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モンゴルの公的年金制度の将来財政収支の 推計と改善に向けた対応

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■アブストラクト

モンゴル国(以下,モンゴルと略す)の公的年金制度は,13世紀の大モン ゴル帝国時代の高齢者助け合い制度を原点に,王政,社会主義政権,民主主 義政権と移行が進む中でも制度変更がなされ,1999年に概念的確定拠出年金 を軸とした公的年金制度が誕生するなど興味深い。ただ,日本以上に長い歴 史を有する年金制度ではあるものの,今後急速に進む高齢化への対応遅れや 人口の 割を占める遊牧民の無年金など課題も多い。そこで本稿では,モン ゴルの公的年金制度を歴史的に鳥瞰すると共に今後の年金財政健全化に向け た課題を財政シミュレーションにより明確する。

その結果,可能な限り早い時期に年金保険料を現在の14%から ポイント 引き上げ,また,給付額を現在の45%から ポイント引き下げる改革が必要 になることが判明した。同時に優遇されている早期退職年金給付制度を改め,

現在の女性の年金支給年齢を55歳から60歳へ引き上げる(男性は既に60歳)

政策を併用し,保険料の引き上げ,給付の引き下げ摩擦を抑えることが重要 である。

■キーワード

モンゴル公的年金制度,年金財政シミュレーション,概念的確定拠出年金

*平成27年 月14日の日本保険学会関西部会報告による。

/ 平成27年12月30日原稿受領。

モンゴルの公的年金制度の将来財政収支の 推計と改善に向けた対応

バトボルド ボロル ソフタ

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. はじめに

モンゴルの公的年金制度は,13世紀の大モンゴル帝国時代の高齢者を支え る助け合いの制度に由来し,1921年に発足した社会主義政権への政権移行時 に近代的な公的年金制度に衣替えした。1994年の民主主義政権への移行に伴 い,ほぼ現在の公的年金制度の骨格が整備され,1999年には先端的な概念的 確定拠出年金制度に移行している。概念的確定拠出年金はスウェーデンやイ タリアなどで導入された比較的新しい年金制度であり,年金契約者は個人の 年金口座を保有し,支払った年金保険料は記帳され,これに利息を付した将 来同口座の積立残高を退職時点の平均余命で除し,年金額を計算する仕組み である。年金契約者は透明性があり確定拠出年金のような感覚を持つものの,

財政的にはここで拠出された年金積立金は現在の高齢者の年金額にそのまま 充当されることから名称は(概念的)確定拠出年金ではあるが,財政的には 確定給付年金制度(Pay As You Go:賦課方式)である。

したがって,今後急速に進む高齢化への対応は不可欠であり,現行の年金 制度が十分に対応できているとは言えない。また,遊牧民を中心とした無年 金者が人口の 割に達するなど課題も多い。

先行研究を紐解くと,Vandanmagsar and Sukhbaatar(2001)は,モンゴ ル年金制度を歴史的にまとめ,同制度の特徴や課題を総括しモンゴルの公的 年金制度の概要と2001年以降の新公的年金制度の改革案を提示している。ま た,Thompson(2003)と World Bank(2008),(2011)もモンゴルの政府 と協力し概念的確定拠出年金の現状とモンゴルに導入する際の課題を分析し ている。いずれも政策提言につなげているものの,その提案は実現しなかっ た。

公刊されている文献に,長期にわたるモンゴルの年金制度の将来財政収支 を計量的に分析,予測した研究はなく,計量的に年金財政収支を予測し,そ の中から今後の課題への対応を提案するところに本稿の独自性がある。具体 的には,将来の年金財政収支をシミュレーションすることにより,急速に進

(3)

む高齢化に対応する財政健全化策を提案する。

.モンゴルにおける公的年金制度の歴史

高齢者を支援する家族的な制度が原点にあるモンゴルの公的年金制度は長 い歴史を有し,現代まで以下の つの段階を変遷してきた。

⑴ 年金制度の基礎,君主制時代の社会保障(1200年代−1921年)

厳しい遊牧民生活の中で,家族や隣人または一族を思いやる精神がモンゴ ル社会の根幹にある。当初は単なる社会的な関係だった助け合いの概念は制 度化され,公的年金制度など体系的な社会保障制度となった。1206年の大モ ンゴル帝国の誕生直後に,孤児や貧しい人々など弱者を救護する各法律が イへ・ザサグ という法律に統合された。例えば1,000人を ユニットとす る集団ごとにリスクに対応する基金を設け,孤児や貧しい人々に対して羊な どを無償で供与することにより,生活の再建を支援してきた。

また,1218年にチンギスハーンは,高齢者の年齢に応じ物品の供与を行う 制度を設け,例えば,60歳以上の高齢者に 単位(銀と米を特定量)の供与,

70歳以上の人に同 単位,80歳以上の人に同 単位,90歳以上の人に同 単 位,100歳以上の人に同 単位,また110歳以上の人は 単位に加え,チンギ スハーンに面会できる権利を与えた。これにより,①高齢者の生活支援,② 富の再配分,③君主の権威の高揚を実現した。現物支給ではあるものの,換 金性に優れ,年金制度の原型と言えよう。

⑵ 社会主義,中央計画経済時代の公的年金制度(1922年−1990年代)

1921年の国民革命1)により社会主義に移行した中で,モンゴル人民政府は 1) 1921年までの ボグドハーン(Bogd khaan) 王制下で,①国民の生活水準 は連続的に低下,②ロシアと中国の相次ぐ侵入,を受け,同年,王政から社会 主義国(人民共和国)へ移行する革命が起った。これは国民革命と呼ばれ,指 導者は当時のモンゴルの人民革命党(共産党)の書記長であるダミドン・スへ バートルである。

(4)

社会保障制度を強化することを決定し,政府がすべての社会保障給付を確実 に実行する責任を持つとされた。

1940年にはモンゴル最初の憲法が制定され,第91条に高齢者や障害者のた めの社会保障に関する基本的な考え方が定められた。1942年には, 社会リ スクへの対応を目的とした社会福祉省 を設立した。これは政府の中枢であ る労働組合本部に隣接して設置されたが,これが現在の社会保険事務所の始 まりとされている。これにより高齢者の疾病治療費などは国庫から支給され ることとなった。1943年には モンゴルの社会保障年金規則 が制定され,

年金の受給開始年齢である 定年 を男性60歳,女性55歳と定めた。定年を 前倒しすることも可能(後ろ倒しは不可)とし,また,年金の給付額は 就 業していた最後の12ヶ月の平均賃金 の40%から60%と定められた。

1958年にはモンゴル初の 年金法 が採択され,すべての従業員は社会保 険に参加することとなった。政府は社会保障給付に責任を有し,雇用者は従 業員の保険料のすべてを負担し,また,学校は学生(大学生や専門学校)の 保険料を支払うこととされた。雇用者の支払う保険料率は,従業員の賃金の

%から10%(工業やサービス業など一般産業が %,石炭産業は %,公 務員は %,自営業者は10%)となっている。

1960年には社会保障制度が 社会保険 と 社会福祉 の つの分野に分 けられた。社会保険は,一時的な障害や病気の治療,出産ケア,従業員の療 養リスクに対応しており,雇用者や企業からの拠出金により賄われ,社会福 祉は,療養中の高齢者,障害者,孤児や多くの子供を持つ母親を守るための 制度である。

1970年に現役世代の労働力を増加させるために年金法を改正し,定年制度 の見直しと在職年金制度2)がスタートした。定年後も働く従業員は年金給付 2) 一般に,在職年金とは,年金支給年齢後も被雇用者がその職に留まり,給料 を支給された場合に年金額を削減する仕組みであるが,モンゴルではやや異な るニュアンスで使用されている。すなわち,1970年以前は定年後は働くことが 許されず(少ない働き口に対応した強制的なワークシェアリング),自動的に 年金受給者となっていた。これを改め,定年後も個人の選択により働き続ける

(5)

を受給できるものの,賃金の水準により年金額が削減される。従業員の賃金 水準は 段階に分けられ,最低ランクの賃金以下の場合には在職年金を満額,

平均ランクの賃金では最低年金額を,高所得ランクの賃金の場合には最低年 金の半額から 分の の受給に制限された。

1978年には,ネグデル(Negdel)3)の組合員で全人口のほぼ 割を占める 遊牧民 の年金制度が改正された。ネグデルが年間収入の4.3%を年金財源 として拠出し,社会保障基金に積み立てることとなった。1979年にはネグデ ルの構成員である遊牧民はこの年金制度に積極的に参加するように促され,

遊牧民の年金額は平均で50%程度上昇した。

1990年には女性の年金や軍人などの特殊勤務に従事する人々の支給条件の 見直しが行われ, 定年前 に年金を受給する早期年金受給者が増加した。

改正法施行直後の1991年には年金被保険者が対前年31.5%も増加し, 定年 前 に年金を受けた人は年金受給者総数の45.9%に及び,年金給付総額も前 年に比べ3.9倍の増加となった。

⑶ 市場経済,現代の公的年金制度(1990年代以降)

1990年にモンゴルの社会主義経済は市場経済に移行した。社会主義政権下 で制定された社会保障制度の多くは見直しの必要があるとされ,公的年金制 度も改革されることになった。 モンゴルの公的年金法 は モンゴルの社 会保険拠出法 に改正された。

1994年には 社会保険法案 が採決され,公的年金制度は国家の一般財源 の基金から国家社会保険庁が管理する社会保険基金へと変更された。それは,

ことが可能となり,この給与と併給される年金を在職年金制度としている。

3) ネグデル(Negdel,農業協同組合)は,1939年に誕生した遊牧民が社会主 義制度の下で富を共同保有,分配する仕組みである。国の一機関と位置づけら れ,1950年には全国で139のネグデルが存在した。遊牧民は各地域のネグデル の構成員(組合員)になる。自分で所有する家畜数は10頭から15頭までと制限 し,それを超える家畜はネグデルの所有となる。組合員はネグデル所有の家畜 の世話をすることによりその対価として給与をもらう。

(6)

公的年金制度が確定給付年金となり,従業員と企業による保険料拠出による 制度となったため,一般財源と切り離した基金とし,そこに政府の一般財源 から補助金を投入する必要があったためである。

1999年には 概念的確定拠出年金 法案が採択され,1960年以降に生まれ た国民は,確定給付年金から同制度に移行することとなった。2008年には公 的年金の保険料水準が約26%引き下げられ,保険料率は雇用者所得の19%か ら14%になった。

現在のモンゴルの公的年金制度は,国家社会保険局によって運営され,① 老齢年金,②稼ぎ手を失った家族に支給される年金(寡婦年金),③軍人恩 給年金,の つからなる。また,年金の財源は,①従業員と雇用者が支払う 保険料,②資産運用に伴う収益,③政府補助やその他の財源,④年金保険料 の支払い遅れに伴う遅延金収入,などである。

資産運用については,年金積立金(蓄積基金と呼ばれている)は安全性の 観点から,基本的には国債や中央銀行が発行する債券への投資4)に限定され ている。一部は商業銀行に預金することも認められているものの,現在まで その実績はない。

現在の年金制度は1960年生まれを境に つの制度が併存する。すなわち,

1959年以前に生まれた人の 確定給付年金(以後,旧年金と呼ぶ) と1960 年以降に生まれた人を対象とした 概念的確定拠出年金(同,新年金と呼 ぶ) である。その概要を表 に示した。給付要件を見ると,前者は,年金 受給資格を得るには20年間の保険料支払いが必要であるが,後者は旧年金よ

4) モンゴルの公的年金基金の資産運用規制については,1994年に成立した 社 会保険について の第 章(社会保険基金)に定められている。同章第11条に よれば,投資対象は,①国債とモンゴル銀行(モンゴルの中央銀行)の発行の 有価証券,②商業銀行の預金,である。運用の方法については,①が社会保険 基金の年次予算の中で政府により決定され,②については,モンゴル銀行,政 府(社会保障財政担当部局),そして雇用者と年金契約者代表とで構成される 社会保険国民評議会(National Council of Social Insurance)との協議により決 定される。

(7)

り 年短い15年間としている。支給開始年齢は,一般に男性60歳,女性55歳 であるが,一部の工業や軍関連産業に従事し,業務の危険性が高いと認めら れる場合には10年間前倒しすることも認められている。また,保険料率は両 制度共に賃金の14%とし,それを従業員と企業が折半して支払う。自営業の 場合の保険料率は収入の10%としている。

一方,年金給付の基礎となる賃金は,旧年金の場合, 連続的な 年間の 平均賃金の最高額 とする。新年金は概念的確定拠出年金であるため,毎年 の賃金の年金開始時期までの累計支払保険料に想定利息を付与した元利合計 が基準となる。最低保障年金は,旧年金が国家最低賃金の75%,新年金が国 家平均賃金の20%に給付基礎である15年間以外の各年の平均賃金の0.5%を 加えた額としている。

モンゴルの新旧年金比較

(出所)筆者作成

旧年金:確定給付年金 新年金:概念的確定拠出年金 対 象 1959年以前に生まれた全雇用者

と自営業者

1960年以降に生まれた全雇用者 と自営業者

年金受給資格 20年間の保険料支払い 15年間の保険料支払い 支給開始年齢

男性は60歳,女性は55歳 特殊業種場合,上記より10年前 倒し

男性は60歳,女性は55歳 特殊業種場合,上記より10年前 倒し

保 険 料

雇用者:賃金の14%(企業 %,

従業員 %)

自営業者:収入の10%

雇用者:賃金の14%(企業 %,

従業員 %)

自営業者:収入の10%

年 金 給 付 を

計算する賃金 最も高い連続的な 年間の賃金

年金開始時期までの累計支払保 険料に想定利息を付与した元利 合計

最 低 年 金 最低賃金の75%

国家平均賃金の20%+資格の15 年間以外の各追加年間に対する 平均賃金の0.5%

(8)

.モンゴルの公的年金制度の現状

モンゴルの年金制度の成熟度について図 から見てみよう。公的年金保険 の被保険者数は2002年の31万人から2013年の95万人に約 倍も増加している。

雇用者数が同87万人から110万人まで26%にとどまっていることから,モン ゴルの企業が力をつけ,企業負担分の年金保険料を拠出できるようになった ことがわかる。図 に示した被保険率(被保険者数を雇用者数で除した値)

は,2002年の35%から86%まで上昇し,同時に年金制度の成熟度を示す年金 成熟度指数(年金受給者数を被保険者数で除した値)は56から23に低下して おり,現在のところ財政的な問題は見られない。

若い年金制度ゆえに棒グラフに示した公的年金基金収支も黒字を続けてい る。2013年の公的年金収入は8,821.6億ドゥグリク( ドゥグリク=0.06円),

同支出は8,106.2億ドゥグリクで,収支は715.4億ドゥグリクの黒字となり,

モンゴルの年金制度の構造

(出所)国家社会保険局(2014) 年次レポート2006‑2013 のデータを基に,筆者 作成

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これは10年前の2004年収支の約10倍(2004年の年金基金収支は72.6億ドゥグ リク)の水準である。

しかしながら,1994年の年金改革においても,現役世代(16歳から59歳の 人口)のほぼ 割を占める遊牧民は公的年金制度の枠外となった。遊牧民の 高齢化は国民全体と同様に進むのに加え,遊牧民の若者は都会で就職するこ とが増えていることから,放牧生活も長く続けることは難しい状況となって きている。年金の給付水準は高くなくとも何らかの年金制度に遊牧民も取り 込むべきであると考える。

また,モンゴルの人口構造を国連の人口推計 United Nations(2013)をも とに,1950〜2050年の実績と将来推計を図 にまとめた。

モンゴルの総人口は1950年の78万人から2013年の284万人へ約3.6倍の増加 となったが,その後,2050年で375万人,2100年に394万人とその増加幅は緩 やかなものに変化する。既に人口の伸び率は1980年代の年平均2.6%が,出 生率の低下(1950年の5.60人から2010年2.44人)などにより2010年代には同

(出所)United Nations(2013)から,筆者が作成 モンゴルの人口構造変化

(10)

1.4%になっている。一方,平均寿命は生活水準の向上などで大きく伸び,

同43.2歳から上昇し,2050年には74.7歳まで上昇すると予想されていること から,高齢化は急速に加速する。

人口の年齢構成の推移をみると,現役世代(16歳から59歳)の総人口に占 める割合は,1990年の53%が2010年には67%に拡大し,人口ボーナスを受け 取れた時代から,2050年には59%まで逆に低下することから人口オーナスの 時代に入る。総人口に占める高齢者(ここでは,60歳以上人口とする)の割 合は,1990年の6.2%が2010年には5.6%まで低下したものの,逆に2050年に は19.8%まで増加する。

このことから,年金の支給年齢である60歳以上の人口は,2010年の15.4万 人から2050年には74.3万人へ急増し,2100年にはその 倍の150万人の水準 となる。この人口構成の急激な変化は将来の公的年金財政に大きな影響を与 える。そこで現行の年金制度の大きな枠組みを維持すると仮定した場合に,

年金制度の制度改革の目途,すなわち,保険料率の引き上げと給付の削減が どの程度の規模で必要なのかをシミュレーションモデルを作成し,次節以降 で検証したい。

.シミュレーションモデルの概要

公的年金財政の特性から,将来収支シミュレーションは長期間の動きを把 握する必要があるため,2007年から2013年の年次実績を基に,2055年までの 推計期間を設定した(2014年から2055年の年次モデル)。公的年金の収入は,

保険料収入に資産運用収入を加え,事務手数料(ここでは %とした)を控 除した額とした。保険料収入は,被保険者の総所得に保険料率を掛けたもの とし,資産運用収入は前年の基金残高に資産運用の利回りを掛けたものとし た。構造式は以下のとおりである。

公的年金総収入=保険料収入−事務手数料+資産運用収益 保険料収入=被保険者数×一人当たり平均所得×保険料率 資産運用収益=前期の基金残高×資産運用の利回り

(11)

事務手数料=保険料収入の %

なお,被保険者数は16歳から59歳の雇用者数を,一人当たり平均所得は同 雇用者の年平均所得を使用した。また,保険料率は現在の新公的年金(概念 的確定拠出年金)の保険料率(2013年実績は14%)とし,人口については,

United Nations(2013)から 歳刻みの人口統計を使用(実績は2007年から 2013年,予測期間は,2014年から2055年)した。雇用者数は2007年から2013 年までのモンゴル労働省・統計局の 労働力調査報告書 (2007年版〜2013 年版)の15歳から59歳までの年齢 歳刻みのデータとし,予測期間(2014年 から2055年)は2013年の数値を横這いと置いた。なお,利子率は,期間 年 から 年のモンゴル中期国債の金利を採用した。一方,公的年金の支出は,

一人当たり平均賃金に年金給付率をかけ,それを受給者全体に広げた。

公的年金総支出=一人当たり平均賃金×給付率×年金受給者数

ここで,一人当たり平均賃金は雇用者所得の年間合計額とし,年金受給者 数は定年(男性は60歳,女性は55歳)を迎えた人口とした。また,平均賃金 については,2007年から2013年の実績部分はモンゴル統計局の 年次報告 書 にある平均賃金データを用い,同予測期間は,一人当たりの平均賃金の 伸び率を消費者物価指数の上昇率+(実質 GDP の伸び率−人口伸び率+

%)と推計した。ここで, %はモンゴルにおける過去の消費者物価伸び率 と GDP デフレータ伸び率との平均格差である。2014年から2018年までの消 費者物価上昇率と実質国内総生産の伸び率は世界銀行の推計を用い,2019年 以降はインフレ率を %,実質国内総生産の伸びを %とおいて計算した。

一方,給付率は,新公的年金の2014年現在の給付率をそのまま採用し,雇 用者平均所得の45%とした。年金受給者数は United Nations(2013)の 歳 刻みの人口に基づく60歳以上の男性と55歳以上の女性の人口とした。

また,公的年金の積立金総額である基金残高は,前年度の基金残高に当年 度の上記の総収入から総支出を差し引いた収支の額を加えたものとした。

当年度末公的年金基金残高=前年公的年金基金残高+

公的年金総収入−公的年金総支出

(12)

.シミュレーション結果

現状の保険料率,給付率,そして運用利率を維持するとした自然体(保険 料率14%,給付率45%,利率11.8%)のシミュレーションの結果は,年金収 支は14年後の2029年という極めて早い段階で赤字に陥るというものであり,

長期安定的な公的年金財政を目指すモンゴルの公的年金制度とは相いれない。

そこで年金財政の黒字を2050年まで持続(約30年間の年金財政の安定を目 途)できることを目途とした保険料率の引き上げと給付率の引き下げ水準を シミュレーションにより求めた。その結果を表 にまとめた。

つの変数の変化幅は,保険料率が現在の14%から20%まで引き上げ,給 付率は同じく45%から32%まで引き下げとした。現行の保険料率(14%)を 維持しようとする場合,現行の給付率(45%)を32%まで引き下げる,また,

現行の給付率(45%)を維持する場合には保険料を20%まで引き上げざるを 得ないことを示している。

多くの組み合わせの中から国民の反発が相対的に小さく選択しやすい一つ シミュレーション :保険料率,給付率の年金財政収支への影響

(注)2100< は2100年までの間に,赤字になる年がないことを示す。

(出所)筆者のシミュレーション結果をまとめたもの。

年 金 財 政 収 支 が 赤字に転落する年

年金給付率

45%

43%

40%

38% 36% 34% 32%

保険料率

14% 2029

2031 2035 2038 2041 2046 2051 15% 2032 2034 2038 2042 2046 2051 2058 16% 2035 2038 2043 2047 2051 2058 2071 17% 2038 2041 2047 2052 2058 2070 2088

18%

2042 2045

2052

2058 2069 2085 2100<

19% 2046 2050 2058 2068 2083 2100< 2100<

20% 2050 2055 2067 2081 2100< 2100< 2100<

(13)

の政策として,例えば保険料率を %引き上げて18%(日本やスウェーデン とほぼ同水準)とし,逆に給付率を %引き下げて40%程度とする案などが 考えられる。この場合,赤字に転落する年は2052年となり,自然体のケース より23年間長く年金財政の健全性を維持できる。

さらに早期年金退職制度を見直し,年金受給年齢を男女とも60歳(現在の 年金受給開始年齢は男性60歳,女性55歳)へ延長すると,表 の自然体ケー スの2029年が2037年に 年後ろ倒しになる。これは保険料に換算すると約

%程度となる。

一方,モンゴルの2014年現在の長期国債の金利は11.8%と高い水準にある が,今後経済成長の鈍化につれて低下する可能性が高い。金利の変化が年金 財政に与える影響も大きいため,金利の年金財政に与える影響をシミュレー ションした。その結果を表 に示した。金利を現在の12%から %低下させ るごとに赤字へ転落する年が 年から 年早くなる。 %まで約 %低下す ると想定すると,赤字になる年は 年前倒しの2045年になる。逆に金利が

%上昇すれば,2100年まで赤字化は回避できる。

シミュレーション :金利変化が年金財政に与える影響

年 金 財 政 収 支 が 赤字に転落する年

上記で選択したケース (参 考)

保険料 給付率 保険料 給付率

18% 40% 17% 38%

金利

% 2045 2045

10% 2047 2047

11% 2049 2049

12% 現行

2052

2052

13% 2058 2058

14% 2070 2070

15% 2100以降 2100以降

(出所)筆者のシミュレーション結果をまとめたもの。

(14)

上記のシミュレーション と は,2015年から一気に当該水準まで保険料 率や給付率そして金利水準を変更することとしたが,現実の政策としては採 用しにくい。保険料の引き上げと給付率の引き下げは段階的に行い,国民生 活への影響を均していくことが求められる。

そこで,2018年に保険料率を現状の14%から15%まで %引き上げ,給付 率を現状の45%から %引き下げ,43%とする。これを2032年迄段階的に行 うことを想定し,2052年まで赤字化を避けるシミュレーションを行うと表 の結果になる。この場合の2032年の保険料率は19%,給付率は30%となる。

シミュレーション の受け入れやすいケースとした保険料率18%,給付率 40%に比べると保険料率で %高く,給付率で10%低い厳しい状況を示唆し ている。このことから,国民への過剰な負担を抑えるためには,高齢化のペ ースが上がる前の少しでも早い時期に年金の制度改正を急ぐ必要があること がわかる。

.おわりに

長い歴史を持つモンゴルの公的年金制度は,伝統的な助け合いの精神を基 本に,社会体制が変化する中でも概念的確定拠出年金への移行など国民のニ

シミュレーション :段階的な制度改正の効果

(出所)筆者のシミュレーション結果をまとめたもの。

年 度 保 険 料 給 付 率

2015 現行 14% 45%

2018 15% 43%

2021 16% 40%

2024 17% 38%

2027 18% 35%

2030 19% 33%

2032 19% 30%

(15)

ーズに合った改革を連続して進めてきた。

しかしながら今後の高齢化のピッチは速く,概念的確定拠出年金制度を運 営したとしても年金財政の悪化は避けられない。モンゴルの60歳以上の人口 比率20%(2050年)は,日本の2000年時点の状況にあたる。当時日本では厳 しい年金財政の見通しから年金改革の議論が熱を帯びた。

今回のシミュレーション結果は,現在の保険料率,年金給付率を維持する

(利子率も現行の高い水準を前提)と公的年金の財政収支は14年後の2029年 には早くも赤字化することを示している。この事態を避けるには,保険料率 18%(現行から %引き上げ),給付率40%(同 %引き下げ)を目途に早 急に年金改革を進める必要がある。さらに将来の金利水準の低下は避けられ ず,一刻も早い国民負担引き上げの決断を行う必要がある。

一方で,優遇されている女性の早期退職制度の見直しも進め,生産人口を 増やす戦略に舵を切ると共に,それにより節約できた財源を保険料の引き上 げなどの苦痛を伴う改革の激変緩和措置に用いることが望まれる。

(筆者は滋賀大学大学院経済学研究科博士後期課程)

参考文献

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Oyut-Erdene Namdaldagva, Oyun Banzragch and Ghazy Mujahid (2010) “Assuring Income Security in Old Age: Views of the Mongolian Elderly”, Ulaanbaatar.

Thompson, Lawrence H. (2003) “Analysis of Social Security Policy Options”, Report of the Working Group on Social Insurance, Ministry of Social Welfare and Labor of Mongolia.

Ts. Dashdondog (2008) “Social Insurance Legislations”, Ulaanbaatar.

United Nations (2013) “World Population Prospects: The 2012 Revision”

World Bank, Human Development Unit East Asia and Pacific Region, (2008)

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(16)

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モンゴル国家統計局(2014) 年次統計レポート1995−2013 モンゴル国家統計局(2014) 年次労働力調査2002−2013 モンゴル国家統計局(2011) 人口と自宅の調査2010 国家社会保険局(2014) 年次レポート2006−2013

参照

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