生徒の積極的授業参加行動を引き出すための教師の 工夫と支援
著者 相磯 知宏
雑誌名 教育実践高度化専攻成果報告書抄録集
巻 7
ページ 55‑60
発行年 2017‑03
出版者 静岡大学大学院教育学研究科教育実践高度化専攻
URL http://doi.org/10.14945/00010223
生徒の積極的授業参加行動を引き出すための教師の工夫と支援
1 問題の所在
相 磯 知 宏
The Pr omotion o f P o s i t i v e C l a s s P a r t i c i p a t i o n among J u n i o r H i g h ‑ s c h o o l S t u d e n t s through Teacher Behavior
τ
'omohiro AISO
近年学習のかたちが多様化する中で、アクティプ・ラーニングが注目されている。文部科学省 では「アクティブ・ラーニングとは、学生にある物事を行わせ、行っている物事について考えさ せること」と紹介している。現在次期学習指導要領に向けた議論の中でも、アクティブ・ラーニ ングの視点からの改善を目指して「主体的・対話的で深い学び」を実現させようとしている。現 行学習指導要領においても「生きる力」を育むという理念で様々な能力の習得が求められ、具体 的には「基礎的・基本的な知識・技能」、「知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思 考力・判断力・表現力等」、「主体的に学習に取り組む態度」が挙げられる。中でも本研究で着目 するのは「主体的に学習に取り組む態度」である。これは評価の四つの観点からすると主に「関 心・意欲・態度」と関連するものであり、それは各教科が対象としている学習内容に関心をも ち、自ら課題に取り組もうとする意欲や態度を児童生徒が身に付けているかどうかを評価するも のである。また、これを育むことは他の観点に係る資質や能力の定着に密接に関係するものであ る。
現状現場においても学習指導要領の変化に応じた教員による様々な試行錯誤が行われている。
教師によって教えられたことや教科書に書いてあることを覚えるということだけでなく、生徒自 身が主体的になって課題に取り組む活動や、資料を扱ってその考察を他者と共有することによる 学びなど、生徒自身が学びを形成していく要素の多い授業が展開されている。学力調査など大規 模で行われる試験に関しては学習指導要領に基づいた能力が問われると考えられるので、そのよ うな学びの展開の必要性が求められていることもあり、今後も広がっていくと予想される。だか らこそ生徒自身が学びを構築できるためにも授業への積極的な参加が求められている。
また、筆者の現状の課題としては、授業に関係するものが多い。筆者は現在中学校の社会科教 員を目指す身である。「教師は授業で勝負する」というような言葉があるように教師にとっては 欠かせない分野である。その中でも積極的授業参加行動、学習意欲という面に着目したことには 筆者自身にも理由がある。現行の中学校学習指導要領(社会) (文部科学省. 2008) において 様々な学習の展開が求められており、社会的事象を見て公正に判断できるようにしたり、基本的 な知識・技能を習得させたりしてその活用を図る目標がある。それらの目標を達成するためにも 様々な学習活動を展開するわけであるが、そのためには生徒自身の授業参加は不可欠である。
2
研究の目的本研究においては生徒の授業への参加行動を促す教師の行動や工夫を探っていくことが目的と なる。問題意識でも述べたように近年は生徒自身が学びに主体的に参加することが求められてい
る。学習指導要領から見る達成されるべき目標を満たすためには、生徒が授業に参加できるため の授業づくりや、授業内の生徒指導が必要となる。そのような教師の働きかけをより良いものに するためにも、生徒が授業に参加するために必要な要素を明確化することは有益なものとなると 判断できる。現場での実習の中で現場の教員の授業を特定のクラスで観察することを通して、生 徒が授業への積極的参加行動(布施・小平・安藤,
2 0 0 6 )
を起こす場面や、動機づけを促す教師 の働きかけを見つけ出す。そこから動機づけの理論を裏付けとして、生徒の授業への積極的参加 行動に繋がる要素を可視化していく。そのように導き出した要素を用いて、筆者が授業を実践す ることで、生徒が授業への参加する行動を引き出せるような授業力の形成を果たせるように成果 と課題を明確化する。3 研究方法
本研究では、生徒が積極的に授業に参加するために教師がどのような工夫や支援を行っている かを探ることが目的である。そのために生徒が積極的に授業に参加しているときはどのような状 態かという観点を定めなければいけない。そのため布施・小平・安藤
( 2 0 0 6 )
において行われ た研究で使われた「注視・傾聴」、「挙手・発言」、「準備・宿題」の3つの要素を援用することと する。この3つの観点と、筆者が観察した授業中の教師と生徒のやりとりを記述した記録を照ら し合わせることで授業の中で生徒が授業に参加している状態がどのような時に見られるかという ことを探る。観察場面については、国語、数学、英語、社会、理科の
5
教科を対象とした。その中で見られ た教師の行動と生徒の行動、言動を記述して、それぞれがどのように関わり合っているのかも記 述している。ほかには授業の展開や授業以外のようすなども必要に応じて記述を行った。以上の観察記録から得られた教師の工夫や支援と、生徒たちの表れを
Ryan&Deci ( 2 0 0 2 )
で 提唱された自己決定理論( s e l f ‑ d e t e r m i n a t i o nt h e o r y )
を用いて考察をするロ自己決定理論とは 人間のモティベーションに関する基本的な理論であり、「学ぶこと、働くことなど多くの活動に おいて自己決定すること(自律的であること)が高いパフォーマンスや精神的な健康をもたらす理 論である。J
(鹿毛,2012
,p46)
というものである。その理論を構成する中で最も基礎的な理論と言える基本的心理欲求理論を用いることとする。この中では人間の基本的心理欲求として、① 関係性の欲求、②有能さへの欲求、③自律性の欲求、という 3つの欲求があるとされている。こ れらが満たされることによって人聞は自己実現をして、精神的に健康で、幸せになれるという理 論である。生徒の積極的授業参加行動を促した教師の働きかけが、この3つの欲求のいずれかを 満たす効呆があったのかということを考察し、学習意欲はどういった要因で生まれるのか、引き 出されるのかを明確化する。
以上の過程で得られた内容を筆者が授業実践を行うことで検証を行う。上記の考察の中で得ら れた学習意欲の要素を取り入れた授業実践によって、改めて仕掛けとしてうまくいったことや、
逆にうまくいかなかったことをまとめていき、本研究の成果を明徴させると同時に、今後の課題 を洗い出していく。
4
観察対象クラスと教員本研究では、 A 市立 B 中学校に平成 27 年 9 月から平成 28 年 3 月、平成 28 年 5 月から平 成 29 年
1月まで実習という形で観察に入った。平成 27 年度は
1年生、平成 28 年度は 2 年生 の学年を見る形で継続して同じ生徒たちを観察し続けた。本研究の目的となる観察は平成 28 年 度から観察開始となり、特定のクラスを観察対象クラスとした。
観察対象となる授業の担当教師は表
1の通りである。
表
1観察対象教師に関する情報 担当教科
C 先生
D 先生
E 先生
F 先生 G 先生
5
観察記録からの考察
( 1)観察記録の内容
国語 数学 英 語
社会理科
配属学年
2 年
1 年
2 年
2 年
1 年
教職年数 B 中学校 所属年数
1 1 年 5 年
1 0 年 3 年
2 7 年 2 年
8 年 2 年
1 9 年 3 年
観察から得られた内容を教科ごとに表
2"‑'6にまとめた。その 内容について説明する。
1 )
国語
C先生の授業の中では、表 2の内容が見られた。 a については、
教科書の内容において音読をする際に、ただ順番に読むというノ号 ターンだけでなく、隣の生徒と読むことや生徒に先導を任せて進
性別
観察回数
男性1 0 回
男性1 2 回
男性1 5 回
男性1 7 回
女性1 0 回
表 2 国語の事例 a 音読の方法 b 聴き方
c教師の例示
d発表の際に手が
挙がらない際の対処 行するなど多彩な読み方をさせていた。 bについては、国語という教科の特性のために多彩な言 語活動を行っている。そのため生徒たちはお互いに発表したり、聞いたりすることがある。その 際に、相手の発表を聞くということに気を付けるようにという指導を行っていた。また、
C先生 自身も生徒の発表に大きく相槌を打つなど聞き方に特徴があった。
cについては、授業のまとめ を作る際に教師が見本を見せると、生徒たちも安心感をもって活動を行えていた。
dについて は、発表の際に挙手がない時もある。その際に隣の生徒に刺激をさせるということがあった。
2)
数学 表
3数学の事例
D先生の授業の中では
、表 3の内容が見られた。a について I a 適度な挑戦の場 は、問題を解く際に一定のヒントを与えていた。数学では習熟度 I b 褒める
に差が出やすいので、 D先生が板書や講和でヒントを与えて問題 I c 意見の引用
に望ませるということがあった。 bについては、生徒が発言した I d 授業における講話
り、問題を代表で解いたりする際に生徒の挑戦を褒めていた。
cI
e特定の人間への関与 については、生徒の発表を引用して次の授業展開に繋げていた。
d
については、
D先生の授業の最中に指導したい内容について D 先生の経験を踏まえて話をし
ていた。
eについては、授業の最中にある特定の生徒に発問するなど、狙って指名していたこと
があった。クラスの中の面白い子や学習意欲が低い、数学が苦手な子などをよく指名していた。
3)
英語 表4
英語の事例E先生の授業の中では、表 4の内容が見られた。
a
に ついては、英語という教科の特徴として英語を使った会 話をしたり、ゲームをしたりするという活動があった。bについては英語を使って生徒たちの周りのことを英語 で表現する内容があった。クラスメイトのことについて 様々な表現をしていたので反応があった。
c
についてa
多様な言語活動b 生徒の周りのことを英語で表す
c
授業の雰囲気づくりd
分からない部分の共有e
教材の使用は、
E
先生は学年主任ということもあり、教師としても毅然として生徒たちに注意をしたり、良 いことには褒めたりもしていた。d
については、授業の個と集団を意識したもので、個人から出 た疑問などを全体に返して一人の学習に終わらせないようにしていた。e
については外国語の勉 強なので発音などは特殊な部分がある。DVD
やCD
の発音や、ALT
の先生との会話には興味を 示していた。4) 社会
F先生の授業の中では、表5の内容が見られた。
a
については、社会の授業では人間の生活に密接に関わる部分がある。教師が経験 したことを見たり、聞いたりすることは生徒も興味を示していた。
bについては、資料をもとに気づいたことや思ったことを発表する 機会がある。その際に多様な意見が出るので、その対応も生徒の発 言の対応として意味があった。
c
については、授業が進んでいくに表
5
社会の事例a
教師の経験談 b 不規則発言c
既習内容との関連d
一問一答e
興味深い学習テーマ あたって生徒たちは今までに学んだ内容を利用しようとしていた。d
については、授業の始めに 一問一容を行っている。一問一答の際は生徒たちも気楽に挙手をしていた。e
については、授業 の内容に入る際に学習テーマを出す。その内容が生徒のものになりやすいか、興味を持ちやすい かは生徒の参加意欲にも影響が出ていた。 表 6 理科の事例5) 理科
G先生の授業の中では、表6の内容が見られた。
a
につ いては、 G先生は授業の際にタブレツトを使用していた。用途も多様であり、生徒たちも興味を示していた。 bにつ いては、授業の始めに一問一答を行っていた。その出題を 生徒に任せるなど生徒の動きを活発にしていた。
c
についa ICT
教材の使用 b 生徒への仕事の委任c
余談として理科に関する雑学d
テスト直しにおいて共同作業をして
E
解を作る ては、授業な最中に生徒の疑問に答えたり、授業内容を実際に利用されていることに繋げたりし て話していた。d
については、定期テストが終わった際に、答えをすぐに分けずに生徒同士で解 答を作らせていた。以上の
5
教科について観察記録をまとめた。全教科の事例からどのような行動、どのような場 合に効果があったのかを表7
、表8
、表9
にした。それらの内容を教科共通で見られたことと教 科特有で見られたことに分けた。さらに教科特有で見られたことは、教師によるものと教科の内 容自体によるものかに分けた。表
7教科共通で見られたもの
① 発 言 へ の 反 応
② 発 言 へ の 対 応
③授業の場づくり
④授業・教材の工夫
⑤生徒の交流(言語活動の充実)
(2
)自己決定理論からの考察 以上の内容を自己決定理論 から考察すると表
10のよう に分類ができた。
自律性という観点からは 自ら目的をもって参加すると いうことである。したがって 授業に参加する意義が大事に なる。その点では、授業にお いて意欲を見せることにアピ ールなどの意味をもっ。また は、単純に面白いから参加す るといったことが見えてき た。また、参加しやすいため の場づくりも大事であった。
自律性
有能さ
関係性
表
8教師自身からの要因
⑥教師との交流
⑦生徒への委任
⑧答えやすい内容
表
9教科自体からの要因
⑨言語活動が主体の教科
⑮知的好奇心が湧きやすい教科
⑪答えが確立されたもの 表
10自己決定理論を用いた観察記録の分類
教師自身の行動 事例 授果自体の構成・内容
発言の機会の保障 知的好奇,ふ
‑相槌(教師の聞く)
国b ‑教材の工 夫(ICTなど)
‑聞き方の注意(生徒の聞く) ‑学習課題、学習問題
授業の場づくり 学ぶ意義(目標)
‑ルールづくり 全 体 程よい変化
生徒への委任 理b ‑授果進行の変化
‑環境の変化
褒める 数b 解答の機会(答えやすい内容)
意見の引用 程よい挑戦の機会
‑有効な意見 全 体 内容が分かること
‑つぶやき 数c
安心感・不安の除去 国C.数a
教師との交流 日語活動の充実
‑教師の自己開 示 ネ士a ‑語学の使用
‑ユーモア 全体 ‑対話力の育成
生徒同士の交流(会話・刺;激) 国d.理d 特定の生徒への関与 数e
事例 理c 英e.理a
ヰ土e 全体
国a その他 ネ土d 数a 全体
英a.b 国b
有能さという観点からは、自己有用感を感じられるかということで、プラスに見るか、マイナ スに見るかの見方である。自分ができる人聞として見られる自尊感情の高まりと逆に自分ができ ないところを見せたくないという状況である。そのために発表しやすい機会を設けることや、ヒ ントを与えるなど適度な挑戦の場を作ることで成功体験を重ねることが大事だとわかった。
関係性の観点からは、学習意欲の低い子に目がいきやすい。言語活動など様々な交流の機会を 設けると、誰かと話そうとしたり、交流をもとうとしたりしていた。また、教師とのコミュニケ ーションも興味があるようで効果が見られた。しかし、生徒同士でも教師とでもコミュニケーシ ョンをうまく使える場でないと、ただ遊んでしまうというケースも見られるので注意が必要であ る 。
6
授業実践
以上の観察記録から得られた自己決定理論に基づいて考察して求められた学習意欲の要因を用
いて筆者が授業実践を行う。筆者が行った授業は、道徳を
2固と社会を
1回の計
3回である。そ
の中で得られた結果について授業を参観した方々の事後指導を参考にまとめる。まず参考にした
観察結果を紹介する。
単発で行うことや、道徳や社会の特性上できない面もあるのですべては検証できないが、それ ぞれの授業で流れに沿って様々な工夫を行った。その中でも成呆が見られたものと、課題を残す 形になったものを抜粋する。まず効果があったものとしては、授業に変化を与える事があった。
7
月に行った一度目の道徳では、一般的な教材を基本に授業を始めて、途中に流れを変化させ た。普通のものから変化する刺激や、意味を持たせての変化なので学ぶ意義をもつこととしても 効果があった。次に生徒の意見の引用はいい反応が見られた。予定していないものであったが、授業前の会話において授業で使う話題を知っていた生徒がいたので、その生徒に発表をさせた。
その生徒にとっても有用感を感じられるものでもあり、他の生徒にとっても興味を引くものとな った。三回目の道徳においても見られたことではあるが、いい意見はあまり想定しないところか ら出てきた。そういった意見を活用するためには自律性に頼らず、こちらから発表を促してもい いと感じた。その他には、教師の自己開示や教材の工夫といった面では効果が見られた。また、
今回の観察から得たものとは異なる要素ではあるが、筆者と生徒の信頼関係が良い面に働いた。
これは筆者の特殊な身分もあってではあるが、ハロー効果や寛大評価のようなもので、今回の研 究で見るべき教師の工夫とは異なる面が生徒にとって気持ちが前に向いたところがあった。
課題が残った面としては、一番は発言への反応や対応がうまくいっていなかった。発表した意 見からうまくいい部分を抽出したり、逆に問いかけたりということはできなかった。その他にも 授業の構成として学習課題の持たせ方や、まとめ方などが未熟なことがあった。総じていうとこ ういったことは教師の経験からくるものでもあり、まだ筆者のような身分ではうまくいかない経 験不足からくる結果であったと考えられる。
7
まとめ本研究では、現場教師が行う授業から授業への参加を促す学習意欲の要素を探し、その実践に よる検証を目的とした。その結果、現場教師の働きかけには理論的な背景を含めて効果が見られ た。生徒たちが授業に参加するためには、それぞれ理由や目的、気持ちなど様々なものをもって 授業に臨んでいる。そういった生徒たちが授業に参加しやすいように教師は多くの試みをしてい る。今回調査した内容においても、筆者のような教員を目指す立場の者が試行をした結果、効果 を感じられたものもあれば、経験不足から課題を残すものもあった。しかし、その結果から現状 からでも可能である教師の工夫や支援もあれば、これから身につけるべきことや成長すべき力が 見えてきた面もあった。今回の研究結呆をもとに今後の教職を目指すにあたり授業を作って行う 際に立ち戻って参考にできるようにして自らの成長に役立てたい。
主要引用文献
布施光代・小平英志・安藤史高
( 2 0 0 6 )
児童の積極的授業参加行動の検討ー動機づけとの関連 および学年・性による差異 教育心理学研究,54,534‑545̲鹿毛雅治