自閉スペクトラム症幼児を対象としたムーブメント 教育・療法の活用 ―幼稚園におけるインクルーシ ブ教育の一つの方法として―
著者 河合 高鋭
学位名 博士(社会福祉学)
学位授与機関 九州保健福祉大学 学位授与年度 2020
学位授与番号 甲第ツ062号
URL http://doi.org/10.15069/00001412
Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by‑nc‑nd/3.0/deed.ja
自閉スペ クトラ ム症 幼児を対 象とし たム ーブメン ト教育 ・療 法の活用
―幼稚園 におけ るイ ンクルー シブ教 育の 一つの方 法とし て―
2020
年9
月九 州保健 福 祉大学 大 学院
( 通信 制 )連 合 社会福 祉 学研究 科 社会 福 祉学専 攻
D311502
河 合 高 鋭第 Ⅰ 章 序 論 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
1 1 . ノ ー マ ラ イ ゼ ー シ ョ ン か ら イ ン ク ル ー シ ブ 教 育 へ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
2 2 . ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 の 特 徴 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
6 3 . ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 と 幼 児 教 育 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
8
第 Ⅱ 章 ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 に 関 す る 文 献 的 検 討 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 1 1 . ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 の 種 類 と そ の 特 徴 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 2 2 . ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 に お け る 障 害 児 の 変 化 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 4
第 Ⅲ 章 関 連 研 究 の 目 的 と そ の 意 義 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2 2 1 . 研 究 課 題 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2 3 2 . 研 究 目 的 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2 4 3 . 仮 説 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2 4 4 . 意 義 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2 5
第 Ⅳ 章 幼 稚 園 に お け る イ ン ク ル ー シ ブ 教 育 実 践 に 関 す る 一 考 察
- 保 育 者 の 意 識 を 対 象 と し た 分 析 を て が か り に - ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2 6 1 . は じ め に ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2 7 2 . 研 究 目 的 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2 9 3 . 研 究 方 法 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2 9 4 . 結 果 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3 3 5 . 考 察 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3 9
第 Ⅴ 章 幼 稚 園 に お け る イ ン ク ル ー シ ブ 教 育 実 践 に 向 け た ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法
の 活 用 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4 3 1 . は じ め に ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4 4 2 . 研 究 目 的 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4 6 3 . 研 究 方 法 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4 6 4 . 結 果 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4 9 5 . 考 察 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 5 3
第 Ⅵ 章 幼 稚 園 に お け る 自 閉 ス ペ ク ト ラ ム 症 幼 児 の 社 会 性 向 上 に 対 す る ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 の 効 果 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 5 6 1 . は じ め に ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 5 7 2 . 研 究 目 的 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 5 7 3 . 研 究 方 法 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 5 8 4 . 結 果 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 6 4 5 . 考 察 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 7 4
第 Ⅶ 章 総 括 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 7 6 1 . 研 究 の 総 括 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 7 7 2 . 今 後 の 課 題 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 8 0
引 用 文 献 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 8 1
参 考 文 献 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 8 7
1
第Ⅰ章 序論
2
1 . ノ ー マ ラ イ ゼ ー シ ョ ン か ら イ ン ク ル ー シ ブ 教 育 へ
ノ ー マ ラ イ ゼ ー シ ョ ン と は ,「 障 害 の あ る な し に か か わ ら ず ,す べ て の 人 が 地 域 に お い て ご く 普 通 の 生 活 を し て い け る よ う な 社 会 を 実 現 す る こ と ( 厚 生 労 働 省
1996)」 と さ れ て い
る . こ の 目 的 の 達 成 に 向 け て , 障 害 者 を 異 質 な 存 在 と し て 社 会 か ら 隔 離 す る の で は な く , 障 害 の あ る 人 も な い 人 も 地 域 で 共 に 生 活 し て い る 状 態 こ そ が 自 然 で あ る と い う 前 提 の も と に , 障 害 の あ る 人 も 家 庭 や 地 域 で 普 通 の 生 活 を 送 れ る よ う に す る た め の 方 策 を 講 ず る こ と が 重 要 な 政 策 課 題 と さ れ て い る . 今 日 で は ノ ー マ ラ イ ゼ ー シ ョ ン は 障 害 の あ る 人 だ け で な く , 高 齢 者 な ど の 社 会 的 弱 者 を 含 め て す べ て の 人 が 共 生 す る 社 会 の 実 現 を 目 指 す も の へ と 概 念 が 拡 張 さ れ て い る . こ う し た ノ ー マ ラ イ ゼ ー シ ョ ン の 理 念 は 次 第 に 教 育 界 に も 浸 透 し( 表
1-1),第 48
回 の 国 連 総 会 で 採 択 さ れ た「 障 害 者 の 機 会 均 等 化 に 関 す る 標 準 規 則 」(1993
年 )や ,ユ ネ ス コ の「 特 別 な 教 育 に 関 す る 世 界 大 会 」(1994
年 )で 採 択 さ れ た「 サ ラ マ ン カ 宣 言 」 を 起 点 と し て , 教 育 に お け る イ ン ク ル ー ジ ョ ン や メ イ ン ス ト リ ー ミ ン グ と い う 概 念 が 世 界 的 に 広 が っ て き て い る ( 小 林 ら2005).
日 本 で は
2002( 平 成 14) 年 12
月 に ,2003( 平 成15) 年 度 か ら の 10
年 間 を 見 通 し た 障 害 者 関 連 施 策 の 基 本 的 な 方 向 を 盛 り 込 ん だ ,新 し い「 障 害 者 基 本 計 画 」が 閣 議 決 定 さ れ た . こ れ に 先 立 っ て ,1993( 平 成5)年 度 か ら お お む ね 10
年 間 を 計 画 期 間 と す る「 障 害 者 対 策 に 関 す る 新 長 期 計 画 」( 新 長 期 計 画 )が 実 施 さ れ て お り ,同 計 画 で は「 リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン 」 お よ び 「 ノ ー マ ラ イ ゼ ー シ ョ ン 」 の 理 念 が 掲 げ ら れ た . ノ ー マ ラ イ ゼ ー シ ョ ン の 理 念 に つ い て は す で に ふ れ た が , リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン と は 医 療 と し て の リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン と と も に 障 害 者 の 職 業 能 力 を 高 め る た め の 職 業 リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン を 含 む も の で あ る . 障 害 者 基 本 計 画 は こ の よ う な 新 長 期 計 画 の 理 念 を 継 承 す る と と も に , 障 害 者 の 社 会 へ の 参 加 , 参 画 に 向 け た 施 策 の 一 層 の 推 進 を 図 る た め ,10
年 間 に 講 ず べ き 障 害 者 施 策 の 基 本 的 方 向 に つ い て 定 め て い る . こ の な か で 教 育 の 分 野 に つ い て は , 障 害 の あ る 子 ど も 一 人 一 人 の ニ ー ズ に 応 じ て き め 細 か な 支 援 を 行 う た め に , 乳 幼 児 期 か ら 学 校 卒 業 後 ま で 一 貫 し て 計 画 的 に 教 育 や 療 育 を 行 う こ と と し て い る . そ れ と と も に , 学 習 障 害 , 注 意 欠 陥 / 多 動 性 障 害 , 自 閉 症 な ど に つ い て 教 育 的 支 援 を 行 う な ど , 教 育 ・ 療 育 に 特 別 の ニ ー ズ の あ る 子 ど も に 対 し て 適 切 に 対 応 す る こ と が 基 本 的 な 課 題 と し て 掲 げ ら れ て い る . 他 方 , 福 祉 の 分 野 で は 障 害 の 有 無 に か か わ ら ず ,障 害 者 の 自 立 と 社 会 参 加 の 促 進 を 図 る こ と が 課 題 と し て 掲 げ ら れ て い る .1970
年 代 中 頃 ま で ,障 害 の あ る 乳 幼 児 は ,幼 稚 園 や 保 育 所 だ け で な く「 障 害 児 専 門 施 設 」3
に お い て す ら ,社 会 的 療 育・保 育 の 対 象 と し て 位 置 付 け ら れ て い な か っ た .1970 年 代 後 半 に 至 っ て よ う や く , 障 害 児 保 育 の 施 策 化 が 始 ま っ た こ と か ら , 幼 稚 園 や 保 育 所 で 統 合 保 育 を 受 け る 障 害 児 が 次 第 に 増 え て い っ た .そ し て ,1980年 代 に 障 害 児 保 育 が 展 開 さ れ る よ う に な っ た の は ,
1
つ 目 と し て 障 害 者 の 人 権 の 確 立 と ノ ー マ ラ イ ゼ ー シ ョ ン 社 会 の 実 現 を 目 指 す 国 内 外 の 障 害 者 運 動 の 進 展 ,2
つ 目 と し て 日 本 政 府 に よ る 障 害 者 施 策 の 総 合 策 定 が あ り , こ の2
つ が 大 き な 背 景 要 因 を な し て い る ( 水 野2012).
と こ ろ で ,統 合 保 育 と は ,障 害 児 と 健 常 児 を 同 じ 場 所 で 保 育 す る こ と で あ る .志 方(
2008)
は , 統 合 保 育 の 利 点 と し て , 健 常 児 が ハ ン デ ィ を 持 っ た 友 だ ち の 存 在 に 気 付 く こ と , 障 害 児 を 特 別 視 す る こ と な く 仲 良 く 遊 ぶ こ と を 通 し て 思 い や り の 心 が 育 ま れ る こ と な ど を 挙 げ て い る . そ の 一 方 で , 幼 稚 園 や 保 育 所 に 自 閉 ス ペ ク ト ラ ム 症 や 発 達 障 害 な ど 様 々 な 障 害 の 種 類 の 子 ど も た ち が 入 園 し て も , 障 害 児 保 育 に 関 す る 知 見 や 技 術 を も つ 保 育 者 が 少 な い こ と ,障 害 に 応 じ た 教 材 や 教 具 ,設 備 な ど が 不 十 分 な こ と が 多 い と い う 問 題 点 を 挙 げ て い る . 河 内 ら (
2005
) に よ れ ば , 統 合 保 育 の 現 場 が 抱 え て い る 困 難 と し て は , 個 々 の 子 ど も の 発 達 に 応 じ た 保 育 と , 障 害 の 種 類 と 程 度 が 異 な る 子 ど も の ニ ー ズ に 応 じ た 保 育 と を , 同 じ ク ラ ス や 同 じ 施 設 の 中 で 統 合 し て 行 わ な け れ ば な ら な い 難 し さ が 大 き い と し て い る . 統 合 保 育 は , 障 害 児 を 受 け 入 れ る 場 を 用 意 す る だ け で , 障 害 児 の た め の プ ロ グ ラ ム が 特 に は 用 意 さ れ て お ら ず , 障 害 児 た ち は 健 常 児 向 け の 保 育 プ ロ グ ラ ム に 参 加 す る よ う 強 い ら れ て い る こ と は 大 き な 課 題 と 言 わ な け れ ば な ら な い .1990
年 代 か ら2000
年 代 に か け て , 障 害 児 教 育 の 領 域 で は 障 害 児 と 健 常 児 を 分 離 す る 従 来 の 特 殊 教 育 に 変 化 が 求 め ら れ る よ う に な っ て き た . こ こ で い う 特 殊 教 育 と は , 盲 ・ 聾 ・ 養 護 学 校 や 特 殊 学 級 ( 養 護 学 級 ) な ど の 特 別 な 場 所 で 障 害 の 程 度 や 種 類 に 応 じ て 普 通 教 育 に 準 ず る 教 育 を 行 う も の で あ っ た .文 部 科 学 省 は ,2001 年 よ り 従 来 の 特 殊 教 育 に 代 え て 統 合 教 育 ( イ ン テ グ レ ー シ ョ ン ) を 志 向 す る 特 別 支 援 教 育 と い う 新 た な 呼 称 を 用 い る こ と に な っ た .特 別 支 援 教 育 と は ,障 害 の あ る 幼 児 ,児 童 ,生 徒 の 特 別 な 教 育 的 ニ ー ズ を 把 握 し , そ の 教 育 的 ニ ー ズ に 応 じ た 支 援 を 行 う 教 育 を 意 味 す る .「 ニ ー ズ (needs)」 と は ,「 必 要 と
し て い る も の 」と い う 意 味 で あ る .「 教 育 的 ニ ー ズ 」と は ,「 そ の 子 ど も が 成 長・発 達 し て , 将 来 の 社 会 生 活 が で き る よ う に な る た め に , 教 育 と し て 必 要 と し て い る も の 」 と い う こ と に な る . つ ま り , ど の 子 ど も に も そ の 子 特 有 の 教 育 的 な ニ ー ズ が あ り , そ の ニ ー ズ を 的 確 に 把 握 し , 最 も 適 切 な 教 育 的 働 き か け を 行 う こ と が , 一 人 ひ と り の 子 ど も の 発 達 を 最 大 限 引 き 出 す こ と を 可 能 に す る と 考 え ら れ て い る の で あ る .4
多 様 な 教 育 的 ニ ー ズ を 持 っ た 子 ど も た ち を 分 け 隔 て な く 包 摂 す る こ と に よ っ て , 一 人 ひ と り の 教 育 的 ニ ー ズ を 満 た す こ と を 目 指 す 教 育 を イ ン ク ル ー シ ブ 教 育 と い う . こ の 理 念 を 実 現 す る に は , 同 じ 場 で 共 に 学 ぶ こ と を 追 求 す る と と も に , 一 人 ひ と り の 子 ど も の 自 立 と 社 会 参 加 を 促 す た め の 課 題 を 見 据 え て , そ の 時 点 で の 教 育 的 ニ ー ズ に 最 も 的 確 に 応 え う る 指 導 を 提 供 で き る よ う に , 多 様 で 柔 軟 な 仕 組 み を 整 備 す る こ と が 重 要 ( 文 部 科 学 省
2012)
で あ る と さ れ て い る . イ ン ク ル ー シ ブ 教 育 は , 通 常 の 教 育 を 基 幹 と し , そ の な か に 障 害 児 を 受 け 入 れ る こ と に よ っ て 可 能 な 限 り 発 達 を 促 そ う と す る メ イ ン ス ト リ ー ミ ン グ と は 対 極 的 な 考 え に 立 つ も の で あ る ( 直 島
2018). イ ン ク ル ー シ ブ 教 育 は , 学 習 と 文 化 , 地 域 共 同
体 へ の 参 加 の 拡 大 を 通 し て ,す べ て の 学 習 者 の 多 様 な ニ ー ズ に 応 え よ う と す る 営 み で あ り , そ の 結 果 ,教 育 に お け る 排 除 が 減 少 す る と 考 え ら れ て い る(Booth 1996).そ れ は ,学 齢 期
に 達 し た す べ て の 子 ど も に 等 し く 教 育 を 提 供 す る こ と が , 普 通 教 育 の 責 任 で あ る と い う 信 念 に 基 づ い て , 既 存 の 教 育 の 有 り 様 を 根 底 か ら 問 い 直 す も の で あ る (UNESCO 1994). こ の
よ う な イ ン ク ル ー シ ブ 教 育 は , 学 習 者 の 多 様 性 に 対 応 す る 教 育 制 度 へ の 転 換 を 促 し , 教 師 と 学 習 者 の 双 方 が , 多 様 性 を 快 適 に 感 じ ら れ , 多 様 性 を 挑 戦 と し て 受 け 止 め ら れ る よ う な 教 育 の 実 現 を 目 指 す も の に 他 な ら な い .イ ン ク ル ー シ ブ 教 育 の 核 心 は ,教 育 を 受 け る 人 間 と し て の 権 利 で あ る が ,1948 年 の 世 界 人 権 宣 言 ,
1966
年 の 国 際 人 権 規 約A
規 約 ( 経 済 的 , 社 会 的 及 び 文 化 的 権 利 に 関 す る 規 約 ) に お い て ,す べ て の 子 ど も が 等 し く 教 育 を 受 け る 権 利 を 有 す る こ と が 定 め ら れ て い る .1989
年 の「 国 連 子 ど も の 権 利 条 約 」で は そ の23
条( 障 害 者 の 権 利 )で ,障 害 児 の 特 別 の ケ ア へ の 権 利 と 特 別 な ニ ー ズ に 応 じ た 教 育 を 受 け る 権 利 が 定 め ら れ て い る . 子 ど も の 権 利 条 約 は 差 別 の 禁 止 ( 第2
条 ) と 子 ど も の 最 善 の 利 益 ( 第3
条 ) を 基 本 理 念 と す る が , こ の こ と は す べ て の 子 ど も が , 障 害 や 民 族 , 宗 教 , 言 語 , ジ ェ ン ダ ー , 能 力 な ど を 根 拠 と し て 差 別 さ れ な い 教 育 に よ っ て , 十 全 な 発 達 の 機 会 を 保 障 さ れ る 権 利 を 有 す る こ と を 示 す も の に 他 な ら な い . 以 上 の よ う な 理 念 に 立 つ イ ン ク ル ー シ ブ 教 育 を 実 現 す る 上 で 大 き な 課 題 と な っ て い る の は , 実 際 に 教 育 や 保 育 の 現 場 で 行 う た め の 具 体 的 知 見 が 少 な い こ と で あ る . 誰 も が 実 践 で き る 保 育 プ ロ グ ラ ム が 作 成 さ れ れ ば , イ ン ク ル ー シ ブ 教 育 の 推 進 に と っ て 大 き な 力 と な る だ ろ う .5
表
1-1
特 別 支 援 教 育 に か か わ る 施 策イ ン ク ル ー シ ブ 教 育 と は , 障 害 の 有 無 に よ ら ず 共 に 学 び 合 え る 場 の な か で , 障 害 児 と 健 常 児 が 育 ち 合 う 教 育 で あ る . し か し , 共 に 学 び あ う 「 場 」 が 設 定 さ れ る と こ ろ ま で 至 っ た と し て も , 具 体 的 な 指 導 法 や 支 援 体 制 は ま だ ほ と ん ど 明 ら か に さ れ て い な い の が 現 状 で あ る ( 韓 ら
2013). 学 び の 場 が 統 合 さ れ た だ け で は 本 来 の イ ン ク ル ー シ ブ 教 育 は 成 り 立 た な
い こ と が , 多 く の 研 究 に よ っ て 指 摘 さ れ て い る . し か し , 保 育 の 基 盤 を な す 「 遊 び 」 は 障 害 児 と 健 常 児 の 自 然 で 自 由 な 相 互 交 渉 を 生 む 重 要 な 契 機 で あ る( 筑 波 ら2018).
「 遊 び 」は 障 害 児 に と っ て 重 要 な だ け で な く ,「 ど の 子 に も う れ し い 保 育 実 践 」( 松 井2013)な の で あ
る . こ こ に は , イ ン ク ル ー シ ブ 教 育 と は 障 害 児 の た め だ け で な く , す べ て の 子 ど も た ち に と っ て も 有 意 義 な 営 み で あ る こ と が 示 さ れ て い る と 言 え よ う . 幼 児 を 対 象 に イ ン ク ル ー シ1948年 世界人権宣言 1966年 国際人権規約A規約
1970年代後半 障害児保育の施策化が始まり、保育所や幼稚園で統合保育を受ける 障害児が次第に増えていく
1980年代
障害者の人権の確立とノーマライゼーション社会の実現を目指す国 内外の障害者運動の進展と日本政府による障害者施策により、障害 児保育が展開される
1989年 国連子どもの権利条約
1993年 第48回国連総会において障害者の機会均等化に関する標準規則が 採択される
1993年 障害者対策に関する新長期計画においてノーマライゼーションの理 念が掲げられる
1994年 ユネスコの特別な教育に関する世界大会においてサラマンカ宣言が 採択され、インクルージョンやメインストリーミングが広がる 1990年代から
2000年代
障害児教育の領域では障害児と健常児を分離する従来の特殊教育に 変化が求められる
2001年 従来の特殊教育に代えて統合教育(インテグレーション)を志向す る特別支援教育という新たな呼称を用いる(文部科学省)
2002年 障害者基本計画
2012年 文部科学省により「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育シ ステム構築のための特別支援教育の推進」が報告される
2014年 障害者権利条約に批准
6
ブ 教 育 を 試 み た 先 駆 的 実 践 と し て は , 葛 飾 こ ど も の 園 幼 稚 園 や 愛 隣 幼 稚 園 , 植 草 学 園 大 学 附 属 美 浜 幼 稚 園 な ど の 事 例 が あ る が , い ず れ も 定 ま っ た 保 育 プ ロ グ ラ ム で は な く , あ く ま で 各 幼 稚 園 で の 自 主 的 な 取 り 組 み と し て な さ れ た も の で あ る .
と こ ろ で , 障 害 児 の な か で も 自 閉 ス ペ ク ト ラ ム 症 幼 児 の 場 合 は 社 会 性 や 対 人 関 係 の 困 難 さ が 特 徴 で あ る . 対 人 関 係 の 困 難 さ の 他 に も , 常 同 行 動 や 活 動 の 切 り 替 え の 難 し さ な ど , 通 常 学 級 で 教 育 を 受 け る 上 で ,配 慮 す べ き 特 徴 が 複 数 あ る( 庭 山
2014)た め ,こ の 困 難 さ
に 対 し て ど の よ う に 支 援 し て い く の か が , 自 閉 ス ペ ク ト ラ ム 症 幼 児 を 含 む イ ン ク ル ー シ ブ 教 育 で は 重 要 な 課 題 で あ る と 考 え ら れ る . 自 閉 ス ペ ク ト ラ ム 症 幼 児 の 社 会 性 の 向 上 を 目 指 す 保 育 プ ロ グ ラ ム に は , カ リ フ ォ ル ニ ア 大 学 ロ サ ン ゼ ル ス 校 で 開 発 さ れ たJASPER (Joint Attention, Symbolic Play, Engagement and Regulation)や ア ー リ ー ・ ス タ ー ト ・ デ ン バ
ー ・モ デ ル(ESDM), 応 用 行 動 分 析 ,TEACCH
プ ロ グ ラ ム , ソ ー シ ャ ル ス ト ー リ ーTMな ど が あ る が , い ず れ も 自 閉 ス ペ ク ト ラ ム 症 幼 児 へ の 個 別 指 導 が 多 く , 集 団 活 動 を ベ ー ス に し て い る 幼 稚 園 で 行 う た め の プ ロ グ ラ ム と し て 活 用 し に く い 現 状 で あ る . こ の 問 題 を 解 決 す る 一 つ の 方 法 と し て , 「 遊 び 」 を 原 点 と し , 子 ど も た ち が 集 団 で 楽 し み な が ら 一 つ の 遊 具 を 一 緒 に な っ て 使 う こ と で 喜 び を 共 有 す る こ と が で き る ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 の 活 用 が 考 え ら れ る . ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 の 活 用 に よ っ て , 運 動 機 能 の 向 上 や 身 体 の 発 育 が 促 さ れ る だ け で は な く , 情 緒 や 社 会 性 な ど の 諸 機 能 の 発 達 も 促 さ れ る こ と が 期 待 で き る .2 . ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 の 特 徴
ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 と は , ア メ リ カ の 知 覚 - 運 動 学 習 理 論 家 で あ る マ リ ア ン ヌ ・ フ ロ ス テ ィ ッ グ に よ っ て 開 発 さ れ た ,運 動 遊 び を 原 点 と す る 発 達 支 援 法 で ,「 子 ど も( 対 象 者 ) の 自 主 性 ,自 発 性 を 尊 重 し ,子 ど も 自 身 が 動 く こ と を 学 び , 動 き を と お し て『 か ら だ( 動 く こ と )』と『 あ た ま( 考 え る こ と )』と『 こ こ ろ( 感 じ る こ と )』の 調 和 の と れ た 発 達 を 援 助 す る 方 法 」 で あ る と , 日 本 ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 協 会 は 定 義 し て い る . 動 く こ と を 学 ぶ と は ,運 動 能 力 や 身 体 能 力 を 高 め る と い う こ と で ,子 ど も の ス ト レ ン グ ス( 得 意 な こ と , 好 き な こ と , 長 所 ) を 伸 ば し , そ れ ら を 活 か し て 活 動 を 発 展 さ せ る こ と に よ り , 全 体 的 な 力 が 向 上 し , 結 果 的 に 苦 手 だ っ た こ と や 弱 い 面 , 未 発 達 な 部 分 の 支 援 に も 繋 が る と 考 え ら れ て い る . こ れ は , ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 の 原 点 が 「 遊 び 」 で あ っ て , 決 し て 訓 練 で は な い こ と に も 深 く 関 係 し て お り ,ス ト レ ン グ ス を 活 か す こ と の 意 味 は ,「 楽 し さ 」に よ る「 自
7
発 性 」 や 「 継 続 性 」 に あ る . 子 ど も は 自 分 が 得 意 な こ と , 好 き な こ と を 活 か し た 遊 び な ら ば ,自 発 的 に 楽 し ん で 没 頭 し ,「 楽 し い 」か ら こ そ 集 中 し て 取 り 組 み 続 け る こ と が で き る の で あ る .日 本 で は
1977
年 に 小 林 芳 文( 現 横 浜 国 立 大 学 名 誉 教 授 )が ム ー ブ メ ン ト 教 育・療 法 を 紹 介 し , 教 育 機 関 だ け で な く , 重 症 心 身 障 害 児 ( 者 ) 施 設 , 独 立 行 政 法 人 国 立 病 院 機 構 を は じ め 医 療 機 関 , 地 方 自 治 体 に お け る 障 害 者 の 余 暇 支 援 活 動 や 家 族 支 援 活 動 な ど に も 広 く 応 用 さ れ て い る .ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 で の 運 動 は , 指 導 者 中 心 で も な く 技 能 中 心 で も な い . あ く ま で も 子 ど も の 反 応 に 寄 り 添 い な が ら 進 め る 「 子 ど も 中 心 の 活 動 ( 小 林 ら
2014)」 で あ り , 子
ど も の 諸 発 達 を 正 し く 把 握 し , 興 味 、 生 活 体 験 な ど に 配 慮 し た , そ の 子 に 合 わ せ た 運 動 を 介 し て の 教 育 で あ る . そ れ は た だ 運 動 ス キ ル を 修 得 す る の で は な く , 課 題 を ス モ ー ル ス テ ッ プ に す る な ど , 達 成 感 を 得 な が ら 自 己 意 識 や 他 者 意 識 , 身 体 意 識 を 形 成 す る こ と が で き る と 考 え ら れ て い る . 米 国 を は じ め と し た 欧 米 諸 国 の 小 学 校 で も , ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 の 要 素 を 取 り 入 れ た 授 業 が 行 わ れ て い る . そ の 理 由 と し て , 動 き が 上 手 に で き な い 子 ど も や 運 動 遊 び の 乏 し い 子 ど も に 対 し て , ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 は 発 達 全 体 へ 働 き 掛 け る こ と が で き る と 同 時 に , 彼 ら が ス ポ ー ツ や レ ク リ エ ー シ ョ ン に 取 り 組 む き っ か け に し や す い と い う こ と が 挙 げ ら れ る . ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 は 楽 し い 遊 び の 要 素 を 持 っ た 活 動 で あ り ,無 理 な く 運 動 が で き る .ま た 喜 び と 成 功 が 味 わ え る 活 動 が 数 多 く あ り ,自 信 ,意 欲 , 自 己 肯 定 感 が 育 ち , 発 達 に 良 い 循 環 が 生 ま れ る こ と に よ り , か ら だ の 感 覚 機 能 が 育 ま れ る と 考 え ら れ る . ム ー ブ メ ン ト 遊 具 を 介 し て , 子 ど も た ち が 障 害 児 を 含 め て 他 の す べ て の 子 ど も た ち と か か わ り あ う こ と に 大 き な 特 徴 が あ り , 一 つ の 遊 具 を 誰 か と 一 緒 に 使 用 し て 遊 ぼ う と す れ ば , 相 手 の 行 動 を 気 に か け た り 動 作 を 合 わ せ た り し よ う と す る よ う に 動 機 づ け ら れ る こ と か ら , 他 者 意 識 が 生 ま れ 非 言 語 的 な コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン が 自 ら 成 立 す る こ と に な る .小 林(2009)は ,「 特 別 支 援 教 育 の 方 向 性 と そ の 可 能 性 を 探 る ~ ム ー ブ メ ン ト 教 育 を 通 し て ,子 ど も 達 の 自 信 や 学 び を 育 む ~ 」の な か で ,通 常 学 級 に 在 籍 す る
LD・ADHD
等 の 発 達 に つ ま ず き の あ る 子 ど も 達 に 対 す る 支 援 に お い て , 子 ど も 達 の 実 態 や ス ト レ ン グ ス を つ か む こ と か ら 始 め , 小 集 団 で の 活 動 を 通 し て 総 合 的 な プ ロ グ ラ ム 展 開 へ と 至 る 取 り 組 み を 行 っ て い る . そ し て , ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 に も と づ く ア プ ロ ー チ を 通 し て 他 者 と の か か わ り が 深 め ら れ , 無 理 の な い 集 団 活 動 へ の 展 開 を 通 し て 子 ど も 達 の 情 緒 が 安 定 す る 効 果 が 見 ら れ た と 報 告 し て い る .ム ー ブ メ ン ト 教 育・療 法 は ,豊 富 な 教 具 ,音 楽 な ど の 環 境 を 使 い ,8
感 覚 運 動( 身 体 の 内 外 か ら 受 け た 刺 激 を 感 じ 取 る 運 動 ),知 覚 運 動( 視 覚 、聴 覚 、触 覚 な ど の 感 覚 受 容 器 を 通 し て 環 境 の 事 物 や そ の 変 化 を 知 る 運 動 ),精 神 運 動( 精 神 の 働 き に よ っ て 起 こ る 運 動 ) を 包 括 す る , 発 達 の 全 領 域 に 結 び 付 く 活 動 で あ る . 幼 児 や 障 害 児 に と っ て 遊 び は 発 達 の 重 要 な 要 素 で あ る が , 共 に 活 動 し て い る 一 人 ひ と り が お 互 い を 意 識 し , 喜 び や 楽 し み を 共 有 し な が ら 個 性 を 発 揮 し て い け る の が ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 で あ る と 考 え ら れ て い る .
障 害 児 は 一 般 に , き つ い 訓 練 的 な 運 動 は 避 け て , 無 理 な く 気 軽 に で き る 運 動 を 好 む . さ ら に ,「 心 身 に 障 害 を も つ 子 ど も は ,健 常 児 に 比 べ ,ム ー ブ メ ン ト( 運 動 )の 経 験 が 不 足 し て い る . こ の こ と が , 感 覚 や 知 覚 の 発 達 , さ ら に は 自 己 の 動 き や 表 現 , 概 念 形 成 , 社 会 性 等 の 発 達 に と っ て ,大 き な つ ま ず き の 原 因 と な っ て い る 」と 小 林 ら(
1985)は 述 べ て い る .
な お , 感 覚 と は , 目 ・ 耳 ・ 鼻 ・ 舌 な ど で と ら え ら れ た 外 部 の 刺 激 が , 脳 の 中 枢 に 達 し て 起 こ る 意 識 の 現 象 で あ り , 知 覚 と は , 感 覚 器 官 を 通 じ て 外 界 の 事 物 を 見 分 け と ら え る 働 き で あ る .1
回 の ム ー ブ メ ン ト の 長 さ は 年 齢 に よ っ て 異 な る が ,6
歳 ぐ ら い ま で の 幼 児 の 場 合 は30
分 程 度 , 小 学 生 は45
分 程 度 で , こ れ を 月 に1
回 程 度 の ペ ー ス で 行 う こ と が 多 い . 上 原(
2009) は , ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 は , 同 じ 活 動 で も 指 導 内 容 の 中 に ね ら い を 設 定 し て
い く こ と が で き , 子 ど も は 「 楽 し い 活 動 」 を 体 験 し , そ の 裏 で 個 別 の 学 習 課 題 が 達 成 さ れ て い く 実 践 が 可 能 と な っ た と 報 告 し て い る . す な わ ち , ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 は , 障 害 の 有 無 や 年 齢 に 関 わ ら ず , す べ て の 子 ど も が 活 用 で き る プ ロ グ ラ ム で あ り , 情 緒 の 発 達 や 運 動 能 力 の 発 達 に 有 効 で あ る こ と が 窺 え る .3 . ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 と 幼 児 教 育
幼 児 期 の 子 ど も に と っ て 遊 び は 重 要 で あ る . 子 ど も は , 遊 び を 通 し た く さ ん の こ と を 経 験 し ,学 ん で い く .保 育 の あ り 方 を 示 し た 保 育 所 保 育 指 針( 厚 生 労 働 省
2018)で も ,第 1
章 総 則 に お い て ,「 乳 幼 児 期 に ふ さ わ し い 体 験 が 得 ら れ る よ う に ,生 活 や 遊 び を 通 し て 総 合 的 に 保 育 す る こ と 」 と あ り , 遊 び は 保 育 に お け る 重 要 な 要 素 と し て 位 置 づ け ら れ て い る . ま た 幼 稚 園 教 育 要 領( 文 部 科 学 省2018)で は ,第 1 章 総 則 第 1 幼 稚 園 教 育 の 基 本 に お い て
「 幼 児 の 自 発 的 な 活 動 と し て の 遊 び は , 心 身 の 調 和 の と れ た 発 達 の 基 礎 を 培 う 重 要 な 学 習 で あ る こ と 」 と 示 さ れ , 遊 び は 幼 児 に と っ て 重 要 な 学 習 で あ る と 捉 え ら れ て い る . 保 育 所 を 対 象 と し た 調 査 で は , 時 間 を 忘 れ 遊 び 込 む 経 験 を 多 く す る 方 が , 子 ど も の 「 学 び に 向 か
9
う 力 」は 高 い と 報 告( ベ ネ ッ セ 教 育 総 合 研 究 所
2016)さ れ て お り ,学 び に 向 か う 力 を 育 て
る 上 で も 遊 び に 集 中 で き る 環 境 が 必 要 で あ る こ と が 窺 え る .厚 生 労 働 省 は , 運 動 と は 余 暇 時 間 に 行 な う も の で あ り 、 疾 病 を 予 防 し , 活 動 的 な 生 活 を 送 る 基 礎 と な る 体 力 を 増 加 さ せ る た め の 基 本 的 な 身 体 活 動 で あ る と 定 義 し て い る .さ ら に , 児 童 ・ 生 徒 に お け る 身 体 活 動 は 心 身 の 健 全 な 発 育 , ま た , 身 体 活 動 を 通 じ て 社 会 性 の 発 達 が 期 待 で き る と し て い る . 特 に , 小 児 期 は 健 康 の た め に 良 い 習 慣 を 定 着 さ せ る 重 要 な 時 期 で も あ る . と り わ け 基 本 的 な 身 体 機 能 を 獲 得 し て い く 段 階 に あ る 幼 児 に お い て は , 運 動 遊 び が 欠 か せ な い . し か し , 近 年 の 幼 児 の 遊 び は , 身 体 を し っ か り と 動 か す も の が 少 な く な っ て い る . 公 園 で の ボ ー ル 遊 び の 禁 止 や 固 定 遊 具 の 撤 去 , 交 通 事 故 や 犯 罪 へ の 懸 念 な ど , 近 年 の 社 会 環 境 の 変 化 を 受 け , 自 宅 な ど で 遊 ぶ 子 ど も が 増 え , 大 き く 体 を 動 か し て 遊 ぶ 機 会 が 減 少 し て い る 状 況 に あ る . 近 年 の 子 ど も の 運 動 遊 び を 取 り 巻 く 環 境 の 変 化 を 踏 ま え , 文 部 科 学 省 は
2012
年 に3
歳 か ら6
歳 の 小 学 校 就 学 前 の 子 ど も を 対 象 と し た 幼 児 期 運 動 指 針 を ま と め た . こ の 指 針 で は , 幼 児 期 の 運 動 の 必 要 性 に つ い て 「 幼 児 は 様 々 な 遊 び を 中 心 に , 毎 日 , 合 計60
分 以 上 , 楽 し く 体 を 動 か す こ と が 大 切 」 で あ る と 示 さ れ ,「 幼 児 に と っ て の 運 動 は , 楽 し く 体 を 動 か す 遊 び を 中 心 に 行 う こ と が 大 切 」 で あ る と 明 記 さ れ た . 本 指 針 に お い て は , 幼 児 期 に お け る 運 動 の 意 義 を 体 力 ・ 運 動 能 力 の 向 上 , 健 康 的 な 体 の 育 成 , 意 欲 的 な 心 の 育 成 , 社 会 適 応 力 の 発 達 , 認 知 的 能 力 の 発 達 と 位 置 づ け て い る . さ ら に , 幼 児 期 の 運 動 の あ り 方 と し て3
つ の ポ イ ン ト を 示 し , 幼 稚 園 や 保 育 所 で の 実 践 に 向 け た 保 育 者 へ の 提 案 が な さ れ て い る( 表1-2).こ れ は「 か ら だ・あ た ま・こ こ ろ 」の 全 人 的 な 発 達
支 援 を 目 的 に 健 康 と 幸 福 感 の 達 成 を ゴ ー ル と す る ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 の 考 え 方 と 一 致 し て い る . ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 は 療 育 支 援 だ け で は な く , 保 育 や 幼 児 教 育 に お い て 発 達 の 全 体 性 を 支 え る プ ロ グ ラ ム と し て 活 用 さ れ て い る .表
1-2
幼 児 期 運 動 指 針 の ポ イ ン ト1. 多 様 な 動 き が 経 験 で き る よ う に 様 々 な 遊 び を 取 り 入 れ る こ と 2. 楽 し く 体 を 動 か す 時 間 を 確 保 す る こ と
3. 発 達 の 特 性 に 応 じ た 遊 び を 提 供 す る こ と
文 部 科 学 省 幼 児 期 運 動 指 針 策 定 委 員 会 「 幼 児 期 運 動 指 針 ガ イ ド ブ ッ ク
〜 毎 日 , 楽 し く 体 を 動 か す た め に 〜 」2012よ り 筆 者 作 表
10
ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 は 子 ど も の 運 動 ス キ ル や 身 体 意 識 , 心 理 的 諸 機 能 , 情 緒 ・ 社 会 性 の 発 達 の 実 態 を 把 握 す る こ と が で き る ア セ ス メ ン ト と , 遊 び の 要 素 を 取 り 入 れ た プ ロ グ ラ ム が 一 体 化 し て い る た め , 発 達 特 性 が 様 々 に 異 な る 子 ど も に 応 じ た 支 援 が 可 能 と な る . こ れ ら の ポ イ ン ト を 鑑 み て も , 幼 児 が 自 発 的 に 動 き た く な る 遊 び の 環 境 の 中 で , 発 達 段 階 に 応 じ た 多 様 な 感 覚 運 動 が 経 験 で き る プ ロ グ ラ ム を 組 む こ と が で き る ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 は , 幼 児 期 に 適 し た 発 達 支 援 方 法 で あ る と 考 え ら れ る . さ ら に , ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 が 幼 児 を 対 象 と し た イ ン ク ル ー シ ブ 教 育 の 一 つ の 方 法 と し て も 有 効 に 活 用 さ れ る た め に は , そ の 活 用 方 法 と 効 果 を 検 証 し , 障 害 児 を 受 け 入 れ て い る 幼 稚 園 や 保 育 所 の 多 く の 保 育 者 が , 容 易 に 保 育 活 動 に 導 入 で き る プ ロ グ ラ ム を 提 案 す る こ と が 望 ま れ る .
11
第Ⅱ章 ムーブメント教育・療法に関する文献的検討
12 1 . ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 の 種 類 と そ の 特 徴
ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 は , 自 己 の 身 体 を 動 か す こ と に よ り , 諸 行 動 を 適 切 に 行 う た め に 必 要 な , 要 素 と し て の 感 覚 ・ 運 動 技 能 の 習 得 と 身 体 意 識 ( 空 間 と 時 間 の 意 義 , 事 物 に 対 す る 基 本 的 な 認 知 や 自 己 意 識 も 含 む ) の 形 成 を 図 り な が ら , 心 理 的 諸 機 能 を 高 め , 究 極 的 に 子 ど も の 「 健 康 と 幸 福 」 の 達 成 を ね ら う こ と , 身 体 的 能 力 だ け で な く , 学 習 能 力 , 対 人 行 動 能 力 , 自 己 意 識 や 環 境 と の 関 係 に つ い て の , 発 達 を 促 進 す る こ と を ね ら い と し て い る
(
Frostig 1970).ま た ,子 ど も の ス ト レ ン グ ス を 伸 ば し ,そ れ ら を 活 か し て 活 動 を 発 展 さ
せ る こ と に よ り , 全 体 的 な 力 が 向 上 し , 結 果 的 に 苦 手 だ っ た こ と や 弱 い 面 , 未 発 達 な 部 分 の 支 援 に も 繋 が る と 考 え ら れ て い る . そ の た め , 障 害 児 で も 無 理 な く 運 動 に 参 加 で き る よ う に 遊 具 も 使 い や す い よ う に 工 夫 さ れ て い る ( 表2-1).
ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 に は ダ ン ス ム ー ブ メ ン ト , 水 中 ム ー ブ メ ン ト , 音 楽 ム ー ブ メ ン ト , シ ル バ ー ム ー ブ メ ン ト な ど の 種 類 が あ り , 幼 児 期 か ら 高 齢 者 ま で 様 々 な 年 代 で 活 用 で き る よ う に 工 夫 さ れ て い る . 向 出 (
2012) に よ る と , ダ ン ス ム ー ブ メ ン ト の 経 験 を 重 ね る
こ と に よ っ て , 他 者 と の 共 感 性 を 培 う た め に 有 効 で あ る と 考 え ら れ て い る . さ ら に , 藤 井 ら (2006
) は , 障 害 児 の 発 達 を 確 認 す る こ と で 目 標 や 達 成 課 題 が 立 て や す く な る こ と に よ り , 家 族 関 係 や 障 害 児 の 発 達 に 良 い 影 響 が あ る の で は な い か と 報 告 し て い る . イ ギ リ ス で は 従 来 か ら ,幼 児 期 の 身 体 表 現 の 指 導 は ク リ エ イ テ ィ ブ・ム ー ブ メ ン ト(Creative Movement)
と し て 創 造 性 重 視 の 活 動 が 行 わ れ , 舞 踊 教 育 の 基 盤 と な っ て い る ( 高 野
2006
). 共 に み ん な で 活 動 す る ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 は , 一 方 向 の か か わ り で は な く 双 方 向 の か か わ り で あ る か ら こ そ , 相 互 に 刺 激 を し あ い , 共 に 表 現 を 創 り 出 す こ と が で き る . シ ル バ ー ム ー ブ メ ン ト は , 話 を し た り 笑 っ た り し な が ら 運 動 す る こ と に よ り 心 理 的 効 果 が あ り , 精 神 的 , 身 体 的 , 社 会 的 に よ り 健 康 に な る こ と を 期 待 で き る 活 動 で あ る こ と が 示 さ れ て お り , 有 酸 素 運 動 の 効 果 と し て 状 態 不 安 を 解 消 し ,心 理 的 効 果 が あ る こ と が 報 告( 金 川2012)さ れ て
い る .13
表
2-1
ム ー ブ メ ン ト 遊 具 の 種 類 と 特 徴 ・ 使 い 方遊具名 特徴・使い方
ムーブメント パラシュート
大型パラシュートで大きな山を作る.中型パラシュートでボールを落とさないように サーフィンを楽しむ.小型パラシュートに子どもを乗せてメリーゴーラウンドにする.
ユランコ
ハンモックの揺れと同じ体験ができる(左右・前後・上下動).取手に牽引ベルトを付 けて床の上を引っ張り,ソリ遊びができる.特に,重症心身障害児者や肢体不自由児の 運動刺激の遊具として使用する.
ピッタンコセット
足型,知覚型(丸・四角・三角),ラインテープを着脱式のマットに自由に付けて,楽し い形作りや(造形),算数の学習をする.マットにピタッと付いている知覚型等を取るこ とで手指の運動もできる.
ムーブメント形板
フロアいっぱいに形板を散りばめる.子どもはその上を渡って行く.形の組み合わせで いろいろな模様を作る.形板片面数字入り(0から9)で数遊びができる.ソフト形版で すから投げても,乗って歩いても安全に使用できる.
ビーンズバッグ セット
投げたり,受けたり,運んだりする自由な活動が子供を想像の世界へ誘う.また,この バッグは,的(スコアーマット)にピタッとつき,投げる,取る喜びを駆り立てる.
マットはハットフリスビーの的としても使え,得点ゲームもできる.
ハットフリスビー セット
部屋で投げても安全.投げる技術が低い子どもでも簡単に投げられる.ミットと当社別 売りのビーンズバッグ用的(マット)にもくっつけることができる.
ムーブメント カラーロープ
フロアにロープを置き,その上を綱渡りのようにゆっくり歩く.また,色ロープでフロ アに好きな形(花,家)を作る.波を作ることで手の運動になる.
ムーブメント リボン
空中にリボンでいろいろな円を描く.腕を大きく廻旋することで,肩の可動域が広が る.ニューリハビリの遊具である.
プレーバンド
両サイドに手首(足首)を入れる程度の輪がついている柔らかく伸び縮みする幅広
(25mm)のバンド.これを友達と向かい合って手首(足首)にはめる.手足を動かす と自由に伸びて色々な広がりの空間が作れる.ストレッチに好適.何本かつなげて皆で 形を作る.
ムーブメント スカーフ
きれいなスカーフを自由に振りながらファンタジーの世界に入る.スカーフを空中に投 げあげ,手で受けとめたり,パスしあったりする.音楽の応用でスカーフの優雅な踊り が膨らむ.
スペースマット
たくさんのマットを床に自由に並べ,いろいろなスペースを作る.色鮮やかなマットの 上を歩く.慣れてきたら,マットで真っすぐや長い道や四角い道を作る.また,マット を組み合わせて真四角の図形や星型などいろいろな図形を作る.その上を歩く.
14 2 . ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 に お け る 障 害 児 の 変 化
1 ) ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 と 障 害 児 保 育
ム ー ブ メ ン ト 教 育・療 法 は ,子 ど も に と っ て の 分 か り や す さ や 楽 し さ を 有 し て い る た め , 障 害 児 や 発 達 に 気 が か り が あ る 子 ど も も 参 加 し や す い . 阿 部 (
2009) は , 保 育 士 ・ 指 導 員
ら の 視 点 か ら , ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 は 個 に 応 じ て 多 様 な 取 り 組 み が 求 め ら れ る 保 育 ・ 療 法 の 実 践 に 活 か す こ と が で き , 特 に 障 害 児 や 発 達 に 気 が か り が あ る 子 ど も を 含 む 集 団 で の 活 動 プ ロ グ ラ ム と し て も 導 入 で き る 可 能 性 を 報 告 し て い る .横 田 ら (
2014) は , 遊 具 を 活 用 す る こ と で 児 童 ら の 発 想 が 拡 大 し , さ ら に 友 達 と か か わ
っ て 遊 具 を 使 う こ と で , 一 人 で 工 夫 す る 以 上 の 創 造 性 の 広 が り と ダ イ ナ ミ ッ ク な 動 き を 体 験 で き た と し て い る . そ の 結 果 , 交 流 及 び 共 同 学 習 を 行 う こ と に よ り , 一 緒 に 活 動 を 楽 し む 仲 間 と し て の 意 識 が 高 ま り , 同 じ 遊 具 を 使 う こ と に よ り 楽 し さ を 共 有 し な が ら 協 力 す る 体 験 も で き た . こ れ ら が 非 言 語 的 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 実 践 に 繋 が り , 児 童 た ち は 多 様 性 を 認 め 合 う こ と が で き た と 報 告 し て い る .木 村 ら (
1989) は , 学 習 や 対 人 関 係 に 障 害 を 持 つ 自 閉 症 児 に 対 す る 1
年3
ヶ 月 の ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 に お い て , 運 動 を 中 心 と し た 楽 し い プ ロ グ ラ ム を 行 い , そ れ を 言 語 化 さ せ る こ と に よ り , 大 脳 皮 質 レ ベ ル で の 意 識 化 を 促 し , 意 欲 , 感 情 面 を も 含 め た 高 い 運 動 統 合 を 目 指 し た . 運 動 を 通 し て , 周 囲 の 人 と 関 わ る 手 立 て を 学 習 し , コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 を 養 い , さ ら に い ろ い ろ な 動 き と 経 験 を 組 み 合 わ せ る こ と に よ り , ス テ レ オ タ イ プ な 行 動 か ら 脱 却 し て ,よ り 創 造 的 な 活 動 を 促 す こ と を 指 導 目 的 と し 検 証 を 行 っ た .検 証 の 結 果 , ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 に よ っ て 動 き を 通 し て 自 己 を 意 識 し , ま た 動 き を 言 語 化 さ せ る こ と で 運 動 と 言 語 の 連 合 化 が 図 ら れ ,ス キ ル の 発 達 に 著 し い 伸 び が み ら れ た こ と を 報 告 し た .「 遊 び 」 を 原 点 と し て い る ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 は , 誰 も が 参 加 し や す い よ う に 遊 具 や プ ロ グ ラ ム が 工 夫 さ れ , 個 々 の 発 達 に 見 合 っ た 活 動 を 行 う こ と が で き る た め , 障 害 児 や 発 達 に 気 が か り が あ る 子 ど も に も 活 用 で き る と さ れ て い る . そ れ は , 障 害 児 と 健 常 児 が 分 け 隔 て な く 共 に 活 動 を 行 う こ と が で き る と い う こ と も 意 味 し て い る . 共 に 同 じ 場 で 同 じ 遊 具 を 使 用 し な が ら 他 児 と か か わ る こ と に よ っ て , 仲 間 意 識 が 育 ま れ , 集 団 活 動 の 参 加 へ の 一 歩 と な る も の で あ る こ と が 示 唆 さ れ る .
15 2 ) ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 と 社 会 的 相 互 作 用
金 川 (2008) は , ム ー ブ メ ン ト パ ラ シ ュ ー ト の よ う な フ ァ ン タ ジ ッ ク な 遊 具 は 子 ど も た ち の 興 味 を 引 き 参 加 し や す く な り , 運 動 面 や 社 会 的 ス キ ル , コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を 引 き 出 す こ と に 繋 が る と 考 え ら れ , 遊 具 , 音 楽 を 工 夫 し , 子 ど も の 主 体 性 を 大 切 に 進 め て い く ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 こ そ , ま さ に 環 境 ・ 人 間 相 互 作 用 モ デ ル と 言 え る と 述 べ て い る . ま た , 意 東 ら (
2019) は , 表 出 性 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン に 困 難 を 抱 え て い る 自 閉 ス ペ ク ト ラ ム
症 児 に 対 し , コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 の 向 上 を 図 る 指 導 を 行 っ た と こ ろ , 表 出 性 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 手 段 の 獲 得 に 伴 っ て 教 師 へ の ア イ コ ン タ ク ト や 笑 顔 の 量 が 増 加 し , 社 会 的 相 互 作 用 の 増 加 が 見 ら れ る よ う に な っ た と 報 告 し て い る .自 閉 ス ペ ク ト ラ ム 症 児 は 特 に , コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 困 難 さ が あ り 対 人 関 係 が 苦 手 だ と い う 特 徴 を 持 っ て い る . 小 林 (
2011) は , い ろ い ろ な 動 き の 体 験 を 通 し て 言 葉 を 引 き 出 す
と い う 方 法 を 重 視 し , 子 ど も の 運 動 ス キ ル や 身 体 意 識 , 心 理 的 諸 機 能 , 情 緒 ・ 社 会 性 の 発 達 の 状 況 を 把 握 し , ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 に お け る 支 援 の 手 が か り を 得 る た め の 研 究 を 行 っ た . コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 力 の 弱 い 自 閉 症 児 は ,4
歳 時 点 で は 運 動 面 に 比 べ る と 言 語 , 表 出 言 語 , 受 容 言 語 , 対 人 関 係 な ど コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン に 関 わ る 多 く の 項 目 が 未 達 成 の ま ま で あ っ た が , プ ロ グ ラ ム を 継 続 し た 結 果 ,7
歳 時 点 で は 様 々 な コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 を 身 に つ け た こ と 報 告 し て い る . ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 で は , 一 人 ひ と り の 子 ど も の ス ト レ ン グ ス ( 得 意 な こ と , 好 き な こ と , 長 所 ) を 伸 ば し , そ れ ら を 活 か し て 活 動 を 発 展 さ せ る こ と に よ っ て 全 体 的 な 力 が 向 上 す る こ と が 示 唆 さ れ た .ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 は , 遊 具 な ど を 用 い る こ と に よ り 目 で 見 て 自 分 の 動 き を 知 る こ と が で き る の で , 自 分 の 動 き を フ ィ ー ド バ ッ ク す る こ と が で き る と 考 え ら れ て い る . そ の た め , 結 果 的 に 苦 手 だ っ た こ と や 弱 い 面 , 未 発 達 な 部 分 の 支 援 に も つ な が り , 社 会 性 の 向 上 を 狙 っ た 活 動 と な り 得 る と さ れ て い る .
1
つ の 遊 具 を 共 に 使 い , ム ー ブ メ ン ト の 原 点 で あ る 遊 び の な か で 子 ど も の 主 体 性 を 大 切 に 進 め て い く こ と に よ り , 動 き づ く り を 基 本 に し て 身 体 意 識 を 形 成 さ せ , そ れ を 他 者 意 識 へ と 発 展 す る こ と が で き る . そ し て , 無 理 な く ス ト レ ン グ ス を 伸 ば し な が ら 苦 手 な 対 人 関 係 の 発 達 を 促 す こ と が で き る と 考 え ら れ る .3 ) ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 と 保 育 者 ・ 保 護 者 の 感 情 の 変 化
阿 部(
2009)は ,ム ー ブ メ ン ト 教 育・療 法 プ ロ グ ラ ム が 多 様 な プ ラ ス 感 情 を 引 き 起 こ し ,
親 に 対 し て も , 幅 広 い 満 足 感 や 充 足 感 を 導 く こ と が で き る 可 能 性 が あ る と 報 告 し て い る .16
ま た , 親 が 子 ど も と か か わ る 際 の ス キ ル だ け で な く , 子 ど も の 気 持 ち と 同 化 し て 感 じ て い る 感 情 を 引 き 出 し や す く , 障 害 児 の 親 が 陥 り が ち な , 子 ど も と の か か わ り に お け る も の た り な さ を 解 消 し て ,親 自 身 の 精 神 的 な 健 康 に も 繋 が っ て い る こ と を 示 唆 し て い る .さ ら に , 子 ど も が 短 い 単 位 か ら な る 活 動 を 何 回 も 繰 り 返 す 展 開 と な っ て い る の で , 親 は 実 際 に 自 分 の 支 援 に よ る 子 ど も の 反 応 を 見 て , そ の 都 度 自 分 の か か わ り 方 の 工 夫 を 繰 り 返 す こ と が で き る . そ れ に よ り 子 ど も の 適 切 な 社 会 的 行 動 を 引 き 出 し , 子 ど も が 苦 手 な は ず の 集 団 活 動 に う ま く 参 加 し 楽 し む 様 子 を 確 認 す る こ と が で き , 子 育 て の 成 功 感 を 得 ら れ る 仕 組 み が あ っ た こ と を 報 告 ( 阿 部
2014) し て い る .
ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 で は 様 々 な 遊 具 が 使 用 さ れ , そ の 遊 具 は ど の よ う な 障 害 児 も 無 理 な く 使 用 で き る よ う に 工 夫 さ れ て い る . そ し て , そ の 遊 具 の 使 い 方 は 自 由 で あ り , 自 分 の で き る こ と が 増 え る と い う 成 功 体 験 の 積 み 重 ね に よ っ て , 子 ど も の 多 様 な プ ラ ス 感 情 を 引 き 起 こ す こ と が で き る と さ れ る . 障 害 児 の 母 親 に と っ て , 子 ど も と 気 持 ち が 通 じ て い な い と 感 じ る こ と や 笑 顔 が 見 ら れ な い こ と に ス ト レ ス を 感 じ る こ と が 多 い . し か し , 親 と 子 ど も が 一 緒 に ム ー ブ メ ン ト を 行 う こ と で 子 ど も と 楽 し み を 共 有 し , 新 た な 子 ど も の 姿 の 発 見 に よ っ て 親 自 身 の 子 ど も へ の か か わ り 方 が 変 化 す る こ と で , 精 神 的 な 健 康 に も 繋 が る こ と が 示 唆 さ れ る .
4 ) ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 と 活 動 プ ロ グ ラ ム
飯 村(
1994)は ,家 庭 と 連 携 し ム ー ブ メ ン ト 教 育・療 法 を 継 続 し て 実 施 し た こ と に よ り ,
指 導 内 容 が 生 活 場 面 に お い て も 活 か さ れ , ダ ウ ン 症 児 の 発 達 援 助 の た め に よ り よ い 循 環 が 作 ら れ た と し て い る . 対 象 児 の 運 動 発 達 は , 乳 幼 児 期 に 一 定 の 伸 び の 傾 向 を 示 し な が ら そ の ス キ ル が 形 成 さ れ る .ま た ,言 語・社 会 性 発 達 は ,乳 幼 児 期 ,学 童 期 の ほ ぼ10
年 を か け て , そ の ス キ ル が 形 成 さ れ て い る . 末 光 ら (1996) は , 自 閉 症 児 へ の ム ー ブ メ ン ト 指 導 の
実 際 を 調 査 し , プ ロ グ ラ ム の 中 に 注 意 力 , 集 中 力 , 目 的 思 考 性 等 を 促 進 す る 課 題 を 取 り 入 れ た こ と や , 感 覚 運 動 を 介 し て 座 る ・ 立 つ ・ 走 る ・ 歩 く ・ 投 げ る ・ つ か む 等 動 作 に 合 わ せ て 言 葉 を 使 っ た こ と が , 言 語 ・ 社 会 性 の 基 礎 的 な 能 力 の 伸 び の 促 進 に 関 係 し て い る こ と を 指 摘 し て い る .子 ど も 自 身 の 理 解 に 応 じ た プ ロ グ ラ ム を ス モ ー ル ス テ ッ プ で 行 う こ と で , 達 成 感 を 得 る こ と が で き 指 導 が 進 み , 先 行 し て 発 達 し た 運 動 ス キ ル を 土 台 と し , 言 語 ・ 社 会 性 ス キ ル の 発 達 が 促 進 さ れ る と 推 測 さ れ る . 全 面 発 達 を 指 向 し た ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 は , 個 々 の
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発 達 レ ベ ル に 合 わ せ た 活 動 プ ロ グ ラ ム の 作 成 が で き る の で 障 害 児 へ の 早 期 指 導 と し て 有 効 で あ り , 継 続 し て 行 う こ と に よ っ て 全 体 的 に 年 相 応 の 発 達 水 準 を 獲 得 す る こ と に 繋 が る こ と が 示 唆 さ れ る .
5 ) ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 と 遊 び
小 林 ら (
2015) は , ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 に よ る 遊 び の 場 は , 一 人 ひ と り の 子 ど も が
自 分 ら し さ や 個 性 を 発 揮 し な が ら 他 の 子 ど も や 大 人 と の か か わ り を 通 し て 互 恵 的 に 育 ち 合 う 場 で あ り , 様 々 な 共 有 体 験 が 共 同 体 と し て の 育 ち を 支 え て い る と し て い る . ま た , 遊 び の 誘 引 力 に よ り 場 に 自 分 か ら 関 わ っ た り ,他 者 と 積 極 的 に 協 力 す る 姿 勢 が 増 え た り す る と , 子 ど も も 大 人 と 同 じ よ う に ,「 自 分 の 意 思 に 基 づ く 自 分 の 行 動 に よ っ て ,環 境 を 変 え る こ と が で き る 」 と い う 実 感 を 抱 く 経 験 を 重 ね る よ う に な り , こ の よ う な 体 験 は , 一 人 ひ と り の 主 体 的 な 行 動 力 を 支 え ,未 来 志 向 型 の 考 え に 導 く と 述 べ て い る .さ ら に 稲 垣 ら(2017
)は ,MEPA-R
を 活 用 す る こ と に よ っ て ,障 害 の あ る 子 ど も の 実 態 を 把 握 し ,具 体 的 な 支 援 方 法 に 反 映 さ せ る こ と が で き た と し て い る . ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 の 視 点 を 取 り 入 れ た 「 遊 び の 指 導 」 を 行 う こ と で , 単 元 の 目 標 の 達 成 だ け で な く , 運 動 ・ 感 覚 ・ 言 語 ・ 社 会 性 等 の 面 で の 伸 長 も 確 認 し た .ま た ,PRT(Pivotal Response Training: 基 軸 行 動 訓 練 ) は , 日 常 生 活 で 興 味 を 持 っ た も の に 焦 点 を あ て , そ れ を 基 軸 に 遊 び に 基 づ い て 指 導 す る 自 閉 ス ペ ク ト ラ ム 症 児 に 対 す る 行 動 療 法 で あ る . 標 準 社 会 福 祉 用 語 事 典 (
2010
) に よ る と , ピ ア (peer) は 「 仲 間 」 と い う 意 味 で あ る .karenpierce
ら (1995) は ピ ア を 活 用 し た 四 者 間 対 応 訓 練 が 自 閉 症 児 の 複 雑 な 社 会 行 動 に ど の よ う な 効 果 が あ る の か 検 証 し た 結 果 ,PRT
を 行 っ た 後 は , 同 注 視 が 増 加 し 対 象 か ら 人 や 他 の 活 動 へ と 注 視 が 変 化 し た と し , 自 閉 症 児 の 複 雑 な 社 会 行 動 ( イ ニ シ エ ー シ ョ ン ) の 指 導 や 複 雑 な 注 意 行 動 ( ジ ョ イ ン ト ア テ ン シ ョ ン ) の 強 化 に 有 効 で あ る こ と を 示 し た . 子 ど も た ち の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン は , 双 方 に と っ て 強 化 す る 要 因 に 繋 が っ た 可 能 性 が あ り , そ れ が 言 葉 に よ る イ ニ シ エ ー シ ョ ン の レ ベ ル を 高 め る こ と に 繋 が っ た と 考 え ら れ て い る .ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 法 に よ る 遊 び 場 は , 自 分 ら し さ や 個 性 を 発 揮 で き る 場 で あ り , そ の こ と に よ り 自 己 肯 定 感 や 自 尊 心 が 生 ま れ る . 遊 び の 指 導 で の 目 標 の も と ム ー ブ メ ン ト 教 育 ・ 療 育 の 視 点 を 取 り 入 れ た 活 動 は , 障 害 児 の 発 達 段 階 に 応 じ た 変 容 へ と 繋 が る こ と が 示 唆 さ れ る .