校外学習指導に関する実践的研究
-「校外学習活動論」の講義を通して-
A Practical Study on Extracurricular Learning Instruction:
―T hrough the Lecture of the Extracurricular Learning ―
村野芳男(帝京科学大学)…
Yoshio MURANO(Teikyo University of Science)
要約 学校教育において校外学習は,児童生徒にとって直接経験による学びができること,本 物に触れることが出来ること,学び方を学ぶことが出来ることなど重要な意味を持つ.とりわけ,
小学校においては多様な校外学習が用意されている.2017年3月に発表された新学習指導要領 では,主体的・対話的で深い学び(アクティブラーニング)が求められる中で,校外学習の役 割は益々重要になると考えられる.そうした文脈の中で,校外学習の意義とその在り方について,
大学で校外学習活動論を受講した学生の意見をも交えて考察した.また,教員養成における校 外学習指導の在り方についても考察した.
Ⅰ.はじめに
小学校においては,校外に学習の場を求めるこ とが多く行われている.授業の場では生活科での
「まち探検」,社会科における「商店街調査」や「工 場見学」などが代表的な事例であろう.また,特 別活動としての遠足・修学旅行なども多くの学校 で取り入れられている.このように,校外で得られ る学習素材を教材化して様々な学習活動が行われ ているが,効果的な学習として成立させるには,
教師による準備・教材研究の質がポイントとなる.
そのためには,教師自身が校外に出て,学習素材 を求めて,自らの足で稼ぐことが重要となる.
本稿は,教師自身が校外にある学習素材から教 材開発を行う事の必要性,および学校教育に果たす 校外学習の意義や役割,教員養成と関わらせた校 外学習指導のあり方等について,筆者の本学での 授業実践「校外学習活動論」を事例に考察する.
また,2017…年に公示された学習指導要領で授業改 善の視点として示された「アクティブラーニング」
と校外学習との関連性についても考察する.
校外学習について論じた実践的研究の主なもの には次のようなものが見られる.
筑波大学附属中学校(1997)は,教師が複雑で 雑多な「現実」を切り取り,生徒に課題として提 示することにより,生徒は「現実」を見たり,考 える枠組みを体験を通して理解し,経験として蓄 積できるようになると校外学習の意義を整理し,
『「校外での学習」には,「現実」と教師の,教師と 生徒の,そして,生徒と「現実」との対話が存在 する』と述べている.
村野は,勤務校での宿泊を伴う校外学習(修学 旅行)の目的を「研究する力~見方・考え方・味 わい方~を体験を通して学ぶこと」と位置づけ,
事前・事後学習に着目した研究(村野,1994,
1995),自己学習力の育成と校外学習との関連(村 野,1997),フィールドワークを中心とした「総合 的な学習」の試み(村野,2000a),校外学習と地 理教育の関連(村野,2000b)等の一連の考察の 中で,校外学習の意義は「学び方を学習」させる とともに,教室での学習に発展させることとして いる.すなわち,学習の場を校外に「ひらき」,教 室とフィールドを「つなぎ」,学習の成果などをレ ポートなどに「あらわす(表現活動)」ことで,児 童・生徒は「研究する力(学び方)=自分の頭で 再構成する力」を身に付けていくことができるよ うになり,自己学習力を身に付けることにつなが るとしている.
…宮本(2009)は,中学校社会科「身近な地域の 調査」の学習において,野外調査の実施そのもの が困難とされている状況改善の糸口と授業改善の 方向性を探るために,中学校社会科教員へのアン ケートを行い,以下のような見解を示している.
すなわち,①野外調査の実施を困難にしている最 も大きな原因は「野外調査を実施する時間がない,
準備する時間がない」と「生徒指導上,生徒を校
帝京科学大学教育・教職研究第3巻第1号
外に出すことは困難」が多く占めている.それに 対して,「どんな状況が整えば実施できるか」の問 いに対して,「実施する時数の確保や準備・教材研 究の時間の確保」に次いで,②野外調査が実施で きる方法の開発や研修の充実を指摘している.教 員の野外調査を含めた地域調査の経験は,大学で は約15%,教員になってからも半分に満たないと し,野外調査の実施を低くしている要因の一つと して,教員の経験不足を挙げている.こうしたこ とを踏まえて,授業改善の方向として,①小中学 校教員の連携による地域副教材の開発,②野外調 査も含めた教員の研修内容のあり方の検討を提案 している.
これらの先行研究では,校外での学習が生徒に とって,教育的価値,学習意義があると認めなが らも実施率が低い状況を何とか打開しようとの提 案や実践報告である.いずれも中学校の事例を研 究対象としたものであり,小学校と事情は異なる ものの,「教員が多忙で授業準備に多くの時間を割 けない」,「手軽に野外調査ができる方法について の研修が必要」などについては,校種を超えた要 請と考えられる.
Ⅱ.小学校の学習と校外学習
小学校の教育課程を構成する教科・領域の中で,
その学習内容や方法が,校外学習と大きく関わる ものに生活科や社会科・(理科),特別活動,総合 的な学習の時間がある.
1.生活科
生活科の学習は,「具体的な活動や体験を通し て」あるいは「活動や体験の過程において」,自分 自身,身近な人々,社会や自然およびそれらの相 互の関わり等を学習対象とし,自らが自立し生活 を豊かにしてくための能力や資質を目指している.
すなわち,…活動や体験を通した学習であり,適切 な環境の下で遊びを通して総合的に学ぶ幼稚園教 育との接続や生活科を中心とした合科的・関連的 な指導を工夫することが求められている.校外で の学習は内容的にも方法的にも生活科の特徴を生 かした学びであると言える.
2.社会科
小学校社会科,とりわけ中学年(2017年3月告示 の学習指導要領-以下,本稿では新学習指導要領 と称す―では第3学年と第4学年とに分けて示さ れた)の社会科は,地域学習(身近な地域・区市 町村,都道府県)が中心である.新学習指導要領
では第3学年で,(1)「身近な地域や区市町村(以 下,「市」と称す)の様子」,(2)「地域の生産と販 売」,(3)「地域の安全を守る働き」,(4)「市の様 子の移り変わり」などを学習内容としており,…直 接観察が可能である.新指導要領でも「内容」の 記述にあたって「見学・調査したり地図などの資 料で調べたりして」「聞き取り調査をしたり地図な どの資料で調べたりして」等の学び方を示してい る.第4学年は,学習対象を都道府県(以下「県」
と称す)に拡大し,(1)県の様子,(2)「人々の健 康や生活を考える事業(飲料水,電気,ガス,廃 棄物の処理など),…(3)自然災害から人々を守る活 動」,(4)県内の伝統や文化,先人の働き,(5)「県 内の特色ある地域の様子」を学習対象として,…「見 学・調査したり,地図などの資料を調べたり」「聞 き取り調査したり地図や年表などの資料で調べた り」して学習するよう指示されている.表1は,…平 成28年度の東京都足立区内の小学校の校外学習の 事例である.3学年社会科見学で足立市場他を,
4学年社会科見学では,有明清掃工場他の見学を 行っている.第5学年になると学習対象地域が
「我が国の国土」に広がり,直接観察が困難になる が,(3)「我が国の工業生産」に関連させて,自動 車工場の見学等を組み入れている.また,学校に よっては,(4)「我が国の産業と情報との関わり」
の学習に関連して,放送局や新聞社の見学を組み 入れる例もある.
第6学年では(1)「我が国の政治の働き」に関 連させて国会議事堂の見学をしている(新学習指 表1足立区立K小学校校外学習実績表(H28年度)
月 日 学年 活 動 場 所
6 月 17 日 6 芸術鑑賞教室 四季劇場
9 月 6 日 3 社会科見学 北足立市場、トラックターミナル、足立生物園 9 月 13 日 4 社会科見学 有明清掃工場、若洲公園(昼食)、中央防波堤埋め立て処分場 9 月 21 日 全 全校遠足 中川公園(縦割り班オリエンテーリング、お弁当、学年遊び)
9 月 24 日 6 日光自然教室 大谷資料館(地下ステージで歌)、木彫りの里(日光彫)
9 月 25 日 6 日光自然教室 奥日光(戦場ヶ原、湯元、華厳の滝)
9 月 26 日 6 日光自然教室 日光東照宮、土産(たけうち)
11 月 4 日 4 プラネタリウム 西新井ギャラクシティ
11 月 30 日 5 鋸南自然教室 マザー牧場(子豚のレース、牛の乳搾り等)
12 月 1 日 5 鋸南自然教室 日本寺(百尺観音、地獄のぞき、大仏)、バードコール作り 12 月 2 日 5 鋸南自然教室 醤油工場見学、フェリー(金谷港~久里浜港)
12 月 2 日 2 生活科見学 北綾瀬メトロ工場
12 月 13 日 6 社会科見学 国会議事堂(衆議院)、国立科学博物館 12 月 16 日 5 社会科見学 森永製菓小山工場、富士山公園、日産自動車栃木工場
1 月 27 日 3 小松菜収穫体験 宇佐美農園
村野 芳男 校外学習指導に関する実践的研究
導要領では,政治単元が第6学年の最初に位置づ けられているが,現行指導要領での学習であるの で,12月の実施となっている).
3 小学校 特別活動
特別活動は,学級活動,児童会活動,クラブ活 動,学校行事からなり,いずれも「活動」とある ように「なすことによって学ぶ」ことを特色とし ている.その中で,「学校行事」は,①儀式的行事,
②文化的行事,③健康安全・体育的行事,④遠足・
集団宿泊的行事,⑤勤労生産・奉仕的行事で構成 されている.
新学習指導要領では , ④の遠足・集団宿泊的行 事について,「自然の中での集団宿泊活動など平素 と異なる生活環境にあって,見聞を広め,自然や 文化などに親しむとともに,よりよい人間関係を 築くなどの集団生活の在り方や公衆道徳などにつ いての体験を積むことができるようにすること」
と示している.そのねらいを学習指導要領解説-
特別活動編-を要約すると次のようになる.
・校外の豊かな自然や文化に触れる体験を通し て,学校における学習活動を充実発展させる.
・教師と児童,児童相互の人間的な触れ合いを 深め,楽しい思い出をつくる.
・基本的な生活習慣や公衆道徳などについての 体験を積み,集団生活の在り方について考え,
実践し,互いを思いやり,共に協力し合った りするなどのよりよい人間関係を形成しよう とする態度を養う.
なお,同解説が実施上の留意点として記述して いる内容のうち,充実した校外学習を行う観点と して,以下の点が重要と考える.
イ… あらかじめ,実地踏査を行い,現地の状況や 安全の確認,(中略)それらに基づいて現地施設 の従業員や協力者等との事前の打合せを十分に行 う.
キ・・・体験的な活動においては,目的地におい て教科の内容にかかわる学習や探究的な活動を効 果的に展開することも考えられる.その場合には,
教科等や総合的な学習の時間などの学習活動を含 む計画を立て,(中略),柔軟な年間指導計画の作 成について工夫するよう配慮する(下線は筆者).
筆者は,Ⅲ章で述べる校外学習活動論の受講学 生に,留意点「キ」について力説している.特別 活動のねらいとしての「思い出作り」や「人間関 係づくり」の重要性を否定するつもりはないが,
教科や総合的な学習との関連も同様に重視したい
と考えている.
4.小学校 総合的な学習の時間
新学習指導要領改訂の基本的な考え方として
「探求的な学習過程を一層重視」することを掲げ,
総合的な学習の時間の目標は,「探究的な見方・考 え方を働かせ,総合的・…横断的な学習を行うこと を通して,よりよく課題を解決し,自己の生き方 を考えていくための資質・能力の育成を目指す」
ものであることを明確化した(文部科学省,2017,
P6).目指す資質・能力として,他の教科等と同 様に総則に示された①何を理解しているか,何が できるか(生きてはたらく「知識・技能」の習得),
②理解していること,できることをどう使うか(未 知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現 力等」の育成),③どのように社会・世界と関わ り,よりよい人生を送るか(学びに向かう力・人間 性等」の涵養)の3つの柱を提示している.①は
「探究的な学習の過程において,課題の解決に必要 な知識及び技能を身に付け」させようとする趣旨 であり,「探求的な学習」は総合的な学習の時間の 最も重要なキーワードである.この目標を踏まえ て,各学校の総合的な学習の時間の目標と内容を 定め実施するのであるが「内容の取扱いについて の配慮事項」について,筆者は校外学習活動との 関連から,次の2点に注目している.
(4)自然体験やボランティア活動などの社会体験,
ものづくり,生産活動などの体験活動,観察・実 験,見学や調査,発表や討論などの学習活動を積 極的に取り入れること.(下線は筆者)
(7)学校図書館の活用,他の学校との連携,公民 館,図書館,博物館等の社会教育施設や社会教育 関係団体等の各種団体との連携,地域の教材や学 習環境の積極的な活用などの工夫を行うこと.(下 線は筆者)
5.新学習指導要領の課題
新学習指導要領では,「主体的・対話的で深い学 び」の実現に向けた授業改善を求めている.その ための配慮事項として,①各教科の特質に応じた 見方・考え方を働かせ,知識相互の関連付けや情 報の精査,問題を見出したり,解決策を考えたり する学習過程を重視した学習の充実を図る,②言 語活動を充実させる,③コンピュータなどの情報 手段を整備したり,統計資料や新聞などの教材・
教具の適切な活用を図る,④児童が学習の見通し を立てたり学習したことを振り返ったりする活動 を計画的に取り入れるなどを示している.「主体
校外学習指導に関する実践的研究
的・対話的で深い学び」を実現するためには課題 解決的な学習が不可避である.小学校社会科の授 業では,これまでも課題解決的な学習が展開され てきたが,この課題解決的な学習を通して,さら に学びの質を高め,「主体的・対話的で深い学び」
を実現することが求められている.廣島(2017)
は,それぞれの学びを次のように説明している.
①「主体的な学び」…児童が学ぶことに興味や関 心を持ち,見通しをもって粘り強く取り組み,
自己の学習活動を振り返って次につなげること のできる学び.
②「対話的な学び」…児童同士の協働,教員や地 域の人との対話,先哲の考え方を手掛かりにし て考えることを通じ,自己の考え方を広げ深め る学び.
③「深い学び」「社会的な見方・考え方」を働か せ,問いを見出して解決したり,考察・構想し たりして,自己の考えを形成することが出来る ようになる学び.
この三つの学びのそれぞれが相互に関連しあって 学びの質を高めることが重要である.
そのためには,「自ら学ぶ意欲」と「主体的な学 習の仕方」を児童に身に付けさせること,さらに は「もっと学びたい」意識を育むことである.校 外学習は,五感を使って見学・観察・調査の対象 と向き合う学習である.そのことによって児童の 学習意欲は高まり , 学習活動を活発化させる.ま た,導入の段階で学んだことと事実に接して感じ たこととの間に生じたギャップから「なぜ」とい う自分なりの問いをもつことになる.この自分な りの問いを学習仲間との交流や教師の支援を得て 解決してゆくことで,認識が深化してゆく.さら に,まとめの学習での言語活動(新聞づくりや報 告書づくり)の過程において,観察や調査したこ とを整理し,その意味を考察する.こうした学習 過程における自己評価や相互評価により,学習意 欲を一過性のものに終わらせることなく,自分の 考え(認識)に修正を迫られたり,逆に自分の考 えに自信を持ち,他の考えを取り入れ広がりを持 たせることになる.
このように小学校での学習活動において,校外 学習は重要な役割を担っている.教員を目指す学 生に校外学習に関連した内容の学修を求める理由 でもある.
Ⅲ.「校外学習活動論」の実践 1.「校外学習活動論」の概要
筆者は、平成24年度より本学子ども学部(現教 育人間科学部)児童教育学科3年生を対象に「校 外学習活動論」の授業を担当してきた.その概要 は以下のとおりである.
a.本講義の目的
小学校教員(幼稚園教諭・保育士)として,カ リキュラム開発や学校行事の企画・立案に創造的 に取り組むために,教材(環境)を校外に求め,
調査し,指導計画を立てる視点と方法を獲得する.
b.到達目標
①野外観察の計画を立て,実施し,得られたデー タを目的に合わせて加工し,教材開発を行う ことができる.
②社会事象の観察から課題を発見し,仮説を立 て,調査し,まとめ,発表する力をつける.
c.授業の計画と実施(平成28年度)
①小学校及び幼稚園における校外学習・園外保 育のねらいと内容
②地図の読み取り…新旧地図の比較,ハザード マップ,地域安全マップ
③野外観察①(大学周辺の観察)
④野外観察②(旧日光街道の観察①)
⑤野外観察③(旧日光街道の観察②)
⑥地域安全マップづくりの理論と方法
⑦野外観察④…(地域安全マップづくり)
⑧野外観察④のまとめ 地域安全マップ作成
⑨地域安全マップ発表及び公共施設見学の視点
⑩施設見学① 千住消防署の見学
⑪施設見学①のまとめ…新聞づくりと発表
⑫野外観察⑤ 千住地域の商店街の観察と調査
⑬商店街調査のまとめ , 江戸東京博物館見学の 視点と方法
⑭施設見学② 江戸東京博物館の見学(祝日利 用)
⑮江戸東京博物館のパンフレットづくり等
2.授業の展開例①-地図の読み取りと大学周辺・旧日光街道の観察-
新旧2枚の地形図(明治13年作成の迅速図・平 成11年作成の2万5千分の1地形図)を使用して,
千住地域の変容を読み取り,野外観察の視点を定 めて,野外観察を行う.
a.地図の特性と授業での活用
地形図は,ア.明治以降,実測による作成と修 正を積み重ねてきた国土の記録であること,イ.
村野 芳男
作成年が記れていること,ウ.約束(縮尺・方位・
地図記号等)があることという特色を理解させ,
読図により地域の変容を見ることができ,学習活 動に有用な教材であることを理解させる.
b.学生の読み取り…図1
ア.河川の変化(明治期には荒川がない?)
イ.集落…農地に囲まれた集落と道路に沿った 集落の2種類が存在
ウ.土地利用…農業的土地利用から市街地へ
c.課題の把握せるとともに,ちょっとした気づきが教材開発の 可能性につながることに気づかせた.かつての荒 川(現隅田川)沿岸には,荒川の水運を利用した 工場が立ち並んだ.東京電力千住火力発電所もそ の一つである.隅田川沿いが選ばれたのは用地の 確保と,同地が隅田川の潮汐限界点(満ち潮時に 潮が逆流する限界の地点)のため,燃料の石炭を 満載した船が航行しやすい終点という水運の便の 良さなどが理由として存在する.発電所の煙突は,
「お化け煙突」の名で地域の人々に親しまれたが,
1963年に発電所は停止された.煙突の一部は,元 宿小学校(1954~2005)の遊具(滑り台)として 活用され,同小学校閉校後の跡地に開校した帝京 科学大学にも近代化遺産として残された.また,帝 京科学大学校舎建設に合わせて,隅田川護岸壁の 一部をスーパー堤防に作り直した際,潮汐の動き を観察できるように小さな人工の入江が作られた.
観察ポイントの一つとして,お化け煙突のモニュ
ア.1本の河川(明治期)から2本の河川(平 成)なったのはなぜ?…大学周辺の観察へ イ.明治期に見られる道路に沿った集落はな
に?…旧日光街道の観察へ
ウ.農業的土地利用から市街地(建物密集地)
へ…統計処理とその読み取り,現在の北千住 駅及び国道4号線(現日光街道)の観察へ
d.大学周辺の観察(30分間)-「川」をテーマにした地域観察-
ア.前時の復習と野外観察のポイントの確認 イ.観察①「隅田川左岸護岸壁の2枚のプレー
ト」図2
ウ.観察②お化け煙突…図3 エ.墨堤通りの観察…微地形の観察
大学7号館と本館をつなぐ道路沿いの護岸壁に 荒川・隅田川の名を冠した2枚のプレート(約175 m間隔)があることを観察し,その理由を考えさ
迅速図(明治13年)
2万5千分の1地形図
(平成11年)
図1 新旧の地形図を読む
図1 新旧の地形図を読む
図2 隅田川左岸の護岸壁
図3 近代化の遺産「お化け煙突」
図3 近代化遺産(お化け屋敷)
メントとともに組み入れた.
e.地図の読み取り
教室へ戻って,観察してきたことと,読図で疑問 に思ったこととをつなぎ合わせた.明治中期まで,
荒川(現隅田川)は「荒れる川」として幾たびも 洪水に見まわれた.とりわけ,明治43年の大洪水 は大きな損害をもたらし,荒川放水路の建設が始 まった.明治13年の迅速図では荒川(隅田川)の みが描かれていたのである.現在の荒川は,昭和 40年の河川法の改正前までは「荒川放水路」であ り,現在の隅田川が「荒川」であった.隅田川の 護岸壁に残された2枚のプレートがこの間の事情 を物語っている.すなわち,河川法改正後に整備さ れた護岸壁(図2左側)には「隅田川」が,昭和39
村野 芳男 校外学習指導に関する実践的研究
年に整備された護岸壁(図2右側)「荒川」の名が 刻まれている.ちなみに,この観察に参加した44 名の学生全員が「荒川左岸護岸建設工事」と明記 されたプレートの存在に気付いていなかった.観 察に参加した学生は次のように書いている.
・今までそのまま素通りだったのに,いざ見学す るとこういう意味があるんだなどと面白かった
(男性).
・日常の中にある何気ないものを取り上げること で,子どもの興味がわく(男性).
・いつも歩いている道でも初めて見るものもあり,
こういった機会がないとわからなかった部分も たくさんある.地元も注意して歩こうと思った
(女性).
日頃,見慣れた景観も意識して見なければ見て いないことと同じである.学生(将来の教員)が,
学区域を歩くことで,たくさんの地域素材の中に 教材の宝が眠っているということを体験的に理解 させることが,この講義のねらいの一つである.
3.授業の展開例② -地域安全マップづくり-
本実践は,小宮信夫(2005)(2006)を参考にし ている.小宮は,犯罪を防ぐ方法として,犯罪を 起こそうとする者に「犯罪の機会を与えない,犯 罪を思い止ませる」ために,地域の領域性と監視 性を高める必要があり,住民自身の手による「地 域安全マップづくり」を推奨する.すなわち,住 民自ら街歩きしながら,自分たちの地域の領域性・
監視性の低い場所を探して歩き,地図化する活動 である.今日,日本の各地の学校でこの「地域安 全マップ作り」の実践が行われている.これは,
子どもたちに危険な場所(領域性と監視性が低い 場所)を見極める力をつけさせることを狙いとし ている.
授業は,次の3段階を踏んで行った.
①地域安全マップ作りの理論と方法…講義
②野外観察(地域安全マップづくり)…数名の学 生でグループをつくり,カメラ・地図・ノート を持って地域観察を行う.観察の視点は
ア.危険な場所(入りやすい、見えにくい場所)
イ.落書きやごみが散乱している場所(地域の 人々の当事者意識が低い)
ウ.安全な場所(入りにくい場所,見えやすい 場所)
③野外観察のまとめ…地域安全マップづくりと発 表
4.授業後の学生の感想
・実際に歩いて見て思った以上に小さくて暗い道 が多く,危険だなと思いました.それをただ呼 びかけるのではなく,子どもたち自身の目で見 てマップにすることで,子ども自身が危険を自 覚し意識することが出来るのではないかと思い ました.また,安全なところ(こども110番の家 など)を知ることで,いざという時に頼れるの ではないかと思いました.こどもが自分で見 て,歩いて作るというところに安全マップの効 果・意味があると思いました.実際に小学校で もやってみたいです(女性).
・安全マップを作ると危険な所ばかり見つけて,
安全な所を探さなくなる.危険な所を見つける のも大事だが,安全で遊びやすい所,過ごしや すい所を見つけるとよりよい安全マップが完成 する(男性).
Ⅳ 校外学習活動論の意義と実践上の課題
教員養成系の学部・学科に学ぶ学生が校外学習 活動の意義を把握しこれに取り組めるよう動機づ けし,その手法を学び実際に体験してみることの 必要性,さらには,学習指導要領の改訂等に示さ れた学習指導法の方向性等を見据えながら,校外 学習活動論の意義と課題について考察する.
1.学区域を歩くことの大切さを理解させる
学区域を歩くことの意義を次の2点に絞って考 えてみる.第1は,子どもたちの生活環境を知る ことである.子どもたちの暮らす地域を知ること により,生活指導の視点を得ることができる.子 どもたちが,日々生活している地域を知ることは,
地域に根差した生活指導の展開に大きく役立つと 考える.また,地域を知ることは,地域との連携
図4 地域安全マップ発表会
村野 芳男 校外学習指導に関する実践的研究
を強化するきっかけにもなる.
例えば,「地域安全マップ」作りを特別活動や総 合的な学習の時間など学校の教育活動に位置づけ て行う.その際,地域の人々の協力を得ることが できる.子どもたちの地域観察の段階からマップ 作り,さらには成果発表会に地域の人々を招くこ とで,地域の安全を共有することが出来,地域安 全マップ作りのねらいが一層確かなものになる.
地域との連携の深まりは,様々なレベルで地域の 人々をゲストティーチャーとして呼んだり,町探 検,社会科見学などの校外学習への協力が得られ るなど,子どもたちの学びをより深めるものにな る.学区域を歩くことの第2のメリットは,地域 教材開発の可能性である.地域には様々な学習素 材が埋もれている.しかしながら,教師が地域素 材の教材としての価値に気づかなければ,せっか くの素材が埋もれたままになってしまう.隅田川 の護岸壁に埋め込まれたプレートの存在に気づき,
授業に使える教材として活用できると思うか思わ ないかは,教師の研ぎ澄まされた教材観による.
学生のうちから,校外に目を向ける体験を積むこ とで,教師としての教材開発・教材観の幅を広げ てほしいものである.
2.地域教材開発の必要性とその手法を身に付け る.
地域教材開発の必要性、有効性を次の3つの観 点から考えてみる.
a.子どもたちの興味・関心を知的好奇心へ b.見て・聞いて・感じて・体験して学ぶこと c.見えるものから見えないものを引き出す
a.地域教材は子どもたちの興味・関心を引き起こす.
地域は子どもたちの生活の場である.普段から 慣れ親しんでいる場所・景観、地域の様々な事象
(もの・こと・人々)が学習素材として提示される ことから,子どもたちの興味・関心が高まること は疑う余地はない.さらに,教師による教材化(素 材の加工や提示の仕方などの工夫,概念を覆すよ うな発問)が加わることにより,単なる興味・関 心が知的好奇心へと高まり,学習課題(学習のめ あて)を把握しやすくなり,学習意欲が持続する 可能性が高い.
地域観察の利点として,学生は次のように記述 している.「その場所に行って実際に川や跡地を見 ることで,興味・関心が深まり,より理解できる.
わからないことをたくさん調べたくなる(女性).」
「身近なものに触れながら学べるため意欲がわきや すい.また,まわりのあまり気づかない点に気づ くのが楽しい(男性).」
b.五感・体験を通しての学び.
見て・聞いて・触れて・感じて・体験した学び は,本物に触れる学びである.現代の子供たちの 中には,地域での様々な体験(自然体験・社会体 験)を経験せずに育った子どもも多く見られる.
地域調査を通じての学習は,こうした子供たちに 地域の「もの」や「人々」と出会い,様々な体験 を経験させる可能性が高い.学校という均質で閉 じた空間では学ぶことのできない様々な職業・価 値観,生き方を持った人々の存在を知り,交流を 経験できることを意味している.
c.見えるものから見えないものを引き出す
小学校の社会科は,中学校社会科や高校の地歴 科・公民科と比べて,子どもたちの直接体験を重 視するカリキュラムになっていることは表1の示 すところである.社会科に限らず,生活科,総合 的な学習の時間での学びも含めるとよりそのこと を実感する.しかしながら,社会科の授業がとも すると,事実認識の結果を覚える詰め詰め込みに なりやすいとの見方は根強いものがある.1998年 12月告示の中学校学習指導要領社会科の改訂方針 には「各分野の特質に応じて,見方や考え方を身 に付け,調べ方や学び方の充実を図る」ことが,
「内容の厳選」「社会への変化への対応」とともに 重点として示されている.また,現行学習指導要 領(2010年3月告示)社会科改訂の基本方針に「小 学校,中学校,高等学校を通じて,社会事象に関 心を持って多面的・多角的に考察し,(中略),社 会的な見方・考え方を成長させることを一層重視 する方向で改善を図る」とある.さらに,2017年 3月告示の新学習指導要領においても,社会科の 目標として「社会的な見方・考え方を働かせ,課 題を追究したり解決したりする活動を通して,(中 略)公民としての資質・能力を…育成する」とあ る.社会的な見方・考え方は,「課題解決的な学習 において,社会事象の意味や意義,特色や相互の 関連を考察したり,社会に見られる課題を把握し て解決に向けて構想したりする際の「視点や方法」
であり,目標である資質・能力を育成するために
「働かせる」ものである.小学校社会科で使う「社 会的事象の見方・考え方」とは,社会的事象を位 置や空間的な広がり,時間や時期の変化,事象や 人々の相互関係などに着目して捉え,比較したり
校外学習指導に関する実践的研究
総合したり,地域の人々や国民の生活と関連付け たりすることである.そして,社会科の授業観(事 実認識の結果を覚える詰め込み)を克服し,社会 的見方・考え方を身につけさせ,その見方・考え 方を用いることによって,汎用性のある概念的知 識が獲得されるなどの学びの深まりにつなげるこ とである.ただ,こうした課題に対して,bで述 べた「五感・体験を通した学び」としての校外学 習・地域調査を行うだけで,社会的・見方・考え 方を獲得し,使えるようになるわけではない.単 元の導入段階で,学習の「めあて」や「調べたい こと」をはっきりさせた上で,校外での調査活動 に臨み,教室に戻ってからの振り返りや教科書等 の他の資料との比較などの検討を行い,まとめの 学習として自らの言葉で表現する活動を行うこと が必要である.そうすることで,見えるものから 見えないものを引き出すこと,つまり具体的思考 から抽象的思考へと学習の質を上げることが可能 となる.その過程で,社会的見方・考え方も身に つき,生きて働く知識を身に付けることが出来る ようになるのである.
Ⅴ おわりに 今後の学生指導・教育研究の課題
旧日光街道の観察の後,学生が提出したレポー トの最後の部分に次のような記述がみられた.
「…小学生にも実際に授業で社会科見学に行く などして,住んでいる場所を知るのも良いなと思 いました.時代の流れで今と昔の風景が違うこと を知るために,歩く前に地図や写真などを見せる のが大切だと思いました.昔の地図,写真を見た 上での街の印象,歩く前の現代の街の印象,歩い た後での街の印象,それぞれ聞いてみるのもよい なと思いました.故郷や住んでいる場所のことに ついて知らない人が増えている中,校外に出て住 んでいる街のことを知るのはとても良いことだし,
大事であると思いました(女性).」
野外観察実施後は,必ずレポートを書かせてい るが,当初,多くの学生は初めての体験への新鮮 な驚きの記述に終始し,事例学生のように自分の 体験を小学生の指導にまで敷衍して記述する例は 多くない.教員を目指す学生としては,新鮮な驚 きを知的好奇心へと発展させ,広まりと深まりを 持った考察へと進むことが求められる.事例学生 のように,事前事後学習の重要性に対する認識,
今日の子どもたちの置かれている状況を改善する
ために校外学習に取り組みたいという意欲を持っ た学生を一人でも多く育てるのが,学生指導の課 題である.
先行研究で紹介した宮本の調査では,野外調査 の経験は,大学で15%,教員になってからも50%
未満であるが,大学で地域調査の経験を積んだ教 員が積極的に野外調査をしているとは言い難いと している.一方で宮本は,井田・藤崎・吉田(1992)
の先行研究に言及し, 「大学時代に野外調査の経験 を持つ教員が積極的に授業に野外調査を取り入れ ている」と報告している.筆者は,井田他の報告 をよりどころにこれまで実践してきた.宮本は,
大学での学びを教員になって生かしたくてもでき ない状況があると分析している.この点も踏まえ て,今後追調査を行いさらに考察を進めて行きた い.
引用・参考文献
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東京:光文社
小宮信夫(2006)「犯罪に強いまちづくりの理論 と実践 地域安全マップの正しいつくり方」 『自 治体議会政策学会叢書』,東京:イマジン出版 宮本静子(2009)「中学校社会科地理的分野の身
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3』1- 13
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大阪:大阪書籍
文部科学省(2012)「小校学習指導要領解説・社 会編」東京:東洋館出版
文部科学省HP(2017) 「小学校学習指導要領解説・
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文部科学省HP(2017) 「小学校学習指導要領解説・
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文部科学省HP(2017) 「小学校学習指導要領解説・
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文部科学省HP(2017)「小校学習指導要領第2 章第 2 節社会科」
村野芳男(1994)「修学旅行の事前・事後学習に 関する一考察 -社会科の立場から-」『東京
村野 芳男 校外学習指導に関する実践的研究
学芸大学附属小金井中学校研究紀要第 30 号』
17 - 30
村野芳男(1995)「修学旅行の事後学習における レポート作成の意義と課題 -下総台地の農業 調査報告書を事例として-」『東京学芸大学附 属小金井中学校研究紀要第 31 号』63 - 78 村野芳男(1997)「自己学習力の育成と校外学習」
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村野芳男…(2000…b)「野外観察・調査を主体とし た校外学習と地理教育」『新地理 47 - 3・4』
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筑波大学附属中学校(1997)『生きる力を育む修 学旅行と校外学習』東京:図書文化社
校外学習指導に関する実践的研究