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本邦国債価格データを用いたゼロ・クーポン・イールド・カーブ推定手法の比較分析

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Academic year: 2021

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(1)

本邦国債価格データを用いたゼロ・

クーポン・イールド・カーブ推定手法

の比較分析

きく

けん

ろう

郎 /

しん

たに

こう

へい

要 旨

本稿では、本邦国債のゼロ・クーポン・イールド・カーブ(以下ゼロ・カー ブ)を推定する際に、推定手法が満たすべき基準を提示したうえで、先行研究 で用いられた各種の手法について比較分析を行う。 先行研究では、利付債の市場価格からゼロ・カーブを推定する多くの手法が 提案されてきたが、任意の推定手法を選択して本邦国債のゼロ・カーブを推定 すると、その特徴を的確に捉えられないおそれがある。本研究では、ゼロ・カー ブの特徴を捉えるには、国債の市場価格への適合性が高く、適切な内挿がなさ れたゼロ・カーブを推定できることが望ましいと考える。そして、さまざまな 推定手法の中から適切な手法を選択する基準として、推定値がゼロを下回らな いこと、異常値をとらないこと、市場価格との適合性が高いこと、ゼロ・カー ブの凹凸が小さいことに着目する。 分析の結果、本稿で扱った本邦国債の価格データについて、 Steeley [1991]に よる手法が最適であるとの結論となった。実際、当該手法に基づく推定結果を みると、緩和的な金融政策が長らく続いてきた本邦におけるゼロ・カーブの特 徴が十分に表現されていることが確認される。このように、ゼロ・カーブを適 切に推定することは、日本の国債金利についてさまざまな分析を行ううえでの 出発点として、重要性が高いと考えられる。 キーワード:利付国債、ゼロ・クーポン・イールド、区分多項式関数 ... 本稿の作成に当たっては、室町幸雄教授(首都大学東京)、日本金融・証券計量・工学学会(JAFEE)第 35回大会参加者、TMU(首都大学東京)ファイナンスセミナー参加者ならびに日本銀行スタッフから有 益なコメントを頂いた。また、日経メディアマーケティング株式会社には、同社のサービス「NEEDS」 から取得した国債価格データを利用して推定したゼロ・カーブ・データを公表することをご快諾頂いた。 ここに記して感謝したい。ただし、本稿に示されている意見は、筆者たち個人に属し、日本銀行の公式 見解を示すものではない。また、ありうべき誤りはすべて筆者たち個人に属する。 菊池健太郎 日本銀行金融研究所企画役補佐(E-mail: kentarou.kikuchi@boj.or.jp) 新谷幸平 日本銀行金融研究所(現 総務人事局)

(2)

1.はじめに

ゼロ・クーポン・イールド(以下、ゼロ・イールド)は、割引債の最終利回りと定 義され、将来のある1時点に発生するキャッシュ・フローの現在価値を求める際に 用いられる金利である。満期の異なるゼロ・イールドをつないだ曲線であるゼロ・ クーポン・イールド・カーブ(以下、ゼロ・カーブ)は、あらゆる金融商品の現在価 値を統一的に扱うことを可能とするだけでなく、異なる満期の金利間の比較等も可 能となるため、金利を用いた分析を行う研究者、アナリスト、政策立案者等にとっ て欠かせない基礎的データといえる。 仮に、任意の満期の債券が市場で取引されていれば、ゼロ・カーブを債券価格か ら計算することができる。しかし通常は、任意の満期の債券は取引されていないた め、ゼロ・カーブを得るためには、債券が取引されている年限のゼロ・イールドを 推定しつつ、取引されていない年限のゼロ・イールドを内挿する必要がある。割引 債が市場で取引されていれば、取引されている年限のゼロ・イールドは割引債の価 格から直接計算することが可能であり、あとは取引されていない年限のゼロ・イー ルドをどのように内挿するのかが問題となる。しかし、本邦国債市場をみると、割 引国債は取引されているものの、1年超の残存期間を有する割引国債の取引銘柄が 少ないため、本邦国債のゼロ・カーブを得ることは簡単ではない1。そこで、このよ うな場合は、国債のゼロ・カーブを割引国債の取引価格から求める代わりに、取引 されている年限の比較的多い利付国債の取引価格からゼロ・カーブを推定すること が必要となる2 先行研究では、債券の取引価格からゼロ・カーブを推定するさまざまな手法が提案 されてきた。代表的な手法として、①割引関数を区分多項式でモデル化する区分多 項式法(McCulloch [1971, 1975]、Steeley [1991]等)、②割引関数に特定の構造を仮 定しないノンパラメトリック法(Tanggaard [1997]等)、③割引関数を多項式でモデ ル化する多項式法(Schaefer [1981]等)、④ゼロ・イールドや瞬間フォワード・レー トに特定の関数形を仮定する関数形法(Nelson and Siegel [1987]、Svensson [1995]

等)を挙げることができる。金利を用いた分析を行うための基礎的データとしてゼ ... 1 日本では、現在、政府により発行されている割引債の満期は 1 年以下である。ただし、社債等振替法にお いて、2003 年 1 月 27 日以降に発行された、物価連動国債、個人向け国債を除く全ての固定利付国債に対 して、元金部分と利息部分の分離(いわゆる、ストリップス化)が可能となったことから、満期 1 年超の割 引国債をセカンダリー市場で取引することができるようになった。ただし、その市場流動性は、固定利付国 債と比べて乏しい現状がある。 2 わが国では、本邦国債の金利データを、各種情報ベンダーのほか、財務省のホームページからも入手可能 である。しかし、情報ベンダーが提供するゼロ・カーブは、筆者らの知る限り、推定手法の詳細は公開さ れていない。また、財務省が公表する金利は、固定利付国債の半年複利ベースの最終利回りであり、ゼロ・ イールドではない。このほか、研究者が、研究のために使用したデータ等がホームページ等で公開されてい ることがある。例えば、ジョナサン・ライト(Jonathan Wright、ジョンズホプキンス大学)は、日本を含め た各国のゼロ・カーブの月次ベースの推定値をホームページ上で公開しているが、本論中で扱う Svensson [1995]による関数形法に則って計算されているとの記載があるものの、データ・ソースについては明らか ではない。

(3)

ロ・カーブを推定する際、ここに挙げた推定手法のいずれかが用いられる。例えば、

Bank for International Settlements [2005]には、各国中央銀行が自国の国債のゼロ・ カーブを推定する際に用いる手法がまとめられており、上述の先行研究で提案され た手法のいずれかが使われていることがわかる。 本邦国債のゼロ・カーブの推定を行う場合、先行研究で提案されてきた推定手法 の中からやみくもに手法を選択し推定を行うと、日本のイールド・カーブの特徴を 捉えないカーブを推定してしまう可能性がある。さらに、そのようなゼロ・カーブ を用いて分析を行った結果、誤った結論を導いてしまうおそれがある。こうしたこ とを避けるため、本稿では、先行研究で提案されたさまざまなゼロ・カーブ推定手 法を比較し、本邦のイールド・カーブの特徴を的確に捉える推定手法を選択する。 複数のゼロ・カーブ推定手法について比較を行った先行研究には、英国債を対象に 行ったIoannides [2003]と豪州国債を対象に行ったKalev [2004]がある。しかし、国 ごとに国債市場の価格動向、市場慣行等が異なるため、上記の先行研究でよい推定手 法と結論付けられた手法であっても、本邦国債市場で同様の結論が得られるとは限 らない。本邦国債のゼロ・カーブの推定に関しては、小峰ほか[1989]、Oda [1996]、 乾・室町[2000]、川崎・安道[2002]等の先行研究やサーベイがあるが、このうち 複数の推定手法について比較を行っているものは小峰ほか[1989]のみである。当 該研究は、1980年代後半の本邦国債の価格データを用いて、5つの推定手法間の比 較を行っているが、1980年代と1990年代後半以降の本邦国債市場では、市場環境 が大きく異なる点に注意が必要である3。そこで本稿では、1999年から2010年の本 邦利付国債の価格データを用いて、先行研究で提案されてきた代表的な推定手法に ついて比較を行い、本邦国債のイールド・カーブの特徴を捉えるゼロ・カーブ推定 手法の選択を行う。 本稿の分析対象期間である1999年以降の本邦国債のイールド・カーブの特徴を みるうえで考慮しなければならないのが、ゼロ金利政策や量的緩和政策、そして、 2007年夏の金融危機の発生以降から現在までの緩和政策期である。この期間のイー ルド・カーブの特徴として、短期の年限のカーブがゼロ近傍で平坦な形状をとって いる点を挙げることができるが、推定手法によってはこのようなカーブの形状を捉 えることができず、推定金利がゼロを下回ってしまうことがある。したがって、本 邦国債のゼロ・カーブを推定する際、推定手法の妥当性を検討しておく必要性は高 いと考えられる。そこで本稿では、複数の推定手法から適切なものを選択する基準 を設定し、それに照らして最適な推定手法を1つ選択した。この点が、先行研究に はない特徴である。具体的にはまず、①ゼロ・イールドの推定値がゼロを下回らな いことと、②異常値をとらないことに照らして不適切な推定手法を排除する。次に、 残った推定手法の中から、③国債の取引価格との適合性の高さと④ゼロ・カーブの ... 3 水準やカーブの形状といった金利の期間構造そのものの違いのほか、市場慣行についてみると、1980 年代 には、指標銘柄と呼ばれる市場で指標的な役割を果たしている銘柄が存在し、当該銘柄に対する集中的な取 引があったが、それ以外の銘柄の市場流動性は乏しかった。1990 年代半ばから指標銘柄への取引の集中度 が低下していくにつれ、1990 年代後半には指標銘柄と呼ばれる銘柄はみられなくなった。

(4)

凹凸が小さいという点に照らして望ましい推定手法を1つ選択するというプロセス をとる。このように選択を行った結果、Steeley [1991]による手法が選択された。 本稿の構成は以下のとおりである。まず2節で、ゼロ・カーブ推定手法の分類と 解説を行う。次に3節で、ゼロ・カーブ推定手法の選択基準を提示し、そのもとで、 先行研究で提案された幾つかの代表的な推定手法について比較を行う。4節では、本 邦国債市場に適用した場合のSteeley [1991]による手法の特徴について、他の推定手 法との比較によって明らかにする。最後に5節で、本稿のまとめを行う。 なお本稿では、読者が推定手法を再現するうえでの参考情報として、補論1では、 キャッシュ・フロー発生時点の定義、当該時点までの日数の計算方法や経過利子の 計算方法をはじめとする、理論価格の計算に必要となる本邦国債市場の慣行を整理 する。また、補論2では、Steeley [1991]による手法の推定アルゴリズムの詳細を解 説する。さらに、参考のため、Steeley [1991]の手法によって推定した、1999年1月 から2011年12月までの日次ベースのゼロ・カーブのデータを作成した4

2.ゼロ・カーブ推定手法の分類と解説

本節ではまず、ゼロ・イールドやゼロ・カーブの定義等、本稿で必要となる金利 に関する基本事項をまとめる。次に、推定手法の妥当性を考える前提として、ゼロ・ カーブの推定結果として望ましくないと考えられる性質についてまとめる。そして、 ゼロ・カーブ推定手法に関する先行研究のうち、代表的な手法について解説を行う。 そのうえで、望ましくないゼロ・カーブを推定せず、債券の取引価格を的確に表現 するゼロ・カーブを推定するという観点から、推定手法の性質を「自由度」と「局 所性」という2つの概念に基づき整理する。

(1)金利に関する基本事項

現在時点をtとし、時点Tで1のキャッシュ・フローが確実に支払われる債券(割 引債と呼ぶ)の現在価値をZ (t, T)とする。すると、tからT までのゼロ・イールド y (t, T)は、 y (t, T)= 1 T − t log (Z (t, T)), (1) と、割引債の最終利回りとして定義される。 本稿では、特定の年限のゼロ・イールドだけではなく、異なる年限のゼロ・イー ルド間の比較分析等への活用可能性を念頭に置き、任意の年限のゼロ・イールドを ... 4 同 デ ー タ は 、菊 池・新 谷[2012]の 付 録 デ ー タ と し て 、日 本 銀 行 金 融 研 究 所 ホ ー ム ペ ー ジ 上 (http://www.imes.boj.or.jp/research/papers/japanese/12-J-03.txt)に掲載されている。

(5)

推定する。すなわち、満期の異なるゼロ・イールドを連続的につないだ曲線である ゼロ・カーブを推定する。具体的には、t時点でのゼロ・カーブは、ゼロ・イールド の満期時点までの時間xの関数として、 y (t, t+x), (2) と記述され、時点tにおけるxに関する曲線y (t, t+x)を推定することになる。な お、ゼロ・カーブの推定に関する先行研究では、2節(4)で後述するように、t時点 での期間x年に対応する割引率Z (t, t+x)を関数形等でモデル化するが、以下では、 Z (t, t+x)xの関数として割引関数と呼ぶ場合がある。 ゼロ・カーブが得られると、瞬間スポット金利と呼ばれる、時点tでの瞬間の金 利を計算することができる。時点tでの瞬間スポット金利r (t)は、 r (t)=lim x→0y (t, t+x), (3) と定義される。 さらに、ゼロ・カーブが得られると、インプライド・フォワード・レートと呼ば れる金利を計算することができる。インプライド・フォワード・レートとは、現在 時点で定義される将来時点からある一定期間の金利である。具体的には、現在時点 tより先の時点S から時点T(ただし、S < T)までの、t時点でのインプライド・ フォワード・レートは、T 時点における1のキャッシュ・フローを時点Sまでイン プライド・フォワード・レートで割り引き、さらにそれを、時点tから時点Sまで のゼロ・イールドで割り引いた値と、T 時点における1のキャッシュ・フローを時 点tからTまでのゼロ・イールドで割り引いた現在価値とが等しい値をとるように 定まるものである。すなわち、時点tにおける時点S から時点T までのインプライ ド・フォワード・レート f (t, S, T)は、

Z (t, T)=exp (− f (t, S, T)(T − S )) exp (−y (t, S )(S − t)), (4)

が成り立つように定まるものである。したがって、(1)式と(4)式から、インプライ ド・フォワード・レート f (t, S, T)は、 f (t, S, T)= 1 T − S log  Z (t, T) Z (t, S )  , (5) と、時点tでの割引債価格を用いて計算される。また、時点tからみた時点S での 瞬間的なフォワード・レート f (t, S )は、

(6)

f (t, S )= lim T→S f (t, S, T) =− limT→S 1 T− S log  Z (t, T) Z (t, S )  =∂Slog (Z (t, S )), (6) と定義され、瞬間フォワード・レートと呼ばれる。(6)式とZ (S, S )=1から、割引 関数Z (t, t+x)と瞬間フォワード・レートには、次の関係が成り立つ。 Z (t, t+x)=exp   x 0 f (t, t+s) ds  . (7) また、(1)式と(7)式から、ゼロ・イールドと瞬間フォワード・レートには、 y (t, t+x)=1 x  x 0 f (t, t+s) ds, (8) との関係が成り立つ。

(2)望ましくないゼロ・カーブ

ゼロ・カーブの推定には、推定に用いる債券の取引価格を十分に捉える推定手法 を用いたい。取引価格をうまく捉えることができない推定手法によりゼロ・カーブ を推定してしまうと、ゼロ・カーブは債券価格が内包する情報を十分に反映しない おそれがある。したがって、このようなゼロ・カーブを用いて金利分析を行った場 合、誤った結論を導いてしまう可能性がある。一方、取引価格を十分に捉える推定 手法という観点だけで手法を選択し、ゼロ・カーブを推定してしまうと、内挿が適切 でないといった「望ましくない」ゼロ・カーブを推定してしまう可能性がある。こ こでは、推定手法によっては得られる可能性のある「望ましくない」ゼロ・カーブ とはどのようなものかを示すことにする。

イ.ゼロ金利制約の抵触

推定されるゼロ・カーブは名目金利であるため、図1のように、一部の年限でゼロ を下回るゼロ・カーブが推定されてしまう場合は、望ましい推定結果とはいえない。

ロ.過剰なゼロ・カーブの凹凸

推定されるゼロ・カーブがゼロを下回らない推定手法であっても、推定手法特有 の性質等によって、ゼロ・カーブの凹凸が大きくなる場合がある。 図2は、一部の年限の割引債が市場で取引されているという仮定のもと、割引債

(7)

図 1  ゼロ金利制約を満たさないゼロ・カーブ(概念図) 残存期間 ゼロ 図 2  ゼロ・カーブの凹凸(概念図) 10年 A 9年 11年 残存期間 B 備考:○は割引債の取引価格から計算されるゼロ・イールドを表す。また、□は推定手法Aによ るゼロ・イールド推定値、△は推定手法Bによるゼロ・イールド推定値を表す。 の取引価格データを用いて、2つの推定手法によってゼロ・カーブを推定し、両手 法により得られるゼロ・カーブの凹凸の違いを示した概念図である。図2では、推 定手法Aも推定手法Bも、取引価格への適合度は高い。しかし、Bのカーブの凹凸 はAと比べて大きくなっている。Bのカーブは、近接する年限のゼロ・イールドの 水準は大きくは乖離しないというゼロ・カーブの特徴に照らして不自然である可能

(8)

図 3  推定ゼロ・カーブの異常値(概念図) 残存期間 性が高い。このようなゼロ・カーブの過剰な凹凸は、債券価格が内包する情報を反 映した結果というより、推定手法特有の性質により生じたものである可能性が考え られる。したがって、推定手法Bのような凹凸の非常に大きなゼロ・カーブを用い て金利の分析等を行うと、誤った結果を導いてしまうおそれがある。このため、ゼ ロ・カーブの性質として、図2の推定手法Bのように、凹凸の大きいゼロ・カーブ を推定してしまう推定手法は望ましいとはいえないだろう。

ハ.異常値

推定手法によっては、異常値といえる、過大もしくは過小な値をとるゼロ・イー ルドが推定されてしまうことがある。その原因として、推定手法の表現力が乏しく、 債券の取引価格への適合が悪いことによって生じる場合と、取引価格への適合が過 剰となる、いわゆる過剰適合によって生じる場合の2つの可能性が考えられる。 図3は、異常値を持つゼロ・カーブの例を示した概念図である。この図のカーブ では、短期の年限の一部で、金利が過大な値として推定されてしまっている。この ような問題は推定手法の特性によって生じており、債券価格が内包する情報を反映 したものとはいえない。

(3)本稿で利用する記号等の定義

本節(4)で先行研究の内容を説明する前に、あらかじめ、本稿で利用する記号を準 備しておく。

(9)

これ以降は簡単のため、推定を行う時点をt=0とし、各時点をt=0からの年数 で表すこととする。また、割引関数Z (0, x)、ゼロ・カーブy (0, x)、および瞬間フォ ワード・レート f (0, x)を、それぞれ、Z (x)y (x)f (x)と簡略化して表記すること とする。 次に、市場で取引されている固定利付債に関する記号を定義する。推定日(t=0) 以前に発行された全ての銘柄をi (i∈ {1, . . . , nname})とし、銘柄iの額面をNi、クー ポン・レート(年率)をciと置く。また、銘柄iの全てのキャッシュ・フロー発生時 点を、t=0からの年数として、Ti={Ti 1, . . . , T i ni c f} と表す。ここで、nic f は、銘柄it=0以降に発生するキャッシュ・フローの数を表している。また、k< lならば Tki < Tliとしている。さらに、t=0以前に発行された全ての銘柄に関してTiの和を とった集合をTとする。すなわち、 T= nname i=1 Ti:={T 1, . . . , Tnc f}, Tj= min i∈{1, ..., nname} 1≤k≤ni c f {Ti k; T i k> Tj−1}, T1= min i∈{1, ..., nname} 1≤k≤ni c f Tki, と置く。 続いて、現在時点(t=0)で市場取引が行われている銘柄に関する記号を定義する。 まず、現在時点において市場取引が行われている銘柄をI={v1, . . . , vnI}とする。さ らに、各銘柄の現時点での取引価格(裸値とする)をP= (Pv1, . . . , PvnI)T、売買時の経 過利子をA= (Av1, . . . , AvnI)Tとする5。また、¯P=P+Aと置き、¯P= ( ¯Pv1, . . . , ¯PvnI)T とする。ここで、添え字のTは転置を表す(以下、断りの無い限り同様の扱いとす る)。なお、経過利子の計算方法等の詳細については補論1(4)ロ.を参照されたい。 次に、ゼロ・カーブ推定時点における、銘柄viの理論価格を表すための記号を準 備する。まず、銘柄viのキャッシュ・フローに関するベクトル¯cviを以下のように 定義する6 ¯cvi=g (cvi, Nvi, T 1), . . . , g (cvi, Nvi, Tj), . . . , g (cvi, Nvi, Tnc f) T , g (cvi, Nvi, T j)= ⎧⎪⎪ ⎪⎪⎪⎪⎪ ⎪⎨ ⎪⎪⎪⎪⎪ ⎪⎪⎪⎩ cviNvi 2 if Tj∈ T vi, T j Tnvvii c f cviNvi 2 +N vi if T j=Tvi nvic f 0 otherwise . ¯cvin c f × 1のベクトルである。¯cviの第 j成分を¯cvjiと置くと、推定日時点での銘 ... 5 P および A は現在時点に依存することに注意が必要である。ここでは、簡単のため、現在時点 t = 0 を省 略して記述している。また、後述するモデル・パラメータα も現在時点に依存する変数である。 6 2001年 3 月以後に発行された固定利付債については、ここで示したようにキャッシュ・フローが定まるが、 2001年 3 月以前に発行された固定利付債については、若干異なる形で定まる。詳細は補論 1(4)イ. を参照 のこと。

(10)

viの経過利子を考慮した理論価格Qviは、 Qvi = nc f  j=1 ¯cvi jZ (Tj), (9) と書ける。 次の2節(4)では、ゼロ・カーブ推定に関する主な先行研究の概要を解説する。そ こでは直接的にせよ間接的にせよ、割引関数Z (x)をパラメータαの関数としてモ デル化する。以下では、この点を強調するために、割引関数Z (x)Z (x;α)と書 く場合がある。割引関数がパラメータαに依存して決まるため、(9)式から、各銘 柄の理論価格もαに依存して決定される。そこで、銘柄viの理論価格をQvi(α)と 記述し、t = 0で取引されている全銘柄の理論価格をまとめてベクトルの形式で、 Q (α)= (Qv1(α), . . . , QvnI(α))Tと書くことにする。

(4)先行研究で提案された主な推定手法

債券の取引価格からゼロ・カーブを推定するためには、割引関数Z (x)をどのよう にモデル化するのかが論点となる。先行研究で提案された割引関数Z (x)のモデル 化の方法はほとんどの場合、①区分多項式を利用する方法、②割引関数をノンパラ メトリックに推定する方法、③多項式関数を利用する方法、④割引関数に多項式以 外の特定の関数形を仮定する方法のいずれかに分類される。3節(3)では、妥当なゼ ロ・カーブ推定手法の選択を行うが、本節では3節(3)で選択対象となる推定手法の 概要を説明する。 なお、ゼロ・カーブの推定に際しては、割引関数Z (x)のモデル化のほか、パラ メータを決定するための目的関数を設定する必要がある。先行研究の中には、銘柄 ごとに取引価格とモデルから推定される理論価格の残差の二乗の単純な総和ではな く、残差の二乗に銘柄ごとに何らかの重みをつけて総和をとったものを目的関数と しているものがある。例えば、Bank for International Settlements [2005]をみると、カ ナダ銀行やスペイン銀行等では、デュレーションの逆数の二乗で残差の二乗を重み 付けして総和をとったものを目的関数としている。この目的関数は、長期債よりも 短期債の価格適合性を重視するものである。ただし、本稿では本邦の固定利付国債 (2、5、10、20、30年債)をゼロ・カーブの推定に用いるため、長期債よりも短期債 の銘柄数が多くなっており、さらにデュレーションの逆数の二乗で重み付けをした 残差二乗和を目的関数とすると、長期債への価格適合が過小となる懸念がある。し たがって、本稿では重み付けは行わず、McCulloch [1975]やSteeley [1991]をはじめ 多くの先行研究で用いられている、取引価格と理論価格の単純な残差二乗和を目的 関数とする。また、乾・室町[2000]139頁で指摘されているように、目的関数を 取引価格と理論価格の単純な残差二乗和とすると、銘柄ごとの残差に不均一分散の

(11)

傾向があらわれる可能性がある。これへの対応として、銘柄ごとの残差に何らかの 重みを付けた関数を目的関数とすることも考えられる。しかし、重みの付け方次第 では、不均一分散が解消されない可能性があるだけでなく、銘柄によっては価格適 合度が低くなる懸念もある。この点も考慮し、本稿では目的関数を取引価格と理論 価格の単純な残差二乗和とする。 また、先行研究の中には、滑らかな瞬間フォワード・レートの期間構造を有する ゼロ・カーブを推定することを目的として、取引価格と理論価格の残差二乗和に瞬 間フォワード・レートの期間構造の曲率に関する罰則項を課した関数を目的関数と しゼロ・カーブの推定を行う、いわゆる平滑化推定を行っているものがある(Fisher, Nychka, and Zervos [1995]、Waggoner [1997]、Jarrow, Ruppert, and Yu [2004]等)。こ のような目的関数に則って推定を行うと、瞬間フォワード・レートの期間構造は滑 らかになるが、その分、価格適合性は失われることになる。また平滑化手法は、価 格適合性の悪化に加え、滑らかさを定める基準の選択等、恣意性の入る余地がある。 そこで本稿では、これらの点を踏まえ、3節での分析対象に平滑化推定法は含めず、 平滑化をあえて行わなくても、比較的滑らかなゼロ・カーブが得られるモデルを選 択する方針をとることにする。 以上を踏まえ、本節においては、平滑化推定法は取り上げず、解説を行う手法の 目的関数は取引価格と理論価格の残差二乗和として議論を進める。

イ.区分多項式関数を利用する手法(区分多項式法

7

ここでは、割引関数のモデル化に、区分多項式関数を利用することを提案した先 行研究について紹介する。先行研究では、割引関数をモデル化する方法として主に、 割引関数を直接モデル化する方法、瞬間フォワード・レートをモデル化することで、 割引関数を間接的に定める方法等が提案されている。 まず、区分多項式関数を定義する。そのためには、節点と呼ばれる点列を設定し なければならない。節点とは、 um≤ um+1≤ · · · ≤ un−1≤ un, という点列である。ここで、mnは整数である。節点が定まると、整数 jに対し て、l次の区分多項式関数B ( j, x)は、実数xに関して連続で、隣接する節点の小区 間[uh, uh+1] (m≤ h ≤ n − 1)や(−∞, um]、[un, ∞)上でl次多項式となる関数を意味 する。 ... 7 先行研究では、割引関数がスプライン関数と呼ばれる区分多項式によってモデル化される場合が多いので、 スプライン関数法とも呼ばれる。l 次のスプライン関数とは、l− 1 階までの導関数が連続となる区分多項 式である。

(12)

割引関数を直接モデル化する手法

(イ)McCulloch [1975] の方法 McCulloch [1975]は、割引関数Z (x)を区分多項式関数の線形結合としてモデル化 した。まず節点を、0=u−1 =u0 =u1 < u2 < · · · < unknot となるようにとる。その うえで、McCulloch [1975]は、区分多項式B (k, x) (k=0, . . . , nknot)を、以下の(10) 式で示すxに関する3次区分多項式と定義した。 k nknotに対して B (k, x)= ⎧⎪⎪ ⎪⎪⎪⎪⎪ ⎪⎪⎪⎪⎪ ⎪⎪⎪⎪⎪ ⎪⎪⎪⎪⎪ ⎪⎪⎨ ⎪⎪⎪⎪⎪ ⎪⎪⎪⎪⎪ ⎪⎪⎪⎪⎪ ⎪⎪⎪⎪⎪ ⎪⎪⎪⎪⎩ 0, x≤ uk−1, (x− uk−1)3 6 (uk− uk−1), uk−1< x ≤ uk, (uk− uk−1)2 6 + (uk− uk−1)(x− uk) 2 +(x− uk)2 2 (x− uk)3 6 (uk+1− uk), uk< x ≤ uk+1, (uk+1− uk−1)( 2uk+1− uk− uk−1 6 + x− uk+1 2 ), uk+1< x, k=nknotに対してB (k, x)=x. (10) McCulloch [1975]は、割引関数Z (x)を、(10)式で定義された区分多項式の線形結 合として次のように表現した。 Z (x)=1+ nknot  k=0 B (k, x) αk. (11) ここで、割引関数の本来の性質から、Z (0)=1が成り立たなければならないが、 (10)式よりB (k, 0)=0 (k=0, . . . , nknot)となるため、(11)式のように割引関数をモ デル化することに非整合な点は生じない。 (11)式を(9)式に代入すると、銘柄viの理論価格Qviは、パラメータα= (α0, α1, . . . , αnknot) Tの関数として以下のように表現される。 Qvi(α)= ⎛ ⎜⎜⎜⎜⎜ ⎜⎜⎝ nc f  j=1 ¯cvi j ⎞ ⎟⎟⎟⎟⎟ ⎟⎟⎠ + nknot  k=0 ⎛ ⎜⎜⎜⎜⎜ ⎜⎜⎝ nc f  j=1 ¯cvi jB (k, Tj) ⎞ ⎟⎟⎟⎟⎟ ⎟⎟⎠ αk= ⎛ ⎜⎜⎜⎜⎜ ⎜⎜⎝ nc f  j=1 ¯cvi j ⎞ ⎟⎟⎟⎟⎟ ⎟⎟⎠ + (¯cvi)TBα. (12) ここでBは、( j, k)成分がB (k, Tj)のnc f × (nknot+1)行列である。また、¯cviは第

(13)

j成分が¯cvi jnc f × 1のベクトルである。 本節の冒頭で述べたように、本稿のゼロ・カーブ推定では、目的関数を債券の取 引価格と理論価格の残差二乗和とする。この場合のパラメータαの推定値αˆ は、以 下の最適化問題の解として求められる。 ˆ α=arg min α  ˜P − ˜Q (α)T ˜P − ˜Q (α) , (13) ˜P:= ( ¯Pv1 nc f  j=1 ¯cv1 j , . . . , ¯P vnI nc f  j=1 ¯cvnI j ) T, ˜Q (α) := (Qv1(α) − nc f  j=1 ¯cv1 j, . . . , Q vnI(α) − nc f  j=1 ¯cvnI j ) T. ˜Q (α)はαに関する線形関数であるので、(13)式は、最小二乗最適化問題として 捉えることができる。したがって、パラメータαの最適解αˆ は、 ˆ α= ( (¯cB)T¯cB)−1(¯cB)T˜P, (14) となる。ここで¯cを¯c= (¯cv1, . . . , ¯cvnI)Tと置いた。¯cnI× nc f の大きさの行列であ る。また、X−1は正方行列Xの逆行列を表す。 以下では、本手法を「割引率をモデル化するMcCulloch [1975]の方法」と呼ぶ場 合がある。 (ロ)Steeley [1991] の方法 Steeley [1991]は、McCulloch [1975]と同様、割引関数Z (x)を区分多項式関数の 線形結合として表現した。しかし、割引関数Z (x)について、以下の(15)式で表現 した点が異なる。 Z (x)= nknot−1 k=−3 B (k, x) αk. (15) また、Steeley [1991]では、区分多項式関数B (k, x)として、McCulloch [1975]と は異なる関数形を用いることを提案した。まず、B (k, x)の定義のために、節点を u−3< · · · < unknot < unknot+1< unknot+2< unknot+3と置く。そのうえで、B (k, x)は、以下

(14)

D=1のとき B (k, x)=BD(k, x) := ⎧⎪⎪ ⎪⎨ ⎪⎪⎪⎩10, uotherwisek≤ x < uk+1, D> 1のとき B (k, x)=BD(k, x) = uD+k− x uD+k− uk+1 BD−1(k+1, x)+ x− uk uD+k−1− uk BD−1(k, x). (16) (16)式の関数はBスプライン関数と呼ばれている。Steeley [1991]では、D = 4 とし、区分多項式関数として3次関数を扱うモデルを提案した。ここで、(15)式と Z (0)=1より、 nknot−1 k=−3 B (k, 0) αk=1, (17) が成り立たなければならないことに注意が必要である。 (15)式を(9)式に代入すると、銘柄viの理論価格Qviは以下のように表現される。 Qvi(α)= nc f  j=1 ¯cvi j ⎛ ⎜⎜⎜⎜⎜ ⎜⎝ nknot−1 k=−3 B (k, Tjk ⎞ ⎟⎟⎟⎟⎟ ⎟⎠= nknot−1 k=−3 ⎛ ⎜⎜⎜⎜⎜ ⎜⎜⎝ nc f  j=1 ¯cvi jB (k, Tj) ⎞ ⎟⎟⎟⎟⎟ ⎟⎟⎠ αk =(¯cvi)TBα. (18) ここでBは、( j, k)成分がB (k, Tj)のnc f × (nknot+3)行列である。 (17)式と(18)式から、パラメータαは次の制約条件付きの最小二乗最適化問題の 解として推定される。 ˆ α=arg min α  ( ¯P − Q (α))T( ¯P − Q (α)) , s.t. nknot−1 k=−3 B (k, 0) αk=1. (19) これを解くと、最適解αˆは下の(20)式となる。 ˆ α=(¯cB)T¯cB−1 (¯cB)T¯P+1− B T 0  (¯cB)T¯cB−1(¯cB)T¯P BT 0(¯cB)T¯cB−1B0  (¯cB)T¯cB−1B0. (20)

(15)

ここで、B0= (B (−3, 0), . . . , B (nknot− 1, 0))Tと置いている。

以下では、本手法を「割引率をモデル化するSteeley [1991]の方法」と呼ぶ場合が ある。なお、本手法の推定アルゴリズムの詳細は補論2でまとめている。

瞬間フォワード・レートをモデル化する手法

(ハ)Fisher, Nychka, and Zervos [1995] の方法

Fisher, Nychka, and Zervos [1995]は、割引関数Z (x)、ゼロ・イールドy (x)および 瞬間フォワード・レート f (x)を区分多項式関数でそれぞれモデル化する場合のゼ ロ・カーブの推定方法について一般的な形式で整理した。本稿では、その中で f (x) を直接モデル化する場合について解説する8

Fisher, Nychka, and Zervos [1995]は、瞬間フォワード・レート f (x)を以下のよう に、区分多項式関数の線形結合としてモデル化した。 f (x)= n  k=m B (k, x) αk. (21) ここでB (k, x)は、ある区分多項式関数とする。 (7)式と(21)式を用いると、割引関数は以下のように表現される。 Z (x)=exp   x 0 f (s) ds  =exp ⎛ ⎜⎜⎜⎜⎜ ⎜⎝−  x 0 n  k=m B (k, s) αkds ⎞ ⎟⎟⎟⎟⎟ ⎟⎠ =exp ⎛ ⎜⎜⎜⎜⎜ ⎜⎝− n  k=m (  x 0 B (k, s) ds) αk ⎞ ⎟⎟⎟⎟⎟ ⎟⎠=exp ⎛ ⎜⎜⎜⎜⎜ ⎜⎝− n  k=m ¯ B (k, x) αk ⎞ ⎟⎟⎟⎟⎟ ⎟⎠ , ¯ B (k, x) :=  x 0 B (k, s) ds. (22) (22)式を(9)式に代入すると、理論価格Qvi は以下のように書ける。 Qvi(α)= nc f  j=1 ¯cvi j exp ⎛ ⎜⎜⎜⎜⎜ ⎜⎝− n  k=m ¯ B (k, Tjk ⎞ ⎟⎟⎟⎟⎟ ⎟⎠ = (¯cvi)Texp (− ¯Bα), exp (− ¯Bα) := ⎛ ⎜⎜⎜⎜⎜ ⎜⎝exp (− n  k=m ¯ B (k, T1)αk), . . . , exp (− n  k=m ¯ B (k, Tnc fk) ⎞ ⎟⎟⎟⎟⎟ ⎟⎠ T . (23) ...

8 Fisher, Nychka, and Zervos [1995]の主たる目的は、滑らかな瞬間フォワード・レートの期間構造を推定する ことにあり、平滑化推定を行っている。しかし、本節の冒頭でも述べたとおり、3 節での分析対象に平滑化 推定法は取り上げない。そこで、ここでの Fisher, Nychka, and Zervos [1995] によるモデルの解説は、当該 研究の目的関数とは異なるが、理論価格と取引価格の単純な残差二乗和を目的関数として話を進める。

(16)

ここで、¯Bj, k=B (k¯ , Tj)である。

Qvi(α)αに関して非線形関数であるため、αの最適解を求めるためには、一般的

には非線形最適化問題を解くことが必要となる。しかし、Fisher, Nychka, and Zervos [1995]は、(23)式を任意の点α=α0の周りで1次テイラー近似を行うことで、最適 化問題の簡単化を図った。具体的には、Qvi(α)を以下のように近似した9 Qvi(α) ≈ (¯cvi)T  exp (− ¯Bα0) + ∂ ∂αexp (− ¯Bα)α=α0 (α − α 0)  =Qvi(α0) +(¯cvi)T ∂ ∂αexp (− ¯Bα)α=α0 (α − α 0 ) =Qvi(α0) − (¯cvi)T¯B ∗exp (− ¯Bα0)1T (α − α0). (24) ここで1は、1= (1, . . . , 1)T(n− m+1)次元ベクトルである。または同次元 のベクトルまたは行列の成分同士の積を計算することを表すとする。ここで、 Xvi(α0)=− (¯cvi)T¯B ∗exp (− ¯Bα0)1T , Yvi(α0)=P¯vi − Qvi(α0) +Xvi(α0)α0, (25) と置くと、(23)式を任意の点α=α0の周りで上述のように近似した時の最適解α (αˆ 0) は、以下の最適化問題の解となる。 ˆ α (α0)=arg min α  Y (α0) − X (α0)αTY (α0) − X (α0)α , X (α0) := (Xv1(α0), ..., XvnI(α0))T, Y (α0) := (Yv1(α0), ..., YvnI(α0))T. (26) なお、(26)式の最適化問題では割引関数に関する制約条件Z (0)=1を考慮する必 要がない。なぜなら、(22)式から、 Z (0)=exp ⎛ ⎜⎜⎜⎜⎜ ⎜⎝− n  k=m ¯ B (k, 0) αk ⎞ ⎟⎟⎟⎟⎟ ⎟⎠=exp ⎛ ⎜⎜⎜⎜⎜ ⎜⎝− n  k=m 0× αk ⎞ ⎟⎟⎟⎟⎟ ⎟⎠=1, が成り立つためである。したがって、(26)式は制約条件の無い最小二乗問題として 解くことができ、 ˆ α (α0)=X (α0)TX (α0)−1X (α0)TY (α0), (27) となる。ただし、この解はテイラー近似を行う点α=α0に依存する。そこで、Fisher, ... 9 原論文では、(24) 式に相当する数式に誤りがみられる。

(17)

Nychka, and Zervos [1995]では、(27)式で得られたα (αˆ 0)(この点をα1とする)の

周りで再び(24)式のようにQvi(α)のテイラー近似を行い、(27)式を用いて最適解 ˆ

α (α1) ≡ α2を計算し、さらにα2に関しても同様の操作を繰り返して、最適解α (αˆ i) が収束する点をパラメータの最適解とすることを提案している。

以上が、Fisher, Nychka, and Zervos [1995]で提案された推定手法であるが、具体 的な推定においては、(21)式における区分多項式関数B (k, x)を定めなければなら ない。3節(3)で推定手法の選択を行ううえで選択対象とする推定手法としては、① McCulloch [1971]で提案された区分2次多項式10B (k, x)として用いる手法(以 下、瞬間フォワード・レートをモデル化するMcCulloch [1971]モデルと呼ぶ場合が ある)、②Steeley [1991]の2次のBスプライン関数((16)式でD=3の場合)を B (k, x)として用いる手法(以下、瞬間フォワード・レートをモデル化するSteeley [1991]モデルと呼ぶ場合がある)を対象とする。①、②はいずれも、本節(4)イ.(イ) や(ロ)の割引関数を直接モデル化する場合と同様に、割引関数は3次関数となる。

ロ.割引関数をノンパラメトリックに推定する方法(ノンパラメトリック法)

(イ)Tanggaard [1997] の方法 Tanggaard [1997]は、本節(4)イ.でみたような区分多項式関数で割引関数を表す ことはせず、個々の期間に対応する割引関数をそれぞれ1つのパラメータでモデル 化した11。すなわち、理論価格Qvi(α)を以下のように表現した。 Qvi = nc f  j=1 ¯cvi jαj= (¯c vi)Tα, α j=Z (Tj). (28) 理論価格Qvi(α)αに関して線形関数であるため、最適解αˆ は以下の(29)式を 解くことで得られる。 min α  ( ¯P − Q (α))T( ¯P − Q (α)). (29) これを解くと、最適解αˆ は、 ˆ α= (¯cT¯c)−1¯cT¯P, (30) となる。ここで¯c= (¯cv1, . . . , ¯cvnI)Tである。 ... 10 (10)式を x に関して微分した関数(McCulloch [1971] 参照)。

11ノンパラメトリック法として、ここで紹介する Tanggaard [1997] 以外にも、Carleton and Cooper [1976] や Houglet [1980]等がある。

(18)

なお、上述の方法によって推定されるのは、債券のキャッシュ・フロー発生時点 までの期間の割引関数の値のみである。したがって、ゼロ・カーブを得るためには、 キャッシュ・フローが発生しない時点までの期間の割引関数の値を何らかの方法で 補間して求める必要がある。

ハ.多項式を利用する手法(多項式法)

(イ)Schaefer [1981] の方法 Schaefer [1981]は、割引関数Z (x)をバーンスタイン多項式と呼ばれる多項式の線 形結合の形で表現した。まず、D次のバーンスタイン多項式BD(k, x)とは、以下の ように定義される多項式である。 BD(k, x)= D−k  j=0 (−1)j+1 ⎛ ⎜⎜⎜⎜⎜ ⎝D− kj ⎞ ⎟⎟⎟⎟⎟ ⎠x k+ j k+ j, k > 0, ⎛ ⎜⎜⎜⎜⎜ ⎝D− kj ⎞ ⎟⎟⎟⎟⎟ ⎠ :=(D(D− k − j) ! j!− k) ! , BD(0, x)=1. (31) このバーンスタイン多項式を用いてSchaefer [1981]は、割引関数Z (x)をバーン スタイン多項式の線形結合で以下のように表現した。 Z (x)= D  k=0 BD(k, x) αk. ここで、Z (0)=1とBD(k, 0)=0, k > 0からα0 =1である。したがって、上式 は以下のように表現できる。 Z (x)= D  k=0 BD(k, x) αk=1+ D  k=1 BD(k, x) αk. (32) (32)式を(9)式に代入すると、銘柄viの理論価格Qviは、パラメータα= (α1, . . . , αD)T の関数として以下のように表現される。 Qvi(α)= ⎛ ⎜⎜⎜⎜⎜ ⎜⎜⎝ nc f  j=1 ¯cvi j ⎞ ⎟⎟⎟⎟⎟ ⎟⎟⎠ + D  k=1 ⎛ ⎜⎜⎜⎜⎜ ⎜⎜⎝ nc f  j=1 ¯cvi jBD(k, Tj) ⎞ ⎟⎟⎟⎟⎟ ⎟⎟⎠ αk= ⎛ ⎜⎜⎜⎜⎜ ⎜⎜⎝ nc f  j=1 ¯cvi j ⎞ ⎟⎟⎟⎟⎟ ⎟⎟⎠ +(¯cvi)TBα. (33) ここで、Bは( j, k)成分がBD(k, Tj)のnc f × D行列である。

(19)

(33)式より、最適なパラメータαˆ は、以下の最小二乗問題を解くことにより得ら れる。 ˆ α=arg min α  ˜P − ˜Q (α)T ˜P − ˜Q (α), (34) ˜P:= ( ¯Pv1 nc f  j=1 ¯cv1 j , ..., ¯P vnI nc f  j=1 ¯cvnI j ) T, ˜Q (α) := (Qv1(α) − nc f  j=1 ¯cv1 j, ..., Q vnI(α) − nc f  j=1 ¯cvnI j ). したがって、最適解αˆ は、 ˆ α= ( (¯cB)T¯cB)−1(¯cB)T˜P, (35) となる。

ニ.瞬間フォワード・レートに特定の関数形を仮定する手法(関数形法)

(イ)Nelson and Siegel [1987] の方法

Nelson and Siegel [1987]は、瞬間フォワード・レート f (x)をモデル化するうえで、 下の(36)式のように、パラメトリックな関数を使った。 f (x)=α0+α1exp  αx 3  +α2 x α3 exp  αx 3  . (36) (8)式と(36)式から、ゼロ・カーブy (x)は以下のように計算される。 y (x)=1 x  x 0 f (s) ds=α0+α1  1− exp (−x/α3) x/α3  +α2  1− exp (−x/α3) x/α3 − exp  αx 3   . (37)

ここで、銘柄viの理論価格Qviは(9)式で表現されるが、Nelson and Siegel [1987] の方法では、割引関数Z (x;α)は、(37)式の形からわかるようにパラメータα := (α0, α1, α2, α3)Tの非線形関数となるため、最適解αˆを求めるには、以下の非線形最 適化問題を解くことになる。 ˆ α=arg min α  ( ¯P − Q (α) )T( ¯P − Q (α)). (38)

(20)

(ロ)Svensson [1995] の方法

Svensson [1995]は、瞬間フォワード・レートのモデル化に際し、Nelson and Siegel

[1987]で提案された関数形((36)式参照)に新たな項を追加し、瞬間フォワード・ レート f (x)の表現力の向上を図った。具体的には、f (x)を以下の関数形でモデル 化した。 f (x)=α0+α1exp  x α3  +α2 x α3 exp  x α3  +α4 x α5 exp  x α5  . (39) (39)式から、ゼロ・イールドy (x)は以下のように計算される。 y (x) = 1 x  x 0 f (s) ds=α0+α1  1− exp (−x/α3) x/α3  +α2  1− exp (−x/α3) x/α3 − exp  x α3   +α4  1− exp (−x/α5) x/α5 − exp  x α5   . (40) (40)式から、Nelson and Siegel [1987]の方法と同様に、銘柄viの理論価格Qviは パラメータの非線形関数となるので、パラメータ推定は非線形最適化問題を解くこ とになる。

(5)推定手法の自由度と局所性

本節(2)では、一般的に望ましくないと考えられるゼロ・カーブを示したが、ここ では、望ましくないゼロ・カーブを排除し、望ましいゼロ・カーブを推定する方法 を選択するうえで有用な観点として、推定手法の「自由度」と「局所性」という2つ の概念を導入し、これに基づいて各種のゼロ・カーブ推定手法を整理する。 まず、推定手法の自由度を説明する。本節(4)で紹介したゼロ・カーブ推定手法の 先行研究では、割引関数や瞬間フォワード・レート等を関数でモデル化していた。自 由度は、その関数のパラメータ数とパラメータに課される制約条件の数の差として 定義される。例えば、本節(4)イ.(イ)で説明した割引率をモデル化するMcCulloch [1975]による方法の自由度は(節点数+1)となる一方、本節(4)ニ.(イ)で説明し たNelson and Siegel [1987]による方法の自由度は4となる。一般に、自由度の低い 推定手法は、債券の取引価格を十分に捉えることができず、自由度の高い手法が取 引価格を柔軟に捉えることができる。しかし、自由度が高すぎる推定手法は、本節 (2)で示したように、推定されるゼロ・カーブの凹凸が過度に大きくなる可能性や、

推定値が過小もしくは過大な異常値を示すなど適切な内挿が行われない可能性があ る。このような望ましくないゼロ・カーブを推定することを避けるためには、自由

(21)

度が高すぎないゼロ・カーブ推定手法を用いることが必要と考えられる。 次に、推定手法の局所性を説明する。簡単のために、割引債が市場で取引されて おり、割引債の取引価格を用いてゼロ・カーブの推定を行うと仮定する。局所性と は、割引債の中の1銘柄の価格が変化することに伴い、推定されるゼロ・カーブ全 体の形状が変化する度合を表す概念である。すなわち、ある年限の割引債価格が変 化することに伴い、他の年限のゼロ・カーブの推定値が大きく変化してしまう場合 には、推定手法の局所性は低いといえる。一方、他の年限のゼロ・カーブの推定値 が大きく変化しない推定手法は局所性が高いといえる。局所性の高い推定手法の利 点は、債券価格に異常値が存在する場合でも、異常値を示す債券の年限以外のゼロ・ カーブの推定結果にほとんど影響を及ぼさない点である。また、凹凸の変化する点 が複数存在するような複雑な形状のゼロ・カーブを推定する場合、局所性の高い手 法を用いることで、複雑な形状を捉えることができる可能性が高まるという利点も ある。 以上の局所性の概念の定式化を以下で行う。ここで、割引債の元の価格データを P、残存期間Tvi nvic f の銘柄viの価格のみがλP vi変化し、他の銘柄の価格には変化が無 い場合の価格データをP+λPviとする。そして、Pから推定手法Xを用いて推定さ れるゼロ・カーブを˜yX(x;P)、P+λPviから推定されるゼロ・カーブを˜yX(x;P+λPvi) とする。すると、推定手法Xの年限Tvi nvic f における局所性を測る指標として、以下で 定義される指標lX(λ, ε; Tnvvii c f )が考えられる。 lX(λ, ε; Tnvivi c f ) :=  Tvi nvic f−ε 0 |˜y X(x;P+λPvi) − ˜yX(x;P) |2dx +  Tnc f Tvi nvic f|˜yX(x;P+λPvi) − ˜yX(x;P) |2dx. (41) ここで、εは十分に小さい正の実数、λは実数とする。(41)式の値が他の推定手法 と比べて小さな値をとれば、少なくとも、推定手法Xは他の推定手法よりも、銘柄 viの残存年数Tnvivi c f の周りで局所性が高いといえる。さらに、全ての銘柄(全ての年 限)に関して、(41)式から計算される値が他の推定手法と比べて小さな値をとれば、 その推定手法は、全ての年限で局所性が高いことを意味する。 しかし(41)式は、εやλのとり方に依存するだけでなく、全ての銘柄について計算 しないと、全ての年限での局所性の高低を判断することができないため、使い勝手が よい指標とはいえない。そこで推定手法の局所性を、おおまかではあるが比較的簡 単に評価できる指標として、局所性を評価したい年限の割引率の決定に寄与するパ ラメータ数と自由度の比をみることが考えられる。当該割合が小さいほど、局所性 が高いことを意味する。例えば、Nelson and Siegel [1987]の方法でこの比を計算す ると、任意の年限で1となる。次に、本節(4)イ.(ロ)で説明した割引率をモデル化す

(22)

るSteeley [1991]の方法でこの割合を計算する。仮に、節点をul=l (l=−3, . . . , 33) とした場合、自由度は32となる。ここで、特定の年限の割引関数の決定に寄与する パラメータ数と自由度の比を計算すると、1年未満の年限で4/32=0.125、2年∼30

年までの1年刻みの年限で2/32=0.0625、その他の年限で3/32=0.09375となる。 したがって、任意の年限において、割引率をモデル化するSteeley [1991]の方法の方 が、Nelson and Siegel [1987]の方法よりも局所性が高いことがわかる。

次に、同じ区分多項式法の中でも局所性が異なることを以下でみる。割引率をモデ ル化するSteeley [1991]の方法と、割引率をモデル化するMcCulloch [1975]の方法で は局所性の高さが異なる。割引率をモデル化するMcCulloch [1975]の方法では、節点 をul=l (l=0, . . . , 30), u−1=0にとると、自由度は31となる。したがって、1年以 下の年限の割引関数の決定に寄与するパラメータ数と自由度の比は2/31=0.0645、1 年超2年以下の年限の比は3/31=0.0968、2年超3年以下の年限の比は4/31=0.129 となり、年限が大きくなるにつれて当該比は大きくなっていく。したがって、残存 期間が1年以下の年限以外で、Steeley [1991]の方法の方がMcCulloch [1975]の方法 と比べて当該比が小さな値を示すことがわかる。以上から、Steeley [1991]の方法の 方が、局所性が高いことがみてとれる12 本節(4)で示した先行研究について、自由度と局所性の概念から整理すると、図4 のようになる。ノンパラメトリック法の1つであるTanggard [1997]の方法は、債券 のキャッシュ・フローが発生する時点全ての割引率をパラメータとして、債券価格 から直接推定することになる。したがって、当該手法の自由度は、他の推定手法と 比べて非常に高いものとなる。また、当該手法は、特定の関数形を前提として割引 図 4  各手法の特徴(概念図) 関数 形法 局所性 自由度 高 多項 式法 区分多項式法 ノンパラ メトリック 法 低 高 ...

12 McCulloch [1971]の方法も、McCulloch [1975] の方法と同様に、Steeley [1991] の方法と比べて局所性が低 いことがわかる。

(23)

率をモデル化していないため、局所性も非常に高くなる。一方、多項式法や関数形 法は、割引関数や瞬間フォワード・レートの期間構造全体を1つの関数形で表現す るため、局所性の高さには限界がある。自由度に関しては、多項式法ではモデル化 に用いる多項式の次数を変えることによってさまざまな自由度のモデルを考えるこ とができる。一方、関数形法の自由度も同様である。区分多項式法については、自 由度は節点数の多寡に依存する。節点数を増やすと、モデルの自由度が高まる一方、 ある年限の割引率に寄与するパラメータの数と自由度の比が低下するため、局所性 は高まる。したがって、区分多項式法は、多項式法や関数形法と比べると相対的に 局所性が高い。 次節では、本節(4)で紹介した8つのゼロ・カーブ推定手法に対して比較分析を 行うが、多くの先行研究の中から分析対象を8つの推定手法に絞り込んだ理由につ いてここで触れておきたい。ノンパラメトリック法、関数形法、多項式法について は、先行研究がある程度限られており、おのおのから代表的な推定手法を1つないし 2つ選択することにした。一方、区分多項式法については、先行研究で幾つかの手 法が提案されているが、局所性の面で違いのあるMcCulloch [1971, 1975]の方法と Steeley [1991]の方法を分析対象に含めることにする。なお、区分多項式を用いたモ デル化には、割引率をモデル化する方法(本節(4)イ.(イ)と(ロ))と瞬間フォワー ド・レートをモデル化する方法(本節(4)イ.(ハ))があるため、McCulloch [1971, 1975]の方法とSteeley [1991]の方法に基づく計4つの推定手法を分析対象とした。 区分多項式法にはこれらの他にも、例えばVasicek and Fong [1982]やMcCulloch and Kochin [2000]13等が知られている。これらの手法は、McCulloch [1971, 1975]の方法 とSteeley [1991]の方法の間に局所性の水準が収まるか、もしくは下回ることにな る。そこで、上記の4つの手法以外の区分多項式法については、本稿での分析対象 から外すことにした。

3.手法の選択基準と比較結果

本稿の目的は、2節で紹介したような代表的なゼロ・カーブ推定手法の中から、本 邦国債金利の期間構造の特徴を的確に捉える推定手法を選択することである。その ために、3節(1)では、本邦国債金利の期間構造の特徴をまとめる。そして、3節(2) では、2節(2)で示した望ましくないゼロ・カーブを推定する手法を排除し、本邦国 債金利の期間構造の特徴を捉えるゼロ・カーブ推定手法を選択するための基準を設 定する。3節(3)では、本邦国債の取引価格データを用いた分析により、代表的なゼ ロ・カーブ推定手法の中から、設定した基準に照らして最も適切な推定手法を選択 ...

13 Vasicek and Fong [1982]は、割引関数 Z (x) について、x= 1 − exp (−αs) という変数変換を行ったうえ

で新たに定義される関数 ˜Z (s)(= Z (x)) に対して、区分多項式を用いてモデル化する方法である。なお、

Vasicek and Fong [1982]では、 ˜Z (s)のモデル化に用いる区分多項式の具体的な形までは提案していない。

(24)

する。

(1)本邦国債金利の期間構造の特徴

ここでは、1990年代後半から最近までの本邦国債の金利の期間構造にみられる典 型的な特徴を2点指摘する。 第1の特徴は、残存期間が3年程度までの期間構造が、ゼロ近傍で平坦な形状を 示す点である。特に、2001年から2006年までの量的緩和政策期や2007年夏以降の グローバルな金融危機の時期には、本邦国債の金利の期間構造は概ねそのような形 状を示している。図5は、金融危機以降の日米の国債金利の期間構造を比較したも のである。この間、両国とも事実上のゼロ金利政策を採用しているが、時点によっ ては短い年限の期間構造の形状が異なっている。例えば、図5(a)では、米国国債金 利の期間構造は、残存期間2年からカーブの傾きが高まるのに対し、日本では、残 存期間3年程度までゼロ近傍に留まっているという違いがみられる。 本邦国債のゼロ・カーブを国債の取引価格から推定する際、推定手法を任意に選 択してしまうと、上述の特徴を的確に表現できず、例えば短い年限のゼロ・カーブ が一部ゼロを下回る形で推定されてしまう可能性などがある。例えば、多項式法や 関数形法は2節(4)でみたとおり、ゼロ・カーブ全体を1つの多項式や特定の関数形 で表現する手法であるが、そのような局所性の低い推定手法では上述のような本邦 国債の期間構造でみられる特徴を十分に表現することが難しい可能性がある。 本邦国債金利の期間構造だけではなく、このところは米欧諸国においても、短期 の年限の期間構造がゼロ近傍で平坦となる形状に変化してきている。例えば、図5 図 5  日米国債金利の期間構造 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 日本 米国 (%) 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 日本 米国 1 (年) (%) 1 (年) (a) 2010年6月10日 (b) 2011年9月2日 28 25 22 19 16 13 10 7 4 4 7 10 13 16 19 22 25 28 備考:日本のn年金利(n= 1, 2, . . . , 10, 15, 20, 30)。ブルームバーグのティッカーGJGBn Index。 米国のn年金利(n= 1, 2, 3, 5, 7, 10, 30)。2年以上の金利については、ブルームバーグの ティッカーUSGGn Index。1年金利については、ブルームバーグのティッカーUSGG12M Index。

(25)

(b)の米国金利の期間構造をみると、図5(a)と比べて、3年程度までの期間構造が ゼロ近傍で平坦となってきていることがみてとれる。このため、現状では、米欧諸 国のゼロ・カーブを推定する際も、局所性の低い推定手法では表現力が足りない可 能性がある14 本邦国債金利の期間構造にしばしばみられる第2の特徴は、カーブの凹凸の変化 する点が複数存在し複雑な形状をとる点である。例えば図6のように、7年の金利 が6年や8年の金利と比べて、相対的に低い水準を示す時期がある15 ゼロ・カーブの推定手法の自由度が低いと、このような複雑な形状のカーブを表 現することができない。しかし、推定手法の自由度が高すぎると、2節(2)で示した ように凹凸の大き過ぎるゼロ・カーブが推定されてしまう可能性がある。したがっ て、このような本邦国債金利の期間構造の特徴を捉えるゼロ・カーブ推定手法の自由 度は、低すぎもせず高すぎもしない相応の水準であることが求められる。また、こ のような凹凸を捉えるのに、他の年限の推定値に大きく影響を与えてしまうような 推定手法は望ましくない。したがって、凹凸の変化する点が複数存在し、複雑な形 図 6  本邦国債金利の期間構造(2009 年 2 月 17 日) 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 1 (年) (%) 20 19 18 17 16 15 14 13 12 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 備考:n年金利は、ブルームバーグのティッカーGJGBn Index。 資料:ブルームバーグ ... 14連邦準備制度理事会(FRB)は、Svensson [1995] の方法に基づき米国債のゼロ・カーブを推定・公表して

いる(手法の詳細は G¨ukaynak, Sack, and Wright [2007] 参照)。FRB のホームページで公表されている、ゼ ロ・カーブの推定パラメータから、1 ヵ月や 2 ヵ月といった短期の年限のゼロ・イールドを計算すると、 2009年半ば以降の低金利環境下、イールド・カーブがスティープ化する局面で、推定値がしばしばゼロを 下回っていることが確認される。 15長期国債先物の現物の受け渡し時における、最割安銘柄は残存期間が約 7 年の 10 年債となっている。し たがって、残存期間 7 年の国債の価格動向は、長期国債先物の価格動向にしばしば左右されてきた。特に、 2008年下期以降、質への逃避の動き等から長期国債先物の価格が大きく上昇した際には、残存 7 年の国 債が残存 6 年や 8 年の国債対比、割高な水準で取引され、金利水準としてみると、7 年金利が他年限対比 低水準となった。

(26)

状をとる本邦国債金利の特徴を捉えるゼロ・カーブ推定手法は局所性が高いことも 必要と考えられる。

(2)推定手法の選択基準の設定

ここでは、2節(2)で示した望ましくないゼロ・カーブを推定してしまう推定手法 を排除し、本節(1)で示した本邦国債金利の期間構造の特徴を的確に捉える推定手法 を選択するための基準を設定する。

イ.ゼロ・カーブの推定値がゼロを下回らないこと

本節(1)でも示したように、最近の本邦国債金利の期間構造は、短期の年限におい て、ゼロ近傍で平坦な形状をとることが多い。推定手法によっては、このような形状 を表現できずに、推定結果が一部の年限でゼロを下回る可能性がある。しかし、一部 の年限でゼロを下回るゼロ・カーブは、2節(2)で述べたように望ましいカーブとは いえない。そこでわれわれは、推定期間中に残存年限0.5、1、1.5、2年のゼロ・イー ルド推定値がゼロを下回った回数が相対的に多い推定手法を排除することとする。 なお、ゼロ・カーブの推定値がゼロを下回る可能性をあらかじめ回避するため、 イールドの非負性を明示的に制約条件に入れて推定を行うことも原理的には可能で ある。しかしこれは、制約条件の数が膨大な最適化問題を解くことになるため、最 適化の実行は計算量の問題から困難である。

ロ.ゼロ・カーブの推定値に異常値が含まれないこと

2節(2)で示したように、推定手法によっては、ゼロ・イールドが極端に高水準な いし低水準となるような、いわゆる異常値を推定してしまう可能性もある。これは、 自由度が低すぎて国債の取引価格をうまく捉えられず過小適合に陥っているか、自 由度が極端に高く国債の取引価格への過剰適合に陥っているかのどちらかの可能性 が考えられる。そこで、各推定時点で各推定手法における特定の年限(1年から1年 刻みで20年まで)でのゼロ・イールドを推定し、年限ごとに各手法による推定値の 2標準偏差の範囲に収まらない推定値を異常値とみなすこととする。そして、異常 値をとる回数が相対的に多い推定手法を排除することとする。この選択基準によっ て、自由度が高すぎるか、あるいは低すぎる推定手法が排除されることになる。

ハ.理論価格が取引価格と適合していること

本節(1)で指摘したとおり、本邦国債金利の期間構造は、凹凸の変化する点が複数 個存在するなど、複雑な形状をとることが少なくない。このような形状を的確に捉 えているかどうかは、理論価格と取引価格との適合性によって判断する。具体的に は、推定時点における各銘柄の取引価格と理論価格の残差二乗和で評価する。この

図 1  ゼロ金利制約を満たさないゼロ・カーブ(概念図) 残存期間ゼロ 図 2  ゼロ・カーブの凹凸(概念図) 10年A9年 11年 残存期間B 備考:○は割引債の取引価格から計算されるゼロ・イールドを表す。また、□は推定手法 A によ るゼロ・イールド推定値、△は推定手法 B によるゼロ・イールド推定値を表す。 の取引価格データを用いて、 2 つの推定手法によってゼロ・カーブを推定し、両手 法により得られるゼロ・カーブの凹凸の違いを示した概念図である。図 2 では、推 定手法 A も推定手法 B も、取引
図 3  推定ゼロ・カーブの異常値(概念図) 残存期間 性が高い。このようなゼロ・カーブの過剰な凹凸は、債券価格が内包する情報を反 映した結果というより、推定手法特有の性質により生じたものである可能性が考え られる。したがって、推定手法 B のような凹凸の非常に大きなゼロ・カーブを用い て金利の分析等を行うと、誤った結果を導いてしまうおそれがある。このため、ゼ ロ・カーブの性質として、図 2 の推定手法 B のように、凹凸の大きいゼロ・カーブ を推定してしまう推定手法は望ましいとはいえないだろう。 ハ.異常
図 7  発行銘柄数の推移 020406080100120 2年債 5年債 10年債 20年債 30年債 (年/月)各債券発行銘柄数 050100150200250300350 (年/月)全発行銘柄数1999/1 2000/1 01/102/103/104/105/106/107/108/109/110/130年債20年債10年債5年債2年債1999/1 2000/1 01/102/103/104/105/106/107/108/109/110/1 数の増加に起因している。 このように、 2000 年代に入
図 9  ゼロ・イールド推定値が異常値をとる例 –0.5 0.00.51.01.52.02.5 0 割引率をモデル化するSteeley [1991] の方法 割引率をモデル化するMcCulloch [1975] の方法 Svensson [1995] の方法 Schaefer [1981] の方法 (年)12345678910 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20(%)
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