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募集・採用段階における応募者のプライバシー(PDF:506KB)

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日本労働研究雑誌 1

提 言

募集・採用段階における応募者のプライバシー

山田 省三

 1947(昭和 22)年に制定された労働基準法は, 当時の雇用状況を反映して,封建的労働慣行の是 正を主たる目的としており,現在の重要課題と なっている情報プライバシーに関する規定等を有 していない。さらに,企業には採用の自由が保障 されているから,応募者の思想信条を理由として 採用を拒否しても何ら違法ではないだけでなく, 応募者の思想信条に関する採用者側の質問権を肯 定した三菱樹脂事件最高裁大法廷判決が出された のは 1973 年のことであった。  同判決から 42 年が経過しているが,「撮るな, 覗くな,書くな」という私生活への侵入禁止を意 味する従来のプライバシーの概念は,不可視性 (我々が知らないうちに,個人情報が収集されている) を備えたコンピュータ機器の発達により,大きな 変容を迫られている。ところで,人間が有する最 も素晴らしい能力は忘れる力である。これは,生 活に支障をもたらす困った能力である反面,怪我 の痛みや失恋の苦しさも,時間と共に忘れ去るこ とができるからこそ,我々は生きていけるのであ る。しかし,いったんコンピュータに収集された 情報は,本人が生きている間だけでなく,死後も 永遠に残ってしまう。もちろんコンピュータのメ リットは多大であるが,これは,まさに「忘れる 能力を忘れた」不滅のモンスターである。  個人情報が保護されるためには,人間が強制的 に忘れさせるしかない。これが欧州を中心に議論 されている「忘れられる権利」 (righttobeforgot-ten)であり,10 年以上前の債務記録の削除を認めた 欧州司法裁判所判決が昨年 5 月に登場している。  この権利が行使される前提として,従業員はど のような自分の個人情報が収集されているかを閲 覧する権利,誤った個人情報を訂正する権利,そ して不要な個人情報の削除請求権が不可欠となろ う(ドイツでは,一定期間経過した懲戒記録の削除 請求権が認められている)。もちろん,安全配慮義 務(労働契約法 5 条)や,セクシュアルハラスメ ントに対する雇用管理上の措置義務(男女雇用機 会均等法 11 条)や職場環境配慮義務といった法令 もしくは労働契約上の配慮義務を負っている以 上,これらの義務を履行するに当たり,使用者は, 一定の情報を取得する必要がある。「知らずして, 配慮できない」からである。以上のように,労働 者の「忘れられる権利」と,使用者の「知る権利」 との調整は無視することができないから,両者の 調整が求められることになる。  採用のテーマに戻ると,前述の三菱樹脂事件判 決では,憲法の自由権規定の私人間効力が争点と なっていたが,労働契約締結過程における採用者 による応募者のプライバシー配慮の問題として考 察されるべきであった。言うまでもなく,現在は インターネット全盛の時代であり,大学生は Twitter や Facebook を多用しており,今後は学 生 が 応 募 す る だ け で は な く, 採 用 者 側 が Facebook を見て,学生の応募を勧誘するように 変化していくかもしれない。これに伴い,面接前 に,企業は応募学生のプライバシー情報取得が可 能となっており,これが入社選抜の結果に影響す ることもあり得よう。  ところで,イギリスにおける包括的な差別禁止 法である 2010 年平等法は,合理的配慮その他の 業務上の必要がない限り,募集段階における病気・ 障害に関する質問を禁止している。これは,この 種の質問が雇用差別につながりやすいとの趣旨に 基づいており,差別とプライバシー保護とを結合 させるものとして注目されるが,採用段階におけ るインターネットによる情報収集と応募者のプラ イバシー保護の論点も,今後は不可欠となろう。 (やまだ・しょうぞう 中央大学法科大学院教授)

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