stemcell)細胞株 を樹立 した。次 に、 このES細 胞株 を正常腰 と混ぜて FO世代 となるキメラマ ウ スを作出 し、さ らに野生型マウスと交配 させてFl の仔 を産出 した。仔 マウスの中にカスパーゼ8遺 伝子 を欠損 した個体 の有無 をPCR法で調べ、変異 マウスが含 まれて いることを確認 した。変異マウ スは遺伝子型がヘテ ロであるために、正常に生育 した。そ こで、 さ らにヘテ ロ変異マウス同士を交 配 させて、ホモ変異マウスを産 出することを試み た。 しか しなが ら、ホモ変異マウスは全 く生まれ て こなかった (表 1)。 この ことは、ホモ変真マウ スが腔 発 生途 中に死 亡 して いる と考 え られた. 我々は、発生段階の異なった胎児 を妊娠マウスよ り摘 出 し、遺伝子型並びに形態 を調べた。解析結 果か ら、ホモ型変異月引ま10.5日目までは正常に左 二野 生型 、右 :カスバ-ゼ8遺伝子 欠損 ホモ接 合型 野生型MEF細 胞
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t 、 . 野生型 カスパーゼ8iA伝子欠肌 型 _ Mm I 0.11 1
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抗FH 坑件 (nC/ml) 図4 デ ス レセ プタ- を介 す るアポ トー シス誘 導 にカ スバ -ゼ 8は必要 であ る6
発 生 す るが 、 ll.5 日目以降 にな る と全 て の個体 にお いて発 生異常 が認め られた (表 1)。 図3は、 発 生異常 とな った 11.5日目のホモ型変 異腔 を示 す O この変異瞳 は、心臓 が発生異常 とな り、そ の 結果 心腔 に血が溜 まって いるのが観察 され る。 こ の よ うな症 状 以 外 に、ホ モ 型 変 異腔 で は卵黄 嚢 (yolksac)の血管 形成や神経管 の形成 に も異常が 認 め られ た (3)。 これ らの ことは、 カ スパーゼ 8 が腫 発 生期 に何 らかの役割 を果 た して いる ことを 意 味す る。興 味深 い ことに、カスパ ーゼ8と関わ りの ある Fasを含 めたデス レセ プター・Bid・カ スパ ーゼ3の各遺伝子欠損 マウス も既 に作製 され て いるが 、いずれ のマ ウス も肝性致 死 とはな らず 生 まれて くる。唯一 FADDの遺伝子 欠損 マ ウスが カスバ-ゼ8遺伝子欠損 マ ウス と同様 に心臓 に異 常 が 生 じ腔性致死 とな る。 しか し、FADD遺伝子 欠損 マ ウスで は、卵黄嚢 の血管形成や神 経管 の形 成 に異 常 が あ るのか定 か で はな い。 この よ うに 我 々の研 究 によ りカスパーゼ8が腫 発 生 に必要な 分子 で ある ことが 明 らか とな ったが 、そ の生理的 役割 につ いては残念 なが ら未だ明 らか にできてい な い。 また我 々がカ スバ-ゼ8の研究 を始 めた時期 に、 カ スバ-ゼ8がFasだ けで な くTNFレセ プターや TRAILレセ プターな どの他 のデス レセ プターか ら のアポ トー シス誘導 シグナル伝達 に も関わ ってい る とい う報告がな された。そ こで我 々は、デス レ セ プ ター の うち、何れ のデス レセ プ ター を介 した アポ トー シス誘導 にカスバ-ゼ8が必須 であるの か検 証 した。カスパーゼ8を欠損 した細胞株が実 験 に必 要 であ った ので、我 々はカスパ ーゼ8遺伝 子 を欠損 した腫 発 生 10日目のホモ腔 と同腹 の野 生型膳 よ りそれぞれ繊維芽細胞 (以後MEF細胞 と 略称 ) の単離 を試み、樹立化 に成功 した。 これ ら カ スバ-ゼ8遺伝 子欠損型MEF細胞 と野 生型MEF 細胞 の両細胞株 に外か らデス レセ プター を導入 し、 レセ プター を活性化す る ことによ り細胞 にアポ ト ー シス を誘導 出来 るか調べた (図 4). 今 回導入遺 伝 子 と し て 用 い た の は 、 ヒ トの Fas遺 伝 子 (hFas)・細胞 内領域 を欠 いた変異 型 の ヒ トFas 遺伝 子 (hFas△)・DR4(別 名TRAILレセ プタ- 1) の細胞 内領域 とFasの細胞外領域 を有す るキ メラ 遮 伝子 (hFaS/DR4)の3種類である (図4A)。 い ずれ の遺伝子産物 も細胞表 面に発現 す れ ば、アポ トー シス を誘導で きるアゴニステ ィ ックな抗 Fas 抗体 と結 合で きる。両細胞株 にそれぞれ3種類の 遺伝 子 を導入 し、様 々な濃度 の抗Fas抗体 で細胞 を刺 激 した後 に生存 率 を調べた (図 4B)。野 生型MEF細胞 の場合、抗 Fas抗体で処理す る とhFas
を発 現 して いる細胞 では濃度依存的 に細胞が死ぬ よ うにな る。 しか し、hFas△を発現 して いる細胞 は全 く抗Fas抗体 刺激 に反応せず アポ トー シスは 起 こ らな い。既 に明 らかな ことで は あるが、Fas によ るアポ トー シス誘導 には細胞 内領域 を必 要 と す る。 またキ メ ラ遺伝子 hFaS/DR4を発現 して い る細胞 は 、hFas発 現 細胞 と同様 に濃度 依 存 的 な 細胞 死が観察 され た. 一方 カスバ-ゼ8遺伝子欠 損 型MEF細胞 を用 いた場合 、 どの遺伝子 を発現 さ せ て も抗Fas抗 体 刺 激 よるアポ トー シスは観察 さ れ な か っ た (図 4B)。 これ らの 実 験 結 果 は 、 hFaS/DR4のキ メ ラ分 子 は アポ トー シス を誘導 で きる こと、カ スバ -ゼ8を欠 くとFasやDR4を介 した アポ トー シス誘導が抑 制 され る ことを示す。 以 上の ことよ り、 カスパーゼ8はFasばか りでな くTRAILレセ プターか らのアポ トー シス誘導 に も 関与す る ことが 明 らか にな った。その後 同様 な研 究 が他 の研究者 らによって行われ 、カスパーゼ 8 は現在知 られ て い るデス レセ プター全て にお いて 、 そのアポ トー シス 誘導 の シグナル伝達 に必須 で あ る ことが証 明 され て いる (4)0 カ スバ-ゼ8を活性化す るアポ トー シスの シグ ナル伝達経路 は、必ず しもデス レセ プター を介す る経路だ けで はな い。"anoikis"と言われる現象 は、接着性 の培 養 細胞 が剥がれた ままの状態 とな る と、細胞死 が起 きる現象である。 この anoikis にカスパーゼ 8が アダプター分子 FADDと共 に関 与す る こ とが 示 され て いる (5)。 この アポ トー シ スの シグナル伝 達 経路 は、デス レセ プター に非依 存 的で あ り、起 因 とな る分子 と してイ ンテ グ リン が考 え られて い る。 また さ らに、デス レセ プター とFADDの両者 に非依 存的なカスパーゼ 8活性化 経路 も最近見 つ け られた(6)。ハ ンチ ン トン病 は、 ハ ンチ ンチ ン蛋 白の構造変化が 引き金 となる神経 変性疾患 で あ り、神経細胞 で アポ トー シスが誘発 され る。 この アポ トー シス誘導 シグナル伝達 にカ スパーゼ8が 関与 して いる ことが証明 された。ポ リグル タ ミン化 したハ ンチ ンテ ン蛋 白にHip-1分 子 とHippi分子 が 結 合 して複合体 を形成す るが、 そ の中にカスパー ゼ8が 引き込 まれ活性化す るの である。 上述 したよ うにカ スパーゼ8が機能 しな いと、 例 え上流 の因子 が活性化 された として も細胞死 は 起 きな い。 生体 防御機構 と して、細胞障害性免疫 細胞 がFas/Fasリガ ン ドの系 を使 って有害 とな っ た標的細胞 を除去 す る ことが知 られ て いるが、標 的細胞 でカスバ- ゼ8が活性化 しな い とこの防御 機構が全 く機 能 しな い ことにな る。 ある種のが ん 細胞 ではFasが発 現 しているにも拘わ らず、細胞 障害性免疫細胞 の刺激 に対 し抵抗性 を示すO これ は、カスパーゼ8が標 的細胞 内で活性化 されな い ためであると考 え られた。それ を裏付 けるよ うに、 悪 性 の神 経繊 維 芽 細胞 腫(neuroblastoma)な ど数
種類 のがん細胞 において、カスバ-ゼ8の発現抑 制や遺伝子欠損が起 きていることが最近明 らか と な った(7)O これ らのことは、カスバ-ゼ 8がが ん抑制 因子 として細胞内で働 くことを強 く示唆す る。 また さ らにカスパーゼ8は両生類 のアフリカツ メガエルや魚類のゼブラフィッシュに も存在する。 我 々は、両動物 由来のカスバ-ゼ8壷 ヒ トの培養 細胞 に導入 した実験 によ り、両分子が アポ トー シ ス誘導能 を保持 していることを確認 した。 この こ とは、カスパーゼ8が種を越 えて魚類か ら晴乳類 まで脊椎動物の間で構造 とその機能が保存 されて いる ことを示す。興味深いことに、無脊椎動物の 昆虫 (シ ョウジョウバエ)にもカスバ-ゼ8に相 当 す る遺 伝子(Dredd)が見つか って いるが 、 この遺 伝子産物 は細胞死ではな く自然免疫 に関与するこ とが報告 されている(8)。 又、双子の片割れと称 して も過言ではないカス パーゼ 10は、カスバ-ゼ8と蛋 白構造 も酷似 し てお りFasやFADDとの複合体形成時 に もその中 に含 まれ活性化 され る(9)。それで は、カスパー ゼ 10とカスバ-ゼ 8はお互 いどのよ うな役割分 担 を担 っているのだろうか ?現段階ではそれ に対 す る答 を見出せないままである。加 えて、 ヒ トに は カスバ-ゼ10とカスバ-ゼ8の両方が存在す るのに対 し,マウスではカスバ-ゼ8しかないの がゲ ノム構造よ り明 らか となっている。一方 アフ リカツメガエルでは、カスパーゼ8とカスバ-ゼ 10の両方が同定 されている。カスパーゼ 10とカ スパーゼ8の機能の違 いを探る前に、 このよ うな 種間によってカスパーゼ 10の有無が認 め られる ために、本 当に カスパーゼ10は必要なのか とい うと疑 問が生 じて くる。カスパーゼ 10遺伝子 に 変異が生 じると自己免疫疾患 を発症す る という報 告が あ り、カスパーゼ 10の特異的な役割が少な くともヒ トには存在 していると思われ る。 今回、我々の研究成果や最近の知見 をまとめ合 わせ ると、カスパーゼ8がFasな どのデス レセプ ター を介するアポ トー シス誘導 に、anoikisに伴 うアポ トー シスに、そ して神経変性疾患 のハ ンチ ン トン病で誘発 されるアポ トー シス に必要不可欠 である ことが判 った。 これ まで に知 られていた生 理学的細胞死や病理学的細胞死の少な くとも一部 は、カスバ-ゼ8が関与 していたのである。 しか し、肱発生におけるカスパーゼ8の役割 について は、直接 アポ トー シスと関係あるのか定かでない。 これ まで とは全 く別なカスパーゼ8の役割が存在 す るのか もしれないo細胞死 (アポ トー シス)の研 究 は、 この 10年間で急速に発展 して きた。その 中で も特 にカスバ-ゼ と称するプロテ アーゼが実 行 因子 として同定 されてか らは、アポ トー シスの シグナル伝達経路が容易に理解できるよ うにな っ た。 この ことによ り、 これ までお互い関連性があ ると考 えも及 ばなか った二つの疾患が、実は l種 類のカスパーゼ分 子が冗進的に活性化或いは逆 に 失活 した場合 に現れた症状であることも判って き た。今後 は、ス トレスに伴 うアポ トー シスの作用 機序の解明や アポ トー シスが絡んだ疾患の原因究 明や治療法確立な ど臨床応用的な研究へ と拡が っ て行 くことが期待 できる。 また基礎的な研究 とし て、発生の形態形成 の際にみ られるアポ トー シス の制御機構の解 明 も今後残 された課題であると思 われる。 引用文献
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