Title
[特別講演]沖縄農業の現状と課題
Author(s)
森高, 正俊
Citation
沖縄農業, 27(1・2): 27-38
Issue Date
1992-07
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/1280
Rights
沖縄農業研究会
特 別 講 演
沖 縄 農 業 の 現 状 と課 題
森
高
正
俊
(
沖縄総合事務局農林水産部 )
ただいまご紹介頂 きま した森高で ございます。 簡単にまとめま した 「沖縄農業の現状と課題」と いう資料をお手元にお配 りして ございます ので、 これをもとに しなが ら話を進めていきたいと思い ます。私は大学の研究者の皆様を前にお話をす る ということに慣れていないものですか ら、話の途 中で分か りにくいことがあるか も しれ ませんが、 あ らか じめ御容赦頂 きたいと思います。私は、先 程紹介頂 きま したように、5
月1
日にこちら (沖 縄総合事務局)に赴任 したばかりでございまして、 島内隅 々を廻 りおえたという状況にはございませ ん。そういう意味では、実態認識は表面的なとこ ろに触れただけですので、その点もあらか じめ御 容赦頂 きたいと思います。 それでは本論のほうに移 らせ ていただきます。 まず、話の進め方といた しま しては項 目を大きく 三つに分け、第1
点は、復帰がなされた昭和4
7
年 以降今 日に至るまでの時間的経過を踏まえた沖純 農業の成果と問題点を農家経済の面か らみておき たいと思 っております。第2
点は、土地利用型農 業の合理化の遅れと農業労働力の脆弱化 という問 題、第3
点は沖純農業の新 しい段階を目指 してと いう順序で話 してまいりたいと思います。1
.
畳衷経済からみた沖縄景集の成果 と問題 沖縄の農家経済か ら現状をみますと二点は どの 特徴をみることができます。まず、農家経済の概 況をみます と、昭和4
7
年の復帰以降本土との格差 是正が沖縄振興開発特別措置法等のいろいろな制 度的手当が図 られてきたわけです。そのような中 でのほぼ2
0
年間を振 り返 ってみて、どのような成 果を得たのかを農家経済の面からとらえたものを 表- 1に、都府県平均と沖縄 とを対比 して示 して ございます。 義-1
農 棄 経 済 の 概 要 (単位 :千円) 農 家 農業票得 姦 粗品 農急 営費 農外所得 可処分所得 家 計 費 --都
S.
幻
5
5
3,406.0 4.524.0 府の
5,521.7H
.元 6,223.2 元畑
182.7% 1,096.1 1,971.1 905.6 2,275.3 1,007.6 2,693.6 1,028.5 2,647.5 93.8 134.3 875.0 2.309.9 1,369.7 3,618.4 1,686.0 4.514.
1 1,619.0 5,
194.7 185.0 224.9 3,566.6 2,646.4 4,816.4 3,935.5 5,786.4 4,705.0 6,672.7 5,106.0 187.1. 192.9 920.2・ 880.9 1.081
.4 1,566.7 170.3 沖 純S.
幻
2,296.45
5
3,412.7a
)
4,055.0 比 元 4,368.0 元/知 190.2% 579.4 941.0 778.1 1,388.4 1,201.0・ 2.355.5 1.241.0 2,373.2 214.2 252.2 361.6 1,717.0 610.3 2,634.6 1,154.5 2,854.0 1,132.1 3,126.9 313.1 182.1 2,495.6 1,969.5 3,392.
1
2,660.9 4,319.0 3,365.1 4,727.1 3,731.9 189.4 189.5 526.1 731.2 953.9 995.2 189.2 S ! tB 餌 元 S托
沖 姓7
都
府
県
67.4% 75.4% 73.4% 70.2% 52.9 47.7 85.9 61.0 119.2 87.4 120.7 89.6 41
.3 74.3 44.6 72.8 68.5 63.2 69.9 60.2 70.0 74.4 70.4 67.6 74.6 71.5 70.8 73.1沖縄農業第27巻第1.2併号(1992年) 28 この表からまず第一にいえますことは、農業取 得のほかに農外所得等を含めた農家所得をセンサ ス年次で推移をみますと、昭和50年の都府県平均 の農家所得は340万円でありましたが昨年の平成 元年には約2倍近い620万円まで伸びてきていま す。その間、沖縄の農家所得は230万円から440万 円弱で全体としては伸びてきていますが、それで もなお本土の約7割程度の水準にとどまっていま す。ところが、この農家所得の内容を分析してみ ますと、農業所得は都府県平均が100万円前後で 推移してきたのにたいしまして沖縄の場合はこの 間60万円から120万円と2倍になっていることで す。他の都府県の農業所得がどうしてこのように なっているのかと申しますと、すでにご承知のよ うに、稲作の生産調整が大きな原因としてあげら れます。そういう点では沖縄の場合には稲作がな いこととそれに生産調整がないという両面で比較 的幸運であったという様にいえるのではないかと 思います。 第二に、農外所得の面をみてまいりますと、本 土の都府県の場合は多様な兼業機会があり、また その機会が増大してきたということもございまし て、昭和50年の230万円に対しまして平成元年に |ま520万円と2倍強の伸びとなっております。こ れに対して沖縄のほうはどうなっているのかと申 しますと、50年の170万円に対して310万円弱と約 18倍に伸びています。このように沖縄の農外所 得も伸びてはいるのですが、水準としては都府県 平均の6割でしかないわけです。これは、兼業機 会、特に中心となる恒常的な勤務労働、すなわち 民間企業や役所、農協のような安定的な兼業機会 があるか否かに左右されます。このような面から みますと、沖縄においても農外所得は増大する傾 向にありますがその伸びは本士の都府県ほどでは ありません。そうなりますと、農家の所得をある 程度確保し本土との格差を是正するためには、ま ず農業所得を伸ばすことが重要になると思われま す。 2.土地利用型農業の合理化の遅れと農業労 働力の脆弱化 次に士地利用型農業の合理化の遅れと農業労働 力の脆弱化について述べたいと思います。第一に、 簡単に農業粗生産額の推移を表-2で説明してお きます。沖縄農業の総粗生産額は復帰直後の昭和 48年には451億円でした。それがその後順調に仲 表一之農業生産額の推移 (単位:億円)
区分竃葦50555657585960616263堯窒
農業粗生産額4516489361,0191,0541,0681,1141,1601,1171,1081,0501,140
(総額) びて56年になりますと1000億円を超え、その後も 伸びて60年には1160億円になりますが、現在まで 1200億円を超えるまでにはいたっていません。し たがいまして、ある意味におきましてはここ10年 くらいの期間、農業粗生産額の伸びは停滞傾向に あるといえようかと思います。現在、農業粗生産 額のうちでおよそ畜産が3割、さとうきびが3割、 野菜が2割、花きが1割という割合になっており ます。いずれにいたしましても沖縄県におきまし ては土地利用型農業の代表といわれておりますさ とうきびの生産額は約350億円を超える程度でし ばらく推移しております。森高:沖縄農業の現状と課題 29 第二に、沖縄農業を農家の経営構造の面からみ てまいりたいと思いますが、表-3に都府県平均 と沖縄の「農家経営における農業就業者数と農業 労働時間の推移」を示し対比してございます。
表一s農家経営における農業就業者数と農業労働時間の推移(戸当たり)
働時間 動力使用 自家農業労働時間家族ゆい、我・手1M暦負雇用時間
労 家族の 労働時間 計 S50 55 60 H,元 5,116 5,029 4,920 4,770 2,197 1,908 1,875 1,734 6209 4332 2,101 1,838 1,798 1,659 0876 5344 214 228 236 都府県 S50 55 60 H,元 4,492 4,155 4,948 4,615 1,856 1,652 2,244 2,158 1,942 1,777 2,556 2,470 41 31 152 133 45 94 160 179 089 378 沖縄県州/鰔版/制
87.8% 96.8% 93.2% 102.7% S50 H・元 都府県 仲縄 88.4 142.4 78.7 127.2 88.3 130.1 79.0 1163 89.1 4586 63.0 324.4 90.0 389.1 92.0 397.8 14.0s60(37.7)
110.3 296.7 まず一つには、労働時間をトータルにみてどの ようなことがいえるのかと申しますと、都府県平 均の労働時間はこの15年間にかなり減少しており ます。特に、自家農業労働時間は2200時間から17 00時間と約500時間の減となっており、これに対 して沖縄の場合は2000時間から2500時間と逆に大 幅に増えています。これはどういうことかといい ますと本土の都府県の場合は、稲作が主体となっ ているからだといえます。稲作の場合は機械化が 非常に進んできたことが家族の労働時間を減少さ せたということです。それに対してγ沖縄の場合 は増加したのは、推測の域をでていませんが、さ とうきび作の機械化が進まず、野菜や花きのよう な集約的な農業が増えてきたことによるのではな いかと考えられます。 この表から読み取れるもう一つのことは、自家 農業労働時間のなかで、「ゆい」、「手伝い.手 間替え」、「雇用労働力」へどの程度依存してい るのかということです。本土の都府県でも「ゆい」 に当たるものに伝統的な集落内の共同作業があり ました。しかし、「ゆい」はだんだん減ってきて おり、また「雇用労働力」は若干の推移はあるに せよ横這いの状況にあります。これに対して沖縄 の場合には「ゆい」、「手伝い.手間替え」が昭 和60年以降も増えていますが、なぜ増えているの かは明らかではありません。また、「雇用労働力」 も増えてきています。しかし、沖縄の場合、この ような「雇用労働力」等の外部の労働力に依存す るような傾向がはたして今後とも続くのかという ことが問題です。このことを判断する資料の-つ に図-1の「農村における労賃水準の動き」を示 しておきました。この図では農村の農業以外(左沖縄農業第27巻第1.2併号(1992年) 30 10,000円
弓等
=÷
5,000円 賃金 0 2年 一 兀 63 62 図-1農村における労賃水準の動き 注1).大工、左官、軽作業の数値は、「農業賃金調査」(沖縄総合事務局農林水産部) より引用 2).農業臨時属賃金の数値は、「農業労賃・農作業料金に関する調査結果」(沖縄県 農業会議)より引用 官・大工・軽作業)の雇用労賃=農村賃金の農業 臨時層賃金を比較しておりますが、農業以外の軽 作業部門の農村賃金が平成元年から2年にかけて 急に上昇し、男子の場合農業臨時層賃金を超えて 上昇し、逆転しているわけです。女子の場合も、 これまでは農業サイドの労賃水準がはるかに高かっ たのですが平成2年には同水準となっております。 このような状況から考えますと、ただでさえ「き つい」、「汚い」とよく言われますいわゆる「3 K」ということになって労働力がますます集まら ないということになります。要するに、農業内の 労働力がだんだん農業以外の他の産業に吸収され ていくことを示しているわけです。そういう面か らみますと、雇用労働力に依存しつつある現在の 状態はいつまでも続くものとはいえないと思える わけです。 それから三つには、表-3に戻っていただきま すが、この表は農業労働時間との兼ね合いの中で 動力使用時間について示してございます。動力使 用時間は都府県平均では増加傾向にあって昭和60 年には200時間強となっておりますが、沖縄の場 合は昭和50年の30時間から60年には約90時間近く まで増えてきていますが依然として本土との格差 がみられます。これはどういうことを意味するの かといいますと、やはり機械化がどの程度進んで いるのか、ということです。これは個別経営の資 本装備という面でも問題になりますが、この機械 装備がまだまだ低い水準にあるということではな いかと思います。以上が表3の内容でございます。 第三に、いま述べましたことと関連しますが沖 縄農業をみる場合に、やはり念頭にさとうきび作 をおかないわけにはいかないと思います。このさ とうきび作の場合に機械化が非常に遅れているということがございます。このことを別の視点から
みますと、表-4の10a当たりの労働時間で示す
ことができます。この表によりますと、さとうき森高:沖縄農業の現状と課題 31 表-4さとうきび作り10アール当たり労働時間等(元年) 労働時間169.3時間(水稲の3.7倍) うち収穫労働87.2時間(水稲の9.3倍) 労働賢生産費の費用合計の79.1%(水稲は36.7%) 農機具賛生産費の費用合計の2.8%(水稲は30.6%) び作の10a当たり労働時間は年間ほぼ170時間とさとうきび作の場合はせいぜい2.8%にすぎない なっています。これを水稲と比較してみますと、わけでございます。 約3.7倍の時間を費やしているわけです。総労働このように、これまでのさとうきび作の動向を 時間のうち収穫作業の労働にどのくらいの時間をみてまいりますと、機械化が非常に立ち遅れてい 費やしているのかと申しますと、さとうきびでるということがおわかりいただけたかと思います。 87.2時間(51.5%)、水稲は約9.4時間(16.6%)ところで、このさとうきびの収穫を将来とも人間 を占めており、さとうきび作の収穫作業労働時間の手で刈り取っていけるのかどうかとなりますと、 に対し水稲作の収穫作業労働時間は、約1/9~先ほど労賃水準のことで少しお話いたしましたよ 1/10となっております。この結果、生産費の費うに、今後の見通しは必ずしも甘くはないという 用合計のなかに占める労働費の割合は、さとうきことのほかに、農村の構造的な変化が最近顕著に び作の場合は79.1%、水稲作の場合は36.7%となっなってきていることにも注目する必要があります。 ているわけです。このことは、さとうきび作の場このことが第四に申し上げたいことです。すなわ 合、人間が手で刈り取らざるをえないという現状ち、農村において就業人口が減少し、なおかつ若 をよく表わしているといえます。当然のことなが 年労働力が著しく減少していることと、高齢農家 らこの労働費が高いという裏は農機具費が少ないが著しく増えているということですが、これは表一 ということになります。水稲の場合には総生産費5に示してございます。 に占める農機具の割合は30.6%となっていますが、 まず、沖縄の現在(平成2年)の農業就業者数 表-5農業就業人ロの推移(自家農業に主として従事した世帯員数) 実数(人)比較(%)
篝業者義16~29歳30~59歳60歳鶴以上震業者義腓29歳30~59歳60歳以上
65歳以上 ※100.0%総昭・50
55 60数平.2
75,715人 71,814 69,238 60,420 39,286 35,151 32,256 25,343 23,811 25,268 29,202 30,363 15,420 16,466 19,267 20,883 12,618 11,395 7,780 4,714 94.8 91.4 79.8 90.3 61.7 37.4 89.5 82.1 64.5 106.1 122.6 127.5 106.8 124.9 135.4 ※100.0%男昭・50
55 60千平.2
32,253人 33,421 33,221 29,313 12,934 13,096 13,261 11,065 12,145 13,209 14,868 15,079 8,257 9,202 10,370 10,800 7,174 7,116 5,092 3,169 103.6 103.0 90.9 99.2 71.0 42.8 101.3 102.5 85.5 108.8 122.4 124.2 106.8 124.9 135.4 ※100.0%女昭・50
55 60子平.2
43,462人 38,393 36,017 31,107 26,352 22,055 18,995 14,278 11,666 12,059 14,334 15,2M 7,163 7,264 8,897 10,083 5,444 4,279 2,688 1,545 88.3 82.9 71.6 78.6 49.4 28.4 83.7 72.1 54.2 103.4 122.9 131.0 101.4 124.2 140.8 注)※は昭和50年を100.0とした場合の年別比率沖縄農業第27巻第1.2併号(1992年) 32 Iま約6万人で、昭和50年に比較して約1万5000人 減少しています。この農業就業者のなかで、若年 労働者といわれる16才から29才未満の年齢階層を みますと昭和50年の1万2000人から平成2年には 5000人弱に減ってきております。一方、65才以上 の年齢階層は50年の1万5000人が平成2年には2 万人へ増加しております。最近、特に長寿社会に なりまして、人間の寿命が伸びてきておりますか ら、ある程度は寿命の伸びに応じて活動しうる期 間も長くなってきたとはいえますが、いずれにし ても労働力がかってのようにそう豊富だとはいえ ないと思います。このように、農業における労働 力構造が大きく変わりつつありますことから、土 地利用型農業であるさとうきび作については、今 後経営構造をどのようにするのかという課題があ るわけでございます。特に、今月の初め頃に地方 農政局長会議に出席いたしまして、全国各地方局 の管内の情勢をお聞きしましたが、そのなかで全 国共通していえることは最近における農村の労働 力事情が大きく変化しているなかで、本土の各都 道府県の場合は稲作が中心でございますが、その 担い手がはたしてどの程度期待できるのかという ことが大きな話題になったわけでございます。沖 縄の場合もさとうきび作について県なり農業団体 なりといろいろ意見交換をしましたが、さとうき び作についてはなかなか「顔」が見えてこないと いうように受止めているのが率直な感想でござい ます。稲作については、一部に請負いなどを含め て「顔」がかなり見えてきつつあるというのが私 が受けた印象でございます。他方、沖縄の場合に ははたしてそのような「顔」が見えてくるのか、 といいますと正直にいいましてそれがございませ ん。もう少し仔細にいろいろな地域をみますれば それも出てくるのかもしれませんが、私の印象で はそれがなかなか見えないということでございま す。以上が労働力に関する問題でございます。 第5に、このような状況のなかにおきまして、 土地利用の高度化が遅れているという問題があり ます。中でも、さとうきびと野菜の土地生産性が 伸び悩んでいることについて少々述べておきたい と思います。図-2を御覧ください。さとうきび の平成2年産の10アール当たり収穫量は6.5tで、 -10a当たり収量(t)
、収穫面積(千ha)
i霧霧霧収穫量(万t)
a 1n 収穫面積千 収穫量 万t 10a当たり 収量(t) 85 200 8 60 150 6 30 127 130#1章|薑|薑|薑liiiilMiii‘
225鐘ィ
205 100 4 20 50 0 2 10 5051525354 年産 図-2 555657585960616263元2(予想) さとうきび生産の推移森高:沖縄農業の現状と課題 33 これを昭和50年産以降の10アール収穫量の推移の 中で見ますと平成元年が8.5tと最高で、55年が 6.2tで最低となっており、この元年の8.5tは史 上最高の記録でございます。これらの両極端の年 次を除外しほぼ平均的とみられる53年産、58年産、 60年産をみてまいりますと、せいぜい7.4~7.5t 位が平均的な限界とみることができるのではない かと思われます。このことに関する具体的な資料 を持ち合わせておりませんが、砂糖の原料作物と いうことでは沖縄はさとうきびでございますが北 海道では甜菜でございます。この甜菜の土地生産 性(単位面積当たり収穫量)の伸びは、最近かな り著しいものがあるといわれております。北海道 の甜菜は畑作農業として輪作体系が確率されると ともに、大型機械化体系による大規模経営でコス トの低減を図っております。しかしながらそれで もなお外国産に比べるとコストが高いのです。こ のようなコストの面からみましても沖縄のさとう きび作についてはまだまだ生産性の向上を図る必 要があるというのが実感です。今後、一層の高齢 化の進行や都市化の進展等を考えた場合に、ある 程度の農地面積については非農業的土地利用に転 換させていくことも場合によっては必要になるか もしれませんが、そのような場合でもさとうきび 生産をある程度維持していかなければならないと いうようなことを前提として考えなければならな いといたしましても、その場合には少ない面積か ら大きな収穫量を獲得することで対応していくと いう問題に当面するのではないかと思います。こ の点は後ほどまた触れてまいりたいと思います。 以上のような現状のいろいろの問題について述 べてまいりましたが、今後これらの問題に取り組 むときにどのような課題が設定されるのか、とい うことについて述べたいと思っております。 述べましたようにさとうきびの生産性の向上に必 要な機械化を促進するということでございます。 特に、当面の問題になっておりますのは収穫作業 の機械化の問題です。ただ、機械化といいまして も、どの作物でも同じでございますが、単に機械 を単品だけ持ち込むだけでは機械化は実現しない という問題があります。沖縄におきましてはこれ まで約20年間にわたりましてさとうきびの機械化 が急務だと言われ続けており、そのために機械の 開発に毎年かなりの費用を投入しているわけでご ざいます。 このような経過をみてまいりますと、単に機械 の開発改良だけに集中しても機械化はなかなか根 付かないということでございます。このように機 械化がなかなか実現しない理由はいろいろあると 思います。機械開発のメーカーにとりましてもた かだか3万ha~4万haの市場規模を対象にす ることからすれば、機械を生産する施設を整備し て生産したとしても、機械の普及(=販売)の見 通しや投資した資金の回収の問題を考えた場合に はなかなか熱心にはなりえないという問題もあり ます。さらに、仲縄自体の自然条件といたしまし て気象的にはどちらかというと冬雨気候地帯に属 していることと、土壌的に問題がございます。沖 縄の土壌地帯は大きくわけてジャーガル土壌地帯、 島尻マーヂ土壌地帯、国頭マーヂ土壌地帯があり ますが、それぞれの土壌特性によって機械の走行 等に与える影響が一様ではないということでござ います。例えば、ジャーガル土壌地帯では雨が降 るとタイヤを装着した機械は稼働しにくいとか、 そのために雨が上り圃場が乾くまで作業をストッ プしなければならないために機械の稼働率が低下 するということで農家から苦情が出るなどの問題 もあります。このような問題に対して、タイヤに 替えてゴムのクローラを装着した機械を開発する などいろいろな工夫がなされているわけですが、 その場合にこのような改良投資が機械開発メーカー 3.沖縄農業の新しい段階を目指して 新しい段階を目指す場合の第1の課題は、既に
沖縄農業第27巻第1.2併号(1992年) 34 機械の稼働率を高めるための圃場の団地化と、さ らには農道の整備を進めなければならないと思い ます。それと同時に、今後は、早魅にある程度耐 えられる水資源の確保も重要な課題であります。 この水水源の確保の問題はさとうきび作に限った 問題ではありません。野菜や花き、果樹などの他 の作物においても水資源の確保は重要な課題となっ ております。 第2に、新しい段階を目指すにおいて重要な課 、題は、土地利用の調整に関する問題であります。 土地利用調整の問題は、機械化作業一貫化体系を 実現するためにはどうしても取り組まなければな らない課題であります。 沖縄における土地利用のしかたということにつ いてはまだ具体的に勉強しておりませんが、本土 の稲作の場合には生産調整という問題と強く関係 いたしまして、水田に水稲以外の他の作物を栽培 するという問題がこの20年間クローズアップされ、 取り組まれてきたわけであります。今日ではよく ブロックローテーションという言葉をお聞きのこ とと思いますが、このような土地利用を実現する ためには、農家の理解と協力がきわめて重要であ ることはいうまでもありません。特に、水田の場 合には水に関する問題が重要だからであります。 土壌が湛水性であるということを前提にしまして、 畑作物を導入しなければならないということにな りますと、その部分は乾田化して畑作物が生育し
やすい条件を作らなければならないわけです。ま
た、畑作物の連作は障害を起こしやすいという問 題があります。このような問題を集落のなかで話 し合いによって解決してきたことのあらわれが先 程申し上げました、いわゆるブロックローテーショ ンということでございます。 沖縄の場合は、水田がほとんどさとうきび作に替わったということと、さとうきび作の機械化の
遅れということもありまして、このような土地利 用の調整という問題はあまり顕在化しなかったの にとっては問題となるわけでございます。砂糖工 場など原料の搬入を受ける側からいたしますと、 機械収穫原料はトラッシュが多いために砂糖歩留 りが低下するという理由で、人力による収穫(手 刈り)を奨めてきた経緯もあります。このような ことからも機械化へ本気で取り組む状況が形成さ れなかったのではないかと思います。 さらに、現在供給されている機械の種類も大型 から小型まで種々ありますが、その価格を見ます と2000万円前後から4000万円、それに付帯施設や 装備を入れますと6000万円を超えるなど、かなり 高額になっています。このように高価な機械であっ たといたしましても、この機械で収穫しうる面積 や収穫量が十分に対応しておれば良いわけですが、 コメなどと比べてみますとその作業量が少ないわ けです。そうしますとコストが大変高くつくとい う問題がでてくるわけです。このような理由もあっ てなかなか機械化は進まなかったかと思います。 その結果といたしまして平成2年産のさとうきび の収穫における機械収穫率は、沖縄県がまとめた 数字によりますと14.5%まで上昇しております。 ただしこの数値には、収穫作業にかかわるかなり 幅広い雑多な作業の一部機械化も含まれているよ うです。 このような収穫作業の機械化が行なわれている 現状を見ますと、収穫作業のみの機械化だけでは 話がすまないということです。収穫作業と同時に 中耕や肥培管理、さらには耕転・整地・植付けな ど栽培の全過程を含めた、機械化作業一貫化体系 を念頭に置いたシステムに転換していかなければ ならないということです。そういたしますと、植 付けの仕方から品種、作期などいわゆる植栽方式 を含めた体系を考えていかなければならないとい うことです。また、このような体系的な転換を図 るためには前提条件といたしまして、圃場条件の 整備が必要となることはいうまでもありません。 それは機械の稼働がしやすいような圃場の形態と、森高:沖縄農業の現状と課題 35 ではないかと思います。今後、土地利用型のさと うきび作の機械化によって合理化が進み、生産性 をあげることが可能となり、同時にハウスにおけ る野菜や花きのような資本集約型の農業を伸ばし ていこうとすれば、土地利用の調整は避けて通れ ない問題であると思います。もし、このような合 理的な土地利用を実現しえないとすれば農業経営 として長続きしないという問題が出てくるといえ ましょう。私どもの認識といたしましては、新た に伸びる作目は伸ばそうと思っておりますが、そ れを実現するためには土地利用の調整という問題 を経ずして継続的に発展しえないということにな りますと、新規作目の導入と土地利用の両方を調 整していかないかぎりうまくいかないと認識して おります。このような条件整備をやっていかなけ れば今後の農業の展開が難しいということで、現 在この難しい課題が控えているということを申し 上げたわけでございます。 第3に、亜熱帯性の恵まれた条件のなかでなぜ 野菜生産が伸びないのかという問題についてお話 し申し上げたいと思います。沖縄の野菜の粗生産 額は大体200億円前後で推移しております。沖縄 で野菜が伸びないことについては、昭和50年頃私 が農林水産省の野菜計画課ということろで仕事を しておりましたときに取り組まれていたのが野菜 高騰時対策ということで、いわば通常の生産地域 から除外されたような辺鄙なところで、需給の一 時的な逼迫に対処するための秋冬期の野菜(具体 的にはキャベツ)を生産させるというような事業 を沖縄で仕組んだことがございます。その後、産 地にまで昇格したものと思っていたわけですが、 実はそこまでに至っていなくて、一部で細々とやっ ているという結果に接し、ある意味で落胆いたし ました。しかし、いろいろと聞いてまいりますと、 特に露地野菜につきましては気候に恵まれている といいながら台風などの自然災害が非常に多いと いうことでございます。そのために、ある時期に 出荷を予定していたものがなかなか市場に出せな いとか、そういった問題になっているわけです。 カボチャとかニンジンの例も挙げられますが、露 地野菜として計画的に生産できるようなものがあ る意味で少なくなってきて、今日ではハウスでや るようなものに転換してきています。このような 20年くらいの経験を踏まえていうわけではありま せんが、これまでの結果からして今後野菜をどの ように伸ばしていかなければならないのかという 大きな課題があろうかと思います。 第4に、花について若干の問題を述べてみたい と思います。花きの農業粗生産額については総額 としては順調に伸びております。しかし、個別経 営の面からみてはたしてどこまで充実しているの かというところの問題があります。現在のところ は個女の農家の意欲も高く、関係諸機関や団体の 支援で産地体制が整備されつつあります。今後さ らに伸びが期待されている分野ではありますが、 産地間競合が起きてくる場合に、現在のような経 営体制で十分対抗しうるのかという問題がありま す。このような資本集約型農業は資本をある程度 投入するとともに、それに見合う高度利用を図っ ていくことが個別経営の育成に必要だと思います。 このような視点から昨年(平成2年)の農業セン サスの結果によりまして、農業粗収入が1000万円 以上の農家が何戸あるのかをみましたところ、沖 縄県全体では580戸程度ありました。これを地域 別にみますと大規模経営がベースの南北大東村を 別格としますと、沖縄本島周辺では伊江村が鰻も 多いということがわかりました。伊江村の農業を みますと花と野菜が多く、野菜でもメロンという 高価格のものが生産されているように記憶してお ります。 いずれにいたしましても、後継者の問題を考え ますときに、まずは「もうかる農業経営」であれ ば自分の子供に自信をもって継がせようという姿 勢ができますし、子供も自然に入っていきやすい
沖縄農業第27巻第1.2併号(1992年) 36 との効率的で有機的な結合も、やはり農地の集団 化に負うところが大きいといえましょう。このよ うに、稲作においては機械化や減反等を通じて、 集落ぐるみの土地利用に取り組むために、農用地 利用改善団体を柱として地域農政を推進してまい りました。地域農政の議論で最もシビアであった のは水稲の転作問題についてであるわけですが、 このような問題を解決するシステムとして、伝統 的な地域の共同体である集落を単位にその機能を 活用してきたわけです。農用地利用改善団体は、 このような地域の土地利用等を調整するために地 域がもつ調整機能を活かすための組織です。 沖縄県には、全体で700程度の集落があります が、そのうち75の集落に農用地利用改善団体が組 織されております。沖縄の場合、国庫補助事業を 行なうときに農用地利用改善団体を組織している だけで、そのような地域の組織化による土地利用 調整システムとして活動しているのは極めて少な いようです。しかし、機械化や土地利用の高度化 を進めようとすれば地域的な土地利用調整や組織 化は避けて通れないものと思います。なお、沖縄 県の農業協同組合は本土と異なり農協の地域組織 (集落組織)である地域営農集団も組織化されて いないということですから、地域(集落)の組織 的な調整機能は弱いものと思われます。沖縄県で このような地域の土地利用の調整を行ない、地域 農業の活性化に積極的に活動している組織としま しては、名護市の勝山農用地利用改善団体があり ます。私がここで強調したいことは地域(集落) の人々が地域の土地利用調整を行ないうる地域の 組織と機能、すなわち地域(集落)のシステムを 構築・強化することがこれからの課題の一つでは ないかということです。 第6に(野菜や花、果実などの自由市場を対象 とした商品生産に取り組むためには、市場で有利 な販売を行なうために、流通体制の整備や生産出 荷体制の整備が必要なことは皆様も御存じのとう のではないかと思われます。まずは個/Qrの経営体 質を改善し、後継者が残りうるような「もうかる 農業」をやることが必要だと思います。そのよう な点から個別経営の規模拡大をまず考えなければ ならないと思います。それに先程来お話いたして おりますように、施設を利用した資本集約型の農 業経営では、個別の経営が規模拡大してまいりま すときに必ずぶち当たるのが労働力の不足という 問題であります。現段階でも雇用労働力に依存す る傾向が強いわけですから、これから一段と厳し くなる労働力対策にどのように対処していくのか という点も重要な課題であるといえましょう。 第5に、このような問題に対処する方策の一つ に、さとうきび作の機械化を促進し、省力化によっ て生じた労働力を資本集約型部門に誘導するよう 地域の組織化を行い、地域(集落)の農業者の全 ての人々による話し合いによって、協力体制をつ くることも必要だといえましょう。例えば、冬春 期、特に彼岸の前の花の出荷最盛期になりますと さとうきびの収穫作業と花の収穫作業の労働が競 合し共倒れという事態が生じかねないわけです。 したがいまして、地域(集落等)で話し合いをし てさとうきび作の機械化を推進するとともに、さ とうきび作で省力化された労働を資本集約型部門 に受け入れるなどの協力関係、いわゆる地域の組 織化を考えなければならないと思います。また、 さとうきびはもとより野菜、花き等の畑作物で発 生しやすい連作による障害を防止するのに輪作が 有効であるといわれておりますが、零細分散耕作 となっている状況では個別的には実現し難いもの となっております。土地の生産力を向上させるた めの輪作は、施設の集団的な移設やさとうきび作 の集団化によって実現しうることは、水稲作のブ ロックローテーションの事例で説明したとおりで あります。これも地域(集落等)の話し合いのな かから実現するものであることはいうまでもあり ません。また、効率的な機械化や土地利用、畜産
森高:沖縄農業の現状と課題 37 リでございます。しかしそのためには、どのよう な市場対応を選択するかによるものの、生産段階、 集荷段階、出荷段階等の各段階において生産者の 対応が必要になるわけです。定期的・定量的・定 品質の商品を大量に取引することが要求される卸 売市場流通においては、個女の零細生産農家によ る個々の対応が難しいために、組織的な市場対応 が必要となります。その場合に生産者がどのよう に組織的に対応するのかという選択が行われるわ けですが、一般的には農業協同組合に結集して共 販による対応をとることが多いわけです。 したがいまして、ここに農業協同組合(農協) が個別の農業経営を支えるための販売事業や営農 指導事業、さらには利用事業等の農協の機能を強 化しなければならないという課題がでてくるわけ です。このために国といたしましても国庫補助事 業等を通して農協の体質強化に勤めてきました。 御存じのように、農協の行う事業には信用事業、 購買事業、販売事業、共済事業、厚生事業、利用 事業、営農指導事業等多様な事業がありますが、 農協の収益構造というようなものをみてまいりま すと、全国的には信用事業と共済事業、購買事業 がプラスで他の事業はマイナスの場合が多いわけ です。沖縄県の場合は信用事業と購買事業がプラ スで共済事業がプラス・マイナス・ゼロ、他の事 業はほぼマイナスという構造になっております。 沖縄県の農協共済の収益性があまり奮わないのは、 復帰後に新しく取り組まれた事業で歴史が浅いと いうことができます。 このような収益構造で成り立っていた農協の事 業が、近年の金融自由化や稲作の減反、農産物の 自由化等で大きく揺さぶられてきたわけでござい
ます。特に、金融の自由化は農協の信用事業並び
に共済事業という収益部門に直接影響にするものですから、対策が急がれるわけでございます。こ
のような経済の国際化という流れに直面しており ます農協では、結局農協合併による大規模化で. スト負担力を強化し、合理化を図ろうと合併作業 を急いでいるところであります。厳しい環境にた いして、農業生産者の協同組織である農業協同組 合をどのように強化していくのか、構成組合員で ある農業生産者は真剣に取り組まなければならな い段階にあると思います。もし、単に信用事業や 共済事業の合理化を目的にした合併であれば、と てもその程度の合併では銀行や保険会社、それに 大規模小売店等の大手の金融機関や企業者に対抗 しえないでしょう。そのためには組合員農家を、 生産と生活の場から組織化を図り、農協の機能強 化と結びつけていくことが組織の競争力を強化す るためにきわめて重要であると思います。特に、 農協の地域組織である地域営農集団や生産部会等 の組織化が遅れている沖縄県においては、広域合 併に対応した「地域の組織作り」は是非とも取り 組まなければならない課題であると思いますc 特に、生産段階の組織化は、農産物の有利な販 売や付加価値の高い農産物の生産販売を共販で取 り組む場合には、避けて通れないものであります。 表-6は、沖縄県の園芸農業に対する専門の方々 が指摘しておられることを集約したものですが、 これらの問題を解決するためにも生産段階の組織 的な対応は必須の条件であると思います。また、 今日、農業の情報化が種々いわれておりますが、 情報化のためのネットワークを仕組もうとすると きにも、生産段階の組織化が欠けていては情報を 受けても生産活動に活用しえないし、産地の情報 を発信しえないことは明白なことであります。 我が国の農業・農村において農業協同組合の果 たしてきた役割は大きなものがあり、将来ともそ うであると思います。しかしながら、今日の社会 経済の構造的な変化、さらには農業構造の変化に 対応して農業協同組合も対応していかなければな らないわけでありますが、そのときに農業協同組 合の原点を踏まえた対応が重要であると思われま す。沖縄農業第27巻第1.2併号(1992年) 38 表一s沖縄県における園芸生産の問題点と対策