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オンラインコミュニティで「社会知」は醸成されたか : NIFTY-Serve 心理学フォーラムの事例研究

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(1)

オンラインコミュニティで「社会知」は醸成された

か : NIFTY-Serve 心理学フォーラムの事例研究

著者

三浦 麻子, 森尾 博昭, 折田 明子, 宇田 周平, 松

井 くにお, 鈴木 隆一, 田代 光輝

雑誌名

関西学院大学心理科学研究

39

ページ

23-30

発行年

2013-03-25

URL

http://hdl.handle.net/10236/11037

(2)

研究背景と目的 現代社会では,コンピュータを介したオンラインコミ ュニケーション(CMC)によって生成・発信・消費さ れる情報が,経済,政治,文化,学術など,社会のあら ゆる側面で重要な情報・知識基盤の 1 つとなっている。 その中で大きな役割を果たしているのは,巷間「ソーシ ャルメディア」と称される,利用者自らが情報発信する ことによって成り立つウェブサービスを経由したオンラ インコミュニティである。古くは電子掲示板やブログ, 近年では SNS,知識共有コミュニティ,Twitter などさ まざまな形態のオンラインコミュニティで流通する情報 は大量かつ多様で,個人がソーシャルメディアで発信す る情報は既存マスメディアによるそれに匹敵するほどの 力を持ちつつある。 中でも特に注目を集めているのは,一見雑多な集積に しか思えないソーシャルメディア上の情報が「案外ため になる」もの,すなわち社会に広く共有され多くの人々 にとって有用な知識として利用されうる「社会知」とし て機能している点である。ソーシャルメディアという言 葉などなかった時代から,オンラインコミュニティ利用 者のふるまいや意識,あるいはかれらによる情報発信が 社会にもたらす所産が社会を変化させてきたことを,私 たちは体感的に知っている。そしてそのことは少なから ぬ研究者たちの注目を集め,その普及初期から多くの研 究がおこなわれてきた。しかしその手法は,利用者を対 象とした調査にせよ,コミュニケーションの内容分析に せよ,あるオンラインコミュニティのごく一部の利用者 を対象として,またごく限られた期間を対象として,ご く一部の意識や行動を切り取って収集したデータに基づ くものがほとんどであった。 本研究で分析対象とするのは,かつて長年にわたり多 数の利用者を集めたパソコン通 信 サ ー ビ ス「NIFTY-Serve」(以下,ニフティ)の「会議室」(いわゆる電子 掲示板)ログのアーカイバルデータである。具体的に は,1987 年(サービス開始時)から 2005 年(同終了 1 年前)にかけての,2500 以上のテーマの会議室への投 稿に関するあらゆる情報(投稿者 ID,投稿日時,投稿 内容など)を含む,いわば当該期間中にニフティの運営 する電子掲示板で展開されていたコミュニケーションの 全記録である。本研究は,このアーカイバルデータを 「発掘」し,あるオンラインコミュニティの電子掲示板 が運営された,全期間の,全利用者の,全コミュニケー ションデータを対象として,コミュニケーションの集積 がどのように「案外ためになる」情報となりえたのか, その醸成過程と所産を明らかにすることを目指す試みで ある。こうした大規模で詳細な情報を含むアーカイバル データを対象とする社会科学的な観点からの実証的研究 はこれまでに一度もおこなわれていない。ごく最近にな って研究対象としての「ビッグデータ」の重要性が声高

オンラインコミュニティで

「社会知」は醸成されたか

1),2)

──NIFTY-Serve 心理学フォーラムの事例研究──

三浦 麻子

・森尾 博昭

**

・折田 明子

***

・宇田 周平

****

松井くにお

*****

・鈴木 隆一

*****

・田代 光輝

***** 抄録:本研究では,オンラインコミュニティにおけるコミュニケーション構造を把握するため,過去に多く の利用者を集め,なおかつ ID による参加者の識別やレスポンスの対応関係からコミュニケーションの構造 の同定が可能なコミュニティのアーカイバルデータを分析した。複数の会議室からなる特定のフォーラム (心理学フォーラム)に注目し,運営開始から終了までを抽出できた 6 つの会議室のログデータを対象とし た。分析の結果,より専門家向けの内容の会議室と一般向けの内容の会議室では,投稿数・投稿者数の全体 的な変化による影響が異なることが示された。また,利用者の質的変化がコミュニティで醸成される社会知 の質に影響していた可能性が示唆された。 キーワード:オンラインコミュニティ,社会知,アーカイバルデータ,ニフティ ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― * 関西学院大学文学部教授 ** 関西大学総合情報学部教授 *** 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任講師 **** 慶應義塾大学環境情報学部 ***** ニフティ株式会社 関西学院大学心理科学研究 Vol. 39 2013. 3 23

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に叫ばれるようになったことは周知の通りだが,それら に真正面から取り組む試みはまだ始まったばかりであ る。そして,こうしたデータの入手は,提供側の積極的 な意向なくしては不可能であり,本研究ではニフティ株 式会社の全面的な協力の下でデータ提供を受け,研究者 とサービス事業者が共同してプロジェクトを推進してい る。 第一著者は,これまで 10 数年にわたって CMC に関 する実証的な社会心理学研究に携わってきた間に,さま ざまなオンラインコミュニティのログデータの提供を受 け,あるいは利用者の意識や行動を問うデータを自ら収 集してきた。特に大規模ログデータを対象としたものに は匿名掲示板「2 ちゃんねる」(松村・三浦・柴内・大 澤・石塚,2004)やブログサー ビ ス(三 浦・松 村・北 山,2008)に関するものがあり,いずれもサービス提供 側から全ログデータの提供を受けて研究を実施した。し かし「2 ちゃんねる」は厳密な ID 制がないため発言者 の特定が不可能であり,ブログは書き手の ID は特定可 能だがコメントする読者の特定は困難であるために,オ ンラインコミュニティにおけるコミュニケーション構造 を緻密に分析することはできなかった。 本研究の分析対象とするニフティの電子掲示板アーカ イバルデータは,すべての利用者に ID が割り当てら れ,システム側によって一元管理化されており,かつ利 用者には 2500 以上の多岐にわたるテーマにまたがって コミュニケーションの場が提供されている。この点にお いて,当該データは,コミュニケーション構造を解明す るための緻密な分析に耐える貴重な資料,具体的には 「誰(ど の ID を も つ 利 用 者)が」「ど こ(ど の 会 議 室 で)」「いつ」「どのような質(投稿内容)/量(投稿数) の」情報発信をおこなったかを,長期間にわたって追跡 可能なデータである。このような詳細なレベルにわたる 膨大な量の網羅的な電子コミュティの記録は,ソーシャ ルメディアという名の下にサービスが多様化し,さらに はサービス側による ID 一元管理体制が実質的に困難に なった現在では,もはや取得することすら困難である。 1980年代後半にオンラインコミュニティの運用が開 始されて以来,20 数年が経過した。この間にオンライ ンコミュニティの基盤となる技術やシステムは急速な変 化と進歩を見せてきた。それに伴って,電子メディアの コミュニケーションそのもの形態や,それらとわれわれ の関係性は刻一刻と変化している。そのため,過去のア ーカイバルデータを「発掘」することの「歴史の検証」 以外の意味に疑問を呈される方もあるかもしれない。し かし,古い技術を「現在利用されている」ものという立 場で捉える研究(Brown, & Perry, 2000)]と,それが 「新しかった」当時のことを考察する研究(Gackenbach, & Ellerman, 1998 ; Standage, 1999)の両方で示されてい

るのは,新しい技術下での行動と古い技術における行動 の間には多くの類似性や関連が見られることと,古い技 術が日常的なものになっても,行動上の興味深い特徴は 残存するということである。本研究で取り上げるような アーカイバルデータを対象とした分析から得られる知見 は,オンラインコミュニティにおける人間行動に関する より一般的知見を得るための千載一遇のチャンスであ り,将来のコミュニケーション技術を利用した行動を特 徴づける,あるいは少なくとも予測することに資する (三浦,2010)だろう。 オンラインコミュニティとしてのニフティ ニフティは,ニフティ株式会社によって 1987 年 4 月 から 2006 年 3 月まで約 19 年にわたって運営されていた 商用パソコン通信サービスである。利用者(会員)はパ ソコンに接続されたモデムなどから電話回線を経由して サーバに接続し,その中で電子メールの送受信や電子掲 示板,チャットなどを利用したコミュニケーションをお こなうことができた。会員登録すると固有の接続アカウ ント(ID)が発行され,サーバへのログイン時にはパ スワードと共に入力することが必要であった。サービス 開始当初は,電話回線を経由してニフティ独自のアクセ スポイントに接続するのが一般的であったが,1995 年 頃からのインターネットの急速な普及を受けて,1997 年 10 月 1 日以降はインターネットからの接続が可能と なった。1995 年 4 月に 100 万人を数えた利用者は,1996 年 9 月には 200 万人に達した。しかし,その後の利用者 数は横ばいとなり,1999 年 11 月 1 日にサービスを開始 した@nifty(アット・ニフティ)の登場に伴い,ウェブ 版のニフティに相当する「フォーラム@ニフティ」が設 置されたものの,多くの利用者を得ることはなく,従来 からのニフティの利用者も減少していった。 フォーラ ム に は「お 知 ら せ」「掲 示 板」「電 子 会 議」 「データライブラリ」「会員情報」「リアルタイム会議 (チャット)」「SYSOP 宛メール」の機能があり,このう ち本研究が提供を受け,分析対象としたのは「電子会 議」に開設された会議室への投稿のログデータである。 あるフォーラムの「電子会議」には最大 20 個(初期に は 10 個)までの会議室を作ることができ,各会議室が 扱うテーマはフォーラムマネージャーやシステムオペレ ーター(SYSOP;シスオペ)と呼ばれるフォーラム管 理者(SYSOP は実際の管理,保守作業を担ったが,基 本的にはフォーラムマネージャーが兼任していた。また こうした作業に対して報酬を得ていた)が設定した。会 議室はテーマごとに議論やコミュニケーションをおこな える場所として機能し,ファシリテイター役を担うボー ドリーダーやテーマに長けた会員が率先して話題を提供 してコミュニケーションをある程度コントロールするス 関西学院大学心理科学研究 24

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タイルが一般的であった。利用者同士のコミュニケーシ ョンの際は,ハンドル(ニックネーム)を設定すること ができ,実名を明かす必要はなかった。コミュニケーシ ョンのためのサービスが集約されていたのが「フォーラ ム」である。会員は登録手続きを経てフォーラムに参加 することができた。ハンドルはフォーラムごとに設定可 能で,フォーラムで使い分ける場合,共通のハンドルで 複数のフォーラムに加入する場合,あえて実名をハンド ルとする場合など多様な用いられ方をしていた。 会議室での意見交換は,ツリー型電子掲示板に似た形 態をとっており,ある発言に対してコメント(レス)を 付けることが可能であった。会議室の発言は本人か SYS-OPが削除することができた。本人が削除する場合に は,コメントがついている場合は削除することができな かった。SYSOP が不適切と判断した場合等には,レス の有無と無関係に削除が可能であった。1 発言は最大 300 行まで入力でき,1 会議室の最大発言数は 999 発言(初 期は 512 発言)で,継続して同じテーマが扱われる場合 は,古い発言をバックアップして,そのまま会議室を使 い続けるか,新しい会議室を SYSOP が作成する必要が あった。発言の保存可能上限数に達した会議室のログ は,データライブラリに圧縮または無圧縮で保管される のが一般的であった。本研究が提供を受けたアーカイバ ルデータは,このデータライブラリに保管されていたロ グである。 ニフティを対象とした先行研究 これまでにおこなわれたニフティを対象としたオンラ インコミュニケーションの研究には,情報社会学者らに よるもの(金子・VCOM 編集チーム,1996)や,社会 心理学者によるもの(川上・川浦・池田・古川,1993) などがある。 前者は大災害時の電子ネットワークの有効性について 論 じ た も の で あ り,阪 神 大 震 災 発 生(1995 年 1 月 17 日)を契機として自然発生的に立ち上がったニフティの 「震災とボランティア」フォーラム(ログは現存してい ない)をはじめとするさまざまなオンラインコミュニテ ィを対象として,内容分析とインタビューにより,コミ ュニケーション内容とそれによる利用者間のつながりの 形成過程を明らかにしている。後者は,1990 年代前半 に,内容分析や発言のつながりによって形成されるネッ トワークの分析,あるいは利用者を対象としたオンライ ン調査を通じて,オンラインコミュニティがもたらした 社会的なコミュニケーション構造の変化とその社会心理 学的な意味を考察している。 分析対象とするフォーラム 本論文では,分析対象とするフォーラムを「心理学フ ォーラム」に絞り,そのフォーラムの開設から閉鎖に至 るまでのコミュニケーションの態様を,コミュニケーシ ョン内容の質的分析も含めたアプローチによって描き出 すことを試みる。分析対象とするフォーラムを 1 つに限 定することにより,ニフティ全体での利用者の流動状況 や関係性,あるいは,ある特定のフォーラムという枠を 越えた情報伝播のようすを把握することは不可能とな る。しかし一方で,オンラインコミュニティにおける社 会的交流の中で何らかの「知」が醸成されているかどう かを検証するためには,その質,つまり具体的な投稿内 容に踏み込んで検討することも有効な手法の 1 つであ る。こうした手法が実現可能な対象として,本論文の第 一著者の専門分野である心理学に関するフォーラムを選 択した。 心理 学 フ ォ ー ラ ム(FPSY)は,1991 年 2 月 27 日 に 開設され,2004 年 10 月 31 日に閉鎖されたフォーラム である。電子会議には複 数(1991 年 の 開 設 時 点 で 12 個)の会議室が開設され,特に内容に制約のない雑談を 主とする談話室,心理学に関する質疑応答や学会・研究 会情報,書籍情報などがやりとりされるいくつかの会議 室の他に,心理学の代表的な専門領域の話題に特化した 6つの会議室(知覚・認知心理学,発達・教育心理学, 応用・社会心理学,神経・生理心理学,臨床心理学,境 界領域)が設けられていた。1994 年 11 月時点でのフォ ーラム登録者数は約 7400 名(http : //www8.plala.or.jp/re-vir/works/1995/pccom/forum.html)で,当時の全会員(60 万人強)数の約 1.2% にあたる。また,当時存在したフ ォーラムの参加者数の単純平均は 20000 名,中央値が 11000名であった(川浦,1996)ことから,心理学フォ ーラムは比較的小規模なフォーラムであったといえる。 方 法 アーカイバルデータは,宇田・三浦・森尾・折田・鈴 木・田代・佐古(2011)と田代・鈴木・松井・宇田・折 田・三浦・森尾(2012)の方法を用いて csv 形式に変換 し,投稿番号・レス先の番号(ある場合のみ)・投稿者 の ID とハンドルネーム・投稿日時(年月日時分)・投 稿本文が例えば Figure 1 のように抽出・復元された。 心理学フォーラムのアーカイバルデータからは,68 個の会議室ログが発掘され,そのうち Figure 1 のよう な正しいフォーマットで csv ファイルに変換できたもの が 52 個あった。ただし,変換できたログの中にも,会 議室名が不明なもの,1 つのログに複数の会議室のもの が併存しているものなどが散見されたため,すべての内 容を精査し,比較的長期間にわたって運用されていた (つまり,投稿数が多く,会議室ログが複数個存在して いる)会議室について,時系列順に並べ替えて統合を試 みた。その結果,Table 1 に示す 6 つの会議室のログを 25 オンラインコミュニティで「社会知」は醸成されたか

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ほぼ完全な形で抽出するこ と が で き た。総 投 稿 数 は 58319件,総投稿 ID 数は 2792 件であった。これらのロ グを対象に,量と質の両面からの分析をおこなった。 結 果 量的分析 まず,投稿数の記述統計量にもとづいた分析結果につ いて述べる。Figure 2 に,各会議室の投稿数の推移を年 ごとに示す。さらに,もっとも投稿数の多かった「談話 室」の年別投稿数,投稿 ID 数および 1 ID あたりの投 稿数の最大値を Table 2 に示す。 他と比べて抜きん出て投稿数の多い談話室,臨床心理 学の 2 会議室は,1995 年から 1997 年にかけての 3 年間 にそのピークを迎えていたことが分かる。これは学術利 用が主だったインターネットが一般市民に急速に普及し てニフティの会員数が激増し,それに伴ってニフティ自 体の接続形態が変更された(インターネットからの接続 も可能となった)という,フォーラム内部ではなく,そ れを取り巻く外的環境の変化の所産であると考えられ る。このことは,誰でも参加しやすい談話室と,一般市 民からもっともよく知られている臨床心理学の会議室に Figure 1 復元された投稿例 Table 1 抽出された会議室 会議室の内容 総投稿数 総投稿 ID 数 談話室 23200 1910 心理学全般の質問・議論 3485 429 臨床心理学 16000 888 応用・社会心理学 3759 330 神経・生理心理学 3020 261 境界領域 8855 318 Figure 2 各会議室の投稿数の推移(1991 年 2 月 27 日∼2004 年 10 月 30 日) Table 2 「談話室」における年別投稿数,投稿 ID 数, 1 IDあたりの最大投稿数 年 91 92 93 94 95 96 97 投稿数 投稿 ID 数 最大投稿数 1363 365 156* 1787 229 167 1059 261 79 2105 296 156 2702 347 311 5499 337 494 3732 266 255 年 98 99 00 01 02 03 04 投稿数 投稿 ID 数 最大投稿数 1142 155 139 510 88 84* 506 54 79 1115 42 160* 1278 29 323* 311 20 57* 95 13 24* 注:1 ID あたりの投稿数の最大値に付した*は,当該 ID が SYSOP のものであることを示す。 関西学院大学心理科学研究 26

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ついては投稿数の増加をもたらす一方で,神経・生理心 理学と応用・社会心理学の両会議室は,専門性の高さか らかその影響をほとんど受けていないか,むしろ投稿数 が減少している。 また,その後は談話室を除く 5 つの会議室で投稿数の 減少が顕著で,さらに談話室でも投稿 ID 数は急激に減 少しており,対照的に SYSOP による投稿が占める割合 が増加していた(Table 2 参照)。このことは,ウェブサ イトを利用したオンラインコミュニティが増加し,それ らの多くは会員登録や会費の支払いを必要としなかった ために,ニフティの利用者そのものが減少していたこと と呼応していると考えられる。 次に,コミュニティ活性化に大きく寄与する利用者で ある多頻度投稿者に注目し,階層的クラスタ分析(平方 ユークリッド距離・Ward 法)を用いて,投稿先会議室 の特徴や投稿数の時系列変化を検討した。分析対象とし た 6 つの会議室に合計 100 件以上(102∼2488 件)投稿 した利用者を多頻度投稿者と定義し,102 名が抽出され た。多頻度投稿者による投稿は合計 42026 件で,分析対 象総数の 72.1% にあたる。投稿数は会議室間あるいは 年による違いが著しいため,会議室ごとあるいは年ごと に標準化し,z 得点をクラスタリングした。 多頻度投稿者の会議室ごとの投稿数にもとづくクラス タリング結果(各クラスタの会議室別投稿数平均値)を Figure 3,年別投稿数にもとづくクラスタリングの結果 (各クラスタの年別投稿数平均値)を Figure 4 に示す。 会議室ごとの投稿数によるクラスタリングでは,3 つの クラスタ(構成人数は順に 8, 9, 85 名)を抽出した。年 別投稿数によるクラスタリングでは,5 つのクラスタ (構成人数は順に 6, 4, 2, 83, 7 名)を抽出した。それぞ れにおいて特徴的な傾向をもつクラスタについて検討す る。 会議室ごとの投稿数にもとづくクラスタリングで分類 された利用者数がもっとも多い第 3 クラスタの投稿傾向 は,分析対象とした 6 つの会議室の総投稿数の傾向とほ ぼ比例している。第 1 クラスタも同様の比例傾向がより 際だった形で現れており,投稿者の特徴というよりもフ ォーラムそのものの投稿傾向の特徴を示すクラスタだと 考えられる。第 2 クラスタは「応用・社会心理学」会議 室への投稿数が他に比べて多く,この会議室が他とは多 Figure 3 多頻度投稿者の投稿先会議室にもとづくクラスタリング Figure 4 多頻度投稿者の年別投稿数にもとづくクラスタリング 27 オンラインコミュニティで「社会知」は醸成されたか

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Table 3 会議室ごとの心理学関連キーワードの出現頻度:時系列比較 談話室 質問・議論 臨床心理学 応用・社会心理学 神経・生理心理学 境界領域 草創期 最盛期 終末期 草創期 最盛期 終末期 草創期 最盛期 終末期 草創期 最盛期 終末期 草創期 最盛期 終末期 草創期 最盛期 終末期 心 理 学 場場文 心 理 学 場場場場場場場場場場場場文 場 心理学 文 場 場 心理学 心理学 文 心理学 文 文 心理学 心理学 文 文 文 文 場 文 文 心理学 心理学 文 文 治療 治療 文 心理学 心理学 文 脳脳脳色 意 識 心理学 興味 興味 力 音 興味 力 文 力 理解 力興 味力 脳波 実験 色 力力 ユング 力力 読み 力 カウ ン セ リ ング 理解 意識 自己 カ ウ ン セ ラ ー メディア 力 興 味 文 心理学 心理学 意識 自己 理解 自己 読み 色 興味 意識 自己 力 理解 カウ ン セ リ ング 興味 自己 コミ ュニ ケ ー シ ョン 実験 色 脳 波 夢 理解 力 読み 色 興味 読み 理解 興味 理解 心理学 力 コミ ュニ ケ ー シ ョン 実験 読み UG 興味 測定 イメージ 心理学 読み 認知 愛 記 憶 実験 力 行動 自己 精神分析 自己 ネ ッ ト ワ ー ク 理解 実験 力力 実験 ユング ユング 文化 色 理解 色カ ウ ン セ ラ ー 意 識 アドラー 意識 格 行 動 行 動 集 団 興味 脳波 環境 心理学 読み 意識 島 脳 読 み 読 み フロイト 感情 読み 読み 意識 行動 刺激 意識 刺激 読み 色 概 念 格 意識 記憶 状況 クラ イ エ ン ト におい テスト 調査 読み 調査 記憶 記憶 反応 自己 興味 自己 マー 自己 脳 カウ ン セ リ ング 概念 興味 認知 判断 うそ 睡眠 音 感 覚 理 解 橋 におい 眼 治療 判断 精神分析 愛 治 療 状 況 状 況 状 況 意 識 感 覚 感情 音文 化 興味 立体視 音 解釈 心理療法 色 判 断意 識調 査認 知行 動 認知 活動 愛 解 釈 構 造 イメージ 行動 におい 状況 読み 臨床心理士 実験 コミ ュニ ケ ー シ ョン ネッ トワ ー ク 夢 刺激 興味 興味 価値 色 記憶 脳 思考 ユング イメージ 知識 理解 解釈 自己 反応 視覚 力 フロイト イメージ 価値 認知 イメージ 発達 におい 島 行 動 UG 集団 理解 被験者 理解 機能 におい 感情 ユング心 理 学 感覚 実験 格 概念 状況 意識 機能 感情 意識 覚醒 機能 睡眠 うそ 感覚 甘え 行動 フロイト 能力 イメージ 行動 解釈 自己 におい 性格 測定 行動 ホルモン 概念 におい 解釈 視覚 罰 行動 人格 精神分析 記憶 橋 メディア 眼 測定 読み 記憶 愛 判 断 反応 テスト 興味 価値 状況 音島 フ レ ー ミ ング 音読 み 不安 解釈 判断 行動 機能 感情 感情 興味 色 イメージ 概念 アクセス 理解 反応 記憶 自我 思考 記憶 色 解釈 不安 概念 認知 組織 注意 自己 ストレス 元型 状況 感覚 性格 読み カウ ン セ リ ング におい 構造 判断 活動 環境 大脳 連想 記憶 知識 訓練 構造 記憶 感情 格 機能 能力 行動 価値 概念 愛 知識 自我 格不 安 反応 課題 期待 被験者 感覚 島 性格 うそ 態度 感覚 ク ラ イ エ ン ト 検索 色耳音 象徴 行動 状況 暴力 感覚 フロイト 性格 認知 注意 血圧 機能 音島 概念 機能 価値 期待 理解 うそ 思考 活動 愛 ERP 耳 態 度 フロイト コント 不安 状況 判断 構造 態度 治療 格 におい 想像 音 価値 色 知識 格 カウ ン セ リ ング カウ ン セ ラ ー 夢治 療 不安 夢 過程 うそ 価値 集団 発達 脳 分裂病 遺伝子 神経症 イメージ 精神病 想像 面接 精神分析 言語 元型 認知 感情 性格 反応 記憶 観念 知識 言語 コミ ュニ ケ ー シ ョン 判断 過程 濃いグレー背景強調文字:全会議室全期間で頻出していた語 薄グレー背景:全期間で頻出していた語 斜字:当該期間のみで頻出していた語 関西学院大学心理科学研究 28

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少異なる投稿者層を持っていたことを示唆している。各 会議室の年別投稿比率でも,この会議室の投稿はフォー ラム全体の投稿数がピークを迎える 1995 年より前のも のが占める割合が高く,いずれの観点から見ても他の会 議室とは異なる特徴を持っていたと考えられる。 年別投稿数によるクラスタリングで分類された利用者 数がもっとも多い第 4 クラスタは,コミュニティ草創期 から最盛期にかけて,数は多くはないがコンスタントに 投稿していた層であり,コミュニティ形成を下支えして いた利用者であることが推察される,第 1 クラスタは最 盛期に突出して投稿数が多く,第 2 クラスタはむしろ草 創期の投稿数の多さが目立つ。第 3 クラスタは最初期を 除いて投稿数が継続的に多い。これらとは対照的に,第 5クラスタは終末期に投稿が多く,他の 4 クラスタでは その頃の投稿数が非常に減少していることを考えると, 最盛期を境に中心的な参加者層が大きく変化しているこ とがうかがえる。 オンラインコミュニティ参加者の投稿数の推移からコ ミュニティ形成過程を実証的に検討した研究に篠原・三 浦(1999)がある。かれらは,新たに開設して 6 ヶ月間 にわたって運営された電子掲示板と対象として,参加者 たちをその発言行動の時系列変化にもとづいて「低参加 群」「高参加群」「初期高参加群」の 3 群にクラスタリン グしている。ニフティというオンラインコミュニティ自 体の歴史的経過とここまでの量的分析の結果に示唆され ているとおり,心理学フォーラムにはフォーラム開設時 とアクセス形態変更時の 2 度にわたって多くの新規参加 者の加入があったと考えられる。これをふまえると,第 1∼第 2 クラスタは「初期高参加群」,第 3 クラスタは 「高参加群」にほぼ該当すると見なされよう。 質的分析 最後に,こうした利用者たちの投稿によって心理学フ ォーラムで流通した情報に含まれる「社会知」はどのよ うなものだったのかを検討する 1 つの手がかりとして, 形態素解析により投稿本文に含まれる心理学に関わる専 門用語を抽出し,その出現傾向について,会議室ごとに 時系列変化を探索的に検討した。 心理学関連の専門用語は通常の形態素解析で用いられ る辞書にはほとんど含まれないため,心理学の専門用語 を網羅的に収録している有斐閣『心理学辞典』(中島・ 安藤・子安・坂野・繁桝・立花・箱田,1999)に掲載さ れている全項目(事項と人名の 5767 項目)をキーワー ドリストとして,出現語とその頻度をカウント3),4) た。時系列変化については,多頻度投稿者のクラスタリ ング結果を参考にして,草創期(1991−1994),最盛期 (1995−1997),終 末 期(1998−2004)の 3 期 間 を 比 較 検 討した。キーワードの出現頻度の集計にはテキストマイ ニングツール TTM(松村・三浦,2009)を用いた。 各期間の 5% 以上の発言で言及されたキーワードを頻 出語とみなし,会議室別に降順で示したのが Table 3 で ある。「談話室」では頻出語が少なく,幅広い話題が展 開されていた可能性と,展開されていた話題の専門性が 必ずしも高くない可能性が示唆された。「質問・議論」 「境界領域」会議室は「臨床心理学」会議室と頻出語の 傾向が類似しており,心理学の中でも臨床領域に対する 関心が相対的に高かったことが示唆された。「応用・社 会心理学」会議室では,メディア・コミュニケーション 関連のキーワードが頻出していたことが特徴的であっ た。 さらにこれからは,それぞれの投稿でこうしたキーワ ードがどのような文脈でどのように用いられているかを 内容分析によって明らかにすることや,フォーラム全体 あるいは個々の会議室を文章集合としてとらえ,話題の 時系列遷移を Dynamic Topic Model(DTM ; Blei & Laf-ferty, 2006)によって解析することなどを通して,より 詳細に心理学フォーラムにおける「社会知」を明らかに していく予定である。 ま と め 本研究では,過去に多くの利用者を集め,なおかつ ID による参加者の識別やレスポンスの対応関係からコミュ ニケーションの構造の同定が可能なコミュニティのアー カイバルデータを対象として,オンラインコミュニティ におけるコミュニケーション構造を把握するため,複数 の会議室からなる特定のフォーラム(心理学フォーラ ム)に注目し,抽出に成功した 6 つの会議室の運営開始 から終了までのデータを分析した。分析の結果,より専 門家向けの内容の会議室と一般向けの内容の会議室で は,投稿数・投稿者数の全体的な変化による影響が異な ることが示された。また,利用者の質的変化がコミュニ ティで醸成される社会知の質に影響している可能性も示 唆された。 今後は,コミュニティ活性化に大きく寄与していた多 頻度投稿者を中心に,量的/質的分析を対応づけたより 詳細な検討により,オンラインコミュニティでの社会知 醸成過程とその所産を検討したい。例えば,コミュニテ ィで能動的に活動していたクラスタの投稿内容を精査す ることなどが有用であろう。 注 1)本 研 究 は 科 研 費 挑 戦 的 萌 芽(代 表 三 浦 麻 子 23653177)の助成を受けた。 2)本研究は第 5 回知識共有コミュニティワークショ ップ(2012. 11. 11)で報告された。 3)『心理学辞典』掲載項目の電子データは,有斐閣 29 オンラインコミュニティで「社会知」は醸成されたか

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編集部よりご提供をいただいた。同編集部の櫻井 堂雄氏に記して感謝の意を表します。 4)ソフトウェアの仕様上,文書からのキーワードの 抽出は形態素解析の前段階で行われているため, 字数の短い単語(場・文・色・力など)やひらが なのみの単語(におい,うそ)などは,文中の用 法と抽出結果が相違している可能性がある。 引用文献

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