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アフリカに広がる現金給付プログラム -- 短期的セーフティネットから中長期的開発へ (特集 アフリカの社会開発と経済発展 -- 現在そしてこれから)

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Academic year: 2021

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(1)

アフリカに広がる現金給付プログラム -- 短期的セ

ーフティネットから中長期的開発へ (特集 アフリ

カの社会開発と経済発展 -- 現在そしてこれから)

著者

牧野 久美子

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

185

ページ

16-19

発行年

2011-02

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00004310

(2)

近年、途上国世界で現金給付プ 開 発 的 」 な 側 面 が 強 調 さ れ る こ 以下、本稿では、簡単に現金給

現金給付の類型

 

ターゲティングと条件付け   受給者をどう決めるのかとの観 点から、現金給付は、選別的か普 遍的か(ターゲティングの程度や 方 法 )、 条 件 付 き か ど う か、 と い う二つの軸によって類型化するこ とができる(表 1)。   限られた予算内で効率的に資源 配分を行うために、何らかの基準 によって給付対象者を選別するこ とをターゲティングという。ター ゲティングの手法としては、所得 や資産状況を調査する「ミーンズ テスト」のほかに、支援を必要と しない人は利用しないような制度 設 計 を 行 う こ と に よ る「 自 己 選 抜 」、 貧 困 地 域 を 特 定 し て 給 付 を 行 う「 地 理 的 タ ー ゲ テ ィ ン グ 」、 受 給 者 の 決 定 を 地 域 住 民 が 行 う 「 コ ミ ュ ニ テ ィ・ ベ ー ス ト・ タ ー ゲティング」など、さまざまなや り方がある。貧困や脆弱性との相 関性の高いカテゴリーの人びとを 給付対象とする場合は「カテゴリ カル ・ ターゲティング」と呼ばれ、 高齢者への社会年金(事前の拠出 なしに支払われる年金)がその代 表的な形態である。ミーンズテス トについては、所得や資産を子細 に 調 べ る 代 わ り に、 家 の 大 き さ、 ラジオや自転車などの家財道具の 有無、世帯内の子どもや働くこと のできる大人の数といった指標で 判 断 す る「 代 理 ミ ー ン ズ テ ス ト 」 も広く行われている。   他方、条件付きというのは、子 どもの通学や保健プログラムへの 参加など、受益者が特定の行動を とることを給付の条件とするもの である。 条件付き現金給付は、 ター ゲティングと組み合わせて実施さ れるのが一般的であり、またどれ かひとつだけではなく、二つ以上 のターゲティング手法を組み合わ せることも多い。たとえば、地理 表1 現金給付の類型 「条件付き現金給付」 (CCT) ワークフェア 貧困世帯を対象とする無条件現金給付 ベーシック・インカム うち、社会年金 条件の有無 あり (あり)1) なし なし なし ターゲティングの有無 あり あり(自己選抜) あり あり(カテゴリカル・ターゲティング)2) なし 実施しているアフリカ の国の例(パイロット・ プログラムを含む) ガーナ、ブルキナファ ソ、ケニア、ナイジェ リア など エチオピア、南アフリ カ など ザンビア、マラウイ など 南アフリカ、ボツワナ、 レソト、モーリシャス、 ナミビア、スワジラン ド など ナミビア (注) 1)ワークフェアは、就労を条件とする現金給付とみることもできるが、通常、「条件付き現金給付」(CCT)と呼ばれる場合の「条件」とは、教育、保健に関わるものであり、ワーク フェアがCCTと呼ばれることは少ない。 2)ミーンズテストなど他のターゲティング手法が併用されることもある。 (出所)Fiszbein and Schady (2009), Hanlon et al (2010)などをもとに筆者作成。

広が

る現金給付

︱短期的

ら中長期的開発

(3)

的ターゲティングによって対象地 域を絞ったうえで、代理ミーンズ テストやコミュニティ ・ ベースト ・ ターゲティングによって対象世帯 を選別し、さらにそのなかで行動 的条件をクリアした世帯のみに実 際に給付する、といったことであ る。   タ ー ゲ テ ィ ン グ の 程 度 や 方 法、 条件を付けるかどうかは、プログ ラムの目的や理念、実施する社会 の状況、また利用可能な予算規模 などによってケース・バイ・ケー スである。ターゲティングを厳し く行い、受給者をごく少数に絞り 込めば、予算の観点からは効率的 であるが、支援を必要とする人が 多 数 漏 れ て し ま う か も し れ な い し、受給にスティグマ(社会的烙 印) がつきまといやすい。反対に、 なるべく普遍的に、多くの人に給 付を行き渡らせようとする考え方 もある。その最たるものが「ベー シ ッ ク イ ン カ ム 」( す べ て の 人 に 対する無条件の所得保障)である が、 同じ予算であれば、 ターゲティ ングを行う場合と比べて一件当た りの支給額は少なくなるし、誰も が給付を受けることについてはな かなか理解が得られにくい。

 ア

プログラム

  「 開 発 的 」 な 現 金 給 付 が 注 目 さ れるきっかけとなったのは、メキ シコ、ブラジルなどラテンアメリ カ諸国で始まった「条件付き現金 給付」であったが、近年ではアフ リカ諸国にも様々な形態の現金給 付プログラムが広がっている。   干ばつや洪水などの自然災害後 の緊急支援としての現金給付はす でに珍しいものではなくなってい る。緊急支援の「定番」である食 糧援助については、無料の食糧が 大量に出回って地元の農家や小売 業者が打撃を受けるという問題が 指摘されてきた。それに比べて現 金給付は 「市場に中立的」 であり、 被災者が自らの優先順位に応じて 食糧以外のものも購入できるとい うメリットもある。   条件付き現金給付は、所得向上 と教育や保健など他の開発目的を 同時に達成しうるものとして高く 評価され、世界銀行など援助機関 の後押しもあり、多くの途上国に 広がることになった。しかし、条 件付き現金給付には、意思さえあ れば誰もが容易に条件を満たすこ とのできる環境が必要で、学校教 育や保健サービスの普及が遅れて いるアフリカでは実施が難しいと も言われてきた。そのため、アフ リカでは、ターゲティングは行い つつも行動面での条件をつけない タイプの現金給付プログラムが比 較的多い。   た だ し 、 ア フ リ カ で も 条 件 付 き 現 金 給 付 は 徐 々 に 普 及 の 兆 し が 見 え て い る 。 ガ ー ナ で 二 〇 〇 八 年 に 導 入 さ れ た 「 貧 困 対 策 生 活 エ ン パ ワ ー メ ン ト 」( Liv elihoo d Em po w er m en t A ga in st Po ve rty LEAP)プログラムは、子ども を学校に通わせること、児童労働 をさせないこと、国民健康保険制 度に加入することなどを条件とし て、貧困世帯に現金給付を行って いる。このほか、 ブルキナファソ、 ケニア、ナイジェリアなどでも条 件付き現金給付プログラムが試行 されている。   ワークフェア型の現金給付プロ グラムはアフリカには比較的少な いが、エチオピアでは、干ばつの たびに繰り返される緊急食糧援助 に代わるものとして、二〇〇五年 から農閑期に公共事業での労働と 引き換えに現金給付を行う生産的 セ ー フ テ ィ ネ ッ ト・ プ ロ グ ラ ム ( P ro d u c ti v e S a fe ty N e t Prog ramme : P S N P ) が 実 施 されている。また、南アフリカで も、つぎに述べる社会手当とは別 に、短期的な雇用提供を目的とす る公共事業プログラムが実施され ている。   現在の「現金給付ブーム」は二 〇 〇 〇 年 前 後 に 始 ま っ た も の だ が、南アフリカの社会年金は八〇 年 以 上 も の 長 い 歴 史 を 持 っ て い る。南アフリカの社会年金につい ては、年金受給者と同居する子ど もの栄養状態が、そうでない子ど もよりよいといった研究結果が一 九九〇年代以降に相次ぎ、高い貧 困軽減効果をもつとの評価が定着 し て き た( 詳 細 は、 牧 野[ 近 刊 ] 参 照 )。 社 会 手 当 と 呼 ば れ る 南 ア フ リ カ の 現 金 給 付 の 対 象 は 高 齢 者、 障害者から子どもへと広がり、 現在、一三〇〇万人以上が何らか の給付の対象となっている。この ほか、社会年金は、ボツワナ、レ ソ ト、 モ ー リ シ ャ ス、 ナ ミ ビ ア、 スワジランドにも存在する。その う ち、 ボ ツ ワ ナ、 モ ー リ シ ャ ス、 ナミビアの社会年金は、ミーンズ テストなしに高齢者全員に支払わ れる普遍的なものである。

●条件を付けるか、否か

  先に述べたように、条件付き現 金給付を実施するには、誰もが容 易に条件を満たす行動をとれる環 境が必須である。 そうでなければ、

アフリカに広がる現金給付プログラム ―短期的セーフティネットから中長期的開発へ

(4)

な っ て い る か ら こ そ、 向 へ 導 く 必 要 が あ る、 (父権主義) み て と る こ と が で き ラ ム を 並 行 し て 実 施 あ る( IRIN [2010] )。 持 を 得 や す い こ と か

ターゲティングに関わる問題   条 件 付 き か ど う か に か か わ ら ず、アフリカ諸国の現金給付プロ グラムの多くで取り入れられてい る の が コ ミ ュ ニ テ ィ・ ベ ー ス ト・ ターゲティングである。 たとえば、 ザンビアで二〇〇三年に始まった パイロット・プログラムは、地域 住民から構成される委員会が、地 域のなかで最も貧しく、支援を必 要 と し て い る と 認 め た 全 体 の 一 〇%以内の世帯が現金給付を受け 取 る 仕 組 み に な っ て い る。 シ ュ バートによれば、プログラム開始 後は、子どもの栄養状態や通学状 況に改善がみられ、現物ではなく 現 金 が 支 給 さ れ る こ と に つ い て は、各世帯のニーズや優先順位に 応じた使い方ができるとして受益 者の評価が高かったという。 他方、 問題点としては、支給対象に選ば れた世帯以外にも、慢性的な飢え や栄養失調に直面している世帯が 多 数 あ っ た と い う( Schubert [2005] )。 マ ラ ウ イ で も 同 様 に 地 域住民委員会が一〇%以内の支給 対象世帯を選ぶ現金給付プログラ ム が 行 わ れ て い る が、 エ リ ス は、 人口の半数以上が貧困で、その内 部での生活水準の差が小さいザン ビアやマラウイのような国におい て一〇%ルールを課す意義を疑問 視し、カテゴリカル・ターゲティ ングによる現金給付のほうが地域 社会の分裂を招かないし、手続き の複雑さも回避できるとしている ( Ellis [2008] )。   先に述べたように、カテゴリカ ル・ターゲティングによる現金給 付の代表的な形態が社会年金であ る。年金は本来、働くことができ ず他の年代より貧困に陥りやすい 高齢者の生活を支えることを目的 と す る も の で あ る が、 近 年 で は、 高齢者のいる世帯全体の貧困軽減 という観点から社会年金が注目さ れることが増えた。 コミュニティ ・ ベースト・ターゲティングにまつ わる問題への認識が高まっている ことに加え、 とくにアフリカでは、 親をエイズで亡くすなど、HIV /エイズの影響を受けた子どもの 面倒を高齢者(とりわけ女性高齢 者)がみているケースが多いこと も、高齢者をターゲットとした現 金給付である社会年金が注目され る背景となっている。しかし、当 然ながら、高齢者のいない貧困世 帯もあることから、社会年金も貧 困層をターゲティングする方法と して完全なものではない。   ターゲティング自体を行わない ベーシックインカム型の現金給付 は、ナミビアの一地域で二〇〇八 年から非政府組織による社会実験 が 行 わ れ て お り、 子 ど も の 教 育、 保健状態の改善のほか、手にした 現金を元手にスモール・ビジネス を始めた人が多く、地域経済の活 性化が見られたと報告されている ( Haarman et al. [2009] )。 ただし、 このプロジェクトは貧困地域で実 施されているので、一種の地理的 ターゲティングが行われていると 見ることもできる。 いずれにせよ、 ターゲティングの基準をどのよう に設定するかはつねに難しい問題 である。

●おわりに

  ラテンアメリカで始まった途上 国世界の現金給付はアフリカにも 広がり、現在、少なくとも四五の 途上国で、一億一〇〇〇万世帯が 何らかの現金給付を受け取ってい るとされる( Hanlon et al. [2010: 167] )。   現金給付は万能ではなく、それ だけで貧困を解決できるようなも のではない。そもそも、アフリカ 諸 国 で 実 施 さ れ て い る 現 金 給 付 は、南アフリカの社会年金など一 部の例外を除いて、月額数米ドル から十数米ドル程度のごく少額の ものである。現金給付は、経済活 動への参加や、その前提となる人

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的資本形成が妨げられるほどの極 度の貧困への対応の一部であるに 過ぎない。条件付けによって直接 結 び つ け る か ど う か は 別 と し て、 現金給付による所得保障は、 教育、 保健、その他の社会サービスの拡 充とセットで考えられるべきもの であり、それらを代替するもので はない。   社会年金を除く、アフリカ諸国 の現金給付は、まだ試行段階にと ど ま っ て い る も の が 多 い。 パ イ ロット・プログラムの多くは、ド ナーの資金援助により実施されて いるが、全国規模に広げ、持続的 にプログラムを実施するには、国 内にも財源を求めていく必要があ る。低所得国では、にわかにはス ケ ー ル ア ッ プ が 難 し く 思 わ れ る し、もともと自前で現金給付を実 施してきた南アフリカのような中 所得国でも、膨らむ一方の社会手 当の持続可能性については懸念の 声が聞かれる。   それでも、現金給付には大きな 可能性がある。ハンロンらは、途 上国世界に広がる現金給付の効果 について、つぎのようにまとめて い る。 「 現 金 給 付 は 短 期 的 に 貧 困 レベルを削減し、 苦難を和らげる。 中期的には、多くの貧しい人々が 主体性を発揮し、生産性や所得を 向上させるために個々人のレベル で計画を立て実行することを可能 とする。長期的には、 より健康で、 教育水準が高く、経済機会をとら えて社会の広い範囲に及ぶ経済成 長に貢献する世代を生みだすこと が で き る 」( Hanlon et al. [2010: 165] )。 現 金 給 付 が「 開 発 的 」 で あ る と い う と き に 含 意 さ れ る の は、現金給付をコストではなく投 資とみる考え方である。 すなわち、 現金給付は、一時的なセーフティ ネットを提供するだけでなく、中 長期的な人間開発、経済発展の基 盤ともなりうるのである。 ( ま き の   く み こ / ア ジ ア 経 済 研 究 所   アフリカ研究グループ) 《参考文献》 ① Ellis, Frank [2008] "'W e Are All P o o r H e re ': E c o n o m ic D iffe re nc e, So cia l D ivi sive ne ss , an d Ta rg eti ng C as h Tr an sfe rs in S ub -S ah ar an A fri ca ," pa pe r pr ep ar ed fo r t he c on fe re nc e "S o ci al P ro te ct io n f or t h e P oo re st in A fr ic a: Le ar ni ng fr om E xp er ie n ce ," h el d in K a m p a la , U g a n d a , 8 -1 0 Se pt em be r. (h ttp :// w w w .u ea . ac .u k/ po lo po ly _fs /1 .8 74 56 !/ fe -p ap er -s p -s ep t2 0 0 8 .p d f, retriev ed 17 Nov ember 2010) ② Fis zb ein , A rie l, an d N or be tt Sc ha dy [2 00 9] Co nd itio na l C as h Tra ns fer s: R ed uc in g P res en t a nd Future Poverty , W ashington D C: W orld Bank. ③ Haarman, Claudia, et al. [2009] M ak in g t he D iffe re nc e! Th e B IG in N am ib ia : T he B as ic In co m e Gr an t P ilo t P ro jec t A sse ssm en t Report, April 2009. (http://www . big na m .o rg /P ub lic ati on s/ BIG _ A ss es sm en t_ re po rt_ 0 8 b.p df , retriev ed 13 A ugust 2010) ④ H an lo n , J os ep h , A rm an d o Ba rr ie nt os a nd D av id H ulm e [2 01 0] Ju st Giv e M on ey to th e P o o r: T h e D ev el o p m en t R ev olu tio n fr om th e G lo ba l So uth , S te rli ng , V A : K um ar ia n Press. ⑤ IR IN [2 01 0] "M ala w i/A na ly sis : U n co n d iti on al M on ey ," 1 0 Au gu st. (h ttp :// w w w .re lie fw eb . in t/ rw /r w b.n sf /d b9 0 0 sid / V VO S-8 7X P9 U ?O pe nD oc um en t, re trie ve d 1 1 D ec em be r 2 01 0) ⑥ 牧 野 久 美 子[ 近 刊 ]「 年 金 は 誰 の た め │ │ 南 ア フ リ カ の 非 拠 出年金に関する批判的分析」宇 佐見耕一編『新興諸国における 高齢者生活保障制度』日本貿易 振興機構アジア経済研究所。 ⑦ Sc hu be rt, B er nd [2 0 0 5 ] T he P ilo t So ci al C as h T ra n sf er Sc h em e K a lo m o D is tr ic t - Za m bia , C PR C W or kin g Pa pe r 5 2 , M an ch es te r: C h ro n ic P o ve rt y R es ea rc h C en tr e. (h ttp :// w w w .c hr on ic po ve rty . or g/ up lo ad s/ pu bli ca tio n_ file s/ WP52_Schubert.pdfm retriev ed 9 October 2010)

アフリカに広がる現金給付プログラム ―短期的セーフティネットから中長期的開発へ

参照

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