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選挙公約から見た地方教育政策をめぐる政治の変容

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(1)Title. 選挙公約から見た地方教育政策をめぐる政治の変容. Author(s). 橋野, 晶寛. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 67(2): 33-44. Issue Date. 2017-02. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/8183. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第67巻 第₂号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 67, No.2. 平 成 29 年 ₂ 月 February, 2017. 選挙公約から見た地方教育政策をめぐる政治の変容 橋 野 晶 寛 北海道教育大学旭川校教育学教室. The Change of the Local Politics about Education Policy from the Viewpoint of the Manifesto of Gubernatorial Election HASHINO Akihiro Department of Education, Asahikawa Campus, Hokkaido University of Education. 概 要 この論稿では,都道府県知事選挙に着目して,2000年代の地方政治における教育・子育て関 連政策の位置づけの変容について考察する。具体的には,如何なる教育・子育て関連政策がど のくらいの頻度で選挙公約として取り上げられ,実質的な争点となっていたのか,特定の教育・ 子育て関連政策の公約採択を規定したのはいかなる要因なのか,こうした地方教育政策の政治 の態様は時間の経過に伴ってどのように変容したのかという点を明らかにする。これらの実証 分析の知見をふまえて,地方分権改革期以後の地方政府の教育・子育て関連政策をめぐる政治 の文脈を解釈する。. 1.課題設定 本稿は,2000年代以降の都道府県知事選挙における公約データの分析から,地方教育政策の政治化の過程 とその要因を明らかにするものである。 これまで,教育政策・行政研究において,地方教育政策・行政の政策過程を対象とする実証研究は少なか らず試みられてきた1)。それらは,政策形成・決定過程における影響力の主体の特定という一般的な問題意 識,あるいは,教育委員会・教育長に期待される「専門性」の政策形成・決定への反映の所在という教育行 政研究特有の文脈の問題意識を反映したものと解釈できる。こうした政策過程研究は今後も進展してゆくも のと考えられるが,これまでの研究において――おそらくは今後の研究においても――主たる知見として得 られたのは,首長の影響力の大きさに関するものである。この知見はある意味で常識的とも言える指摘では あるが,教育政策・行政研究の文脈で次の2点において重要な意味を持つ。 まず,第1は非対称なアクター間関係である。日本の地方議会制度は,二元代表制でありながら地方議会 との関係における首長の権力は強力である。すなわち,首長は議案提出権を有し,予算案提出権・予算執行. 33.

(3) 橋 野 晶 寛. 権は首長の専権事項に属すという点でアメリカの大統領制とは異なり,また,首長が議会から出される不信 任案に対抗的な議会解散権を有するという点は議院内閣制の首相と同様であり,これらは首長の強力な権力 の制度的な基盤となっている。実際の地方政治過程に関する研究もこうした制度的権力に裏打ちされた首長 の影響力を実証しており2),首長は地方政治における第1の政治アクターである。こうした非対称なアクター 間関係は,教育分野も例外ではない。教育長・委員の任免,予算及び財産の取得・処分及び私立学校・大学 に関わる権限は首長に属し,それゆえ教育分野においても教育委員会の存在に拘わらず,首長は政策出力を 最も左右する政治アクターと言える。このことは首長に関わる民主的統制抜きに,教育行政の行政責任を考 えることはできないことを意味する。 第2は2000年代の中央・地方関係,政治環境の変容である。地方分権改革による義務教育教員人件費に関 わる制度改変――義務標準法改正,教育公務員特例法改正,総額裁量制導入,加配教員流用に関する通達― ―,国庫負担金の一部一般財源化(義務教育費国庫負担金負担率引き下げ,公立保育所運営費負担金の一般 財源化)を通じて地方政府は財政上の裁量を得たが,それと同時に,かねてからの財政的逼迫と地方交付税 交付金の縮減という財政的制約,経済的停滞背景とした「生活保障」に関わる政策的対応を迫られたのであ る。こうした時変的な環境要因は政策の総合性を要請するものであり,首長のリーダーシップに対する政治 的需要は以前に増して高まった。本稿で扱う教育・子育て関連政策の現実の展開もこうした文脈の中で理解 する必要がある。 本稿は,地方教育政策における首長の関与に関して,2000年代の都道府県知事選挙という地方政治の一局 面を考察対象とする3)。こうした限定的な対象選択は,データ収集上の制約にも由来しているものの,対象 の重要性は高いと言える。というのも都道府県が自律的に決定・実行する主体としてのみならず基礎自治体 を補完する広域自治体であるゆえに生じる政策的な需要が存在し,そして知事選挙はそれに関わる有権者の 政策選択の機会だからである。 都道府県知事選挙の公約データを用いた分析は既に橋野(2015)によって行われており,財政支出を伴う 教育・子育て関連施策について記述的・基礎的な考察が行われているが,本稿は,データについて精度と対 象となる施策・期間を拡大し,また公約採択に関する要因に関する計量的実証分析を新たに行うことで,知 見の更新を試みる。地方教育政策の民主的統制という観点から,分析・考察では次の3点に焦点をあてる。 第1は,いなかる教育施策がどのくらいの頻度で選挙公約として取り上げられ,実質的な争点となっていた のかという点である。第2に,特定の教育施策の公約採択を規定したのはいかなる要因なのかという点であ る。そして第3に,こうした地方教育政策をめぐる政治は時間の経過に伴ってどのように変容したのかとい う点である。 本論文の構成は以下の通りである。次節では,都道府県知事選挙における候補者の公約情報から地方政治 における教育政策の争点化に関する事実を明らかにする。3節では,誰によって教育・子育て関連政策の公 約が採択されたのかという点,またその変容について計量的実証分析を行う。そして4節では,実証分析を ふまえて,地方教育政策の政治化の文脈を解釈する。. 2.知事選挙公約における教育・子育て関連政策 以下では,2000年以後の都道府県知事選挙の公約データを用いた計量分析によって,地方政治における教 育政策の政治化の趨勢について考察する。まず,この節では,知事選候補者によって公約として取り上げら れた施策の頻度とともに,教育政策がどの程度実質的な争点となっていたかという基礎的な事実について明 らかにする。. 34.

(4) 選挙公約から見た地方教育政策をめぐる政治の変容. 2. 1.データ 分析に用いるデータは知事選候補者の公約情報であり,各選挙の候補者の公約関連の新聞記事から教育政 策の公約の有無を特定する。主なデータソースは橋野(2015)と同様に新聞記事であるが,朝日新聞,読売 新聞の記事検索を用い,またその2紙によって捕捉できない候補者の公約についてはブロック紙・地方紙の 記事検索も使用した。参照したブロック紙・地方紙は,北海道新聞,河北新報,東奥日報,山形新聞,福島 日報,中国新聞,四国新聞,徳島新聞,高知新聞,西日本新聞,長崎新聞,宮崎日日新聞,琉球新報である。 加えて,近年の選挙に関しては,選挙公報および候補者のウェブサイトの情報についても参照した。対象と なる選挙は2000年1月から2016年7月末までの間に行われた都道府県知事選挙であり,延べ選挙数(無投票 当選を除く)は195選挙,延べ候補者数は655名である。 2000年以後の都道府県知事選挙における全ての候補者の教育・子育て関係の公約から,以下の20の財政支 出増減を伴う施策を抽出した。「学力向上」など具体的な施策が明確でないもの,教育内容や入試方式など, 財政支出を伴わない項目については除外している。 1)少人数学級の導入・適用学年拡大 2)少人数指導実施4) 3)スクールカウンセラー・支援員配置 4)ICT教育推進 5)校舎耐震化 6)学校施設・設備拡充5) 7)社会教育施設整備6) 8)特別支援学校増設 9)中高一貫校新設 10)高校再編推進 11)高校統廃合見直し 12)大学設置・誘致 13)小児・就学児童生徒医療費無料化 14)給食費無償化 15)就学援助拡充 16)保育所増設・延長保育による待機児童対策 17)保育費補助・無料化 18)私学助成拡充・私立高校授業料無償化 19)高校生・大学生の奨学金創設 20)公務員人件費削減による行政改革 これらの項目のうち,保育関連政策については実施主体である市町村の補完という都道府県の役割・権限 に照らして公約の具体的内容を理解する必要がある。多くの知事が公約として取り上げた待機児童対策とし ての保育所増設に関して言えば,公立保育所の設置・運営主体は市町村であり,都道府県の役割は保育施設 の認可・指揮監督と支援事業の実施にある。このことは都道府県の行いうる待機児童対策とその財政負担に 幅があることを意味する。三位一体改革における公立保育所運営費国庫負担金の一般財源化によって市町村 による保育サービス供給は減少したが(的場2007),こうした特定補助金廃止という地方分権改革の帰結と して生じた政策需要への対応が政治的イシューになったのである。また,小児・就学児童生徒医療費無料化. 35.

(5) 橋 野 晶 寛. は元より市町村の単独事業であり,都道府県はその支出の一部を補助事業として助成しているが,その対象 は市町村間で相違があり7),その市町村間の格差是正が都道府県レベルでの政策への需要につながったので ある。 2. 2.公約採択件数と項目間の関係 表1の左3列は各項目について公約に掲げた候補者数を示している。教育・子育て関連の公約採択数に着 目すると,少人数学級導入・適用学年拡大,小児・就学児童生徒医療費無料化,保育所増設・延長保育によ る待機児童対策が際立って多いことが確認できる。また,これらに次いで教育・子育て関連の財政支出拡充 とは対照をなす人件費削減による行政改革が採択されている。ただし,橋野(2015)で述べたように,少人 数学級導入・適用学年拡大,小児・就学児童生徒医療費無料化,保育所増設・延長保育による待機児童対策 といった施策は全体の件数こそ多いものの,それらを公約として掲げている者が当選する可能性は高くない。 当選者195名のうち,少人数学級導入・適用学年拡大を採択していたのは40名,小児・就学児童生徒医療費 無料化は28名,保育所増設・延長保育は33名である。また,当選する可能性の高い現職候補129名のうち, 少人数学級導入・適用学年拡大を採択していたのは29名,小児・就学児童生徒医療費無料化は16名,保育所 増設・延長保育による待機児童対策は24名である。 教育・子育て関連の公約は,伝統的には革新系政党所属または支持を受けた候補者の掲げてきた公約であ り,また同時に,そうした「左派」候補者が当選する可能性は極めて低い。社民党および共産党所属,また は2政党からのみ推薦を受けた候補者を「左派」として定義し,この「左派」候補者と各公約の有無との相 関行列を示したものが表2である。表2より,少人数学級導入・適用学年拡大および小児・就学児童生徒医 療費無料化について,「左派」候補との相関係数はそれぞれ0.353,0.451と相対的に高く,またそれら同士の 相関も0.400であり,党派性を反映したものと言える。実際にこれらは共産党所属・推薦の候補者において 一貫して表明されるものである。一方で他の公約については,党派性との関連はほとんどないだけでなく, 公約間でも相関はさほど見られない。 表1の右3列は,選挙単位で見た各項目の公約採択数を示している。当選者または次点者によって公約と して取り上げられた選挙数は,少人数学級導入・適用学年拡大が124,小児医療費窓口負担無料化が91,保 育所増設・延長保育が52,人件費削減による行政改革が44となっており,前2者は選挙における争点をなし ていたと言えよう。195選挙のうち「接戦選挙」は18選挙あり8),そのうちの13選挙で少人数学級導入・適 用学年拡大は少なくとも一方の候補者によって公約として採択されている。 以上の基礎的事実から,一部の教育・子育て関連政策が知事選挙において実質的な選挙の争点となってい たと推測される。特に少人数学級導入・適用学年拡大は,それ自体が有権者にアピールしやすい「人気政策」 であっただけでなく,2000年代の一連の義務教育標準法改正,総額裁量制導入などの教員人件費に関わる制 度改変によって地方政府の裁量が拡大した背景を反映している。. 3.教育・子育て関連公約採択の計量分析 3. 1.負の2項回帰モデルによる公約採択件数の分析 前節で挙げた教育・子育て関連公約は多岐に渡るが,まずは候補者の教育・子育て関連政策自体への関心 を把握するため,公約採択の情報を件数として集約し,分析する。採択件数の分析は式⑴のパネル負の二項 回帰モデルによって行う。. 36.

(6) 選挙公約から見た地方教育政策をめぐる政治の変容. 表1 知事選挙における公約件数 候 補 者. 選 挙. 候補者. 当選者. 次点者. 現職候補. 当選者または次点者. 当選者・次点者の双方. 接戦. 少人数学級の導入・適用学年拡大. 213. 40. 107. 29. 124. 23. 13. 少人数指導実施. 15. 9. 2. 8. 11. 0. 1. スクールカウンセラー・支援員配置. 10. 5. 4. 3. 9. 0. 1. 4. 2. 1. 1. 3. 0. 0. 校舎耐震化. 28. 6. 14. 6. 18. 2. 0. 学校施設・設備拡充. 13. 6. 5. 5. 11. 0. 1. 社会教育施設整備. 10. 6. 3. 5. 7. 2. 0. 特別支援学校増設. 16. 4. 5. 2. 9. 0. 1. 中高一貫校新設. 5. 3. 1. 2. 4. 0. 0. 高校再編推進. 5. 3. 2. 3. 4. 1. 1. 高校統廃合見直し. 24. 2. 12. 0. 14. 0. 0. 大学設置・誘致. 6. 2. 4. 1. 6. 0. 1. 小児医療費無料化. 165. 28. 82. 16. 91. 19. 3. 給食費無償化. 17. 1. 13. 1. 14. 0. 0. 就学援助拡充. 9. 0. 6. 0. 6. 0. 0. 保育所増設・保育時間延長. 100. 33. 35. 24. 52. 16. 3. 保育費補助・無料化. 16. 4. 8. 4. 9. 3. 2. 私学助成拡充・私立高校授業料無償化. 16. 3. 5. 2. 7. 1. 1. 高校・大学生の奨学金創設. 27. 4. 12. 3. 14. 2. 1. 人件費削減による歳出削減. 69. 36. 16. 23. 44. 8. 5. ICT教育推進. 表2 知事選挙における公約採用と党派性の相関 0. ⑴. ⑵. ⑶. 0左派候補. 1.000. ⑴少人数学級の導入・適用学年拡大. 0.353. ⑵少人数指導実施. -0.035 -0.063. 1.000. ⑶スクールカウンセラー・支援員配置. -0.017. 0.231. ⑷ICT教育推進. -0.033 -0.013 -0.012 -0.010. ⑷. ⑸. ⑹. ⑺. ⑻. ⑼. ⑽. ⑾. ⑿. ⒀. ⒁. ⒂. ⒃. ⒄. ⒅. ⒆. ⒇. 1.000 0.046. 1.000 1.000. ⑸校舎耐震化. 0.146. 0.127. 0.018 -0.026 -0.017. 1.000. ⑹学校施設・設備拡充. 0.002. 0.135 -0.022 -0.018 -0.011. 0.132. 1.000. ⑺社会教育施設整備. -0.017. 0.073 -0.019 -0.016 -0.010. 0.097. 0.161. 0.113. 0.061 -0.012. 1.000. ⑻特別支援学校増設. 0.073. 0.165 -0.024. 0.048. 0.061. 1.000. ⑼中高一貫校新設. -0.037. 0.051 -0.013 -0.011 -0.007 -0.019 -0.012. 0.132. 0.100. 0.132. 0.104 -0.011 -0.007. 0.155 -0.012. 1.000. ⑽高校再編推進. -0.037. 0.089. ⑾高校統廃合見直し. 0.102. 0.194 -0.030. 0.042 -0.015. 0.119. ⑿大学設置・誘致. 0.005. 0.036 -0.015. 0.119 -0.008. 0.138 -0.014 -0.012 -0.015 -0.008 -0.008 -0.019. 1.000. 0.156. 0.089 -0.024. 0.100 -0.008. 1.000. 0.074 -0.017 -0.017 0.030 -0.010. 1.000. ⒀小児医療費無料化. 0.451. 0.400 -0.065 -0.015 -0.045. 0.094. 0.014. 0.204. 0.018. 1.000. ⒁給食費無償化. 0.040. 0.051 -0.025 -0.020 -0.013 -0.034 -0.023. 0.058. 0.036 -0.014 -0.014 -0.032 -0.016. 0.111. 0.104. 1.000. ⒂就学援助拡充. 0.098. 0.086. 0.070 -0.015 -0.009. 0.040 -0.017 -0.015. 0.066 -0.010 -0.010 -0.023 -0.011. 0.173 -0.019. ⒃保育所増設・保育時間延長. 0.086. 0.158. 0.020. 0.021. 0.120. 0.122. 0.086. 0.070. 0.004. 0.184. 0.171 -0.014. 1.000. ⒄保育費補助・無料化. 0.045. 0.080 -0.024 -0.020 -0.012. 0.113. 0.119. 0.061. 0.039 -0.014. 0.213 -0.031 -0.015. 0.159. 0.099 -0.019. 0.153. 0.016. 0.012. 0.060. 0.053. ⒅私学助成拡充・私立高校授業料無償化. 0.101. 0.122 -0.024 -0.020 -0.012. 0.113. 0.048. 0.142. 0.167 -0.014 -0.014. ⒆高校・大学生の奨学金創設. 0.043. 0.036. 0.108 -0.030. 0.162. 0.116 -0.018. 0.158 -0.040. 0.141. ⒇人件費削減による歳出削減. -0.115 -0.058. 0.079 -0.027 -0.023 -0.013. 0.120. 0.042. 0.027. 0.020 -0.026 -0.016 0.014. 0.027. 0.022 -0.015 0.039. 1.000 1.000. 0.113. 0.036. 0.151. 0.208. 0.039. 0.110. 0.304. 0.041. 0.190. 0.216 -0.033. 1.000 1.000. 0.019 -0.039 -0.025. 0.002. 0.034. 0.042 -0.022. 0.004. 1.000. 37.

(7) 橋 野 晶 寛. ⑴. yijは先の項目のうち,20)の人件費削減による行政改革を除いた19項目の採択数である。xは採択数を規 定する要因であり,本分析では,選挙実施時期――「2005年以前」を基準として「2006-2010年」「2011年以 降」の2変数――,「左派」候補,現職候補,接戦,および交差変数――「2006-2010年」×「左派」候補, 「2006-2010年」×現職候補,「2006-2010年」×接戦,「2011年以降」×「左派」候補,「2011年以降」×現 職候補, 「2011年以降」×接戦――である。分析の焦点となるのは選挙時期と各変数の交互作用効果であり, 党派性,現職/新人,接戦の影響が時期間でどのように変化しているのかという点を明らかにする。υは都 道府県レベルの個別効果を意味する変量効果であり,平均0,分散σ2の正規分布に従うと仮定する。パラメー タ推定はマルコフ連鎖モンテカルロ法によって行い,20,000組のパラメータを発生させ,最初の10,000組を burn-inとし,後半の10,000組を事後分布統計量の算出に用いた9)。 表3は,負の2項回帰モデルのパラメータの事後分布統計量――事後平均,標準偏差,90パーセント信用 区間,正値となる事後確率――を示している。表より次の4点が読み取れる。まず,時期区分のダミー変数 の係数の値から,時間の経過に伴って候補者の教育・子育て関連政策の公約採択項目数が多くなっており, 知事選候補者の教育・子育て関連政策への関心,あるいは選挙における位置づけが変化していることが分か る。第2に,左派候補と非左派候補では前者の方が教育・子育て関連政策に公約採択項目数は多いが,その 党派性の影響は時間を通じて安定している。第3に,現職候補であることの影響は時期を通じて異なってお り,2000年代後半以降の時期では,現職候補は積極的に教育・子育て関連の公約を採択する方向に転換して いる。第4に選挙が接戦であることの影響は時期を通じて異なっており,2006-2010年(第Ⅱ期)では,接 戦の選挙において,教育・子育て関連公約が多く掲げられている。 表3 パネル負の2項回帰モデルの結果 パラメータ. 事後平均. 標準誤差. 90%CI下限. 90%CI上限. Pr(θ>0|D). β0. 定数項. -0.205. 0.065. -0.311. -0.096. 0.001. β1. 時期Ⅱ(2006-2010). 0.228. 0.105. 0.053. 0.399. 0.987. β2. 時期Ⅲ(2011-). 0.385. 0.097. 0.229. 0.548. 1.000. β3. 左派候補. 0.897. 0.157. 0.636. 1.155. 1.000. β4. 現職候補. -0.498. 0.226. -0.864. -0.132. 0.011. β5. 接戦. 0.037. 0.196. -0.296. 0.356. 0.583. β6. 時期Ⅱ×左派候補. 0.022. 0.226. -0.357. 0.399. 0.538. β7. 時期Ⅱ×現職候補. 0.610. 0.298. 0.120. 1.091. 0.978. β8. 時期Ⅱ×接戦. 0.451. 0.286. -0.003. 0.928. 0.949. β9. 時期Ⅲ×左派候補. -0.151. 0.230. -0.526. 0.226. 0.253. β 10. 時期Ⅲ×現職候補. 0.379. 0.292. -0.104. 0.854. 0.905. β 11. 時期Ⅲ×接戦. -0.385. 0.387. -1.026. 0.271. 0.153. α. -2.052. 0.418. -2.686. -1.337. 0.000. σ. 0.277. 0.040. 0.218. 0.347. 1.000. 観測数=655. 38. 変 数.

(8) 選挙公約から見た地方教育政策をめぐる政治の変容. 表4は,負の二項回帰モデルで得られたパラメータから時期・党派性・現職/新人の相違に応じて教育・ 子育て関連公約の採択項目数の期待値を推計したものであり,上述の分析結果の可視化している。表では, パラメータに基づいて,時期区分,左派候補/非左派候補,現職/新人に応じた9ケースの公約採択確率の 推計値を示している10)。現職候補者における時期間の変動が大きく,2000年代後半以降の教育政策の政治 化現象を見て取れる。 表4 公約採択件数の推計値 時 期 2000-2005. 2006-2010. 2011-. 左派/非左派. 現職/新人. 公約採択件数の期待値. 左派. 新人. 2.035. 非左派. 新人. 0.820. 非左派. 現職. 0.511. 左派. 新人. 2.734. 非左派. 新人. 1.087. 非左派. 現職. 1.227. 左派. 新人. 2.458. 非左派. 新人. 1.161. 非左派. 現職. 1.040. 3. 2.多変量プロビットモデルによる公約採択の分析 前節で見た様々な教育・子育て関連の公約のうち,多くの候補によって公約で言及された,少人数学級導 入・適用学年拡大,小児・就学児童生徒の医療費窓口無料化,保育所増設・保育時間延長による待機児童対 策および人件費削減による行政改革の4公約の規定要因とその趨勢を分析する。 知事選候補者の項目ごとの公約採択に関する分析は式⑵のパネル多変量プロビットモデル(multivariate probit model)によって行う。多変量プロビットモデルでは,観測されない要因を通じて項目間の意思決定 が相関していることを想定し,確率的誤差項εが平均0,分散R(=相関行列)の多変量正規分布に従うと いう仮定を置く。 ⑵. yijkは都道府県iにおける候補者jの項目kに関する公約採択に関する2値変数であり,採択の場合1, 不採択の場合0の値を取る。xijはその公約採択の有無を規定する要因であり,前項の分析と同じ変数を用い 39.

(9) 橋 野 晶 寛. る。υは都道府県レベルの効果を意味する変量効果ベクトルであり,平均0,分散Σの多変量正規分布に従 うと仮定する。パラメータ推定はマルコフ連鎖モンテカルロ法によって行い,20,000組のパラメータを発生 させ,最初の10,000組をburn-inとし,後半の10,000組を事後分布統計量の算出に用いた11)。 表5は,多変量プロビットモデルにおけるパラメータの事後分布統計量を示している。まず,誤差項の相 関構造について見ておくと,ρ12が0.461となっており,少人数学級導入・適用学年拡大と小児・就学児童生 徒医療費無料化に関する政策選好の間に相関があることが分かる。説明変数以外の観測されない別の要素に よって2項目双方の意思決定が影響されていることが読み取れる。その他の項目間での誤差項の相関はさほ ど大きくはない。 非線形モデルであるため係数 β について直接的な解釈ではできないが,表5のパラメータの符合の情報か ら次の4点が指摘できる。まず,第1に,時間の経過に伴う公約採択確率の変化は項目ごとに異なっている。 前節の分析では時間の経過に伴って教育・子育て関連公約採択が増加していることを明らかにしたが,それ は斉一的ではなく,少人数学級導入・適用学年拡大と保育所増設・延長保育による待機児童対策とは反対の トレンドにあることが分かる。 第2に,候補者の党派性は4項目全てに影響している。特に保育所増設・延長保育待機児童対策以外の3 項目の係数および係数が正値となる事後確率から,それが強く影響を与えていることは明らかである。すな わち,左派候補はそうでない候補に比べて,少人数学級導入・適用学年拡大,小児・就学児童生徒医療費無 料化,保育所増設・延長保育による待機児童対策を公約として掲げる確率が高く,人件費削減による行政改 革を公約に掲げない。前述のように,前2者については共産党所属・推薦の候補者がどの選挙でも一貫して 主張している内容である。 第3に,現職/新人の区分については,現職知事であることの影響は時期間で異なっている。本稿の分析 の時期区分で言えば,2005年以前の早期の段階では,少人数学級導入・適用学年拡大,小児・就学児童生徒 医療費無料化の公約採択に対して負の方向に作用しているが,それ以後の時期についてはその影響は弱まっ ているか,もしくは反対に正の方向に作用するようになっている。 第4に,接戦選挙については,2000年代後半における少人数学級導入・適用学年拡大で公約採択に正の方 向に大きく作用している。 これらの点について,解釈を容易にするために,時期・党派性・現職/新人の相違に応じて4項目の公約 採択確率を推計したものが表6である。項目毎に整理すると,まず,少人数学級導入・適用学年拡大につい ては,後の時期になるにつれて, 「左派」/非「左派」および現職/新人での公約採択確率の差は縮まって おり,脱イデオロギー化の傾向が読み取れる12)。小児・就学児童生徒医療費無料化については,時間の経 過とともに党派性,現職/新人によって生じる差がやや開いている。保育所増設・延長保育による待機児童 対策についても時間経過とともに公約採択が増加しているが,他の公約と異なり,党派性,現職/新人間の 差は大きくはない。そして,人件費削減による行政改革は,現実的な行政課題として現職候補に強く意識さ れていることが分かる。. 4.考 察 本稿の考察対象は十数年という短い期間に実施された知事選挙という地方政治の局所的な側面に過ぎない が,地方政治における教育政策の位置づけの顕著な変容を見出すことができる。冒頭で述べたように,それ は単に教育・子育て関連政策の文脈だけでなく,地方行財政,社会経済的環境,地方政治のプロセスの複合 的変容を背景としている。. 40.

(10) 選挙公約から見た地方教育政策をめぐる政治の変容 表5 パネル多変量プロビットモデルの結果 パラメータ. 変 数. 事後平均. 標準誤差. 90% CI下限. 90% CI上限. Pr(θ>0|D). β 0_1. 定数項(少人数学級導入・適用拡大). -0.497. 0.128. -0.707. -0.293. 0.000. β 1_1. 時期Ⅱ(2006-2010). -0.293. 0.186. -0.594. 0.013. 0.060. β 2_1. 時期Ⅲ(2011-). -0.170. 0.178. -0.460. 0.129. 0.172. β 3_1. 左派候補. 1.198. 0.295. 0.716. 1.690. 1.000. β 4_1. 現職候補. -0.447. 0.244. -0.846. -0.052. 0.031. β 5_1. 接戦. 0.316. 0.244. -0.080. 0.726. 0.906. β 6_1. 時期Ⅱ×左派候補. 0.772. 0.435. 0.061. 1.498. 0.963. β 7_1. 時期Ⅱ×現職候補. 0.781. 0.356. 0.202. 1.379. 0.987. β 8_1. 時期Ⅱ×接戦. 0.954. 0.459. 0.199. 1.727. 0.983. β 9_1. 時期Ⅲ×左派候補. -0.455. 0.385. -1.104. 0.170. 0.120. β 10_1. 時期Ⅲ×現職候補. 0.035. 0.354. -0.556. 0.620. 0.541. β 11_1. 時期Ⅲ×接戦. 0.050. 0.495. -0.783. 0.839. 0.545. β 0_2. 定数項(小児・就学児童生徒医療費無料化). -1.125. 0.149. -1.375. -0.881. 0.000. β 1_2. 時期Ⅱ(2006-2010). 0.431. 0.200. 0.111. 0.766. 0.985. β 2_2. 時期Ⅲ(2011-). 0.471. 0.193. 0.158. 0.800. 0.994. β 3_2. 左派候補. 1.363. 0.273. 0.919. 1.813. 1.000. β 4_2. 現職候補. -0.655. 0.369. -1.286. -0.066. 0.029. β 5_2. 接戦. -0.141. 0.332. -0.694. 0.397. 0.338. β 6_2. 時期Ⅱ×左派候補. 0.225. 0.398. -0.437. 0.887. 0.709. β 7_2. 時期Ⅱ×現職候補. 0.478. 0.458. -0.263. 1.241. 0.851. β 8_2. 時期Ⅱ×接戦. -0.100. 0.508. -0.931. 0.751. 0.408. β 9_2. 時期Ⅲ×左派候補. 0.069. 0.379. -0.554. 0.692. 0.570. β 10_2. 時期Ⅲ×現職候補. 0.215. 0.442. -0.491. 0.944. 0.681. β 11_2. 時期Ⅲ×接戦. -0.753. 0.642. -1.819. 0.276. 0.117. β 0_3. 定数項(保育所増設・延長保育). -1.535. 0.170. -1.820. -1.260. 0.000. β 1_3. 時期Ⅱ(2006-2010). 0.395. 0.232. 0.013. 0.773. 0.957. β 2_3. 時期Ⅲ(2011-). 0.859. 0.212. 0.511. 1.213. 1.000. β 3_3. 左派候補. 0.418. 0.336. -0.145. 0.969. 0.895. β 4_3. 現職候補. 0.303. 0.308. -0.211. 0.807. 0.838. β 5_3. 接戦. -0.638. 0.468. -1.442. 0.092. 0.078. β 6_3. 時期Ⅱ×左派候補. -0.109. 0.439. -0.826. 0.636. 0.398. β 7_3. 時期Ⅱ×現職候補. -0.064. 0.418. -0.748. 0.611. 0.436. β 8_3. 時期Ⅱ×接戦. 0.986. 0.590. 0.035. 1.999. 0.958. β 9_3. 時期Ⅲ×左派候補. -0.242. 0.421. -0.943. 0.448. 0.285. β 10_3. 時期Ⅲ×現職候補. -0.334. 0.391. -0.976. 0.311. 0.191. β 11_3. 時期Ⅲ×接戦. 0.217. 0.662. -0.837. 1.341. 0.620. β 0_4. 定数項(人件費削減による行政改革). -1.298. 0.165. -1.572. -1.035. 0.000. β 1_4. 時期Ⅱ(2006-2010). 0.325. 0.220. -0.033. 0.687. 0.935. β 2_4. 時期Ⅲ(2011-). -0.118. 0.239. -0.511. 0.268. 0.312. β 3_4. 左派候補. -6.528. 3.715. -12.624. -1.381. 0.000. β 4_4. 現職候補. -0.139. 0.317. -0.660. 0.387. 0.329. β 5_4. 接戦. -0.085. 0.340. -0.658. 0.454. 0.414. β 6_4. 時期Ⅱ×左派候補. 5.486. 3.756. 0.170. 11.572. 0.961. β 7_4. 時期Ⅱ×現職候補. 0.503. 0.423. -0.179. 1.206. 0.886. β 8_4. 時期Ⅱ×接戦. 0.028. 0.512. -0.809. 0.889. 0.518. β 9_4. 時期Ⅲ×左派候補. 5.887. 3.736. 0.571. 12.169. 0.984. β 10_4. 時期Ⅲ×現職候補. 0.615. 0.428. -0.092. 1.304. 0.924. β 11_4. 時期Ⅲ×接戦. 0.010. 0.692. -1.164. 1.116. 0.522. ρ 21. 0.461. 0.060. 0.362. 0.556. 1.000. ρ 31. 0.269. 0.078. 0.137. 0.388. 1.000. ρ 41. -0.127. 0.099. -0.292. 0.033. 0.101. 41.

(11) 橋 野 晶 寛 ρ 32. 0.238. 0.083. 0.094. 0.370. ρ 42. -0.039. 0.101. -0.202. 0.126. 0.999 0.354. ρ 43. 0.048. 0.101. -0.111. 0.224. 0.667. σ11. 0.137. 0.042. 0.079. 0.217. 1.000. σ21. 0.089. 0.039. 0.035. 0.162. 1.000. σ31. 0.069. 0.034. 0.020. 0.131. 0.994. σ41. 0.058. 0.032. 0.012. 0.114. 0.984. σ22. 0.153. 0.049. 0.088. 0.247. 1.000. σ32. 0.078. 0.037. 0.026. 0.147. 0.997. σ42. 0.063. 0.035. 0.013. 0.126. 0.985. σ33. 0.137. 0.043. 0.078. 0.217. 1.000. σ43. 0.060. 0.033. 0.013. 0.120. 0.989. σ44. 0.135. 0.043. 0.076. 0.215. 1.000. 観測数=655. 表6 公約採択確率の推計値 公 約 項 目 時期. 2000-2005. 2006-2010. 2011-. 左派/非左派. 現職/新人. 少人数学級導入・ 適用学年拡大. 小児・就学児童生徒 医療費無料化. 保育所増設・ 保育時間延長. 人件費削減による 行政改革. 左派. 新人. 0.761. 0.582. 0.125. 0.001. 非左派. 新人. 0.326. 0.133. 0.051. 0.097. 非左派. 現職. 0.183. 0.042. 0.096. 0.081. 左派. 新人. 0.899. 0.803. 0.214. 0.036. 非左派. 新人. 0.266. 0.248. 0.139. 0.168. 非左派. 現職. 0.375. 0.179. 0.204. 0.278. 左派. 新人. 0.540. 0.741. 0.287. 0.030. 非左派. 新人. 0.279. 0.221. 0.233. 0.085. 非左派. 現職. 0.164. 0.122. 0.222. 0.176. まず,第1に,教育・子育て政策としての問題の生成であり, 「学力問題」, 「少子化問題」および待機児童, 子どもの貧困に関する問題などの浸透は中央・地方政治における政策的対応を喚起した。もっともこれらの 教育・子育て関連政策の政策的需要に対する政治アクターの対応自体――教育・子育て関連政策を政治争点 化するか否か――は,その教育・子育て関連政策についての政策選好に依存しているが,以下に述べる他の 文脈にリンクすることで,地方政治において教育・子育て関連政策は政治争点化することとなったのである。 第2に,地方行財政の側面に関して言えば,既に教育行財政研究が指摘するように,2000年代の地方分権 改革期における教育行財政制度の改変によって都道府県・市町村は教員人件費に関わる使途および追加的政 策の裁量を得ることとなり,少人数学級・指導をめぐる政治の余地が発現した。これは,都道府県にとって は,分権改革の権限拡大によって自己決定主体となったことによるものである。一方で,三位一体改革によ る公立保育所運営費国庫負担金の一般財源化は,地方交付税交付金の削減を伴うことで,保育サービスの実 施主体である市町村による公立保育サービスの供給を縮減させたが,その分権改革の帰結として,市町村の 行政・政策の補完を司る広域自治体としての都道府県による支援事業の政策的需要が生じた。 第3に,社会経済的側面について言えば,地方政府およびその執政長官たる首長は,最重要の政治的課題 として,長期の経済的停滞に起因する財政と雇用に関する政策的対応が迫られた。それは,公務員人件費削. 42.

(12) 選挙公約から見た地方教育政策をめぐる政治の変容. 減による行政改革と対人公共サービスにおける緊急的な雇用創出として具現化されたのであり,労働集約的 な政策分野である教育・子育て分野はその双方に大きく関わるものであった。そして,その連立方程式の現 実的な解は,可視的な員数・サービスの量的水準を保った上での,雇用形態の多様化や緊急雇用対策の枠組 みの中での雇用創出,給与水準の引き下げだったのである。 そして第4に,政治プロセスにおける公約の重要性の増加である。地方政治において――あるいは国政に おいても――「マニフェスト」の実質をなす財源や数値目標,期限の明示は浸透したとは言えないが,少な くとも時間の経過に伴って抽象的な公約は忌避され,有権者に対して具体的な施策の発信が選挙公約で求め られるようになった。このことは本稿のデータソースとなった知事選挙における新聞報道の情報量の変化に 明らかである。一方でそうした具体的な施策の提示が議会でのチェックの前提ともなったのであり,こうし た政治環境の中で,当選する確率の高い候補者は,当選可能性と当選後の政策運営上の裁量の比較衡量によっ て現実的な対応を迫られたのである。 こうした複合的な文脈から,本稿の記述的知見に解釈が与えられるのである。最後に今後の研究上の展望 を述べておきたい。まず,第1は公約データにおける候補者の政策選好との対応関係の明確化である。本稿 のデータは,当該項目が公約として言及されたか否かを問題としているが,政策選好という意味では,項目 間・政策分野間の優先順位が反映される必要があり,掲載順序やスペース(当該公約に関する文字数)といっ た情報もデータ化することが考えられよう13)。第2は時期的な対象の拡大である。首長および選挙におけ る候補者の公約に着目することは,地方政治の第1のプレーヤーの政策選好を明らかにするという意味で重 要な基礎的作業であり,首長の教育政策への政治的関与に関する一般的考察のためにも対象期間をより広げ ることが要請される。しかし一方でこうしたデータの利用可能性は考察対象に大きく依存しており14),対 象拡大とデータの質の両立が大きな課題となろう。. 註 1)地方教育政策・行政の政策過程研究の嚆矢としては,白石(1995) 。近年のものとして,日本教育行政学会研究推進委員 会(2012,2014),村上(2012),青木(2013)など。 2)例えば,地方政治・行政アクターの調査に基づく小林・中谷・金(2008:2章)など。 3)アメリカ教育政治・教育政策過程研究の文脈において,州知事選に着目したものとしてFusarelli(2002) 。 4)橋野(2015)では,1),2)を合算して計算しているが,本稿では少人数学級と少人数指導を分離した。ただし,表1 の集計結果から明らかなように公約に掲げる時点ではその公約実現可能性の有無にかかわらず,圧倒的に少人数学級の方が 掲げられている。 5)主なものは,エアコンの設置,校庭の芝生化である。 6)競技場などの体育施設も含む。 7)元々,小児医療費助成は,義務教育就学前の乳幼児医療費自己負担分(2割負担)について市町村が全部または一部負担 するしくみとして1960年代に市町村自治体で始まり,1973年から1994年にかけて都道府県による市町村への助成が広がっ た。当初は所得制限を設けた上での乳幼児が対象であったが,対象は就学児にも拡大されている(西川2011,2012) 。 8)本稿では, 「接戦選挙」を次点者の得票率が当選者の得票率の0.9倍以上であったものと定義する。また, 本稿は橋野(2015) で用いたデータの入力・集計ミスを修正しているため,本稿のデータでは対象期間が長いにも拘わらず,同様の定義で算出 した接戦選挙の数が前稿のデータから算出した数よりも少なくなっている。 9)マルコフ連鎖モンテカルロ法による推定については,Rossi et al.(2005: Ch5)などを参照。 10)「左派」かつ現職の候補を満たす候補者は実際にはいないため推計からは除外した。 11)多変量プロビットモデルについては,Chib&Greenberg(1998) ,Edwards&Allenby(2003)などを参照。尚,マルコフ 連鎖モンテカルロ法の過程において,対角要素に制約のある共分散行列として相関行列の乱数を効率的に発生させる必要が ある。この点についてはChan&Jeliazkov(2009)の方法に従った。 12)脱イデオロギー化の背景についての解釈については,橋野(2015,2017)で議論している。. 43.

(13) 橋 野 晶 寛. 13)本稿では,知事選に焦点をあて,現職知事のみならず,知事候補者の政策選好も分析の対象としたが,現職知事のみを対 象とするならば,選挙公約のみならず,議会における知事の答弁・演説等も政策選好を知る重要な手掛かりとなる。アメリ カの教育政治研究の実証分析では,州知事の年次教書演説の内容分析から,政策選好(教育政策の相対的な位置づけ)を変 数化する手続きが用いられている(Mokher 2010) 。 14)本稿で収集した公約データの多くは新聞記事に依拠するものだが,それは,考察対象とした期間において,それ以前と較 べ,選挙関連報道が知事選候補者の公約を詳細に取材・報道するようになった,あるいは候補者の情報をインターネット等 において補完的に入手できるようになったという事情に依存している。. 文 献 ・青木栄一,2013,『地方分権と教育行政:少人数学級編制の政策過程』勁草書房. ・Chib, Siddhartha and Edward Greenberg, 1998, “Analysis of Multivariate Probit Models,” Biometrika, 85⑵: 347-361. ・Chan, Joshua Chi-Chun and Ivan Jeliazkov, 2009, “MCMC Estimation of Restricted Covariance Matrices,” Journal of Computational and Graphical Statistics, 18⑵: 457-480. ・Edwards, Yancy D. and Greg M. Allenby, 2003, “Multivariate Analysis of Multiple Response Data,” Journal of Marketing Research, 40⑶: 321-334. ・Fusarelli Lance D., 2002, “The Political Economy of Gubernatorial Elections: Implications for Education Policy,” Educational Policy, 16: 139-160. ・橋野晶寛,2015,「地方教育政策の政治化と民主的統制」 『北海道教育大学紀要.教育科学編』65⑵:1-15. ・――,2017,『現代の教育費をめぐる政治と政策』大学教育出版. ・小林良彰・金宗郁・中谷美穂,2008,『地方分権時代の市民社会』慶應義塾大学出版会. ・森脇俊雅,2013,『日本の地方政治―展開と課題』芦書房. ・的場啓一,2007,「保育行政のミスマッチはなぜ起きるのか?:少子化対策と三位一体改革の影響」 『関西学院経済学研究』 38: 43-64. ・Mokher, Christine G., 2010, “Do “Education Governors” Matter?: The Case of Statewide P-16 Education Councils,” Educational Evaluation and Policy Analysis, 32⑷: 476-497. ・村上祐介,2012,「地方分権改革以後の教育政策の変容とその要因」 『人間研究』58:31-43. ・日本教育行政学会研究推進委員会編,2012,『地方政治と教育行財政改革―転換期の変容をどう見るか』福村出版. ・――,2014,『首長主導改革と教育委員会制度―現代日本における教育と政治』福村出版. ・西村雅史,2010,「乳幼児医療費助成制度の一考察(上) 」 『青山経済論集』62⑶:195-214. ・――,2011,「乳幼児医療費助成制度の一考察(上) 」 『青山経済論集』62⑷:87-107. ・小川正人,2008, 「国の教育経営手法の変化と自治体教育経営の課題」小川正人・勝野正章『教育経営論』放送大学出版会. ・――,2010,『教育改革のゆくえ ――国から地方へ』筑摩書房. ・Rossi, Peter, Greg M. Allenby and Robert McCulloh, 2006, Bayesian Statistics and Marketing, Wiley. ・白石裕,1995,『地方政府における教育政策形成・実施過程の総合的研究』多賀出版. ・曽我謙悟・待鳥聡史,2007,『日本の地方政治―二元代表制政府の政策選択』名古屋大学出版会.. 追 記 本研究は,科学研究費(課題番号26285180)の助成による成果の一部である。 (旭川校准教授). 44.

(14)

参照

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『台灣省行政長官公署公報』2:51946.01.30.出版,P.11 より編集、引用。

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