我が国における戦前の受益者負担金法制と「利益」
概念
著者 三木 義一
雑誌名 靜岡大学法経研究
巻 36
号 2
ページ 1‑33
発行年 1987‑10‑31
出版者 静岡大学法経学会
URL http://doi.org/10.14945/00008650
論
説
我が 国 にお け る戦 前 受の 益者 負 担 法金 制 と 益﹁利
﹂概 念
木 は
じ め に 我 が国 に お てい
︑ 受 益者 負 担 制金 度 が 採用 され た のは
︑ 周知 のよ う に大 正八 年 旧の 道 路法
︵大 正八 年 法律 五 八号
︶ お よ び 旧都 市計 画 法
︵大正 八年 法律 第 二 六号
︶ の制 定 には じ まる
︒ こ の負 担 金制 度 は戦 前 の都 市 計画 源財 と し て 一定 の役 割 を 果 たし てき た︒ 例 ばえ
︑ 昭和
〇一 度年 東の 京市 の場 合 を見 て みる と都 市 計 画財 源 のう ち負 担 金収 入が 約 八 o八
% も あ り
︵表 1︑ 2を 参 照︶ 今︑ 日 と比 較 す る と︑ 都市 計 画 にと てっ かな 一り 重要 な財 源 であ たっ と いえ よう
︒ し かし 結︑ 局 都は 市 計 関画 係 者 の期 待 し た はど は発 展 せず
︑ 戦後 にな ると わず かに 下水 道施 設 に つい て のみ 採 用さ れ て いる にす ぎ くな な てっ るい
︒ こ のよ う に︑ が我 国 にお てい 受益 者負 担 金制 度 が 定着 えし な か たっ 原 因 に つい ては
︑ これ ま で の研 究 によ てっ いく つか の点 が 指摘 され て いる 例︒ えば 桜︑ 井 氏 は︑ そ の原 因と し て① 公共 団体 に明 確 賦な 課 権が 与え ら れな か たっ こ﹄
︐ ②
国有 地 のよ う な無 租 地 に賦 課 しえ な か たっ こと
︑
③ 行政 官 僚 主導 型 で住 民 の支 持 が得 れら な か たっ 我が 国 にお ける 戦前 の受 益者 負担 金法 制と
﹁利益
﹂概 念 一
勇
/
経法 研究 三六 巻 二号
︵一 九 八七
︶ こ と
︑ 等 を 指 摘 さ れ て い る︒
︵表 l o昭 和 一〇 年度 東京 都市 計画 事業 費経 理状 況︶
* 東 京 市 役 所
﹃昭 和 一〇 年度
・東 京市 財 政 概 況﹄ 二〇 七 頁 より 作 成
※前掲書一七五頁より引用
本表は昭和9年度決算に依 る。
国税は市税附加税の標準額 とす。
府県税及市税には都市計画特別税を包含す。
区税には「 区に属する市税」の外学区税を包含す。
神戸市に県税なきは県費分担なるに依 る。
備 考 1.
2.
3.
4.
5。
合 計
財 産 収 入 納 付 金 負 担 金 国庫 補 助 金 府 補 助 金 財 産 売 却 雑 収 入 特 別 税 市 債
二〇︑三七三︑〇七五
八 七 三︑
〇 八
〇円 二七
︑ 八三 七 一︑ 七 八八
︑ 五 一六 一︑ 七 二九
〇︑ 六 八 六五
○︑
○
○ 六
︑ 五 七 五 一︑ 一 七︑ 六 三 二
︑ 一二 七
︑ 八 三六 一 一︑ 一全 一︑
四〇
〇
(表20各都市における負担金収入
)
東 京 京 都 大 阪 税
税 税 税 金 県
個隔 はP 枢 担 計
額 税 負
42,613,189 21,435,791 34,982,708 7,353,088 1,747,098 108,131,874
円 5,666,290 5,926,966 5,753,820 1,795,891 289,457 19,432,424
23,037,657 18,803,707 26,286,237 184,400 2,818,747 71,130,748
横 浜 神 戸 名 古 屋 税
税 税 税 金 県
個備 帷P 担駆 計
税 額
負
4,652,044間 3,428,870 4,473,821
31,379 12,586,114
円 10,791,908
11,130,082
159,920 22,081,910
5,162,484 4,151,382 5,904,305
26.573 15,244,7
ま た︑ 大 久 保 氏 も
﹁受 益 者 負 担 の実 施 に は 土 地 の 科 学 的 評 価 制度 確の 立 や
︑ 受 益 の程 度 に つ い て合 理 的 で説 得 的 な 評 価 の方 法 の確 立
︑ 対 象 者 権の 利 関 係 そ の他 多 く の技 術 的 な 問 題 が あ る︒ こう し た 問 題 が 十分 解 明 さ れ な い ま ま 実 施 さ れ た戦 前 の受 益 者 負 担 制 度 は
︑ 土 地 所 有 者 多に く 不の 満 を 残 し 大 き く 拡 が ら な い ま ま 戦 時 体 制 に突 入 し︑ 都 市 計 画 事 業 の中 止 と と も にす た れ て い たっ
﹂ こ と を あ げ て い る︒ 確 か に これ 等 問の 題 が 負 担 金 制 度 発 展 の阻 害 要 因 に な たっ こと は 否 定 でき な いと 思 わ れ る が
︑ な ぜ 住 民 に負 担 金 制 度 が 理 解 さ れ な か たっ の か 必 ず し も 明 確 に は さ れ て い な い よ う に思 わ れ る︒ 私 見 に よ れ ば
︑ 我 が 国 の 都旧 市 計 画 法
・旧 道 路 法 の受 益 者 負 担 金 制 度 が 十 分 な 発 展 を な し え た か たっ 最 大 原の 因 は 我 が 国 受の 益 者 負 担 金 法 制 が 抱 え て い る根 本 的 矛 盾 に根 差 し て い る よ う に 思 わ れ る
︒ よ り 具 体 的 に いえ ば
︑ 我 が 国 で は 受 益 者 負 担 金 制 度 が 前 提 と し た
﹁利 益
﹂ と 現 実 都の 市 計 画 等 に よ てっ 生 じ る そ れ と の間 に 著 し い 乖離 が あ り
︑ そ れ が 多 く の紛 争 を招 き
︑ さ ら に︑ か か る 紛 争 を 緩 和 す る た め に 裁 判 所 が 採 用 し た
﹁利 益
﹂ の具 体 的 内 容 が そ れ を 担 保 す る 法 的 制 度 を 欠 い た た め︑ 自 治 体 が 安 心 し て 徴 収 す る基 盤 を 失 てっ し ま たっ た め であ る よ う に 思 わ れ る︒ 本 稿 で は
︑ 右 の よ う な 視 角 か ら 負 担 金 法 制 前の 提 と な る 利﹁ 益
﹂ 問 題 を 中 心 に 戦 前 の負 担 金 法 制 お よ び 判 例 問の 題 点 に 検 討 を 加 え た い︒
︵1
︶ のこ 道旧 法路 の内 容等 に つい ては さ︑ あし たり 佐上 信 一 道﹁新 路法 ノ概 要﹂ 学法 協会 雑誌 三七 巻 一一 号
︵大 正八 年︶ 七 三 頁 以 下︑ 同
﹁新道 路法 ノ特 色﹂ 法 学協 会雑 誌 三八 巻 一〇 号
︵大正 九年
︶三 二頁 以下 池︑ 田宏
﹁道 路法 制定 ノ沿 車 新卜 道路 法 ノ精 神
﹂法 学論 叢第 二巻 四号 を 六号
︵大 八正 年︶ 等 を参 照︒ 律法 新聞 一五
〇八 号
︵大正 八年 月二 一〇 日号
︶は この 正改 によ 負る 担金 に つき 従︑ 来 は
﹁鉱 業山 者︑ 地主 家︑ 主 等が 自治 体 の道 新路 改設 築 に因 りて 特別 の利 益を 受く る場 合
﹂で も負 担を 求 める こと が でき な 不い 条 理を 改 めた もの とし て
﹁時 宜 に適 する も の﹂ と積 極的 に評 価 てし いた な︒ お︑ 佐上
・前 掲
﹁新道 路法 ノ特
﹂色 は
﹁道 路 二関 スル 費 用 ハ︑ 原則 トシ テ之 フ国 叉 ハ公 共団 体 ノ負 担 為卜 セツ 雖ト 其︑ ノ以 外 二於 テ︑ 特 二利 益 受フ クル 者 アル キト ハ︑ 其 ノ者 二対 其シ ノ費 用 ノ全 部叉 ハ 一部 フ負 担 セシ ムル ハ︑ 新道 我が 国 にお ける 戦前 の受 益者 負担 金法 制と
﹁利益
﹂概 念 一二
経法 研究 三六 巻 二号
︵一 九八 七︶ 四 路法 二 一貫 スル 神精 ナル
■コ
﹂ を指 摘す ると とも に 現﹁ 二全 国各 地方 二於 テ︑ 道県 改路 修 ノ為 下︑ 級公 共団 体 二於 テ潰 地 フ寄 付 ス ノル 慣行 ノ存 スル ハヽ 皆人 ノ熟 知 スル 所 ナリ
﹂
︵一 四二
︱〇 一四 二 頁一
︶と てし そ︑ れ以 前か ら
﹁寄付
﹂と いう 名 負の 慣担 行 の存 在 指を 摘し てい る︒
︵2
︶ 旧都 計市 画法 の全 般的 特色 等 に つい ては 高木 鉦作 市﹁都 計画 法﹂
︵﹃講 座
・日 本近 代法 発達 史第 九巻
﹄勁 草書 房︑ 昭和 三五 年︶ 一二 七頁 以下 及︑ 石び 田頼 房
﹃日 本近 代都 計市 画 の百 年﹄ 自治 体研 究社 昭︑ 和六 十 二年 一︑ 七〇 頁以 下等 を参 照︒
︵3
︶ も とっ も︑ それ 以前 にも 負担 類金 似 の制 度が な か たっ わけ では な い︒ 例え ば︑ 市制 一二 二条 には
﹁数 人を 利す る営 造物 の設 置維 持其 の他 の必 要な る費 用は 其 の関 係者 に負 担 せし む こる をと 得
﹂と いう 規定 があ り︑ 町村 制 一〇 四条 等 にも 同様 な規 定 があ たっ
︒ 美 濃部 達吉 こは れ らが 一般 に
﹁税
﹂と して 徴収 され てい る中 で︑ これ ら の性 質が 負担 金 であ るこ と を強 調し て い た︒ 例 え ば︑ 同
﹃日 本行 政法
﹄
︵有斐 閣︑ 昭和 一五 年︶ 八六 七頁 等参 照︒
︵4
︶ 桜井 良治
﹁旧 都市 計画 法期 にお け る受 益者 負担 金制 度 の問 題点 に関 す る考 察
﹂都 市計 画別 冊昭 五和 九年 度学 術研 究論 文集 第 九一 号 二三 五頁 以下 参照
︒
︵5
︶ 旧都 市計 画法 にお いて は受 益者 負担 金賦 課権 者が 公共 団体 であ のる か︑ 行政 庁 あで るの かに つい て争 いが あ たっ が︑ 昭和 五年 の 内務 省 の省 議 で次 よの う に行 政庁 説が 用採 され てい る︒ 受﹁ 益者 負担 金 ノ課 徴権 者ガ 行政 庁 ナル コト ハ都 市計 画法 第 二四 条 二於 テ 受益 者 二対 スル 担負 金 ハ行 政庁 二於 テ滞 納 処分 ノ例 二依 り徴 収 スル コト フ得 ルモ ノト 規定 シ又 同第 二五 条及 同 二六 条 二於 テ行 庁政 ノ為 シタ 処ル 分 二付 イ ノテ ミ訴 願訴 訟 フ提 起 スル コト フ得 セシ メタ ル点 於二 明テ ラカ ナ ルノ ミナ ラズ
⁝行 政庁 ガ課 徴 権者 ナル コト フ明 ラカ ニセ ント ス﹂ な︒ おこ 点の に つい ては 小︑ 栗忠 七
﹁受 益者 負担 制度
︵一
﹂︶ 地方 行政 四五 巻六 号
︵昭 和 一二 年︶ 六 一頁 も 照参
︒
︵6︶ 大久 保 昌 一編
﹃地 価 と都 市計 画﹄
︵学芸 出版 社︑ 昭和 五八 年︶ 二三 頁︒ 利 用 権 者 に 対 す る 負 担 制 度 と し て の 受 益 者 負 担 金
︱
︱ 負 担 金 と 土 地 増 価 税
︵1
︶ 都 市 計 画 財 源 と し て 土の 地 増 価 税 と 受 益 者 負 担 金 一般 に受 益 者 負 担 金 制 度 は公 共 事 業 に よ てっ 生 じ た開 発 利 益
・地 価 上 昇 を 土 地 所 有 者 から 吸 収 す る制 度 と し て 理 解 さ れ
て いる
︒ 仮 に戦 前 の受 益者 負担 金制 度 が この よう なも ので あ ると し たら
︑ そ れ はそ の限 り にお いて 一定 の合 理 性 を有 し て いた と いえ よう
︒ と いう のは
︑ 戦前 我の が 国 の各 種負 担法 制 では 地 主的 土地 所有 者 に与 え れら た開 発 利益 を吸 収す る制 度 が欠 如 し て いた から であ る︒ 例 えば
︑ 土 地保 有 課税 とし て の
﹁地
﹂租 課の 税標 準 た る評 価額 は︑ 実 際 の地 価 の上 昇 を全 く 反映 す るも ので な か たっ
︒ 周知 のよ う に︑ 宅 地 の場 合 明︑ 治初 期 の法 定 地価 が明 治 四 三年 ま で適 用 され
︑ そ の後 はそ 評の 価 が額 昭和 六年 の賃 貸 価格 への 切り 替 え ま で適 用 され
︑ この 評 価額 も後 に昭 和 一三 年 に評 価 替 えが 行 わ れ たに すぎ な か たっ し︑ こう し た評 価替 え で す 急ら 激 な負 担増 回避 の名 日 で 一定 額 の上 昇 に抑 えら れ て いた から であ る︒ ま た︑ 土 地譲 渡 課 税 とし て の所 得 税 にお いて も個 人 の土 地 譲渡 は課 税 対の 象 と はな てっ おら ず
︑ よう くや 昭和 一七 年 に 臨時 利得 税 と てし 導 さ入 れ ると いう 状態 であ たっ から で
あ る︒ し かし なが ら︑ 我 が国 の戦 前 の受 益 者負 担金 制度 は︑ こ のよ う な意 味 で 土の 地
﹁所 有者
﹂ から の地 価 上 昇吸 収 制度 と し て の趣 旨 を徹 底 し ては いな か たっ
︒ それ ど ころ か︑ む し ろ︑ 土 地
﹁利 用権
﹂者 に対 す る事 業 費 回収 のた め の負 担制 度 とし て の性 格 が強 か たっ ので あ る︒ この こと は以 下 の二 点 から 証 明 うし る よう に思 わ れ る︒ まず 第 に一
︑ 旧都 市 計 画法 上 の受 益 者負 担金 制度 は いわ ゆ る土 地増 価 税 と ワ セン トッ のも のと し て構 想 され て いた こと あで る︒ す な わち
︑ 都旧 市計 画 法 当の 初 の法 案 によ れば 都︑ 市 計 画事 業 のた め の財 源 とし て同 法 六条 の受 益者 負 担 金以 外 に︑ 第 七条 にお いて 公共 団体 が賦 課 うし る税 とし て① 土地 増 価税
②︑ 改良 税︑
③ 間 地税
④︑ 戦 時利 得税 付 加税 の四 つが 明記 され て いた ので あ る︒ この う ち︑ 間 地 税 と いう のは わい ゆ る未 建築 地 税 のこ と であ るが
︑ 改良 税 と土 増地 価 税 は くよ 似 た性 質 の租 制税 度 であ り︑ 前 者 は純 粋 開の 発 利益 を後 者 土は 地 いの わゆ る自 増然 価 を︑ そ れぞ れ対 象 とす るも との し て 一応 区別 我が 国 にお ける 戦前 の受 益者 負担 金法 制と
﹁利益
﹂概 念 五