九州工業大学研究報告(工学)No.59 1989年9月 11
プラズマジェットによる乱流拡散燃焼の促進
(平成元年5月18日 原稿受付)
設計生産工学科橘
武史
津 田 時 範 藤 野 健 一 西 田 啓 之
The Use of Plasma Jet for Promotion of Turbulent Diffusion Flames.
By Takeshi TACHIBANA Tokinori TSUDA
Ken−ichi FUJINO
Hiroyuki NISHIDAAbstract
In order to stabilize turbulent diffusion flames, the use of the recircular zone made by bluff bodies or steps would be one choice. This technique, however, has some limitations on the geometry of the burner in use and is not effective over some flow speed(blow off speed).
Promotion of chemical reaction would be another key for the flame stabilization. This concept has experimentally examined here by introducing a plasma jet into the diffusion flame. Remark.
able improvements on the flame stabilization have been achieved by the plasma jet injection(less than lkW). Two distinct reasons seem to be involved in this phenomenon, one due to the active species released from the plasma jet, the other due to its extremely high temperature. The quanta.
tive study on the chemical and thermal aspects is planned to be made, The experiment also de−
montrates this technique may offer a good ignition system especially for combustors having an層 occasional critical situation such as wet air flow of a jet engine in bad weather.
業用としても広く利用されているものである。
1.緒言
また,火炎帯付近の流れが層流から乱流に変わると,
燃焼の形態は燃料と酸化剤とを分子レベルで混合させ 予混合燃焼,拡散燃焼にともに火炎帯の厚みが増大し,
て燃やす予混合燃焼と,これとは対照的に分離されてい かつ,予混合燃焼では火炎伝播速度が増加し,拡散燃焼 た燃料と酸化剤が相互に拡散し合い可燃混合気を形成し ではそれまで予混合燃焼に比べ小さかった燃焼率が増大 て燃える拡散燃焼の二つに大別することができる。予混 する。拡散燃焼の燃焼(反応)速度は,前述のとおり反 合燃焼の例として,ブンゼンバーナーや家庭用ガスコン 応帯に向かう燃料と酸化剤の拡散速度により支配され,
ロなどがあるが,この特徴として自力で火炎伝播するこ 拡散速度は火炎付近のそれぞれの化学種の濃度分布によ とが挙げられ,逆火などの心配がある。これに対してガ り変化する。従って,乱流下ではその燃焼も促進される スライターなどに代表される拡散燃焼は,燃料と酸化剤 ことになる。
の拡散により火炎が生じる性質上逆火の心配もなく,工 ところが,乱流拡散燃焼ではその火炎の安定を得るこ
12 橘武史・津田時範・藤野健一・西田啓之
とが困難で,強い乱流は燃料と酸化剤の拡散を促し燃焼 能力が大きいため,ジェット機関や高負荷(単位体積当 を促進する反面,乱流がある程度以上の強さになると失 りの発熱量の高い)燃焼器など多くのところで利用され 火を起こす可能性も増すといった問題点がある。 ている。しかしながら,保炎効果を上げるための寸法増 乱流拡散火炎の安定化機構には次のようなものがある。 大,坑力増大や流れの圧力増大などの対策にも限りがあ
(1)燃焼速度が,燃料及び酸化剤の流速と釣り合って火 り・乱れ強さが特に大きい場合や流速が極めて速い場合 炎が安定化される場合。 など安定性が著しく損なわれる。
(2)リム,フレームホルダーなどのブラフボディー(非 このようなことから・近年・注目を集めるようになっ 流線型物体)により生じる再循環領域によって火炎が た燃焼とプラズマとの関係に着目し・プラズマジェット 安定化される場合。 の注入による火炎の安定性・燃焼促進についての研究が (1)は燃料と酸化剤の界面に理論混合比に近い混合比が 行なわれている。これは炭化水素火炎中にイオンが存在
形成され,そこで燃焼速度が局所流速と釣り合ったとこ することは古くから知られており・プラズマジェットの ろで火炎が安定化されるものである。しかし,この安定 注入が燃焼状態に対して何らかの効果を持つのではない 化機構は本質的に安定度が悪く,流速の突然の変化や周 かと注目されるようになったからである。
期的な脈動によって吹き飛びを起こしやすい。 このイオンは・燃焼反応機構の一部としてche−
(2)の再循環領域による火炎の安定化の場合,その効果 miionizationによって生成されることが確認されており・
の小さいときには(1)による安定化機構に移行する。しか 燃焼のプロセスの中で重要な役目を果たしていると言わ
しその効果が充分であればかなり広い範囲での火炎の れているこ川そこで,外部力・らプラズマジェ・トによ 安定化が期待できる。 り活性種(プラズマ)を火炎に注入することで前述のイ
この機構をもう少し詳しく説明すると,再循環領域は オンを増加させることができれば・火炎の安定性・燃焼非常によく拡散された状態になっており,周囲の混合気 促進などが期待できる。そのほか,プラズマジェットの がこの中に取り込まれ循環する間に燃焼反応が進行する。 熱的効果,及び,プラズマ内の荷電粒子の効果(電子が また,燃焼により流体の粘性が増大し,渦の大きさは非 関係する素反応の速度はラジカルの関係する素反応の速 燃焼時より小さくなるが,体積流量は5〜6倍になる。 度に比べて10〜100倍に増大する:))も考えられる。
このとき,再循環領域の形成による火炎の安定化の目安 我々は,プラズマジェットを注入する対象を乱流拡散
となる滞留時間は2〜8倍にもなる。ここで滞留時間と 火炎とし,その効果,即ち火炎の安定化,燃焼促進・燃
は,気体分子が単に循環領域を通過するのに必要な時間 焼ガス成分の変化等について実験計測を行い・その効果を表したもので, を検討して,その有効的な利用方法について考察を加え
τ =L/U る。L:循環領域の長さ
2.燃焼理論及び促進の機構 u:混合気主流速
で定められているものである。つまりこの時間が予混合 本研究ではプロパン(C3H8)−Airの燃焼を取り扱って
気を着火させるのに要する時間(着火遅れ時間)τより いるが,ここでは簡単のため・H2と02による燃焼を考
長ければ安定化がもたらされる目安となる。通常,この えてみる。滞留時間τは第1ダムケラ数, 一般に水素一酸素混合気の燃焼は・量論混合気では・
D。、一・ /・ 2H・+0・→2H・0
を求めるのに使われ,D。1=1が吹き消え限界を表す。 と表されるが・これは完全燃焼を仮定した反応生成物を τは混合気の組成のみによって決まるものである。 与えるだけで,実際の化学反応を表すものではない。実 このほか,燃焼生成物から燃焼混合気中への化学活性 際には少なくとも次のような反応が行われている。
物質の移動を別にしても,循環領域は蓄熱領域としての 役目も果たしており,通常の可燃限界を大きく上回る流 速での火炎の安定を可能にしている。
再循環領域を形成するのは比較的簡単なわりに安定化
(1)OH+H2→ H20+H(連鎖移動反応)
(皿)H+02 → OH+0(連鎖分枝反応)
(田)0+H2→ OH+H(連鎖分枝反応)
プラズマジェットによる乱流拡散燃焼の促進 13
[F],[0]は燃料,酸素のモル濃度で,m, nは実験壁面
(IV)H+02+M → HO2+M(気相停止反応) 値であり,濃度,圧力により左右される。
(V)H,OH,0 → 安定分子(表面停止反応) プラズマジェット注入時の燃焼の挙動について考えて (W)H2+02→ HO2+H(連鎖創始反応) みると,第一にラジカルの効果が考えられる。プラズマ (W)H2+02→ H202→ H20+0 ジェットの注入により,混合気にエネルギーが供給され → 20H エンタルピーが増大する。これにより,混合気の成分で (連鎖創始反応) あるH2,02(実験の場合では, C3H8,02)等が解離 これら(1)〜(W)の反応を素反応と呼び,全ての し,H,0等のラジカルが生成され,それらの再結合に 素反応を総合すると,次のような総括反応式が得られる。 よりOH等が生成される。活性錯体濃度の増加は,
(W)αH2+02 (1)〜(V)の素反応を促進し,燃焼の安定,高負荷 → aH2+bO2+cH20+dOH+eH+fO+gHO2 燃焼を可能にする。これに加え,プラズマジェットの電 上記(1)〜(V)のH,O, OHは化学活性種(ラ 気的な側面(プラズマ)により原子の電離にも作用し,
ジカル)といわれるものである。 混合気中のイオン濃度も増加してイオン反応を介しても
燃焼は(VI)・(W)のような連鎖創始反応によりラ 促進効果を与える。ジカルが生成され,一旦連鎖反応が創始されると反応速 第二に,プラズマジェットの熱的効果が挙げられる。
度の遅いcVI)・(W)の反応は重要でなくなり,(1) 反応速度は(8)から反応速度定数に支配され,さらに反応
〜(V)の反応に現象が律されるようになる。連鎖破壊 速度定数は温度に指数的に律されている。従ってプラズ 反応(IV)・(V)に比べて連鎖分枝反応(皿)・ マジェットが混合気に与える熱量によって,通常より高
(皿)が速いと連鎖担体の濃度が加速度的に増加し,連 い燃焼負荷率での燃焼が可能となり,それに伴う温度上 鎖分枝爆発を起こす。 昇がさらに高負荷燃焼を誘引する。
次に素反応の反応速度についてみると,単分子反応, また,高熱量をもつプラズマジェットは火炎の点火に 二分子反応,三分子反応はそれぞれ模式的に, も用いられており,失火後も再点火できるという意味で
A巴B(単分子反応) (、)も火炎の安定幽ま飛躍的に向上する。
k2 以上の理由により,プラズマジェットを注入すること
A+B→C+D(二分子反応) (2)により火炎の安定,撒促進,高酬撒を期待するこ
k3
A+B+C → D+E(三分子反応) (3) とができる。
また,反応速度は,
3.乱流
d塁]−L[A] (・)本研究に用いた燃焼器(図一1)の高さ,幅は6。_
dl:]−k、[A][B] (・)・5mmであるから,断面平均流速を・とすると,そのレ
d票]一姻[B][C] (・)イノ戊レ蕊。;:』で1主
[M]:化学種Mのモル濃度
で表され,ここでk1, k2, k3は反応速度定数で,その 乱流格子
関数はArrheniusの温度関数といわれる以下の式で表さ
れる。 空気
k=f・exp(−E/RT) (7)
従って,反応速度は温度の指数関数で表されるから,温 度変化は反応速度に大きな影響を与える。総括化学反応
の反応速度は,実用的に次のような形で表される。 整流格子
燃料 一d 戟cLf[F]m[・]…xp(−E/RT) (・)
図一1 乱流拡散燃焼実験器
空気
整流格子
プラズマジェット
14 橘 武史・津田時範・藤野健一・西田啓之
である。したがって,断面平均流速が1.2m/s〜12m/sの範囲では遷移領域(Re=2×104〜2×103)に含まれてい る。そこで本研究では,乱流場を確実にするために,乱 流格子を用いることとした。
3.1 乱流格子
乱れを作る必要がある場合,構造が簡略で取扱も容易 であるため,乱流格子がしばしば用いられる。
乱れの強さを表す目安として描子が流れを遮ってい 石竺」
る割合(solidty)σ4)がある。
図一2 乱流測定点の分布
a(格子が流れを遮る面積)σ=
A(流れの断面積)
本研究では,6・mm×・5_・一α75の格子を使用し 嘱・㍗1。ガ=面
一
た。3.2 実験装置および方法 55 格子によって発生する乱流では,一様でほぼ等方的な 45 乱れ(厳密には流れ方向成分は横方向の乱れ成分の約1. 35 1〜1.2倍)を作るため,等方性乱れの乱流理論を適用す 25
る。 15
乱流の評価は,最も基本的な表示方法である,時間平均流速万と流速の変動成分の二乗平均〜57とをとるこ 010 30 50 70 90
とにした。また実際の計測には,あらかじめピトー管で ○格子あり 計測した流速によって校正された定温型熱線流速計(熱 ●格子なし 線径5μm,長さ1.2mm)を用い,燃焼器の各点(図一 図一3 相対乱れ強さ(各点)2)についてこれらを測定した。また,計測に際して流 れは二次元的なものとして,熱線流速計を空気の流れに
対して垂直な一方向のみ計測した。 点15
20
3.3 実験結果 ゜測定糸課を図一3〜4に示す・ 1。 8 ° ・ ・ 。
● ● ● ●
図一3は,図一2における断面平均流速が約14m/s
㌶㌶㌘霞:㌶‡蕊㍉ 』一晶 蛎
●てある。 W
点1°に注目して両者を比較すると・格子有りの場合の茎1° °:㌔3:.・
相対乱れ強さは格子無しの場合の1.75倍となっており, 叢
また,他の点では約1。倍の相対乱れ強さとなり,格子の栗゜ @ 5 1・ 15
効果が大きいことがわかる. 甥 断面平均流飾酬
両者共通して保炎器(フレームホルダー)付近でy 8 . 。 ° °
軸方向における相対乱れ強さが急激に変化していること 1° °°....
が観察される。
0
5 10 15
図一4に,x軸方向10mmにおける断面平均速度U。ll,
断面平均流速砿11[m/s]
および相対乱れ強さを示す。黒丸が格子無し,白丸が格 子有りの場合である。
55
● o ● o ● o ● o ● o45
■ o ● o ● o ● o ■ o35
● o ● o ● o ■ o ● o25
● o ● o ● o ● o ■ o15
o ■ o 0 ● o ● o● o ■ o ● o ● o
プラズマジェットによる乱流拡散燃焼の促進 15
点12 20
蕊 10
眞ぱ ゜
5 10 15 締り弁 W 点11 断面平均流速U1、[m/s]
璽2° プ蹴・
蔓 1。 ・ . ・
栗 締り弁
プラズマ ジェット
0 5 10 15 窒素(N2)
点10 断面平均流速Uと11[m/s]
40 図一5 実権装器全体系統図
区
1ミ 30
墜 る.図一、にこの概略図を示す。燃焼器断面は15×6。
和 20
[mm]の矩形で,これは沿壁面燃焼型燃焼器と呼ばれる
記 10 ものである。プラズマジェット注入口を4ヶ所,ガス注
寝
入口を3ヶ所設け,それぞれの位置が火炎に与える影響
0 5 10 15 を調べられるよう設計されている。また,火炎が維持さ 断面平均流速品1[m/s] れるであろう付近の側面は石英ガラス製とし,内部を観
●格子なし○格子あり 察することが可能になっている。
図一4 相対乱れ強さ 沿壁面燃焼では火炎の保持が困難となるため,ガス注
入口の下流数ミリの位置に保炎用ステップ(高さ5 低流領域において,相対乱流強さは格子無しに比べ格 mm)を設け,再循環領域をつくりフレームホルダーと
子有りの方がかえって低くなっている。しかし,実験で している。
使用する範囲では,乱流格子は流れに十分に作用してい 4.2 プラズマジェット
るようである。 図一6に窒素プラズマジェット及び窒素一アルゴンプ
ラズマジェットの効率曲線を示す。低流量で使用してい4.実験装置及び実験方法
るため,効率は50〜70%となっている。
本実験に使用した装置の全体系統図を図一5に示す。 Weinbergらの実験では窒素プラズマジェットによる 実験装置は以下の3つに大別することができる。 効果がAr等不活性ガスのプラズマジェットに比べて有
(1)乱流拡散燃焼器(2)プラズマジェット本体 100 (3)直流電源及び高周波発生装置 80
乱流拡散燃焼器への空気の供給はブ゜アを用い・その区6。
流量測定には積算流量計を使用した・燃料の供給はボン欝、。
べからレギュレーターを経て供給され,その後流量が計
測される。プラズマジェット作動ガス(キャリアガス) 20
4.1 乱流拡散燃焼器 入力[W]
燃焼器はプロアから導かれた空気を乱流にすることを ●窒素プラズマジェット
▲窒素一アルゴンプラズマジェット
目的に乱流格子を内蔵しており・できるだけ均一な乱流 図_6 窒素プラズマジエット及び窒素アルゴンプ を実現するため乱流格子の前に整流用の格子を配してい ラズマジエットの効率
16 橘 武史・津田時範・藤野健一・西田啓之
効であるとの報告5)があり,本実験では比較実験としてアルゴン,窒素混合ガスを用いたプラズマジェットを使 燃料注入口 d
用することにした。プラズマジェット作動ガスに混合ガスを利用する場合 の留意点としてベニング効果(Penning effect)6)が挙
げられるが,アルゴン及び窒素の電離電圧はそれぞれ フレームホルダー付近詳細
15.75,14.54[eV]であり,ペニング効果を考慮する必 図一7 実験におけるパラメータ 要はないものとした。4.3 プラズマジェット用電源装置 一般に用いられているプラズマジェットの出力は5 電源は放電を誘起するイグナイター部と放電を維持す kW程度のものが多い。我々が燃焼させようとしている
るための直流定電圧電源部により構成されている。イグ ガス(C3H8)の発熱量は5kW〜3kWで,これに大電力 ナイター部は,周波数約1MHzの高周波高電圧発生装 のプラズマジェットを作用させると付加的なものである
置でピーク電圧は約1600Vであった。直流電源の端子間 はずのプラズマジェットの出力が,燃焼ガスの発熱量と電圧は400V,最大電流値は200Aである。 同程度あるいはそれ以上になってしまう。そこで,本実
験では低出力で,なおかつ流れの場を乱す効果が低減さ5.実験結果及び考察
れる低流量のプラズマジェットを使用した。
図一7に示すようにガス注入口とフレームホルダー間 プラズマジェットが流体力学的効果だけでなく,熱的
をd,フレームホルダーとプラズマジェット注入口との 効果や活性種による効果があることを調べるため,窒素間の距離をL,ガス注入口径をΦとし,これらのパラ ジェットを燃焼域に注入した。窒素の流量は
メーターの変化が火炎の安定性に与える影響を実験より 2500ml/minであるが,窒素プラズマジェットのキャリ調べる。 アガス流量は活性化前の流量で実際に両者の燃焼面に与
5.1 火炎の安定性 える影響(運動量)を同一にするに至っておらず,今後,5.1.1 通常燃焼とプラズマジェット注入時との比較 プラズマの温度計測や,生成物及び噴出物の平均分子量 通常燃焼とプラズマジェット注入時の燃焼について, など詳しく研究を行うことが必要であろう。しかしなが 図一19に示す。明らかにプラズマジェット注入時の方が ら,窒素ガスのみを注入すると火炎の安定性が著しく悪 火炎の安定性が高いことがわかる。プラズマジェットを 化し,窒素ジェットの火炎に与える影響ぽ安定性に対し 注入することの利点としては,前述のように燃焼領域に て逆効果であることは確かなようである。ジェットが淀 活性種(ラジカル)として,窒素原子(N2),窒素イオ み点を形成して保炎作用を与えていることも観察された
ン(N+,Nつ等が注入されて連鎖反応を促進,創始 が,窒素ジェット流の作る乱れによるマイナス効果に比
することと熱的効果のほかに,プラズマジェットが流れ して小さいものであると考えられる。場に与える影響も考えられる。これは高速拡散燃焼器の プラズマジェットは着火方法としてはしばしば用いら 保炎にブラフボディーが利用されることからも十分推測 れる。本研究ではそのプラズマジェットを燃焼中も継続 できる。しかし,通常のブラフボディーは固体であり, して使用する者である。従って,フレームホルダーから プラズマジェットのような流体とでは異なる挙動をして 火炎が浮き上がって失火しても,再着火する可能性が高 いるようである。これは窒素ジェットを注入した場合に いため,安定性,安全性は飛躍的に増大する。
も言える。 以上から,乱流火炎中にプラズマジェットを付加する
当初,プラズマジェット作動ガス流量4000ml/minで ことは火炎の安定性及び吹き消え限界を増大させ,さら
実験を行ったが,安定効果よりも流れ場を乱して火炎の にその流れへ与える影響から燃焼負荷率を大きくしてい 安定性を悪くする傾向がみられた。また,空気流量が少 ると考えられる。但し,プラズマジェットを注入した場 ないときには断続的な爆発を起こした。このような理由 合,吹き消え限界付近では火炎帯の大きさが小さくなっから本実験ではプラズマジェット作動ガスの流量は約 ていることから,燃焼負荷率は低減しているものと思わ
1600ml/minとした。 れる。
プラズマジェットによる乱流拡散燃焼の促進 17
5.1.2プラズマジェット出力と吹き消え限界 6.0プラズマジェット出力と吹き消え限界の関係を図一9 に示す。プラズマジェット出力を上げることにより,よ
5.0
り希薄な状態でも燃焼が可能である。通常燃焼の当量比 口
ごに対するプラズマジェット注入時の当量比の割合で表わ 三
べすと,流速4.44m/sのとき500Wの入力で14%,700W 曇4・0
田1刷の入力で16%,1200Wの入力で約16.4%改善されてい 剤 る。しかし,700Wの入力差は2.4%希薄な状態での燃 3.0
焼を可能にするにとどまり プラズマジェット入力の増ゆ
/・ .・ P ・=724W._二
・ ・ ト ゐ
__、君〃=1230W
▲ 一
▲一 一 ・ L____一____
大による燃焼状態の制御はそれほど有効ではない。 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20
5」.3燃料注入。と吹き消え限界 断面平均流速品1[m/s]
● P∫N=565W(5A) ▲ P川=1230W(15A)
燃料の注入位置からフレームホルダーまでの距離d ■p, =724W(10A)
と吹き消え限界について図一10に示す。燃焼注入位置が (L=Om耽d=20mm・Φ=3mm)
フレ_ムホルダ_から離れるにつれて吹き消えの起こる 図一9 プラズマジェット入力と吹き消え限界 当量比が大きくなって,吹き消え限界が低くなっていく
7.0 ことがわかる。フレームホルダーから燃料注入位置が遠 くなると,それだけ燃料が拡散されてleanな状態にな 6°0 り,火炎の安定性が悪くなるのは当然の結果と言えよう。ミー5.0 も 5.1.4 プラズマジェット注入位置と吹き消え限界 ミi4.0
フレームホルダーからプラズマジェ・トの注入位置ま齢・
での距離Lと吹き消え限界の関係を図一11に示す。L= 罰
2.00mmにおいては,プラズマジェットの効果に加えて,
1.0
.. =
・ _一 ・
一▲⌒⊥___」・d−20mm .
・ ・ °dミ10⑩
02468101214161820
10.0
断面平均流速U。ll[m/s]
9・0 .▲ ・ ● d=10mm(P1,=724W) ■d=20mm(P∫.=704W)
一 8.0 も
:7・°
謡…
剤 5.0
4.0
・ ▲d=30mm(P∫N=704W)
、
@ (L=Omm,Φ=3mm)
図一10 燃料注入位置と吹き消え限界
3.0
7.0
一一一゜一一一一} 6.0
・ °一一一「− c
も 巳 5.0 も2468101214161820全弍
断面平均流速品1[m/・] 響、.。
・。_一二
▲窒素・アルゴンプラズマジェット注入時
(N・:900・A・:950ml/mi・・plN=962W) 3.0
0窒素プラズマジェット注入時
.㌻;難顯㌫㍗) ・一・
(N,:1586ml/min, PIN=1224W) 断面平均流速U。ll[m/s]
(L_Omm, d−20mm,Φ一3mm) OL=Omm■L−10mm▲L−20mm●L=40mm
図一8 通常燃焼とプラズマジェット注入時の吹き (P N=724W d=20mm・Φ=3mm)
消え限界 . 図一11 プラズマジェット注入位置と吹き消え限界
18 橘 武史・津田時範・藤野健一・西田啓之
「3.乱流」にみられるようにフレームホルダー下流に に高い。
激しい再循環領域ができており・この保炎効果と併せて 従って,k5[NO]>k4[02]であれば酸化窒素は[N]
吹き消え限界は大きく改善される。L=10〜40mmでは・ に比例する速さで減少するが, k5[NO]<k4[02]である 我々が当初意図したようにフレームホルダーで火炎を保 ために,酸化窒素素は[N]に比例する速さで増加してし
持し,その火炎の各部位にプラズマジェットを注入する まう。よって,本研究におけるようなleanな状況での
といった形態は実現できなかった。これは,流速を増す 燃焼ではプラズマジェットによるNOx低減効果がなく,
と,火炎がフレームホルダーから浮き上がり,火炎はプ 逆に増加作用のあることがわかる。但し,乱流拡散燃焼 ラズマジェットで保炎されるようになるためで,フレー でも,もっと[02]/[NO]が低い,つまり,当比量の高
ムホルダーに起因する再循環領域による保炎効果よりも, い状況であればNOx低減効果が期待できるはずである。
プラズマジェットの保炎効果の方が大きいことが確認さ 5.2.2 すす
れた。L+dの距離が大きくなるにつれて燃料の拡散が 火炎中におけるすす発生機構の解明と,大気汚染防止
進んで,吹き消え限界は低下する。 の観点からすす発生量の減少は現在でも燃焼工学におい て重要な研究対象とされている。5.2 燃焼ガス分析
火炎中のすすの抑制方法としては,火炎に電界を印加
5.2.1NOx する方法がある。この場合,火炎中に生成されたすす粒 燃焼ガス中のすす及びNOxを減少させることは,大 子,あるいはその核となる粒子が,それら自身の帯電に
気汚染防止の観点から,近年特に強く要請されている。 より,電界の影響をうけて成長を起こす雰囲気外へすみ
Weinbergらは,窒素プラズマジェットを燃焼領域に注 やかに移動するためといわれている。その他,火炎中で 入することによって,NOxの発生を抑制するという報 放電を行うことやプラズマジェットを注入することで,
告をしている:)また本研究においては,通常燃焼を行っ すすの抑制が可能であるという報告がある:)
た場合のNOx濃度は10PPmで,窒素ジェットのみを燃 本研究ではプロパン(C3H8)を燃料としているため,
焼領域に注入した場合73ppmを示し,また,窒素プラ 多くのすすを発生する。そこで,この燃焼ガスを管内ヘ
ズマジェッ・トを注入した場合123ppmを示し,全く反対 導き,その途中に設置した」戸紙を用いてすすを採取した。の結果を得た。 その結果,通常燃焼では炉紙に多量のすすが付着するの NOx発生の機構を考えると,窒素プラズマジェット に対し,窒素プラズマジェット注入時には1戸紙に全くす
によって生成される窒素原子は,NO生成に関するゼル すの付着が認められなかった。その理由としてプラズマ ドビッチ機構に含まれる次の反応 ジェットのラジカル生成の効果と,流体としての撹拝に k4 よる抑制効果の二つが考えられる。
N十〇2 → NO十〇 (9)
次に窒素プラズマジェットの代わりに窒素ジェットを
を通して,NOを増大させる可能性を持つ。一方,窒素 注入した。この場合も窒素プラズマジェットを注入した 原子は,次の反応を通してNOを減少させるはずであ ときより若干劣るもののすすの発生は抑制され,このこ る。 とからプラズマジェットの物理的効果(流体撹拝作用)
k5 のほうが化学的効果より大きなことが確認された。
N十NO → N2十〇 (10
これは,本研究における燃焼の雰囲気がleanなため
ここで,反応(9),⑩の逆反応,その他酸化窒素に至る反 に,ジェットの撹拝作用だけで燃焼がより完全に行われ 応は無視できるものとすると,次の関係式が成り立つ。 ることによると考えられる。5.3窒素一アルゴンプラズマジェットと窒素プラズ d[NO р煤n一[N]{k・[N・]−k・[・・]} (1Dマジェットの比較
図一8をみるとアルゴンプラズマジェットを付加した
Weinbergらの研究は予混合燃焼であるため,プラズ 場合には,窒素プラズマジェットに比べてその安定性が
マジェット注入部における[02]/[NO]が低いのに対し, 悪化することがわかる。この原因として,窒素が二原子 我々の研究は拡散燃焼であるが故に[02]/[NO]が非常 分子であるのに対し,アルゴンが単原子分子であることプラズマジェットによる乱流拡散燃焼の促進 lg が挙げられる。即ち,窒素プラズマジェットでは, (2)NOxについては,本研究のような供給Fuel/Air比 が全体として希薄(Lean)な状態の燃焼では,窒素
N2=2N十9.1[eV]N−N・+。一+、4.,4[。V] プラズマジェ・トの注入はかえってN°・の発生促進 効果を与えている。
なる解離,電離反応によって生成されるラジカル,イオ プラズマジェット注入によるすすの抑制効果は,
ンに燃焼反応の促進を期待できるのに対し,アルゴンプ ジェットによる撹拝作用の影響が大きく,プラズマ
ラズマジェットでは,解離現象が起こらないため, ジェットの電気的効果については確認できなかった。Ar=Ar+十e一十15.75[eV]
参考 文 献
なる電離反応によって生成されるイオンによるイオン反1)Harrison, A. J. and Weinberg, F J., Proc. R. Soc., Ser. A,
応のみが燃焼反応の促進に影響を与えると考えられ,促 321(1971),g5.
進効果が窒素プラズマジェットに比べて低下するものと 2)Kimura・rand Imaj・, M・,16th Symp・(lnt)on C・mbus.,
(1976),809.
思われる・ 3)S。gd。岨M,・・,hS,mp(1。、)。nC。mb。。,(、96,X 539.
4)谷 一郎・小橋 安次郎・佐藤 浩:流体力学実験法,
6.結論 252(岩波,1977)
5)Warris, A. and Weinberg, F J.,12th Symp.(lnt)on Com一 乱流拡散燃焼に与えるプラズマジェットの燃焼促進効 bas.,(1984),1825.
果を検討するために,沿面型燃焼について実験的研究を 6)岡田 実 荒田 吉明:プラズマエ学・354・(日刊工業新 聞社,1965).
行い・以下の結果を得た。 7)Hilliar4 J. C and Weinber&FJ., Naturら259556(1976).
(1)乱流拡散燃焼中に窒素プラズマジェットを注入する ことにより,通常の燃焼に対して著しい燃焼促進効果,
及び火炎安定効果が得られることが確認された。本研 究では比較実験として窒素一アルゴン混合ガスをキャ リアガスとしたプラズマジェットによる実験も併せて 行ったが,その効果は窒素プラズマジェットの効果よ りも劣ることが確認された。