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【別添】平成29年度 高知大学海洋コア総合研究センター 共同利用・共同研究成果報告書

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Academic year: 2021

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【研究目的・期待される成果】  世界に20ヶ所ほどある島弧-島弧衝突帯での研究によっ て,島弧-島弧衝突が上盤側島弧の地殻構造を大きく改 変することがわかってきた.日本では北海道中部(本州 弧と千島弧の衝突域)と本州中部(本州弧と伊豆弧の衝 突域)でそうした例を見ることができる.プレート収束 帯での島弧地殻の改変について知識が集積すれば,大陸 地殻の生成と構造発達について理解が深まることになる.  西南日本の帯状地質配列は,伊豆弧衝突による地殻変 形を受けて,本州中部で八の字型に大きく屈曲している. この構造は伊豆弧衝突によって生じた一種のオロクライ ン(orocline)である.筆者は本共同利用や科研費の支援 を受け,古地磁気と地域地質の立場からこの八の字型屈 曲構造の形成解明のために研究を続けている.申請者が これまで本共同利用の支援を受けて進めてきた研究は, 屈曲西側(糸静線の西側)について次の点を明らかにし た.すなわち,18~17Maに帯状配列は直線状だったが, その後ノ型に湾曲した(星・小川2012; 酒向・星2014). ノ型湾曲は15Maまでの200~300万年間に形成された可能 性が高い(Hoshi and Sano, 2013).それはちょうど西南 日本が日本海拡大に関連して時計回りに回転した時期 (Hoshi et al., 2015)と同じである.一方,屈曲東部(糸 静線の東側)では,約15Maの広域不整合形成時に40前 後の時計回り回転も起こったことが判明し,15Ma以降に も30~40の時計回り回転が起こったことが見えてきた (H28年度までの本共同利用研究成果).  本研究で申請者は,伊豆弧衝突初期における本州中部 の地殻回転を明らかにするために,糸静線近傍の古地磁 気に注目する.本州中部の八の字屈曲形成は19世紀後期 から議論されている地質学上の大きな問題である.本研 究によって地殻回転像が明らかになり,屈曲全体の形成 過程が見えてくれば,本州中部の地質構造発達の理解が 大きく前進すると期待される.また,稠密な古地磁気調 査によって本州中部の八の字屈曲の形成が明らかになれ ば,古地磁気による造山帯のオロクライン・テストの好 例として広く認知されることになると予想される. 【利用・研究実施内容・得られた成果】  伊豆弧衝突初期における本州中部の地殻回転を明らか にするために,本研究では糸静線近傍の中新世古地磁気 に焦点を当てた.岐阜県東部の岩村地域に分布する前期 中新世堆積岩層の古地磁気方位を明らかにできれば,伊 豆弧衝突による回転の影響の西方限界を明らかにできる 可能性がある.これまで岩村地域から古地磁気方位の報 告はない.岩村の30km東方に分布する富草層群は伊豆弧 衝突による回転の影響を強く受けていることが判明して いる(酒向・星2014).対照的に,岩村の西方に分布する 瑞浪層群は伊豆弧衝突による回転の影響を受けていない (Hoshi et al., 2015).岩村の古地磁気方位を富草と瑞浪 の古地磁気方位と比較することによって,地域間の相対 回転を明らかにできると期待される.  岩村層群の泥岩及び凝灰岩を複数層準から採取し,そ の残留磁化を測定した.残留磁化測定には磁気シールド ルーム内に設置されたパススルー型超電導磁力計を使用 した.測定した試験片は約800個である.段階熱消磁と段 階交流消磁によって初生的な残留磁化成分の分離を試み た.段階熱消磁では鉱物の熱変質をモニターする目的で 初磁化率も測定した.ほとんどの層準の試験片から初生 的な残留磁化成分を分離できた.それらの磁化極性はす べて逆極性であり,現在の地磁気方位と同様の方位を持 つ初生的な磁化成分は認められなかった.消磁結果より, 残留磁化は主にマグネタイトとグレイガイトによって担 われていると推定される.初生的な磁化成分は,伏角は 調査地域の地心軸双極子(GAD)磁場方位の伏角と同程 度であったが,偏角は南西であった(正極性に変換する と北東).これは調査地域において40前後の時計回り回 転運動が起こったことを示す.珪藻化石層序より堆積年 代は18~17.5Ma頃と推定されるため,回転運動は17.5Ma 頃よりも後に起こったことになる.この結果は岩村の東 方に分布する瑞浪層群の結果(Hoshi et al., 2015)と整 合する.したがって,古地磁気方位の観点から見ると, 瑞浪層群と同様に岩村層群も伊豆弧衝突による回転の影 響を受けていないと考えられる.なお,残留磁化極性が 調査した全層準で逆極性だったことは,岩村層群が地磁 気極性年代のクロンC5Drに堆積したことを強く示唆する.  今回の結果から,伊豆弧衝突による回転の影響の西方 限界は岩村と富草の間にあるらしいことが見えてきた. 今後は両地域間の中新世古地磁気方位を検討する予定で ある. 研究課題名 プレート収束帯における島弧地殻変形に関する研究 氏名・所属(職名)  星 博幸・愛知教育大学 教育学部(准教授) 研究期間       H29/6/19-24,10/12-16,11/2-4 共同研究分担者組織  学生3名

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【研究目的・期待される成果】  古原生代の海底表層断面および海底層序についての詳 細なコア試料観察を行い,太古代~原生代初期の(1) 海 底熱水循環,(2) 海底堆積作用,(3) 海洋の酸化/還元 状態・pH状態,(4) 初期生物の生態系,(5) 大気表層環 境,などに関する重要な情報および変動を明らかにする (e. g., Nisbet, 2001). 特色:特に19億年前の新鮮な掘削コアや鉱山内のコア試 料の取得により,古原生代の比較的深い大陸棚や 島弧周辺海底の堆積作用と火山活動を明らかにす る.また,新鮮な有機物に富む黒色頁岩による炭 素や硫黄の同位体対比が可能になる.32-31億年 前のDXCL・ガーナ21億年前のGHBコアとの比較に より,酸素供給システムが稼働後の酸素濃度上昇 時期の海底環境状態の復元および変動を考察する. 【利用・研究実施内容・得られた成果】  我々は時代・場所別4カ所の地層について,岩相記載, 有機物分析を行い当時の環境復元を行っている.1) 太古 代では,ピルバラにおいて,当時の深海堆積物の取得の ために陸上掘削(DXCL)を,2007年はDXCL1,2011年は DXCL2と2回の掘削を行っている.コアセンターに試料を 保管しており,分析研究中である.2)古原生代では,ガー ナケープスリーポイントを中心に調査しており,23億年 前の海洋性島弧近辺の堆積物であることを見つけている. 2015年12月にて195mの掘削コアを取得した(GHB掘削計 画).3)古原生代において,地域と詳細な年代変化をみ るために,2016年夏にカナダ調査を行い,フリンフロン 帯,ケープスミス帯の調査を行い,特にケープスミス帯 のMine Relganニッケル鉱山において,地質調査,鉱山内 部調査および掘削コア試料からの層序復元と取得を行っ た.  特に,フリンフロン帯およびケープスミス帯の黒色頁 岩について,炭素同位体・硫黄同位体に分析を行ってい る.フリンフロンに関しては,タービダイトの黒色頁岩 部分を約400mコアから炭素分析を行い,炭素同位体13 C は,-20‰ぐらいを示した.ケープスミス帯では全体を通 しておよそ-33から-28‰の間で変動し,下部層砂岩優勢 部で重くなり(-28‰),中部層砂岩優勢部で最小値(-33‰) を取るまで同位体比は軽くなり,中部層黒色頁岩優勢部 より上位では-32から-30‰の間で安定する.これらと硫 黄同位体との変化によると,有機物部分濃集部分は硫黄 同位体も軽くなり硫酸還元菌が活発であった可能性があ る.今後,硫酸海洋か硫化水素海洋かについて議論を進 めていく. 研究課題名 地球史を通した海底環境復元プロジェクト5:古原生代ケープスミス帯 Relgan Mine掘削コア 氏名・所属(職名)  清川 昌一・九州大学大学院 理学研究院 地球惑星科学部門(准教授) 研究期間       H29/6/26-28,11/11-14,H30/3/1-2 共同研究分担者組織  池原 実(海洋コア),伊藤 孝(茨城大学),他 学生3名

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【研究目的・期待される成果】  縞状鉄鉱層は化学沈殿岩石の代表であり,酸化還元の 歴史を記す重要な地層である.この地層は有機物を含む 黒色頁岩層を伴い関連性が強いと考えられる.この鉄沈 殿物からなる地層を研究することで,当時の表層環境や 生物活動を読み取ることが可能である.しかし,鉄沈澱 作用について,1)シリカと鉄のみの成分理由,2)縞々 の原因,3)堆積速度,4)堆積場,5)沈澱様式,6)微 生物との関連性,などについて問題点が多く,その成因 については解決には至っていない.  薩摩硫黄島においては,半閉じられた環境が作り出す 熱水噴出湾において,水酸化鉄が多量に堆積している(例 えば,Kiyokawa and Ueshiba, 2015).この沈殿物は水酸 化鉄のコロイドが形成し沈殿してできた層である.海水 中で水酸化鉄になって沈澱する様子や沈澱後地層に埋まっ た後の変化などの挙動は,酸素や生物が多い現在におい ても,その沈殿メカニズムや続成作用などの観察は可能 である.我々は,この現世の鉄沈澱物について,詳細な カメラ長期連続観察,コア試料取得,気象データとの比 較,粒度分析などを行って来ている.また,コロイドの 沈殿様式は単に粒子のストークス則に則る沈殿だけで無 く,pHや温度,粒子間力(ファンデルワールス力)など の条件が関連する吸着作用による粒子の大型化の影響も あると考えられる.  現世での鉄沈澱作用は,地球初期における鉄沈澱によ る酸素の地球への固定作用を明らかにすると共に,バク テリア活動や火山熱水活動が環境にどのような影響を及 ぼすかを示す,重要なシステムを考えることが可能であ る. 【利用・研究実施内容・得られた成果】  本年度は水酸化鉄浮遊沈殿トラップを中心に研究を行っ た.鹿児島県薩摩硫黄島においては2009年から海底トラッ プを定期的に投入回収して,高知コアセンターに保存さ せてもらっている.2017年9月からほぼ半年ごとに投入回 収しており,今回は長期トラップも含めて,満杯になっ ているものをすべて引き上げて,CTスキャンにかけた.  当初,トラップがあまりにブヨブヨ過ぎて半割ができ ないために,表面を開けて乾燥や,冷凍したものをカッ ターにて半割にしたことがある.乾燥試料は,表層のみ の乾燥で内部は乾燥せず,半割を断念.カッターによる 半割は,比較的うまく割れた.基本すべてがオレンジ色 にみえて,地層があまりはっきり見えなかった.問題は その後,徐々に氷が溶けていくと,堆積物中に斜めの筋 が見えるようになり,不思議に思ってみると最終的には 氷の結晶が斜めに発達していることがわかった.氷が溶 けていくうちに堆積物がこの氷の斜め結晶(板状)の間 でとけていくために層序が分断されて行くことになる.  今回は,CT撮影後,細いパイプ状ピストンコア(5mm のねじヘッドをピストンに見立てて,5mm径の1mパイプ を使用)を作成し試料をとる事に成功した.堆積試料は 非常に柔らかいために,このシステムで100%吸引しなが ら取得できた.  そのコアを大学に持ち帰るときに,学生がどこかの交 通機関に置き忘れたらしく,残念ながら試料観察には至っ ていない.もう一度2018年6月に行って取得し,試料の観 察分析を行っていく.  CTスキャンのデータについては,投入日時,回収日時 から画像の対比比較を行い,約5mの連続した層序を復元 している.ただ,2016年から2017年のトラップでは,1年 間に満杯になっているものがあり,イベントが起こると すぐに粗粒のものはトラップに入ってしまい,その後は 水流の影響などで堆積侵食により連続的な堆積が起こっ ていない可能性もある.トラップを仕掛けているラック (1×1×1m)は現在ほぼ埋まっており,トラップ口と海 底面の距離もかなり近いことは,そこでの堆積作用を考 える上で,今後考慮する必要がある. 研究課題名 鉄沈澱作用2:水酸化鉄コロイド粒子の沈澱作用と堆積後変化 氏名・所属(職名)  清川 昌一・九州大学大学院 理学研究院 地球惑星科学部門(准教授) 研究期間       H29/6/26-28,11/11-14,H30/3/1-2 共同研究分担者組織  池原 実(海洋コア),伊藤 孝(茨城大学),他 学生3名

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【研究目的・期待される成果】  津波堆積物の認定は,これまで堆積学的,古生物学的 手法を用いて行われてきた.しかしながら,これらの分 析には多大な時間を要し,津波堆積物研究を津波防災計 画に反映するという社会の要求に対して迅速に対応する ことが現状では難しい.また,通常環境での堆積物と明 瞭に異なるイベント堆積物(土壌層中の砂質堆積物など) であれば肉眼で観察することができ,津波による堆積の 可能性を検討することができるが,近年の研究では津波 が浸水しても堆積学的に明瞭な痕跡を残さないことが明 らかになりつつある(例えば,Goto et al., 2011).その ため,迅速かつ高精度でイベント堆積物を地層試料中か ら識別し,かつ津波起源である可能性を評価するための 手法の開発が望まれる.こうした考えに基づき,申請者 らは高知大学海洋コア総合研究センターの共同利用申請 を行い,CT画像,帯磁率,XRFコアスキャナ等の情報か ら,津波堆積物の識別が可能かを検討してきた.そして, 特にCT画像は肉眼では観察されないイベント堆積物の識 別に適していること,海水由来の元素の濃集が見られる 場合があることなどが明らかになってきた.本計画では, 未測定分の試料分析を進めるとともに,ITRAXも利用さ せて頂き,より高精度の津波堆積物認定法について検討 することを目的とする.   【利用・研究実施内容・得られた成果】  仙台市若林区:本研究では,津波堆積物内に形成され ている層状構造の違いを,ITRAXを用いて定性的に評価 することを目的とした.得られた結果から,津波堆積物 は採取地点によって数層に分かれた地質を有していた. しかし,コアサンプリングの地点は直線上に連続の地点 であったのに対して,コア毎に層序が異なっており,元 素分布から水平方向での連続性が見られなかった.  三陸海岸小谷鳥:同地で採取されたジオスライサー掘 削によるブロック試料(1本0.5m)のCT撮影およびITRAX 計測を行った.地層の側方対比を目的として行い,ITRAX による各元素の分布から地層の側方対比が可能となった. これらの結果は,その後の津波堆積物の対比や年代測定 試料の選定に対して有用であった.  福島県南相馬市,徳島県海部郡美波町:これらの地域 で掘削された津波堆積物コア試料に対して,CT画像撮影, 帯磁率測定,ITRAX測定を実施した.上記の分析により, 有機質土壌中から津波堆積物砂層を正確に識別すること ができた.特に,福島県南相馬市の試料のCT画像観察か ら,津波堆積物の内部構造や堆積過程を詳細に復元する ことが可能となった.  北海道太平洋沿岸地域で採取された試料についてITRAX およびCTでの分析から,津波堆積物の認定を行った.こ れらは17世紀頃北海道に来襲したとされる複数の津波の 痕跡を示していると考えられ,今後詳細な年代測定を実 施する予定である.銚子市小畑池から得られたコア試料 について津波堆積物認定のため非破壊分析(CT,ITRAX) を行った.肉眼観察では色調が類似していたため,砂層 と上下の泥炭層の判別が困難であったが,CTでは明瞭な 境界が観察できた.ITRAXでは,砂層部分においてバッ クグラウンドとは異なる組成を示し,特にCa,S,Srの顕 著な増加が見られた.これは海水の侵入を示唆すると考 えられる.岩手県の大槌町で採取されたコアには約400年 前に形成されたと考えられるイベント層が確認できる. このイベント層についてCT,ITRAXの分析を行い,イベ ント層の起源推定を試みた.その結果このイベント層で はストロンチウムのピークが認められるなど,他の津波 堆積物との類似性が確認できた.今後は粒度等の他の指 標からも検討を行う予定である.古津波堆積物研究に活 用し,コア中の堆積物の詳細な識別や堆積学的,化学組 成の特徴を把握した.特に肉眼では確認できない微細構 造や堆積層の識別を可能にし,イベント層および津波堆 積物の認定における一助となった. 研究課題名 非破壊分析手法を用いた津波堆積物同定技術の開発 氏名・所属(職名)  後藤 和久・東北大学 災害科学国際研究所(准教授) 研究期間       H29/6/19-23, 7/31-8/4, 8/21-24, 9/11-14, 11/14-15, H30/1/29-31 共同研究分担者組織  駒井 武(東北大学),藤野 滋弘(筑波大学),山田 昌樹(東京大学)        篠崎 鉄哉(筑波大学),石村 大輔(首都大学東京)        山田 圭太郎(京都大学),他 学生4名

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【研究目的・期待される成果】  2011年東北地方太平洋沖地震津波を経験し,これまで 以上に津波のリスク評価に対する社会的関心が高まって いる.低頻度現象である津波の評価を行うにあたり,機 器観測記録,歴史記録だけでは対象とする期間の長さや, 情報の質・量ともに限りがあるため,先史時代の津波を 含めた解析を行う必要がある.これまで,過去に発生し た津波の解析には陸の地層中の砂質津波堆積物が広く用 いられてきた.砂質津波堆積物は,海底や沿岸の砂が津 波により運搬され陸上に再堆積したものであり,通常堆 積している土壌と比較的区別が付けやすいためである. しかしながら,2011年津波などの調査から,砂質津波堆 積物は津波の遡上限界に到達しない場合があることが明 らかになってきており(例えばAbe et al., 2012),地層 中の砂質堆積物から見積もられる浸水域は,過小評価と なってしまうことが懸念される.一方,泥質津波堆積物 は遡上限界まで堆積している場合が多いと言われている ものの,肉眼では土壌との識別が困難である.津波のリ スク評価のためにも,現在,泥質津波堆積物の識別もし くは海水浸入の有無の判別が喫緊の課題となっている. そこで本研究では,津波痕跡の識別手法確立を目的とし, 地球化学分析を用いた解析を行う.本研究の結果,過去 の津波のより正確な浸水域が推定でき,津波モデルの精 度向上,ひいては津波の防災,減災に繋がることが期待 される.   【利用・研究実施内容・得られた成果】  宮城県岩沼市沿岸域で採取した柱状堆積物に対し,CHNS/O 元素分析装置を用いた全有機炭素量(TOC)および全窒 素量(TN)の分析,元素分析計オンライン質量分析計を 用いた13 Cおよび15Nの分析を行った.どちらの分析でも 酸処理した堆積物試料を用いたが,元素量の分析では酸 処理していない試料(バルク堆積物)も併せて分析し, 全炭素量(TC)および炭酸塩量の算出を行った.測定し た柱状試料は全長1.4mで主に泥質(泥炭質)層と砂質層 からなる.目視で観察される砂質層は深度0-27cm,深度 47-52cmそして深度100-120cmの3層である.先行研究よ り,深度0-27cmおよび深度100-120cmの砂層はそれぞれ 2011年東北沖津波と869年貞観津波により形成された可能 性が高い(例えば,川又,2015,宮城考古学).一方,深 度47-52cmの砂層の起源はいまだ特定されていない.そ こで本研究では,深度47-52cmの砂質堆積物層および直 上直下の泥質層のC/N比,13 Cおよび15 Nから,砂層の形 成要因の特定を試みた.砂層の形成要因が津波であった 場合,砂層中には海洋生物起源の有機物の混入が考えら れ,この影響が化学的指標により捉えられる可能性が高 い.また,本調査地域は江戸時代以降に仙台藩によって 開墾されており,急激な環境変化が地層中に残されてい ると考えられる.そこで化学分析を連続的に行い,歴史 記録と照らし合わせることで,詳細な年代軸を入れられ る可能性がある.本試料は前年度の利用において化学分 析を行うことで古環境の推定を行える可能性が高いこと を確認している.今年度の利用では,泥層および砂層の 特徴を把握するため柱状試料を網羅的に分析した.試料 は泥層で0.5cmごと,砂層で1.0cmごとに切り分け,計51 点分析した.有機物の13 C値は,C3植物,C4植物,藻類 などで異なる値を示すため有機物の起源の推定に用いら れる.また種や生息環境などによっても値が変動する. 泥層では-29.6--26.4‰であり,これはC3植物がもつ値

の範囲内である(Lamb et al., 2006, ESR).また,深度

52-138cmでは上位方向に徐々に低下し,砂層を挟んで深 度27-47cmでは上昇する傾向を示した.また砂層の直上 は直下に比べて0.9‰高いことから,急激な環境変化が あったことが推測される.15 N値は大気,天水,河川といっ たリザーバーで異なる値をとるが,動物の代謝過程によ る濃縮係数が3.4台程度であるため,食物連鎖の解析にも 用いられる.泥層では-4.0-0.80‰であり,大気窒素固 定と降水の中間的な値を示した.また砂層の直上は直下 に比べて1.2‰程度高いことから,13 C同様に急激な環境 変化を捉えていると考えられる.今年度の利用では,今 回用いた柱状試料に対し化学分析を行うことで古環境変 化を定性的にとらえられることが分かった.今後,今回 の結果を他の環境指標と対比することで,環境変動との 因果関係の推定を行う.また歴史記録と照らし合わせ, 詳細な年代の挿入も試みる. 研究課題名 化学分析を用いた津波堆積物同定手法の開発 氏名・所属(職名)  後藤 和久・東北大学 災害科学国際研究所(准教授) 研究期間       H29/9/24-10/13 共同研究分担者組織  篠崎 鉄哉(筑波大学),他 学生1名

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【研究目的・期待される成果】  極地に存在する永久凍土は,有機炭素と水の貯蔵庫と して数十年から数百万年以上の期間にわたり発達あるい は保持されてきた.近年の気候変動によって,この永久 凍土の熱的状態が変化していることを示す観測結果が報 告され,大規模な融解が予測されている.このような背 景の下,地表付近の永久凍土が融解することによって, これまで固定されていた有機炭素や水分が流動化し,大 規模な地形変化を起こすことによって,その場の生態系 を変化させ,地球規模の環境変化が起こる可能性が指摘 されている.しかし,近い将来に融解することが予測さ れている表層付近の永久凍土中の体積含水率や有機物含 有量に関するデータは非常に限られている.一方,永久 凍土中の氷(アイスレンズ)や気泡の分布状態を解析す ることで,凍土発達史や古環境に関する情報を得られる 可能性がある.永久凍土帯に存在する地下氷の多くはア イスウェッジが発達して出来たと考えられているが,形 成の元となる温度収縮割れ目のでき方については基本的 にアイスウェッジポリゴンラインの中心線上に選択的に 開くと考えられているが,どの程度この通説が現存する 氷サンプル中に反映されているかの検証事例は少ない. こうした情報を得るために,本研究では凍土コア中の土 粒子・氷・気泡の三次元的分布およびアイスウェッジク ラックの分布を非破壊かつ定量的に把握するための基礎 研究を行うことを目的とする.  H29年度は,新たに導入されたCTを利用し,H25年度に 実施した旧CTによるスキャン結果と比較する. 【利用・研究実施内容・得られた成果】  分析対象として申請した試料のうち,富士山山頂の永 久凍土およびシベリア・アラスカ・スバルバール(ニー オルスン)の地下氷試料に対して,H29年7月とH30年3月 の2期間,合計7日間にわたって試料のCTスキャンを実施 した.今回は,リニューアルされたCTスキャンシステム による富士山およびニーオルスン試料の再測定も実施し た.富士山頂の山岳永久凍土は,溶結凝灰岩の空隙を氷 と気泡が占めた凍土であり,シベリア,アラスカおよび ニーオルスンで採取した地下氷は,年代の違うアイスウェッ ジ氷と考えられる.富士山およびニーオルスンの再測定 と,シベリアおよびアラスカ試料の新規測定を合計して, 160サンプルを測定した.これに合わせて校正用に水道水 とそれを凍らせたものの測定を行い,凍土サンプル中の 気泡・土粒子・氷の分離を行う基礎データとした.  測定結果は3D表示で永久凍土の内部構造がはっきりと わかる形で得られた.富士山の山岳永久凍土は,発砲状 の溶結凝灰岩の立体構造とそこに含まれる氷と空隙の構 造を把握することができた.分解能の向上により,複雑 な空隙の分布,気泡と氷の分離が新CTシステムのほうが より詳しく判別することがわかった.地下氷試料の測定 結果からは,アイスウェッジ形成の際にできたクラック に不純物が選択的に集まっていると考えられる3D構造が 捉えられた.アイスレンズの3次元分布や地下氷中の葉状 構造の情報が得られたことで,地下氷の凍結形成過程の 状況を再現する大きな手掛かりが得られた.また,土粒 子の分布だけでなく,礫や気泡の分布は非常によく顕れ ており,CTスキャンによる3次元非破壊分析がこうした 地下氷と永久凍土に有用であることが示された.特に, 気泡がかたまって分布する部分,アイスレンズの成長方 向に連続的に分布する部分など,他の情報と併せて詳し い地下氷成長過程の解明に重要な情報が得られている. 現在,水と氷の校正データを基礎にして,凍土中の各組 成の体積含有率を定量的に算出する試みを実施している. この結果は,他の方法で求められた体積含氷率などと比 較して検証していく予定である.  以前のCTシステムを使った分析は,測定速度と持ち時 間の兼ね合いで,主にボリュームスキャンにて1mmスラ イスで行った.新システムでは,さらに密度の濃い測定 が高速に実施でき,これまでの数倍の測定量を確保する ことができた.   研究課題名 永久凍土コア中アイスレンズおよび気泡の三次元分布解析と地球雪氷学的分析 氏名・所属(職名)  岩花 剛・北海道大学 北極域研究センター(海外研究員) 研究期間       H29/7/23-28,H30/3/12-16 共同研究分担者組織  なし

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【研究目的・期待される成果】  2011年東北地方太平洋沖地震の発生以降,地層中に残 された過去の巨大津波の痕跡を検出し,低頻度の大規模 災害の長期評価に役立てようという試みが注目されてい る.しかしながら,イベント堆積物の検出方法は必ずし も客観的でない場合があり,議論の余地が大きく残され ている.例えば,連続柱状堆積物中に含まれる薄いイベ ント層の検出・解釈は,個々の研究者の経験値によって 大きく異なる場合があり,発生間隔の推定に影響するこ ともある.  こうした問題点を考慮し,本研究では,非破壊検査手 法と粒度分析を組み合わせ,客観的にイベント堆積物を 検出する方法を開発することにした.具体的には,低地 や湖沼において採取されたコアの非破壊検査を行い,画 像検索によってイベントの有無を確かめる.その上で, 同試料の粒度分析を行い,画像診断によるイベント堆積 物の検出の妥当性を検証する.この作業により,これま で肉眼で行ってきたイベント堆積物の検出方法の信頼性 を評価することができる.さらに,本研究の成果によっ て過去の津波イベントのより正確な検出方法が確立され, 巨大津波の繰り返し間隔の推定に大きく貢献できること が期待される.   【利用・研究実施内容・得られた成果】  平成29年度は,9月25日,11月8日,1月23日,3月19日 にCT画像撮影装置を使用した堆積物の観察を行った.対 象とした試料は北海道浜中町,宮城県七ヶ浜町,千葉県 山武市,徳島県牟岐町で採取された試料である.  北海道浜中町では,低湿地においてジオスライサーお よびロシアンサンプラーを使用して柱状堆積物試料を採 取した.得られた試料は現地においてアクリル製ライナー およびパイプに入れ,産業技術総合研究所において一定 期間保管した後に高知大学海洋コア総合研究センターに 持ち込んだ.北海道東部では,17世紀に発生した巨大地 震・津波による津波堆積物が報告されている.本研究で は,この17世紀の津波堆積物とその一つ前の巨大津波(13 世紀の巨大津波)の痕跡を確認するため,また13世紀の 津波が襲来した時期の海岸線を決定するために,CT画像 の撮影による非破壊観察を行った.この結果,津波堆積 物と火山灰層について,イベント層準等を正確に決める ことができた.  宮城県七ヶ浜町では,貝塚を含めた考古遺跡の周辺に おいて見られるイベント砂層を観察するため,ハンディ ジオスライサーを用いて連続柱状堆積物を採取した.採 取した試料を産業技術総合研究所に持ち帰り,アクリル 製ライナーに移し替えた.CT画像の撮影を行った結果, 砂質イベント層中に多重級化構造を確認することができ た.  千葉県山武市では,ハンディジオスライサーを用いて 採取した.採取した試料は現地においてアクリル製ライ ナーに移し替えた.CT画像の撮影を行った結果,約400~ 1500年前に堆積した古津波堆積物の層準を正確に決める ことができた.また,そのイベント堆積物の堆積構造を 確認することができた.  徳島県海部郡牟岐町と美波町の低地では,過去に発生 した巨大津波による浸水の履歴を明らかにするため,ハ ンディジオスライサーおよびシンウォールサンプラーを 用いて柱状堆積物試料の採取を行った.採取した試料は, 現地においてアクリル製ライナーおよび塩ビ製パイプに 移し替え,産業技術総合研究所において一定期間保管し た後,高知大学海洋コア総合研究センターに持ち込んだ. CT画像の撮影による非破壊観察を行った結果,軟質堆積 物中に7枚の砂層および2枚の礫層が認められた.これら のイベント層の直上と直下において放射性炭素年代測定 を行った結果,同地域では1500年前~5500年前の環境変 化および津波の浸水履歴を記録している可能性があるこ とがわかった. 研究課題名 非破壊検査および堆積学的分析によるイベント堆積物認定の高精度化 氏名・所属(職名)  澤井 祐紀・国立研究開発法人 産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門(上級主任研究員) 研究期間       H29/9/24-25,11/7-8,H30/1/22-23,3/19 共同研究分担者組織  松本 弾,谷川 晃一朗,中村 淳路(産業技術総合研究所),他 学生1名

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【研究目的・期待される成果】  生体鉱物において,カンブリア紀初期に炭酸カルシウ ムの結晶(方解石)の殻が出現し,同時にリン酸カルシ ウムの結晶(アパタイト結晶)の殻も出現した.ヒトで は,炭酸カルシウムの結晶は耳石に存在し,アパタイト 結晶は歯や骨に存在する.アパタイト結晶は天然の鉱物と 生体内で作られる生体鉱物とがある.コノドントConodont は1856年に発見され,カンブリア紀~三畳紀まで世界各 地で発見されており,示準化石である.高知県横倉山の シルル紀の地層から産出しており,日本では最古のもの である.コノドント動物は,脊椎動物の祖先系として再 評価され,コノドントは口腔内の捕食器官であり,無顎 類の歯という説がある.サケの稚魚に似ており,頭部先 端近くにコノドント器官があり,噛み切りの機能をもち, 表面に微小な擦痕が見られる.組織的には表層にエナメ ロイド,内層に象牙質があり,結晶は脊椎動物の硬組織 とは異なり,fluoraptiteであることがこれまでに判明した. コノドントは生体鉱物の起源を探る上で,重要な試料で ある.生体アパタイト結晶は天然に産するハイドロキシ アパタイトとは,微量元素の成分に差があることがこれ までの研究で判明している.しかし,その形成機構の詳 細な解析はなされていない.顕微レーザーラマン分光装 置,EPMAやSEM-EDSは微細な領域の極微量分析に有効 である.コノドントの生体アパタイト結晶と天然のハイ ドロキシアパタイト結晶との関連性を検索することによ り,生体アパタイト結晶のより精密な基礎データが得ら れることが期待される.肉鰭類エウステノプテロンの歯 や皮甲,高知県登層魚類耳石,さらに現生ラットやヒト の歯などと比較検討している.得られたデータを解析す ることにより,硬組織の進化の研究に寄与し,さらに歯 や骨の代替材料の研究や再生医療に貢献できる. 【利用・研究実施内容・得られた成果】  顕微レーザーラマン分光装置において,これまでPO4 3-のピーク値は4種類が報告されている(Penel et al.,2005). v1: 960cm-1,v2: 430cm-1と450cm-1,v3: 1035,1048, 1073cm-1,v4: 587cm-1と604cm-1である.我々の研究でも ラットやヒトの歯や骨を含め,硬組織の生体アパタイト 結晶ではv1の960-961cm-1にPO 43-の一番鋭いピークが検出 された.この波形はCarbonated-apatite(CHA)に近似する ピークである.フロールアパタイトfluoraptite結晶(FAp) では964-967cm-1にPO 43-のピークが検出され,Fの含有によ るピークシフトが起こり,差異が見出された.サメのエ ナメロイド(FAp)では963cm-1であった.コノドント化 石やEusthenopteronの歯の外層エナメロイドの結晶は 965-967cm-1であった.またX線回折法で結晶がFApである ことが確認された.シルル紀以降の両生類の歯の結晶は 960-961cm-1のピークで,CHAであり,biological apatite結 晶と報告した(Kakei et al., 2016).ハイドロキシアパタ イト結晶HapやCHAはシルル紀以降に出現したと考察した. チリやブラジルなど世界各地天然アパタイト結晶15種全 てのサンプルからSEM-EDS分析によりFが検出され,FAp で有ることが示された.顕微レーザーラマン分光装置で 鋭いピークv1は964-967cm-1であり,フロールアパタイト (FAp)と同定され,またX線回折法でもフロールアパタ イト(FAp)と同定された.骨のアパタイト結晶でv1: 960 cm-1,v2: 430cm-1と450cm-1,v3: 1035,1048,1073cm-1 v4: 587cm-1と604cm-1であった.その4種のピークは天然ア パタイト結晶でも確認でき,骨代替材料の人工材料をイ ンプラント後に,その周囲に形成される骨組織の結晶成 熟度の比較対照試料としての可能性が示唆された.(三島 ほか,2014;2015;2016;2017).   Eusthenopteronの化石では下層から,層板骨,脈管に富 む骨,象牙質,エナメロイドに区分され,皮甲表層や歯 のエナメロイドはFAp結晶であり,その下層の象牙質や骨 組織はHAp結晶とFAp結晶が混在していた.透過型電子 顕微鏡ではエナメロイドの結晶は中心線が存在しない. 形態学的にはFAp結晶であった.それに対し下層の象牙 質や骨組織は中心線が存在する結晶であり,HAp結晶で あった.象牙質や骨の化石のFAp結晶の存在は,海水中 のFが長い化石化作用の間に歯髄から象牙質の象牙細管 にあるいは骨髄から骨細管に浸み込み,二次的にOH基に F基が置換され,FAp結晶が形成されたと考察した.また Eusthenopteronは歯の硬組織のエナメル質,エナメロイド の起源を探る上で,貴重な標本である(Mishima et al., 2017,三島ほか2018).さらに現生の歯の試料のbiological apatite結晶では,天然のアパタイト結晶より,多くのCO3 2-を含有しているとの報告があるが,ラマン分析において, CO32-のピークを明瞭に検出できていない.この点は,耳 石の炭酸カルシウムを対照試料にして検索しているが, まだ明らかにできていない.TEMの観察から,コノドン ト化石の硬組織の結晶は柱状であり,硬組織は2層性(外 層と内層)であることが確認できた.外層のエナメロイ ドは結晶の大きさが大きく,内層の象牙質の結晶は小さ かった.SEMにおいて,エナメロイドでは,エナメル質 と異なり,成長線が認められなかった.組織構造的にも, 従来の報告と異なり,外層がエナメロイドであることが 確認できた.EPMAにおいてはコノドント化石では,Ca とP,微量元素として,Fが検出された.Ca/P比は外層で 1.60~1.62,内層で1.60~1.96であった.Fは外層で3.803± 研究課題名 高知県横倉山産のコノドント化石と天然アパタイト結晶との関連性に関する分析学的解析 氏名・所属(職名)  三島 弘幸・鶴見大学 歯学部 歯科理工学講座(非常勤講師)        ※課題申請時 高知学園短期大学 医療衛生学科 歯科衛生専攻(教授) 研究期間       H30/3/15 共同研究分担者組織  安井 敏夫(横倉山自然の森博物館),谷本 正浩(大阪市立自然史博物館)

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0.236~4.137±0.089 weight%で,内層は3.203±0.646~ 5.456±0.185 weight%であった.外層が内層に比較し, F含有量が多かった.コノドント化石の硬組織の結晶はFAp 結晶と考察した.ガーなどの鱗に存在する硬組織ガノイ ンはエナメル質に相当する組織であり,結晶はbiological apatite結晶である.コノドント化石の組織構造で,内層は 骨様象牙質,あるいは細管を持つ真正象牙質であり,外 層はエナメル質ではなく,成長線が認められないエナメ ロイドである.この組織は魚類の歯に特徴的に存在する ものであるので,コノドント化石は口腔内の捕食器官で あるという説は妥当であると考察される.さらに我々の 結果はコノドント動物が最初に石灰化組織を持つ生物と の説を支持するものである(Venkatesh et al., 2014).し かし,Duncan et al.,(2013)が収斂の一例であり,歯で はないとする見解を報告した.今後精査し,歯と相同器 官であることを追求していきたい.  歯と顎骨との関係で,歯槽やセメント質がワニや哺乳 類しか存在しないとの見解が一般的だが,海生爬虫類化 石のモササウルス類ではすでに歯槽の原形が存在し,セ メント質があるとの報告もあり,歯槽の起源も追及して いきたい.

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【研究目的・期待される成果】  青木層は,長野県松本~上田地域に分布する,砂岩泥 岩互層を主体とするフリッシュ型の海成層である.堆積 の時代は中期中新世である.  青木層の泥岩中に産出する炭酸塩ノジュールは,菱鉄 鉱ノジュールがほとんどで,方解石ノジュールや苦灰石 ノジュールはほとんど産出しない.青木層は海成層なの で,メタン発酵起源の菱鉄鉱が晶出するためには,間隙 水中の硫酸塩イオンが,硫酸塩還元の進行によって,枯 渇していなければならない.実際,青木層泥岩には黄鉄 鉱が普遍的に含まれる.硫酸塩還元は次の式であらわさ れ,この反応によりHCO3-が生成する.

 2CH2O+SO42- 2HCO3-+H++HS-このようにHCO3-が間

隙水に付加されるのに,青木層では,なぜ硫酸塩還元ス テージでの炭酸塩鉱物晶出が認められないのか,その理 由は明らかになっていない.  本研究では,青木層に産出する炭酸塩や燐酸塩ノジュー ル,黄鉄鉱ノジュールなどの鉱物構成と炭素,酸素,硫 黄などの同位体比を調べ,硫酸塩還元をへてメタン発酵 に至るまでの過程を明らかにする.そして,青木層では, なぜ硫酸塩還元ステージでの炭酸塩ノジュールを欠くの か,その理由の解明をめざす.   【利用・研究実施内容・得られた成果】  2017年度の研究・分析は,2016年度の共同利用研究に よって得られた成果を論文化するうえで,まだ足りなかっ た同位体比データを取得することにあてた.2016年度の 共同利用研究の成果は,次のような発見である.「新第三 紀の海成層に産する方解石ノジュールの炭素・酸素同位 体比を測定した結果,泥岩中のノジュールの酸素同位体 比は晶出時の初生的性質を保持しているが,中~粗粒砂 岩中のノジュールは初生的値より10数‰低下している. 研究した地層は,富草層群大下条層,新潟県松之山地域 の田麦川層,長野県鬼無里地域の論地層,神奈川県葉山 の鐙摺層,長野県飯山地域の一ノ瀬層である.この事実 は,ノジュールが硫酸塩還元続成作用によって形成され たあと,地層が陸化し,砂岩層中を天水起源の地下水が 浸透することによって,ノジュール方解石の酸素同位体 比が初生値より低く改変された結果と解釈される.」この 見解を裏付けるために,新たに約40試料の分析を2017年 度に行い,上記見解をより確固にさせた.この成果は, 下記二つの論文として「地球科学誌」に投稿した. 1)森清・岡田 富草層群大下条砂岩中の方解石ノジュー ルに認められる,酸素・炭素同位体比の二次的改変. 2)森清ほか 砂岩中に産する方解石ノジュールにおける, 酸素同位体比の二次的改変-新第三系からの数例. 両論文とも,現在査読中である.  これらとは別のテーマであるが,2016年度の共同利用 研究によって得られた成果の一部が,論文として公表さ れた.それは,森清・神谷「新潟県松之山地域の鮮新統 田麦川層から産したメタン起源方解石ノジュール」信州 大学理学部紀要47巻,1-8,である.   研究課題名 長野県松本-上田地域に分布する中新世青木層に産する菱鉄鉱ノジュールの成因の解明 氏名・所属(職名)  森清 寿郎・信州大学 理学部 地球学コース(特任教授・名誉教授) 研究期間       H29/9/4-8 共同研究分担者組織  なし

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【研究目的・期待される成果】  日本海の第四紀半遠洋性堆積物には,特徴的な明暗互 層が存在する.この明暗互層は最終氷期においてダンス ガード-オシュガー・サイクルに対比されており,数千 年スケールの気候変動を反映していることが報告されて いる(Tada et al., 1999).しかし,これまでの先行研究 は主に過去20万年に限られており,第四紀後半全体に見 られる明暗互層の特徴が氷期-間氷期変動に伴ってどの ように変化して来たのかはこれまで調べられて来なかっ た.

 IODP Exp. 346 Asian monsoonでは,日本海深部の複数 地点から第四紀全体を含む堆積物が連続的に採取された. そこで,本研究では,IODP Exp. 346において日本海の異 なる水深の3地点から採取された海底堆積物コア試料を用 いて,第四紀や中新世を通じた数千年スケールの気候変 動・海洋環境の時間空間変動を復元することを目的とし, 分析を行う.  昨年度の共同研究において,異なる水深の2地点の試料 を分析し,水深の違いによる底層の酸化還元環境や炭酸 塩溶解度の相違が明らかにされた.今年度はさらに3地点 目(U1426)の分析を進めることで,鉛直方向の海洋環境 の復元を行い,考察を深めることを目的とする. 【利用・研究実施内容・得られた成果】  平成29年度は,平成29年8月28日~9月8日と,平成30年 3月6日~29日にITRAXを利用して堆積物コアの高解像度 元素分析を行った.分析した試料はIODP Exp. 346 Site

U1426の堆積物コア(水深903m)で,約1.5mのコアを3mm, 10秒の解像度で測定した.分析総本数は104本であった. 平成28年度の共同利用によるITRAX分析データと合わせ ると,U1426コアについて過去およそ1.9Maの高解像度元 素分析が終了した.  ITRAXで分析したデータはX線管球の劣化によるカウン ト値低下の影響を受けているため,管球劣化の影響の補 正などを行った上で連続記録を作成した.平成28年度の 共同利用によるSite U1424(水深2808m),U1425(水深 1909m)コア試料の元素分析結果と合わせて解析を行い, 過去70万年間について炭酸塩補償深度の変動の連続復元 を行った.その結果,日本海における炭酸塩補償深度は 過去70万年の間に903mよりも浅い水深から2808mよりも 深い水深まで大きく変動し,その周期は氷期間氷期サイ クルよりも短い数千年スケールであったことが示された. 概ね大気中二酸化炭素濃度の上昇時期には炭酸塩補償深 度が浅くなり,逆に二酸化炭素濃度低下時期には炭酸塩 補償深度が深くなる傾向が見られた.また,間氷期の二 酸化炭素濃度が~20ppm程度増加した0.45Ma前後ではそ の変動様式に変化がみられ,炭酸塩補償深度の変動と大 気中二酸化炭素濃度の変動には関連性がある可能性が示 唆された.  これを踏まえ,炭酸塩補償深度の変動を制御する要因 を探るため,ITRAXによる元素分析データのうちCaの変 動を堆積物中のCaCO3濃度へ変換した.ITRAXによる元素 分析データは半定量的なデータであるため,この作業に は,ITRAX分析データの定量化を目的とした分析の結果 を用いた(平成28年度に実施).これを用いて水深の異な る3地点(903m,1909m,2808m)のCaCO3埋没フラック スを推量した結果,日本海における過去70万年間のCaCO3 埋没フラックスは3地点で異なり,それぞれの地点におい ても一定ではなく,大きく増減していたことが示された. また,炭酸塩補償深度の変動様式と同様に,CaCO3埋没フ ラックスも0.45Ma前後で異なる様相を示すことがわかっ た.  また,平成28年度の共同利用の成果として,ITRAXで 測定したBrが堆積物中の海洋起源有機物含有量の指標と なっていることが示されている.このことを利用して, 深度の異なる3地点における海洋起源有機物埋没フラック スを推量した.CaCO3埋没フラックスと海洋起源有機物埋 没フラックスを比較することで,炭酸塩補償深度変動に 有機物の分解が与える影響を検討することが可能になる. 今後,U1426コアのITRAX分析データの解析を進め,70万 年前より古い時代の炭酸塩補償深度変動の復元とCaCO3埋 没フラックスの推量などを行うことで,炭酸塩補償深度 変動を含めた過去の海洋循環変動を推測できると期待さ れる. 研究課題名 IODP Exp.346で採取された日本海半遠洋性堆積物の高解像度元素測定と古海洋復元 氏名・所属(職名)  多田 隆治・東京大学大学院 理学系研究科 地球惑星科学専攻(教授) 研究期間       H29/8/28-9/8,H30/3/6-29 共同研究分担者組織  村山 雅史,池原 実(海洋コア),他 学生3名

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【研究目的・期待される成果】  底質の鉛直再配分,および岸沖方向移動動態把握を目 的とした底質コアサンプリングを実施する.コアサンプ リング実施前に,特定箇所において蛍光砂を投入してお き,その後採取されたコアサンプル内に蛍光砂がどのよ うな岸沖方向位置にどの深度に堆積しているのかを解析 し,その移動速度,移動範囲を検討する.  これまで,高波浪時における侵食性波浪による岸沖鉛 直混合について検討を行い,底質の混合,異粒径の配分 について知見が得られた.また,堆積性波浪での移動形 態についてもバー地形を有する場合については推定でき たものの,バー地形を有しない場合については未解明で あることから,平成29年度については,バー地形を有し ない地形形状における堆積時の底質移動形態の把握を目 的とする.これらの成果は,沿岸域生態学への応用が可 能となる. 【利用・研究実施内容・得られた成果】  2017年5月9日から21日まで,茨城県波崎海岸に位置す る波崎海洋研究施設にて現地観測を実施した.観測期間 中,岸沖方向位置x 10,120mにバーム,インナーバーが 存在していたが,観測期間中の波高2mを超える高波浪に よりそれらは消失し,x 190mにアウターバーが形成され た.蛍光砂は中央粒径0.2mmの3色(緑,黄,赤)を500kg ずつ用意し,それぞれx 80,160,240mに投入した.底 質コアの採取は静穏となった12日目に実施した.採取し た底質コアは高知コアセンターにおいて,X線CTスキャ ン等を行ったのち,5.0cm毎に分割し,蛍光砂数,粒度分 布の解析を実施した.  観測期間中の土量変化(x -30mより海側)は,バーム とインナーバーが侵食しその間が堆積したことにより, アウターバーまで地形が線形化していた.期間全体での 土量収支は97.2m3の減少であった.蛍光砂投入の際,黄, 赤色に関してはダイバーにより海底面上に散布したが, 緑に関しては波浪状況により水面からの投入となったた め,より拡散が強まっていた.黄,赤色に関しては,両 者概ね同様な岸沖分布となっており,沖に投入した赤色 がバーム位置まで到達していたことがわかった.これは バーが存在していない地形形状が影響したと考えられ, 筆者らの過去の現地調査でも同様の結果が得られている.  黄色蛍光砂を投入したx 160mにて採取したコアの解 析では,投入後,地盤面が0.37m侵食していたが,蛍光砂 の有無により深度0.36mまで底質混合が生じていることが わかった(蛍光砂10個以下については無視).観測期間中 の最低地形断面を基準とし,各底質コアから混合層厚を 計測した結果,黄・赤色蛍光砂の岸沖方向到達位置に関 しては概ね同一であったが,赤色については,岸に行く ほど黄色よりも浅い箇所までの混合となっていた.両色 の最深部を見ると,バー頂部となるx 190mよりも岸側 では約0.3m,バー頂部ではほぼ0.05mであった.バーよ りも沖側では,x 230mにて0.3mまで増加するがその沖 では0.1mまで低下していた.これまでに提案されている 混合深の計算値と比較すると,x 80~160mに関しては Madsen(1974)が理論的解析から提案したZ -0.11 Hb が最も近い値となった.推定砕波帯位置,最低地盤計測 日を考慮すると,最も沖側のx 230mについては,砂連 形成に伴う混合,また,x 150mよりも岸側では,赤色 蛍光砂は表層のみの存在であったことから,沖側の岸向 き漂砂は主に高波浪イベント後であることが示唆された.  本観測では,複数の蛍光砂を用いたことで,高波浪イ ベントにおける岸沖底質移動,および混合層厚を合わせ た解析が可能となった. 研究課題名 コアサンプルデータを用いた静穏時における岸沖鉛直底質移動動態メカニズムの解明 氏名・所属(職名)  鈴木 宗之・横浜国立大学大学院 都市イノベーション研究院(准教授) 研究期間       H29/7/19-21 共同研究分担者組織  伴野 雅之(港湾空港技術研究所),他 学生2名

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【研究目的・期待される成果】  古地磁気学において,二次磁化を消磁する手法として, 熱消磁・交流消磁がよく用いられるが,化学消磁はあま り用いられてこなかった.それには,化学消磁に用いら れてきた,強酸の扱いが面倒であったからという面があ る.そこで,我々は,還元化学消磁(RCD)という手法 を考案し,琉球層群の礁生石灰岩で,その有用性を示し て来た(2014-2015共同研究).この成功は,透水性のあ る堆積岩/堆積物では二次磁化は,透水域での磁性鉱物の 生成が大きく寄与しているからであったと思われる.昨 年度よりは,他に有効な試料を検討して,蝦夷層群の古 地磁気研究に応用可能かを検討している.橋本(2012MS) は北海道古丹別地域に分布する蝦夷層群の古地磁気を測 定し,白亜紀スーパークロン後の逆磁極期との境界を見 出し,白亜紀の年代区分であるサントニアン-カンパニ アン境界(Sn/Cm境界)と年代が極めて近いことを利用し て,時間面の国際対比を行うことを試みた.しかし,こ の堆積物も,礁性石灰岩と同様に二次磁化の影響を大き く受けており,特に逆帯磁との判定される層準での方位 のばらつきが問題となって,確定的な結論が導かれなかっ た.蝦夷層群の固結度は必ずしも高くないので,RCDが 有効である可能性がある.  そこで,これらの蝦夷層群のRCD実験を行い,逆帯磁 とみられる層準が確定できれば,蝦夷層群でのSn/Cm境界 が確定できて,日本の中生界の対比を大きく前進させる こととなる.また,他にも同様な試料を見出し,有効性 を検証したい.   【利用・研究実施内容・得られた成果】  今年度の共同利用では,上部白亜系蝦夷層群(試料採 取地域:北海道古丹別)の泥岩試料に対し還元化学消磁 (RCD)による熱消磁時化学残留磁化(CRM)の抑制に ついての研究を行った.高知コアセンターでは,泥岩試 料25試片に対してRCD実験,その後RCDを行った25試片 および行わない25試片に対しての段階交流消磁(AFD) 実験(内訳:RCDあり10試片,RCDなし10試片)および 段階熱消磁(TD)実験(内訳:RCDあり15試片,RCDな し15試片)を実施した.還元性エッチャントが試料内部 まで浸透するように,RCDを行う試料は1インチの磁化 測定用試料を厚さ5mm程度にスライスし,RCD後に再度 定方位試料へ戻す手法を用いた.RCDを行わない試料に 対するAFDおよびTDは初生磁化方位の取り出しが困難な 結果であった.AFDでは消磁が完了しないことから,高 保磁力成分の含有が示唆された.また,TDでは,およそ 400℃付近において磁化が増加することが確認できた.RCD を行った試料については,固結度の問題から,試料の形 状保持が難しく,還元性エッチャントの供給法を再検討 する必要があることが明らかとなった.しかし,方位は 確認できないものの,400℃付近での磁化の増加はみられ ず,熱消磁時の熱変質によるCRM獲得を抑制する一定の 効果があることが確認できた.そこで,より詳細に熱変 質抑制効果を確認するために古丹別地域全36サイトにつ いて熱磁気分析を行った.熱磁気分析は,同一コアから 0.1g程度チップを2つ準備し,片方にRCDを施す.その後 双方を熱磁気天秤にて測定することでRCDの熱変質抑制 効果を確認した.熱磁気分析の結果から,古丹別地域の 蝦夷層群試料は,熱変質のパターンが4タイプ存在するこ とが明らかとなった.以下に4タイプを示す. Aタイプ:含有磁性鉱物はゲータイトおよびマグネタイト で熱変質がおこらない Bタイプ:RCDを実施しない試料について昇温時210℃で 磁化の増加がみられる Cタイプ:RCDを実施しない試料について昇温時410℃で 磁化の増加がみられる Dタイプ:RCDを実施しない試料について昇温時210℃, 410℃で磁化の増加がみられる  特にB,C,Dタイプに見られる磁化の増加はRCD後の 試料ではみられない.また,2016年度共同利用において RCD実験を適用した中頓別地域より採取した蝦夷層群で はDタイプのみが確認され,RCDによる熱変質抑制効果も 同様であった.  磁気層序を確立するためには,Aタイプの試料を用い ることが好ましい.しかし,Aタイプの分布はランダム であり,また層準に当てはめると連続的ではない.この ためB~Dタイプの熱消磁時CRMを抑制し,方位および 極性を判断することは極めて重要である.今後は,定方 位試料の形状を維持したRCD手法の検討を行い,B~Dタ イプの試料について熱変質抑制下での方位測定を行う必 要が有る. 研究課題名 還元化学消磁による堆積岩中の磁性鉱物の変化と磁気層序 氏名・所属(職名)  渋谷 秀敏・熊本大学大学院 先端科学研究部基礎科学部門 地球環境科学分野(教授) 研究期間       H29/8/31-9/4 共同研究分担者組織  小玉 一人(同志社大学),望月 伸竜(熊本大学),他 学生1名

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【研究目的・期待される成果】  太平洋とインド洋を結ぶインドネシア通過流(ITF)は 海洋大循環において唯一熱帯域を通過する海流である. そのため,地球表層の熱及び水循環の要であり,気候変 動とも密接に関わっている.近年,研究が進められITFの 主要な流路や熱フラックス,流量といった基本的なデー タが揃ってきたが,現場の観測のみでは数十年以上にわ たるITFの環境変動の復元は困難である.特にモンスーン に伴い,ジャワ海に出現する低塩分の水塊の挙動がITFそ のものやENSOなどの気候変動と密接に関わっていること が指摘されているが(Gordon et al., 2003),塩分の詳細 な長期記録の報告はされていない.そこで本研究では, ジャワ海やバリ島近海から採取された現生のサンゴ骨格 を試料としその骨格中の化学成分を測定することで,50-100 年間の海水温と塩分の記録を復元する.本研究により, ITFの表層環境の解明および,最終的にはITFとENSOな どの気候現象との関係の一端を解明することが期待され る.  これまでに同じ研究課題でサンゴ骨格中の酸素同位体 比(18 O)の測定を行っているが,塩分の議論をするには 十分なデータが得られていない.そのため本研究課題の 継続により18 Oのデータを延伸することで分析の進んでい るSr/Ca比と組み合わせ,長期の塩分復元を可能にす る.   【利用・研究実施内容・得られた成果】  本研究では,ジャワ海から採取されたサンゴ骨格試料 について,安定同位体比質量分析計(IsoPrime)を用いて 酸素・炭素同位体比(18 O・13C)の測定を行った.事前 の計画では試料数500個程度の測定を予定していたが,装 置の不調による再測定や追加試料の測定を行った結果, 予定よりも作業日程や測定試料数が大幅に増えている. しかし本申請により分析を進められたことで,約70年に 及ぶデータを揃えることができた.  測定結果からサンゴ骨格中の18 Oは-5.5~-7.0 ‰の間 で変動し(平均-6.1‰),これは他の熱帯~亜熱帯域のサ ンゴの結果よりも低い値を示している.骨格中の18 Oは降 水量の多い地域ほど低い値を示す傾向にあり,今回の結 果はインドネシア多島海周辺の降水量が世界的にみて多 いことと一致する.また骨格中の18 Oは,海水温と海水 の18 Oを反映しており,海水の18 Oは蒸発-降水のバラ ンスにより決定することから塩分に近似される.そのた め水温計として利用されるSr/Ca比との組み合わせにより 塩分の復元が可能である.本研究において復元した塩分 はおおよそ1年に2程度変動しており,塩分の変動幅とし ては大きいと言えるが,衛星データによって与えられる この海域の塩分変動も同程度の変動幅を持っており,サ ンゴによる復元がこの海域の特徴を捉えることができて いると考える.  熱帯太平洋のエルニーニョやインド洋の正のインド洋 ダイポールは,インドネシア周辺で海水温の低下と降水 量の減少をもたらすことが知られているが,これらのイ ベントと塩分変動を照らしあわせたところ明瞭な関係を 示すことはできなかった.これらのイベントにより降水 量や淡水の供給の減少が生じる一方で,南シナ海から南 向きに流れるSouth China Sea (SCS) Throughflowは低塩

分の水塊を運ぶことが言われている(Gordon et al., 2012). SCS Throughflowによるジャワ海への輸送はイベントに 依らないため,エルニーニョやインド洋ダイポールとの 関係を見る場合に,このような低塩分の水塊の寄与がジャ ワ海の塩分変動をより複雑なものにしている可能性があ る.また時系列解析を用いることで,経年周期(3-7年) に注目し海水温,塩分とエルニーニョ/南方振動(1951 年~2002年),インド洋ダイポール(1958年~1999年)と の関係を調べたところ,両者に相関関係は認められなかっ た.このことから経年周期においてエルニーニョやイン ド洋ダイポールがこの海域の表層環境に優占的な影響を 与えているわけではないことが示唆される.  今回結果を得たジャワ海はITFの表層環境や気候システ ムとの関係を議論する上で重要な地点の1つだが,未だ ITFの表層環境の解明には至っていないため,今後ITFの 流域下で成長したサンゴ骨格を試料とし同様の分析を行 い,目的の達成に向けさらに進展させていきたいと考え ている. 研究課題名 インドネシア通過流の表層環境の解明とその気候変動との関係に関する研究 氏名・所属(職名)  源田 亜衣・岡山大学大学院 自然科学研究科 (修士2年) 研究期間       H29/4/17-21,6/19-23,9/4-8,9/25-28,10/2-6,11/6-9,H30/2/5-8,2/19-22,2/26-3/1 共同研究分担者組織  学生1名

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【研究目的・期待される成果】  エチオピア洪水玄武岩は,アフリカ・アラビア・ソマ リアプレートの発散境界からなる三重会合点での大陸分 裂に関係して漸新世に起きた火山活動で,エチオピア・ イエメンに広く(約60万km2),地域的には2,000mを越え る厚さをもつ溶岩層として分布している.従来の放射年 代・古地磁気層序の研究から,約30Maに約100万年間と いう短期間におきた火山活動であると考えられている

(Rochette et. al., 1998他).多数の溶岩流からなるこの厚

い溶岩層は,地球磁場変動,特に地磁気強度の変動を解 析する上で絶好の対象物である.  そこで,エチオピア・Lima Limo地域に分布する溶岩 層から98層準で試料を採取し,約30Maの地球磁場変動 (方向・強度)を詳細に明らかにし,30Ma頃の地磁気極 性逆転史の改訂・高精度化を目指すとともに,30Maの地 球磁場強度データを求めることで,長い時間スケール(数 千万年間)での地磁気強度の変動を明らかにすることを 目的とする.   【利用・研究実施内容・得られた成果】  本研究課題期間において,貴センターの古地磁気・岩 石磁気実験室のスピナー磁力計,交流消磁装置,非履歴 残留磁化着磁装置,低温消磁装置を利用して,低温消磁 付き2回加熱ショー法による絶対古地磁気強度の推定のた めの実験を20試料に対して行った.   今 回 の 課 題 も 含 め , こ れ ま で の 共 同 利 用 研 究 (14A036/14B036,15B056,16A022/16B020)の結果か ら,以下のことが明らかとなった.  古地磁気方位解析の結果,98層準中93層準から安定な 古地磁気方位が得られ,それに基づき,約30Maの地磁気 極性変化として,下から逆-正-逆の極性の変化が求め

られた(Ahn et al., in preparation).52層準に対する相

対古地磁気強度,40層準に対する絶対古地磁気強度の推 定のための実験を行った.50層準中48層準で相対古地磁 気強度を求めることができ(昨年度から新たに1層準追 加),40層準(56試料)のうち28層準(31試料)で絶対古 地磁気強度が求めることができた(昨年度から新たに4層 準追加).  絶対古地磁気強度データに基づいて算出した見かけの 地磁気双極子モーメント(VDM)の強度は,0.2~10.2× 1022 Am2であり,その平均値は,3.20 +/- 2.24×1022 Am2 であった.この平均強度は過去500万年間の平均VDM強

度(Yamamoto & Tsunakawa, 2005)と比較すると小さい.

また,VDMの変動度合に関しては,堆積物から得られて いる相対古地磁気強度の変動から推定されている過去80 万年間のVDM強度の変動度合と比較すると同程度である ことが認められた.  地磁気極性に区分して検討してみると,逆磁極期の溶 岩層の試料の平均古地磁気強度は約17Tで,調査地域の 現在の地磁気強度の半分程度であった.さらに,過去500 万年間の平均古地球磁場強度(Yamamoto & Tsunakawa, 2005)と比較すると同程度であることがわかった.一方, 正磁極期の溶岩層の試料の平均古地磁気強度は約5Tで, 逆磁極期の溶岩層の強度と比べて有意に弱いことがわかっ た.磁極期の極性による古地磁気強度の差異が認められ たことは興味深い結果である. 研究課題名 エチオピア洪水玄武岩を対象にした約30Maの地球磁場変動の解析 氏名・所属(職名)  石川 尚人・京都大学大学院 人間・環境学研究科(教授) 研究期間       H29/10/27-11/13 共同研究分担者組織  山本 裕二(海洋コア),山崎 俊嗣(東京大学),Tesfaye Kidan(アジスアベバ大学)        乙藤 洋一郎(NPO法人地球年代学ネットワーク),Ahn Hyeon-Seon(慶尚大学校)        他 学生1名

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