研究ノート
トポロジカル・エントロピー
松 江 広 文
トポロジカル・エントロピーにおけるいくつかの重要な問題と予想を挙 げ,その背景および意味を解説するのが本稿の目的である。詳しい定義は 脈昿具体例は〔5〕に述べられているので参考にされたい。
1 定義およびBowenの結果
(X, d)をコンパクト距離空間(compact metric space),f:X→X を連続写像(continuous mapping)とする。
定義1.1 Xの部分集合Eか屈め ‑separated であるとは,任意のズ,
を満たすjが存在することである。
定義1.2 佃,幻一separatedなXの部分集合の最大濃度を瓦(0と書き,
と定義する。
定義1.3 fのトポロジカル・エントロピー(top010gical entropy) h{f) を
により定義する。
訂を,境界をもたないコンパクト微分可能多様体(compact differentiable
manifold without boundary)とする。 r回(1≦r≦oo)連続微分可能な 訂から訂へのdiffeomorphismの全体をDifr(M)とあらわす。 Bowert
〔2〕より,/6Diff(M)に対しては0≦/z(f)<ooである。また,戸の不動 点(fixed points)の個数をNn(f)とする。Bowen〔1〕により次の定理 が証明されている。
定理1.1 /eDiff(M)が「axiom A」を満たすとき,
i) Diff(M)におけるfの近傍Njヽで,すべてのg£Nパこ対して
を満たすものが存在する。
狙)/z(f)=oであるための必要十分条件は,f:M→訂の非遊走集合 (non‑wandering set)痢f)が有限集合であることである。
予想1 (Palis‑Smale〔6Dfd〕iff(M)が構造安定(structurally stable) であるための必要十分条件は,fが「axiom A」と強横断性条件(strong transversalitycondition.)を満たすことである。
この予想に関して,十分性はRobbin〔8〕, Robinson〔9〕により肯定的に 解決された。必要性が未解決である。これに関連して派生した問題がいく つかある。
問題1 /eDiff(M)が構造安定でfのトポロジカル・エントロピー /z(f)がOならば,fはMorse一Smale diffeomorphism か?
もし,問題1が否定されれば,予想1の必要性に反例が存在することに なる。なぜならば,問題1の条件を満たし,かつ Morse‑Smale diffeo‑
morphismでないfが存在し,さらに予想1の必要性が成り立つとすれば 次の矛盾が生ずる。すなわち,fは「axiom A」と強横断性条件を満たす
が,定理1.1の亙)によりjQ(f)は有限集合であるからy・はMorse一Smale diffeomorphismである!
定義2.1八Diff(M)がfのisotopy classにおけるsimplestdiffeo‑
morphismであるとは,次の(a),(b)を満たすことである。
(a)fは構造安定である。
(b) /のisotopy classにおける構造安定なdiffeomorphismのうちで は,/のトポロジカル・エントロピーが最小である。
問題1が肯定的ならば, Morse‑Smale diffeomorphism は simplest diffeomorphismでなければならない。
/eDiff(M)が「axiom A」と強横断性条件を満たせば/は構造安定で あり(定義2.1の(a)),また定理1.1のi)よりDiff(M)内のある近傍Ⅳ/
においてはy・のトポロジカル・エントロピーが最小である(定義2.1の(b))。
従って,この近傍Ⅳ/においてはfはsimplestdiffeomorphism である。
3 亙⊂Diff'‑(M)の定義とその性質
M゛をs次元微分可能多様体とする。fd)ifF(M゛)に対して次のよう な訂77 のハンドル分解(handledecomposition)Hを考える。
ただし瑳はゐ次元の円板(友一dimensional disk), int y凪はy凪の内部 (interior)をあらわす。
定義3.1 ハンドル分解Hにおいて,1≦もゐ≦陶,0≦j≦肖をみたすす
べてのi, fe, iに対してf(D{〉〈O}が0〉く£)r一jに横断的(transverse)で あるとき, /eTaと書く。
記号八THのとき,f(£リ〉〈O)とO〉く£)r‑jは有限個の点でのみ交わ
る。この点の個数を召右とする。が1を(i, k)成分とする陶×陶行列
‑‑
瓦はy鴎−y鴎‑1内のmaximal /‑invariant set であり,Kiの部分集 合硲はfl瓦の非遊走集合である。
定義瓦 Z H⊂Difr(M)とは次の(1),(2)パ3)を満たすfの全体からな る集合とする。
(1)fは「axiom A」と強横断性条件を満たす〇 (2) Mのあるハンドル分解Hに対して八T'
(3)fl瓦はfinite type のsubshift aにtopological conjugate であ り,fl硲はαの非遊走集合に制限したfinite type のsubshiftに topological conjugate である。
定理3.1 すべての/6Diff(M)は亙のある元にc small isotopic である。すなわち,HはDifF(訂)の中でc dense である。
八亙⊂DifF(M )ならば定義3.2の(3)の条件より,fの周期点(periodic points)の個数が数えられて,
である。
命題3.2 f6∬⊂DifF(訂゛)に対してfのトポロジカル・エントロピ ー/z(f)は1ogγである。ただしづ=max{│ら│}で,稲はGjの固有値 (f=1,‥・■・・, n,‑)である。
証明 定義3.2の(1)よりfは「axiom A」を満たし,定理1バLのn)より
1hか召(七)≒定数(有界)。
叫oリ=o阿 γ
fd)i笛(訂)とし,八り%XM; Q)→∬バ訂;Q)の固有値をλとす る。
を条件(c)と呼ぶことにする。
命題3.3 f H⊂DifF(M)ならば条件(c)が成り立つ。
証明 Gj=(gム)のかわりに交わりの符号も考えて数えたalgebraicin‑
tersectionnumber の行列をAj=(低)とする。このとき│妬│≦沢1 は明らか。
以上より八:坊(訂;Q)→柘(訂;Q)の固有値はAjの固有値であ る。ところが│貳│≦沁1より,Ajの固有値の絶対値のうちで最大のも のはGjの固有値の絶対値のうちで最大のものより小さいかまたは等し
予想2 条件(c)は「axiom A」および強横断性条件を満たすすべての diffeomorphismについて成り立つ。
Bowen〔3〕はfが「axiom A」とno cycle property を満たしdim£?(f)・
=Oならば条件幻が成り立つことを証明した。
問題2 fが「axiom A」と強横断性を満たす(あるいは構造安定)な らば, g^Hで/z(f)≧Kg)であるような,fにisotopicなgが存在す るか?
これが肯定的に解ければ,八=みであることと,/z(f)≧hig)≧max loglλlであることから,予想2が解決されることになる。
問題3 ][をDiffCM)の一つのisotopy class とする。条件(c)の等号 が成り立つようなffeH∩1が存在する条件は何か?
問題2,問題3が解決されれば, simplest diffeomorphism を求める手 段がみつかる。
問題3において,特にh(g) =max. loglλ│=Oに制限した場合は以下の 様な状況がわかっている。まずg^H, h(g)=Oより,gはMorse‑Smale diffeomorphismである。またfd)ifF(訂)をとるとき,
の固有値λに対し, max loglλ│=0とすると,八の固有値はすべて1のベ キ根である。ところが,一楽〔4〕に次の定理がある。
定理3.4 Mは6次元以上の単連結な多様体とする。 f゛ がMorse‑
Smale diffeomorphismにisotopicであるようなgが存在するための必要 十分条件は,
の固有値がすべて1のベキ根になることである。
この定理は,ホモロジーレベルの条件をチェーンレベルに置き換えれば 辨=1で成り立つ。
以上,トポロジカル・エントロピーに関して簡単にまとめてみたが,省 略した定義の細部や証明などは〔4〕,〔7〕に述べられている。
〔4〕一楽重雄:ホモロジー理論と力学系,力学系の総合的研究(数理解析研究所 講究録245), 1975, 133―142.
〔5〕松江広文:Di ffeomorphism と Topological entropy, 電気回路の力学系 (数理解析研究所講究録254), 1975, 153―162.