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金融危機後の保険・監督規制

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(1)

金融危機後の保険・監督規制

背景事情と考え方を中心に

溝 渕 彰

■アブストラクト

近年,発生したサブプライムローンに端を発する金融危機の反省を踏まえ て,システミックリスクの概念がより明確にされた。すなわち,システミッ クリスクとは,プロシクリカリティを悪化させるような金融機関の集合的な 行動から生じる内生的なリスクと金融の安定や実体経済に脅威となる可能性 がある金融機関や金融セクターが相互に依存し合うことによって発生する可 能性のあるリスクから構成されるリスクのことをいう。このうち,前者のリ スクをアグリゲート・リスク(Aggregate Risk)といい,後者のリスクを ネットワーク・リスクという。アグリゲート・リスクに対処する手段として は,金融機関に一律に課され,景気動向に合わせて変動する追加的な資本規 制が有用であると考えられている。他方,ネットワーク・リスクに対処する 手段としては,特定の金融機関に対して課される加重的な資本規制が有用で あると考えられている。ただ,このような資本規制が資源配分の効率性とい う観点から見て有用なものであるかどうかは,今後,実証的に検討する必要 がある。

■キーワード

システミックリスク,アグリゲート・リスク(Aggregate Risk),

ネットワーク・リスク

*平成26年10月19日の日本保険学会大会(香川大学)報告による。

/平成27年1月19日原稿受領。

(2)

1.はじめに

近年に発生したサブプライムローン問題に端を発した米国発の世界的な金 融危機においては,これまで行われてきた金融監督の手法が適切な形で機能 しなかった部分もあった。そこで,これまで行われてきた金融監督・規制手 法を改善する必要があると主張されるようになった。この点,とりわけ,マ クロプルーデンスの観点からの監督・規制が注目され,このマクロプルーデ ンスの観点からの監督・規制に対する改善が検討されることとなった。本稿 は,このような新しいマクロプルーデンスの観点からの保険監督・規制を含 めた金融監督・規制(以下,金融監督・規制という言葉の中には保険監督・

規制も含めることとする)について,その背景事情や考え方を明らかにする ことを目的とする。

新たに検討されているマクロプルーデンスの観点からの金融監督・規制は,

銀行を中心にして議論が組み立てられている。保険会社は銀行と同様の弊害 が生じる場合に,銀行に対する監督・規制を参考にして保険会社に対する監 督・規制の是非やそのあり方が検討されることになる。特に,本稿では,金 融危機後の新しいマクロプルーデンス規制について検討した文献である

Bank of Englandが纏めた The role of macroprudential policy

をベ ースにして説明していくこととする。それ故,現在,G20といった国際会議 等で議論されているマクロプルーデンスの観点からの金融監督・規制とは若 干調和しないこともあり得る。

伝統的に,プルーデンスの観点に基づく金融監督・規制はマクロプルーデ ンスの観点とミクロプルーデンスの観点とに分けられてきた。マクロプルー デンスの観点からの監督・規制とは何か 。これを理解するためには,ミク ロプルーデンスの観点からの監督・規制と比較する必要がある。個々の金融

1)

Bank of England,

(2009)

.

2) 以下のミクロプルーデンス及びマクロプルーデンスの観点からの監督・規制 に関する記述は,Papathanassiou and Zagouras(2012),p.162に基づく。

(3)

機関の健全性を確保することにより,外生的なリスクから預金者や投資者を 保護することに着目した監督・規制がミクロプルーデンスの観点からの監 督・規制である。これに対して,システミックリスクの評価,システミック リスクの発生の予防,発生したシステミックリスクの軽減といったことに焦 点を当てた監督・規制を行うことにより,実体経済に生じるコストを縮減す ることを目的にするのが,マクロプルーデンスの観点からの監督・規制であ る。なお,このようなシステミックリスクは金融システム全体に影響を及ぼ すリスクである。

本稿では,まず,金融危機後,再検討されたシステミックリスクについて 明らかにする(2参照)。ここでは特にシステミックリスクの二つの構成要 素,すなわち,アグリゲート・リスクとネットワーク・リスクについて明ら かにする。次に,このシステミックリスクを具体的に構成する二つの要素に 対処する手法について検討する。すなわち,対処する手法として,⑴プロシ クリカリティを踏まえた資本規制と⑵システム上,重要な金融機関に対する 加重的な資本規制について検討する(3参照)。

2.システミックリスク―二つの構成要素―

⑴ システミックリスクの捉え方の変化

マクロプルーデンスの観点からの監督・規制について改善が提言されるよ うになったのは,その対象とするシステミックリスクの捉え方に変更があっ たからであると考えられる 。伝統的には,システミックリスクとは,市場 におけるあるプレイヤーによる特定の活動が他のプレイヤーに波及的な効果 を及ぼす可能性があることから生じる外生的なリスクから発生すると考えら れてきた。しかしながら,このような捉え方は漠然としている。

伝統的な捉え方では,システミックリスクの内容を正確には把握していな いと考えられる。金融危機後,より明確にされたシステミックリスクとは,

3) 以下に説明する修正されたシステミックリスクの概念については,

Papathanassiou and Zagouras

(2012),p.163参照。

(4)

①プロシクリカリティを悪化させるような金融機関の集合的な行動から生じ る内生的なリスクと②金融の安定や実体経済に脅威となる可能性がある金融 機関や金融セクターが相互に依存し合うことによって発生する可能性のある リスク,から構成されるリスクと捉え直すべきであると主張されている。

ところで,金融危機の文脈において市場の失敗は,インセンティブ,情報 そして,協調行動に分類される三つの発生源から生じるとする見解がある 。 まず,インセンティブの問題に関しては,保険がリスクを取るインセンティ ブを歪める場合のように,この問題は,政策が意図しない結果として生じる ものである。金融危機に至る前の段階において,インセンティブの問題が過 剰なリスクを取ることへと繋がり,これに貢献すると広く考えられている。

例えば,政府等による公的なセーフティネットがあると想定している場合,

金融機関の間で潜在的にリスクを低く評価することが広まり,これが過剰な リスクを取ることを許すと考えられる。

次に,情報の問題であるが,買手が資産の質に疑念を抱いている場合(逆 選択の問題)やプリンシパルがエージェントの行動を完全には観察できない 場合(モラルハザードの問題),このような情報の 軋轢 によって市場の 失敗が生じることもある。加えて,人間は完全に合理的な方法で情報を処理 するものではないことを示唆する多くの証拠も存在する。これまでも,情報 の 軋轢 は金融危機に至る前の段階においてはっきりと現れてきた。例え ば,金融システムの中で自身が晒されているリスクをエージェントが判断す るのに必要な情報を有していない場合,ネットワーク外部性というものが生 じる。ある会社が破綻した結果どのような影響が及ぶのか,金融のネットワ ークにおいて,他の会社にとっては不明確である。このような場合,情報の

軋轢 が生じていると言える。

最後に協調行動の問題であるが,この問題も個人が行動するインセンティ ブを歪める。集合行為は集団に属するメンバーそれぞれにとっては利益にな るが,このようなメンバーに対し協調した行動を取らせる手段を欠くことか 4) このような見解については,Bank of England(2009),pp.12‑13

.

参照。

(5)

ら,集合行為に関しては均衡点に達することはない。例えば,支払能力に懸 念が生じると,銀行は資産を売却し,新規融資を抑制することでバランスシ ートを縮小させようとする。このような行動は,個々の銀行の行動としては 合理的であるが,集合的な行動になると全ての者にとって最悪の結果をもた らす。資産の投げ売り,流動性の問題,信用収縮,といった金融を不安定に する問題を生み出すこともあり得る。

このような三つの発生源は,以下に述べる二つの 経路 を通じて金融シ ステムの内部や実体経済へと伝播していくことになる 。この二つの 経 路 とは, レバレッジ と 満期の変換 = 満期のミスマッチ である。

基本的には,両者は共に社会的に有用なものと考えられる。しかしながら,

両者共に社会的に最適な水準を超えると,有用なものと なり過ぎる 可能 性がある。様々な軋轢が生じることで,最終的には,過剰なレバレッジが生 じ,過剰な満期のミスマッチが生じることもあり得る。過剰なレバレッジや 過剰な満期のミスマッチが生じると,実体経済は,マイナスの衝撃に直面し 脆弱になる。過剰なレバレッジや過剰な満期のミスマッチは,流動性や支払 能力が経済全体に及ぼす影響を拡大するメカニズムを更に増幅させるものと して機能する。このような力学を理解するために,金融システム全体に及ん で発生する①アグリゲート・リスク(Aggregate Risk)と金融システムの 内部で発生する②ネットワーク・リスクを区別することが有用である。

前述したシステミックリスクの二つの構成要素のうち,1つ目のリスクは,

金融機関が集合的な行動を取ることが原因で金融システム全体に渡って生じ るリスクである。このリスクが顕在化することにより,金融システム全体に わたって,デフォルトのリスクが高まることになる。このリスクをアグリゲ ート・リスクという。他方,2つ目のリスクに関しては,金融システムの内 部で発生するリスクである。金融システム内で資金が回収できない結果とし て,損失が発生し,他の金融機関や金融システム全体ひいては実体経済に悪 影響を及ぼすことになる。例えば,ある特定の銀行が破綻した結果として,

5)

Bank of England

(2009)

, pp.13‑14 .

(6)

金融システム全体に渡って危機が高まることになる。このようなリスクをネ ットワーク・リスクという。

⑵ 新しいシステミックリスクを構成するアグリゲート・リスク

まず,①に関しては,以下のような銀行の集合的行為の問題から導かれ る 。すなわち,多くの銀行は,景気の下降局面では過度にリスク回避的に なると言われている。その結果,銀行は貸出を渋るようになり,景気が停滞 する。これに対して,景気上昇局面では,多くの銀行は過大なリスクを取ろ うとする。その結果,過剰な貸出を行い,景気を過熱させる。いわば根拠な く熱狂的な貸出が行われることになる。このような銀行の集合的行為によっ て景気循環を増幅させる効果のことをプロシクリカリティという。このよう なプロシクリカリティから生じるリスクのことをアグリゲート・リスクとい う。

このアグリゲート・リスクは,金融システム全体におけるレバレッジと満 期のミスマッチの状況を検証することで把握することができる。他方,この アグリゲート・リスクは,個々の金融機関が有するリスクマネジメントの仕 組みの中で把握することは難しい。また,規制当局もミクロプルーデンスの 観点からの監督・規制によりアグリゲート・リスクを把握し,これに対処す ることは難しい。

なぜ,個々の金融機関も規制当局もアグリゲート・リスクに対応できない のか。規制当局は,個々の金融機関のバランスシートを見ただけでは,金融 機関の合成の誤謬を監視することはできない。すなわち,既存のミクロプル ーデンスの観点からの監督・規制では対応できない限界がある。以下の事例 を検討してみよう。A銀行が満期を一週間とする貸付を受けたとする。この A銀行がB銀行に対して,満期が二週間とする貸付を行ったとする。更に,

B銀行はC銀行に満期を三週間とする貸付を行ったとする。これを繰り返し

6) 以下のアグリゲート・リスクの説明については,Bank of England(2009),

pp.14‑15参照。

(7)

ていった場合,バランスシート上は,一週間を越える満期のミスマッチは現 れないことになる。しかしながら,金融システム全体においては,満期のミ スマッチは拡大している。すなわち,金融システム全体に蓄積された満期の ミスマッチによるリスク(アグリゲート・リスク)は高まっている。資産価 格の下落等により,流動性危機が発生することでこのようなリスクは顕在化 する。これまでのように規制当局による個々の金融機関のバランスシートを チェックして対処するだけでは,このようなリスクには対処できない。

⑶ システミックリスクを構成するネットワーク・リスク

他方,②に関しては,個々の金融機関は,自らの行為が他の金融機関に対 してどのような影響を及ぼすことになるのか,その波及効果を十分考慮に入 れて行動するとは言い難い。同時に,個々の金融機関は,他の金融機関の行 為が自らのバランスシートにどのような影響を及ぼすのかについて十分注意 を払うとは言い難い。従って,金融システムに存在するリスクの中には個々 の金融機関が検知できない他の金融機関との繋がりから発生するものがある。

このようなリスクをネットワーク・リスクという 。ネットワーク・リスクの 問題は,金融システム全体にとって―個々の金融機関が内部化できない―負 の外部性の問題と言える。金融システムにおけるいずれの金融機関もこのよ うなリスクを負うが,いずれの金融機関もそのようなリスクを軽減するため の行動を取ることがないと考えられるからである。

他の金融機関に対する波及効果が流動性リスクを高めることとなる金融機 関が存在する。このような金融機関が破綻すると,デフォルトが多岐に渡っ て増加する可能性がある。破綻しないまでも,先の金融危機においては,こ のような金融機関が予防的に流動性不足に対処する行動を取ったことから,

突発的に短期金融市場において流動性リスクが高まったと言われている。ま た,金融危機時には,投げ売りにより流動性リスクに対応した銀行もあった

7) 以下のネットワーク・リスクの説明については,Bank of England(2009),

pp.15‑16参照。

(8)

とも言われている。このような行動を取った銀行が市場における流動性を悪 化させ,他の金融機関に悪い影響を及ぼし,このような金融機関が損失を被 ることになった事案も見られたと言われている。

このような波及効果は金融機関全体に浸透していく。更に,波及効果は 徐々にリスクを増幅していく可能性がある。伝播していくリスクを低く見積 もると,金融機関の中には望ましい水準よりも規模を大きくし,互いの結び 付きを強くする,あるいは,実際の水準よりも規模を大きくし,互いの結び 付きを強くしようとする,ことも生じると考えられる。このような金融機関 の行動は,金融システムにおける総レバレッジの中に顕在化する。すなわち,

レバレッジが金融システム内部で高い水準となって顕れることになる。

3.リスクマネジメントツール

以上,二つのリスクに関して述べてきたが,ここからはこのシステミック リスクの二つの構成要素に対処するための監督・規制手法について検討して いく。このようなリスクに対処するのは,原則的には,資本規制が最も適し ているだろう。これは,資本規制が満期のミスマッチやレバレッジの問題に 適切な形で影響を及ぼすと考えられるからである。改善されたマクロプルー デンスの観点からの監督・規制手法は,従前の考えから見れば,ミクロプル ーデンスの観点からの監督・規制手法に分類されると考えられる個別の金融 機関に関わるものであるとも言える。このような監督・規制手法はマクロプ ルーデンスの観点からの監督・規制と個々の金融機関の行動に大きなギャッ プが生じていることを問題にして考案されている。これに関連して,以下で は新たな監督・規制手法として,プロシクリカリティを踏まえた資本規制と 金融システム上重要な金融機関に対する加重的な資本規制という二つの手法 を取り上げる。

⑴ アグリゲート・リスクに対処する手法

まず,アグリゲート・リスクをコントロールする監督・規制手法としては,

(9)

ミクロプルーデンスの観点から要求される従来型の資本規制に加え,追加的 な資本規制を課すことが考えられる(資本規制は,予想される損失を将来的 に見据えた 動的な 条項となる) 。このアグリゲート・リスクに関する説 明は基本的には銀行をベースに行われる。しかしながら,保険会社であって も銀行における場合と類似した弊害が生じる場合には,アグリゲート・リス クを低減するための監督・規制が行われることになる。

アグリゲート・リスクは,金融機関の脆弱性を集合的に高めていくもので ある。蓄積されたアグリゲート・リスクに対処するため,資本規制は,景気 循環の変動に対応する形で変化する。信用供給が過熱気味になると,資本規 制は強化され,より多くの資本を積む必要がある。このような資本規制は,

過熱気味に信用供給がなされている場面では,金融システム全体に波及する システミックリスクに対するいわば, 自家保険 として機能する。逆に,

信用供給が停滞すると,資本規制は緩和され少ない資本を積めば足りること になる。これによって,信用供給が不足することが改善されることになるわ けである。

この資本規制は,ミクロプルーデンスの観点からの資本規制とは根本的に は異なる。個々の銀行ではなく,金融システム全体におけるリスクテイクや 信用状態を問題にしているからである。基本的な考え方としては,景気の下 降局面では,信用供給を促し,景気の上昇局面では,信用供給を抑制するよ うに資本規制を構築することとなる。

加えて,この資本規制は,個々の金融機関ではなく,金融システム内部で 同じようにアグリゲート・リスクに晒されている金融機関に対して,一律に 適用されることになる。その意味で,このようなマクロプルーデンスの観点 から取られる措置は,金融機関全てに区別なく適用される。この措置を行う にあたっては,マクロ経済データも活用される。アグリゲート・リスクにつ いては,定性的分析のみならず定量的分析も行われることになる。保険会社

8) アグリゲート・リスクに対処するための資本規制については,Bank of

England(2009),pp.17‑22参照。  

(10)

も,ソルベンシー規制の中で,このようなプロシクリカリティを踏まえた考 えが反映されている 。

⑵ ネットワーク・リスクに対処する方法

他方,ネットワーク・リスクに対処する監督・規制手法としては加重的な 資本規制を課すことが検討されている 。これは 特定の 金融機関に対し て,ミクロプルーデンスの観点から課される資本規制に加重して行われる資 本規制のことである。対象金融機関―これには保険会社も含むことになる―

は,破綻すると,金融システム全体に広がる回収不能の債権が極めて巨額に なる金融機関のことである。すなわち,これがシステム上重要な金融機関

(Systemically Important Financial Institutions:SIFIs)であ る。こ の よ うな金融機関に該当するか否かは,主として,金融機関相互の依存性,当該 金融機関が担う機能の代替可能性,当該金融機関の組織の複雑さ及び当該金 融機関の規模,等に基づいて判断されることとなる。保険会社について言え ば,このような保険会社はシステム上重要なグローバルな保険会社 (

Global Systemically Important Insurers

(

G-SIIs  

))と呼ばれ,

Financial Stability Boardが毎年,G-SIIs

を認定することになる。

 

加重的な資本規制を課す目的は,対象金融機関に対して,バランスシート を調整する(例えば,不必要に大規模な金融機関とはしない)インセンティ ブを与えることにある。このような資本規制の目的を達成した場合の効果に ついては,まず,金融システムにおいて,債権が回収できないことが原因で 発生する損害を限定できる。このような資本規制により,対象金融機関が規 模を縮小し,他の金融機関との結び付きを弱める効果が期待できる。いわゆ

Too big to Fail

問題に対する対策となる。なお,このような資本規

9) ソルベンシー規制の検討の中でこの点が意識されている(例えば,安井義浩

(2013

a

)及び安井義浩(2013

b

)参照)。

10) ネットワーク・リスクに対処するための資本規制については,Bank of

England(2009),pp.23‑26参照。  

(11)

制は,個々の金融機関が抱えるリスク・プロファイルだけではなく,その金 融機関が破綻した場合の波及効果も加味したものでなければならない。また,

この資本規制は,定量的なデータを用いて判断されるが,同時に定性的な指 標も活用される。例えば,保険会社も含めた金融機関の破綻処理―これは,

リビングウィルと言われる―スキームは,金融システム全体の安定を損なわ ずに金融機関を縮小するのであれば,破綻時に金融システム全体のコストを 低下させることになる。このようなスキームがあれば―勿論,信用できるス キームでなければならないが―加重的な資本規制を緩和することも考えられ る。

4.結 び

以上,金融危機後に改善されたマクロプルーデンスの観点からの金融監 督・規制に関して検討を行ってきた。すなわち,金融危機の反省を踏まえて,

システミックリスクの再検討が行われた。これによると,システミックリス クとは,①プロシクリカリティを悪化させるような金融機関の集合的な行動 から生じる内生的なリスクと②金融の安定や実体経済に脅威となる可能性が ある金融機関や金融セクターが相互に依存し合うことによって発生する可能 性のあるリスクから構成されるリスクと捉え直すべきであると主張される。

この定義からシステミックリスクは,①に関連するアグリゲート・リスクと

②に関連するネットワーク・リスクの二つに分けられる。このシステミック リスクを構成する二つの要素に対処する措置としては,前者に対するプロシ クリカリティを踏まえた追加的な資本規制と後者に対するシステム上,重要 な金融機関に対する加重的な資本規制が考案されている。

最後に,特にアグリゲート・リスクに対処する措置としての資本規制は,

将来的な景気や信用供給の動向を予測して行われることになる 。規制当局 は,銀行,保険会社といった市場参加者が景気や信用供給の動向に関する予

11) 以下は,学会報告のフロアディスカッションの中で示された東京経済大学の 柳瀬典由教授の見解を参考にして考えた見解である。

(12)

測に先んじてこれらについて判断を行い,必要な資本規制を提示する。この ような規制の在り方は資源配分の効率性からみて妥当なものと言えるのだろ うか。この点に関しては,現在,実際に行われている規制―アグリゲート・

リスクに対処する規制以外の規制も含めて―に関して将来的に実証的な分析 を行う必要がある。

(筆者は香川大学准教授)

【参考 献】

1.

Bank of England(2009)“The role of macroprudential policy;A  Dis- cussion Paper”.

2.

Green, David(2012)“The Relationship  between  M icro-M acro- Prudential Supervision and Central Banking”Financial Regulation  and Supervision‑ A  Post-Crisis Analysis, Eddy Wymeersch et al. pp.57‑68   .

3.

Papathanassiou, Chryssa and Zagouras, Georgios(2012)“A  European

Framework for M acro-Prudential Oversight”Financial Regulation  and   Supervision

A  Post-Crisis Analysis , Eddy Wymeersch et al. pp.159‑171   .

4. 安井義浩(2013

a

) 欧州ソルベンシーⅡの動向―長期保証契約への影響度調 査を実施中― 保険年金フォーカス 3月25日号。

5. 安井義浩(2013

b

) ソルベンシーⅡの検討状況―長期保証契約影響度調査の 結果公表後の各界の反応など 保険年金フォーカス 9月24日号。

参照

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