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一般病棟に勤務する看護師の終末期がん患者の家族支援内容

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一般病棟に勤務する看護師の

終末期がん患者の家族支援内容

北 田 陽 子, 瀬 山 留 加, 高 井 ゆかり

武 居 明 美, 神 田 清 子

要 旨 【目 的】 一般病棟に勤務する看護師による終末期がん患者の家族への支援内容を明らかにすること. 【対 象と方法】 倫理審査委員会の承認を得て, A 病院の一般病棟に勤務する看護師で, がん看護従事年数が通算 3年以上の者を対象に, 半構成的面接によりデータ収集し, 質的帰納的方法を用いて 析した. 【結 果】 対象は 19 名で, がん看護従事年数は 3-20年であった. 析の結果, 5コアカテゴリーである『家族支援の前 提となる経験知や知識技術』『家族支援を行う上での信頼関係の形成』『家族成員及び家族内の状況把握と問 題の明確化』『家族を全人的に捉えた実践』『実践の自己評価』が構成された. 【結 語】 看護師は終末期が ん患者の家族支援において, 経験などから家族支援の意味づけや, よりよい看護支援への動機づけを行って いた. このことから, 自己の看護を振り返る機会を増やすことで, 家族支援の実践の向上に繫げられる可能性 が示唆された.(Kitakanto Med J 2011;61:489∼498) キーワード:家族看護, 終末期, がん看護, 看護師, 経験知 .緒 言 がん患者を看取る家族は, 自己の生活を保ちつつも, 多くの期待や役割を課せられ, 患者との永遠の別れと いった悲哀を経験することにより, 時には病的悲嘆や抑 うつなど病的反応に陥ることが報告されている. 死別体 験者の 11∼17%が病的悲嘆に移行し, その期間は平 10年余り続くとも言われている. がん患者の家族のス トレスを検討した研究では, 家族は患者にできる限り のことをしたいと思っているが, 一方で患者から離れる 時間をもつことや, やりがいを得ることが必要と感じて いることが明らとなっている. そのため, 終末期医療に おける家族への支援は, 重要な役割を担っている. 終末期がん患者やそれを支える家族を看護する看護師 もまた, ストレスを抱えている. 特に一般病棟の看護 師は, 常に業務に追われて忙しいことにより, がん患者 や家族にゆっくりかかわりたいと思っていてもなかなか 関われないジレンマを感じ看護を行っている場合があ る. また, 看護師のやりきれなさや後悔といった感情な どの感情労働が報告されており, その場合, バーンアウ トしてしまう可能性も示唆されている. さらに,患者・家 族の悲痛を看護師が受け止めケアしていくには, 看護師 自身が死生観を磨き, 周囲のサポートを得て, 感情表出 の出来る場を与えられることが必須であるといわれてい る. 終末期がん患者の家族に関わる看護師の感情と思 過程に関する質的研究 では, 死にゆく患者を前にし た看護師は常に患者に接している立場であるため患者に 共感する感情を抱き, 情緒的巻き込まれ が起こり, 家 族との中立的な立場を保つために感情を抑制する努力を していることも報告されている. 加えて, 家族に関わる 上でのロールモデルやサポート体制が不十 なこと, 家 族支援に関する看護師の教育背景が十 でないことも指 摘されており, 看護師の家族支援に関する組織的・ 教育的な問題も明らかとなっている. 一方で, 終末期がん患者や家族に関わることで得られ る看護師としての成長は, 看護師のやりがいを支える上 1 群馬県前橋市昭和町3-39-15 群馬大学医学部附属病院看護部 2 東京都調布市国領町8-3-1 東京慈恵会医科大学医学部看護 学科 3 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院保 学研究科看護学講座 平成23年8月26日 受付 論文別刷請求先 〒371-8511 群馬県前橋市昭和町3-39-15 群馬大学医学部附属病院看護部 北田陽子

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で重要な要素である. 看護師経験の豊富な看護師は, 死 を目前にした患者や患者を支える家族との触れ合いを通 して自己と対峙し, その結果成長に繫がったという報告 や, 終末期がん患者の看護体験を意味づけることで, 看 護観やケア行動が次の看護へ影響を及ぼすという報告 がされている. このように, 終末期がん患者や家族への 支援は, 看護師が満足できた経験のみならず, そうでは なかった経験からも, 成長の機会を得る貴重な経験と なっている. 治癒を目的とした治療や急性期の患者の看 護を行う一般病棟においても, 看護師が患者の死を敗北 として捉えるのではなく, 死に逝く過程にある患者やそ の家族にかかわった体験の意味づけが出来ることで, 看 護師の体験を肯定的なものへと導いていけると える. 日本人の約 80%が病院で最期を迎える今日において は, 一般病棟における終末期がん患者への家族支援は 重要である. 一般病棟に勤務する経験豊富な看護師によ る, 終末期がん患者の家族への支援内容を明らかにする ことで, 経験の浅い看護師の具体的な看護実践の方向性 を検討することができると えたが, そのような研究は 見当たらなかった. そこで, 本研究の目的は, 一般病棟に勤務する看護師 による終末期がん患者の家族への支援内容を明らかにす ることである. .方 法 1.研究デザイン 本研究は, 一般病棟に勤務する看護師が, 終末期がん 患者の家族または家族成員に対して行っている家族支援 の内容を明らかにすることを目的に, 半構成的面接法を 用いた質的データをもとに, 因子探索型の質的帰納的研 究デザインを採用した. 2.本研究における用語の操作的定義 1) 家族 : 情緒的・物理的・経済的な支援を依存しあっ ている 2人以上の人々で, お互いに家族であること を認識している人々の集団. 2) 家族成員 : 家族を構成する患者を含めた個人一人一 人. 本研究では, 患者を除く家族を構成するメン バー個人. 3) 家族支援 : 康問題を持つ人の家族成員に対し, 家 族成員の 康が保持でき, 家族関係が良好に保たれ ることを目的に行われる情動・認知・行動へ働きかけ る看護行為. 4) 終末期 : がんと診断され治療の効果が見込めないと 主治医が判断した時期から亡くなるまでの期間, ま たその時期にある患者を終末期がん患者. 3.対象者 対象者は, 以下の条件をすべて満たした者とした. ① 約 700床の A 病院の外科系・内科系の一般病棟のうち, がん患者の割合の高い病棟に勤務する看護師, ②面接を 行った時点でがん看護に携わっている, ③がん患者を看 護した経験が通算 3年以上ある, ④終末期がん患者と家 族の看護を行ったことがある, ⑤本研究の趣旨及び内容 を理解し参加の同意が得られた者. 対象者に該当する看護師は 2病棟の看護師 50名のう ち 33名であった. そのうち, 病棟師長より紹介を受け, 研究の参加の意思を示した 20名に研究の依頼をし, す べての者に研究参加への同意を得られ面接を行った. 4.データ収集方法 1)面接調査 データは, インタビューガイドを用い個別に半構成的 面接法を採用した面接を行い収集した. 面接の内容は, 対象者が終末期がん患者の「家族に深く関わった」「家族 看護がうまく行った」「家族看護がうまく行かなかった」 と認識している事例を 1∼ 2例想起してもらい, 事例を 自由に語ってもらった. 面接時間は約 30 から 60 と し, 面接内容は許可を得て IC レコーダーに録音した. 2)質問票を用いた対象者の属性の調査 面接開始前に, 研究対象者の性別, 年代, 看護師経験年 数, がん看護従事年数などについて質問し, 研究者が調 査票に記入した. 5. 析方法 面接実施者は 20名であったが, 面接が途中で中断さ れその後の面接実施が不可能であった 1名を除く 19 名 を 析対象とした. そのデータに関して, 質的帰納的 析手法 を参 にして, 以下の手順で 析を行った. 1)コード化 面接内容を逐語録に起こし, 終末期がん患者の家族支 援に関連する内容, 家族の変化, 支援を行う根拠や理由 となっている内容を抽出した. 意味内容を表現する 1文 にまとめて一次コードとし, 全対象者の一次コードをま とめ, 意味内容の類似性に則って一次コードを統合した. さらに一次コードを抽象化し二次コードとした. 2)カテゴリー化 二次コードをさらに意味内容の類似性に従って 類 し, その内容をサブカテゴリーとしてさらに抽象化を進 めた (サブカテゴリー化). 得られたサブカテゴリーを意 味の類似性に従って 類し, その意味内容をカテゴリー としてさらなる抽象化を行った (カテゴリー化). 同時に コード, サブカテゴリー, カテゴリーの関連性を 慮し, それぞれのネーミングの修正, 精錬を繰り返し行った.

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カテゴリーの内容を, 内容の類似性に従ってコアカテゴ リーに 類した (コアカテゴリー化). 6.倫理的配慮 本研究は A 大学附属病院の倫理審査委員会の承認 (承 認番号 : GU06009) を受けてから行った. 研究の参加に ついては, プライバシーの保護, データの管理及び 用, 研究への自由意思での参加などについて文書を用いて説 明を行い, 同意を得た. .結 果 1.対象者の概要 対象者 19 名の概要を表 1に示した. 対象者はすべて 女性であり, 年齢は, 20歳代 10名, 30歳代 7名, 40歳代 2名であった. 看護通算経験年数は 3∼20年であり, が ん看護通算経験年数は 3∼20年であった. 2.対象者が語った事例内容 対象者が語った事例は合計 32事例であった. 事例と して語られた家族構成メンバーは多様であり, 配偶者, 両親, 兄弟姉妹,子供,恋人などであった.また,看護の対 象として焦点を当てた家族成員については, 配偶者 18 例, 子供 7例, 親または両親 4例, 嫁 1例であり, 家族全 体に焦点を当てて語られた事例は 6例であった. 支援の 内容については, 在宅移行への支援に関するものが 9 例, 家族成員の心身の疲労やストレスに対する支援が 9 例, 家族の関係性の修復・維持への支援が 6例, 看取りへの 支援が 5例, その他が 3例であった. 3.一般病棟に勤務する看護師の終末期がん患者の家族 支援の内容 一般病棟でがん看護に携わる, 対象者への面接調査か ら得られた終末期がん患者の家族支援の内容についての 記述は合計 383件であった. 383件の記述内容は 61コー ド,24サブカテゴリー,11カテゴリー,5コアカテゴリー によって構成された (表 2).5コアカテゴリーは『家族支 援の前提となる経験知や知識技術』,『家族支援を行う上 での信頼関係の形成』,『家族成員及び家族内の状況把握 と問題の明確化』, 『家族を全人的に捉えた実践』, 『実 践の自己評価』であった. 以下に終末期がん患者の家族 支援の内容についてコアカテゴリーごとに説明する. ま た, 以下コアカテゴリーを『 』, カテゴリーを【 】, サ ブカテゴリーを《 》, コードを >, データの引用を [ すこ ]で示す. 1 )『家族支援の前提となる経験知や知識技術』: このコ アカテゴリーは,13コード,4サブカテゴリー,【家族支 援の基盤になる自己の経験知】,【家族支援に必要な知 識や技術の自覚】の 2カテゴリーから構成された. 以 下にカテゴリーごとのコードの説明を行う. (1)【家族支援の基盤になる自己の経験知】: このカテ ゴリーは, 2サブカテゴリーで構成された 《看護経験から家族に対する看護の必要性を認識 する》のサブカテゴリーは, 対象者が培ってきたが ん看護経験の中で成功した経験や, うまく行かな かった経験, 他領域での看護から得られた経験など の経験知に関する 7コードで構成された. 患者・家 族のニードを満た とができなかったことに後悔 斜体 表1 対象者の概要 対象者 年齢 看護通算経験年数 がん看護通算経験年数 基礎教育での家族看護学習経験と領域 A 30歳代 10 10 無し B 20歳代 6 6 地域看護学 C 20歳代 3 3 有り D 20歳代 4 4 終末期・母性看護学 E 30歳代 11 11 がん看護 F 20歳代 6 6 無し G 20歳代 5 5 ターミナルケア H 30歳代 10 4 不明 I 30歳代 16 10 不明 J 40歳代 9 5 無し K 20歳代 6 5 無し L 20歳代 4 4 基礎看護学 M 30歳代 9 9 無し N 20歳代 5 5 有り O 30歳代 18 18 無し P 20歳代 3 3 無し Q 40歳代 20 20 無し R 30歳代 12 12 無し S 20歳代 5 5 無し

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表2―1 終末期がん患者の家族への支援内容 コア カテゴリー サブカテゴリー コ ー ド コード数 1) 死別後の家族の悲嘆に影響を及ぼす重要な事柄であり, 家族支援 が必要である 6 2) がん患者の家族はそれぞれに悩みを持っているため, 看護をして いく必要があると認識する 6 3) 患者・家族のニードを満たすことができなかったことに後悔の念 を抱き, 看護の関わりの大切さを認識する 6 1) 看護経験から家族に対する看 護の必要性を認識する 4) 遺族の肯定的なフィードバックが, 自己の看護への意味づけを強 化する 2 家 族 支 援 の 前 提 と な る 経 験 知 や 知 識 ・ 技 術 1) 家族支援の基盤になる 自己の経験知 5) 過去の看護経験から, 家族支援は当たり前に行うものであると認 識する 2 6) 家族成員は看護師に代われない役割を担っており, 患者への関与 は不可欠である 2 7) 訪問看護師のフィードバックから, 在宅で終末期を過ごしたい家 族を支援したいと える 3 2) 身内の視点に立ち家族の思い を尊重する 8) 自 の家族が病気になり療養した経験から, 対象となる家族の気 持ちを推し量る 13 9 ) 自 を患者・家族の立場に置き換えて, 看護を える 4 3) 家族支援の重要性は認識して いるが実践は困難である 10) 業務量や家族支援技術の問題があり, 家族支援を行っている院内 の人にお任せする 3 2) 家族支援に必要な知識 や技術の自覚 11) 家族成員への看護が重要であることは理解しているが, 患者を優 先して看護を行っている 2 4) 家族支援に関する自己研鑽の 必要性を認識する 12) がん患者の家族支援に興味を持ち, 研修への参加や本を読み学習 をする 8 13) がん看護の知識や技術を持っている同僚や先輩などに相談する 6 5) 家族それぞれの独自性を受け 入れる 14) 家族それぞれの歴 や関係性があり, 看護師は家族のあり方を受 け入れる 3 家 族 支 援 を 行 う 上 で の 信 頼 関 係 の 形 成 3) 家族支援の基盤として の信頼関係の形成 15) 問題があったときに活用してもらえるように, 看護師が支援でき る体制でいることを家族成員に伝える 14 6 ) あらゆる機会を活かし家族 ―看護師間の信頼関係のきっか けを作る 16) 家族との何気ない日常的な会話から, 家族の情報を得る 9 17) 家族成員が話しかけやすいような 囲気で接する 3 18) 医師の病状説明に参加し, 家族成員と関わるきっかけを作る 2 7) 日常会話の中から瞬時に必 要な患者・家族の欲求を把握す る 19) 患者・家族への接近のタイミングを捉え,日常会話から両者それぞ れの欲求を把握する 7 20) 医師からの患者の病状説明に参加し, 家族成員個々の意見や理解 度を確認する 7 21) 家族成員の認識をカンファレンスで共有する 7 8) 家族支援に必要な患者・家族 のそれぞれの認識を把握する 22) 患者・家族と別々に話を聴くことで, 患者と家族成員の間の認識 のずれを理解する 5 4) 患者を含めた家族の全 体像の把握 23) 家族成員それぞれに話を聴き, 家族成員間の認識の程度を把握す る 5 24) 患者を看ている家族成員個人が担っている家 内や社会におけ る役割を把握する 11 家 族 成 員 及 び 家 族 内 の 状 況 把 握 と 問 題 の 明 確 化 9 ) 家族が生活する基盤である社 会・経済的な問題を把握する 25) 家族が抱えている医療費や生活に関わる金銭面の問題について 把握する 8 26) 患者の病気に伴う家族成員の役割変化を把握する 4 27) 患者の死後も家族が機能していくことを 慮し, 家族成員の生活 や仕事を把握する 3 10) 家族の精神的側面を把握する 28) 在宅療養を受け入れる家族成員の精神的な負担を理解する 6 29) 家族成員の言葉の背後にある思いを察する 1 11) 患者が終末期を過ごす療養の 場の選択のために, 家族内の機 能を判断する 30) 在宅療養が可能な状態かどうか, 家族の機能を判断する 7 31) 入院当初から退院や転院を見通し,患者・家族の関係性や役割を見 極める 3 5) 家族の問題の明確化 12) 家族内の情緒的関係性や勢力構造を判断する 32) 家族成員と患者の距離感やコミュニケーションを把握し, 家族内 の情緒的関係性を見極める 13 33) 家族の中で家族を動かす力を持っている人は誰かを情報や観察か ら見極める 4 13) 家族成員の身体的状態を判断 する 34) 家族成員の身体的な疲労の程度を判断する 15 14) 家族成員の精神的状態を判断 する 35) 家族成員の表情や声の調子を観察し, 精神的状態を判断する 4

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の念を抱き看護の関わりの大切さを認識する> の コードで対象者は,[ 験か ら, 対象となる家族の気持ちを推し量る> のコード で対 象 者 は,[ 置 き換えることによって, 相手の心情に近い視点に 立って える看護師の思 に関する 2コードで構成 された ] と語った. 《身内の視点に立ち家族の思いを尊重する》のサ ブカテゴリーは, 自 を患者・家族寄りの視点に . 自 の家族が病気になり療養した経 と語 ] っ 患者本人 望の むことをうまく 聴き出せなかったし, 家族がどうしてあ たいかもげ て 聴い あげられなかった. だから患者さんを支えら う れるよ に家族も支えて行こうって思ったんです 介護することがいかに大変かわかり . た まし 昔は面会に来ても早く帰っちゃうとか,なん して で何にも あげないんだろうっていう気持 がち 強 かったんです.でも,いざ自 がやってみて ( 会面 に) 行くだけでも大変, 仕事や生活をしながら患者を看 ることがどんなに大変なことか かりました 表2―2 終末期がん患者の家族への支援内容 コア カテゴリー サブカテゴリー コ ー ド コード数 36) 複雑な問題のときは, 多職種を巻き込んで支援方法を検討する 8 6) 医療チーム内での支援 方法の検討 15) 医療チームで情報を共有し支 援方法を検討する 37) カンファレンスや看護記録で家族に対する情報を共有し, 支援方 法を検討する 15 38) 患者と家族成員の気持ちや病状認識のずれは, 看護師が仲介役と なりきっかけを作る 10 7) 家族の相互理解を深め 家族力を高めるための実 践 16) 家族内の機能や認識を捉え, 問題解決が家族内で行えるよう に働きかける 39) 家族の歴 や関係性を理解して, 家族間のコミュニケーションを 促進させる 7 40) 家族間のサポート体制が良好な家族は, 看護師は見守る姿勢をと る 3 41) 在宅療養移行時の家族の負担を最小限にするための社会的支援を 整える 6 42) 家族が抱える経済的な問題は MSW に依頼をする 6 17) 家族の抱える問題に関して, 専門家を含めた支援が出来るよ うに調整する 43) 家族成員の生活や仕事が継続ができるように, 看護師が家族の役 割を代行する 5 44) 家族成員の思いが伝わるように医師との間の認識の違いを調整す る 3 8 ) 家族成員の良好な精 神・社会・身体的状況に 向けての調整をする実践 18) 家族成員の精神的負担を軽減 出来るように働きかける 45) 家族成員とともにケアを行うことを強要しないように, 家族成員 の参加意思を確認してケアを行う 8 46) 家族成員への精神的負担を軽減できるように患者から離れて家族 成員の話を聴く 8 家 族 を 全 人 的 に 捉 え た 実 践 19) 家族成員が疲労を蓄積しない で, 患者を看ることが出来るよ うに配慮する 47) 付き添いをしている家族成員の心身の疲労を 慮し, 看護師や家 族内で役割 担が出来るような調整を行う 16 48) 家族成員が疲労しないような方法を用いて, 患者のケアを看護師 と一緒に行う 2 9 ) 患者の希望を叶えるた めに家族成員の協力を促 す実践 20) 患者の希望を叶えるために, 家族成員に協力を依頼する 49) 患者の寂しさを軽減するために家族成員に協力を促す 6 50) 在宅療養へ移行する患者の医療・介護技術を覚えてもらうために, 家族成員とケアをともに行う 8 51) 患者の死が迫っている家族成員が後悔しないように, 家族成員が 出来ることをしてもらう 7 21) 家族成員が患者の死後に後悔 を残さないように, 患者にして あげたいことを出来るよう支援 する 52) 家族成員が患者のために役に立ちたいという気持ちを支えるため にケアのコツを教える 2 53) 家族成員が患者のためにしてあげることが出来たという満足感を 得られるように患者に苦痛を与えない方法でケアを行う 2 10) 家族成員の無力感を軽 減し予期悲嘆を促進する 実践 22) 家族成員が患者の状態が改善することは難しいことを認識で きるように配慮する 54) 患者の死が近いことを理解してもらうために, 家族成員にケアに 参加してもらう 2 55) 家族成員の患者の死の受容の程度や精神状態に応じた方法で, 患 者の状態を伝える 6 56) 患者のために何かしてあげたいと一生懸命になっている家族成員 に, そばにいることが大切であることを伝える 4 23) 患者と家族成員が残り少ない 時間を共有し家族の絆を深めら れるように働きかける 57) 反応が乏しくなった患者と家族成員の心理的な距離を縮めるために, 家族とともに患者の思い出や病の歴 を振り返る 2 58) 患者と家族成員だけで過ごせる時間や環境を提供する 4 59) 看取りの場面での家族成員個人の様子や反応から, 実践の効果を 自己評価する 6 実 践 の 自 己 評 価 11) 実践の効果の自己評価 24) 実践に対して自己評価を行う 60) 家族成員からのフィードバックや表情などから, 精神的な支援が行えたと自己評価する 4 61) 家族の関係性への働きかけが出来た実践の効果を肯定的に自己評 価する 3

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た. (2)【家族に必要な知識や技術の自覚】 : このカテゴ リーは 2サブカテゴリーで構成された. 《家族支援の重要性は認識しているが実践は困難 である》は, 家族支援が重要なことは認識している が, 実施が困難な場合や家族より患者への支援を優 先していると い う 内 容 の 2コード で 構 成 さ れ た. 業務量や家族支援技術の問題があり, 家族支援を 行っている院内の人にお任せする> のコードで対象 者は,[ を把握する》は,病状・予後・終末期を過ごす場所な どについての患者・家族それぞれの認識, またその 認識が患者と家族, 家族成員 ]と語った. 《家族支援に関する自己研鑽の必要性を認識する》 は, 自己の経験や興味から家族支援に関する自己の 知識や技術を深める必要性を認識するという内容の 2コードで構成された. がん患者の家族支援に興味 を持ち, 研修への参加や本を読み学習する> のコー ドで対象者は,[ 者を抱えて精神的な負担を負っているた め, その状況を把握するといった内容の 2コードで 構成された. (2)【 ] と語った. 2 )『家族支援を行う上での信頼関係の形成』: このコア カテゴリーは【家族支援の基盤としての信頼関係の形 成】のカテゴリーで構成された. (1)【家族支援の基盤としての信頼関係の形成】: この カテゴリーは, 2カテゴリーで構成された. 《家族それぞれの独自性を受け入れる》は,自己の 先入観や価値観で判断せず, それぞれの家族のあり 方を尊重するという内容の 家族それぞれの歴 や 関係性があり, 看護師は家族のあり方を受け入れ る> の 1コードで構成された. 《あらゆる機会を活かし家族―看護師間の信頼関 係のきっかけを作る》は, 看護師からの意識的な働 きかけにより, 家族にも看護を提供する意思表示や, 家族との信頼関係を形成する努力をする内容の 4 コードで構成された. 問題があったときに活用し てもらえるように, 看護師が支援できる体制でいる ことを家族成員に伝える>のコードで対象者は,[ コードで対象者 は,[ の 4コードで構成された. 《家族の精神的側面を把握する》は,家族成員が終 末期の患 から両者それ ぞれの欲求を把握する> の 1コードで ]と語った. 3 )『家族成員及び家族内の状況把握と問題の明確化』 : このコアカテゴリーは【患者を含めた家族の全体像の 把握】と【家族の問題の明確化】の 2カテゴリーで構 成された. (1)【患者を含めた家族の全体像の把握】: このカテゴ リーは, 4サブカテゴリーで構成された. 《日常会話の中から瞬時に必要な患者・家族の欲求 を把握する》は, それぞれの欲求を把握するために 機会を作って家族と話をする内容であり, 患者・家 族への接近のタイミングを捉え, 会話 ーソンを見極めていく必要があるという内 容の 2コ 構成された. 《家族支援に必要な患者・家族のそれぞれの認識 族成員 の様子から, 身体的な疲労の程度を把握し, 看護支 援が必要な状況かどうかを判断する内容の 1コード で構成された. 《家族成 の間でずれていないか という情報を確認する内容の 3コードで構成され た. 《家族が生活する基盤である社会・経済的な問題を 把握する》は,家族が抱えている社会的・経済的な問 題を把握している内容 を把握するには,患者と 家族成員また家族成員同士の情緒的な繫がりの深さ やキーパ る》は, 入院期間の短縮や療 養の場を選択する場合 ードで構成された. 《家族成員の身体的状態を判断する》は, ] 家族の問題の明確化】: このカテゴリーは, 4サ ブカテゴリーで構成された. 《患者が終末期を過ごす療養の場の選択のために, 家族内の機能を判断す 判断する》は,家族の精 神的状態から介入が必要か に働く家族の機能を判断する 2コードで構成された. 《家族を含めた家族内の情緒的関係性や勢力構造 を判断する》は,家族の機能 リー は,【医療チーム内での支援方法の検討】,【家族の相互 の 家 員の精神的状態を 『家族を全人的に捉えた実践』: このコアカテゴ 情 どうかを判断する内容の 1コードで構成された. 家族成員 状 表 を と語っ た. 4 ) 察し, 精神 態 > 観 判断する 調 の を の や声 子 信 で 自 で あは まり自 がないの ,家族にちゃ わ れ 看 か る か ってく が , んと 護師 いるので そこに 棟 )強 っ し 病 内では い 頼 て まう感じが( だ り 勉 性 を読んだ , り 感 本 強した . っ い 看 けではや て けないっていうのを (日々の 護の いる じみ み じて ) し 中で 感 看 る の相 乗 護師が家族 談に と かっていない家族も の い いっぱいいて一人で悩む家族も多 で, 族の家 ケ 家 い アをすることを ( 族に) かってもらわないと け いな 付 び 娘さんが患者さんとの結 きが強くて, 患者 こと さんを失う を受け入れられなくて, (病院に)来 り だ るたびに泣いたり,悩ん しているのを見て,これ した は関わらなくてはいけないなと感じま

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理解を深め家族力を高めるための実践】,【家族成員の 良好な精神・社会・身体的状況に向けての調整をする 実践】,【患者の希望を叶えるために家族成員の協力を 促す実践】,【家族成員の無力感を軽減し予期悲嘆を促 進する実践】の 5カテゴリーで構成された. (1)【医療チーム内での支援方法の検討】: このカテゴ リーは,《医療チームで情報を共有し支援方法を検討 する》の 1サブカテゴリーで構成され, 多職種また は看護チームで情報を共有して支援方法を検討し, 家族支援を行う内容の 2コードで構成された. (2)【家族の相互理解を深め家族力を高めるための実 践】: このカテゴリーは《家族内の機能や認識を捉え 問題解決が家族内で行えるように働きかける》の 1 サブカテゴリーから構成された. 看護師が家族の機 能をアセスメントし, 家族内で問題解決ができると 判断した場合にはそれを支援するという内容の 3 コードで構成された. (3)【家族成員の良好な精神・社会・身体的状況に向け ての調整をする実践】: このカテゴリーは,3サブカ テゴリーで構成された. 《家族の抱える問題に関して, 専門家を含めた支 援ができるように調整する》は, 複雑な問題に対し て看護師が役割を 代することや, 他職種を含めた 役割を調整する内容の 4コードで構成された. 《家族成員の精神的負担を軽減出来るように働き かける》は, 家族の抱える精神的な負担を軽減でき るように行う看護実践の内容の 2コードから構成さ れた. 《家族成員が疲労を蓄積しないで患者を看ること ができるように配慮する》は, 家族成員が患者を継 続して看て行くには, 身体の 康維持が不可欠であ り, 身体的疲労に看護師が 慮している内容の 2 コードで構成された. (4)【患者の希望を叶えるために家族成員の協力を促 す実践】: このカテゴリーは,《患者の希望を叶える ために家族成員に協力を依頼する》のサブカテゴ リーから構成された. 患者の希望や欲求を達成する ために家族に協力をお願いするという内容の 2コー ドから構成された. (5)【家族成員の無力感を軽減し予期悲嘆を促進する 実践】: このカテゴリーは,3サブカテゴリーから構 成された. 《家族成員が患者の死後に後悔を残さないように 患者にしてあげたいことを出来るように支援する》 は, 患者が亡くなった後に家族成員が感じる後悔を 少しでも軽減出来るように, 満足感や達成感を得ら れるような支援を行うという内容の 3コードで構成 された. 家族成員が患者のためにしてあげることが 出来たという満足感を得られるように患者に苦痛を 与えない方法でケアを行う> のコードで対象者は, [ 内容の 2コードで構成された. 《患者と家族成員が残り少ない時間を共有し家族 の絆を深められるように働きかける》は, 家族成員 と患者がプライベートな空間や ]と語った. 5 )『実践の自己評価』: このコアカテゴリーは【実践の 効果の自己評価】の 1カテゴリーから構成された. (1)【実践の効果の自己評価】: この ]と語った. 《家族成員が患者の状態が改善することは難しい ことを認識できるように配慮する》は, 回復への期 待を持った家族を傷つけないように, しかし現実を 受け止めて患者の死の受容に向けての予期悲嘆を促 す援助を行うという 的な支援が行えたと自己評価する> のコー ドで対象者は,[ を振り返る>のコードで対象者は,[ して, 家族支援の基盤となる認識や経験, の実践における効果に 時間を共有できるよ うに働きかけ る 内 容 の 3コード か ら 構 成 さ れ た. 反応が乏しくなった患者と家族成員の心理的な距 離を縮めるために, 家族とともに患者の思い出や病 の歴 《実 践の効果に対して自己評価を行う》の 1サブカテゴ リーから構成され, 自己 ら構成 ]と語った. つい て自己評価を行っている内容の 3コードか 神 期が さ れた. 家族成員からのフィードバックや表情などか ら, 精 末 究の ん患者の 家族支援 . 察 本研 ゴリ 結果, カテ 終 一 ーは, する と 務 般病棟 内容 勤 に 動に 患 さ者 体 ( よって疼痛が増強する んの アケ を か 何 患者さ や ) んのために っ げ で た 面 あ た 行っ 場 て い な 思っていて ゃ と も 自 で んじ い , は無理な かと た っ だ の いる て 思っ 奥さん で, ケアの前に痛み止め か て ら, がない っ 奥さんが患 み よ を 者 んさ の痛 う な に(ケア)してあげられるよう 工夫をして一緒に をし 潔 アケ ました 清 容 急に 態 ( い て が変化した患者の家族が動揺し る 面で) 奥さ場 が んは受け入れ できていたので, 奥 んさ に今までの と を こ を話してもらって,治療 ずっと一緒に頑張っ て話し 娘さ たよねっ 始めたら, うだっ てきまし んもそ 頑張っ たよねって泣きながらお さんが てきたこと .そ 者 し を話 てくれて ばで身体をさすりながら(患 ら は 安) かに眠りました 表 んの 毎日奥さ 情が ( く) 変わっ た まし てきたので, まとまって話をする機会をもち . に, 時 その次に奥さんに会った すごく吹っ切れたと 情 い表 いうか ではなくなっていた. 話を聞いたこ した ま とが良かったんだなって感じ

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家族との信頼関係の形成の方法, 様々な事例に共通して 行っていた家族問題の明確化及び実践・評価の実施を 行っていることが明らかとなった. その中で, 先行研究 では得られなかった本研究の新たな知見として, 家族支 援の前提となる対象者の認識及び経験や, 家族への接近 方法, 看護技術を駆 して家族が満足できる看取りを迎 えるための支援等が語られた. 以下に, これらの内容を 中心に 察を述べる. 本研究では,『家族支援の前提となる経験知や知識技 術』や『家族支援を行う上での信頼関係の形成』といっ た看護支援を行う上で基盤となる看護師の認識や経験が 明らかとなった.対象者は,【対象者の基盤となる自己の 経験知】に関する語りの中で, 終末期がん患者の家族支 援を行うことで得た学びや反省, 遺族となった家族から の肯定的なフィードバックを通して, 家族支援の重要性 の意味づけや, より良い家族支援の探究への動機づけを 行っていた. これは, 家族支援の実践をすることで, 自己 の学びを得たり意味づけを行ったりしており, 経験から 知識・技術を得ることで, 家族支援の前提となる看護観 を育んでいったと える.野戸ら は,終末期ケアに関わ る看護師は, 体験を意味づけることで看護観を再 する と報告している. また, 名越ら は, 終末期看護の体験の 意味づけの構成要素のなかで, 看護師が自己へ対峙する 項目では, ケア関係による成長などがあり, 自らが自己 へ対峙することが成長へ繫がることを報告している. 本 研究でも, がん患者の家族への支援を通して, 自己の体 験の意味づけや学びを行っていることが明らかとなり, 終末期がん患者の家族支援の基盤となる, 重要な経験で あるといえる. 一方で,【家族支援に必要な知識や技術の自覚】に関す る語りからは, 一般病棟という忙しい環境のなかで, 家 族支援を行うことの困難さや, 基礎教育で得られなかっ た家族支援の知識不足を自己学習で補っている現状も明 らかとなった. 家族支援に関する困難さは多くの先行研 究で明らかにされており, 終末期がん患者や家族に関わ りたいが, 積極的治療が目的の患者の看護に追われて十 に関われないといったジレンマ や, 家族支援に関 する不十 な教育による家族支援の困難さ などが報告 されている. しかし, 十 な時間や家族支援に関する知 識がないと述べたものが多い本研究の対象者は, 身内の 視点に立つことで家族の思いを尊重しようとする行動を 行っていた. これは, 本研究独自の概念であり, このよう な姿勢が家族支援を促進させている可能性がある. 今後, 看護師の認識や姿勢による家族支援への取り組みへの影 響を明らかにすることで, 支援の必要な看護師の状況を 追及していくとともに, 看護師自らが患者や家族の立場 となった経験を共有する取り組みを検討することが必要 であると える. 本研究の結果, 一般病棟での終末期がん患者の家族支 援内容やその基盤となる姿勢が明らかとなった. 対象者 は自己のケアに後悔したり, また逆に遺族の言葉でよろ こびを得たりしていた. 患者・家族の悲痛を看護師が受 け止め, ケアしていくには, 感情表出のできる場を与え られることが必須である. さらに, 終末期がん患者の看 護を行う看護師は, スペシャリストによるコンサルテー ションを受けることによって, 患者・家族との関係性や 事象を客観的に整理し, 行ったケアに対する自信や充実 感を得ることが出来ることが報告されている. 看護師 の家族支援の経験を意味づけ, 家族支援を行うための基 盤を養うためには, がん看護専門看護師などのスペシャ リストや経験豊富な看護師により感情表出を促し, 家族 支援を行う看護師を支えるためのサポートが必要である ことが示唆された. 対象者は,【家族支援の基盤としての信頼関係の形成】 に関する語りのなかで, 家族それぞれの独自性を受け入 れながら, あらゆる機会や歩み寄りの方法を活かし, 家 族―看護師間の信頼関係を育むきっかけを作る努力をし ていた. その中には, 看護師が患者のみならず, 家族のケ アも行うことを家族に伝えること, 何気ない日常会話を することや, 話しかけやすい 囲気を作ること等の支援 内容が語られた. これは, 先行研究にはない本研究独自 の知見である, 家族との信頼関係を作るための歩み寄り の方法であった. このような家族への接近法は, 家族と の信頼関係を形成する上で重要である. また, 本研究で は, 対象者が家族それぞれの独自性を受け入れながらも, 家族支援の基盤である家族との信頼関係をつくっている ことが明らかとなった.長戸ら は,がん患者の家族に対 する看護師の関わりのなかで, 家族の認識を知るために は家族の個別性を受け入れた関係づくりが大切であると 述べている. 家族支援において, ありのままの家族の形 を受け入れることや家族との信頼関係を形成することは 重要であり, 本研究の知見である, 家族へのアプローチ 方法は, 家族支援の実践をする上で有用であると える. 本研究で明らかとなった『家族成員及び家族内の状況 把握と問題の明確化』, 『家族を全人的に捉えた実践』, 『実践の自己評価』は様々な事例に共通した支援内容と して語られていた. その中で, 家族成員が疲労しないよ うな方法をもちいて, 患者のケアを看護師と一緒に行う ことや, 家族成員が患者のために何かしてあげたい気持 ちを支え, 家族の満足感につながるように, 看護師が卓 越した看護技術を駆 して家族とケアを行うといった内 容が語られた. 先行研究でも終末期がん患者の看護にお いて, 家族と共にケアを行うことや, また, 看取り場面 において家族に働きかけるという, 演出家としての看護

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師の役割が報告されている. 本研究でも, 対象者は, 患 者のケアを家族と一緒に行うことや, 看取りの場面で反 応が乏しくなった患者と家族成員の心理的な距離を縮め るために, 家族と患者の思い出や病の歴 を振り返って いた. このように, 家族の看取りへの援助は, 終末期がん 患者の家族支援において, 家族の悲嘆を軽減するために 重要であるといえる. 本研究では独自の概念として, 看 護師が患者のケアの中で家族が実施可能なケアを探して 家族とともに行っていることや, ケアを行う際には, 苦 痛を与えずに家族の満足感を得られるような看護技術を 用いて行うといった, 看護師の支援内容が明らかとなっ た. 死別体験者の悲嘆の回復には, 家族が精一杯患者の 看病ができたかどうかが影響する といわれている. そ のため, 本研究で明らかとなったがん看護経験のある看 護師が持つ技術を駆 し, 家族の満足感が得られるよう に関わることは, 家族の予期悲嘆を促進し, 死別後の悲 嘆への援助へと繫がっていくと言える. 本研究の結果, 一般病棟で行われるがん看護経験のあ る看護師の支援によって, 家族は患者により良いケアを 提供するための一端を担っていたことが明らかとなっ た. また, 看護師は, 患者に何かしてあげたい, 役に立ち たいという家族の思いを察知し, 家族が心身共に疲労を 感じない程度のケアを看護師と共に行うことは, 家族が 満足できる看取りへの支援になりうることが示唆され た. .研究の限界と課題 本研究は一般病棟に勤務する看護師の終末期がん患者 の家族支援の内容を明らかにする目的で行った. しかし, 研究対象施設が大規模病院一箇所でありそのうちの 2病 棟のみを対象としていることから, 終末期がん患者の家 族への支援の中でも消化器がん等の固形がん患者への看 護を中心に構成されている可能性がある. 今後は, 対象 施設及び対象者を拡大することや, 支援を受けた家族へ の調査を検討することが課題である. 謝 辞 本研究に当たり, 調査にご協力いただきました看護師 の皆様に心より感謝申し上げます. また, 研究実施に当 たり多大なるご支援を賜りました研究施設関係者の皆様 に心より御礼申し上げます. 本研究は群馬大学大学院医学系研究科修士論文に加 筆・修正したものであり, 2008年 International Confer-ence on Cancer Nursing in Singaporeにおいて発表を 行った. 文 献 1. 瀬藤乃理子, 村上典子, 丸山 一郎. 死別後の病的悲嘆に 関する欧米の見解. 精神医学 2005; 47(3): 242-250 2. 平 典子. 終末期がん患者を看取る家族が活用する折り 合い方法の検討. 日本がん看護学会誌 2007; 21(1): 40-47 3. 篠塚裕子,稲垣美智子.病院で死を迎える終末期がん患者 の家族の添う体験. 日本看護科学学会誌 2007; 27(2): 71-79 4. 平 典子.終末期がん患者の家族の看病を支える要因.北 海道医療大学看護福祉学部紀要 1999 ; 6: 1-8 5. 吉田智美. がんの終末期で症状緩和を受ける患者の家族 のストレス・コーピング 一般病棟と緩和ケア病棟の比 較. 日本看護科学会誌 1996; 16(3): 10-20 6. 名越恵美,道廣睦子.終末期がん患者のかかわる看護師の 体験の意味づけ 緩和ケア病棟に焦点を当てて. 吉備国 際大学保 科学部紀要 2005; 10: 43-48 7. 名越恵美,掛橋千賀子.終末期がん患者に関わる看護師の 体験の意味づけ 一般病院に焦点をあてて. 日本がん看 護学会誌 2005; 19(1): 43-49

8. Mohan S,Walker A. Caring for the patients with cancer in non-specialist words: the nurse experience. Eur J Cancer care 2005; 14: 256-263

9. Main J. Management of relatives of patients who are dying. J Clin Nurs 2002; 11: 794-801

10. 武井麻子 : 感情と看護 人とのかかわりを職業とするこ との意味. 東京 : 医学書院, 2001 11. 渡邉久美, 野村佳代, 犬飼昌子ら. 終末期にあるがん患者 の家族との関わりにおける看護師の感情と思 過程 一 般病院で勤務する看護師へのインタビューから. 家族看 護学研究 2007; 13(1): 60-66

12. Namasivayam P, Orb A, OConnor M. The challenges of caring for families of the terminally ill: nurses lived experience. Contemp Nurs 2005; 19(1-2): 169-180 13. 長戸和子, 大川宣容, 川上理子. がん患者の家族に対する 看護師のかかわり. 家族看護学研究 2003; 9(1): 26-36 14. 野戸結花, 三上れつ, 小 万喜子. 終末期ケアにおける臨 床看護師の看護観とケア行動に関する研究. 日本がん看 護学会誌 2002; 16(1): 28-38 15. 厚生労働省 死亡場所の内訳・推移 : 2015年の高齢者介 護. http://mhlw.go.jp/topics/kaigo/kentou/15kourei/3.html 16. SM Harmon Hanson and ST Boyd 編. 村田恵子, 荒川靖 子,津田紀子監訳 : 家族看護学―理論・実践・研究.東京 : 医学書院, 2001 17. 日本看護科学学会 第 6・7期看護学学術用語検討委員 会編集 : 看護行為用語 類. 東京 : 日本看護科学学会, 2005 18. 舟島なおみ : 質的研究への挑戦. 東京 : 医学書院, 1999 19. マデリン M レイニンガー編集 : 看護における質的研究. 近藤潤子, 伊藤和弘監訳. 東京 : 医学書院, 1997 20. 内布敦子.終末期がん患者の看護援助について.がん看護

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1996; 1(2): 160-164

21. 戈木クレイグヒル滋子,「よい看取り」の演出 ターミナ ル期の子供を持つ家族へのナースの働きかけ. 日本看護

科学会誌 2000; 20(3): 69-79

22. 井豊編 : 悲嘆の心理. 東京 : サイエンス社, 1999

Family Nursing for End-of-Life Cancer Patients

in the General Japanese Hospital Ward

Yoko Kitada,

Ruka Seyama,

Yukari Takai,

Akemi Takei

and Kiyoko Kanda

1 Department of Nursing, Gunma University Hospital, 3-39-15 Showa-machi, Maebashi, Gunma 371-8511, Japan

2 Department of Nursing, Jikei University School of Medicine, 8-3-1 Kokuryo-cho, Chofu, Tokyo 182-8570, Japan

3 Department of Nursing, Gunma University Graduate School of Health Sciences, 3-39-22 Showa-machi, Maebashi, Gunma 371-8514, Japan

Aims: Our purpose is to describe how nurses care for the families of terminal cancer patients in a general Japanese hospital ward. Subjects and M ethods: Subjects were general-ward nurses at A Hospital with at least three years of cancer nursing experience. Semi structured interviews were transcribed for inductive qualitative analysis. Ethical considerations were approved by the hospitals ethical committee. Results: The 19 nurses interviewed had 3-20 years of experience in cancer nursing. The 5 core cate-gories were clinical wisdom,knowledge,and art as a basis for family support , establishment of mutual trust with a family , clarification of situation/problems within a family , caring for the family as a whole , and self-evaluation of clinical practice. Conclusion : Experience in family nursing with terminal cancer patients brought sense to care and motivated nurses to care better for families. Our findings suggest that it is necessary to have a chance to review their experience to increase family nursing quality.(Kitakanto Med J 2011;61:489∼498)

参照

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