• 検索結果がありません。

中国の障害者保障法改正 -- 権利確立への挑戦 (特集 アジアの障害者立法 -- 国連障害者権利条約への対応)

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "中国の障害者保障法改正 -- 権利確立への挑戦 (特集 アジアの障害者立法 -- 国連障害者権利条約への対応)"

Copied!
5
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

中国の障害者保障法改正 -- 権利確立への挑戦 (特

集 アジアの障害者立法 -- 国連障害者権利条約へ

の対応)

著者

小林 昌之

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

181

ページ

8-11

発行年

2010-10

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00004397

(2)

●はじめに

  中国は一九九〇年に障害者保障 法を制定し、二〇〇六年に国連で 採択された障害者権利条約の議論 に あ わ せ て 改 正 作 業 を 進 め て き た。障害者保障法改正の事務局は 中国障害者連合会が担うことにな り、障害者の権利向上と連合会の 権限強化を目指して積極的に取り 組 み が 行 わ れ て き た。 本 稿 で は、 二〇〇八年の障害者保障法改正の 経緯を紹介しながら、改正によっ て障害者の権利確立にどのような 進展があったのか、なかったのか 考察することとしたい。

中 国 障 害 者 連 合 会 の 当 初 の 意 向   中国障害者連合会は、当初、条 約の基調にあわせて障害者保障法 の名称を障害者権益保障法に変更 し、 各 章 の タ イ ト ル に も﹁ 権 益 ﹂ または﹁権利﹂の二文字を追加し て、障害者の権利保障を強調する 構 成 に す る こ と を 目 論 ん で い た。 改正にあたって定められた五つの 基本原則も条約を反映するものと なっていた。これらの原則は、① 権利を基本とする、②非差別、③ 機 会 均 等、 ④ 社 会 へ の 全 面 統 合、 ⑤特別扶助、である。   権利を基本とすることに関して は﹁国家と社会は障害者を医療の 対象または救済の対象としてのみ 見る誤った見方を改め、障害者は 権利の享受者であると認識し、社 会生活全般の主体的な参加者であ る と 認 識 す べ き で あ る ﹂︵ 参 考 文 献①、二〇六ページ︶との説明が 加えられており、少なくとも事務 局レベルでは障害の医学モデルか ら社会モデルへの転換が意識され ていた。また、非差別の価値目標 は 障 害 者 の 平 等 保 護 の 実 現 で あ り、機会均等によって障害者も非 障害者と同様に社会の物質文明を 享受できるべきであること、障害 者は隔離された環境で生活すべき ではなく、権利を享受する主体的 な 参 加 者 と し て 決 定 過 程 に 参 加 し、社会に統合されるべきことが 掲げられていた。さらに、障害者 に対する特別扶助は非障害者に対 す る 差 別 で あ る と は み な さ れ ず、 国家は、 教育、 就業、 リハビリテー ションなどの分野で、非障害者と の格差を縮小するために特別扶助 の措置を採用していくべきである ことが建議されていた。

●公式な全体枠組みの発表

  二〇〇五年に発表された﹁障害 者保障法改正に関する全体枠組み の方案およびその説明﹂では法律 の名称および障害概念の議論が行 われたことが記されている。法律 の名称については、障害者権益保 障法と改名したほうが障害者の権 利を実現するためにも、障害者の 各種権利を促進・保障するために も有利であり、国際的な障害者立 法の最新の発展にも合致するとの 認識が示されている。また、障害 者を示す用語としては﹁残疾﹂人 よりも﹁残障﹂人のほうが外部の 障 害 お よ び 不 利 な 影 響 を 強 調 し、 障害者が権利主体となるという理 念に合致するとしている。これは 明らかに国連で作業が進められて いた障害者権利条約の議論を意識 したものであった。しかし、最終 的には障害者保障法の名称も障害 概念のいずれも変更しないことに なった。   ﹁ 全 体 枠 組 み ﹂ で 提 示 さ れ た 章 構成は、総則、政治権利、人身権 利、財産権益、婚姻家庭権益、リ ハビリテーション権益、 教育権益、 労働就業権益、文化生活権益、社 会 保 障 権 益、 バ リ ア フ リ ー 権 益、 障害者組織・機構、法律責任およ び附則の一四章である。各章のタ イ ト ル に﹁ 権 益 ﹂ ま た は﹁ 権 利 ﹂ が付され、バリアフリーなどの新 たな章が提案されている。

  改正作業はインターネット上で も公開され、二〇〇六年三月には

中国

障害者保障法改正

         

権利確立

挑戦

(3)

中国の障害者保障法改正

―権利確立への挑戦 改正草案第二稿がパブリック・コ メ ン ト を 求 め る た め に 公 表 さ れ た。改正草案は全一〇章七八カ条 から構成されており、障害者の権 利保護のためにいくつか急進的と もいえる要求を織り込もうとされ ていた。例えば、全国人民代表大 会および地方各級人民代表大会の 一定の議席を障害者に割り当てる こと、また障害者連合会は障害者 集団の利益を侵害する行為に対し て必要な場合は障害者を代表して 訴訟を提起できるとする団体訴権 などの制定が試みられた。   パブリック・コメントは五月に 締め切られ、中国障害者連合会傘 下の三〇の地方障害者連合会のほ か、障害当事者を含む個人、地方 の聾者協会・盲人協会などの専門 協会、障害者事業従事者から合計 八五件の意見が届いた。主な意見 はつぎのとおりである。 ①名称を障害者保障法ではなく障 害者権益保障法とし、 政治権利、 貧困解決、障害者組織について 独立の章を立てること。 ② 全 国 人 民 代 表 大 会 な ど に 加 え、 全国政治協商会議および各級政 治協商会議にも一定割合の障害 者代表の枠を設けること。 ③宝くじ発行で集めた資金の留保 分の一定割合を障害者福祉事業 に 割 り 振 る と し て い る 草 案 に、 最低一五 % または二〇 % と明記 すること。 ④障害者連合会は当該地の障害者 福祉企業に対して検査・監督を 実施する権限を有すると規定す ること。また、障害者雇用割当 に基づいて障害者の就業を手配 しない企業等に対しては、障害 者連合会が関連部門に処罰を建 議する権利を有すると追加する こと。 ⑤国家が主催する各種入学試験お よび国家職業資格試験において は、盲人のために点字の問題用 紙等を提供し、提供できない場 合は専門の職員が支援すべきと 追加すること。 ⑥盲人と下肢障害者だけではなく 障害者証を提示するすべての障 害者が公共交通機関の減免を受 け ら れ る よ う 草 案 を 改 め る こ と。市内交通だけではなく全国 範 囲 に 割 引 対 象 を 拡 大 す る こ と。貧困障害者に対しては医療 費、交通費、水道代、電気代な どを減免すること。   パブリック・コメントで寄せら れたいくつかの建議は採用された が、その後の第三稿では中国障害 者連合会が当初主張していた多く の内容も採択されなかった。最終 的に二〇〇八年四月二四日に改正 された障害者保障法は、改正前の 全九章五四カ条よりは条文数が増 えたものの全九章六八カ条にとど まった。障害者権利条約を意識し た改正となってはいるものの、ほ とんどは条文の順番の変更や細分 化、文章の修正であった。

改 正 さ れ た 点 ・ さ れ な か っ た 点 ①権利保護と差別禁止   改正前と比較した場合、障害者 の権利については ﹁障害者は政治 ・ 経済・文化・社会および家庭生活 等の分野においてその他の公民と 平等の権利を享有する﹂と規定さ れ変更はない。他方、差別禁止に ついては若干の修正があり、差別 禁止を強調するために障害者権利 条約に準じて﹁障害に基づく差別 を禁止する﹂との一文が独立して 設けられた。しかし、条約は障害 に基づく差別には﹁合理的配慮を 行わないことを含む﹂と規定して いるのに対して、障害者保障法に は合理的配慮に関する明文の規定 は存在しない。この点につき、全 国人民代表大会常務委員会法制工 作委員会行政法室は、条約の定義 を引用しながら、障害に基づく差 別 は す べ て の 形 式 の 差 別 を 含 み、 教育、 就業における差別に限らず、 障害者に対する合理的配慮の提供 を拒否するなどの不作為の状態を 含 む と 解 説 し て い る︵ 参 考 文 献 ② ︶。 た だ し、 中 国 の 法 実 務 か ら 考え、明文にない事項が適用され る可能性は低いと思われる。   なお、改正草案第二稿では﹁公 共サービス機構、商業機構が相手 方の障害のみを理由に、その者に サービスまたは商品の提供を拒絶 し、あるいは障害者に対してその 他 の 差 別 的 な 扱 い を し た 場 合 は、 当事者またはその後見人は主管部 門 に 是 正 を 命 じ る よ う 請 求 す る か、人民法院に精神損害等の賠償 を請求する訴訟を提起することが できる﹂ ことが提案されていたが、 上程された草案からは既に削除さ れていた。 ②国家の責任   国家の責任についての部分も不 変であり、国は障害者に対して特 別な扶助を与え、障害の影響およ び外界の障壁を軽減または取り除 き、障害者の権利実現を保障する と規定されている。 また、 県以上の 人民政府が障害者事業に責任を有 し、人民政府および関連部門は障 害者と密接に連絡し、障害者の意 見 を 聴 取 す べ き も の と さ れ て い る 。   今回の改正では、人民政府の努 力義務にとどまるものの、新たに

(4)

規・ 規 則 お よ び 公 共 政 聴 取 し な け れ ば な ら な 表 大 会 の 代 表 の 中 に、 とする規定については、 国 家 は 障 害 者 が 各 種 社 特に貧困障害者については具体的 で詳細な規定が設けられた。しか し、パブリック・コメントで意見 の多かった優遇措置の追加につい ては、改正草案第二稿にあった下 肢障害者の市内公共交通機関の乗 車賃免除の追加も含めほぼ実現し ていない。   各レベルの人民政府は、生活が 困難である障害者に対して多様な ルートをとおして生活、教育、住 居およびその他の社会救助を与え るものとされた。このうち生活保 護である最低生活保障を受け取っ てもなお生活が特に困難な障害者 世帯については、県以上の人民政 府はその他の措置をとって基本的 生活を保障するべきであることが 打ち出された。現行の最低生活保 障制度は統一された基準で給付さ れているため、個々の貧困家庭の 事 情 を 考 慮 し て お ら ず、 障 害 に よって障害者が負担している様々 なコストを控除すると保障される べき最低生活の水準に達しないこ と が 認 識 さ れ た た め に 加 え ら れ た。実際、二〇〇七年に実施され た﹁全国障害者状況観測﹂のモニ ター調査の結果では、障害者世帯 の可処分所得は中国全体の平均よ りも低いのに対して、支出面では 医療費の金額およびその消費支出 に占める割合ともに障害者世帯の ほうが二倍近く高く、障害者世帯 は非障害者世帯と比べて大きなエ キストラコストを負担している実 態が浮かび上がっている。 ④バリアフリー環境   改正では従来﹁環境﹂であった 章のタイトルが﹁バリアフリー環 境﹂へと変更され、より具体的な 内容が盛り込まれた。ただし、ア クセス権などの権利としては打ち 出されていない。 今回の改正では、 従来は努力義務にとどまっていた 道路・建築物のバリアフリー化が 義務化された。   また、従来、物理的バリアーの み を 対 象 と し て い た 内 容 に 加 え て、情報コミュニケーションのバ リアフリーが追加された。障害者 権利条約がアクセシビリティに関 連 し て 情 報 お よ び コ ミ ュ ニ ケ ー ションに言及していることから採 り入れられ、内容もそれに倣って いる。具体的には、各種国家試験 の問題用紙の点字化・電子化また は職員による支援、公共サービス 機 構 お よ び 公 共 場 所 に お け る 音 声・文字、手話、点字による情報 コミュニケーションサービスの提 供、選挙時の障害者参加の配慮お よび点字投票の提供などが新たに 規定された。ただし、国家試験に 関する規定以外は努力義務にとど まっている。各種国家試験の点字 化・電子化は、医療按摩が国家資 格化したにもかかわらず点字受験 などが認められずに排除されてき た視覚障害者が強く要望していた ものであり、パブリック・コメン トによって追加され、実現したも のである。 ⑤法律責任   法律責任の章は、対象者の権利 救済の方法および本法の各条項に 違反した場合の責任の取り方につ い て 定 め て い る。 条 文 数 が 増 え、 詳細となっているが、違反に対す る罰則は直接規定していない。教 育機構の障害学生の受け入れ拒否 については関連主管部門が是正を 命じ、かつ、法に基づいて直接責 任を有する職員などを処分するこ と、従業員募集などで障害者を差 別した場合については関連部門が 是正を命じること、バリアフリー 施設工程建設基準に適合しない建 築物・道路・交通施設の新築改築 などについては主管部門が法に基 づき処理すること、が定められて いるのみである。このように本法 は関係部門への働きかけによる解 決を主としており、 本法で﹁権利﹂ と明示された内容であっても直接 裁判では請求しにくく、差別禁止

(5)

中国の障害者保障法改正

―権利確立への挑戦 を担保するに足る罰則規定も有さ ない。   ところで、障害者の権利救済を 担う機関として障害者連合会が今 回の改正で明示的に掲げられ、関 連部門に対する調査要求の権限な ど 組 織 と し て の 機 能 が 強 化 さ れ た。これにより障害者連合会がす でに実施してきた法律扶助も法律 上の根拠を得ることとなり、予算 を含め実施体制も強化されること となった。   特定の障害者集団の利益を侵害 する行為に対しては、障害者組織 が直接関連部門に調査と処置を要 求する権利が与えられた。 しかし、 改正草案第二稿には、障害者連合 会は障害者集団の利益を侵害する 行為に対して必要な場合は障害者 を代表して訴訟を提起するという 団 体 訴 権 を 求 め る 提 案 が あ っ た が 、 これは削除された。中国は消費者 協会などにも団体訴権を認めてお らず、基本法である各訴訟法の改 正を必要とすることから認められ なかった。その結果、婦女権益保 護法と同じく、関係部門に改善を 要求し、訴訟を支持することがで きるとする内容にとどめられた。

●障害者の権利確立への課題

  障害者保障法改正の中心的役割 を担った中国障害者連合会は障害 者権利条約の制定など国際的な動 向を後ろ盾に当初は障害者の権利 を前面に出した改正をはかろうと していた。確かに改正された障害 者 保 障 法 の テ キ ス ト だ け を 見 れ ば、 リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン、 教 育、 労働・就業、文化的生活、社会保 障などはすべて国家が障害者に保 障 す る 権 利 と し て 記 さ れ て い る。 しかしながら、これらは障害者個 人が侵害を受けた場合に請求が可 能な権利ではなく、国家と社会の 保護の表れにとどまっている。つ まり、障害者保障法の中心は従前 どおり各種障害者事業であり、条 文では権利を保障すると明記され たものの、障害者が権利として請 求可能な裁判規範となる規定は少 なく、全体的に政策の宣言にとど まっている。   障害者事業の推進により障害者 の 生 活 の 質 の 向 上 を は か る こ と は、障害者自らが平等に社会に参 加するための前提であり、障害者 が権利を実現していく上で重要で ある。実際、中国は五年ごとの障 害者事業計画を策定し、数値目標 を設定しながら実行し、一定の成 果をあげてきた。しかし、この結 果、 ﹁ 権 利 ﹂ で あ る と 記 さ れ た 多 くの規定は、具体的に個人が主張 できるものではなく、あくまでも 権利宣言的なものとなり、裁判規 範としての性格を欠くこととなっ ている︵参考文献③︶ 。

●おわりに

  障 害 者 権 利 条 約 の 原 則 に 適 合 し、法的な観点から権利確立を考 えた場合、最終的には裁判所によ る権利救済を可能とする立法措置 が望ましいものの、権利救済をは かるための体制作りには一定の前 進があったものと評価できる。障 害者保障法の改正によって、障害 者の権利救済を担う機関として障 害者連合会が明記され、関連部門 に対する調査権限を獲得するなど その機能が強化された。障害者連 合会は国の委託を受けた公的組織 としての性格が強く、障害当事者 とは利益が相反することもありう るものの、唯一の障害者団体とし て障害者の法的権利確立に大きく 貢献しており、改正後の実践をと おした成果が期待される。 ︵ こ ば や し   ま さ ゆ き / ア ジ ア 経 済 研究所法・制度研究グループ︶ ︽参考文献︾ ① 王 治 江[ 二 〇 〇 五 ]﹁ 残 疾 人 権 利保障中国和国際社会﹂北京 大学法学院人権研究中心編﹃以 権利為基礎促進発展﹄北京大学 出版社、 一九六︱二〇八ページ。 ②全国人大常委会法制工作委員会 行 政 法 室 編[ 二 〇 〇 八 ]﹃ 中 華 人 民 共 和 国 残 疾 人 保 障 法 解 読 ﹄ 中国法制出版社。 ③中国残疾人聯合会維権部編[二 〇 〇 七 ]﹃ 残 疾 人 法 律 保 障 機 制 研究﹄華夏出版社。 法律扶助センターと専門協会 政府援助を得た盲人按摩

参照

関連したドキュメント

Denison Jayasooria, Disabled People Citizenship & Social Work,London: Asean Academic Press

わが国の障害者雇用制度は、1960(昭和 35)年に身体障害者を対象とした「身体障害

三〇.

  に関する対応要綱について ………8 6 障害者差別解消法施行に伴う北区の相談窓口について ……… 16 7 その他 ………

成果指標 地域生活支援部会を年2回以上開催する 実施場所 百花園宮前ロッヂ・静岡市中央福祉センター. 実施対象..

防災課 健康福祉課 障害福祉課

防災課 健康福祉課 障害福祉課

本章では,現在の中国における障害のある人び