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冷え症の生理学的メカニズムについて

―循環動態および自律神経活動指標による評価―

Physiological Mechanism of Hiesho

―Evaluation by Cardiovascular and Autonomic Dynamics―

尾形 優

) Yu Ogata

金子健太郎

) Kentaro Kaneko

後藤慶太

) Keita Goto

河野かおり

) Kaori Kono

山本真千子

, ) Machiko Yamamoto 冷え症において,冷え症群と非冷え症群とを循環動態指標および自律神経活動指標を 用いて比較し,冷え症の生理学的メカニズムを明らかにすることを目的とした.対象は 若年健常女性 20 名(冷え症群 12 名,非冷え症群ઊ名)とし,晩秋・冬季に測定を実施 した.生理学的指標として,心拍数・血圧・末梢皮膚温・末梢血流量・鼓膜温・サーモ グラフィ・四肢血圧脈波を用いた.自律神経活動指標は,心拍変動を用いて周波数解析 を行い,副交感神経活動指標と交感神経活動指標を求めた.データの分析は両群間を指 標ごとに比較・検討し,加えて各群における鼓膜温と各末梢皮膚温との差を両群間で比 較した.その結果,冷え症群は非冷え症群にくらべて副交感神経活動指標が低値で,交 感神経活動指標が高値であった.末梢循環においては,冷え症群の血流量低下と皮膚温 低下も明らかであった.よって,冷え症者は安静時の副交感神経活動が小さく,交感神 経活動の緊張により安静時すでに末梢の循環機能低下が起きていることを明らかにした. キーワード:冷え症,自律神経活動,生理学的メカニズム

According to previous studies, up to 50% of women in Japan suffer from*hiesho,+a common condition characterized by persistent coldness in the extremities;however, the pathophysiology of hiesho remains unclear. The purpose of this study is to clarify the physiological mechanism of hiesho by measuring circulatory and autonomic nervous activities between individuals reporting hiesho versus those that do not. 20 apparently healthy women, 12 reporting hiesho and 8 without, were including in this prospective study from October 2012 to January 2013. Physiological parameters measured included heart rate(HR),blood pressure, skin surface temperature, skin blood flow, tympanic membrane temperature, thermography, and plethysmography. Autonomic nervous activity was measured via frequency of heart rate variability, with 0.04-0.15 Hz defined as low frequency(LF)and 0.15-0.5Hz defined as high frequency(HF).HF is an index of parasympathetic nerve activity, while LF/HF is an index of sympathetic nerve activity.

受付日:2016 年  月 28 日 受理日:2016 年 10 月 19 日

)聖路加国際病院 St LukeUs International Hospital

)茨城キリスト教大学看護学部 Ibaraki Christian University School of Nursing )獨協医科大学看護学部 Dokkyo Medical University School of Nursing

)茨城キリスト教大学看護学研究科 Ibaraki Christian University Nursing Graduate School 連絡先:尾形 優 聖路加国際病院 〒104-8560 東京都中央区明石町 9-1

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Compared to controls(mean age, 20.1±0.5),the hiesho group(mean age, 22.0±0.8) had significantly different skin blood flow(6.3±0.7 vs 9.3±1.0;P=0.019).HR(64.9± 2.7 vs 58.8±1.2;P=0.06),LF/HF(1.2±0.2 vs 0.7±0.1;P=0.076),and HF variabil-ity(1224.2±310.9 vs 1678.0±852.1;n.s.)showed a trend toward difference. Hiesho individuals have lower parasympathetic nervous activity and higher sympathetic nervous activity, as well as decreased blood flow and lower skin temperature in peripheral circulation, compared to controls. Our data suggest that hiesho may result from both decreased parasympathetic nervous activity and peripheral circulation due to chronic vasoconstriction from increased sympathetic nervous system activity.

Key words:hiesho,autonomic nervous activity,physiological mechanism

Ⅰ.はじめに

冷え症は医学的診断名ではないが,一般に女性の多 くが冷えの自覚やそれに伴う不眠や肩こり,便秘など の随伴症状に悩まされている.3,000 人以上の女性を 対象とした研究では,全体の 52%に認められ 40 歳代 前半まではその頻度は 30%未満であるが,更年期以 降は 40%以上,55 歳以上では 50%以上に冷えの自覚 が認められたと報告している(後山 2005).また別の アンケート調査では,女性は男性の 2.8 倍が「自分は 冷え症である」と回答したと報告している(柴原・伊 藤 1999).従来冷え症は女性の更年期障害による不定 愁訴の一つとして扱われていたが,近年更年期の有無 に関わらず若年女性にも増加していることが明らかと なっている(大和・青峰 2002). 冷え症は末梢の血流障害によると考えられる.末梢 の血流障害の原因として,閉塞性動脈硬化症,閉塞性 動脈炎(Burger 病),レイノー病,膠原病や糖尿病に 伴う血管障害など血管内腔の狭窄があげられる.しか し,健常者においても冷え症は存在し,この場合は自 律神経機能の調整不良に伴う血管運動神経障害が原因 であると考えられている.健常者における冷え症の原 因として,エストロゲンの低下による女性ホルモンの バランス異常(後山 2005),ストレス(岡田ら 2005), ダイエット(小橋ら 2009)などのさまざまな要因が 関連しているといわれている.これらの要因と冷え症 との関連性について主観的あるいは客観的指標を用い た研究は散見されるものの,冷え症の定義や質問項 目,対象者の選定,測定方法に一致をみない. 先行研究によると,冷え症を生理学的に捉えた場 合,冷え症者は深部に近い躯幹部と足趾の皮膚温では 〜℃の較差がある(定方ら 2007;高取 1992)こ とや,温感覚閾値が高いと報告(Sadakata & Yamada 2007)しているもの,冷え症高齢者の場合,血管壁の 硬化などにより血液循環の影響や基礎代謝の低下によ る熱産生の減少,筋肉量の減少による体温調節機能の 低下などが要因であるという報告(棚崎ら 2014)も ある.多くは,冷水負荷試験(山田ら 2007;楠見・江 守 2009;森ら 2006)や,起立負荷試験(松本 2001; 坂口ら 2011)を行った結果,自律神経機能の調整不 良が起こり,交感神経の緊張が亢進することで末梢の 血管が収縮し,末梢の血流障害が起こる(血管運動神 経障害)と結論付けている.しかし,負荷をかけずに 安静時の自律神経機能を評価し研究したものはほとん どみられない.そこで今回,冷え症調査問診票・心拍 数・血圧・心拍変動を用いた自律神経活動指標・皮膚 温・血流量・鼓膜温(核心温)・四肢血圧脈波・サー モグラフィを用い,主観的指標と客観的指標から総合 的に評価することで冷え症の生理学的メカニズムを明 らかにすることを目的とした.

Ⅱ.対象

循環器系および女性生殖器疾患がなく,最新の健康 診断において特記すべき異常を認めず,かつ正常性周 期である健常女性 20 名を対象とした. 本研究では,冷え症を松本(2001)が提唱した「他 の人が寒く感じない程度の環境温の中にいても寒く感 じ,手足,時には腰以下の冷え感を訴えるもの」と定 義した.これを基に,冷えの自覚の有無と坂口らによ る「冷え症調査問診票(寺澤変法)」(坂口ら 1998) を用いて,冷えの自覚があり問診票でも冷え症と判定 された者を「冷え症群(n=12)」とし,冷えの自覚 がなく,かつ問診票でも冷え症ではないと判定された 者を「非冷え症群(n=8)」に分類した. 基礎疾患の有無については,問診のほかに,対象者 全員の初回測定前に,12 誘導心電図を記録し,洞調 律であることを確認した.さらに,血圧脈波検査装置 VaSera VS-1500AN(フクダ電子社製)を用いて四肢

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血圧脈波を測定し,血管機能に異常がないことを確認 した.

Ⅲ.実験方法

ઃ.環境設定・実験実施期間・場所 2012 年 10 月〜2013 年月に,温度(24±2℃),湿 度(55±10%)を保った実験室にて実験を行った. 冷え症者において月の平均で最低気温 10℃,最高 気温 20℃,平均気温 15℃より低くなる 10〜12 月, 〜 月の時期に一致して軀幹部(胸・腹・背中・ 腰)の最高温と末梢の最低温の較差が℃以上になる 例が 99%の確率で起こる(高取ら 1991)と報告され ていることから,本研究は 10 月以降の測定データを 使用した. 実験は自律神経活動の日内変動を考慮したうえで, 午前時から午後時の時間帯に実施した. ઄.測定方法 測定は,実験室内への順応時間として 20 分間を設 けた後,15 分間行った.順応時間から測定終了まで は終始ベッド上仰臥位安静とし,タオルケット枚で 頸部から足先まで被覆した.測定中の衣服は,研究者 が準備した半袖シャツ・ハーフパンツを着用させ測定 条件を統一した.また,測定するにあたり,測定前日 はアルコール摂取や過度の運動は避け,当日はカフェ イン摂取や喫煙をせず,測定開始 2 時間前までに食事 を済ませることを対象者に指示した. અ.生理学的指標 心拍数・血圧はモニターシステム DS-7121(フク ダ電子社製)で測定し,心拍数は 15 分間連続測定し, 血圧は左上腕にて分間隔で測定した.皮膚温は,左 右手背・左右足背中央部・左右拇趾・前額部の計箇 所を測定部位とし,N540 シリーズ高精度ch データ ロガ(NIKKISO-THERM 社製)を用い 15 分間連続 測定し,専用ソフトウェアを用いてデータを抽出し た.皮膚血流量は,PeriFlux System 5000/PF 5010 LDPM Unit(PERIMED 社製)を用い単位は Perfu-sion Unit(PU)で示され,右足背部ヵ所,皮膚温 計と重ならない位置を測定部位とし 15 分間連続測定 し,専用ソフトウェア PeriSoft for Windows Version 2(PERIMED 社製)にて抽出した.四肢血圧脈波 は,血圧脈波検査装置 VaSera VS-1500AN(フクダ

電子社製)を用いて測定し,データマネジメントソフ トウェア VSS-10(フクダ電子社製)を用いて大動脈 を含む心臓から足首までの動脈の硬さを反映している Cardio Ankle Vascular Index(CAVI)・下肢動脈の 狭窄や閉塞を評価する指標である Ankle Brachial Pressure Index(ABI)・圧脈波波形成分を抽出した. 鼓膜温(核心温)は,シチズン耳式体温計 CT820 (シチズンシステムズ株式会社製)を用いて,研究者 が測定を行った.サーモグラフィは,INFRA-EYE 2000(FUJITSU 社製)を用いて,すべての測定が終 了した時点で足首から足趾までを撮影した.また,自 律神経活動の指標として,MemCalc/Tarawa(GMS 社製)を用いて心拍変動(Heart Rate Variability: HRV)の周波数解析を行い,0.04〜0.15 Hz の成分を Low frequency(LF),0.15〜0.5 Hz の成分を High frequency(HF)とし,副交感神経系の活動指標を HF,交感神経系の活動指標を LF/HF とした. આ.データ分析方法 15 分間で得られた各々の測定値(鼓膜温・四肢血 圧脈波・サーモグラフィを除く)のうち,最も安定し た各指標同じ時間帯の分間を平均値±標準誤差で表 し分析した.「冷え症群」と「非冷え症群」の卵胞期 に相当する時期に得られたデータを用い,両群間を指 標ごとに比較した.加えて,それぞれの群における鼓 膜温と各末梢部位の皮膚温との差を求め,両群間で比 較した.検定方法は,独立したサンプルの t 検定を用 いた.統計処理は統計ソフト SPSS(IBM SPSS Sta-tistics 20)を用い,危険率%未満(P<0.05)を有 意とし,10%未満(0.05≦P<0.1)を傾向とした.

Ⅳ.倫理的配慮

本研究の趣旨と方法,対象となる個人の人権擁護 (プライバシー保護)・対象者の募集方法・対象者の同 意を得る方法・研究等により生じる個人への利益およ び不利益ならびに危険性,研究分野への貢献の予測な どについて口頭および書面にて説明し,承諾書に自署 で記入してもらい同意を得た.なお,茨城キリスト教 大学倫理審査委員会にて審査を受け承認を得た後,研 究を開始した(承認番号 12-13).

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Ⅴ.結果

ઃ.対象者 身体的特徴について,それぞれの項目で有意な差は みられなかった.各項目の数値は平均値±標準偏差を 表す(表ઃ). ઄.サーモグラフィ撮影 両群からそれぞれ名の代表例を示す(図ઃ).冷 え症群において皮膚温の低下が明らかであった. અ.冷え症群と非冷え症群における測定結果の比較 指標ごとに分間の平均値±標準誤差と,四肢血圧 脈波検査で得られた測定値の平均値±標準偏差を示 す.四肢血圧脈波検査では,冷え症群(R-ABI:1.1± 0.2,L-ABI:1.1±0.3,R-CAVI:5.6±0.2,L- CAVI: 5.6±0.2)と非冷え症群(R-ABI:1.1±0.1,L-ABI: 1.1±0.2,R-CAVI:5.6±0.2,L-CAVI:5.6±0.2 ) において血管機能に有意な差はみられず,左右差も認 められなかった. ઃ)心拍数 心拍数は,冷え症群では,非冷え症群にくらべ高い 傾向を示した(図઄). ઄)血圧 収縮期血圧は,冷え症群(110.6±2.4 mmHg)と 非冷え症群(98.0±2.4 mmHg)で有意な差はみられ ず,拡張期血圧においても,冷え症群(59.2±4.8 mmHg)と非冷え症群(56.4±2.1 mmHg)で有意な 差はみられなかった. અ)HF HF において冷え症群と非冷え症群で有意な差はみ られなかったが,冷え症群で低値を示した(図અ). 図ઃ 冷え症者と非冷え症者の代表例 −サーモグラフィ結果− 表ઃ 冷え症群と非冷え症群の比較 −身体的特徴− 冷え症群 (n=12) 非冷え症群(n=8) P 値 年齢 (歳) 22.0±0.8 20.1±0.5 n.s 身長 (cm) 158.1±0.8 160.6±1.4 n.s 体重 (kg) 51.2±1.1 52.3±1.5 n.s

Body Mass Index(kg/m2 20.4±0.4 20.3±0.5 n.s

※ mean±SD **P<0.050.05≦ P<0.1

<冷え症例(19 歳)> <非冷え症例(19 歳)>

外気温 8℃,外湿度 44% 外気温 9.2℃,外湿度 68%

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આ)LF/HF LF/HF は,冷え症群は非冷え症群にくらべ高い傾 向を示した(図આ). ઇ)血流量 血流量は,冷え症群は非冷え症群にくらべ有意に低 値を示した(図ઇ). ઈ)鼓膜温と皮膚温 鼓膜温と前額部,および左右足背では,冷え症群と 非冷え症群で有意な差はみられなかった.左右手背で は,冷え症群は非冷え症群にくらべ左右ともに低い傾 向を示した.左右拇趾では,冷え症群は非冷え症群に くらべ左右ともに有意に低値を示した(図ઈ). ઉ)鼓膜温(核心温)と末梢皮膚温との差 冷え症群では両足背・両拇趾の計 ヵ所において核 心温との差が ℃をこえたが,非冷え症群では核心温 との差が ℃をこえるヵ所はなかった(図ઉ).

Ⅵ.考察

健常女性を対象として「冷え症群」と「非冷え症 群」とに分類し,両群間を末梢循環動態指標および自 律神経活動指標を用いて比較し,安静時における冷え 症の生理学的メカニズムを明らかにすることを目的と した.その結果,冷え症群は非冷え症群にくらべて有 意差は認められなかったが副交感神経活動の指標であ る HF の平均値は低く,交感神経活動の指標である LF/HF の平均値は高い傾向を示した.これに伴い, 正常範囲内であるが冷え症群の方が血圧は高めであ り,心拍数は高い傾向を示していた.安静時の副交感 神経活動は個体差が大きく,年齢・性別・運動習慣・ 疾患の有無などにより修飾される.このパワーをわれ われは「副交感神経活動リザーブ」と呼び,「身体活 動能力もしくは予備的活動能力(外的ストレスから護 る)の大きさを示すもの」(山本 2005)と定義してい 䡚 䡚 0 45 50 55 60 65 70 75 80 ᚰᢿᩘ 䠄bpm 䠅

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㠀෭䛘⑕⩌ ෭䛘⑕⩌ 䠄㼚㻩㻝㻞䠅 䠄㼚㻩㻤䠅 図઄ 冷え症群と非冷え症群の比較 −心拍数− mean±SE **P<0.050.05≦P<0.1 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 HF 䚷䠄 ms ec 2䠅 n.s 㠀෭䛘⑕⩌ ෭䛘⑕⩌ 䠄㼚㻩㻝㻞䠅 䠄㼚㻩㻤䠅 図અ 冷え症群と非冷え症群の比較 − HF − mean±SE **P<0.050.05≦P<0.1 0.0 0.5 1.0 1.5

*

LF/HF 㠀෭䛘⑕⩌ ෭䛘⑕⩌ 2.0 䠄㼚㻩㻝㻞䠅 䠄㼚㻩㻤䠅 図આ 冷え症群と非冷え症群の比較 − LF/HF − mean±SE **P<0.050.05≦P<0.1 0 2 4 6 8 10 12 ⾑ὶ㔞 䠄PU 䠅

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㠀෭䛘⑕⩌ ෭䛘⑕⩌ 䠄㼚㻩㻝㻞䠅 䠄㼚㻩㻤䠅 図ઇ 冷え症群と非冷え症群の比較 −血流量− mean±SE **P<0.050.05≦P<0.1

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る.つまり冷え症者は非冷え症者にくらべて副交感神 経活動リザーブが小さいといえると考えられた.一 方,末梢循環においては,冷え症群での血流量低下と 皮膚温低下も明らかであった.鼓膜温と末梢皮膚温の 差をみると,冷え症群では計 ヵ所で ℃以上の差が 生じていた. 一般的に,「食事・睡眠・運動・喫煙など生活習慣 の乱れ」(高尾 2005;大和・青峰 2003)「女性ホルモ ンのバランス異常」(後山 2005)「食事制限によるダ イエット」(小橋ら 2009)「BMI・体脂肪率・基礎代 謝量の低下」(楠見・江守 2009;宮嵜ら 2011)「スト レス」(岡田ら 2005)などが冷え症の要因としてあげ られている.生理学的には,このような冷えの症状は 交感神経活動が高まり末梢の血管を収縮させ,末梢の 血流障害を起こす(血管運動神経障害)ために出現す ると考えられている. この生理学的な機序を明らかにすることを目的とし た本研究では,既述の通り冷え症群は非冷え症群にく らべ安静時の交感神経活動が高まっていることが生理 学的に確認できた.交感神経活動の緊張は末梢の血管 収縮を惹起させるが,冷え症者は非冷え症者にくらべ て安静時にすでに末梢の血流障害が起きていると考え られる.皮膚温についても,非冷え症群にくらべ冷え 症群では足趾の温度が最も有意に低下しており,つい で手背の皮膚温が低下傾向を示した.これは,冷え症 群で「手は温かい環境にいると徐々に温まってくる が,足先はいつまでも冷えていることが多い」と,ほ とんどの対象者が同じように訴えており三浦ら(2004) による報告とも一致しているが,今回は主観的データ の検証は行っていないため今後に委ねたい.一方,冷 え症について温度感受性という観点から研究した Nagashima ら(2002)は,冷え症者は冷感感受性が 増加していると述べており,Sadakata ら(2007)は, 冷え症者は非冷え症者とくらべて冷覚閾値に差はない が,温覚閾値が高いということを明らかにしている. 体表面の温度受容器は,温点・冷点として特に手掌, 手指掌側面,足底などの部位に密に分布している.両 点ともに,刺激の開始時に急速に順応する速順応型受 容器であると同時に,刺激が持続している間中,低頻 度でインパルスを発生し続ける遅順応型受容器でもあ る(Tortora & Derrickson 2012a).冷え症者におい ては,この温度受容器のもつ特性と冷感感受性や温覚 閾値の変化が,特に冬季において環境温が上昇して も,冷受容器がインパルスを発生し続けるために交感 神経活動の亢進を持続させていると思われる.そして この反応が,身体のなかでも特に温度感覚受容器が密 に分布している手や足といった四肢末梢で起こりやす いのだと考えられる.さらに,皮膚表面温は躯幹部 (深部温)と足趾で冷え自覚者に 〜℃の較差を認 め る こ と が 報 告 さ れ て お り( 定 方 ら 2007;高 取 1992),本研究結果においても核心温を反映する鼓膜 温と足趾とでは平均℃の較差が認められ,先行研究 と同様の結果が得られている. これまで冷え症の生理学的な機序について論じてき たが,そもそも健常者においてなぜこれほどまで核心 温と末梢皮膚温に較差が生じるのか,冷え症者と非冷 え症者で生体内に生じている根本的な違いは何なのか ということについて論をすすめる.楠見ら(2009) は,冷え症女性は非冷え症女性にくらべ基礎代謝量が 有意に低かったと報告している.また,冷え症者はエ 䡚 䡚 26 28 30 32 34 36 38 㰘⭷ 䛚䜘䜃⓶⭵  䠄Υ 䠅 ෭䛘⑕⩌ 㠀෭䛘⑕⩌

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n.s n.s n.s n.s ᵎ 㰘⭷  ๓㢠㒊 ྑᡭ⫼ ᕥᡭ⫼ ྑ㊊⫼ ᕥ㊊⫼ ྑᢺ㊑ ᕥᢺ㊑ 䠄㼚㻩㻝㻞䠅 䠄㼚㻩㻤䠅 図ઈ 冷え症群と非冷え症群の比較 −鼓膜温および 皮膚温− mean±SE **P<0.050.05≦P<0.1 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 㰘⭷ 䠄᰾ᚰ 䠅䛸ᮎᲈ⓶⭵ 䛾ᕪ 䠄Υ 䠅 ෭䛘⑕⩌ 㠀෭䛘⑕⩌ ྑᡭ⫼ ᕥᡭ⫼ ྑ㊊⫼ ᕥ㊊⫼ ྑᢺ㊑ ᕥᢺ㊑ 䠄㼚㻩㻝㻞䠅 䠄㼚㻩㻤䠅 図ઉ 冷え症群と非冷え症群の比較 −鼓膜温(核心 温)と末梢皮膚温の差−

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ネルギー摂取量が低く,食事との関連について指摘さ れている(高木ら 2011;永井ら 2008).からだの熱 産生は代謝率に比例していることから,代謝率の低さ が熱産生を減少させるともいえる.ヒトが核心温を維 持するためには,からだの熱産生の割合が熱喪失の割 合と同じでなければならない(Tortora & Derrickson 2012b).しかし,熱産生の割合が小さくなり,熱喪 失の割合が大きくなると,視床下部にある熱産生中枢 が交感神経を刺激し,皮膚血管の収縮を引き起こすこ とで末梢の血流量が低下し,熱放散を抑えるという機 序が働く.このことが,温度較差として現れ,さらに は冷え症者において安静時の交感神経活動が高まって いる原因ともなっているのではないかと考えられる. したがって,われわれは冷え症者と非冷え症者で生体 内に生じている根本的な違いは「熱産生量の違い」で はないかと推測した.ただし,本研究では基礎代謝量 やエネルギー摂取量を含め食事との関連をみる指標は 用いていないため,この生理学的実証については今後 の検討に委ねたい. 冷え症を判定するための方法として,冷水負荷試験 (山田ら 2007;楠見・江守 2009;森ら 2006)や起立 負荷試験(松本 2001;坂口ら 2011)が有用であると 述べている研究者も多くいる.これらは自律神経のバ ランスを変化させる負荷をかけることで交感神経活動 を亢進させ,冷え症の特徴をより顕在化させるもので あるため,冷え症か否か判定し難い対象者には有効で あるかもしれない.しかし,寒冷刺激の場合,健常者 でも痛みを伴うことがあり,この痛み刺激が精神的苦 痛を引き起こし,「異常な冷たさ」を自覚している冷 え症者に対してさらなる交感神経性血管収縮を誘発す る可能性がある.また,起立負荷試験の場合には,失 神を誘発する可能性もあり,両法ともに対象者の身体 的・精神的負担が大きいことが予想される.本研究に よって明らかとなった冷え症の生理学的なメカニズム を踏まえると,冷え症判定には負荷試験を行うまでも なく,冷え症者の核心温と末梢皮膚温の温度較差が 〜℃であることが判定基準となり得るだけでな く,測定部位は,末梢のなかでも最も顕著に皮膚温が 低下する足趾が適しており,さらに肌を露出しなけれ ばならない体幹部ではなく,簡便に測定可能な鼓膜温 を指標にできるということも実証できたといえる.主 観的なデータと,非侵襲的である自律神経活動の測 定・血流量測定・皮膚温測定は十分に役立つものであ り,かつ看護職でも測定可能であるという点からも有 用であると考える. 今回は生理学的機序を明らかにするうえで,血流量 の測定を行ったものの,測定装置がチャンネルしか ないために,皮膚温低下が著しい足背部ヵ所のみで あり,各群のなかで体幹部や上肢,下肢といった皮膚 温が異なる部位での血流量の比較について検討するこ とができなかった.また,本研究において冷え症調査 問診票と自覚症状の訴えが一致せず除外した 例につ いて,感覚閾値や感受性の違いか,他の理由によるも のか詳細な検討ができなかった.さらに,冷え症は幅 広い年齢層に出現することや,健常男性の 17〜21% が冷えを自覚していることがすでに報告されている (高尾 2005)ことを含め,層別における比較や性差に よる比較も今後必要であろう.

Ⅶ.結語

冷え症群は非冷え症群とくらべ,安静時の交感神経 活動が高く,副交感神経活動が低いことが示された. つまり,冷え症者は副交感神経活動リザーブが小さい ことを意味している.これに伴い,末梢の血流障害が 生じており,特に下肢末梢で顕著な温度低下が起きて いることを明らかにした. 謝辞:本研究を行うにあたり,茨城キリスト教大学大学 院の教職員の皆様,参加ご協力いただきました大学院生・ 学部学生の皆様に心より感謝申し上げます. この要旨は,第 11 回日本看護技術学会学術集会にて口 演した. 文献 小橋理代,脇坂しおり,林直樹,他(2009):ダイエット経験 者が若年女性の自律神経活動に及ぼす影響,肥満研究,15 (2),179-184. 楠見由里子,江守陽子(2009):成熟女性を対象とした冷水負 荷試験による冷え症の効果,日本助産学会誌,23(2),241-250. 松本勅(2001):末梢循環と冷えについて−冷え症者は何が違 うか−,Biomedical Thermology,21(2),64-68. 三浦友美,交野好子,住本和博,他(2004):青年期女性の 「冷え」の自覚とその要因に関する研究,母性衛生,42(4), 784-789. 宮嵜潤二,久下浩史,森澤建行,他(2011):自覚的冷え症者 の性別と冷え行動因子,健康関連 QOL,BMI の関連につい て,全日本鍼灸学会雑誌,61(2),174-181. 森英俊,坂口俊二,坂井友実,他(2006):冷え症の負荷サー モグラフィ,Biomedical Thermology,25(4),87-93. 永井成美,川勝祐美,村上智子,他(2008):食事の改善と運 動が若年女性の体組成と冷え感に及ぼす効果,肥満研究,14

(8)

(3),235-243.

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参照

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