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朝鮮半島文化の二重組織論を越えて

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朝鮮半島文化の二重組織論を越えて

著者 嶋 陸奥彦

雑誌名 国立民族学博物館調査報告

巻 14

ページ 218‑223

発行年 2000‑07‑24

URL http://doi.org/10.15021/00002235

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朝鮮半島文化の二重組織論を越えて

嶋陸奥彦(東北大学)

 博物館における展示は、対象となる文化を展示しつつ、同時に展示する側の見方をも 展示する。しかし今回の新しい展示を以前のそれと対比するとき、その違いの顕著さを あらためて実感する。これはそれぞれの展示方針によるものであるが、その背後に、前 回の展示と今回のあいだで展開した、朝鮮半島文化にたいする見方の違い/変化に対応 する部分が少なからずあると思われる。

 前回の展示の基本方針が、 「現代の韓国の精神生活における二つの基本的な枠組みと なっている『民間信仰』と『儒教』の二つを大きな柱とし... (中略)韓国の文化の 構造を示す」というものだったことは、朝倉氏の紹介をはじめとして、本シンポジウム でも何度かふれられたとおりである。前回の展示が組み立てられた1980年代初等の 研究状況については、次の二つのことに触れておこう。

 前回の展示のプロジェクト・リーダーだった祖父江孝男氏は、それに先立っ1980

〜81年度に「韓国の伝統文化とその変容」という共同研究を実施していた。これは民 博における韓国関係の最初の共同研究だった。そのころは、日本の人類学における韓国 研究が本格的に再開されて10年足らずという時期で、共同研究の目的も 従来の人類 学的研究についての文献目録を作製・整理し、今後の研究方向をみいだしてゆくこと * 1とあるように、研究の現状を把握することから始めなければならない状況だった。参加 者たちの多く(筆者もふくめて)の研究は、韓国文化の構造的特徴を明らかにする作業 に主として向けられていた。

 他方、戦後の日本における朝鮮半島研究を回顧した伊藤亜人氏は、研究領域と内容に おいて、巫俗や民間信仰に集中する民族学的研究と、家族・親族に集中する社会人類学 的研究に大別されると指摘したうえで、 これは恰も、秋葉台がかつて指摘した 朝鮮 社会・文化の二重構造 を反映しているかのよう だと述べている*2。

 これらに照らしてみるとき、前回の展示の基本方針は、まさに当時の日本における研 究状況を色濃く反映させたものだったといえる。そこに展示された二重性とは、民間信 仰と儒教という精神生活における対照と、一般常民と上流両班という社会階層の面での 対照が重なり合ったものだった。これは確かに秋葉の提起した二重的なモデルに対応し ているようにみえる。

 これに対して、今回の展示の特徴は、民間信仰と儒教に加えて、道教、仏教、キリス

ト教などに関するもの、あるいは現代の大衆文化などをも展示することによって、現代

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嶋陸奥彦(東北大學)

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の韓国文化の多様性を提示しているところにある。これは観るものに対して同時代的関 心を起こさせるだろう。また基層文化のうえに様々な要素が歴史の中で前後しながら積 み重なってきたという歴史的重層性をもう一つの軸としていることは、静的で構造的な 展示を乗り越えようとする試みと評価することができる。

 展示の仕方がこのように大きく変わった背景にはいくつかの要因が考えられる。まず 第一に、韓国社会自体の急速な変化、とりわけ都市化と大衆文化の展開、そして宗教面 でいえばキリスト教の大幅な浸透である。このことが韓国文化にたいする関心を多様化 させるとともに、その歴史的変化にたいする感覚を要求するようになってきた。また民 博全体として、いわゆる伝統文化だけでなく現代文化をも展示するという方針を採択し たことも、今回の展示の方向に影響を与えていると考えられる。全体として、今回の展 示がはるかに多面的になったことは確かである。

 だが基層文化、道教、仏教、儒教、キリスト教などの要素は、単に重層的に付加され てきただけではない。それらは朝鮮半島に受容されて以来、朝鮮半島の文化の他の部分 と相互作用しながらさらに歴史的に展開してきたのであり、同時代文化として現代社会 にみられるのはその結果なのだという側面をもう一度思い出す必要がある。例えば韓国 文化の両班化の諸相を分析した朝倉氏の研究*1は、前回の展示で二つの柱の一つとされ た儒教・両班的文化が、実は静止した伝統などではなく、現代文化の動態の重要な一部 であることを示している。

 この考え方にたてば、秋葉が二重的なモデルでとらえようとしたときの朝鮮文化と、

70年代以降に研究が再開されたときに私たちが見た韓国文化とは、同じものではなか ったはずである。対象としての朝鮮半島文化の時代的変化の角度から、植民地時代の問 題を見直すことが必要である。また上京秀氏が指摘するとおり、朝鮮戦争と分断が及ぼ

した影響にも注意を向ける必要がある。

 対象を見る視線の角度からは、80年代までの研究と、それを踏まえた前回の展示が 秋葉の二重的モデルを反映しているかのようだったとすれば、それは当時の研究者の視 角が先達である秋葉のモデルにとらわれていた、あるいは見方が秋葉の時代から変わっ ていなかった、ということなのだろうか? しかし秋葉自身は二重組織あるいはデュア

リズムの概念を、家庭のなかや村の中に併存して相互補完的に全体を構成している現象 を説明するモデルとして用いたのであって、決して博物館の別の部分に展示されるよう な別々の現象があると主張していたようには見えない。

 モデル自体が、秋葉のものとは少し違っているという角度からみれば、対象文化のな

かに、そのような見方を刺激するような現象があるということなのだろうか? 両班化

をめぐる現象を一方におき、農楽や仮面劇がもつ対抗文化の役割を他方においてみるな

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らば、自文化をめぐるディスコースの中にそのような可能性を認めることもできそうで

ある。

今回の展示換えとシンポジウムを期に、さらなる検討課題が現れたようである。

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参照

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