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反射防止構造を形成したガラスモールドレンズ

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Academic year: 2021

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(1)

 この 20 年ほどの間にレンズの製造技術には大きな変革 が起こった.そのひとつがガラスモールド法である.従来 の研磨レンズに対して,非球面や回折素子などの機能を付 加した高精度なレンズを大量生産することができるように なった.現在ではディジタルスチルカメラなどに多用され ており,小型化,高性能化に大きな役割を果たしている.  そうした状況の中で,光学素子の表面に微細な構造を形 成することで新たな光学機能の発現を目指す開発が盛んに 行われるようになってきた1).波長より微細な構造を表面 に付加することによって反射防止効果が得られる構造とし て,モスアイ構造がよく知られている2).従来は半導体プ ロセスを応用した複雑で高価なプロセスでしかできなかっ たが3),われわれは微細構造をモールドに形成し,高い量 産性が見込まれるガラスモールド法で作製する技術を開発 してきた4).本報告ではその概要と,レンズの曲面に対応 した電子ビーム描画によるパターニングおよび試作したレ ンズの特性について紹介する. 1. 反射防止構造とその形成技術  通常のガラスと空気の界面では屈折率の急激な変化が生 じるため,そこで一部の光が反射する.一方,ガラスの表 面に波長以下の周期で錘構造を形成すると,空気から内部 のバルクのガラスに向かって屈折率が緩やかに変化するた め,光の反射を抑制することができる.このような構造を レンズ成形時に同時に形成できたとしたら,後工程のコー ティングが不要になるとともに,広い波長範囲や斜め入射 光に対しても低反射を達成できる可能性がある.  反射率が低くかつガラスモールド法に適した形状とし て,われわれは円錐の裾が重なり合った構造を提案し た5).モールド上にはその反転した構造を形成する必要が ある.ガラスモールドに適した材料として耐熱性に優れた SiC を用いた.マスク材料として WSi を使用し,その上に レジストをスピンコートして電子ビーム描画によりパター ニングし,エッチングにより SiC 上に微細な錘構造を形成 した.  曲面へのパターニングは二光束干渉露光方法が一般に用 いられるが,露光のむらや曲面における周期を制御できな いなどの問題点がある.一方,電子ビーム描画方法は焦点 深度が浅いために,曲面へのパターニングは難しく,平面 へのパターニングに用いられることが多い.われわれは, 必要な焦点深度を確保することにより,曲面へパターニン グする電子ビームの描画方法を開発した. 30(30) 光  学

最近の技術から

反射低減技術の進展

反射防止構造を形成したガラスモールドレンズ

田中 康弘

*,†

・田村 隆正

・西井 準治

**

Molded Glass Lens with Anti-Reflective Structure

Yasuhiro TANAKA,*,† Takamasa TAMURA,* Junji NISHII**

We proposed a molded glass lens with anti-reflective structure (ARS) by glass molding process. The electron beam (EB) lithography and reactive ion etching were used for the formation of negative ARS on a surface of SiC mold. The mold was moved for adjusting the EB focus along the surface curvature. The surface reflectance of the molded lens is less than 0.7% within visible spectrum and 0.2% at 530 nm in wavelength. At the same time, its accuracy of surface profile is less than 0.5 mm.

Key words: anti-reflective structure, moth-eye, optical glass, molded lens, imprinting, electron beam lithography

パナソニック(株)AVC デバイス開発センター(〒571―8504 門真市松生町 1―15) **北海道大学電子科学研究所(〒001―0021 札幌市北区北 20 条西 10 丁目)

(2)

2. 曲面への電子ビーム描画  まず電子ビーム描画の焦点深度について確認した.図 1 に,焦点ずれが起きたときに電子ビームレジストのパター ンとエッチング後の構造がどのように変化するかを示す. パターンの周期は 250 nm である.25 mm の焦点ずれでは パターニングされた穴の直径は大きくなっているが,モー ルド表面の構造は合焦時とほとんど差がない.40 mm の焦 点ずれでは,オーバーエッチングにより表面構造が大きく 変化している.したがって,本プロセスでは少なくとも ±25 mm の焦点深度が確保できることがわかった.  そこで曲面への描画を実現するために,モールドをその 曲面に沿って上下方向に移動させることにした.モールド の描画領域を高さ±25 mm の領域に分割し,その範囲を超 えない間は平面と同様の描画を行う.描画領域が±25 mm の高さを超えるごとに,モールドを上下方向に 50 mm 移 動して同様の描画を繰り返す.このようにして曲面へ電子 ビーム描画でパターニングをして作製したモールドを図 2 に示す.レンズモールドの有効径は直径 7 mm,曲率半径 は 20 mm である.平面のときと同様に,円錐の裾が重な り合った反転形状が形成されていることが確認できた. 3. レンズ性能の評価  上記で作製したモールドを用いて,ガラスモールド法に よりレンズを成型した.ガラス材料には市販の低融点ガラ スを用いた.図 3 に成型したレンズの外観写真を示す.表 面に反射防止構造のない通常のレンズでは,写真撮影に使 用したリング状の照明光が強く反射している.一方,反射 防止構造を同時に成型したレンズでは,その反射光が非常 に薄くなっていることがわかる.反射防止構造はレンズの 両面に形成した.図 4 に各面の反射防止構造を示す.両面 とも同様の形状が成型されていることが確認できる.図 5 に可視光域の反射率を示す.反射率は反射防止構造のない もので 5.5%程度,反射防止構造のあるものでは可視光全 域にわたって 0.7%以下,波長 530 nm では 0.2%であっ た.  ガラスモールドでは反射率を低減するために,波長以下 の微細な構造を転写すると同時に,マクロなレンズ形状の 精度も要求される.試作したレンズの形状を非球面形状測 定器(UA3P)で測定した結果を図 6 に示す.設計値から 31(31) 40 巻 1 号(2011) 図 5 成型したレンズの反射率. ὶὐ䈝䉏㊂㩷 㪇㱘䌭㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㪉㪌㱘䌭㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㪋㪇㱘䌭㩷 1 Pm 1 Pm 㔚ሶ䊎䊷䊛䊧䉳䉴䊃䈱⴫㕙㩷 䉣䉾䉼䊮䉫ᓟ䈱 㪪㫀㪚 䊝䊷䊦䊄䈱⴫㕙 図 1 電子ビーム描画の焦点ずれによるレジストとモールド の表面 SEM 写真. 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩿㪸㪀㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩿㪹㪀 図 3 ガラスモールド法により成型したレンズ.(a) 反射防止構造なし,(b)反射防止構造あり. 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩿㪸㪀㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩿㪹㪀 図 4 成型したレンズの表面 SEM 写真.(a)第 1 面側, (b)第 2 面側. 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩿㪸㪀㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㩿㪹㪀 図 2 (a)モールドの外観写真,(b)モールドの表面 SEM 写真.

(3)

のずれは 0.5 mm 以下と,カメラ用のレンズとして十分な 精度であった.  レンズ材料としてのガラスはプラスチックに対して信頼 性や屈折率,分散の多様性などの点で大きな優位性をもっ ている.一方でプロセス温度の高さからモールド材料に対 する制約が大きく,微細構造の加工が難しかった.また実 際に微細構造をガラスモールド法で転写することもほとん ど例がなかった.われわれは耐熱性の高い SiC モールドの 曲面上に電子ビーム描画でパターニングし,エッチングに よりモールド表面に反射防止構造の反転形状を形成した. またそのモールドを用いてレンズの両面に反射防止構造を 成型し,レンズ形状と反射率の抑制を両立した.今後さま ざまなガラス材料への適用や,より曲率半径の小さなレン ズへの対応を進めて,ディジタルスチルカメラなどへの実 用化を目指したい.  本研究の成果は,革新的部材産業創出プログラム「次世 代 光 波 制 御 材 料・素 子 化 技 術」の 一 環 と し て 新 エ ネ ル ギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託を受け て行われた. 文   献 1) 菊田久雄:“表面微細構造による光学機能の発現と応用技 術”,精密工学会誌,74 (2008) 781―784.

2) S. J. Wilson and M. C. Hutley: “The optical properties of ‘moth eye’ antireflection surfaces,” Opt. Acta, 29 (1982) 993―1009. 3) H. Toyota, K. Takahara, M. Okano, T. Yotsuya and H. Kikuta:

“Fabrication of microcone array for antireflection structured surface using metal dotted pattern,” Jpn. J. Appl. Phys., 40 (2001) L747―L749.

4) 西井準治,田中康弘,波多野卓史:“ガラスインプリント法に よるサブ波長光学素子の形成”,応用物理,78 (2009) 655―658. 5) K. Yamada, M. Umetani, T. Tamura, Y. Tanaka, H. Kasa and J.

Nishii: “Antireflective structure imprinted on the surface of optical glass by SiC mold,” Appl. Surf. Sci., 255 (2009) 4267― 4270. 6) 田中康弘:“ガラス成型による反射防止構造の作製”,ニュー ガラス,23 (2008) 32―38. (2010 年 8 月 12 日受理) 32(32) 光  学 図 6 成型したレンズの形状測定結果.直交する 2 つの断 面の設計値からの誤差.

参照

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