実際原価計算の長所と短所(その3・完)
佐藤好孝
目 次
I 実際原価の確認とその問題点
Ⅱ 実際原価計算の性格 1.過去計算であること 2.全部原価計算であること
3.原価通算の原理によって原価の計算が行なわれること
Ⅲ 実際原価計算の長所
1.費用・収益対応の原則の適正化に役立つ 2.個別利益の測定に役立つ
3.財務諸表作成のための原価配分に役立つ
(1)原価配分の第1段階
(2)原価配分の第2段階
(3)原価配分の第3段階
Ⅳ 実際原価計算の短所
1.製造間接費配成計算に対する欠陥
(1)批判グループの主張と原価思考の開発
(2)精密化グループの努力と原価思考の開発
(その1)
(その2)
Ⅳ 実際原価計算の短所
2.価値計算に対する欠陥と原価思考の開発
わが国「原価計算基準」が「実際原価は,厳密には実際の取得価格をもっ て計算した原価の実際発生額である」と規定しているように,実際原価計算 の本来的な形態は,今世紀の10年代の末期にシュマーレンバッハ教授によっ て現代の消費主義原価理論思考(拙著「実際原価計算」同文舘,13−15貢;20−
24頁)が開発されるまでは,製品生産のために消費されたすべての財貨数量
が,支出時における実際の現金支払額もしくは現金等価額によって測定され
3 0 経 営 と 経 済 る歴史的原価 ( h i s t o r i s c h eK o s t e n )の計算であった。このため,製品の実 際原価の計算は,景気変動・季節変動・流行の動向・産業構造変化への対応 など,いわゆる経営外部の市場経済の変化によって起こる価格変動とか賃率 変更とかの影響を強く受けた。そこで,実際原価計算の本来的な形態は,そ の発生当初から価値計算すなわち原価の評価 (Bewertungd e r K o s t e n ) に 対して,計算技術的ないし実践的な側面からも,また原価理論の側面からも 多くの難点を包蔵していた。
その難点の一つは,周知のように,欧米の国民経済は, 1 9 世紀の中葉から 今世紀の初頭にかけて急速に発展し,英国の産業革命(i n d u s t r i a lr e v o l u ‑ t i o n )より少し遅れてその洗礼を受けた米国の経済社会を例にとってみて
も,次掲の統計表(尾上一雄著「アメリカ経済史 J 9 5 頁)にみられるように,企 業規模は著しく拡大した。これと同時に,経営経済ならびに科学技術はめざ ましい発達を遂げ,その結果製品の高度化・量産化が進み,企業が各程の原 材料・補助材料・工場消耗品を大量に使用するようになったという経済的・
社会的背景に由来している。
企業数 投下資本額 賃金労働者数 生産高
1 8 5 9 年 1 4 万 1 0 億ドノレ 1 3 1 万人 1 9 { 立ドノレ
1 8 6 9 年 25 万 2 1 億ドノレ 205 万人 3 1 億ドノレ
1 8 7 9 年 25 万 28 倍、ドノレ 2 7 2 万人 5 4 億ドノレ
1 8 8 9 年 36 万 6 5 i 意ドノレ 425 万人 9 4 億ドノレ
1 8 9 9 年 5 1 万 98 億ドノレ 530 万人 1 3 0 { : 意ドノレ
1 9 0 9 年 1 1 5 万 1 8 4 1 : 意 ド ノ レ 6 6 3 万人 207 億ドノレ
というのは,たとえ同一材料であっても,市況によってそれぞれ異なった
価格で購入される場合が多く,同一価格で購入されるとは限らない。そこ
で,多種多様な材料(原材料・補助材料・工場消耗品〉を大量に使用する企業
においては,それぞれの材料の消費数量について,その純粋の実際価格で個
別的に把握する乙とが著しく困難となった。そのため,材料の実際価格によ
る個別把握は,きわめてまれにしか行なわれず,その代りに実務界では,加
重平均ないしは移動平均された実際価格の平均値による評価が行なわれてい
7
こ。注. ガーナー教授もその著書「原価計算の発達史 J (Garner , S . P . , E v o l u t i o n o f Cost Accounting t o 1 9 2 5 , P . 102‑108.) において、 1 9 世紀の末葉から 2 0 世紀の初頭にかけて、本文で述べた材料の消費価格の決定に加重平均法ないしは 移動平均法が、欧米の実務界で広く採用されていた乙とを明らかにしている。
こうした慣行は,もちろん計算技術上の観点からくる計算の単純化ならび に迅速化という実践的要求からきたのであるが,乙れはもはや厳密には実際 原価計算の基本的原価思考の前提となっている純粋の実際価値とはいえな い。こうした現実が,実際原価計算の基本的原価思考(財貨の実際消費数量×
その財貨の取得価格〉と実務界の会計実践(財貨の実際消費数量×加主平均価格・
移動平均価格〉との聞に生じた隔離との矛盾を理論的にまた計算技術的にど のようにして解決して行ったらよいかという問題の提起となって現われてい 7
こOいま一つは,先にも述べたように, 19 世紀の中葉から 20 世紀の初頭の時代 にかけて,製鉄業を初めとして,各産業分野にわたって,企業の経営規模が 著しく拡大した。これは,一方では工場規模の飛躍的な巨大化,他方では巨 大工場の地域的分散という現象となって現われた。
この結果,異なった業種に属する事業場が多角的または凝集的に結合した 複合経営 (gemischteB e t r i e b e ) においては,一経営部門から他の経営部門 に引波される給付の振替価格の評価問題が起ってきた。
一方単純工場 ( r e i n ewerke) においても,工場規模の巨大化と共に急速 に計算技術的には非独立的に計算される生産単位としての原価部門の部門化 (主要部門ないしは製造部門・副経営部門・補助部門)が進み,それに伴って,次 掲のような経営内部的給付(i nnerbetrieb 1 i cheLeistungen)な ら び に 最 終 給 付 ( E n d l e i s tungen)の評価問題が起っていた。いま,その事例の主なもの を挙げれば,次の如くである
O(A) 経営内部的給付の評価事例
補助経営部門(例 i えば、工具製作部・修給部・動力部・運搬部〉あるいは
工場管理部門(例えば、材料部・労務部・その他〉から製造部門に提供する
3 2 経 営 と 経 済 物的財(例えば、自家生産の工具・電力・その他〉ならびに用役給付などの 評価問題。
(B) 最終給付の評価事例
( イ ) 作業屑が生じた場合の作業屑の評価問題。
(ロ)