経営と経済第78巻第3・4号1999年2月
進展する情報化,価格競争の下でのマーケティングの再編成
−最 終 講 義−
梶原禎夫
Abstract
Consumers has now begun to behave as problem solvers who always use a wide range of information available from various sources and are strengthening their analyzing abilities, thereby lessening effects of a marketing strategy intended to induce con- sumers' choice to some specific brand by offering highly differentiation policy.
Furthernore, enterprises are now forced to modify their present marketing strategy in operation. So far, they have taken advantage of offering a wide variety of alternatives, enabled by the frequent introduction of diversified new products, to manipulate con- sumers rather than facilitate their choice for benefits. But, the improved ability to ac- cess and process information on the side of consumers means that they are extricating themselves from such manipulation, thus urging enterprises to modify the marketing behavior.
In the price sensitive American and European markets, new products based on ad- vanced technologies are usually launched without making such an excessive product differentiation as is often done in Japan. In these cases, to have market power in the distribution, it is the price that usually matters. In the Japanese market, however, en- terprises have been successively introducing new differentiation in products, and it has served as a driving force to promote the development of products as well as in the competition in technology. Consumers have tended to react to new differentiated products continually rather than to prices, and as a result, differentiation in products and manufacturers' administered distribution channels developed.
Globalization of economy also is pressing for transformation of the Japanese type marketing and distribution system. But it is behavior of consumers that has far more contributed to changes in the competition process, andthe Japanese business system has begun to change itself. From now on, the structure formation of system between enterprise and comsumers becomes keymarketing strategy foundation. Consumers are spontaneously approaching to enterprises and expecting in development of mutual im- formation interchange.
目 次
Ⅰ.情報化,価格競争とブランド形成
Ⅱ.消費者行動・競争メカニズムとマーケティング
Ⅲ.情報処理・通信システムと産業社会
Ⅳ.関連研究概要
1 .情報化,価格競争とブランド形成
1 . 情報化,価格競争とブランド形成
日本と比較して,欧米ではメーカーと流通企業の関係が自由で,価格競争 維持の条件が整っており,価格競争の過程で過剰な製品差別化が進むことな く,新技術に基づく製品開発が進展するのに対し,日本では,企業は新しい 製品差別化を継続的に導入し,この差別化競争が牽引する,技術競争が展開 され,製品開発がより強力に推進されてきた。消費者は価格よりも,差別化 に反応し,製品と流通経路における高度差別化が進行した。高度に差別化さ れたマーケティングの展開は市場を不透明にし,製品差別化の開発により創 出された技術差と共にエントリーを困難にしてきた。また,日本市場と欧米 市場の間での価格差を生む市場・流通機構を形成することにもなった。
1 9 7 3 年秋の石油危機を契機とする消費者行動変化の影響は,流通過程にお けるメーカーを中核とする支配構造を基本的に変更するまでには至らなかっ た。自主的消費者行動の発展は,流通企業の創造的市場行動の機会を拡大す るものでもあったが,流通業のこの新しい市場機会への適応は遅れた。石油 危機に続くインフレの収束,景気回復,所得上昇による消費支出拡大のもと で消費者行動は自由な行動の延長線上で個性化,多様化,高級化するが,主 要メーカーは研究開発の強化,多様な製品機能の開発,製造と物流の効率化,
競争価格政策の実施などを推進し,流通企業の市場対応を支援しながら新し い消費者行動に適応し,メーカー中心の流通機構を新しい次元で維持しつづ けることとなった。
1 9 8 5 年秋の円/ドル為替レートでの円急騰,その後の円高基調のもとでも
解消しない日本の経常収支不均衡のもとで,日本市場の開放についての世界
的要求が高まるが,この過程でしだいに日本の競争的でない経済システムの
特徴が鮮明にされてくる。公的規制や,供給源に対し反応的でない日本の流
進展する情報化,価格競争の下でのマーケティングの再編成 9 1 通システムにより価格競争の機会が制限され,内外価格差が発生し,その内 外価格差情報が広範に流された。さらに,高頻度で反復される新製品導入が 深く関わる資源浪費や環境破壊が批判されるようになった。消費者のインテ リジェンスの高まりと共に,自己の経験からえられた
4情報ばかりでなく,各 種の媒介を通じてえられる広範囲な情報を利用する消費者層が拡大した。こ の傾向はここ数か年間で顕著にみられるようになり,消費者行動の変化とな って現れた。
消費者による情報利用の拡大は,購買や消費・使用の経験によりえられた
情報によって選択対象をしだいに限定する,従来一般にみられた消費者行動
の習慣化を後退させた。消費者は市場において常に広範な情報を利用する問
題解決者として行動する傾向を強めており,製品を高度に差別し,消費者行
動をブランド選択に収数させるためのマーケティング政策の効果を減退させ
つつある。また,企業は,高頻度,高密度の新製品導入による消費者操縦を
可能にしてきたが,消費者の情報処理能力の向上は,このような消費者操縦
フレームからの消費者の脱却を意味しており,企業にマーケティング行動の
修正を迫ってきた。価格に敏感な欧米市場では,流通過程における価格競争
の過程で過剰な製品差別化が進行することもなく,新技術に基づく製品開発
が進展する場合がみられたが,日本市場では,企業は新しい製品差別化を継
続的に導入し,この差別化競争が牽引する製品開発,技術競争が展開されて
きた。消費者は価格よりも,継続的に導入される差別化に反応し,製品と流
通経路における高度差別化が進められてきた。また,価格への反応を低下さ
せた市場・流通機構は日本市場と欧米市場との間で価格差を生むことにもな
っていた。経済のグローパ } V化はこのような日本型マーケティング・流
通システムの変革を迫ってきたが,ょうやく新しい消費者行動が競争メカニ
ズムの変革をもたらし,この日本市場システムは自ら構造変化を遂げつつあ
る 。
1 . 1 進展する情報化,価格競争とブランド戦略
日本の消費市場も「情報化,価格競争の中での製品差別化競争/ブランド 確立」という米国市場型に変容しつつあり,今後はブランド戦略もこの方向 での展開が主流となる。一般に価格競争が導入されると,消費者行動は計画 化ないし自立化に向かう。消費者は価格に反応してブランド選択を変更し,
経験的情報をえて選択対象とするブランドの範囲を拡大し,特定ブランドへ の選好を止める傾向に向かう。ここで消費者は価格への反応を強めるだけで なく,製品仕様の違いなど製品の実質差ないし技術差にも敏感になり,同時 に消費者にとり実質的意味の少ない差別化や純粋の心理的差別化,同じメッ セージを繰り返す大量反復広告,消費者が必ずしも要求していない販売促進 的サービスなどへの反応を低下させる。価格競争過程での消費者のブランド 選択遷移は,例えば市場で高品質ブランドと低品質ブランドが供給されてい る場合に価格水準の低下が生じると消費者の選択は価格の低下した高品質ブ ランドへとシフトする。同時に価格が低下した低品質ブランドより価格低下 による消費者の利益が大きいからである。このように価格競争過程で消費者 は製品差やブランドをより意識するようになり,供給者はこの新しい市場要 求への対応を迫られる。また,情報化も消費者の意思決定における広範囲新 鮮情報の利用を促すと同時に,分析力と選択能力の強化を通じて消費者の自 由なブランド選択を推進する。
価格競争,情報化はブランド選択の自由化を促すが,一方企業に対しては 新しいマーケティング努力を強いることになり,この企業の対応はさらに消 費者の新しいブランド選択を生んでくる。 1 9 8 0 年代後半以降,わが国でも国 際化・情報化の下で,消費者の自由なブランド選択への傾向がみられたが,
しかしここ数年の間,不況下でみられる価格競争の過程で,消費者は新しい
型の選択行動のパターンを示しつつある。この新しい消費者行動は,市場の
国際化,価格競争の進行,対応する企業のマーケティング活動によってもた
らされているのに加え,健康/安全性/信頼性指向を含む問題解決型の新し
進展する情報化,価格競争の下でのマーケティングの再編成 9 3 い行動パターンの形成をその基盤にもっている。
また価格競争は今後より広範囲,かっ深化し,米国型に接近する。例えば,
「集団の消費のための購入」と「個人消費だけのための購入」の間で,意思 決定の仕方が異なるが,家計消費では個人消費以上に,感性的要求が作用す ると共に家族のために情報を求め,コスト意識も強く,価格,バラエティに 対し,よく反応するという特性が今後日本でも価格競争の過程でより鮮明に なる。基本的には,家計での購買意思決定は,家族構成員間での相互の利益 と満足がえられる結果を求めて同意をうるための方策,説得等の過程を含み,
個人の意思決定の場合より,高度の合理性が追求される。
日本の消費者市場は,今まさにこのような市場変化の真っ只中にある。
1 9 8 0 年代後半以降,特に 1 9 9 0 年代に入つての情報化の進展の下で消費者は特 定のブランド離れの傾向をみせ始めたことと,最近では市場の国際化と不況 の中にあって,企業間には価格競争の展開がみられるようになった。価格競 争と情報化の過程での消費者の特定ブランド離れと並行して,信頼性の高い 情報をえて,問題解決型に接近する,消費者の新しいブランド選択のパター ンが発展しつつある。主要消費財のいずれをみてもブランド間シェアの変動 がみられ,新しいブランドの進出もみられる。
価格競争の過程で生じる製品差別化競争は,消費者を,供給源に対して関 心を高める方向に推し進めて行く。この傾向は価格競争が支配的である米国 において顕著にみられたが,ょうやく日木もこの傾向が強化されつつある。
また情報化社会の進展も消費者の供給源への関心を高めて行く。主要消費財 購買では,多くの消費者が,小売庖での表示だけで満足せず,生産過程につ いての情報を求めており,生産者マーケティングの展開を期待しているとい える。また,ほとんどの消費者が,製品特徴を説明している広告に関心をも つことからも,生産者マーケティングへの消費者の期待が伺える。
1
. 2 ブランド確立の効果
ブランドは,製品差別化を基礎とする,生産者,流通業者,消費者等の間
でのパートナーシップの形成をその内容としており,ブランド確立の効果は 供給者にとっては消費者が,①より多く購入する,②消費者がより高い価格 を払う,①情報交流,等であり,消費者にとって効果は,①購買リスクの削 減,②選択の単純化,③選択時間の短縮等である。ブランド確立の効果には 単に消費者の反復購買を推進するという取引面だけに限られるのではなく,
生産者と消費者の聞のより近い関係,相互作用の関係の形成が期待される。
図 lは,製品差別化,価格,利幅と市場でのブランドの位置,競争水準の 諸関係を図示したものである。同図は,製品差別化の水準が高いほど,ブラ ンド力は強く,競争は後退し,価格は高くなり,利幅も拡大することを示し ている。製品差別化は絶対的な水準ではなく,他の競争製品との聞の,その 心理的なものも含めての製品差であり,製品に変更がないままで緊密な代替 製品が多くなればそれだけ企業聞の製品差別化は圧縮されてくる。小売市場 で大都市,特に東京市場では,消費者のショッピング範囲内の複数庖舗の品 揃えを併せてみると,そこには代替性の高いブランドが多数存在し,競争水
低
(競争水準)
主同当~¥
│利ブランド力の水準
低