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高等学校における特別支援教育の推進に向けて

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高等学校における特別支援教育の推進に向けて

—  総合的な学習の時間の実践を通して  —

藤 井 慶 博

Promoting special needs education in high schools:

In practice in the Period for Integrated Studies

Yoshihiro FUJII Abstract

  The research investigated into practice of Period for Integrated Studies called Pascal Time at Akita Prefectural Omonogawa High School, for promoting special needs education in high schools. The study was conducted in the form of analysis of Pascal Time content and interviews with school representatives. The results showed effect not only on development of students requiring support but also the development of schoolteachers and other students.

Additionally, it contributed to the growth of school culture aimed at "all schoolteachers engaging in the development of all students." In view of the findings, the study proposes the need for (1) improvement of the students' self-understanding and social skills, (2) approach in education toward "normalized support education"

(for teachers and students) and (3) creation of special support education that is adapted to the school culture, for promotion of special needs education in high schools.

Key words : Special needs education, high school, Period for Integrated Studies

Ⅰ はじめに

 2009 年8月,特別支援教育の推進に関する調査研究 協力者会議に設置された高等学校ワーキング・グループ は,「中学校において発達障害等により困難のあるとさ れた生徒が高等学校に進学しており,地域差や課程・学 科による差異はあるものの,平均すれば生徒総数の約 2%程度の割合で発達障害等困難のある生徒が高等学校 に在籍している状況が窺える」と報告した。このように,

近年,高等学校においては発達障害等の生徒に対する支 援の在り方が課題となっており,高等学校における特別 支援教育の推進が求められてきている。文部科学省は 2007 年の「特別支援教育の推進について(通知)」に基 づき,「高等学校における発達障害支援モデル事業」や 研究開発学校制度により,高等学校における支援の在り 方について研究を進めてきた。また,2009 年3月に告 示された「高等学校学習指導要領」には,障害のある生 徒の指導について,「各教科・科目等の選択,その内容 の取扱いなどに関する必要な配慮をすること」や「特別 支援学校等の助言又は援助の活用」,「指導についての計 画又は家庭や医療,福祉,労働等の関係機関と連携した 支援のための計画の作成」,「個々の生徒の障害の状態等

に応じた指導内容や指導方法の工夫」等が示された。こ れらの成果として,全国の公立高等学校における特別支 援教育に係る「校内委員会」の設置率は,2006 年度の 25.2% から 2013 年度には 99.4% に,また,「特別支援教 育コーディネーター」の指名率は 2006 年度の 18.5% か ら 2013 年度には 99.9% へと飛躍的に向上してきた。

 一方,市川(2013)が「高等学校における特別支援教 育は始まったばかり」と指摘しているとおり,校内支援 の機能について見ると,2013 年度における「個別の指 導計画」と「個別の教育支援計画」の作成率はそれぞれ 29.8%,25.9% とまだまだ不十分な状況がうかがえる。

実際,筆者が委員を務めている秋田県の特別支援教育に 関する「専門家・支援チーム(県央地区)」の会議にお いても,「管理職が替わってから,校内支援体制が弱く なった」,または「担任が替わったとたん,これまで問 題視されていた生徒の行動が激的に改善された」等,校 内支援体制や生徒への支援が,管理職や担任教師により 大きく影響を受けるといった指摘が大勢を占めるなど,

組織としての脆弱性を感じざるを得ない。この要因とし

て,高等学校にはもともと特別支援学級や通級指導教室

といった特別支援教育に関するリソースがなく,特別支

(2)

援教育に対するマインドが醸成されにくいことや,高等 学校における特別支援教育の実践が徐々に紹介されるよ うになってきてはいるものの,その歴史はまだまだ浅い ことがあげられる(藤井,2014)。高等学校における特 別支援教育が先に述べたような脆弱性を孕みながら取り 組まれている状況は否めない。

 このような状況の中,本稿では,1999 年の学習指導 要領改訂における総合的な学習の時間の創設とともに,

生徒の自己肯定感の向上やソーシャルスキルの習得等に 長年にわたり取り組み,成果を上げてきている秋田県立 雄物川高等学校の「パスカルタイム」の実践を分析する ことにより,高等学校における特別支援教育の推進につ いて検討することとした。

Ⅱ 雄物川高等学校と「パスカルタイム」の概要 1 雄物川高等学校の概要

 秋田県立雄物川高等学校は,秋田県横手市雄物川町に ある全日制の高等学校である。1951 年,秋田県立沼館 高等学校として創立,1975 年には秋田県立雄物川高等 学校と改称され,2014 年度で創立 63 年目を迎える。普 通科9学級で,生徒数は 319 名,本務教職員数は 32 名(い ずれも 2014 年5月1日現在)である。「正しく・豊かに・

美しく」の校訓のもと,生徒・教師・保護者の三者相互 の理解と信頼感を大切にし,総合的な学習の時間「パス カルタイム」や朝の集い,全職員による校門での挨拶指 導等の特徴ある教育活動と幅広い体験学習を行っている。

また,部活動では,男子バレーボール部のインターハイ,

全日本バレーボール高等学校選手権大会(春高バレー)

ともに 20 年連続出場をはじめ,美術部の全国高等学校 総合文化祭への作品出展の他,吹奏楽部はこれまでに東 日本学校吹奏楽大会で金賞を受賞し,東北大会では 2009 年度から3年連続で金賞を受賞している。

2 総合的な学習の時間「パスカルタイム」

 1)パスカルタイムの概要

 パスカルタイムは,「現代社会をたくましく生き抜く 社会人(職業人)の育成」を目指し,総合的な学習の時 間に位置づけられている。表1はパスカルタイムを構成 する領域であり,各領域の頭文字をとって「PASCAL 

TIME」と名付けられた。

 2)パスカルタイム創設から現在までの経緯

 パスカルタイムが創設された背景は,「パスカルタイ ム〈8年間の実践記録集〉」(秋田県立雄物川高等学校,

2009)に次のように記されている。

 このような背景のもと,1999 年の学習指導要領改訂 により実施されることとなった「総合的な学習の時間」

の創設を契機に,雄物川高等学校では,「学校の課題を クリアすると同時に,生徒の在り方生き方指導をする」

といった方向のもと,人格形成を含めたキャリア教育が できる指導内容を検討した。そして,2002 年度の本格 実施以降,毎年度,継続的に改善や新たな取組がなされ てきた(表2)。

表1 パスカルタイムの構成領域 Psychoeducation(心の教育)

Assertion Training(相互尊重の自己主張)

Structure Group Encounter(構成的グループエンカ ウンター)

Social Skill training(ソーシャルスキルトレーニング)

C A reer Guidance(キャリア教育)

Life Skill(ライフスキル)

を学ぶ TIME(時間)

表2 パスカルタイムの年度毎の取組状況 1999 年度 総合的な学習の時間委員会発足 2000 年度 方向性と内容の決定

2001 年度 試行年度 2002 年度 本格実施年度

2003 年度 3年間の実践内容決定年度 2004 年度 2年生の内容を大幅改訂 2005 年度 ライフスキルと性教育の充実 2006 年度 コミュニケーション能力の向上 2007 年度 3年生ビジネスマナー講習の導入 2008 年度 課題や反省点を踏まえた改善 2009 年度 コーチング導入

2010 年度 学年主導による運営 2011 年度 パスカルⅡ発表及び計画 2012 年度 基礎学力向上の取組み 2013 年度 セルフコーチング導入

 十数年前の本校は,生徒の半数以上が積極的ではな い理由(主に成績の関係)で入学していたため,自己 有用感が低く,自分の将来に対しても消極的な生徒が 多く見られた。保護者も,家から通えるところに就職 し,家を継いでもらえればそれでいいという考えが根 強かった。そのため,高校生活を自己実現の場とする 者は少なく,卒業するのが当面の目標である者の方が 多かった。また,人間関係のトラブルや校内外の問 題行動も少なくなく,担任の心労も日々絶えなかっ た。そして,そういった高校生活を通して選択した進 路だったために,卒業生の離職率も高いという実情が あった。

 また一方で,高卒者の就職難が厳しさを増し,一段

と即戦力を求める時代になった現在,半数以上が就職

希望者という本校にとって抜本的な学校改革と指導体

制の改造を迫られていた。

(3)

 3)パスカルタイムの目標と指導内容

 パスカルタイムの目標を表3に示した。これらの目標 を達成することにより,自己肯定感を高め,自己実現に 挑戦する雄物川高生を育てることとした。表4は,2014 年度の各学年の指導内容である。1学年では「新しい自 分を発見する」とのテーマのもと SGE(構成的グルー プエンカウンター)を中心に,2学年では「自分の適性 と向き合う」とのテーマのもとインターンシップを中心 に,3学年では「進路目標達成に挑戦」とのテーマのも と進路指導を中心に指導内容が設定されていた。

 4)パスカルタイムと関連した取組: 「朝の集い」,「登    校時一声運動」

 2001 年度の学校創立 50 周年を機に,学校活性化のた めに様々な学校改革事業が推進された。その一つに「朝 の集い」がある。この内容は,「校歌斉唱」,「生徒によ るパブリックスピーチ」,「生徒指導講話」,「教師による パブリックスピーチ」等である。「朝の集い」により,

全校の生徒と教師の一体感が育まれ,生徒が自己開示で きるようになるとともに,他の生徒がそれを真摯に受け 止める態度を育成する機会ともなっている。

 「朝の集い」と同時に「登校時一声運動」も始められ,

毎朝,生徒の登校時間に合わせて,管理職や朝自習等の ない教師が玄関や駐輪場などで生徒と挨拶を交わしなが ら,生徒の状況を把握したり,整容面の指導を行ったり している。

Ⅲ 調査対象と方法

1 調査①:高等学校における特別支援教育の観点によ  るパスカルタイムの分析

 パスカルタイムとして行われている全学年の 97 授業 の指導内容(表4)を分析対象とした。分析方法として,

筆者(2014)がまとめた「高等学校における発達障害の 生徒に対する望ましい支援の内容」をもとに,「自己理 解」,「他者理解」,「社会性・コミュニケーション」,「進

路への意識とインターンシップ」,「生活習慣・問題行動 対応」といった5つの観点を設定した。本稿では,これ らの観点を「高等学校における特別支援教育の観点」と 命名し,パスカルタイムの各授業にどの程度含まれてい るかを分析した。分析にあたっては,筆者が原案を作成 し,それを雄物川高等学校のパスカルタイム担当教員に 確認・修正してもらい決定した。

2 調査②:「パスカルタイムと特別支援教育との関係」

 に関するインタビュー調査

 パスカルタイムに関わってきた校内外の関係者を対象 に,「パスカルタイムと特別支援教育との関係」に関す るインタビュー調査を行った。対象は,現校長,前校長,

進路指導主事,生徒指導主事,パスカルタイム担当教諭 2名,特別支援教育コーディネーター(養護教諭),旧 職員(在職当時のパスカルタイム委員),スクールカウ ンセラーの計9名であった。インタビューは半構造化面 接法を用い,2013 年5月から 2014 年 10 月にかけて実 施し,所要時間は1名につき1時間程度であった。

Ⅳ 結果と考察

1 調査①:高等学校における特別支援教育の観点によ  るパスカルタイムの分析結果

 表5は,パスカルタイムの指導内容を,高等学校にお ける特別支援教育の観点により分析した結果である。最 も大きな特徴として,1〜3学年のほとんどの授業に「自 己理解」に関する観点が含まれていた。次いで,「生活 習慣・問題行動対応」と「進路への意識とインターンシッ プ」に関する観点がそれぞれ 5 割以上の授業で扱われて いた。「社会性・コミュニケーション」に関する観点は 4割程度,最も少なかった「他者理解」に関する内容で あっても3割以上の授業で扱われていた。

 このように,パスカルタイムの内容には,高等学校に おける特別支援教育の観点が豊富に含まれていた。特に

「自己理解」に関する内容は,ほぼ全ての授業で扱われ ており,「自己発見を促進させる」ことをパスカルタイ ムの目標の筆頭に掲げ,その目標の実現に取り組んでい る姿勢を具体的に確認することができた。また,パスカ ルタイムがそもそもキャリア教育に主眼を置いているこ とから「進路に対する意識とインターンシップ」に関す る観点が多く含まれており,学年進行にともないその割 合が高くなっていることも確認できた。さらに,「社会 で通用する大人(人間)の育成」や「心身の自己管理」

として,食育,ドメスティックバイオレンス,薬物乱用 防止等,時代や社会の変化に対応した取組もなされてい た。

表3 パスカルタイムの目標

① ふれあいを通した,多面的な自己発見を促進させる。

② 社会で通用する大人(人間)になるための考えと行 動を身につけさせる。

③ 進路実現,自己実現の意識を高め,行動変容につな げさせる。

④ 心身の自己管理の仕方を身につけさせる。

⑤ 世界内存在(多くの人に支えられていること)を自 覚し,感謝と思いやりの心を育む。

⑥ 資格取得を含む,個人の様々なスキルアップを支援

する。

(4)

表4 パスカルタイムの指導内容(2014 年度)

№ 【1年……新しい自分を発見する】 【2年……自分の適性と向き合う】 【3年……進路目標達成に挑戦】

1 オリエンテーション SGE「初めての出会いを大切に」 SGE「リレーション作り」① SGE「リレーション作り」

2 スクールアイデンティティ集会「雄物川高校生の目指す生徒像」(全学年合同)

3 キャリア「進路講話・高校生の心構え」 SGE「リレーション作り」② キャリア「進路講話・社会人マナー1」

4 キャリア「目標を立てよう」 キャリア「目標を立てよう」 キャリア「目標を立てよう」

5 ライフスキル「交通安全講話」①(全学年合同)

6 集団行動・危機管理「避難訓練」(全学年合同)

7 ライフスキル「歯について」 キャリア「新聞を読もう」① キャリア自分を知る「模擬試験」

8 SGE「気になる自画像」 インターンシップ・ボランティア体験

活動 キャリア進路講話「ソーシャルマナー

講習」

9 ライフスキル「アサーション」 ライフスキル「アサーション」 キャリア自分を知る「チェックテスト」

10 物高祭準備(全学年合同)

11 SGE「コンセンサス」 インターンシップ・ボランティア体験

活動 キャリア「履歴書・志願理由書の書

き方」

12 ライフスキル「性感染症予防セミナー」(全学年合同)

13 キャリア「1学期を振り返る」 インターンシップ・ボランティアマ

ナー講習会 進路希望別研究

14 職業人インタビュー インターンシップ・ボランティア体験

活動 オープンハウス・オープンキャンパス

15 キャリア「目標を立てよう」 キャリア「目標を立てよう」 キャリア「目標を立てよう」

16 SGE「私のヒューマンネットワーク」 インターンシップ・ボランティア体験活動のまとめ 進路希望別研究

17 ライフスキル「交通安全講話」②(全学年合同)

18 キャリア「コース選択について」① 修学旅行学習 進路希望別研究

19 ライフスキル「食育講座」 修学旅行学習 進路希望別研究

20 SGE「人事部人事課採用係1」 修学旅行 座禅

21 キャリア「ふるさと企業紹介」 キャリア「ふるさと企業紹介」 進路希望別研究 22 SGE「みんなでリフレーミング」 進路ガイダンス 進路希望別研究 23 ライフスキル「DV について考える」 キャリア「新聞を読もう」② 進路希望別研究

24 ライフスキル「薬物乱用防止講話」(全学年合同)

25 SGE「ミニ内観」 SGE「ミニ内観」 SGE「ミニ内観」

26 SGE「匠の里」 キャリア「進路講話」 キャリア「2学期を振り返る」

27 キャリア「2学期を振り返る」 キャリア「2学期を振り返る」 キャリア「目標を立てよう」

28 キャリア「目標を立てよう」 キャリア「目標を立てよう」 キャリア「プレ社会人スキルアップ 講習」

29 SGE「6人の人生・ライフデザイン」 キャリア「進路先比較」 SGE「別れの花束」

30 進路調べ・面談 SGE「人事部人事課採用係2」①準備 ライフスキル「消費者講話」

31 進路調べ・面談 SGE「人事部人事課採用係2」②面接 1年間の棚卸し 32 3年生の合格体験・受験体験発表会 3年生の合格体験・受験体験発表会

33 1年間の棚卸し 1年間の棚卸し

(5)

2 調査②:「パスカルタイムと特別支援教育との関係」

 に関するインタビュー調査結果

 インタビュー調査の結果はKJ法に準じてカテゴリー 化した。その結果,総ラベル数は 130 枚となった。カテ ゴリーは大きく「生徒の育ち」,「教師の育ち」,「学校文 化の醸成」の3つに分けられた。各カテゴリーの内容に ついて以下に示した。

 1)生徒の育ち

 「生徒の育ち」に関するラベル数は 41 枚であった。こ れらは「支援が必要な生徒の育ち」, 「周りの生徒の育ち」,

「全校的な成果」の3つの中カテゴリーに分類された(表 6)。なお,カッコの数字はラベル数を表す。

 ①支援が必要な生徒の育ち

 支援が必要な生徒の育ちとして,まずは,「生徒が自 己肯定感を高めながら,自己開示できるようになってく る」ことがあげられた。また,中学校の申し送りで「対 応に困難があると言われた生徒は各学年に数人ずつお り,それらの生徒は何らかの劣等感をもって本校に入学 してくるものの,たくましさを身につけ,卒業時には他 校の生徒に就職等で勝ってくる」といった成果が述べら れた。さらに,「支援が必要な生徒であっても個別の指 導計画を作成して対応するには至らない」との回答が少 なからずみられるなど,教師は,支援が必要な生徒の存 在を認識しながらも,それらの生徒の着実な成長を実感 していることが示唆された。

 ②周りの生徒の育ち

 このカテゴリーでは,自己理解や他者理解に関する指 導により, 「周りの生徒が支援の必要な生徒の特性を徐々 に理解し,うまく付き合っている」ことや,「手をさし のべてくれる温かい雰囲気がある」ことがあげられた。

また,「アサーション等により,自分の何気ない言動で もいじめにつながることに気付くきっかけになってい る」との回答もあった。このように,周りの生徒の育ち により,「気になる生徒はいるものの,目立たないで過 ごせる」,または,「生徒が孤立しない」というように,

学校が生徒にとって安心できる居場所として機能してい

ることが示唆された。

 ③全校的な成果

 全校的な成果として,多くの関係者により指摘された のが不登校の少なさであった。「不登校には SGE が効果 をあげている」といった回答や,「中学校で不登校だっ た生徒が改善されている」または, 「中学校で不登校だっ た生徒が1年生の6月頃から登校しはじめ,その後皆勤 で卒業した」などの実例も多くあげられた。

 不登校の少なさと同様に,生徒指導上の課題の少なさ をあげる関係者も多かった。特に「遅刻する生徒がいな い」ことや,いじめに関しては「からかい程度はあるも のの自分たちで解決できる範囲であり,アサーションや SGE を通して改善していくという認識である」との回 答があった。また,「就職に強い学校である」という認 識をもつ関係者が多く,「就職率は 100% である」こと に加え,「早い時期,つまり生徒の第一希望で就職が決 定する状況は全県トップレベルである」といった成果も 述べられた

註)

。就職率の高さと同時に離職率の低さもあ げられた。さらに,全国的に有名な男子バレーボール部 の活躍だけでなく,「吹奏楽部の活躍や簿記大会連覇等,

全校的な活躍にも成果が現われている」という回答も あった。

 2)教師の育ち

 「教師の育ち」に関するラベル数は 39 枚であった。こ れらは「生徒理解と指導観の醸成」,「生徒一人一人に応 じた丁寧な支援」, 「予防的効果と他の指導への波及効果」

の3つの中カテゴリーに分類された(表7)。

 ①生徒理解と指導観の醸成

 このカテゴリーでは,「教師の生徒をみる視点の多さ や深さ」があげられた。また, 「困った生徒ではなく,困っ ている生徒」といった意識で生徒を理解する教師や, 「課 題を抱えた生徒をどう育てていくか」といった生徒を育 てる責任感の強い教師の存在があげられた。特に,「ほ とんどの教師は,特別な支援が必要な生徒といった見方 はしていない」,「特別支援教育ということをあまり意識 していない」といった回答にみられるように,生徒を分 表5 高等学校における特別支援教育の観点によるパスカルタイムの分析結果

学年

〈全授業数〉 自己理解 他者理解 社会性・

コミュニケーション 進路への意識と

インターンシップ 生活習慣・

問題行動対応 1学年〈33〉 30(90.9) 12(36.4) 14(42.4) 13(39.4) 17(51.5)

2学年〈33〉 30(90.9) 12(36.4) 14(42.4) 18(54.5) 18(54.5)

3学年〈31〉 30(96.8) 7(22.6) 11(35.5) 19(61.3) 17(54.8)

計   〈97〉 90(92.8) 31(32.0) 39(40.2) 50(51.5) 52(53.6)

※数字はパスカルタイムで取り扱っている授業数,( )内は全授業数に占める割合である。

(6)

け隔てることなく,全ての生徒に対して,それぞれの課 題を解決していくといった意識の強いことが示唆され た。このような生徒理解と指導観が醸成される理由とし て,「教師自身がパスカルタイムの効果を実感してくる」

ことや,「パスカルタイムにより生徒が変容し,それに より教師も変容していく」といった往還が大きく影響し ていることが推察された。

 ②生徒一人一人に応じた丁寧な支援

 このカテゴリーでは,まずもって「実態や課題が異な る生徒一人一人のニーズに応じた支援」があげられた。

また,「褒めて育てる」,「生徒を名前で呼ぶ」,「生徒に 気軽に声をかける教師が多い」ことなど,生徒の存在に しっかりと触れ,生徒の自己肯定感を尊重している教師 の日常的な姿勢が示唆された。

 ③予防的効果と他の指導への波及効果

 このカテゴリーでは,パスカルタイムが「いじめ等の 兆候に気づくのに有効である」ことや,「その結果,問 題が深刻になる前に改善している」といった予防的効果 のあることがあげられた。また,「登校時一声運動は,

生徒の状況を把握するには絶好の機会であり,生徒の顔 色,声量,服装等を把握し,予防的に指導できる」こと をあげる関係者が多くみられた。さらに,教師の対応が

「パスカルタイムにとどまらず,日常的なかかわりや他 の授業等へも波及して相乗効果をあげている」ことも多 くあげられた。

 3)学校文化の醸成

 「学校文化の醸成」に関するラベル数は 50 枚であった。

これらは「組織的指導力」,「質の担保と人材育成システ ム」, 「保護者や地域との関係構築」の3つの中カテゴリー に分類された(表8)。

 ①組織的指導力

 このカテゴリーでは,「教師の温度差の解消」が多く あげられた。また,「誰かがやっているのではなく,自 分たちでやっている」といった当事者意識の強いことが 指摘された。特に,新任教師や他校から異動してきた教 師にとっては「高等学校でこんなことをやらなければな らないのか」といった抵抗感があるものの「パスカルタ イムの効果を実感することにより,その温度差が解消さ れていく」との回答があった。全教職員による支援体制 では,「担任一人にさせない支援体制が構築されている」

ことがあげられた。例えば,「登校時一声運動は何年に もわたり,教師全員で続けられている」ことや,「就職 のための面接指導も担任や進路担当者等一部の教師が行 うのではなく,全ての教師が面接官役を担う」といった 協働による取組が紹介された。これらの取組を通し,教 師同士の良好な関係が構築され,教師が育ち合っていく ことが示唆された。

 情報の共有化では,支援を必要とする生徒のみならず,

様々な課題を抱える生徒全ての情報交換や対応を協議す るための会議が設けられており,そこでの情報は職員会 議で共有されていた。また,先に述べた教師同士の良好 な関係のもと,「職員室の雰囲気が良く,それが教師集 団の力として機能している」など,インフォーマルな情 報共有態勢とそれに基づく協働態勢が構築されていた。

 ②質の担保と人材育成システム

 このカテゴリーでは,パスカルタイムがマンネリ化す ることなく,質を担保し続けていることがあげられた。

創設当初は,「生徒指導上課題のある生徒への対応が主 たる目的であった」が,次第に「自己肯定感の低い生徒 を社会に通用する大人として育てていくこと」が目的と なり,そして現在では「特別な支援が必要な生徒が在籍 表6 生徒の育ち(n= 41)

支援が必要な生徒の育ち(13)

 ・自己肯定感(6)

 ・たくましさ(4)

 ・特徴の軽減(3)

周りの生徒の育ち(12)

 ・支援が必要な生徒に対する理解(3)

 ・他者に対する温かい付き合い方(4)

 ・安心できる居場所(5)

全校的な成果(16)

 ・不登校の少なさ(5)

 ・生徒指導上の課題の少なさ(6)

 ・就職に強い学校(4)

 ・その他(1)

表7 教師の育ち(n= 39)

生徒理解と指導観の醸成(16)

 ・生徒をみる視点(3)

 ・生徒を育てる責任感(5)

 ・分け隔てない対応(4)

 ・教師自身の効果の実感(4)

生徒一人一人に応じた丁寧な支援(12)

 ・生徒一人一人のニーズに応じた支援(4)

 ・生徒の自己肯定感の尊重(5)

 ・普段のかかわりへの波及効果(3)

予防的効果と他の指導への波及効果(11)

 ・予防的効果(5)

 ・他の指導への波及効果(6)

(7)

している現実も見据えた対応が求められている」ことが あげられた。その時代と生徒のニーズに応じて改善と新 たな取組に挑戦し進化してきたことが,パスカルタイム の質を担保してきた理由としてあげられよう。

 研修については,全ての回答者が「パスカルタイムの 質を担保するために重要」と指摘していた。中でも,リー ダーとなる教師は中央レベルの研修を受けるとともに,

担当する教師は初級カウンセラーの講習を受けるなどの 取組がなされていた。また,新年度当初には「職員パス カル」として,教師によるパスカルタイムを行い,新任 教員が学校に溶け込むとともに,パスカルタイムの目的 や内容・方法を学ぶ機会が用意されていた。このように,

教師個々の役割や経験に応じた研修システムが構築され ていた。研修については,特別支援教育に係る校内支援 体制の充実・強化策として,多くの支援者がその重要性 を指摘しており(藤井,2014),雄物川高等学校でもこ の重要性を裏付ける取組がなされていることが確認され た。

 人事配置では,「パスカルタイムの担当として各学年 部の教師を複数配置する」ことにより,学年横断的に取 り組むことができるようになっていた。また,「パスカ ルタイムを進路指導主事が総括する」ことにより,キャ リア教育との密接な関連が図られていた。特に,学校は 人事異動がつきものであるため, 「パスカルタイムのキー パーソンを各学年部に配置したり,パスカルタイム担当 者の中に新しく赴任してきた教師を入れたりしている」

といったように,担当する教師が替っても揺るぎない人 事システムが存在していた。さらに,「パスカルタイム の考え方は,普段の授業や生徒との日常的なかかわりに おいても必要である」ことを折に触れ教員に発信し,パ スカルタイムの効果を他の教育活動に波及させる役割を

果たしている関係者の存在も明らかとなった。

 このような研修システムや人事配置をトータルで実行 するため,「管理職とりわけ校長のリーダーシップが重 要である」との回答があげられた。また,「県教育委員 会がパスカルタイムを評価してくれている」との回答が あげられるなど,「パスカルタイムが学校単独の取組か ら,県教育委員会が注目し評価している取組になってい る」といった教師の自負も,パスカルタイムが学校の文 化として長年根付いてきた要因であると推察された。

 ③保護者や地域との関係構築

 このカテゴリーでは,「朝の集いや登校時一声運動に 保護者の参加を呼びかけ,教師と協働して取り組んでき た」ことがあげられた。このことにより,「保護者との 良好な関係を構築している」との回答があった。また,

関係機関との連携では,「特別支援学校のセンター的機 能,医療機関,ハローワーク等を活用して,生徒一人一 人のニーズに応じた支援をしている」ことがあげられた。

さらに,これまで述べてきたような丁寧な支援とその成 果により,「生徒を送り出す側である中学校からの信頼 を得ている」こともあげられた。このような保護者や地 域との良好な関係の構築も,学校文化の醸成に寄与して いるものといえよう。

Ⅴ まとめ:パスカルタイムの実践から学ぶべきこと  パスカルタイムの実践から,高等学校における特別支 援教育を推進するうえで学ぶべきこととして,以下の3 点を提案したい。

1 生徒の自己理解やソーシャルスキルの向上

 総合的な学習の時間「パスカルタイム」は,主にキャ リア教育の観点で実践されてきているが,関係者へのイ ンタビュー調査により,支援が必要な生徒の育ちにも大 きく寄与していることが示された。これは,パスカルタ イムの指導内容に,自己理解やソーシャルスキルの向上 等,高等学校における特別支援教育の観点が豊富に含ま れているといった調査①の結果により裏付けられたとい えよう。「高等学校学習指導要領」(2009)では,障害の ある生徒などについて「個々の生徒の障害の状態等に応 じた指導内容や指導方法の工夫を計画的,組織的に行う こと」が規定されている。パスカルタイムは,学習指導 要領の趣旨に即した指導内容や方法の工夫を具現化して いるモデルケースといえよう。

2 「特別でない支援教育」という発想

 パスカルタイムは,生徒の自己理解と同時に,他者を 理解する力,また他者を尊重し人間関係を構築するため の力の育成を目指している。この実践により,支援が必 表8 学校文化の醸成(n= 50)

組織的指導力(20)

 ・教師の温度差の解消(6)

 ・全教職員による支援体制(9)

 ・情報の共有化(5)

質の担保と人材育成システム(19)

 ・時代と生徒の要請に応じた改善(4)

 ・研修システム(9)

 ・人事配置(3)

 ・管理職の姿勢(3)

保護者や地域との関係構築(11)

 ・保護者との良好な関係(5)

 ・関係機関との連携(4)

 ・中学校からの信頼(2)

(8)

要な生徒と他の生徒が分け隔てられることなく,全ての 生徒が安心して学校生活を送ることのできる環境が作ら れているものと推察される。

 一方,教師にとっても,支援が必要な生徒をあぶり出 して支援するといった発想ではなく,全ての生徒に対し それぞれの課題を解決していくといった指導観を醸成さ せる役割を果たしている。つまり,「特別な生徒」に対 して「特別な支援をする」といった発想ではなく,「全 ての生徒」に対し「一人一人に必要な支援をする」といっ た発想であろう。主にキャリア教育として進められてい るパスカルタイムが,特別支援教育の観点からも光を放 つのは,この,生徒一人一人の支援にこだわっている点 に理由を見出すことができよう。一人一人の支援にこだ わることにより,ことさら特別支援教育と言わなくとも,

特別支援教育の発想,換言すれば「特別でない支援教育」

といった発想に自ずと近付いていくことをパスカルタイ ムの実践は示している。高等学校の教師が特別支援教育 に対して否定的な意識をもつ理由として, 「適格主義」や,

「特別支援教育に関する専門性の欠如」,「多忙感」等に より抵抗感のあることが指摘されている。しかし,「特 別でない支援教育」の発想で取り組むことにより,高等 学校教師の特別支援教育に対する抵抗感は解消されてい くことが期待されよう。加えて「特別でない支援教育」

の結果,支援が必要な生徒の育ちだけでなく,就職率や 定着率,生徒指導上の問題等,全校的な課題に対しても 確かな成果をもたらしていることは特筆すべき点であ る。

3 学校文化に即した特別支援教育の創造

 近年,高等学校において,発達障害等のある生徒の存 在はますますクローズアップされてきており,高等学校 における特別支援教育の推進は喫緊の課題となってい る。しかし,「小・中学校に比べ,幼稚園・高等学校に おける体制整備は依然として課題である」(文部科学 省 ,2014)ことも事実である。筆者は,高等学校と小・

中学校との特別支援教育に関する実態の違いを踏まえ,

「高等学校における特別支援教育は,障害の有無にかか わらず生徒の多様な教育的ニーズに応じて創造していく べきである」ことや,「各高等学校が有する多様性を踏 まえ,それぞれの学校文化に即した特別支援教育を構築 していく」ことを提案してきた(藤井,2014)。パスカ ルタイムの実践は,「全ての教師が協働して全ての生徒 を育てていく」といった雄物川高等学校の学校文化に即 した特別支援教育推進のモデルとして,他の高等学校に 多くの示唆を与えるものといえよう。また,この実践は,

自己を知り,他者を理解することを目指していることか ら,人間の多様性を尊重し,包容し合うインクルーシブ

教育の実現へ向かっているともいえよう。

 過去5年間の就職希望者のうち,第一希望で就職が内 定した生徒数と割合は以下の通りである。

 なお,「一番に決めることや,早期に全員内定するこ とに固執しているわけではありません。ただ言えること は,生徒にとって最良の進路選択は何なのかを考えさせ,

第一希望に合格させたいという思いは強くあります。ま た,残念な結果になった生徒に関しては,就職支援の先 生のお力も借りながら全職員の協力のもと,すぐに次の 目標を定めることができるというのが本校の強みではな いかと考えます」という進路指導主事のコメントを付記す る。

謝辞

 本稿の執筆にあたりご協力いただきました,秋田県立 雄物川高等学校の関係者の皆様に深く感謝申し上げます。

引用・参考文献

秋田県立雄物川高等学校(2009):パスカルタイム− 8 年間 の実践報告− 

中央教育審議会初等中等教育分科会(2012):共生社会の形 成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための 特別支援教育の推進(報告).

藤井慶博(2014):インクルーシブ教育システム構築の方向 性に関する検討−教職員に対するキーワードの認知度 調査を通して−.秋田大学教育文化学部教育実践研究 紀要,36,89-98.

藤井慶博(2014):高等学校における発達障害の生徒に対す る望ましい支援に関する検討−外部機関の支援者への アンケート調査から−.秋田大学教育文化学部紀要,

教育科学,69,97‒104.

市川裕二(2013):高等学校における特別支援教育体制と個 に応じた指導の充実.季刊特別支援教育,49,20-23.

文部科学省(2014):平成 25 年度特別支援教育体制整備状 況調査結果.http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/

tokubetu/material/1345091.htm (Retrived 2014. 10.31)

文部科学省(2009):高等学校学習指導要領.

文部科学省(2007):特別支援教育の推進について(通知).

特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議高等学校 ワーキング・グループ(2009):高等学校における特別 支援教育の推進について−高等学校ワーキング・グルー プ報告.

2010 年度(45 名希望)30 名内定 66.7% 

2011 年度(45 名希望)41 名内定 91.1%

2012 年度(34 名希望)26 名内定 76.5%

2013 年度(42 名希望)36 名内定 85.7%

2014 年度(49 名希望)41 名内定 83.7%

参照

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