1 はじめに 食品,化学,薬品等の製造現場では,粉体状原料の輸 送工程に粉体空気輸送装置が一般的に使用されている. 絶縁性の高い粉体を取り扱う場合,粉体空気輸送装置内 において,配管と粉体,粉体同士の摩擦等により,粉体 は強力に帯電する.これらの粉体が粉体貯蔵槽(以下, サイロと呼ぶ)内へ充填される時,発生した着火性静電 気放電により,サイロ内に存在する可燃物(可燃性粉塵 雲,粉体に含まれる可燃性有機溶剤など)が着火し,爆 発や火災に至る可能性がある1).しかしながら,実際の サイロ内で発生する静電気放電に関する研究は,国内外 を問わず非常に少ない. これまでに,粉体の静電気帯電と放電による災害の防 止を目的とした研究は多く行われてきた.我々の前報 (Choietal. 20142))では,ポリプロピレン粉体(以下, PP粉体と呼ぶ)の電荷量と放電頻度の関係について検 討した.ブラシ放電は−1.16μC/kg以上,線状バルク 表面放電は−2.23μC/kg以上で発生した.Glorらは, 絶縁性粉体,粒子のサイロ充填時に発生する放電につい て検討している3–5).これらの研究には,産業規模のサ イロを用いた現実的な条件での実験,研究室規模の実験, 理論および数値モデル計算等が含まれる.Boschungら は,粉体の静電気的挙動の特性を検討するための数値モ デル計算,研究室規模の実験を提案している.重要な結 果として,体積抵抗率107Ω•m以下の粉体では,金属 容器への充填時に危険な帯電は確認されないが,1013 Ω•m以上の粉体では帯電量は危険なレベルに達するこ とが確認されている6). 以上の先行研究では,サイロ内の粉体の帯電および放 電について検討されているが,これらの現象は十分に解 明されていない状態にある.そこで,本研究では,大量 の粉体を連続充填する場合のサイロ内の静電気帯電およ び放電について検討した. なお,本稿の一部は既に英文誌上に発表7)したもので あるが,より広く国内の産業現場で活用されることを目 的として,改めて本誌で紹介する. 2 実験装置,粉体試料,測定方法 以下に,本研究に使用した装置,粉体試料,各種測定 方法の詳細について述べる.装置および粉体試料につい ては,先行研究2, 8–10)と同様のものを使用した. 1)粉体空気輸送装置 本実験で使用した実規模粉体空気輸送装置の概略を 図1に示す.本装置は,主に,投入ホッパー(ステンレ ス製,高さ:0.7m,容量:0.1m3,開口部:0.6m ×0.6 m),配管(ステンレス製,直径:0.1m,全長:約23m), サイロ(ステンレス製,直径:1.5m,高さ:3.75m, 容量:4.8m3,図2),圧送ブロア(インバータ制御モー タで駆動),空調ユニット等から構成されている.サイ ロには,実験時にサイロ内で起こりうる粉塵爆発による 被害を低減するための爆発放散口が設置されている.サ イロ,ホッパー,配管はそれぞれ電気的に接地されてい る. 粉体を投入ホッパーに入れ,ロータリーバルブを回転 (29rpm)させて配管内に流す.その後,圧送ブロア(空 気風量10m3/min)によって,粉体が配管内を空気輸送 され,サイロに約800 kgまで連続充填される.この時, 単位時間当たりの粉体の供給量は約0.68kg/sである. また,空調ユニットを用いて,この配管内の空気の温度 を30℃,湿度を30%になるように制御した. Title:07_12_JOSH-2018-0012-SHI.indd p181 2019/09/20/ 金 18:44:55 「労働安全衛生研究」,Vol. 12, No. 3, pp. 181–187, (2019)
ポリプロピレン粉体充填時に貯蔵槽内で発生する静電気現象
崔 光 石
*
1,遠 藤 雄 大
*
1,鈴 木 輝 夫
*
2 本研究では,ポリプロピレン粉体(以下,PP粉体と呼ぶ,粒径:2~3mm)充填時のサイロ(円柱と円錐 を組み合わせた形状)内で発生する静電気帯電・放電を実験的に調査した.PP粉体は約0.68 kg/sのペースで サイロに約800kgまで連続投入した.サイロ充填時のPP粉体の帯電量は,サイロ内に大型ファラデーケージを 設置して測定した.また,サイロ内で発生する静電気放電の観測には,サイロ天井部の点検窓に設置されたイ メージインテンシファイア付きCCDカメラを用いた.測定の結果, PP粉体の質量比電荷は,約-12μC/kgであ り,充填開始時間によらず一定であった.また,充填開始の約7秒後から,サイロ側壁に沿って,リング状の 発光を伴う静電気放電が観察された.その発光の直径は,PP粉体堆積面の直径とほぼ一致しており,充填時間 の経過に伴い変化した.これは,粉体が堆積していく過程でサイロ下部の円錐部分において粉体堆積面の直径 が時々刻々と変化するためであり,サイロ側壁とPP粉体堆積面との間で放電が発生することを示している.本 研究において,粉体充填時のサイロ内で観測された静電気放電の種類は,大まかに分けて,ブラシ放電,線状 バルク表面放電,面状バルク表面放電の3種類であった. キーワード:静電気帯電,静電気放電,サイロ,粉体,ポリプロピレン.原稿受付 2018年10月10日(Received date: October 10, 2018) 原稿受理 2018年11月28日(Accepted date: November 28, 2018)
J-STAGE Advance published date: January 29, 2019 *1労働安全衛生総合研究所電気安全研究グループ *2春日電機株式会社 連絡先:〒204-0024 東京都清瀬市梅園1-4-6 労働安全衛生総合研究所電気安全研究グループ 崔 光石 E-mail: [email protected] doi: 10.2486/josh.JOSH-2018-0012-SHI 資 料
2)粉体試料 粉体試料として,約800kgのPPを使用した(図3). PPは,化学産業で広く使用されており,体積抵抗率が 1015Ω•mオーダー以上であり絶縁性である.本実験で 使用したPP粉体の粒径は2~3mm程度である. 3)電荷量測定 サイロ内に充填されるPP粉体の質量比電荷q [C/kg] は,ファラデーケージ法により測定した.実験で使用し た金属製傘付きの大型ファラデーケージの概要を図4に 示す.大型ファラデーケージは,サイロ内の充填配管下 端部から0.05m下方に固定用レールと絶縁性吊り紐を 使用して設置した. 本ファラデーケージは,帯電した粉体を捕集できるよ うに内側容器(直径:0.27m,高さ:0.85m),の底部 には金属製ネット(目開き100μm,メッシュ150)を設 けてある.この金属製ネットは粉体を含んだ空気から粉 体を分けて空気を逃がす役割を担う.外側容器(直径: 0.33m,高さ:0.9m)は,接地された金属製の円筒で, シールド電極としてノイズ防止の役割を果たす.なお, ファラデーケージ内の金属製ネットと粉体の接触帯電に より発生した電荷は,正・負で等量となるため,計測値 に影響は及ぼさない.充填されるPP粉体のほぼ全ては ファラデーケージ(内側容器)に収まる.金属製傘(大 きさ:0.38 m,高さ:0.05m)はファラデーケージの 内側容器に捕集される粉体の質量を調整するために使用 した.粉体の捕集時は,図4のように,ワイヤーを用い て金属製傘を水平方向に移動させて開放状態にする. 粉体の質量比電荷q [C/kg]は,内側容器に捕集された 粉体の総電荷量Q [C]と質量m [kg]の比であり,式 (1) で表される: q = Q /m --- (1) 質量比電荷qは同一条件で3回測定し,その平均値を 最終的な結果とした.粉体の電荷量と質量の測定には, エレクトロメータ(Keithley,6514),デジタル重量計(島 津製作所,UX8200S)をそれぞれ使用した. 測定手順は以下の通りである: (1) ファラデーケージの金属製傘が閉じている状態 で,サイロ内に粉体を充填する. (2) 金属製傘を5秒間開放し,内側容器内に粉体を捕 集する. (3) 金属製傘を閉じ,粉体捕集を終了する. 図1 実規模粉体空気輸送装置
5 mm
図2 サイロの模式図 図3 ポリプロピレン(PP)粉体(4) 内側容器の電荷量(=捕集された粉体の総電荷量) を測定する. (5) 内側容器に補修された粉体を取り出し,質量を測 定する. (6) (1)~(5)の手順を3回繰り返す. 4)静電気放電の観測 本研究では,サイロ内部で発生する静電気放電を観測 するために,イメージインテンシファイア付きCCDカ メラ(以下,高感度カメラと呼ぶ)を使用した(図5). 高感度カメラは,サイロ天井部の点検窓に設置した.撮 影時,外部からの光(太陽光や蛍光灯の光など)がサイ ロ内部に侵入することを防止するために,サイロ周囲を 暗幕で覆った.本装置は,イメージインテンシファイア ヘッド(浜松ホトニクス,C9016-02,感度波長範囲: 280~780 mm,最大ゲイン:100万倍),リモートコン トローラ,リレーレンズ,広角レンズ(ニコン,AF-S NIKKOR18-35mmf/3.5-4.5GED,焦点距離:18~35 mm),CCDカメラ(もしくはデジタル一眼レフカメラ), 電源,ACアダプタ,ディスプレイ,レコーダーから構 成される.イメージインテンシファイアの操作は,リモ ートコントローラおよび,ヘッド部分とUSB接続され たPCを用いて行った. 図6に,実験前に撮影されたサイロ内の様子を示す(弱 照明下で撮影). 3 実験結果および考察 1)粉体の帯電量 表1に測定結果を示す.充填時のPP粉体の質量比電 荷qは,約−12μC/kgであり,充填開始時間にはよら ず一定であった.これは,サイロ内で着火性静電気放電 を発生させるのには十分な値である2).PP粉体は,ス テンレス製配管との接触,摩擦により負に帯電する特性 をもっている.これは,両物体の接触界面での電子の移 動の結果,仕事関数の小さいほうの物体は正極性に,大 きいほうの物体は負極性に帯電するためである.実際に, ステンレスの仕事関数は4.64eV11),PPの仕事関数は 5.43eV12)と報告されている. 表1 PP粉体の総電荷量,質量,質量比電荷7) No. Q [μC] m [kg] q [μC/ kg] 1 −26.5 2.16 −12.26 2 −26.3 2.30 −11.43 3 −24.8 2.12 −11.69 Avg. −25.8 2.19 −11.78 (a) 金属製傘が閉じた状態 0.1 m 0.05 m 0.38 m
Inner cup Powder
Outer cup 0.9 m Wire Wire Metal cover Powder flow Loading Pipe Loading Pipe Powder flow Metal cover Electrometer Electrometer 0.1 m 0.27 m Mesh (b) 金属製傘が開いた状態 図4 金属製傘付き大型ファラデーケージ
Wide angle lens
Relay lens
Image
intensifier head
図6 実験前のサイロ内の様子 図5 高感度カメラの構成(CCDカメラ除く) Title:07_12_JOSH-2018-0012-SHI.indd p183 2019/09/20/ 金 18:44:55 1832)静電気放電の観測 高感度カメラを使用し,サイロ内で発生する静電気放 電を撮影・観測した動画から抽出した画像を図7~9に 示す. 図7(a~d)は,粉体がサイロ内に100 kg充填され るまでの間に発生した放電の様子である.図7 (b)のよ うに,粉体がサイロ内に堆積し始めて約7s後(約5kg 充填時),サイロ中心辺りに明らかなリング状の発光を 伴う静電気放電が観測された.その発光位置は,サイロ 底部にある粉体排出用配管内と考えられ,リングの直径 は,堆積している粉体(粉体堆積面)の直径にほぼ一致 している.リングの直径は,充填時間の経過とともに変 化しているが(図7 (b~d)),これは粉体が堆積して いく過程で,サイロ下部の円錐形状部分(ホッパー部分) において粉体堆積面の直径も変化するためである. 上記のように,リング状発光を形成する静電気放電は ブラシ放電である.帯電した粉体堆積層とサイロ側壁の 接触部分付近では特に電界が強くなるため,この付近に 集中的にブラシ放電が発生する.この結果は,数値モデ ル計算の結果にも良好に一致する13). 以下,ブラシ放電の着火危険性について述べる.最小 着火エネルギーが既知の可燃性ガスを用いた実験結果に 基づき,ブラシ放電の火花等価エネルギーは最大4mJ 程度とされており,一般の可燃性ガス,溶剤蒸気の着火 源になるが,可燃性粉塵の着火は報告されていない14). しかしながら,化学プロセス等において,有機溶剤を含 む粉体(ハイブリッド混合物)はブラシ放電でも着火す る可能性が高いため注意しなければならない.最小着火 エネルギー1mJ以下の特に着火性の高い可燃性粉体に ついても静電気放電による着火に注意する必要がある. 粉体のブラシ放電による着火性については議論が続けら れている15–17). 実験では,線状バルク表面放電も観測された(図7 (d)).この放電は,サイロ側壁からサイロの中心に向 かって線状に発生する放電である.堆積粉体の中央部と 側壁との電位勾配が大きくなった場合に,サイロ側壁で 発生していたブラシ放電がストリーマ状に直線的に堆積 粉体の中央部に向かって伸展したものと考えられる.こ の放電の着火危険性については後述する. 図8は,100~400kgの粉体充填時にサイロ内で発生 した静電気放電の様子である.上述の理由から,充填時 間の経過に伴ってリング状発光の直径が増加している. ここでは,堆積粉体の中央部分付近において,面状に 広がる放電(本稿では,面状バルク表面放電と呼ぶ)が 頻繁に発生することが確認された.一般的に,堆積粉体 から発生する放電は全てバルク表面放電(コーン放電と もいう)と呼ばれており,先に述べた線状バルク表面放 電と面状バルク表面放電は区別されていない18–20)が, 放電形状が大きく異なるため本稿ではあえて区別して扱 う.面状バルク表面放電は,線状バルク表面放電の終了 をきっかけに発生し,線状バルク表面放電の先端部(堆 積粉体の中央部付近)から,線状バルク表面放電が発生 していない領域に向けて広がる.この放電は,線状バル ク表面放電終了後に毎回発生するものではなく,先端部 近傍の堆積粉体の帯電量が十分大きい時にだけ発生する ものであると考えられる. (c) 粉体充填開始 73 秒後(約 50 kg 充填時) (d) 粉体充填開始 147 秒後(約 100 kg 充填時) (a) 粉体充填前 (b) 粉体充填開始 7 秒後(約 5 kg 充填時) 図7 粉体がサイロ内に約100 kg充填されるまでの間に発生した放電の様子7)
今回の実験では,面状バルク表面放電は,サイロへの 粉体充填開始後,約166秒(充填量:112kg,堆積面の 直径:0.9 m)から明確に観察された.面状バルク表面 放電の発生と充填時間(もしくは,充填粉体の質量,粉 体堆積面の直径)の関係を検討するために複数回の試行 を行ったが,同様に充填開始後170秒前後から発生する ことが確認された.したがって,面状バルク表面放電と 粉体堆積面の直径等に何らかの関係があるように見える が,今後詳しい分析が必要である. 以下,バルク表面放電(線・面状)の着火危険性につ いて述べる.バルク表面放電で放出されるエネルギーは, サイロの直径および堆積する粉体の粒径に依存すること が広く知られている.直径0.5~3.0mのサイロ,中央 粒径0.1~3.0 mmの粉体については,コーン放電(バ ルク表面放電)のエネルギーは以下の式 (2) 21)を用い て見積もることができる: W = 5.22D3.36d1.46 --- (2) ここで,Wはコーン放電のエネルギーの上限値[mJ], Dはサイロの直径[m],dは粉体の中央粒径[mm]を表す. 本研究では,サイロの直径,PP粉体の中央粒径はそ れぞれ,1.5m,2~3mmである.この条件で発生する コーン放電のエネルギーの上限値は,式 (2)により, 56~101 mJと見積もることができる.この程度のエネ ルギーであれば,可燃性粉体を容易に着火することがで きる. 図9は,400~800kgの粉体充填時にサイロ内で発生 した静電気放電の様子である.ここでは,粉体がサイロ の円柱形状部分に堆積しており,充填に伴って粉体堆積 面の直径も変化しないため,リング状発光の直径も変化 しない. 図9 (b~d)より,強烈な線状バルク表面放電が多 数発生している様子が確認できる.一方で,図8で見ら れる面状バルク表面放電が発生しなくなった.これは, 多発する線状バルク表面放電の距離(長さ)が長くなっ ていることなどが影響していると考えられるが,今後, 詳しく分析する必要がある. 特に強い放電は,A(東側),B(南側)の2箇所で見 られた.これらは,サイロ側面に設置された覗き窓の位 置(図6参照)である.図10より,ここでは,覗き窓 に装着されたネジの先端がサイロ内に突出し,突起物と なっていることが確認できる(ネジ直径:12mm,突 出部の長さ:13 mm).このように,帯電粉体が充填さ れたサイロ内部に突起物が存在すると,強烈な線状バル ク表面放電が発生する危険性が確認された.したがって, サイロ内部の突起物をなくすことが静電気災害の発生防 止の一助となる. 粉体の種類,充填量,サイロのサイズと形状,突起物 のサイズ等の各種条件がサイロ内で発生する静電気放電 の特性に影響すると考えられる.これらについては,今 後さらなる検討を行う必要がある. 4 まとめ 本研究では,実規模粉体空気輸送装置を使用し,PP 粉体をサイロに連続投入した際に発生する静電気帯電・ 放電現象について調べた.その結果,以下のことが分か った. (c) 粉体充填開始514秒後(約350 kg 充填時) (a) 粉体充填開始220 秒後(約 150 kg 充填時) (b) 粉体充填開始 367 秒後(約 250 kg 充填時) 図8 粉体がサイロ内に100~400 kg充填されるまでの間に発生した放電の様子 Title:07_12_JOSH-2018-0012-SHI.indd p185 2019/09/20/ 金 18:44:55 185
(1)充填時の粉体の質量比電荷は,約−12μC/kgで, 充填開始時間によらず一定であった.これは,着 火性静電気放電を十分に引き起こす可能性のある 数値である. (2)粉体充填約7秒後から,サイロ内において静電気 放電によるリング状の発光が現れた. (3)サイロに充填された粉体が堆積していく過程で, サイロ内で発生する静電気放電は,大まかに3種 類に分けられ,ブラシ放電,線状バルク表面放電, 面状バルク表面放電である. 文
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図9 粉体がサイロ内に400~800 kg充填されるまでの間に発生した放電の様子7)
Bolt
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