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JAIST Repository: 食料品製造業における知的財産と企業パフォーマンス

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https://dspace.jaist.ac.jp/ Title 食料品製造業における知的財産と企業パフォーマンス Author(s) 宮ノ下, 智史; 吉岡(小林), 徹; 金間, 大介 Citation 年次学術大会講演要旨集, 31: 842-845 Issue Date 2016-11-05

Type Conference Paper

Text version publisher

URL http://hdl.handle.net/10119/13887

Rights

本著作物は研究・イノベーション学会の許可のもとに 掲載するものです。This material is posted here with permission of the Japan Society for Research Policy and Innovation Management.

(2)

2J15

食料品製造業における知的財産と企業パフォーマンス

○宮ノ下智史(東京農大),吉岡(小林)徹(東大),金間大介(東京農大)

1. はじめに・問題意識 我が国における食料品製造業は、国内の製造業全24 中分類(日本標準産業分類)の中で 3 番目に大 きな出荷額(平成26 年時点で約 25 兆円)をあげ、従事者割合も製造業全体の約 16%を占めている。中 小企業の比率が99%と非常に高く、事業所が全国各地に広がっていることから、特に地方において経済 面や雇用面など様々な部分で重要な役割を担っている。産業としての規模が大きい一方で、国内の他産 業や海外の先進国の企業と比較をすると、売上高営業利益率をはじめとする企業パフォーマンスの数値 は低いという課題がある。国内の消費市場に目を向けると、人口減少や少子高齢化などによって、国内 では食品消費量が減少傾向にあり、食料品製造業にとって厳しい時代に突入している。 このような状況の中で、本研究では食料品製造業における高付加価値化、高収益化に資する知見を提 供するために企業のイノベーション活動に焦点を当てている。文部科学省科学技術・学術政策研究所が 実施した「第3 回全国イノベーション調査」によると、食料品製造業に属する約 35%の企業が、売上や 利益、シェアの拡大などを目的としたイノベーション活動に取り組んでおり、政府も食料品製造業にお けるイノベーション活動の必要性を明示している。 本報告では、特許、商標、意匠などの知的財産の出願件数、保有件数、維持期間を代理変数として用 いて、研究開発活動、新製品開発、製品のブランド化といった企業の活動が企業パフォーマンスに対し て最終的にどのように影響を及ぼすのかについて議論を行う。 2. 先行研究 日本と同様に食料品製造業が産業の中で大きな割合を占めているヨーロッパでは、1990 年代以降か ら食料品製造業のイノベーション活動に関する研究が様々な研究者によって活発に行われており、イノ ベーション活動は食料品製造業の競争力を高める最も有効な手段の一つであると認識されている (Avermaete et al., 2004; Grunert et al., 1997)。一方で、食料品製造業は、他の製造業と比較をする

と伝統的に研究開発活動に対して積極的に取り組んでいなかったという指摘がある(Christensen,

Rama and von Tunzelmann, 1996)。研究開発活動のアウトプット指標の一つである特許の出願件数を 他産業と比較した研究においても、食料品製造業は他産業と比較して技術的変化が乏しい産業であると 結論付けられている(Garcia Martinez and Briz, 2000)。

イノベーションには、大きく分けてラディカルイノベーションとインクリメンタルイノベーションが あり、食料品製造業ではインクリメンタルイノベーションの比率が高い(Baregheh and Rowley, 2012)。 また、食料品製造業によって生み出された新製品の多くは、既存製品の類似品であり、実際に革新的な 新製品といえるのは2%程度であるとされている(Costa and jongen, 2006)。食料品製造業のイノベー ション活動にインクリメンタルイノベーションが多い原因には、消費者が革新的な全く新しい製品より も、既存製品を好むことが指摘されている(Grunert et al., 1997)。この点については、製品の内容物 だけでなく消費者が製品を選択する際の意思決定の要素の一つであるパッケージデザインでも同様の 指摘がある。Garber et al.(2000)は、スパゲティやシリアルなどのパッケージを対象とした消費者行 動に関する研究を行っている。この中で、パッケージデザインの変更は、新規消費者の購買可能性を高 めることにつながるが、大幅な変更は既存の消費者の購買可能性を低下させる可能性があることが示唆 している。 このように、イノベーション活動は食料品製造業の競争力強化に繋がる要素の一つであると指摘され ている一方で、特に革新的なイノベーション活動がどこまで収益化されているかは不透明な状態にある。 それでは、実際にどのようなタイプのイノベーション活動が最も企業の収益性に貢献するのか。本研究 では、この点を探るために、知的財産を用いて企業パフォーマンスとの関係性を検証する。

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なお、このような分析は、他産業を対象とした研究では比較的豊富に深く行われている。例えばErnest (2001)の研究では、ドイツの機械製造業に属する企業 50 社の特許出願と企業パフォーマンスの関係性 をパネルデータ分析から明らかにしている。この研究では、特許の出願が後の製品の売上数増加に対し てプラスの影響を与えるとしている。次に、商標をイノベーション活動の成果指標として利用すること についてはMendonça et al. (2004) が、商標の出願は研究開発の途中で出願される特許の出願よりも遅 く、製品が市場に投入される直前に出願される傾向が強いことから、多くの場合、新製品の発表と関連 があると指摘している。そして、実際に商標と企業パフォーマンスの関係性について明らかにした Sandner and Block (2011) による研究では、1996 年から 2002 年の間のデータを用いて、商標が企業 の市場価値に対してどのような影響を与えるかについて分析した結果、商標が企業の市場価値を増やす ことに対して重要な役割を担っているとしている。本研究では、これらの先行研究を踏まえ、食料品製 造業に属する企業の知的財産と企業パフォーマンスの関係性を明らかにした。 3. 分析手法 (1)分析の対象 食料品製造業に属する企業の知的財産と企業パフォーマンスの関係性を検証するために、日本の食料 品・飲料品製造業企業の中から上場企業 101 社、企業四季報未上場版 2008 年度〜2014 年度掲載企業 92 社の計 193 社を分析対象とした。その中で、OEM や飼料や食品素材等の BtoB を主たる業とする企 業を除外し、最終消費者に向けた製品製造を行っている企業を選定した。 分析期間は 2009 年〜2013 年に限った。ただし、特許や意匠については保有件数を調査するため、 1990 年からデータを取得した。この際、文部科学省科学技術・学術政策研究所が公表する NISTEP 企業 辞書に依拠して各企業の過去の出願人名の変遷を追跡した。特許、意匠はPatentSQUARE から取得し た。意匠の権利消滅日についてはNISTEP 意匠 DB から取得したが、一部に欠損が見られたことから、 J-PlatPat より手作業で取得して補完した。 (2)変数 被説明変数である売上高、営業利益額は、いずれも各社の会計期の違いを調整した。具体的には、n 月に決算されるt 年の売上高が S (t)であった場合、調整済みの売上高 S(t)は、S(t)=s(t)*n/12 + s(t+1)*(12-n)/12 として算定した。季節変動が考慮されていない点は課題として残されている。なお、会計期の変 更により正確な値が算定できない場合は、欠損値とした。売上高は対数値をとった。 説明変数である特許保有件数はt 年において有効な特許件数とした。商標出願件数は t 年の出願件数 とした。意匠保有件数はt 年において有効な意匠登録件数とし、日本意匠分類 F4 が付された意匠とそ うでないものを区別して集計した変数を別途用意した。 制御変数として、上場企業についてはt 年の従業員数を加えた。なお、研究開発投資や広告宣伝投資 の額もデータとしては得られているが、従業員数との相関係数が0.8 以上と相関が極めて強く、回帰推 計において多重共線性を生じさせるため、除外した。 変数の記述統計および変数間の相関は以下のとおりである。 表1. 記述統計・相関行列表 (3)分析モデル 上記の被説明変数を、重回帰推計により推計した。各企業のビジネスモデルの違いなど企業固有の要 素を考慮できていないことから、5 年間の期間の企業ごとのパネルデータとして取り扱い、固定効果モ デルで推計を行った。なお、F 検定およびハウスマン検定により固定効果モデルが最適であることを確 認した。また、プールモデルにより説明変数間に顕著な多重共線性が存在しないことを確認した。 平均 標準偏差 1) 2) 3) 4) 5) 6) 7) 8) 9) 10) 11) 1) 売上高(百万円) 112,391 260,829 1.00 2) 営業利益額(百万円) 6,041.3 16,665.5 0.94 1.00 3) 特許保有件数 47.0 125.7 0.70 0.66 1.00 4) 商標出願件数 18.0 43.0 0.56 0.46 0.54 1.00 5) 意匠保有件数(全分野) 9.8 41.2 0.46 0.52 0.46 0.40 1.00 6) 意匠保有件数(包装関連) 7.2 28.7 0.46 0.52 0.44 0.40 0.95 1.00 7) 意匠平均維持年数(その他) 2.1 4.9 0.36 0.38 0.40 0.30 0.85 0.64 1.00 8) 意匠平均維持年数(全分野) 2.982 4.661 0.50 0.46 0.44 0.40 0.27 0.30 0.16 1.00 9) 意匠平均維持年数(包装関連) 2.463 4.278 0.48 0.43 0.39 0.43 0.31 0.35 0.16 0.89 1.00 10) 意匠平均維持年数(その他) 2.110 4.860 0.67 0.62 0.60 0.39 0.31 0.34 0.19 0.77 0.58 1.00 11) 従業員数 2,824.5 5,726.5 0.92 0.87 0.66 0.47 0.48 0.50 0.34 0.47 0.43 0.64 1.00 12) 上場有無 0.466 0.499 -0.12 -0.10 -0.13 -0.10 -0.07 -0.07 -0.05 -0.02 0.02 -0.05 -0.10

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4. 分析結果及び議論 推計結果を表 2 に示す。なお、営業利益額については未上場企業で欠損が多く見られた。そのため、 観測数がやや小さくなっている。 表2. 推計結果(固定効果モデル) 推計の結果、特許の保有件数が増えることは、売上高、営業利益額の何にも有意な寄与をしていない ことがわかった。本研究では直近の特許出願件数に焦点を当てたErnst(2001)と異なり、特許の保有 件数を分析に用いているため、直ちに先行研究における発見が食料品製造業に妥当しないということは できない。本分析からは、少なくとも特許権による排他性の確保が、他社との競争優位に対して常に効 果的であるとは限らないということができる。仮に出願件数が有意な寄与をするとしても、研究開発の 成果による短期的な差別化の効果であると推測できる。 同様に、商標登録出願件数が多くなることも、売上高、営業利益額に有意な寄与をしていなかった。 Greenhalgh et al.(2011)は、商標の保有有無と企業パフォーマンスの関係を問題にしており、この結 果と整合しないものと直ちにいうことはできない。本分析からは、新製品を多数生み出すことは短期的 な企業パフォーマンスの向上に結びついていないか、または、商標の取得行為自体には企業パフォーマ ンスとの関連が見られないと推測することができるにとどまる。食品産業では不使用商標が極めて多い ことが報告されており、出願上位企業では65%が不使用であった(特許庁, 2010)。このような状況を踏 まえると、食品産業では名称の自由度をあらかじめ確保しておくための戦略的な商標出願が多く、その ため、企業パフォーマンスとの関係が見られないのではないか。 他方、全分野の意匠保有件数は有意に売上高、営業利益額を高めていた。その詳細を見ると、売上高 に対しては包装容器以外の意匠の保有が有意な正の影響を与えていた。その他分野の意匠保有件数が 1 件増えることで1 百万円売上が増加していた。包装容器に係る意匠は陳腐化が早く、売上高の確保の観 点からは保有の効果が乏しい可能性が示唆される。営業利益額に対しては、包装容器とそれ以外の意匠 を区別すると有意な結果が得られなかった。しかし、推計した係数は両者に大きな差がなく、意匠が包 装容器であるか否かを問わず、意匠権によって独占利潤を確保できる差別化要素を保護できていること が推測される。その効果は大きく、意匠保有件数が1 件増えることで 1 億円の営業利益の増加をもたら していた。なお、意匠権の維持期間は有意な影響を与えていなかった。 売上高(対数値、百万円) 営業利益額(百万円) [1] [2] [3] [4] [1] [2] [3] [3] 全企業 上場企業 全企業 上場企業 全企業 上場企業 全企業 上場企業 特許保有件数 -0.001 (0.000) (0.000)-0.001 (0.000)0.000 (0.000)0.000 (21.372)14.659 (21.189)14.704 (21.272)14.712 (21.272)14.712 商標出願件数 0.000 (0.000) (0.000)0.000 (0.000)0.000 (0.000)0.000 (10.189)15.759 (10.688)16.551 (10.271)16.564 (10.271)16.564 意匠保有件数 (全分野) 0.008***(0.002) 0.006**(0.002) 105.661*(48.397) (51.730)94.358+ 意匠保有件数 (包装) (0.002)0.000 (0.002)0.000 (70.019)91.055 (70.019)91.055 意匠保有件数 (その他) 0.015***(0.001) 0.013***(0.002) (143.331)102.538 (143.331)102.538 意匠平均維持期間 (全分野) (0.002)-0.002 (0.003)0.002 (41.827)-3.978 (66.378)-8.269 意匠平均維持期間 (包装) (0.002)0.000 (0.003)0.000 (68.016)-7.715 (68.016)-7.715 意匠平均維持期間 (その他) (0.002)-0.002 (0.003)0.001 (114.022)-11.208 (114.022)-11.208 従業員数 0.000* (0.000) (0.000)0.000 (0.403)0.248 (0.411)0.245 (0.411)0.245 売上高 0.032** (0.010) 0.030**(0.008) (0.015)0.029+ (0.015)0.029+ (定数) 10.349*** (0.017) 10.788***(0.038) 10.377***(0.014) 10.861***(0.040) (1592.261)-656.221 (2192.568)-1060.624 (3509.511)-899.078 (3509.511)-899.078 観測数 929 495 929 495 744 495 495 495 企業数 193 101 193 101 156 101 101 101 調整済R2(within) .244 .561 .288 .633 .651 .657 .657 .657 (between) .067 .255 .021 .138 .820 .826 .822 .822 (overall) .071 .258 .024 .140 .818 .825 .822 .822 F値 58.89*** 7.64*** 45.51*** 377.41*** 91.31*** 113.03*** 155.82*** 155.82*** 括弧内はクラスターロバストな標準誤差。***: p<0.1%、**: p<1%、*: p<5%、+: p<10%

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5. 結論 本研究は食品産業を対象に知的財産権の保有の効果とその企業パフォーマンスへの影響を初めて分 析したものである。少なくとも同一企業のパフォーマンスの変化について分析したところ、意匠権の保 有件数が正の影響を与えていることが確認できた。とくに営業利益額に対する効果は大きく、意匠保有 件数が1 件多いことで、営業利益額が 1 億円高いとの結果が得られた。この結果は、食品産業における 意匠権の有効性を示唆している。同時に、特許権の保有と商標権の出願の有意な効果は確認できなかっ た。 表3. 分析結果 売上高 営業利益額 特許保有件数 非有意 非有意 商標出願件数 非有意 非有意 意匠保有件数 + + ただし、本研究ではそもそも特許、商標、意匠を保有する企業とそうでない企業のパフォーマンスの 差は分析できていない。これは各企業の観測不可能な企業能力の差が大きいと推測されたためである。 本研究は純粋に知的財産権保有の効果を取り出したにとどまる。 参考文献

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[ 14 ] 特許庁(2010)『平成 21 年度 商標出願動向調査報告書-企業における商標出願・管理戦略と不 使用商標の状況調査-』

参照

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