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所有者不明土地の要因分析と改善方策に関する研究

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所有者不明土地の要因分析と改善方策に関する研究

政策研究大学院大学 まちづくりプログラム MJU16701 上村 和也

1 はじめに

わが国では、人口減少や産業構造の変化等を背景と して、空き地、空き家、工場跡地、耕作放棄地、管理を 放棄された森林など、土地の低利用や未利用が拡がっ ており、土地という国土資源が効率的に活用されていな い状況が生じている。このような、低・未利用地の増加 は、地域住民の生活環境に弊害をもたらすのみならず、

社会経済厚生の損失につながる。

近年、行政や民間事業者等が低・未利用地の活用に 乗り出しつつあるが、そもそも土地の所有者が判明しな い、または判明しても連絡がつかないため、土地の売買 や賃貸借の交渉ができない、所有者不明土地に関する 問題が顕在化している。所有者不明土地は、所有者を 探索する費用が追加的に必要となり、取引費用が増大 する要因となる。

本稿では、所有者不明土地の要因分析と現行制度の 問題に焦点を当て、理論分析と実証分析により所有者 不明土地を把握する制度の効果分析を行い、現行制度 の具体的な問題点とその改善策について論じる。また、

所有者不明土地であることが確定した土地について、そ の活用のための方策についても論じる。

2 所有者不明土地の概要 2.1 所有者不明土地の現状

国土交通省の「平成 27 年度土地所有・利用概況調査 報告書」によると、全国の行政面積から所有者が明確な 土地面積を差し引くと「その他の土地」となり 28.2%を占 める。国や地方公共団体は、全国の行政面積のうち約 30%の土地所有者情報を把握できていない状況にある。

都道府県行政面積に占める所有者不明土地面積の割 合を 4 区分し、図 1 として全国地図に色分けした。

2.2 所有者不明土地が引き起こす問題

所有者探索費用の増大(取引費用の増大)および土 砂災害の発生など、所有者不明土地を放置することに より生じる問題(外部不経済の発生)である。

2.3 所有者不明土地の要因分析

2.3.1 相続を原因とする所有権移転登記の未了 農村部など、土地の資産価値が低い場合、登記費用 が登記便益を上回るため、合理的な相続人は、所有権 移転登記を行わない。つまり、土地登記簿に記載されて いる所有者が現在の所有者と異なる状況になること、ま たは土地登記簿に記載されている所有者は現在もその 土地を所有しているが、その所在が不明で連絡がつか ない状況になることにより、所有者不明土地となる。農林 水産省が行なった、相続未登記農地等の実態調査によ ると、2016 年 8 月時点で、全国の相続未登記農地は約 47.7 万 ha、相続未登記農地のおそれのある農地は 45.8 万 ha であり、山形県の面積(93.2 万 ha)に相当すること が判明した。

2.3.2 国および地方公共団体の土地所有者情報の管理不十分 わが国には、土地の所有および利用実態を把握する ための一元的な土地基盤情報が存在しない。第一に、

国土利用計画法に基づく許可および届出の管理不十分 について、権限の主体が全区域とも都道府県知事(政令 市長)となっており、国が一元的に土地取引情報を管理 していないため、全体像が把握できないという問題があ る。さらに、贈与、相続等は投機性が認められないので、

届出は不要であり、全ての大規模土地取引を把握でき ない。第二に、目的別土地所有者台帳間の整合性が取 られていないという問題がある。土地登記簿、農地台帳、

森林簿等、目的別の各種土地所有者台帳はあるが、そ の内容や精度は統一的ではなく、国土の所有および利 用の情報を一元的に把握できる状態ではない。

3 所有者を把握する制度の理論分析 3.1 所有者不明土地を把握する制度の概要 3.1.1 土地登記制度の概要

土地の登記(表示に関する登記および権利に関する 登記)は、一筆の土地ごとに行われ、所有者、地番等が 記録される表題部と、所有権、抵当権等の権利の変動 が記録される権利部に分かれる。また、登記所には、地 図を備え付けなければならないとされている。不動産登 記の役割には、私的な機能として、権利の内容、変動、

および対象物の明示により、私人の任意の申請により登 記された私人の権利を保護するという機能と、公的な機 能として、①固定資産税の所有者情報の把握に使われ ていること 、②地籍調査の結果が登記所に送付され、

登記内容に反映されることがある。

現行の土地登記制度の問題として、登記が不完全な 位置づけで年代ものの記録のままになっており、登記不 全に陥っていることが挙げられる。

3.1.2 地籍調査の概要

地籍調査とは、地籍調査は、毎筆の土地について、そ の所有者、地番、地目、筆界および地積を明確化し、そ の結果を地籍図および地籍簿にまとめ上げ、これを土地 登記簿および登記所備付地図に反映させるものである。

図 1 都道府県行政面積に占める所有者不明土地面積の割合

(国土交通省「平成 27 年度土地所有・利用概況調査報告書」により作成)

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地籍調査を実施する利点として、土地境界をめぐるトラ ブルの未然防止、登記手続の簡素化および費用縮減、

土地の有効活用の促進、公共事業の効率化および費用 縮減、災害復旧の迅速化、課税の適正化および公平化 などがある。

地積調査は 1951 年から実施されているが、2016 年 3 月時点の国有林等を除く、すべての要調査面積に対す る進捗率は 51%であり、特に林地に対する進捗率は 44%に止まっている。

地籍調査が進捗しない要因として、調査に多くの時間 と労力を要すること、調査の実施が困難な都市部等の地 域へと対象地域が移行してきていること、所有者の高齢 化や不在村化が進み、立ち会いが困難となっていること、

さらには、登記所の公図の精度が極端に低く、境界確認 の基礎資料とするのが困難であることなどがある。

3.1.3 当事者同士の交渉

コースの定理の含意から、土地登記制度および地籍 調査により土地取引費用を極小化することにより、市場 の失敗を防ぐことができると考える。

3.1.4 土地登記制度と地籍調査の補完的関係

土地の資産価値が相対的に高い都市部では、登記の 便益が登記の費用を上回るケースが多く、自主的に登 記される可能性が高い。しかし、土地の資産価値が相対 的に低い農村部では、登記の費用が登記の便益を上回 るケースが多く、合理的な選択は登記をしないこととなる。

他方、地籍調査は、国土調査として、土地資産価値に関 わらず、全国的に実施されており、DID 地区(24%)より、

農地(73%)や林地(44%)の方が進んでいるという実態 がある。都市部では、土地の細分化、権利関係の複雑 化等により、地籍調査の実施には多くの費用と期間を要 することが主たる原因であると考えられる。

このことから、土地登記制度は都市部に、地籍調査は 農村部に、それぞれ土地所有者を把握する制度として 相対的効果があると考える(図 2)。

3.2 土地登記制度の理論分析 土 地 登 記が 正 確に 行わ れている土地は、所有者、

地籍、地目、その他権利関 係 を 調 べ る 必 要 が 生 じ た 際、低廉な費用で調べること ができる。

自主的に登記が行われる かについて、経済理論を用 いて図示すると、図 3 とな る。限界費用とは、登記にか かる費用(登録免許税等)の

追加的な増分のことである。簡素化するため、限界費用 は一定としている。

また、私的限界便益とは、登記による対抗要件力や土 地の担保価値の上昇をいう。さらに、私的限界便益に表 題登記の機能である所有者台帳としての便益を足し合 わせたものを社会的限界便益とする。

個人や民間事業者が土地の登記をする目的は、私的 限界便益を満たすことにある。つまり、限界費用曲線と私 的限界便益曲線が交差する点が、自主的登記分岐点と なる。

3.3 地籍調査の理論分析 地籍調査の効果につい て、経済理論を用いて図示 すると、図 4 となる。取引費 用とは、土地の所有者が不 明な場合の探索のための 費用や土地の境界が不明 確な場合の交渉費用をい う。地籍調査を実施すること で 、 土 地 の 供 給 サ イ ド に は、自らの費用負担により 土地の境界等を確定させる 必要がなくなること、さらに、

土地の境界が不明確な場合と比して土地の資産価値が 相対的に上昇し、売却先を探す費用を減少させることが できるため、取引費用が低減すると考えられる。また、土 地の需要サイドには、地籍調査により土地の所有者や境 界が明確になるため、自らの費用負担により所有者の探 索や測量等を行う必要がなくなること、さらに、権利関係 が明確となるため、将来の所有権確認訴訟等のリスクを 回避できることなどの理由により、取引費用が低減すると 考えられる。

つまり、地籍調査の実施は、需要および供給の双方 の取引費用を低減する効果があり、土地の取引件数を 増加させ、社会的余剰が増加すると考えられる。

4 所有者不明土地を把握する制度の実証分析 4.1 分析の目的と方法

第一段階として、相続登記と地籍調査がどのような要 因に影響を受け、実施されるのかについて検証を行う。

第二段階として、相続登記の実施と地籍調査の進捗が 所有者不明土地の面積を減少させる効果があるか(仮 説 1)を検証し、第三段階として、所有者不明土地の減 少は土地取引を活性化させるか(仮説 2)について、統 計的手法を用いて実証分析を行う。

分析方法は、2006 年から 2015 年の 10 年間のデータ を都道府県別パネルデータとして作成し、固有の要因を コントロールするため、固定効果モデルにより推計を行 なう。面積等のストックのデータは、変化率の概念を用い てフローデータと整合性が取れるよう設定し、被説明変 数と説明変数の同時性の問題について、地目要因や経 済的要因など、被説明変数に影響すると考えられるコン トロール変数を用いることで対処する。

4.2 分析に用いるデータの説明

分析に用いる説明変数、被説明変数およびコントロー ル変数の説明を、表 1 として示す。また、基本統計量の 提示は省略する。

図 2 土地登記制度と地籍調査の補完的関係

図 3 自主的登記分岐点の理論図

図 4 地籍調査による効果の理論図

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4.3 相続登記面積率と地籍調査進捗面積率の要因分析 4.3.1 推計式

4.3.2 分析結果と考察

推計結果を表 2 として示す。相続登記面積率につい ては、農村部など相対的に土地の資産価値が低い場合、

相続登記を行わないと考えられる。また、地籍調査進捗 面積率については、地籍調査が各市町村の判断で実施 しているものである。財政力指数が高い市町村ほど地籍 調査に予算を措置することが可能となるため、地籍調査 を実施するという判断がなされると考えられる。さらに、相 続登記面積率にはマイナスに影響している民有林面積 変化率が地籍調査進捗面積率にはプラスに影響してい る。これは、地籍調査の進捗が農村部で進みやすいと考 えることができる。

4.4 仮説 1 の実証分析 4.4.1 推計式

4.4.2 分析結果と考察

推計結果を表 3 として示す。モデル 1 およびモデル 2 の推計結果によると、相続登記面積率および地籍調査 進捗面積率がともに統計的に有意にマイナスを示した。

このことから、相続登記の実施と地籍調査の進捗は、所 有者不明土地面積を減少させる効果があると考えられる。

また、それぞれの弾力性について、相続登記面積率の 増加による所有者不明土地面積変化率の減少は、地籍 調査進捗面積率の増加による所有者不明土地面積変 化率の減少よりも弾力性が高く、所有者不明土地を減ら す効果が相対的に大きいものと考えられる。

また、モデル 2 で説明変数とした取引登記面積率につ いては、統計的に有意を示さなかった。

4.5 仮説 2 の実証分析 4.5.1 推計式

4.5.2 分析結果と考察

推計結果を表 4 として示す。推計結果によると、所有 者不明土地面積変化率は、統計的に有意にマイナスを 示した。このことから、所有者不明土地は、土地取引を阻 害すると考えられる。仮説に則ると、所有者不明土地の 減少は、土地の取引費用を低減させ、土地取引を活性 化すると言える。また、土地取引件数は経済的要因に強 く影響を受けることが分かる。

4.6 分析結果のインプリケーション

実証分析において、仮説どおりの結果が得られたが、実 際に相続登記を増加させるためには、登記の便益が登記 の費用を上回るように政策を講じなければならず、地籍調 査についても、予算を措置するなど、政策判断が必要とな る。そのため、次章で両制度の改善方策について論じる。

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5 所有者不明土地を把握する制度の改善方策

5.1 土地登記インセンティブの強化

①登録免許税による、土地取引および登記を阻害する 効果を排除するため、登録免許税を撤廃すること、②登記 オンライン申請システムの改善により、本人申請割合を増 加させる。いずれの改善方策も、登記にかかる費用を低減 することに主眼がある。

①については、経済理論に照らすと、不動産登記制度を 維持するために必要な実費については、登記手数料とし て徴収することが正当化され、登録免許税は取引および 登記を阻害する税制であるため、認められない。

②については、オンラインによる登記申請は、全ての申 請数の約 40%にとどまる 。申請自体が煩雑であること、添 付書類等が多いこと、システムの稼働日および時間が限定 されていることなどを改善しなければならない。

5.2 地籍調査の改善

地籍調査は、政府の限られた予算制約の中で、最大の 効果を発揮できるようにしなければならない。都市部では 土地の取引が流動的であり、取引の際に登記が行われる。

また、土地を相続した場合も、土地の資産価値が相対的に 高いことにより、自主的登記機能が働く。そのため、DID 地 区を対象とする地籍調査の実施を見直し、DID 地区以外 の宅地や農地等の調査に予算を配分する方が、費用対効 果の観点から望ましい。

また、地籍調査の立会人資格を登記実務と同様の範囲 に限定し、地籍調査の進捗を図る必要がある。

5.3 土地基盤情報の整備

国および地方公共団体が土地の所有者情報を一元的 に管理する土地基盤情報の整備が必要である。

現在、最も土地所有者情報を正確に把握している所有 者台帳は、固定資産課税台帳である。しかし、課税庁の調 査により知り得た情報は、原則として地方税法 22 条に規定 する秘密に該当するため、守秘義務があり、公用であって も税務所管課外への提供は許されない。そのため、地方 税法に固定資産税台帳の情報を土地所有者把握のため に用いることを、目的規定として追加することを提言する。

また、国土利用計画法に基づく許可および届出につい て、国が情報を一元的に管理する必要がある。少なくとも、

国土利用計画法に基づく規制区域、監視区域および注視 区域の土地の売買届出については、政府の主導で売買情 報を捕捉しなければならない。また、それ以外の土地取引 については、市町村の届出情報を取りまとめ、データベー ス化する。また、届出インセンティブの強化のため、無届お よび虚偽の届出の処罰を徹底する。

5.4 土地基盤情報の公開

土地基盤情報について、土地取引の際、簡易な手法で アクセスすることが可能となれば、低廉な費用で所有者を 探索することができるため、取引費用の低減につながる。

土地基盤情報を原則として公開とするが、個人情報保護の 観点について、検討が必要である。この点について、不動 産登記簿は公開情報であり、すでにウェブ上での閲覧も可 能となっており、土地所有者の氏名や住所が公開されてい ることに鑑みると、土地基盤情報についても、その限りで公 開することは可能である。また、土地の公益性に着目する と、公開により得られる利益が、公開により生じる損失を上 回ると考える。

6 所有者不明土地を活用する制度の概要と改善方策 6.1 所有者不明土地を活用する制度の概要

所有者不明土地を活用するための現行の個別制度に ついては、①民法の不在者財産管理人制度および相続財 産管理人制度、②土地収用法の不明裁決制度、③都道府 県知事の裁決による、森林の路網整備および間伐の実施、

④都道府県知事の裁定による、遊休農地の活用など、個 別の目的に関して、所有者不明土地の場合の取り扱いが 定められている。

6.2 土地の寄付と土地所有権の放棄 6.2.1 土地の寄付について

土地所有者が所有を希望しなくなった土地について、固 定資産税の物納や地方公共団体への寄付を希望するケ ースがある。しかし、行政が個人からの土地の寄付を受け 取るのは、道路用地など公共的な利用見込みのあるごく一 部の事例に限られているという現状がある。

土地という資産の性質を考慮して、最終的には公的に管 理をする必要がある。

6.2.2 土地所有権の放棄について

所有者のない不動産は国庫に帰属する(民法 239 条 2 項)とされるが、不動産の所有権の放棄は、行政実務にお いて認められていない。また、所有権放棄一般について 判示した判例もない。しかし、土地所有権を放棄できず、

かつ、資産価値が低いため、売却もかなわない場合、所有 者不明土地となり得る。

不動産の所有者は、所有者として処分権を有する以上、

自由にその所有権を放棄することができるものと解する。ま た、所有権を放棄する場合は、放棄者の単独申請は許さ れず、所有権を取得する国または地方公共団体との共同 での登記申請を条件とすると、所有者不明土地となること を防止することができる。

6.3 所有者不明土地を活用する新制度の創設

所在不明株主の株式売却制度、および休眠預金活用法 の休眠預金の公益事業活用制度を参考に、所有者不明土 地活用制度を創設する。想定している制度の流れは以下 のとおりである。

所有者不明土地活用制度については、一定の手続き を経た後、所有者不明土地の真の所有者の意思に関わら ず、当該土地を国または地方公共団体が管理し、活用で きるものとする。①一定期間の調査により、所有者不明土 地台帳を作成し、真の所有者またはその相続人等を探索 する。②真の所有者またはその相続人等が判明した場合 は、土地の所有の意思を確認する。また、所有者不明土地 であることが確定した場合は、5 年間、公示送達の方法に 則り、所有者を探索している旨を広く公示する。③真の所 有者が寄付の意思を示す、または土地の所有権を放棄す る場合は、国または地方公共団体が所有権を取得する。ま た、真の所有者からの意思表示がなく、公示から 5 年間が 経過した場合は、国または地方公共団体に管理権が移る。

ただしその場合、所有権は真の所有者にある。④国または 地方公共団体は、この方法により管理権を取得した土地を、

換価し、または現物のまま、公共のために活用することが できる。具体的には、換価した場合は、休眠預金の公益事 業への活用の例に則り、NPO 法人等への助成または貸付 を行う。また、現物のまま、当該土地を活用しようとする者 に使用権を付与することも可能とする。なお、基金の設立 等により実施することも考えられる。

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