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<研究ノート>大学教職員と発達障害学生 : 合理的配慮提供に向けて教職員に求められる理解と支援

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(1)

松浦 考佑, 宮崎 康支

雑誌名

関西学院大学高等教育研究

5

ページ

25-39

発行年

2015-03-13

URL

http://hdl.handle.net/10236/14385

(2)

大学教職員と発達障害学生

―合理的配慮提供に向けて教職員に求められる理解と支援―

松 岡 克 尚

(人間福祉学部・研究代表者)1

水 山 え み

(法学部)

福 田 典 子

(商学部)

鈴 木 ひみこ

(総合支援センター キャンパス自立支援室)

松 浦 考 佑

(社会福祉法人 共同の苑くすのき)

宮 崎 康 支

(総合政策研究科 博士課程後期課程) 要 旨 本研究の目的は、本学における発達障害学生への合理的配慮提供に向けて、教職 員が今後どのように対応していくべきかについての方向性を明らかにすることであ る。具体的には、先行研究レビューと他大学へのインタビュー調査から、合理的配 慮提供にあたっての基本的な考え方を整理していく。 なお、ここでいう合理的配慮とは、障害学生が他の学生と平等に教育に参加でき るよう、大学側が責任をもって支援を行うことである。2016年月に施行される 「障害者差別解消法」において、合理的配慮の提供が国立大学では法的義務、私立 大学では努力義務として定められている。これをうけて、障害学生への対応は大学 による任意の支援から法的に裏付けられた支援活動へと大きな転換点を迎えてい る。 しかし、上記にいう「合理的配慮」の具体的な内容は法的に規定されておらず、 実際にどのような支援を行うかは各大学の判断に委ねられる部分が大きい。発達障 害学生2の増加が予測される中で、身体障害学生と比べてその合理的配慮の内容を 判断・決定することが難しいとされていることを考えれば、ボトムアップ的に事例 収集、分析していく帰納的なアプローチが欠かせない。 レビューとインタビュー調査の結果、発達障害学生への対応はケースごとに異な るため、合理的配慮の詳細なガイドライン設定は難しいが、本学として採用すべき 枠組みとして、いくつかの示唆が得られた。加えて、いわゆるグレーゾーン(未診 断)の学生に対して、大学側が合理的配慮の提供も含めてどこまで支援すべきかが 課題となっていた点も示唆的である。

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1. 先行研究レビュー 1. 1 合理的配慮とは何か 一般的に、大学の授業は大多数を占める障害のない学生を想定しているため、「想定外」とな る障害学生が授業への参加に困難を覚えることは容易に想像できるだろう。この困難に直面した 際に、従来では障害学生側に授業環境への適応努力が求められてきた。これに対して合理的配慮 とは、障害学生個人の努力ではなく、環境(大学)側に障害学生の学ぶ権利を保障するために必 要な措置を講じることを求めていくことに他ならない。 こうした合理的配慮の考え方は、直接的には2006年に国連総会で採択された「障害者の権利に 関する条約」(以下、権利条約)に基づいている。権利条約では、合理的配慮(reasonable accommodation)を以下のとおり定義している。 「合理的配慮とは、障害者が他の者との平等を基礎としてすべての人権および基本的自由を 享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の 場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの をいう。」(第条 定義) このほかにも権利条約では、障害者が他の者と平等に高等教育の機会を得るために合理的配慮 が提供されること(第24条 第項)や、障害に基づく差別には「合理的配慮の否定」も含まれ ること(第条 定義)が規定され、合理的配慮の実現のため適切な措置を講じることを締結国 に求めている。権利条約の採択は、障害者差別が国際的に一向に解決されないことから、より実 効性をもった条約が求められていたことが背景にあるとされている(松岡、2014)。日本は同条 約に2007年署名、批准に向けた国内法(障害者基本法、障害者差別解消法等)を整備した上で、 同条約は2013年12月に国会で批准され、2014年月に発効するに至った。 その間、2012年月には文部科学省によって「障がいのある学生の修学支援に関する検討会」 が設置され、同年12月には検討会の第一次まとめ(以下、検討会一次まとめ)が公表された。そ こで、高等教育機関における合理的配慮の対象範囲やその考え方・関係機関が取り組むべき課題 等が提示され、今後すべての大学において合理的配慮の提供が求められることが示唆されてい る。 加えて、2016年に施行予定である「障害者差別解消法」では、合理的配慮の提供を国立大学で は法的義務、私立大学では努力義務と規定している。合理的配慮を含む障害学生支援が法的裏付 けをもった義務になり、これを遂行することが大学にとってのコンプライアンス(法令遵守)に なるため、大学における障害学生支援は大きな転換期を迎えている(丹治・野呂、2014)。 このように法的な面で進展が見られる一方で、合理的配慮について具体的に何をどのように支 援すべきかについての明確な指針は見えてきていない状況がある。先述の検討会一次まとめにお いても、「合理的配慮は、大学等が個々の学生の状態・特性等に合わせて提供するものであり、 多様かつ個別性の高いものであることから、合理的配慮の内容すべてを網羅して示すことは困難 である」と指摘されている(文部科学省、2012)。 また、すでに障害者差別禁止法が施行されている欧米の法律(アメリカの差別禁止法、イギリ

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スの平等法)を参照しても、障害者に対して「合理的配慮」、「合理的な環境措置」をとるなど一 定の枠組みは示されているが(小川、2014)、それでも具体的なガイドラインは定められておら ず、ガイドラインの作成・実行は個々の事業主に委ねられている現状がある。 そもそも合理的配慮の内容・合理性の判断は上記のとおりケースバイケースとされており、何 が合理的配慮であるかについては、組織ごとの経験や判断に基づいての柔軟な運用がなされるた め、上記のような処置はやむを得ない面がある。したがって例えば、障害者からの合理的配慮提 供の申し出あっても、後述するように、活動の本質を大きく変えるものや、支援者側に過度な負 担がかかる場合には合理的配慮が提供されないこともある。特に、高等教育機関においては、教 育の本質や評価方法を変えてしまうことや他の学生に影響を及ぼすような配慮を行うことを求め るものではないとされているが(文部科学省、2012)、先にいう「本質」や「負担」というもの の中身は組織や環境によって異なってくるのは明らかであろう。 ただし、ここで留意すべきことは「合理的配慮」といった場合の「合理性」とは、組織=大学 が一方的に定めることではなく、学生・教職員・社会資源の間で調整され決定される3、という 点であろう(北村他、2007)。特に、権利の主体が学生本人にあることを踏まえれば、学生本人 の要望に基づいた調整を行うことが重要であることは論を待たない(文部科学省、2012)。大学 側は、学生本人の教育的ニーズとその意思を可能な限り尊重しつつ、大学における体制面、財政 面を勘案し、当該大学における「過度ではない」負担について、個別に判断することが求められ ているのである(文部科学省、2012)。 つまり合理的配慮の提供に当たって、障害学生と大学教職員が現実的かつ有効な方法を協働作 業として考えることが重要になってくる。そのためには、それを可能とするような相談協議体制 の構築が重要になり、かつそれを介して合意形成を得るに至ったケースの蓄積が欠かせないとい える。しかしながら、丹治らも指摘するように、こうした具体的な支援事例に関する研究はまだ 少ない現状であり、各大学において合理的配慮の範囲の検討、合理的配慮を実行するための支援 体制の整備を図る上でも、支援事例の蓄積は喫緊の課題になっている(丹治・野呂、2014)。 1. 2 障害学生支援と合理的配慮 本研究では、まずそもそも障害学生支援とは何か、またその中において合理的配慮と呼ばれる ものはどこに位置づけられるのかについての検討を行った。その際に、参考にしたのが Schwanke, Smith, & Edyburn, による障害学生支援の “Model and Transition of Approach”(「ア プローチと移行に関するモデル」)である(Edyburn,2010;北村ほか、2010)。同モデルによれ ば、ユニバーサルなアクセシビリティを達成するに当たっては、つの発達局面があるとされる。 すなわち「アドボカシー期」「合理的配慮期」「アクセシビリティ期」である(図参照)。 図のように、Schwanke らのモデルでは、障害学生支援の局面ごとにつのアプローチのう ちのどれが主流をなすかについて変化が生じていくとされている。Schwanke らによれば、障害 学生に対する不公平さが蔓延する中で、それらの解消とシステム変革を主眼としたボトムアップ 的な「アドボカシー期」からまずは支援が始まり、時間経過につれて次第にシステム整備が図ら れにつれて合理的配慮が組織的に展開されるようになることで「合理的配慮」期に至る。そこで は、相対的にアドボカシーが障害学生支援全体に占める割合は低下する。次いで、様々なアシス

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ト技術(Asisitive Techonology)が発達し、それらによって技術的にサポートされた学習環境が 可能になる「アクセシビリティ期」が到来する。この局面では、技術的な支援環境を駆使するこ とで障害の有無に関係が無く全ての学生にとって利益につながるものとされている。本研究で は、障害学生支援全体の構成を考えた場合に、基本的に Schwanke らのモデルが示している障 害学生支援の過程モデルに準拠することとしたい。 さて、モンタナ大学で実際に障害学生支援のコーディネータ業務に従事している渡部(2007) は、当該の障害学生支援が「合理的配慮」であるかないかを判断するつの基準を紹介している。 すなわち、「Fundamental Alteration(活動の本質を変えてしまうもの)」「Undue Hardship(甚 だしい困難や出費を必要とするもの)」、「Personal Services(個人へのサービス)」がそれらに相 当する。以上のうち「Personal Services」の例としては、障害の診断・心理カウンセリング・車 椅子や補聴器の貸し出しが挙げられている。また、高橋(2012)も同様に、合理的配慮に含まれ ないものとして「単位認定基準や卒業要件の緩和」「支援者に過剰な負担のかかる支援」「生活全 般にわたる支援」を挙げており、それらも渡部の挙げているつの基準にほぼ該当しているとい えるだろう。 これらのうちで、パーソナルサービスが合理的配慮の中に含まれていないことを鑑みて、それ を障害学生支援全体の中にどう位置づけていくかが問われてくることになる。なお、先の Schwanke らのモデルでは、このパーソナルサービスが検討範囲から除外されている。そこで、 Schwanke のモデルにパーソナルサービスを含めて全体を描いてみたものが図になる。 図のように、パーソナルサービスも障害学生支援の中に含めて考え、アドボカシー、アコモ デーション(合理的配慮)、そしてアクセシビリティも含めたつの種類の支援が、障害学生支 援を構成しているものと考えたい。例えば、四肢障害のある学生が講義棟の入口に段差があるこ とで、教室へのアクセスを阻害されているとする。その際に、「学生の自己責任だから何もしな いと思われている状況を打破する」のがアドボカシーの段階、「スロープをつけて段差をなくす」 のが合理的配慮の段階、「そもそも設計時から段差がなく、どのような身体状況であってもアク セスに問題ない」のがアクセシビリティの段階である。パーソナルサービスには四肢障害の学生 に車いすなどの支援機器を貸し出すことや個別の介助者を付けることが該当する。 この図に従って本学の障害学生支援が現在どの段階にあるのかを検討してみると、学内に支 援組織が既に設置され、障害学生への基本的な理解も進みつつあり、また、合理的配慮提供に向 図ઃ 障害学生支援のアプローチと移行に関するモデル

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けたガイドライン策定が全学的に検討され始めている。それゆえに、本学は図でいうアドボカ シーの段階からアコモデーションへと移行している最中にあると考えられる。しかしながら、合 理的配慮の具体的な内容や方針は定まっておらず、またパーソナルサービスとの線引きも議論さ れていない状況にあるため、移行途上の段階であることには変わりない。最終的には、個別の調 整や変更がなくても、すべての人が学びやすいキャンパス(アクセシビリティ段階)を目指して、 教職員と学生によるさらなる理解と協力が必要になるだろう。 1. 3 発達障害学生支援と合理的配慮 大学における障害学生支援は、従来は身体障害学生への対応が中心であった。発達障害学生に 関しても、2005年に施行された発達障害者支援法において大学での支援の必要性が明確にされ、 2011年度からは大学入試センター試験で試験時間延長が認められるなど、障害への適切な理解と 支援が求められてきている。 在籍する発達障害学生の数も全国的に年々増加しており、日本学生支援機構の実態調査(2013) では、その疑いのある学生も含めると実に4,795人に上り、全障害学生数(13,449人)の分の 以上を占めるに至っている。支援ニーズの高まりは否定できないであろう。 これまでの研究では、上記の発達障害のある学生に対する実態調査や、その支援体制の検討 (関係教職員との連携の必要性、専門スタッフの配置など)、発達障害の理解・啓発に関する検討 などが実施されてきたが(野呂・丹治、2014)、合理的配慮の提供という視点から支援の在り方 を捉えた研究は、高橋(2012)、桶谷(2013)などがみられるものの未だ数は少なく、この面で の研究はようやくその緒についたばかりであるといえる。 To be necessary アクセシビリティ 調整や変更を必要とすることなく、すべての人が学びやすい段階 ・音声字幕システム(ノートテイクがなくても、講義内容の文字起こしが可能) ・建物の設計時から段差がない(スロープ取り付けの改修工事不要) Must アドボカシー 支援を検討する以前に、障害学生の権利が保障されていない段階 ・障害学生の受け入れ拒否 ・学内に支援部局がない ・教職員の理解がないなど Sould Want パーソナルサービス 合理的配慮ではないが、大学が必要に応じて提供する支援 ・障害の診断、心理カウンセリング ・車いす、補聴器など支援機器の貸し出し ・生活全般に関わる支援など Must アコモデーション(合理的配慮) 障害学生が他の学生と同等に学ぶために、大学が必要な調整・変更を行う段階 ※配慮の内容、支援の合理性はケースバイケース ・試験時間の延長や別室受験許可 ・情報保障(ノートテイク、視聴覚教材の字幕付)など 図઄ 大学における障害学生支援の全体

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こうした発達障害学生に対して合理的配慮を提供する際に課題となるのが、発達障害が「見え ない障害」であるために、①要支援状態にあることを周囲も本人も気が付きにくい、②支援を要 する範囲が広く多様であるために、具体的な支援内容が定まらないこと、の点が挙げられる。 つまり「誰に、何を、どこまで」配慮してよいかが明示的ではなく、合理的配慮の内容を検討し、 決定することを難しい状況にしている(高橋、2012)。佐野も、発達障害学生については、支援 ニーズが多様であり、従来の身体障害学生を想定した障害学生支援の枠組みでは対応できないと 指摘している。身体障害学生への支援では、「授業支援が中心」、「支援方法が概ね明確」、「支援 ニーズが概ね固定」であるのに対して、発達障害学生の場合は、「授業以外も含む」、「合理的配 慮をどこまで行うか不透明」、「支援ニーズの変動が激しい」という課題が横たわっている(佐野、 2013)。 一 方 で 福 田 が 言 う よ う に、ア メ リ カ で は「見 え な い 障 害」(hidden disabilities、Invisible disabilities)であっても、他の障害と同じように合理的配慮を提供することが法的に保障されて いる(福田、2010)。たとえば、車椅子を利用する学生が、教室にアクセスできるようにスロー プやエレベーターを整備するのと同様に、発達障害学生が情報へのアクセスに困難があるのであ れば、それを補助する手段を講じるべきであるとされている(高橋、2012)。 こうした課題に対して、先述したように先駆的な支援事例を収集し、何がしかの共通性を見い だせるかどうかを検討することは、本学において発達障害学生に対する合理的配慮提供のガイド ライン構築にあたって重要な意味を持つ。そこで、発達障害学生支援について先駆的な取り組み を行っている大学へのインタビュー調査からその対応策を探っていくことにしたい。 2. インタビュー調査概要 2. 1 調査方法 上記の問題意識を踏まえて、2013年G月〜12月に国内の大学(国立校、私立校)に訪問 し、各校の担当教職員へのインタビュー調査を実施した。対象校の選定基準は次の点とし、研 究予算の関係上、関西近郊の大学を中心に調査した。インタビューの対象校・対応者については 表のとおりである。調査の実施は研究メンバー名が分担して行った。 ①学内に障害学生支援組織が設置されており、発達障害学生への支援の実施がホームページ等 に明記されていること。 2013年12月 名(教員名、職員名) E大学(私立) 2013年10月 2013年G月 2013年G月 ※職員とは、障害学生支援の実務を担う「コーディネーター」や「カウンセラー」 および障害学生支援部署の大学事務職員を指す。 実施時期 名(教員名、職員名) C大学(私立) 名(教員名、職員名) B大学(国立) 表ઃ インタビュー調査 対象校・対応者について 名(教員名、職員名) D大学(国立) 名(教員名、職員名) 2013年11月 A大学(国立) 対応者 対象校

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②発達障害学生支援に関する先駆的な取り組みを行っていることが学外からも確認できること (この点について、校は文部科学省学生支援 GP を取得、校は発達障害学生支援に特化 した教職員スタッフを配置している)。 2. 2 調査項目 発達障害学生への合理的配慮提供に向けた事例を整理していくために、調査項目を、①入学・ 修学・就職活動場面での対応事例、②発達障害学生支援および合理的配慮についての基本的な考 え方、の点とした。特に①では、各場面で発達障害学生の課題となる事項において、「合理的 配慮」実施の可否、実施の場合、その内容と「合理的」と判断した根拠、実施しない場合、何ら かの代替支援を行っているのかについて事例を収集した。 3. 調査結果 3. 1 入学・修学・就職活動場面での対応事例 調査結果を、以下のとおり整理することにしたい。先述の文部科学省「検討会一次まとめ」で は、合理的配慮の具体的な方法として項目を挙げている。すなわち、①情報保障、②教材の確 保、③学習空白への配慮、④学外における実習やインターンシップにおける配慮、⑤公平な試験 の配慮、⑥公平な成績評価、⑦心理面・健康面の配慮である。本研究では、これを「A:情報へ のアクセスに関する配慮」、「B:試験・成績への配慮」、「C:実習やインターンシップにおける 配慮」、「D:心理面・健康面の配慮」の項目に集約し、それぞれの項目毎にインタビューで収 集した対応事例を当てはめてさらに支援場面別に整理した(表〜)。 まず表では、情報へのアクセスに関する回答を記載している。発達障害学生は、障害の特性 上、他の学生に比べて情報へのアクセスに困難を覚えやすい。たとえば、入学後すぐの履修登録 ・担当教員が OK であれば許可している(C大学)。 ・教員の負担が少ないので受け入れてもらいやすい支援といえる(A大学)。 注意集中などの困りを抱えて いる学生について、授業の録 音を許可しているか。 修学 ・支援の提供と経費(大学側の負担)とのバランス(A大学)。 ・ノートテイクを実施したことはない。ニーズも出ていない(C大学)。 ・予算の問題があり、客観的証拠がなければ提供は難しい(D大学)。 ノートテイクが困難な学生に 対して、何を基準としてノー トテイク支援を行っているか。 修学 ・入学が決まればその時点で配慮要請・相談に応じる(A大学)。 ・事前面談を実施し、支援計画を立てるなどの対応をとっている(C大学)。 ・授業開始までにガイダンスや履修登録があるのでそのサポートや、授業でのサ ポートが必要な場合はその準備を行う(D大学)。 ・障害学生として大学側に認識されており、困難さが明確であれば、個別連絡対応 もあり得る(A大学)。 ・個別対応はしていないが困ったら学生支援センターに来るというパターンができ ているので、急な変更に困ったらセンターに助けを求めに来る(C大学)。 ・急な予定変更に対応しにくい学生の場合、授業担当教員に本人にわかりやすい形 で伝えてもらうようお願いしたり(視覚的に示す、個別に伝える)、早めに伝え ることを依頼した事例がある(D大学)。 対応事例 急な休講や教室変更などの場 合、どういった対応をしてい るか。 修学 ・学外の発達障害学生向けインターンシップを紹介したり、学内でのインターン シップを実施した事例がある(D大学)。 ・発達障害学生向けではなく、全学生向けにઃ年次キャリア教育の授業を開講して いる(A大学)。 低年次からの就労支援に対す る情報提供について。 就職 表઄ A:情報へのアクセスに関する配慮 入学から授業開始までの間 に、情報提供も含め、サポー トを行っているか。 入学 質問事項 場面

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やカリキュラムの理解においても、全体向けのガイダンスのみでは十分に情報を得られておら ず、偏った科目群ばかりを履修し、必修科目を登録し忘れるといったこともみられる。そうした 課題に対して、各大学では入学が決まればその時点で面談に応じ、個別の履修相談や計画を立て る支援を行っている。また、授業が始まってからの情報保障については、授業内容の録音やノー トテイクなどが考えられる。これらの支援を合理的配慮として提供する際に、例えば授業の録音 については、教員の負担が少ないため受け入れてもらいやすいといえる。一方でノートテイクと なると、ノートテイカーの人件費や手配等の負担が大学側にかかるため、実施にあたっては慎重 な判断にならざるを得ない、という回答がみられた。 表では試験・成績の配慮についての回答を整理した。おそらく合理的配慮の中でも、最も重 ・その試験でどんな能力をはかりたいかによって検討する(C大学)。 ・今のところ事例はないが、ネットに繋げてしまう危険性などもあるため、おそら く NG になる(C大学)。 ・発達障害には事例がないが、肢体不自由の学生には認めた事例がある(D大学)。 文字を書くことが困難な学生 に対して、入試時にどのよう な配慮を行うことができる か。例えば、PC の持ち込み を許可した事例はあるか。 入学 ・希望があれば別室での待機などは認めている。試験官にはわかっていれば前もっ て障害特性のことは伝えている(C大学)。 推薦入試が増加しているが、 推薦入試の面接場面で発達障 害ゆえに配慮したケースはあ るか。 入学 ・基本的にはセンターに準ずる対応を取っている。個室には付添者が入りたいとい う要望などは断ったケースもある。代筆のニーズは今のところない(C大学)。 ・担当教員に事情を伝え、担当教員が一度聞き取りをしたうえで、追試を認めた事 例がある。時間割や教室間違いが障害特性に関連して生じていたことを考慮して いただけたものと思う(D大学)。 ・時間割や教室・時間をかなり前もって学生にも伝える等、ミスが起きないように 予防的支援を行っており、このような事態はあまりない(C大学)。 対応事例 定期試験の時間割の読み間違 い、教室間違い、時間間違い などが生じた場合、追試等の 受験を許可しているか。 修学 ・教員に学生の状況を説明・相談の上、個別に補講を行い、対応した事例がある。 全体として全部参加して学ぶべき内容をきちんと修得したということでリポート も出して、それで合格となった。補講の実施は学生側から要望したのではなく、 話し合いの中で教員の方から提案があった(B大学)。 ・教員への配慮文提出などで対応はしているが、最終的には担当教員の判断によ る。過去に、当該授業と全く同じ内容を個別に実施して単位を認めたという例は あるが、それも最終的には担当教員の判断によるもの(C大学)。 グループワークが必要な科目 について、他の学生とのコ ミュニケーションを苦痛に感 じる学生に対して、授業振替 や代替措置を行っているか。 修学 表અ B:試験・成績への配慮 ・単位修得が難しい場合でも、単位の振替などの根本的な変更はしない。課題免除 ではなく、教員・学生が話し合って可能な方法を変えるというやり方が合理的と 考える(A大学)。 ・このような(科目の振替/カリキュラムの変更)対応は行っていない(C大学)。 ・二次障害で精神疾患等の症状がある場合、必修科目の授業の欠席をどの程度まで 認めるかの基準が難しいため、ある程度判断基準がほしい(A大学)。 ・評価方法の変更について、教員の教育目標と学生のニーズが十分すり合わせがさ れていたかが問題で、そのすり合わせを検討する体制が作れているかが合理的配 慮を考えるうえで重要になる(B大学)。 所属学部または学科としての 軸となる必修科目などで、ど うしても修得が困難な科目が あり、卒業に関わるような場 合に、科目の振替やカリキュ ラムの変更、試験問題の変更 などを認めるか。行っている 場合は何をもって「合理的」 と判断しているか。 修学 大学独自で行う入学試験(一 般入試、推薦入試)において、 センター試験の受験特別措置 の内容をどの程度まで実施し ているか。 ・ઃ種類ずつઃ週間ごとに提出するリポートについて、リポートの提出期限を延ば すのではなく、提出方法を઄週間で઄種類提出する形式に変更した事例がある (A大学)。 ・担当教員の判断による(C大学)。 ・二次障害で精神状態が悪く、リポート提出が間に合わないときに授業担当教員と の間に入り事情を伝えたことがある。配慮を強く要請するものではなかったが、 結果的に期間後でも受け付けてもらった事例がある(D大学)。 入学 レポート提出やプレゼンなど の期限がどうしても守れない 場合、期間延長を許可してい るか。 修学 質問事項 場面

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要であり判断が難しいのがこの部分であろう。まず入試場面においては、大学入試センター試験 の受験上の配慮を、大学独自の入試にも適用するかを尋ねた。基本的にはセンター試験に準じた 対応をとるという回答であったが、パーソナルコンピューターの持込や介助者の付添などについ ては慎重になるということであった。続いて修学場面においては、試験やリポートの取り扱い、 および単位の振替について事例を収集した。対応についてはケースバイケースであり、それぞれ の事例ごとに学生の状況と教員の意向をすりあわせて対応を検討したという回答が多くみられ た。しかしながら、単位の振替については、たとえ単位取得が難しい場合でも、単位の免除など 根本的な変更をすべきではないという回答が主流であった。 表では実習やインターンシップにおける配慮についての回答結果をまとめている。発達障害 学生が学外で実習を行う際には、大学側が実習先への事前説明を行い、障害への正しい理解と協 力を求めるという事例が多くみられた。一方で、実習先の利用者に不利益を与えるなど負担や迷 惑をかける場合には、実習の参加に制限がかかるなどの回答もみられた。また、企業へのイン ターンシップにおいては、基本的なコミュニケーション能力を有していない場合に、選考面接の 段階で不合格としたという回答もあった。学生の学ぶ権利を保障することはもちろん重要ではあ るが、それ以上に、受け入れ先に負担をかけないことを考慮して検討がなされていたといえるだ ろう。 表では、心理面・健康面での配慮について回答を記載している。発達障害学生は適切な自己 理解に困難があることも稀ではないことから、そもそも障害の自認がないこととも多く、あるい は必要な配慮・支援について上手く伝えられないことがしばしばある。自認のない学生について は、ケース会議をもち、動き方を検討しているといった対応もみられるが、障害を告知すること ができないと支援が難しいという声もあった。また、自己理解やコミュニケーションスキルの改 善については、発達障害学生向けのトレーニングを実施しているという回答がみられた。 ・実習先への事前説明は大学の責任として行うべき(A大学)。 ・インターンシップについては、面談の時点で不合格にすることもある。実習など については、保護者の了解のもと、本人の特性を伝えている(C大学)。 企業へのインターンシップや 就職で特別な支援をした事例 やその内容について。 就職 ・配慮によって実習の本質的な部分が可能になるのであれば配慮をすべき。大学が それを怠ることは、障害を理由にした差別にあたる(A大学)。 ・実習先の利用者に不利益を与える場合や、負担や迷惑をかける場合には制限がか かる(A大学)。 ・事前に実習先に説明に行くといったサポートは行っている。評価基準を別で設け るといったことは行っていない(C大学)。 ・実習先に本人の障害特性や配慮をお願いしたい事項を伝え、トラブル発生時の連 絡体制等を整備・確認した事例がある(D大学)。 対応事例 表આ C:実習やインターンシップにおける配慮 コミュニケーションが苦手な 発達障害の学生が実習へ参加 する際に、どのような配慮を 実施しているか。例えば、実 習先に大学教職員が事前に説 明に行く、評価基準を別で設 けるなどの配慮を行った事例 はあるか。 修学 質問事項 場面 ・自認のない学生は出会ってからの期間が短く障害を告知しづらい(A大学)。 ・ケース会議を開き、動き方を検討している(C大学)。 本人に障害の自覚がない場合 は何か働きかけをしているか。 就職 ・発達障害学生向けの開講科目でコミュニケーションのトレーニングなどはしてい るが、週ઃ回程度ではなかなか身に付きづらいので、卒業後に外部支援機関(就 労移行支援事業所など)に繋ぐなどもしている(C大学)。 対応事例 表ઇ D:心理面・健康面への配慮 コミュニケーションスキルの 問題とその解決についての取 り組みについて。 就職 質問事項 場面

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3. 2 発達障害学生支援および合理的配慮についての基本的な考え方 次に、発達障害学生支援および合理的配慮の提供について、個別事例とは別に、全体的な考え 方を調査した。発達障害学生への合理的配慮提供に際しては「誰に、何を、どのように」が明確 でないことが課題となっているため、「A:対象者の把握」、「B:支援の根拠(診断)」、「C:合 理的配慮 対応方針」の点について、各大学の考え方を表に整理していく。 表の「A:対象者の把握」については、発達障害が「見えない障害」ゆえに、大学側が発達 障害学生をどのように認識し支援のレールに乗せていくかが課題になっていることが示唆されて いる。この点は大学によって考え方が異なっており、標準的な回答はないように思われる。あく まで本人の申請ベースで支援を開始するという考え方(A大学)もあれば、本人から申請がなく とも周りの教職員が見守り支援を実施するという考え(E大学)もある。また、本人の自認はな いが周りが問題に気付いているといったケースにおいては、D大学のように対象者の掘り起しを していく、という方策を採用すべきかどうか、今後各大学において検討が必要になってくるであ ろう。 そこで参考になるのが、A大学のいう「支援のつながり方にはいくつかの段階(レベル)があ る」という点である。支援の段階をいくつかに分けて、どの段階から大学の合理的配慮として実 施するのか、範囲を検討していくことが重要になるためである。これについては、次章の最後に 図にまとめて述べる。 次に表の「B:支援の根拠(診断)」は、合理的配慮を提供する際に発達障害の診断が必要 かどうかについての回答になっている。 発達障害の学生の場合、明確な診断を持っていないが本人や周りが困っているというケースが よくみられる。また、大学に進学するまでは診断をもたなくてもやり過ごしてきたということも 表ઈ 発達障害学生支援・合理的配慮の基本的な考え方 ・支援内容はケースバイケース、学生の困難さ・教員の負担・他の学生との公平性をそれぞれ検討する(A大学)。 ・合理的配慮の内容はあらかじめ決まったものではなく、話し合いの中で探究していくもの。ケースバイケースのため、 マニュアル化はできない(B大学)。 ・大学としての対応方針を策定すべきと考えている。まずは障害学生の所属学部が責任を持つべき(D大学)。 ・合理的(リーズナブル)の意味は「論理的に正しいか」ではなく「無理がないか」(B大学)。 ・パーソナルサービスと合理的配慮を分ける必要性がある(A大学)。 ・パーソナルサービスは合理的配慮の基盤として組み込まれているため、両者を分ける必要はない(B大学)。 C 合理的配慮 対応方針 ・合理的配慮の提供には、まずは診断があって障害学生として大学が認識することが必要(A大学)。 ・診断名で対応されることに学生は抵抗を示すため、診断の有無よりもコミュニケーションの質が重要(B大学)。 ・就労支援で外部機関を利用する場合に、診断書か手帳がいるので、診断に至るまでのアプローチをઆ年生までに実施し たいと考えている(C大学)。 ・診断の有無ではなく学生の困りごとに着目して支援を行っている(E大学)。 B 支援の根拠(診断) ・本人に困り感が生じるまでは、大学側から支援を開始しない(A大学)。 ・支援への繋がり方にはઅつのレベルがある。①本人には障害の自覚も困り感もないが、周りが心配している。教職員に よる教育的配慮。②本人は障害を認識してはいないが、なんとなく困っている。大学側は障害学生としてではなく、一 般的な学生相談として相談を受ける。③本人も大学も障害を認めている。合理的配慮の申請・提供関係が成り立つ(A 大学)。 ・自認のない学生を掘り起こすべきか模索している(D大学)。 ・本人の自覚がない場合でも、教職員による見守り支援を実施している(E大学)。 A 対象者の把握

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多く、「障害学生」というラベルを受け入れてまで支援の申請をすべきか、本人や保護者にとっ ては悩ましいところである。一方で大学にとっては、組織的に支援をするのであれば、他の学生 との公平性の観点からその根拠が必要となり、診断や見立てが求められるだろう。 ここでも大学によって考え方に違いがみられたといえる。診断の有無ではなく当事者の困りご とに着目して配慮を提供するという考え方(B大学、E大学)もあれば、診断があり、かつ、大 学もそれを認めていることが支援開始に当たって必要と考える場合(A大学)もある。 こうした診断をめぐる判断ついて、アメリカでは障害学生が権利を行使するためには、自己権 利擁護と自己決定が学生に求められることから、配慮申請の際には診断書・必要書類の提出が必 須であるとされている(渡部ら、2010)。つまり、大学は学生からの、いわば「根拠」を伴った 申請をうけ、その要求の合理性を判定することになる。 しかし、桶谷はアメリカ型の自己権利擁護の考え方が発達障害のある学生にはなじまないとし ており、他の障害とは異なった視点が必要であると指摘している。それは、①医学的に未診断の 学生が多いことに加え、②診断の有無に関わらず、適切な自己理解に困難があることから自分に 必要な配慮・支援を自覚していないことが多いため、学生本人が主体的に配慮の要請行動を起こ すことが困難であるためだという(桶谷、2013)。 また、B大学が述べているように、発達障害の場合は診断名が先行することで、反対に正しい 理解と配慮が得られないというケースも起こり得る。そのため、診断名やその有無にとらわれず に、学生との対話の中で困りごとを見出し、ニーズに合わせた支援を検討する方が現実に即して いるのかもしれない。 一方で、C大学の回答にあるように、たとえ修学場面では診断の必要がなくても、就職活動や 卒後の就労場面で配慮を受けるにあたって、診断や障害の証明が必要になってくるケースもあ る。そのため、在学時に自身の障害について本人が理解を得られるよう促していくことも、それ が合理的配慮にあたるかは別にして、大学に求められる支援に含まれるのではないだろうか。そ れは同時に、セルフアドボカシー(自己権利擁護)能力の涵養という意味も成す。 表の「C:合理的配慮の提供」では、法整備がすすんでいる合理的配慮の提供について、各 大学の今後の対応方針をまとめた。合理的配慮が求められるようになったのが比較的最近のこと であるため、どの大学もまだ試行段階であり、大学として統一した見解が定まっていないのが現 状であった。また、支援内容や合理性の判断はケースバイケース的に行われており、パーソナル サービスについても合理的配慮に含めるか否かについても各校によって異なっていた。 4. 考察 以上のインタビュー調査結果をもとに以下のとおり考察する。 4. 1 合理的配慮の内容について 本調査研究では、発達障害学生に対する支援事例を収集し、それをもとに本学のガイドライン 構築を目的にしていたが、結論としては、インタビュー対象の各校ともガイドライン制定のため の途上で苦慮している状況が浮き彫りになったと言える。ある程度は予測されたことではある が、支援内容や合理性の判断はケースバイケース的に行われており、各校によって異なっている。

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それゆえにある程度の共通性は抽出できたのだが、それをもってガイドラインに採用できるとい うことには至らなかった。こうした状況を踏まえて、他大学の経験をそのままの形で本学に移植 して合理的配慮の詳細なガイドラインを設けることは難しいと判断せざるを得ない、という意図 せざる結果に終わった。 ただし、今回のインタビュー調査で全く収穫がなかったかといえばそうではなく、何よりも各 校のそれぞれの実情に応じた工夫についての情報が得られたことは大きい。そして、これらのイ ンタビュー結果を踏まえながら、発達障害学生への合理的配慮として大学教職員は何をどこまで すべきかの線引きは、先行研究で示されていた「合理的配慮であるかどうかの基準」に本学も準 拠し、それを基にした演繹的な支援枠組みの構築をまず検討しなければ行けないという判断に 至った。それを土台にしながら同時に、本学なりの事例を蓄積し、それらを支援枠組みに反映さ せていく帰納的なアプローチを実施していくべきであろう。その際には、先の支援枠組みをドグ マ的に扱うのではなく、柔軟な運用を行うことが欠かせないと考える。以上のような、発達障害 学生支援における本学なりの方向性を提示するレベルで現段階では留めざるを得ない、という判 断に至った次第である。 なお、本学での「合理的配慮であるかどうか」の基準として図のようなものが想定できる。 この図の内容を踏まえても、それでもまだ判断が難しいと思われるケースとして、障害によっ てできないことが授業の本質部分にあたる場合、どこまでの支援が合理的配慮の範疇でできるの か、という問題が想定できるだろう。たとえば、コミュニケーション能力が成績評価の中心にな る授業(実習、演習系)での合理的配慮について考えれば 障害によりコミュニケーションが苦 手であるのだが、そこを何らかの形でサポートしてしまうと肝心な授業の到達レベルが正当に評 価できないという問題が出てくる。そうしたケースに対して「合理性」を判断していくためには、 やはり、個々のケースで学生の困難さ・教員の負担・他の学生との公平性をそれぞれ独立して検 討する、または協働作業の中での話し合いの中で配慮の内容や範囲を探究し続ける、といった方 策を取ることが適切ではないか考えられる。 単位認定基準や卒業要件の緩和 など、教育に関わる本質的な変 更はできない ①本質的な変更を伴うか 教育とは直接関係しない日常生 活支援や個人的な支援は、合理 的配慮として提供できない ③パーソナルサービスとの 線引きがされているか 大学側に金銭面・体制面で「過 度な」負担がかかる場合、配慮 は提供できない ②支援者へ負担がかかるか 合理的配慮の内容が、他の学生 や社会に対して迷惑や不利益を 与える場合、提供に制限がかかる ④他者へ不利益を与える ものではないか   合理的(reasonable)=無理がないか 図અ 合理的配慮を検討する上での基準案

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4. 2 支援の枠組み 次に、先行研究レビューとインタビュー調査から得られた回答をもとに、さらに図に見られ るプロセス的な発想をも採用することで、本学において採用すべき発達障害学生支援の枠組みを 試行的に図でまとめてみた。 図の上段は、「支援の枠組み 提供の段階」とし、支援の内容を「.教育的配慮」、「. 個別対応」、「.合理的配慮」の段階に分け、全二者を「見守り支援」、の合理的配慮につ いては「直接支援」にそれぞれ分類した。図での数字が進むほど、非公式から公式な支援、個 人的な支援から組織的な支援、そして非専門的な支援から専門的な支援に近づいていくことにな る。 なお、ここでいうの「教育的配慮」とは、教職員の学生に対する声掛けや見守りなどが含ま れる。次の「個別対応」には、個人的な見守りや声掛けから一歩進んで、学生相談が含まれてく る。ここにパーソナルサービスを含めて考えることもできるであろう。そしてつ目の「合理的 配慮」の段階では、組織的な変更や調整が含まれる。各段階において、具体的にどのような支援 の内容がラインナップされるかは今後検討が必要であるといえる。 障害の診断の必要性については、の「教育的配慮」との「個別対応」の段階では「必ずし も必要ではない」とし、の「合理的配慮」においてのみ「要」とした4。というのも、様々な 合理的配慮を提供するに当たっては、そのための判断根拠となる環境上の特性に加えて、障害学 生側の特性のつとしての障害の程度、内容に関する情報が欠かせないと考えられるからであ る。身体障害などの他の障害の場合は、の「教育的配慮」との「個別対応」を総合した、い わゆる「見守り支援」を経由せずに、いきなりの「直接支援」から支援が開始されることが多 いと思われるが、発達障害の場合は、多くの場合にこの「見守り支援」の段階を経ていくことが 特徴的であるといえる。ただし、そのためにいわゆる「グレーゾーン」の学生の場合には、ケー 支援の枠組み (提供の 段階) 合理的配慮の範囲 (各大学の考え方) ※必ずしもこの順に  支援が流れていく  とは限らない 見守り支援 障害の診断:必ずしも必要ではない 直接支援 障害の診断:要 公式 組織的 専門的 非公式 個人的 非専門的 B大学(国立) E大学(私立) D大学(国立) C大学(私立) A大学(国立) .教育的配慮 (心配・声掛け) .個別対応 (学生相談) .合理的配慮 (組織的な変更・調整) 図આ 発達障害学生支援の枠組み(インタビュー調査から)

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スによっては合理的配慮に「診断を要する」という条件がある限り、その提供が難しくなってし まう。この点をどう考えるかは、大きな課題であることを認識しておくべきであろう。 次に図下段には、上段の支援段階のどこからが「合理的配慮」にあたるのか各大学の考えを 図式化している。たとえば、B大学はの「教育的配慮」からすでに「合理的配慮」とみなして いるのに対して、A大学などはの「合理的配慮部分」のみを指すことを示している。それぞれ 各校の理念に沿って上記のような多様性が生じているのであるが、本学がどの段階から合理的配 慮として実施するのかについては、合理的配慮の内容の検討とともに考えていくことが必要にな るであろう。 5. まとめと今後の課題 本研究では、発達障害学生への合理的配慮提供に向けた対応について検討した。結果として、 合理的配慮の内容は非常に個別性が高く、詳細なガイドラインを設けることは難しかった。しか しながら、その前提となる考え方および段階ごとの支援については大いに示唆を得ることができ た。これらを参考にそれぞれのケースで学生との誠実な話し合いのもと、支援内容を決定してい くことが望まれる。 今後の課題としては、支援事例の蓄積が少ない状況の中で、まずは丁寧な支援事例の蓄積と共 有が求められる。また、合理的配慮の決定過程において、その協議体制や学生からの意義申し立 てのプロセスについても今後検討することが必要になるだろう。 注  本研究ノートは、「大学教職員と発達障害学生―合理的配慮提供に向けて教職員に求められる理解と支 援―」として、2013年度高等教育推進センター共同研究助成を受けて行った研究成果の一部である、な お、共同研究結果については、既に、研究代表者によって報告書が提出されている。  なお、本研究で対象とする発達障害とは、発達障害者支援法(2005)に定義される「自閉症、アスペル ガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害」 とする。中でも自閉症・アスペルガー症候群など自閉症スペクトラム障害(ASD)の学生を想定してい る。  内閣府は、障害者差別解消法条第項の規定に基づいて「障害者差別解消法に基づく基本方針(原案)」 (以下、基本方針)を2014年11月に公示し、同年12月までパブリックコメントの募集を行っている(私 立大学に関していえば、文部科学大臣は、この基本方針に基づいて対応指針を作成することになってい る)。そして、この基本方針によれば、「代替措置の選択も含め、双方の建設的対話による相互理解を通 じて、必要かつ合理的な範囲で、柔軟に対応がなされる」ことが求められている。  先の基本指針では、障害者差別解消法が対象とする障害者とは、「いわゆる障害者手帳の所持者に限ら れないこと」と明記されている。また、これに関連して、総務省四国行政評価支局は、四国内において 障害学生が受験方法の配慮を申し出た際、医師の診断書の提出を求めているケースがあったことに鑑み て、障害者手帳や出身高校等の意見等を診断書の代替として個別に検討するなど、障害学生の受験負担 を軽減するよう、改善のあっせんを行っている(2014年11月日報道資料 http://www.soumu.go. jp/main_content/000321594.pdf)。こうした動きは、今後、障害学生支援の利用に当たっての診断書や 手帳の提出を求めることの是非に影響を与えていく可能性がある。

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参考文献

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参照

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