告知義務違反の効果とプロラタ主義
小 林 道 生
■アブストラクト
保険法では告知義務違反の効果に関し,プロラタ主義は採択せず全部免責 主義を維持することとした。しかし,そのことは同時にプロラタ主義に消極 的な評価しか付与すべきでないことになるのであろうか。保険法立法の審議 過程ではプロラタ主義の採用をめぐって議論が重ねられたが,プロラタ主義 採用に対する過度の警戒からか懸念や問題点の指摘が相次ぎ,ややもすれば プロラタ主義が一方的に批判の矢面に立たされたとの印象を否めない。当時 としては,そのような批判に対する反論のなかでプロラタ主義がいかなるも のかを見定めていかなくてはならなかったが,本稿では,あらためて法制審 議会の議論状況をふりかえりつつも,プロラタ主義が全部免責主義に比して 優位にあり,その結果,告知義務違反の効果に関し再考を促していたのはど のような場合であったのか,というより積極的な見地に立ち,プロラタ主義 の再評価を試みることにしたい。
■キーワード
告知義務違反,プロラタ
1.はじめに
保険法制定の検討過程のなかでもっとも重要視され,また注目を集めた議 論のひとつが保険契約における告知義務違反の効果としての保険者の免責に
/平成21年8月31日原稿受領。
関して,いわゆるプロラタ主義を採用するかどうかの是非であった。その背 景には,比較法的にみるとプロラタ主義を採用する例が少なからず存在する こと,たとえば,わが国とほぼ同時期に保険契約法の全面的改正が行われた ドイツにおいてもプロラタ主義が新たに採用されたことなどがあげられてい る。ただ,わが国では,結論として,プロラタ主義の採用はしないという立 法判断がとられることとなり,従前の商法のもとでの規整である,保険契約 の解除による全部免責主義が新たな保険法のもとでも維持されることになっ た。もっとも,プロラタ主義導入をめぐる議論が告知義務違反の効果の規整 のあり方に関し再検討を迫るものであったことは確かであり,わが国の立法 におけるプロラタ主義の不採用という結果のみから,プロラタ主義の理論的 側面における評価を下してしまってよいかについては慎重な姿勢が望まれよ う。さらに,保険法にはプロラタ主義に関連する解釈論も存在するため,そ の点からも,プロラタ主義をどのように評価するかという実質的な議論は今 もなお不可欠といえるだろう。
そこで,本稿では,まず,保険法の立法過程における法制審議会保険法部 会での審議内容などをふまえ,あらためてプロラタ主義の導入をめぐる議論 を検討し,そのうえでプロラタ主義のもつ意義の再評価を試みることとする。
次いで,プロラタ主義に関わる保険法における解釈論,具体的には,保険法 上,告知義務違反の効果が片面的強行規定とされたこととの関係から,約款 によるプロラタ主義の採用が許容されるかという論点に関して考察すること
にしたい 。
2.プロラタ主義導入をめぐる立法過程における議論
⑴ プロラタ主義導入の意義
法制審議会保険法部会では,告知義務違反により保険契約の解除がされる
1) 保険法の制定過程にかかる時期,あるいは,その制定後に,告知義務違反の 効果としてのプロラタ主義について検討,解説した文献として,山下友信 告 知義務・通知義務に関する立法論的課題の検討 江頭還暦 企業法の理論 下 巻 383頁(商事法務,2007)(以下,同文献の引用に際しては 江頭還暦 と 略 記 す る),同 基 調 講 演 保 険 法 現 代 化 の 意 義 ジ ュ リ ス ト1368号60頁
(2008),同 講演 保険法制定の総括と重要解釈問題(生保版)−成立過程の 回顧と今後に残された課題− 生命保険論集167号1頁(2009),田口城 生命 保険契約の告知義務に係るいわゆるプロ・ラタ主義の導入について 生命保険 論集158号1頁(2007),同 保険法現代化が生保実務に与える影響−プロ・ラ タ主義の導入,未成年者の保険の議論 を 中 心 に− 保 険 学 雑 誌599号117頁
(2007),社団法人生命保険協会編 生命保険契約に係るいわゆるプロ・ラタ主 義に関する海外調査報告書(フランス・イギリス・ドイツ) (2007),木下孝治 保 険 契 約 に お け る 情 報 格 差 の 是 正 と 不 正 請 求 対 策 商 事 法 務1808号14頁
(2007),同 告知義務・危険増加 ジュリスト1364号18頁(2008),同 告知義 務 中西喜寿 保険法改正の論点 37頁(法律文化社,2009)(以下,同文献 の引用に際しては 中西喜寿 と略記する),近畿弁護士会連合会消費者保護 委員会・交通事故委員会編 第28回 近畿弁護士会連合会大会シンポジウム 第 1分科会 保険契約における消費者主権の確立 8‑12頁(2007)(以下,同文献 の引用に際しては 近弁連 と略記する),大串淳子・日本生命保険生命保険 研究会編 解説保険法 12‑15頁〔大串淳子〕(弘文堂,2008)などがある。
2) 法制審議会保険法部会における議論は, 保険法の見直しに関する中間試案 (法制審議会保険法部会決定 平成19年8月8日),法務省民事局参事官室 保 険法の見直しに関する中間試案の補足説明 (2007)(これらはいずれも萩本修 編著 保険法立案関係資料−新法の概説・新旧 旧新対照表− (商事法務,
2008)に収録されている。なお,以下,引用に際してはそれぞれ 中間試案 , 補足説明 と略記する。また,その際の引用頁は原本による)のほか,とく に法制審議会保険法部会第10回会議議事録,第17回会議議事録を参照(以下,
保険法部会の議事録の引用に際しては,たとえば 第10回議事録 のように略 記する)。
ときにすでに保険事故が発生している場合, 保険契約者または被保険者が 告知をしなかった事実と当該保険事故との間に因果関係がないことを保険契 約者において証明した場合を除き,保険者は責任を全部免れるものとする 全部免責主義(オール・オア・ナッシング主義)の考え方と, ①保険契約 者または被保険者に故意があった場合には,保険契約者または被保険者が告 知をしなかった事実と当該保険事故との間に因果関係がないことを保険契約 者において証明した場合を除き,保険者は責任を全部免れるものの,②保険 契約者または被保険者に重過失がある場合には, 正しい告知がされていた とすれば保険者が保険契約を締結しなかったであろう場合(以下, 保険者 の引受範囲外 ということがある)には,保険契約者または被保険者が告知 をしなかった事実と当該保険事故との間に因果関係がないことを保険契約者 において証明した場合を除き,保険者は責任を全部免れるものとし, 以 外の場合(たとえば,正しい告知がされていたとすれば保険者がより高い保 険料で契約を締結したであろう場合(以下, 保険者の引受範囲内 という ことがある))には,保険契約者または被保険者が告知をしなかった事実と 当該保険事故との間に因果関係がないことを保険契約者において証明した場 合を除き,一定の方法により保険金が減額されるものとする プロラタ主義
(減額免責主義)の考え方の両案 を比較検討し,従前の商法のもとでの全 部免責主義に代えてプロラタ主義を新たに導入すべきかが議論されることと なった。
後者のプロラタ主義を採用する場合には,さらに,外国の立法例を参照す ると保険金減額の 一定の方法 の具体的内容に応じて,三つに類型化され ている 。すなわち,①保険者は約定した保険料の額の本来支払われるべき
3) 中間試案3‑4頁,補足説明13‑17頁。なお,中間試案では,本文に引用したよ うにプロラタ主義に因果関係不存在特則が付加されるかたちで案(
B
案 )と して提示されているが,プロラタ主義を採用するとした場合には,この案のよ うに因果関係不存在特則も合わせて採用すべきかどうかも検討課題のひとつと なる。中間試案4頁(注2)。4) 補足説明15‑16頁。
であった保険料の額に対する割合により保険金を減額した責任を負うとする もの( 比例減額原則 ),②保険者は正しい告知がされていたとすれば締結 していたであろう契約の内容にしたがって保険金を支払う責任を負うとする もの( 引受基準減額原則 ),③保険者は告知されなかった事実が保険事故 の発生及び損害の範囲に対して及ぼす影響,保険契約者の過失その他の事情 を考慮して合理的な範囲内で保険金を減額した責任を負うとするもの( 割 合的減額原則 ),である 。
このうち,割合的減額原則については,個別的諸事情に応じて保険金減額 を柔軟に決定するものであるが,その反面,結果の予測可能性に欠けるとい う問題があり,わが国の立法の参考とするのは困難であるとの評価がある 。 また,比例減額原則については,保険者が危険選択をする際,通常よりも危 険が高いと評価される契約においては,保険料の割増という方法のみならず,
保険金を減額する方法,担保危険を限定したり免責危険を拡大したりする方 法などもありうるため,保険料額にのみ着目する算式では実務上処理できな いケースが生じるとの指摘がある 。この点,引受基準減額原則によればそ のような指摘に応えることはできるが,正しい告知がされていたとすれば成 立していたであろう保険契約の内容を誰がどのように確定するか(主張・立 証責任の所在)という課題(なお,これは比例減額原則についても同様にあ てはまる)がある 。
5) 比例減額原則 , 引受基準減額原則 , 割合的減額原則 の用語は山下・
前掲注1)江頭還暦399‑403頁による。なお,比例減額原則は外国では
pro-rata- principleといわれることがあるが,本稿で用いる プロラタ主義 は,これ
に対して広義を指し,比例減額原則,引受基準減額原則,割合的減額原則を包 含する減額免責主義と同義である。6) 山下・前掲注1)江頭還暦402‑403頁。補足説明16頁も,この考え方について,
保険者にとっても保険契約者等にとっても予測可能性に乏しく,現行商法の規 律を改めてまでこのような改正をすることの当否という観点から検討する必要 がある,とする。
7) 山下・前掲注1)江頭還暦400‑401頁,補足説明16頁。
8) 山下・前掲注1)江頭還暦401‑402頁,補足説明16頁。
このようにプロラタ主義には課題があるものの,一方で,全部免責主義に もとづいて保険金請求権を喪失させてしまうことは,保険者が正しく告知を 受けていたとすれば引受可能であった場合に過剰な制裁的効果を規律するも のであり,プロラタ主義導入の意義というのも,このような全部免責主義に よる告知義務違反の効果の過酷さを前提にして,告知義務によって確保され る保険者の危険選択の機会と告知義務違反の制裁的効果によって被る保険契 約者側の不利益を可能なかぎり均衡させようとする考え方に求めることがで きる 。
なお,プロラタ主義(上記の部会で提案された因果関係不存在特則の付加 されたもの)が採用された場合,従来の商法における全部免責主義を原則と する立場との違いが生じるのは,保険契約者または被保険者に重過失があり,
保険者の引受範囲内にあるときで,さらに,告知されなかった事実と発生し た保険事故との間に因果関係がある場合,ということになる 。したがって,
プロラタ主義の採用のためには,重過失のある保険契約者,被保険者を救済 すべき場合があることが必要であり,そこから,保険法部会では告知義務違 反の局面における 重過失 の意義についても,生命保険の実務面での運用 と関連して議論されることとなった 。
⑵ プロラタ主義に寄せられた問題点の指摘
プロラタ主義にはすでに上記のような内在的な課題があるが,さらに,そ の採用の是非をめぐり,保険法部会で事務当局により検討事項とされた問題 点として,まず,①プロラタ主義の採用によって,保険契約者または被保険
9) 全部免責主義による告知義務違反の効果の過酷さを前提にしたプロラタ主義 の意義の説明として,山下・前掲注1)江頭還暦404頁,木下・前掲注1)商事法務 18頁。
10) 第10回議事録26頁。保険法部会第10回会議参考資料 危険に関する重要な事 項について事実の告知がされず,保険事故が発生した場合の規律 を参照する と理解しやすい。
11) 第17回議事録4頁以下。
者が正しく告知をするインセンティブが失われないか,②保険契約者間の衡 平が害されないか(保険金の支払額が増加することによって結局は保険料の 増額につながり,それは,正しく告知した保険契約者も負担することになら ないか),③プロラタ主義では,故意と重過失とで義務違反の効果につき差 異を設けているが,両者を明確に区別することは可能か,④プロラタ主義の うち,比例減額原則,引受基準減額原則によれば,既述のように,保険者に よる引き受けがなされたかどうか,さらに,引き受けがなされたであろう場 合には,契約締結時のあるべき保険料額や契約内容如何を確定(主張・立証)
する必要がある。このとき,保険金請求者は個々の保険者の引受基準を知り えず,そのことから,契約内容の確定を保険者が行う ことにした場合であ っても,今度は,保険者が引受基準を明らかにしなければならないことにな るが,それは相当か。また,事後的に,告知時に遡ってあらためて危険測定 し直す(たとえば,生命保険における被保険者の健康状態等を正確に知る)
ことは可能か,などがあげられている 。
また,プロラタ主義そのものに対する問題点の指摘ではないが,これまで の商法が採用してきた全部免責主義の評価につき,商法で告知義務違反が問 われるのは保険契約者,被保険者に故意,重過失がある場合にかぎられてお り,さらに,因果関係不存在の特則や解除権行使の除斥期間が存在し,これ らは全部免責主義にもとづく義務違反の効果の過酷さを緩和する機能をもつ ものであることから,諸外国の法制と比較しても保険契約者保護の点で見劣 りするものではなく,したがって,現状にとくに問題がなければ,あえて商 法と異なる立場を選択するまでの必要性はないことも保険法部会では指摘さ れている 。
12) 山下・前掲注1)江頭還暦402頁。
13) 保険法部会資料11;7‑11頁,保険法部会資料17;2‑3頁。
14) 保険法部会資料17;2頁,第17回議事録1,4頁。
⑶ 保険法部会での取りまとめ
このプロラタ主義導入の是非についての議論の方向性を事実上決定づけた 第17回保険法部会では,その取りまとめとして,まず,告知義務違反の効果 にかかる現状認識として,重過失の告知義務違反で厳しく全部免責が問われ ているという実態が非常に多いとは少なくともいえず,また,裁判例をみて も,故意の告知義務違反とはいえず重過失でしかありえないという事案もそ う目立ってあるわけではないというのが実態であり,さらに,プロラタ主義 導入案をなお詰めていくのに,たとえば,ドイツでは新保険契約法に採用し たばかりのところであるなど,諸外国でそれを実施した場合にどういうメリ ット,デメリットが実際に生じるのか検討がしづらいなかで,プロラタ主義 の導入でコンセンサスを得るのは難しいとされ,実質的な保険契約者保護に 欠けることがないかぎりは全部免責主義を維持することで要綱案に向けて意 見集約することとされた 。
これを受けて,部会では 保険法の見直しに関する要綱案(第1次案・
上) で事務当局より全部免責主義を維持することが提案され ,さらに,
保険法の見直しに関する要綱案(第2次案) を経て,最終的に 保険法 の見直しに関する要綱案 のなかで全部免責主義を維持することとして取り まとめられている。その後, 保険法の見直しに関する要綱案 は法制審議 会総会において原案の通り 保険法の見直しに関する要綱 として採択,
15) 第17回議事録18‑19頁。
16) 保険法部会資料23;3頁(損害保険契約)。また, 保険法の見直しに関する 要綱案(第1次案・下) では,生命保険契約,傷害・疾病保険契約について 同様の扱いとされている(保険法部会資料25;2‑3,13頁)。
17) ここでも同様に事務当局より全部免責主義が提案されている。保険法部会資 料26;2‑3,13,22頁。
18) 全部免責主義については,第2 損害保険契約に関する事項 1損害保険契約 の成立 ⑶告知義務⑥,第3 生命保険契約に関する事項 1生命保険契約の成 立 ⑶告知義務⑥,第4 傷害疾病定額保険契約に関する事項 1傷害疾病定額 保険契約の成立 ⑶告知義務⑥。
法務大臣に答申されている 。
3.プロラタ主義の再検討
⑴ プロラタ主義の問題点の再検討
このように保険法では,告知義務違反の効果としてプロラタ主義を採用す ることが見送られたが,一方,立法過程では,保険法部会等において,結論 として全部免責主義を維持するにしても,プロラタ主義についてそれが理論 的に劣るものではないとの評価もみられる 。ここでは,プロラタ主義の再 評価を行ううえで,まず,プロラタ主義に寄せられた上記の問題点の指摘に ついてあらためて検討することにしたい 。
まず,①プロラタ主義の採用による,保険契約者等の告知のインセンティ ブの低下という懸念については,それは,保険契約者等が告知義務違反の効 果の制度設計が変わったことを認識した結果として,意図的に注意義務のレ ベルを低下させ正しく告知しなくなることを意味するが,この場合には故意 の告知義務違反が認定されると考えられ ,プロラタ主義によって保護され る重過失の範囲からは外れることになる。また,保険契約者等が告知の際,
プロラタ主義の適用により自己に有利な結果(具体的には,仮に告知義務違
19) この要綱にもとづいて保険法案が立案,第169回国会に提出され,平成20年 5月30日に保険法が成立した。全部免責主義に関して保険法は31条2項1号,
59条2項1号,88条2項1号で規定している。
20) 第17回議事録13‑15,18頁。洲崎博史 保険契約法の現代化 保険学雑誌599 号73頁注13)(2007)。
21) これまで指摘されてきたプロラタ主義の問題点に対する反論の試みとしては,
木下・前掲注1)商事法務18‑19頁,近弁連・前掲注1)9‑11頁。
22) 木下・前掲注1)商事法務19頁,第17回議事録15‑16頁。保険法では告知義務 の内容が質問応答義務に変更され,それにより,実務上,保険者の質問の具体 化,明確化が促進されれば保険契約者側の故意が認定されやすくなろうが,そ れを前提にした場合には,このような意図的に注意義務のレベルを低下させる 行態があれば,告知義務違反は故意によるものとされるのが通常であるように 考えられる。
反に問われる場合でも,少なくとも保険金の減額払いにとどまること)を企 図して行動するにしても,プロラタ主義のもとでも保険者の引受範囲外とさ れる場合には全部免責となり,引受基準が開示されていない以上,保険契約 者等が告知の際,保険者の引受範囲内にあることを前提とした行動を取れる かどうかも疑問である。
つぎに,②保険契約者間の衡平が害されるということについては,プロラ タ主義自体はすべての保険契約者等を対象に適用されるものであり,重過失 の告知義務違反の場合に救済される可能性はどの保険契約者等にも存在して いる 。
また,③プロラタ主義のもとで,故意と重過失とを明確に区別することが できるかについては,たしかに,これまで裁判例では,故意による告知義務 違反の成立を認めているものは少数であり,多くは故意または重過失がある との判断をしているとの指摘がある が,これは従前の商法の規律が告知義 務違反の効果につき故意によるか重過失かで結論を異にするものではなかっ たため,告知義務違反が故意によるか,重過失によるかを積極的に特定して いく必要性がなかったという事情もあるのであろう 。今後,申込書または 告知書における保険者の質問事項が具体化,明確化されれば故意の認定も容 易となることを考え合わせると,プロラタ主義のもとで故意と重過失は区別 して運用できるように思われる。
さらに,④プロラタ主義(比例減額原則,引受基準減額原則)によれば,
保険者の引受範囲内にあったかどうか,また,保険者の引受範囲内にある場 合,正しい告知のもとでのあるべき保険料額や契約内容を保険者が立証する 必要があるとしたときには,まず,保険者が引受基準を明らかにしなければ
23) 近弁連・前掲注1)10頁は,仮に,プロラタ主義の導入により保険金の支払額 が増加し,ひいては保険料の増額につながっても,それは各保険契約者がプロ ラタ主義の導入による利益を享受する対価と考えることができるとする。
24) 生命保険契約の告知義務について,中西正明 保険契約の告知義務 47頁
(有斐閣,2003)。
25) 山下・前掲注1)生命保険論集8頁も同趣旨かと思われる。
ならないことの当否が問題とされている。しかし,ここでは抽象的な引受基 準そのものの詳細な開示を余儀なくされるというよりは,正しく告知がなさ れていたならばどのような内容の保険契約が成立していたかに関し,引受基 準に照らした個別事例ごとの判断過程・結果を明らかにすることが求められ ているといえよう 。
また,事後的に告知時に遡ってあらためて危険測定し直すことは可能かと いう問題点の指摘については,たしかに,告知義務違反の対象となる事実が 明らかになったとしても,そのことのみから必ずしも被保険者の告知時の健 康状態等の全容が明らかになるわけではない(他にも正しく告知されていな い可能性はありうる)が,ここでは告知義務違反の効果として保険契約の内 容の確定が問われている以上,告知義務違反が明らかになった事実にもとづ くかぎりで,正しく告知がなされていたならばどのような内容の保険契約が 成立していたかが検証されるべきであって,事後的にあらためて告知時に遡 って一から危険測定をやり直すことが求められているわけではない。したが って,告知義務違反の対象事実から,保険者の引受範囲外と判断できれば,
最早,保険者としてはそれ以上に仮定的な保険契約の内容を確定する必要は ないし,また,引受範囲内にとどまる場合にも,告知義務違反が明らかにな った事実にもとづき,すでに成立している保険契約の内容を補正することで 対応できればよいことになる。
以上のように,プロラタ主義に寄せられた批判については少なくとも理論 的な側面からの反論は可能なように思われる。ただ,一方で,従来,商法が 採用してきた全部免責主義の評価として,(プロラタ主義か全部免責主義の いずれを採用するかにより具体的帰結に差異が生じることとなる)保険契約
26) 個別事例における引受判断にあたっては保険者の裁量的な余地もありうるこ とから,抽象的引受基準のみから定型的に契約内容が確定されうるわけではな い(山下・前掲注1)江頭還暦401‑402頁)。そうだとすると,引受基準に拠りつ つも,当該事例に即して保険者の判断がどのようになされたかがより重要な意 味をもつと考えられる。
者側の告知義務違反に重過失がある事例において特段の問題が生じているわ けではないとの現状認識が肯定され,また,今後,告知義務を法律上,質問 応答義務として採用することにより質問事項の明確性,具体性が改善され,
重過失該当例の減少が見込まれるかぎり,全部免責主義を基本とする制度で も保険契約者保護に欠けるところはなく,したがって,実務運用面での検証 を経ることなくプロラタ主義にあえて転換するまでの必要性はないとする結 論にはやはり相応の説得力がある。
たしかに,わが国でも告知義務違反の主観的要件を保険契約者または被保 険者の故意または重過失に限定せずに,保険者の危険選択の確実性を重視し 保険契約者等の軽過失にまで拡げるとする立法判断(すなわち,告知義務違 反の成立範囲を広くとるという判断)が選択されていれば,告知義務違反の 効果論としても,一律に全部免責とすることはその制裁的機能としては行き 過ぎであり,保険契約者等の主観的態様等,何らかの基準にもとづく区分を 設けたうえで一定の場合には保険金の支払を認めるべき方が合理的であると の議論がコンセンサスを得やすかったであろう 。しかし,わが国における 保険法の立法過程では,告知義務違反の主観的要件につき,従前の商法の規 律を改めて保険契約者等の軽過失をも問うこととすべきかは論点となってお らず,保険法部会で議論のたたき台となったプロラタ主義についても当初か ら,保険契約者等に故意または重過失があった場合に告知義務違反が成立す ることを前提としたものとなっている 。このことからすれば,プロラタ主 義導入の是非をめぐる議論はすでに告知義務違反の要件論の段階でその基本 的な方向性が提示されていたといっても過言ではないかもしれない。
27) 諸外国の法制からも分かるように,告知義務違反の主観的要件をどのような ものとして設定するかは,それにより告知義務違反の成立範囲に差異が生じる 以上,告知義務違反の効果の制裁的機能の緩和を旨とするプロラタ主義の採用 の是非をめぐる議論を左右することとなる。
28) 保険法部会資料2;7‑8頁。
⑵ プロラタ主義の再評価
かくして保険法の立法にあたって結論としてプロラタ主義は採択されず全 部免責主義を維持することとされた。しかし,それは同時にプロラタ主義に 消極的な評価しか付与すべきでないことになるのか,あるいは,プロラタ主 義の採択如何に関わらずプロラタ主義に積極的な評価を見出すべきところは ないのか,プロラタ主義の評価をめぐる検討がここで再度なされてもよいよ うに思われる。たしかに,保険法立法の審議過程では保険法部会においてプ ロラタ主義の採用をめぐってその重要性から何度も議論が重ねられたが,プ ロラタ主義採用に対する過度の警戒からか懸念や問題点の指摘が相次ぎ,や やもすればプロラタ主義が一方的に批判の矢面に立たされたとの印象を否め ない 。当時としては,プロラタ主義への批判とそれに対する反論のなかで プロラタ主義がいかなるものかを見定めていかなくてはならなかったが,保 険法制定後の今日では,プロラタ主義が全部免責主義に比して優位にあり,
その結果,告知義務違反の効果に関し再考を促していたのはどのような場合 であったのか,というより積極的な見地に立ち,プロラタ主義の再評価を試 みることにしたい。
この点については,まず,先ほど述べたように,告知義務違反の成立要件 を保険者の危険選択の確実性を重視し保険契約者等の軽過失にまで拡げると する立法判断のもとでは,告知義務違反の効果に関し,一律にすべて全部免 責とすることはその制裁的機能としては行き過ぎであり,プロラタ主義によ り保険契約者等の主観的態様にもとづいた差別的取り扱いをする方が合理的 であることが考えられる。ただ,わが国の改正前商法や保険法のように,告 知義務違反の成立要件を保険契約者等の故意,重過失に限定する立法例にあ っては,これはあまりあてはまらない。
また,プロラタ主義の再評価は告知義務の対象事項である 危険に関する 重要な事項 (改正前商法644条1項,678条1項。保険法4条,37条,66条)
29) 保険法部会内部での同趣旨の指摘として,第17回議事録15頁。
についてもなされる必要がある。この 重要な事項 とは,保険者がその契 約における事故発生の危険率を測定し,これを引き受けるべきか否か,およ び,その保険料額等,契約内容如何を判断するに際して,その合理的判断に 影響を及ぼすべき事実をいう,とされている 。つまり,この 重要な事 項 には,①保険者が正しく告知を受けていればおよそ契約締結を承諾しな かったであろう事実と②より高額での保険料の設定等,異なる条件のもとで あれば契約を締結したであろう事実とがあり,一概に 重要な事項 といっ ても重要性の違いに応じた区分が存在し,重要性の度合い(重要度)に段階 があることになる。また,②に該当する事実にも様々なものがあり,重要度 にはかなりの幅が存在している。したがって,たしかに告知義務の対象事項 として①のみならず②も含めて保険者による危険選択が行われる必要がある にせよ,告知義務違反の効果を論じるにあたっては 重要な事項 の重要度 が異なる(①,②それぞれに該当する事実の間で重要度に差があり,また,
②に該当する事実の間どうしで重要度に差がある)以上,それに応じた異な る取り扱いをなすべきとすること は合理的であって,以上の観点からは重 要度の如何を問わず一律に保険者の全部免責という効果に結びつけてしまう ことのないプロラタ主義の方が優れた規律ということになる。このようにプ ロラタ主義が故意,重過失という主観的要件のみならず,さらに重要事項の 重要度をも尺度とすることによって告知義務違反の程度を測定し,それに義 務違反の効果を可能なかぎり対応させることを意図した制度であることにつ いては,これまで必ずしも積極的に言及されることがなかったように思われ
30) 大森忠夫 保険法〔補訂版〕 124頁(有斐閣,1985),江頭憲治郎 商取引 法 第五版 433頁注⑶(弘文堂,2009)。
31) この点については,具体例として,料率細分化タイプの自動車保険の告知事 項( 免許証の色 ,走行距離などが想定されていると思われる)があげられ,
このような場合にまで告知義務違反の効果として保険金請求権の全部免責とす るのは過剰制裁であるとの指摘がなされている。山下・前掲注1)江頭還暦408 頁。また,中間試案に対する意見募集手続きのなかで寄せられた見解にも同趣 旨のものがある。保険法部会資料18‑1;44頁。
るが,もう少し高く評価されてもいいだろう。
さらに,プロラタ主義の再評価は因果関係不存在特則(改正前商法645条 2項但書,678条2項。保険法31条2項1号ただし書,59条2項1号ただし 書,88条2項1号ただし書)をどう理解するかにも関わる。従来からの立法 論的疑義 にも関わらず,因果関係不存在特則を保険法のもとでも維持する こととし,さらに片面的強行規定化して保険契約者保護を強めたことは,そ の反面として,全部免責主義のみでは保険契約者保護に欠けることがやはり ありうることを立法判断としても認めたことを示唆しているように思われ る 。このように全部免責主義にもとづく義務違反の効果に過酷さがあると のプロラタ主義の発想と共通の前提があれば,それを緩和するための方策と して,全部免責主義に因果関係不存在特則を付加する方法が全部免責主義か らプロラタ主義へと転換を図る方法よりもつねに優れているといえるのか,
という観点からの比較検討がなされてもよい 。
32) 大森・前掲注30)129頁,田辺康平 新版 現代保険法 56頁(文眞堂,1995)。
33) このことをうかがわせる保険法部会での発言として,第17回議事録25頁参照。
ま た,山 下 友 信 保 険 法 と 判 例 法 理 へ の 影 響 自 由 と 正 義60巻 1 号27頁
(2009)は因果関係不存在特則について,告知義務違反による制裁的効果とし ての保険者免責の効果を発動させないことが合理的である場合があるという立 法政策上の判断に立脚しているとする。ただ,本文のような認識のもとでも,
保険法制定にあたっては,全部免責主義からプロラタ主義への全面的転換まで は必要なく,全部免責主義に片面的強行規定としての因果関係不存在特則を付 加するという,全部免責主義の部分的修正で対応可能との判断がなされたこと になる。
34) 中間試案では,先に示したとおり,プロラタ主義に因果関係不存在特則が付 加され,選択肢となるべき案のひとつとして提示されている(中間試案3‑4頁 の
B
案 )。しかし,プロラタ主義に因果関係不存在特則を付加することにつ いては,もともとプロラタ主義そのものに全部免責主義にもとづく義務違反の 効果の過酷さを緩和する機能があるとされていたわけであり,告知義務違反の 主観的要件が故意,重過失に限定されていることも考え合わせると,そこにさ らに因果関係不存在特則を付加しなければ保険契約者保護を図るのに十分では ないとする理由があるのか疑問が残る。さらに,この中間試案のB
案によれ ば,かなり複雑な規律を定めるものとなり,法規整のあり方からしても適当でまず,因果関係不存在特則では,不告知の対象となった事実と保険事故発 生との因果関係の有無の判断に際し,プロラタ主義(比例減額原則,引受基 準減額原則)とは異なり,事後的見地からの仮定的な判断を行う必要がない。
この点はたしかに長所といえるだろう。ただ,因果関係の有無の判断にあた って,その基準をいかなるものとして設けるべきかはこれまでも解釈に委ね られていたところであり,これは今後も,因果関係不存在特則そのものの評 価(改正前商法時代における立法論的疑義を反映した解釈論 を保険法のも とでも引き継いでいくべきか,あるいは,保険法にも因果関係不存在特則が 維持されたことを積極的に捉えるべきかなど) ,因果関係不存在特則の前 提となる全部免責主義の過酷さに対する現状認識,また,因果関係不存在特 則の片面的強行規定性をどのように理解するか 等を複合的に検討したうえ でなければ結論はでないものと考えられ,解釈論としてある程度確立した判 断基準がなければ,規律としての裁判規範性を欠き,実際に保険契約者保護 としての機能を発揮しうるのかどうか,現段階では不透明さを払拭しきれて
ない。
35) 中西・前掲注24)113頁。
36) 保険法の解釈にあっても,因果関係不存在特則の評価が因果関係の有無の判 断基準の基礎となることにつき,第17回議事録30頁。
37) 因果関係不存在特則の片面的強行規定化にあたり保険法部会では,料率細分 化タイプの自動車保険について,そこで告知事項とされている 免許証の色 と保険事故発生との間の因果関係の存否が問題になった(第17回議事録22頁)。
ここで両者の間にはおよそ因果関係がないとすれば,免許証の色に関して告知 義務違反が成立しても,結局はこの特則を通じて保険金が支払われる。そのた め,保険者が料率細分化タイプの自動車保険を維持するために,両者の間には 因果関係が認められると解釈することが考えられる。生命保険の分野では,従 来,判例・学説上,両者の間の因果関係をかなり緩やかに認めてきており,こ のような立場が保険法でも維持されるかぎり,自動車保険においても免許証の 色等に関して因果関係を緩やかに認めることにつき疑問視されることはないで あろうが,新たな保険法のもとで,因果関係不存在特則の保険契約者保護機能 を重視するならば,免許証の色と保険事故発生との間の因果関係の存在を正当 化することは難しいように思われる。
いないようにも考えられる。
また,因果関係不存在特則のもとでは,不告知の対象となった事実と保険 事故発生との間に因果関係がないとされるかぎり,保険契約者等の故意によ る告知義務違反がある場合のほか,本来ならば保険者の引受範囲外であるは ずの契約に対しても,一律に保険者有責という結論を認めざるをえないが,
この点についても因果関係不存在特則の理論的正当化は難しいところである。
さらに,上述の因果関係不存在特則の片面的強行規定性に関わるが,告知 義務の対象となる 重要な事項 のなかには,当該保険契約に定める保険事 故からみて,およそその原因となりえないものも含まれるため,そのような 事実に関しては告知義務を課しても,結局は,この特則によって告知義務違 反の効果のもつ制裁的機能が働かないことになってしまう。一方,プロラタ 主義によれば,この種の事実についても保険者の危険選択の機会は保障され る。
このように,因果関係不存在特則との比較を通じてみても,保険法におけ る全部免責主義を基軸とする制度設計の方がプロラタ主義よりも告知義務違 反の効果にかかる法規整としてつねに優位にあるとの評価を下してしまうこ とには躊躇を感じざるをえない。
4.プロラタ主義と保険法における解釈論上の課題
保険法ではプロラタ主義は採択されることはなかったが,保険約款によっ て告知義務違反の効果にかかる規律としてプロラタ主義を導入することは可 能であるか 。プロラタ主義の理論的側面を再評価する本稿の立場からすれ ば,保険者自らそれを実務に導入しようとする場合 には,告知義務違反の
38) この問題については竹濵修 保険法制定の背景と今後の展望 法律のひろば 61巻8号19頁(2008),木下・前掲注1)中西喜寿49‑50頁。
39) 前述のように,保険法部会では,因果関係不存在特則の片面的強行規定化に あたって,料率細分化タイプの自動車保険に関し,そこで告知事項とされてい る免許証の色と保険事故発生との間の因果関係の存否が問題にされた。ここで 両者の間に因果関係がないということになれば,保険者としては料率細分化タ
効果(全部免責主義および因果関係不存在特則)について定める保険法31条 2項1号,59条2項1号,88条2項1号は片面的強行規定である(保険法33 条1項,65条2号,94条2号)ので,約款の当該規定が保険法31条2項1号 等よりも保険契約者側に不利な約定となっているかにより,その可否が基本 的には決まる。
まず,基準となる保険法31条2項1号等が因果関係不存在特則を含むもの であるため,その評価のしかた如何により保険契約者保護の水準は異なりう る。この因果関係不存在特則については,改正前商法以来の立法論的批判の 存在も考慮にいれたうえで,それにも関わらず,保険法のもとで新たに片面 的強行規定として採用され,全部免責主義を修正する役割をより積極的に担 うことが期待されている。したがって,このような立法判断をふまえれば,
これまでのように,不告知の対象となった事実と保険事故発生との因果関係 をできるかぎり認めて,この特則がもつ保険契約者保護の機能を限定してい くべきであるとする解釈はもはや採りえないことは少なくとも確認される必 要があろう。
つぎに,プロラタ主義について規定する約款の内容をどのようなものとす るかが問題となるが,ここでは,プロラタ主義のうち比例減額原則あるいは 引受基準減額原則(いずれもそこに因果関係不存在特則を付加しないもの)
を念頭におき ,保険契約者側に故意,重過失があった場合にかぎって告知 義務違反が成立し,保険者は契約を解除しうるものとする。このような約款 を保険法の上記規定と比べてみた場合 ,保険契約者側にとって不利になる
イプの自動車保険を維持する方策として,約款上,プロラタ主義を採用するこ とにより,告知義務違反の制裁的効果を確保しようとすることも考えられる。
第17回議事録24頁。
40) 約款によって割合的減額原則を定めることは,告知義務違反があった場合の 保険金の支払に関してその内容が不明確となり,約款規制(行政あるいは司法 的規制)の観点から別途,問題になりうるため,割合的減額原則についてはこ こでの考察の対象から外すことにする。
41) 両者の比較にあたっては,前掲注10)保険法部会第10回会議参考資料を参照。
場合とは因果関係不存在特則が適用されるケースであり,法規定では保険金 の全額支払という結果となる。約款では,まず,当該危険が保険者の引受範 囲外にあるときには,保険契約者側に故意あるいは重過失がある,そのいず れの場合にも保険金の支払は拒絶される。つぎに,当該危険が保険者の引受 範囲内にあるときには,保険契約者側に故意があれば保険金の支払は拒絶さ れる。これに対し,保険契約者側に重過失があるにとどまれば保険金が減額 のうえ支払われる(なお,その仮定的な契約内容によっては,保険金の全額 支払ということもあれば,保険金の支払が拒絶されることもありうる)。
これらのうち,当該危険が保険者の引受範囲内にあり,保険契約者側に重 過失があるにとどまる場合が保険契約者保護の要請の度合いがもっとも高く,
この場面で保険契約者側が法規定よりも不利に扱われることをどう評価すべ きかが重要であろう。ただ,保険者の引受範囲内にあり,保険契約者側に重 過失がある場合であっても,一方で,因果関係不存在特則が適用されない
(不告知の対象となった事実と保険事故発生との間に因果関係があるとされ る)原則的場合には約款の方が法規定よりも有利になり,原則的には保険契 約者側を法規定よりも有利に扱っていることを考慮すれば,このような約款 は保険法31条2項1号等の法規定に比し不利な定めとはいえず,許容される のではないかと思われる。
(筆者は静岡大学大学院法務研究科准教授)
【付記】本稿の執筆にあたり文部科学省科学研究費補助金(若手研究 課題番号 19730069)の助成を受けた。