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ハンガリーにおける新しい小規模経営について(2)

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1

ハンガリーにおける新しい小規模経営に

ついて(2)

門  脇  延  行

1 はじめに ∬ 新しい小規模経営形態 巫 小規模経営と第二経済 IV 小規模経営の現状(以上前号) V 小規模経営導入の狙いと意味(以下本号) W 小規模経営の問題点 W 結びにかえて V 小規模経営導入の狙いと意味  前号「皿 小規模経営と第二経済」の項において,住民の日常生活に直結し た領域での新しい小規模経営の導入はいわゆる「第二経済」と深くかかわって いることを明らかにした。そこにおいて社会主義セクター(第一経済)がしか るべく機能を果しえていないがために第二経済がその“穴うめ”をせざるをえ ないのであり,今では第二経済が経済活動の不可欠の部分となってしまってい るがゆえに,その一部を合法化し,出来る限りフォーマルな経済に統合せんと して新しい小規模経営が導入されたと指摘した。住民の日常生活にかかわる多 様な要求のよりよい充足という点に限れば,そうである。  しかし,小規模経営の導入の狙いも意味もそれだけに尽きるものではない。 ハンガリー経済が直面している課題とも不可分に結びついている。オイル・シ ョック以後の交易条件の悪化という厳しい国際経済環境の下で,敢えて世界 市場競争に打って出る経済政策を採用したハンガリーでは,生産構造を近代化 し,経済効率を高め,企業の国際競争力を強化することが至上課題となってい

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 2  彦根論叢 第226号 る。それなしには,対外経済バランスの回復と国民生活水準の維持という,第 六次五力感計画(1981−1985年)の二つの主要目標が達成されえない。問題は, 世界的なレベルでの経済効率でもって良質の製品とサービスを提供でぎる体制 乃至経済構造になっているかどうかである。ここでは工業企業の構造・構成に 光をあてて,その問題をみてみよう。そこから,小規模経営の導入の狙いと意 味も明らかとなってくると考える。  (1) 「逆ピラミッド型」企業構成と企業集中度  ハンガリー工業における企業構成には際立った特徴が見い出される。第1図 にみるように,それは「逆ピラミッド型」企業構成である。つまり,大企業の 比重がことのほか大きく,逆に中小企業の数が相対的に少ない,頭でっかちな 構造になっているということである。それゆえ,ハンガリーの企業集中度は極 めて高く,発達した資本主義国でなら中小企業によって特徴づけられるような 部門(たとえば衣服産業)においてさえも,大企業によって代表されるほどで ある。

      第!図企業数分布(%)

人 数 デソマ  ク % ハ ン ガ リ 500以上 200−499 100−!99 50一 99. 20一 49  0r一 19

147297

   124

3221

752231

 出典=Schweitzer Ivci n:Avallalatnagysag. KJK.1982.!30.01d.  いくつかの統計から工業の企業構成をみてみよう。第1表をみると,国営工 業(食品工業を含む)において1,001人以上の労働者を雇用している大企業は 全部で国営工業総企業数の43.5%を数え,労働者数の83.5%,粗生産高の81.6

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       ハンガリーにおける新しい小規模経鴬について (2) 3 第1表 国営工業企業規模(雇用労働者数)別比率(!980年)(%)

\遡墾塾1一…1…一…i501r,。。。11%。響あ。5・…■野肇

I l企 業 数 i {労働者数  粗生産高* 6.6 0.2

o1

27,3 0r.3 4! 22, 6 11 0 14 3 20, 5, !8 4 19,8    , 17.5 1 Jr.s 33 s 1 31.3    i 37.8 i 24.0 100,0 100,0 100.0  *経常価格,取引税は含まれていないので,食品工:業の50人未満はマイナスを記録す   る。100人以下の粗生産高が0となる所以である。          ノ  出典:Statisztikai Evkonyv 1980. KSH,ユ981.        1) %を占めている。比較的集中度の低い食品工業を除くと,1,001以上の企業数 は全体の50%を越える(第3表参照)。  上の数字ではトラスト傘下の企業も自立企業として計算されているが,その       2) 自立性は制限されていることがよく知られているので,トラスト全体を1企業 としてみれば,大企業の集中度は一層高まる。雇用労働者数に占める1,001入        3) 以.ヒの企業の割合は90%を越える。  ハンガリーの企業集中度の高さを国際比較においてみたのが第2表と第3表 である。社会主義国の大企業への集中度は一般に高いのであるが,その中でも ハンガリーより高いのはルーマニアとチェコスロヴァキアだけである。工業別 1) 企業規模は「売一ヒ高i「投下資産価値」 「利潤額」 「A己資本額」などでも測るこ  とがでぎるが,本稿ではもっとも一般的に用いられている「雇用労働者数」をその尺  度としている。なお.日本では雇用労働者数300人未満を中小企業(製造業)として  いるが,以下においては,ハンガリーの慣例に従って,!00入未満を小企業,101∼  !,000人以下を中小企業,1,00!人以上を大企業に分類している。 2) 「自主性という点ではトラスト傘下の企業と大企業の工場(gyaregys6g)との間に  は大した違いはない一1(lnzelt Annam設r三a・Versenyk6pess696s az ipari strukt6ra  valtozasa. KJK, 1981. 72. old,) 3) 1980年以降,いくつかのトラストが解体されているが,!977年現在23のトラスト  一24番目のGeneral Film Boardはその特殊な事情により除外されている  にお  よそ350の企業が組織されていた。工業トラスト(食品工業を含む)だけで77年度の  エ業生産の36.2%,従業員の43,7%を占めていたという。 (B.Kevevari, Some Ge−  neral Problems of Trust Organization in Hungary, Acta Oeconomica, Vol. 24 (1  −2), 1980, p. 126, p. 130.)

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4 彦根論叢第226号

      第2表 従業員1, OOO人以上の企業の割合の国際比較

陣度霧羅

リリ  ンニ   イ

ガガ ラマ

  ド ンル [︻

ハブ東ポルソ

アッドア連

チェコスロヴァキア 1971 1969 1969 !968 !969 1968 1969 73(e/,)

730090

446∩059

i年度細叙

ダスアンツス本

   デ

ン リ イリ

   [  イ

ラ タェドギ

   ウ

オスイス西イ日

1968 197! 1971 1970 1970 1968 1969 41(0/o) 4 17 20 39 36 19 ee社会主義国の数字はすべて労働者(workers)数で計算されている。 出典:On Industrial Big Enterprises:AStudy of the Economic Research Institute,   Acta Oeconomica, Vol. 12 (1), 1974, p. 102. 第3表 従業員1, OOO人以上の企業の割合(工業別国際比較)(%)

日 本i西ドイツ

(1972年) i (1973年)

建設資材工業

化  学  工  業

食 品 工 業

繊 維  工 業

電気機械工業

7. ro 28.2

16

6.9 34. 1 5,8 62.6 11,2* 17. 9 56. 6 イギリス (1972年) 21.4 39.8 21. 0 15.5 50. 8 ハンガリー (1975年) 88.5 84. 9 47.1 96.3 93.9 組966年のチータ。 出典:Ko画tsy S6ndor:Hi2nycikk:avallalkozas. KJK,1983.45,01d. 国際比較をみても,ハンガリーの大企業の比重の高さは顕著である。とくに, 先進資本主義国では一般に大企業の数の少ない食品工業や繊維工業のような部 門においても,ハンガリーでは大企業への集中度は高く,繊維工業などでは実 セこ96,3%にも達している。  世界的にもトップ・クラスにある企業集中度の高さは,逆に中小企業の比重 の低さを物語っている。第1表に戻ってみると,雇用労働者数1,000人以下の 企業はあわせて数の上では56.5%を占めているが,労働者数のわずか16.5%, 粗生産高では18.4%でしかない。101∼500人規模の企業は全体の27.3%,100 人以下の小企業となると,企業数で6.6%,労働者数で0,2%,粗生産高では殆 んどとるに足りない数字となっている。

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      ハンガリーにおける新しい小規模経営について ②  5  これに対して,日本では300人未満の企業が69,3%(1972年),イギリスでは 200人未満の企業が32.2%(1972年),西ドイツは同29.8%(1973年),オ’一H一ス        の トリアでも250人以下の企業は41.5%(1973年)も存在している。        第4表 工業企業の平均規模の比較         (人) 1工業平均 i ハンガリー(1975) アメリカ(1972)

日本(1972)

西ドイツ(1974) イギリス(1972) ノーノレウェー(1973) オーストリア(1973) L 1!0  17  152  123  38  116

食品三衣肛業雛工業齢工三業i灘工業

93! 55 13 98 148 27 97 or92 56 !2 67 75* 36 63 2, 524  132  10  127  127  42  !10 2, 953  168  61 2, 039  234  241 1, 552 3, 616  !11  52  588  27  186 1, 597  24  226  54  147 (0/o) ハ  ン  ガ  リ 一   100

力本ツス︻ア

    エリ

リ  イリ

    ウト

メ ドギルス

    一 一

ア日西イノオ

1.5 14 11 3.4 10    

!001100 100 100 100

100 6

L4

11 16 3 11 9 2.0 11 13 6 11 5 0.4 5 5 1.7 4 6 2.0 67 8 8 53 O.9

L4

16 0.8 5 1.6 14 3 9   W衣服と製靴工業。   出典=第3表に同じ.6101d.  中小企業が少ない結果,ハンガリーの平均企業規模は,国の経済規模(人口 約1,070万人,1982年)に比較して国際的にも異常なほどに大きくなる。第4 表から明らかなように,ハンガリーの工業企業の平均人員は1,110人を数え, 繊維工業の企業規模にいたってはなんと日本の250倍の大きさである。西ドィ ッとオーストリアの冶金工業を除けば,調査された国のどの部門でもハンガリ ーの17%を越える規模のものは詠い出せない。雇用労働者数からみたハンガリ ー工業企業の規模がいかに大きいかがわかるというものである。  4) Kopitsy Sandor. Hianycikk: A vallalkozas. KJK, lg83, 50−sg, old,

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 6  彦根論叢 第226号  (2)企業集中化過程と大企業体制の確立  逆ピラミッド型の工業企業構成がどのように形成されてきたのか。次にそれ をみよう。  第二次世界大戦直前の1938年には3,911の企業が存在し,その87.1%に相当        1) する2,405の企業が雇用労働者100人以下の企業によって占められていた。  1945年の解放直後も,今日のような状況であったわけではない。第5表にあ るように,1950年の国営企業数は1,425を数え,そのうち労働者100人以下の小 企業は約半分の708(49.6%),101∼1,000人以下の中企業は合計616(43.3%) も存在したが,1,001人以上の大企業はわずかに101(7.1%)でしかなかった。         第5表 国営工業企業規模別企業数とその割合 雇用労

鼈黶c

…一…1…一・・・・・・・…一 合計

1950 1960 !965 1970 !971 1973 1975 1976 1978 1977 !979 1980

872725155706043898755454

7ワ自− 49. 6(%) 18,5 15 8 10,7 1L2 10 5 9.1 7,4 7.7

67

7.1 6,6  474 33.3(%)  644 48,1  343 40 8  289 35.6  285 34,8  279 34.9  268 34.4  209 28.4 : 184 25.9  186 26,6  190 27.O i 191 27.3

201990501989451456566445

ユ21111111111

10. 0(%) 18.7 13 2 18.3 19.4 19.4 19.9 2!.7 22. or 21,3 2!.1 22. 6  !01 7. 1(%)  197 14.7  254 30.2  287 35,4  282 34,5  282 35.O i 285 36 6  313 42 5 1 312 43.9  318 4 5, . 4  314 44,8 1 304 43.s 1, 420r 1, 338  840  8!2  818  806  779  737  712  700  702  699

雇用労働者数分布(%)

1950 1960 1965 1970 197Jr 1980

∩Dρ074昌22

﹁D10000

24.2 18.9 9.0 7.0 7.! Jr 3 20,1 22,2 7.9 9,6 !0.2

1LO

50, 4 58. 3 82 4 83,0 82 Jr 83,5 100 100 !00 100 100 !00        ノ 出典:各年度のStatisztikai Evk6nyv. KSH, !) Schweitzer lv2n A vSllalatnagysAg. KJK, 1982, 30, old.

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       ハンガリーにおける新しい小規模経営について ②  7 つまり,この時期はまだノーマルなピラミッド型の企業構成の下にあったので ある。  しかし,第5表から次のことが同時に読みとれる。第一は,1950年から80年 の30年間に国営工業企業の数がほぼ一貫して減少して半分以下になっている。 第二に,その企業数減少過程において,100人以下の小企業が708(49.6%)か ら46(6.6%)へと10分の1以下に激減している。第三に,それとは対照的に, 1,001人以上の大企業は101(7.1%)から304(43. 5%)へと3倍以上の増加を みせている。つまり,100人以下の小企業と1,001人以上の大企業の位置は50年 と80年とでは全く逆転してしまっているということである。  企業総数の減少過程において小企業の減少に逆比例して大企業が増加してぎ たことは,小企業の統合・合併によって大企業化が進行してきたことを意味し ている。第6表がそのことを教えてくれる。60年から80年の20年間に,1国営 企業当りの平均従業員数が約2.4倍,生産固定フォンド額は8倍以上に増えて いる。その間に,企業数がほぼ半減しているのに,工業企業の事業所(telep) の数はわずかに24%ほどしか減少していない。このことは,企業合同化による 大企業化が進展したことを裏付けていよう。  第二次大戦後のハンガリーでは,三度の企業合同化運動を経験する。最初は       第6表平均従業員数と生産固定フォンド額(国営工業) 1960 1965 1970 1975 1979 1980 国営工業企業数  1, 338 s40 1 s12 779 702 69. 9

工業蝶の聯磁・,77・6,・675,・68・⑤387隔・9・

1国営工業企業当り の平均従業員数 生産固定フォソド粗 価値(100万Ft) 1事業所当りの平均 従業員数 生産固定フォンド粗 価値(100万Ft) 839 105 170 21 1, 581  261 219 36 1, 836  369 262 0r3 1, 932  549 2, 036  852 2so 1 79 281 118 !,991  884 出典:1960年と1965年の数字はStatistical Pocket Book of Hungary 1972, KSH,   1972.その他の数字はMagyar statisztikai zsebk6nyv. KSH,1981.

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 8    彦根論’k  第226一号 1940年代末から50年代前半にかけての産業国有化の時期であり,次は62∼64年 にかけての工業再編成期である。そして,68年経済改革の進行にブレーキがか かり,一時的に再再権化を強めた70年代前半の時期である。なかでも,最も重 要なのは,62∼64年にかけての工業再編成の時期である。ソ連・東欧諸国の企 業合同化運動の時期とほぼ同じこの時期に,同一又は類似の生産物を生産して いる企業の水平的結合にもとつく「企業合併」(Vallalati−6sszevonas)によっ       2) て,今日のトラストや大企業が形成されたといわれている。  実際,国営工業企業数は61年の1,309から64年には853へと最も大きく減少し ている一方で,5,001以上の巨大企業は20から40へと2倍に増えた。その後, 80年目で巨大企業の数には大きな変化がみられないことからもそれがわかる。  問題は,今日の大企業体制をもたらしたこの企業合同化が生産の専門性や分 業にもとづいた集中化としてではなく,もっぱら中央の行政指導の下に「管理        ヨラ の集中化」を目的として展開されたということである。1962年11月第8回党大 会でも「目下進行している工業管理の再編成の重要な目的のひとつは,工場 から省にまで及ぶ管理機関の数を減らすことである。……再編成のもうひとつ の大きな問題は,あまりに細かく切り離されている企業の合理的な統合をはか り,そのことによって生産手段のより大きな集中化に伴う利点をえることであ る」(傍点引用者) と報告されている。つまり,義務的計画指標が企業に下達 されていた集権的経済管理システムの時代に,中央の工業管理をやりやすくす るために、地域的に分散して類似の生産物を生産していた企業の合併によって        の 大企業やトラストがつくられたのである。換言すれば,企業の収益性や経済効 率の向上という観点からよりはむしろ行政管理的視点から人為的に独占的大企 2)23のトラスト(1977年現在)のうち2!が水平的結合の性格をもったトラストであっ  た。Cf. Kevevari, op、 cit., p.129. 3) Varga Gy6rgy: Vallalati m6retstruktara a magyar iparban. Gazdasag, 1979. 1.  sz. 35 old. 4) 具体例を示せば,62年当時重工業省管轄下の経済単位は103であったが,63年には  38に減り.冶金・機械工業省下の126の企業も16の「大企業」と22の企業へと再編成  された。(Schweitzer I畷n;Id, mti.37. old.)

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       ハンガリーにおける新しい小規模経営について (2)  9 業がうみ出されたといえる。  しかも,この同じ時期に,ソ連におけるグラフク(総管理局)をこ相当する工 業管理局(iparigazgatas)が廃止され,その機能の一部が全国的規模の大企業 やトラストにひきつがれた。つまり,巨大企業やトラストは国民経済的利害を 考えて当該部門のニーズを知覚し,その充足に責任を負う,シュヴァイツエル       のいうところの「供給責任」を担う組織として,key positionの地位を占めると ころとなったのである。こうして,62−64年の工業再編成の時期に,国の経済       の規模に似つかわしくない一種の「企業帝国」(av含11alatblrodalom)とも呼びう るような大企業体制が成立したのであり,あの68年経済改革の時期においてさ えその大企業の内部構造の改革には手がつけられることはなく,今日まで維持 されてきたのである。  (3)小規模経営導入の狙いと大企業  このような過度な企業集中は,ハンガリーのような小規模な国では大企業を 容易に独占的地位につけてしまう。独占のもたらす幣害については今更いうま でもなかろう。独占は市場作用を著しく制限し,企業間競争のメリットを奪っ てしまう。消費者は生産者の意のままに繰られる。製品の価格,品質,デザイ ン,アソートメントなど何をとっても消費者の要求は十分に考慮されることは ない。とくに,ハンガリーで問題なのは,先進資本主義国においてそうである ように,本来主として中小企業によって担われる方が望ましい産業部門におい てさえも先述のように,経済的合理性よりは中央管理の必要性から独占的大企 業が形成されてきたことである。  今日のハンガリー経済管理システムの一層の発展にとって根本的な課題のひ とつは市場作用の強化である。それには,最低限その存在によって競争が展開 されるような組織が存在しなければならない。小企業や子会社をはじめ市場原  5) 「供給責任」とは国内市場の需要を一手に充足させる責任のことで,一種の供給独  占といえる。(Schweitzer lv6n:ld. Mtii 47,01d.)  6) Hegedifs Andras;Anagyv盃llalatok 6s a szocializmus(Gondolatok Szalai Er−  zs6bet k6nyv6nek olvasasa k6zben). K6zgazdas盃gi Szernle,!984.!. sz.63.01d.

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 10  彦根論叢 第226号 理で行動する小規模経営を導入して,部分的にしろ市場競争を刺激することが 図られたのである。前号でみたように,小企業や子会社の設立はまだ十分では        エ  なく,たとえぽ子会社も現段階ではまだ真の競争を形成していないとはいえ, 小規模経営の導入により,それがなければなかったか,又はもっと緩慢にしか おこらなかった競争を刺激していることも事実である。  一般に,大きな経済組織はより硬直的(rigid)であるので,大企業に過度に 偏重した経済構造は,変動する市場環境への適応という点で柔軟性を欠く傾向 が強い。国民の要求が多様化し,「何で生きるか」から「どのように生きるか」 へ,つまり生活の質的向上へと関心が向いつつあるとぎ,叉,企業の国際競争 力を高めることが緊急の課題となってぎているとき,大企業だけでその国内外 の需要に柔軟に応えていくことははなはだ困難である。大企業と並んで,中・ 小企業の育成をはかり経済構造をより弾力的なものとする必要に迫られてい る。とりわけ後者の課題の解決にはそうである。  ハンガリーにとって西側からの輸入品の最大のものは半製晶(34,3%,198! 年)であり,部品(!0.3%)もかなり多い。他方,部品の西側への輸出は2.7         %でしかない。ハンガリーのような貿易立国においては,日本の自動車産業に みるように,機械工業では完成品を生産する大企業を後方で支えるような半製 品,部品,付属品の生産,あるいは機械修理などを専門とする中小企業の発達 がとくに望まれる。しかしながら,先述のように,企業合併化による大企業化 が進行する過程で,中小企業,とくに小企業は減少する一方であった。むしろ 大企業が「多事業所からなる企業」(soktelepes vallalat)として中小企業を内 部にかかえ込んでいるのである。大企業とは名ばかりで,その実「中小工場規        き 模の集積体(conglomerate)」でしかない大企業の存在は衆知の事実である。 1) Kollarik lstvan. Kisvallalati formak, szervezetek, P6nzugyi Szemle, 1983, 8−9.  sz 603−604 old 2) Magyar statisztil{ai zsebk6nyv 1981, KSH, 1982. 197. old. 3)Varga Gybrgy:Id. mu,35. old モチャーリによると.「わが国の大企業の中には  形ばかりの企業(実際は’工場集積体”),本来の大企業そしてその中間にあるような

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       ハンガリーにおける新しい小規模経営について (2) 11 たとえば,冶金・機械工業二丁の大企業の80%は自前の工具生産工場をもって おり,その50%は35人以下の小工場であり,100人以上の工場は11%にすぎな の い。叉,一工業企業は平均7工場からなっているが,そのうち3∼4の工場は 専門外の仕事をしており,ガラス工業などでは企業は平均12工場からなり,そ の9工場までが専門外の活動をしている。機械修理の専門企業が不足している ので,企業の多くは自前で,しばしば人員の10∼20%の人員をさいて効率の悪       う い修理作業につかせているという。  これでは大企業自身の専門生産の効率が.ヒがるわけもなく,国際市場競争に 立ち遅れることをまぬがれない。そこで,大企業の国際競争力を高めるために も,大企業を後方でback upし,それと協業関係に立ちうるような高度に専 門化された中小企業の育成をはかり,国内外の多様な需要に適応しうる柔軟な 経済構造を形成する産業政策の一環として,小規模経営の導入がはかられてい る側面も忘れられてはならない。  さらに,それが国民の要求充足に直接向いたものであれ,大企業を後方で back upするものであれ,小規模経営の多くは個人叉はグループの発意にもと づいて小生産とサービス活動にあたるものである以上,なによりも国民の創意 性をひき出すことが狙われている。それこそが経済の活力の源であるからであ る。小規模経営の導入によって,その精神が経済全体に及び,そのことが80年 代の苦しい経済環境の下で対外経済バランスの回復と国民の生活水準維持とい う二つの困難な課題の解決に寄与することが期待されているのである。  個人の創意性の発揮に関連して,小規模経営の導入が,個人貯蓄の利用を消 費から生産へ還流させることによって,資金不足の部分的解消と資金の有効配 分を促進する効果も期待されている。加えて,労働力不足の部分的解消にも役  企業が等しく存在する」という。Mocsary∫6zsef:A hazai vallalatrendszer central−  izacioJinak hatSsa a terme16siranyitas 6s a szabAlyoz6rendszer hat6konysagara. Kdzgazdasagi Szemle, 19SO. 11. sz. 1314. old. 4) Varga Gy6rgy: ld. md. 35. old. 5) Kristof lmre: Hogyan tovabb az iparszervezettel? Figye16, 1981, marcius 11.

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 !2  彦根論叢 第226号 立つ。第一経済の定職者による小規模経営での副業が公認されたばかりでな く,年金生活老や大学生,遊んでいる家族構成員の労働力を吸収することがで きるからである。  それでは,小規模経営の導入をどのようにみればよいのであろうか。前号 で,第二経済は第一経済をよりょく「補完」(kieg6sit6s)していると述べた。 しかし,第二経済はただ単に第一経済を補完するだけではなく,第一経済の 「批判1をも意味している。第一経済が第二経済によって補完されるというこ とは,第一経済に欠けているところ,不足しているところがあるということ にほかならず,第二経済の存在そのものがそれを証明しているのである。つま り,企業家的精神にもとつく効率的マネジメント,効果的なインセンチィヴ・ システム,柔軟性などにおける第二経済の成功は,第一経済の失敗を意味して いる,ということである。その意味では,小規模経営の導入は第一経済に対す る,とりわけ大企業のあり方に対する「批判」の公式表明とも読みとれる。  第二経済や小規模経営は,第一経済の「競争者」でもある。それは,同一生 産物の生産やサービスの提供,生産要素の獲得,とりわけ労働力の獲得をめぐ って競合する意味においてだけでなく,マネジメントの成功を競うという意味 においてもそうである。小規模経営が成功しているのに,なぜ大企業のマネジ メントはうまくいかないのか,という問いに答:えていかなければならない。こ の限りにおける小規模経営は,大企業にとってまことに呼こわい”存在とな ろう。  結局のところ,小規模経営そのものはそれだけで「大企業帝国」を根底から つき崩すものではない。いってみれば,それは周辺部での変化である。しか し,その矛先は大企業に向けられていることを知らなければならない。 VI 小規模経営の問題点 新しい小規模経営の導入に際して危惧された問題点がいくつかあった。二年 間の経験をふまえてその問題点についてみよう。  第一は,いうまでもなく,新しい小規模経営の拡がりが社会主義的所有関係

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       ハンガリーにおける新しい小規模経営について (2) 13 や分配関係を危うくするのではないか,というものである。実際には,前号で みたように,その多くは社会主義セクター内で活動している。もともと,純粋 に私的な新しい経営形態は経済労働共同体(GMK)だけであり,それがかな り普及しているとはいえ,最低2名,最高30名からなる小経営である。残りの 経営形態は社会主義セクターの独立法人か,又はそれと結びついた組織として 形成されているがゆえに,所有形態だけからみれぽ社会主義的所有関係そのも のを根底からゆるがすほどのものではない。  しかしながら,今回導入された小規模経営形態は極めて多様である。今日の ハンガリー社会主義経済は生産手段の国家的所有以外に多様な所有形態が存在 する「多セクター経済」となっている。国家的所有の他に,協同組合的所有, 個人叉はグループの事業主(entrepreneur)によって使用(リース)される国 有財産,国営形態と協同組合形態との結合(たとえぽ国営企業内に設立された 小協同組合),協同組合と国営企業のパートナーシップ,私人のパートナーシッ        プ,そして私的セクターなどが思い出される。手工業者や小売商業老などの私 営業は従来からも存在したが,82年以降その活動領域が拡大されたばかりでな く,GMKの普及によって私的セクターの役割が高まっている。リース制によ る国有財産の私的運用形態は一種の混合所有形態ということもできる。前号で も触れたように,国民の二人置一人が第二経済から何らかの所得をえている。 第二経済でなされた労働は社会的総労働支出の16−18%を占め,その価値はG        ラ NPの12−14%と見積られている。こうしたことを考慮:すれば,ハンガリー経       ヨラ 済はコルナイ流に「社会主義タイプの混合経済」と呼びうるような状況を呈し ている。少くとも,国営大工業企業を主柱とする社会主義的所有の一元的支配 が崩れている。その意味では伝統的な社会主義経済のとらえ方について再考を  1) Cf. Gy Varga, Management−ln a fast Changing Environment, Acta Oeconomica,   Vol.21(3−4),198/, p.311.  2) Kalisz Istv直n−Szepesi Gy6rgy. A kisirzemi gazdalkodas血j formai. Kossuth,   !983.29,01d.  3) J.Kornal, Comments on the Present State and Prospects of Hungarian Economic   Reform, Mimeo,1981, p.39.

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 14 彦根論叢 第226号 要する課題を提出しているといえよう。  また,分配関係については,不労所得の獲得が発生しないかどうか,それに 関連して手にした資産の「資本化」(t6kesft6s)がおこらないか,という心配も あった。しかし,新しい小規模経営においても個人の労働遂行が義務づけられ ており,資金やその他の物的資産の提供だけによる参加や成果分配は認められ ていない。小協同組合などの年度末配当も持分価値の最大限8%であり,長期 預金利率より1%高いだけである。従って,事業主といえども,いってみれば 自分も賃労働者でもある小商品生産者であり,資本投資だけによる不労所得の 獲得はおこらないはずである。  むしろ,事業主が創意性を発揮して自己の労働にもとづいて社会的に有用な 商品の生産又はサービスの提供をおこなう限りにおいて,平均以上の努力ぱ平 均以上の所得によって報われるのは当然であり,そのことは社会主義的分配原 則である「労働に応じた分配原則」に反するどころか,逆によく合致すると考 えられている。労働に応じた分配原則がもっともよく貫徹しているところがあ るとすれば,それは他ならぬ第二経済の領域においてであるとさえいわれてい るQ  資産の資本化も,“小”事業主,“小”商品生産者をうみ出す以上のものでは ない。小規模経営は自己金融の原則で経営され,資金不足になっても国の援助 をえることはできない。もっともハードな予算制約の下で経営されるのであ る。それゆえ,その責任と危険は国営企業などよりもはるかに大きい。破産す る心配もなく,企業家的精神にも欠ける社会主義セクターの企業を目のあたり にするとき,小規模経営はその言葉の本来の意味でのentrepreneurとして社 会的に有用な活動をするべく期待され,奨励されている。ただしかし,その存 在が社会的に許容されるのは,あくまでも自分の労働にもとつく小さなentre− preneurまでであって,大資本家の復活にまで及ぶものでないことはいうまで もない。それでも小事業主となろうとする動機は,第二経済で活動するときと 同様に,所得の補填,住宅の入手,モダンな消費水準や消費構成の達成あるい はステイタス・シンボルの獲得などのどちらかといえば消費者的な性格のもの

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       ハンガリーにおける新しい小規模経営について②  15    4) であろう。個人的所有下の諸手段(たとえば自動車や住宅)を生産目的や所得 獲得のために用いることはできるが,もともと生産手段の個人的な蓄積は制限 されている。それゆえ,現段階では資産の資本化には限度があるのである。  しかしながら,所得格差は確実に拡がっていく可能性がある。小規模経営や 第二経済から得られる所得が,社会の様々な階層間,グループ間にそれがなく とも存在している所得格差を一層拡大する要因となるのではないか,という危 惧が生じてくる。これはおこりうる問題である。なるほど,小規模経営も大企 業と同じ価格規制を受けたり,不正利潤の獲得も禁止されている。獲得可能な 所得を社会的に妥当で,受容可能な水準におさえるべく税制や統制システムも 用意されてはいる。それでも,小規模経営や第二経済の方が,第一経済よりも 相対的に高い所得機会に恵まれていることは事実である。第一経済では,企業 所得と賃金について中央の規制下におかれているのに比べて,小規模経営や第 二経済では,先述したように,労働に応じた分配原則がよりょく貫徹されるこ とからみても明らかである。現に,前号の第4表にみた通り,平均月収は第一 経済の平均月収よりも高い。       サマヘホ ム  ファルシュネーによると,持家,自動車,別 荘,そして約!0万フォリント の貯金を有すると思われる「豊かな家族」が約30万(構成員でみればおよそ 100万人,人口比約10%),それ以上の財産(かなりの貴金属・美術工芸品,そ れに数10万フォリントの貯金)を有すると思われる「より豊かな家族」は約        ら  15,000∼20,000(約50人物約5%)存在すると推定されている。それらの家族 の全部が第二経済従事者というわけではないが,それでもかれらがこの新しい       6) richmanの階層に属している可能性は極めて高い。  4) Ka16sz Istvゑn−Szepesl Gy6rgy ・Id. m血.48−49. old.  5)Falusn6 Szirka Katalin:Avagyonosod6sr61. K6zgazdasagi Szemle,1982.11. sz.   1320 01d.  6)二度目のブダペスト滞在中(1982年4月)に,ハンガリー人の知人に連れられて私   営の建築家の家を訪れたときのことを思い出す。その家はガレージつきの二階建て   で,ブダペスト市内を遙かに一望できる高台一知人は「新しい金持階層の丘」と呼   んだ  にあり,30 m2 L/上はある庭の一面に芝生が敷きつめられており,10畳は越え

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 16 彦根論叢第226号  他方で,第二経済や小規模経営での所得機会に恵まれないで,平均からとり 残されている低所得者層もかなり存在する。低い所得層の底上げが年々おこな われ,所得の平準化も進んではいる。しかし,その一方で平均賃金が月露4,000 フォリント(1980年)であるのに,1,700フォリントに達しないもの一その 多くは老人の,一人住まいの退職者や大家族構成員からなる一が100万人近       ア  くもいるといわれている。また,若い社会学者のグループによって,1980年3 月に非公認の「貧民援助基金」(SZETA, Foundation to Support the Poor)が           組織されたという。  しかも,あるものの所得が他のものよりも早く上っても,誰もが同時に上が る場合には少々の格差は社会的に受容されもするが,低所得者の所得が上がら ないか,または下がるのに,他のものが上昇する場合には,格差が許容される 範囲は狭くなる傾向がある。80年代に入って,ハンガリーも低成長時代に入 り,それまでのような実質所得の大きな伸びは期待できない。80年と81年のそ の伸び率はそれぞれ0.4%,2. 9%ときわめて低い。このような状況の下で,第二 経済や小規模経営からの高い所得をうるものとその機会をもたないものとの間 の所得格差は後者にとって耐えがたいものとなるかもしれない。かつて,1972 年に68年改革の利潤インセンチィヴの恩恵に浴することの少なかった国営大工 業企業労働者による“反乱”をすでに経験している。かれらは私営業者や農業 協同組合員との間の所得格差に不満を表明したのであった。今回の小規模経営 の導入や私営の活動領域の拡大に対して72年と同じような反乱を懸念する向き  る居間には床面暖房がほどこされ,室内の壁や棚には外国旅行の土産物や美術工芸品  が飾られていた。 7)Cf. The New Hungarian Quarterly, Vol. 87(Autumn,1982), p. 90.(無署名論文) 8)B.Lomaxによると,ハンガリーにおける貧困の研究にあたっていた若い社会学者  たちが,研究だけでは十分でないと感じて,1979年11月にかれら研究者の力を結集  し,貧しい人を救うために積極的な活動をおこなうべく集い,1980年3月にかれら自  身をSZETA(Szeg6nyeket T6mogat6 Alapitvany)と呼ぶことを決定したという。  (Cf. B. Lomax, The Rise of the Democratic Opposition, Labour Focus on Eastern  Europe, Vol. 5, No. 3−4 (Summer, 1982), p. 4.)

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       ハンガリーにおける新しい小規模経営について (2) T7 もある。大ぎすぎる所得格差が大きな社会問題となる可能性は十分にある。  小規模経営の導入時にもっとも心配された問題は,大企業が労働力狩りの場 となって優秀な創意に富む熟練労働者が小規模経営へ流出していくのではない か,というものであった。確かに,そうした事態がおこるとすれば,それは国 営企業にとって深刻な問題となることは事実であろう。しかし,それ以上に問 題なのは,なぜ流出するのかである。流出するとすればそのことは現状の国営 企業システムが労働者に仕事のやりがいを与えることも,その労働にしかるべ く報いることもできないことを証明していることになるからである。  2年間の経験でぱ,前号でみたように,その心配は今のところ現実のものと はなっていない。優秀な労働者は企業をやめないで,VGMKをつくり,そこ に留まっている。これを一種の安堵感をもってポジティヴに受けとられている      の ようにみえる。しかしながら,その事実を額面通りに受けとることはできない であろう。小規模経営についての政府の方針が,過去の経験にみるように,い っ制限的なものに変わるかもしれない。それを心配して,模様見として労働者 が一時置にVGMKに留まっているだけかもしれないからである。  労働者の流出がおこりさえしなければ問題はないのであろうか。労働者が本 職をやめて独立しないのぱ,職場と一定の賃金を確保しておいた上で,アルバ イトに精を出す方がはるかに安全で,有利と考えているからであろう。その易 合,本業で手抜きをし,その余力を副業の方に振り向けるとしたらどうであろ うか。そういうケースが多くみられるとすれば,労働者の流出がおこらなかっ たことがかえって問題となるであろう。ひとつのアンケート調査によれぽ,住 民の圧倒的多数(83%)は,多くのものが副業についていると考えており,半 分以上がそのことが本業での仕事ぶりに影響するのではないかとみている。そ の影響はたとえぽ業績抑制という形で現われる。第二経済での活動のために第 一経済での意識的な業績抑制があるか,という問いに,第二経済従事者の47% はないと答えたが,%は副業のために力を残すべく本業に全力を傾けないと答  g) Kisvゑllalkozasi 6sszefogla16:J6v6f6互ben. Heti Vilaggazdasag,1983, janu直r 1.

(18)

 !8 彦根論叢第226号    ユの えている。二重のステイタスを保つ労働者,つまり片足を第一経済におきなが ら,もう片足を小規模経営や第二経済においている労働者が,社会的利害(第 一経済)と個人的利害との二者択一を迫られたとき,物質的イソセンチィヴの より強い方にひきずられていくとしても不思議はない。その“甘い水”を禁欲 しきれるほど高い社会主義的モラルをもちえている労働者はどれほどいるであ ろうかQ

W結びにかえて

 小規模経営の導入によって,ハンガリー経済は今日,前述のように,多セク ター経済,混合経済の様相を呈している。ハンガリーでもこれまで,他の社会 主義国と同様に,私的セクターもそれなりにその存在を許されてきた。しか し,82年1月からの小規模経営の導入に伴って,従来の私的経営の活動領域が 拡大されたばかりでなく,新しい私営形態の誕生(たとえばVGMK)もみら れ,今や私的セクターは,“日蔭者”の身から少なくともXX認知”された子供 として表の世界に登場してきた。しかし,小規模経営は私的セクターだけから なるのではないし,小規模経営の奨励は資本主義経済の部分的復活を意味して いるのでもない。小規模経営は,むしろ「小商品生産セクター」(個人的所有, 混合所有を含む)として位置づけられるものである。  生産財市場は別として,国民の経済生活に結びついた消費財を中心とする小 生産とサービス分野において国営セクターが経済的,効率的に機能しえないと すれば,そこを活動舞台とする小商品生産セクターを,国営セクターと協同組 合セクターとに並存させて全体としての社会主義経済を構成する有機的部分と するほかはない。私自身,小商品生産とサービス分野は,もともと社会主義的 計画経済にfitしないのではないかと考えている。そもそも,社会主義経済で あるからといって,頭のテッペンから足のつま先まで,全部が全部社会主義的 所有で貫かれる必要があるのであろうか。資本主義経済とて,私的所有だけか 10) Masodik gazdasag: Kik, mi6rt, mennyiert, Figye16, 1983, augusztus 4.

(19)

       ハンガリーにおける新しい小規模経営について (2) 19 らなっているわけではない。現存している社会主義が,「前期的社会主義」(佐 藤経明),「原初的社会主義」(バーロ)「真正マルクス主義の変形」(マルクシ ュ)などと規定されざるをえない状況であることを考えれば,現存社会主義経 済を「社会主義タイプの混合経済」(コルナイ)ととらえる方がより現実的であ るように思われる。  だからといって,Small is beautiful.ということで,小規模経営を過大に評 価することはできない。小生産やサービスがいかに拡大され,効率的に経営さ れても,それだけでハンガリー経済全体のかかえている問題がすべて解決され るわけではない。その主役はやはり社会主義セクターの大企業である。そこで 最後に,小規模経営の大企業へ及ぼすインパクトについてもう少し触れておき たい。  先に,小規模経営は大企業を補完するだけではなくて,批判者でもあると述 べた。少くとも, 「小規模経営の存在,その活動領域の拡大ぱ大企業にとって        は挑戦をも意味することは疑いないところである」。もし,この挑戦に大企業 が応えきれないとすると,小規模経営の成功・発展が,優秀な労働力の流出で も,本業での手抜きによってでも,大企業の活動停滞を招き,その意図に反し て全体としての経済を不振に陥いらせるというジレンマに立たされることにな る。換言すれば,小規模経営の導入は,それ自身のうちに「社会・政治的な落     し穴」にはまりこむ危険性をはらんでいるということである。それは,もし注 意の関心が大企業からそれて小規模経営の方に集中されたり,個人の栄達や創 造性の発揮が小規模経営の領域においてしか実現されないというような世論が 形成されたときの問題である。  その落し穴にはまりこまないためには,大企業の改革が必要となる。大企 業,とりわけkey positionについている大企業はもっともソフトな予算制約 の下で,「供給責任」にかこつけてその特権的地位をほしいままにしてきた。  !)Boss直nyi Katahn A kisv611alkozAs kiterjeszt6se. lehetos6gek 6s korlatok,  Tarsadalmi Szemle,1981.11. sz,86. old.  2)UQ.

(20)

 20    彦根論叢  第226号 68年改革によっても大企業のその地位をおびやかすような変化はおこらなかっ た。E.サライは「『くみこまれた安定装置』によって,経済のkey position を手にした大企業は,部門省の助けをえて,その後も統一的な経済規制を回避 しながら,かれらの利害を直接に中央を介して貫徹し,それによって様々な補       3) 助金,特恵待遇の範囲を拡大することができてきたのである」と大企業を告発 する。Gy.ヴァルガも経済改革が一頓挫をきたし,中途半端にしか実現されな        の かったひとつの理由は,過度に集中化さたた企業構造にあるという。A.ヘゲ ドウシュもラディカルな改革は無条件に大企業に反対であらねばならないとは いえないが,しかし,改革は大企業の問題を避けて通れないのは本当であると  のいう。  小規模経営の導入の国民経済的意義も,大企業におけるイソセソディヴ・シ ステムと組織構造を含む改革によって受けとめられるときにはじめて評価され るべきであろう。少なくとも,国営工業企業においては,平均よりよく働いた ものがより多く報われるようなインセンチィヴ・システムの確立,それぞれの 産業部門の特殊性や規模に応じた多様な企業形態の形成,さらに企業内民主主 義化を促進する組織構造の改編が必要となろう。 3) Szalai Erzsebet’ Kiemelt vallalat−beruhazas−6rdek. Akad6miai Kiad6, 198!.  19. old. 4) Varga Gyorgy二Akisvallalkozas, Va16sag,1982.9. sz.40. old. 5) Hegedtis Andras’ ld. md, 68. old.

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