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章 運動と精神的変化

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Academic year: 2021

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(1)

八木ありさ 西洋 昭

自分が健康であると感 じ 充実 した生活感情を抱いている状態が望 ましい精 神的健康状態だとす るならば,健康増進を目的 とした運動プログラムの処方に おいては,体力に代表される身体的指標を充実させ るのみならず,精神的指標 について も個人に適 した活動の指針を示す必要がある。

6

章では運動処方に必要な精神的側面の情報を探 る目的で,

1

回の健康増進 運動前後でどの様に肯定的心理状態,つまり 「 快適 さ」が変化 したか,また, 健康運動教室への 3カ月間の継続参加によって精神的健康度がどう変化 したか を検討 した。

1

1

回の運動による 「 快適 さ

の増大

1.調査方法

心理的 「 快適 さ」の増大は身体的 「 快適 さ」の増大と相互作用を持つ もので あると想定 し。大島町と伊王島町の健康運動教室参加者を対象に,

1

回 ( 約

90

分間)の運動前後で心身の 「 快適 さ」の変化を検討 した。

身体的 「 快適 さ」 とは, 「 肩が こる」 ,「 腰がいたい」 , 「 なんだかだるい

と いった,特別な病気ではないが不快感 ( 不特定愁訴)がないこと。あるいは, いろいろな身体活動がスムーズにで きる, よりよ くで きると感 じることであ る。そこで身体的 「 快適さ」については,身体的不快感のなさについての主観 的評定を求めた。

心理的 「 快適 さ

の分析にあたっては,チクセ ン トミハイらが肯定的心理状 態を特定するときに用いた調査方法を参考に した。チクセ ン トミ‑イとラーソ

6 3‑

(2)

2)

,マシミニ ら

7

) ,渡椿 と山本

10)

などの調査では,活動中の経験の質がど の様に感 じ取 られているかを,一般的快適 さの感情 ( 楽 しい,明るい,社交的 吃,など) ,活動性 ( 機敏な,積極的な,強い,高揚 した,など) , 自己有効感 (はっきりとした,集中 しやすい,自発性の意識など)の因子について活動直 後に評定を求めている。またチクセン トミ‑イは,ある活動を行 う際にこれ ら 全ての因子にわたって肯定的な心理状態にあることを 「フロー体験」と呼び, 活動の難易度 とそれに対す る自分の能力が共に高いと本人が認識 しているとき が心理的には最良の状態であるという結果を示 している1 ) 。

しか し,肯定的心理状態つまり 「 快適 さ

には,以上に見 られるはかに, リ ラックス している時の 「 快適 さ」 ,他者 との交流の中で自分は価値のある存在 であると感 じる時の 「 快適 さ

なども含まれると考え られる。そこで これ らの

表 6‑ 1 「 快適 さ」 7国子 とその31の下位項 目

「 快適 さ」の

7

因子 :下位項 目

心地よさ ここちょい,楽 しい,社交的な書,明 るい 自己有効感 機敏な,強い,積極的な, 自信のあ る

生命感 いきいき した,高揚 した, はっきりした,集中 した リラ ックス感 のんび り した,開放的な, リラ ックス した,安心 な

自己評価 集中 しに くい, 自分 自信 に満足, ノ自発的 に行動 してい る,他者か ら認め られて いる*

社会性 社交的 な書 ,周囲の人に満足,他者か ら認め られている* ,他者 と 協調 している

一般的情緒 怒り,悲しみ,不安,疲れ,活気,混乱

注)

心地 よさ 一肯定的感情 を構成す る一般的感覚。

自己有効感 一自己が身体的 に も精神的 に も有効に機能 して いる感 じ。 またこの感覚 を基 に,他者や環境への影響力を もつ感 じ。

生命感 一自己が身体的に も精神的 に も十分覚醒 している感 じ。エネルギーが充 実 している感 じ。

リラ ックス感 一心身共に必要な緊張がな く,不安 もない感 じ。

自己評価 ‑自己有効感 を内部感覚以外の情報 に基づ いて評価で きること。

社会佐 一他者 に体す る積極的関係づけ。

一般的情緒

‑2

節 で述べ る

POMS

で取 り上 げ られている一過性 の気分状態を代表

す る項 目。

(3)

要因と下位項 目に,運動の前後で変化が生 じると予測される生命感, リラ ック ス感,自己評価,社会性と関わる項目を加えた37個の評定尺度を,因子分析に より

7

つの因子とこれを構成する

31

の下位項 目 ( 表

6‑ 1)

に再構成 した。

調査は,上記の心身の 「 快適 さ

」に関する評定項 目を約90

分間の活動前後に 示 し,

4

段階尺度評定法で回答を求める方法で行 った。評定値が大 きいほど

「 快適さ」が大きくなるように,不快感を表す項目については評定を逆転 して 集計 した。また,*印を付 した項目は,

2

つの因子で重複 して抽出されたもの であり,それぞれの因子得点で重複 して集計 した。

2.

「 快適さ」の増大とその内容

身体の 「 快適さ

の評定平均値を 1回の運動前後で比較 したところ,参加者 の身体的 「 快適 さ」は運動前より運動後でより大きな値を示 していた ( 図

6‑

1

) 。運動前後の身体的 「 快適 さ」の変動量 は‑

1

か ら

+ 2

の間の

4

つのグ ループに別れ,

±0

か ら

+2

のグループでは心理的 「 快適さ

」変動量がプラス

32

評 定 平 均 値

運動 前 運動後

(p

‑.0001)

6‑1

身体的 「快適 さ」の変化

6 5

(4)

値をとり,グループ間の差は認め られなか った。 ‑

1

グループでは心理的 「 快 適 さ」変動量 もマイナス値をとっていた ( 図

6‑2)

。 これ らの結果か ら,逮 動参加を通 じて身体的 「 快適さ」が変化 しないか増大する場合は,心理的 「 快 適 さ」が増大する傾向があり,身体的 「 快適 さ」の低減は心理的 「 快適 さ」の 低減 と関連 しているということができる。

02

変 動 量

l

l

T T

‑ , . . / . I

1 +

‑ 0

+1 +2

身体 的「 快」の変動 量 ★

significantat95%

6‑ 2

身体的 「 快適 さ」の変動量 と心理的 「快適 さ」の変動量 の関係

(5)

2

平均値 7httl般的情緒o3o7hLL,評価o4mリラクス感o1mooo‖HhN効感010Fl心地oOp

6‑3

心理的 「快適 さ」因子 の評定平均値比較

国 エアロビクス 田 スイ ミング 8ヨ ミニ ・バ レー

httl

社会性

EILn自己

mリラックス感

m

a:効感

Flよさ

6‑4

種 目ごとの心理的 「 快適 さ」変動量の比較

‑ 67‑

4200

(6)

次に心理的 「 快適 さ」因子 ごとに運動前後の評定平均値を比較 したところ, 運動後 に 「 心地 よさ 」, 「 有効感 」, 「 生命感 」 の各因子で大 きな増大が, 「リ ラックス感」 ,「 社会性 」, 「 一般的情緒 」 の各因子で幾分かの増大が認め られた ( 図

6‑3)

。また,運動種 目ごとに心理的 「 快適 さ」評定の変動量比較 した ところ,各因子で種 目間差が認められた。 「 生命感

と 「 社会性

の因子で, エアロビクス群が他群 と比 して特に大 きな値を示 し,「 自己評価

の因子でバ レーボール群が, 「 社会性」の因子で水泳群がマイナス値を示 した ( 図

6‑

4)

。 こうした評定結果の相違 は,種 目の持つ運動特性,あるいは指導者の有 軌 グループ活動か否か,集団凝集性の有無 といった活動形態の特性が,「 生 命感」や 「 自己評価 」, 「 社会性」の評定の変化 と関わっている可能性を示唆す

るものである。

以上か ら,

1

回の運動を通 じて身体的 「 快適さ」と心理的 「 快適 さ

は関わ り合いなが ら増大するが,「 快適 さ

」の内容は,活動の特性によって異なると

いうことが分かる。 したが って,『 体を動かす と快適になる』という身休活動 への第

1

次的導入に次いで,「自己評価」や 「 社会性

の快適 さを提供で きる かという 「 快適 さ」の処方についての検討が必要になると考え られる。

2 節 健康教室 3カ月間の主観的な精神的健康指標の変化

1.POMS

( 感情プロフィール検査)について

POMS

は,アメ リカの精神科医

McNair9)

らによって開発 された気分や感 情を評定する自己記入式質問紙法である。人がおかれた状況により変化する気 分を

6

つの尺度か らなる

65

個の下位項目で構成 してある。一般人,スポーツ選 辛,精神疾患患者を対象に妥当性,信頼性が検討 され,特にスポーツの分野で のカウンセ リングなどに利用 されてお り,横山 らによる日本語版

14)

が標準化 されている。精神的健康状態が良好 と判断 され る典型的なプロフィールは,

「 活性

が高 く,「 抑欝」や 「 混乱

が低い氷山型 ( 図

6‑ 5)13)

である。運

動 との関連では,運動後あるいは運動習慣のあるものの方がより良好なプロ

フィールを有することが認め られてお り,

POMS

を構成す る

6

つの因子 はそ

れぞれ次のようなことと関係 している。

(7)

(1)

緊張

(Tention‑Anxiety)

心身の緊張や不安の強さを測 る。 この評定が高いと注意の幅がせばまり,外 部か らの働 きかけに対する適切な反応がで きに くい。スポーツなど,生活を離 れた心理的に安全な場面に投入す ることによって,仕事や人間関係での過度な 緊張や不安といったス トレスは解消される。

( 2) 抑欝

(Depression)

悲 しみ,孤独感の強さを測る。 これが高いと気分が落ち込んでおり,物事を 悲観的に受け止める傾向があり,また動作の反応速度がお くれる。集団での身 体活動では,身体的にも心理的にも活動のプロセスを他者と分かち会 う機会に 恵まれているので,集団に所属 している感覚,受け入れ られているという実感 が,孤独感,疎外感を解消する働 きを持つ

( 3) 怒 り

(Anger)

他者に向けられる怒 りや攻撃心,敵意の強さを 測 る。 これが高いと,怒 りの 原因を不適当な相手 に転嫁す ることも考え られ る。スポーツや遊びの場面で は, 日常場面とは分離 した,仮の役割をとって勝敗を競 うことになる。 この場 合,心の中に蓄積された怒 りや敵意は,ルール上の敵への攻撃という安全な,

岬うつ

(Ten.) (DeD.) (Ang.)

( V

t

g

.)

6‑5

氷山型プ ロフ ィール

ー 69‑

蔽 ')i I馴古

(Fat.) (Con.)

(8)

認め られた形で発散 され,安定 した情緒を取 り戻す ことができる。

(4)

活性

(Vigor)

活動性の高 さ,元気良 さを測 る。 これが高いと積極的,肯定的状態にある。

(5)

疲労

(Fati

g

ue)

疲労感,生気のなさ,活動性の低 さを測る。 これが高いと消極的であり,無 力感 も強い。

身体運動に伴 う身体各部の覚醒は,高揚感や生命感を高める効果がある。心 身の覚醒機能が充実す るに連れて自信が増 し,より高い レベルでの活動性,機 能の開発を求めるように もなる。

(6)

混乱 (

Confusion)

情緒の混乱 した状態や,焦 り, うろたえ,不安定性などの レベルを測 る。 こ れは意志決定 と関わる要因で,行動のタイ ミングに影響す る。スポーツの場面 では,ある限定 された行動 目標が提供 され,身体の コン トロールが必要 とされ

るので,行動その ものへの適度な集中が情緒の安定を導 く作用を持つ

2.

調査

大島町 と伊王島町での調査で は,

POMS65

項 目中横 山 らの信頼性及び妥当 性の検討で行われた因子分析 において因子負荷量が

0.6

以上を示 した

27

項 目を 採用 した。気分を説明 した文に対す る回答を 「 まった くない」か ら 「 非常にあ る」までの 5段階で評定を求め,各 0か ら4点を与えて尺度得点を算出 した。

対象者は 3カ月間の運動実践プログラムへの参加者で,教室開始の直前 と終 了直後の各

2

日間ずつの測定会に参加 した者に回答を求めた。いずれの回にお いて も,できるだけその 日の内に回答を終えるよう依頼 したが,一部, 自宅に 持ち帰 った上で回答 し,次回の活動 日に回収された もの もある。

プログラム参加前後での回答状況を比較す ることが 目的であるので,全回答 者の うち,プログラム前後の調査両方に回答 した ものを対象 として以下の結果 を得た。対象 とな った回答者 は,伊王島で

27

名 ( 平均年齢

49.37±6.25

歳)大 島では

28

名 ( 平均年齢

56.14±4.86

歳)の女性

55

名 ( 平均年齢

52.8±5.8

歳)で あった。

伊王島町,大島町共に,プログラム参加後で 「 活性」が有意に増加 し,伊王

(9)

島町では 「 混乱」が有意に減少 した ( 図

6‑6, 7)

せ.一一 百巧 一一

TENS DEP ANG VIG FAT CON

6‑ 6 POMS

各因子得点 ( 平均)の前後比較 ( 伊王島)

・ 一 一・ ・ 〇‑

削 一一 ・・・.・.一 緒

TENS DEP ANG VIG FAT CON

6‑ 7 POMS

各因子得点 ( 平均)の前後比較 ( 大島)

‑ 71‑

(10)

また統計的有意性はないが,大島町では 「 怒 り」と 「 混乱」が,伊王島町で は 「 緊張」が参加期間後に減少する傾向を見せている。運動不足感を訴えるも のはど仕事での精神的ス トレスを強 く感 じているという報告があるが,本報告 での 「 怒 り」や 「 緊張」の低減は,運動習慣の形成 とス トレス感の低減 との関 連の一端を示 している。両町の参加者は 「 混乱

で標準値より高い値を示 して いるものの,プログラム参加前か ら良好なプロフィールを有 してお り, もとも との積極的で活力に富む精神的傾向が,運動習慣の形成を通 じてさらに強化さ れた ものと考え られる。

3 節 「 快適さ」と精神的健康度を高める運動

以上の調査結果より, 1回の運動経験の中で得 られる一過性の身体的,心理 的 「 快適 さ」は,繰 り返 し経験 されることにより強調 され, 日常生活で持続的 に感 じられているス トレス感を低減させる可能性を持つ

ところがスポーツ種 目と

POMS

の変容 との関連 について調べた山本 らは,スキーが 「 抑欝」や

「 攻撃性」を,水泳が 「 緊張」と 「 攻撃性」を低減させるのとは対照的に,ゴ ルフでは 「 緊張」 , 「 抑欝」 ,「 混乱

が増大 し,「 活性

が低減す るという結果 を得た1 2 ) 。前述の調査にもみるように,運動の形態によって強化 される 「 快 適さ」や精神的健康の要因に違いがあるようである。そこで, どの様な運動プ ログラムが継続的運動参加を動機づけ,精神的健康について望ましいかを考察 する必要が生 じる。

健康や豊かな生活への注目と相待 って, レジャー ・スポーツ,健康関連産業 の伸びが著 しい。 レジャーやスポーツによる高揚感,爽快感やス トレス解消は 日常的に経験 され ることであ り, こうした活動への動機づけの大 きな要素 と なっていることは確かである。 しか し,消費者主体のサービスを旨とする商業

クラブにおいてさえ退会率が高 く,会員が定著 しにくい現状 もある。商業 クラ ブの多 くは,個人にあった時間帯で,個人にあったプログラムを提供するよう 組織 されている。 したが って大抵の場合が個人的な活動であり,集団であって

もクラスの構成員 も流動的であると考え られる。 自分に自信が持てず,他者 と

の比較に会 うと緊張が高まるようなス トレス状態では, こうした固定 した対人

(11)

関係のない種 目設定や競争的色合いの薄 い遊戯的種 目によって, 「自己有効 感

や 「 自己評価

を低減させずに 「リラックス感

を高める効果が必要であ ると考え られる。例えば一人のインス トラクターに対 して多数の参加者がいて 個人が埋没で きるよ うな設定のエアロビクスや, フォー ク ・ダ ンス, リラク セーションのクラスなどがあげ られるだろう

「 怒 り」や 「 攻撃性」のス トレスが高まっている状態では,本報告の調査結 果にもみるように,バ レーボールなどの活動量の大 きい種 目,競争的色彩の濃 い種 目が効果的である。

ところが精神的健康のなかで も,さらに社会的関係の豊かさが求め られるよ うな場合,「 社会性

と関わる 「 快適 さ」を増大 させるような,一定の親 しい メンバーが互いに許容 し合い,対人的状況あるいは集団で活動するような形態 が望ましい。従 って,小人数の固定 した参加者による集団競技や,マ ッサージ など身体接触を含むプログラム構成が適すると考え られる。

また別の視点では,チクセ ン トミハイが述べ るように,適度な挑戟により

「自己有効感」や 「自己評価」を高めて行 く 「 快適 さ

Jが存在すると考え られ

る。 このような場合,自分に合 った達成 目標 とこれに適 した計画を立て, 自分 の達成 した事柄を評価 して行 くようなプログラムが必要になる。 これが一般に 身体的 「 運動処方」において推奨 されている事柄 と対応する心理的側面要点で あると考え られる。

このように主たる活動種 目とその設定は様々な対象とその必要性に応 じて選 択 されるのであるが,対象に共通 して考慮すべき事柄は運動後の回復期の扱い である。運動時に一時的に増大す る 「 不安」や 「 疲労感

は,回復期において 急激に低減す る傾向があり, 「リラックス感」は運動直後 より回復期において さらに増大する。心身の機能を高度に興奮 させる主活動の後に, 「 快適さ

を 定着 させ るための時間を十分にとることも運動処方 にとって大切な要素 とな

る。

引用 ・参考文献

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参照

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