第7章 外 国投 資の保護 に関 す る国際法上 の権 利義務
企業法学科 佐古田 彰
第1節 序
一 .今 年 度 報 告 書 の 目的
1.外 国 投 資 の 保 護 を め ぐる 国 際 法 と国 内 法
国 家 が 、 自 国 領 域 内 に お け る 外 国 人 に よ る 投 資(事 業 活 動)を 認 め る か 、 認 め る と して どの よ うな 産 業 分 野 に どの 程 度 認 め る か は 、 そ の 国 の 国 内 法 に よ っ て 定 め られ る 。 事 業 活 動 を 行 う側(投 資 家)か ら見 る な ら、 外 国 で 何 らか の 投 資 を 行 う場 合 に は 、 そ の 国 の 国 内 法 上 の 手 続 に従 い そ の 法 に よ り認 め ら れ る 範 囲 で の み 事 業 活 動 は 許 さ れ る、 とい う こ とで あ る 。 そ の 認 め ら れ る 範 囲 は 、 国 に よ り大 き く異 な り、 あ らゆ る 経 済 分 野 で の 完 全 な 禁 止 か ら、 特 定 の 分 野 で の 禁 止 、完 全 な 投 資 の 自 由 ま で 様 々 で あ る1。 国 際 法 は 、 特 に 条 約 に よ る制 約 が な い 限 り、 こ う い っ た投 資 許 可 に 関 す る 国 の 裁 量 を 認 め て い る 。 こ の こ とは 、 国 家 の 領 域 主 権 か ら の 当 然 の 帰 結 で あ る 。
投 資 さ れ た 財 産 や 事 業 活 動 の 法 的 保 護 、 っ ま り、 例 え ば 契 約 の 相 手 方 が 契 約 を 履 行 しな い と か 、 不 法 行 為 に よ り損 害 が 与 え られ た よ う な 場 合 、 あ る い は 政 府 ・自治 体 が 不 当 な 課 税 を行 っ た と か 不 法 に 国 有 化 ・収 用 を 行 っ た よ う な 場 合 の 法 的 救 済 は 、 第 一 義 的 に は 、 そ の 国 の 法 制 度 の 下 で 確 保 さ れ る。 投 資 家 の 側 か らい え ば 、 例 え ば 相 手 国(投 資 受 入 国)の 裁 判 所 で 相 手 国 の 法 律 に 基 づ き、 紛 争 の 解 決 が 図 られ る と い う こ とで あ る 。 っ ま り こ う い
っ た紛 争 は 、 外 国 人 投 資 家 が 関 係 す る 限 りで 、 国 内法 上 の 紛 争 で あ り、 原 則 と して 、 適 用 法 規 も 国 内 法 で あ り紛 争 解 決 方 法 も 国 内 機 関 で 図 られ る の で あ る2。 こ れ は 、事 業 活 動 を 行 う者 が 通 常 想 定 す る 紛 争 解 決 方 法 で あ っ て 、 そ の 紛 争 当 事 者 で あ る個 人 ・企 業 が 、 自分 の 意 思 と能 力 で そ の 権 利 ・利 益 の 確 保 を 図 る 仕 組 み で あ る 。
しか し、 こ の 外 国 投 資 の 保 護 に 関 して は 、 上 記 の 投 資 許 可 の 場 合 と異 な り、 国 際 法 上 一 定 の 規 則 が 存 在 す る 。 す な わ ち 、 投 資 家 の 本 国(投 資 母 国)は 、 投 資 受 入 国 に 対 し、 そ の
1J .H.JacksonバV。J.Davey!A.0.Sykes,Jr.,LθgalRroblemsofInternationalEeonomieRθlations,3「d ed.(1995),at85;M.Sornarajah,TheInternationa1LawonForeignInvestment(1994),at83,102‑
103.
2佐 古 田 彰 「国 際 紛 争 及 び 投 資 紛 争 の 国 際 法 的 解 決 方 法 」 北 東 ア ジ ア ー サ ハ リ ン 研 究 会 『サ ハ リ ン 石 油 ・
ガ ス 開 発 プnジ ェ ク ト と 北 海 道 経 済 の 活 性 化 』1号(1998年)(以 下 、 佐 古 田 「98年 報 告 書 」 と す る)
81‑83頁 参 照 。
国 内 法 に よ り 自 国 民 の 行 う 外 国 投 資 に 対 して 一 定 の 保 護(待 遇(treatment)と も 言 う) を 与 え る よ う、 国 際 法 上 求 め る こ と が で き る 。 投 資 受 入 国 の 側 か ら言 え ぱ 、 自国 領 域 内 の 外 国 投 資 に 対 し 自 国 国 内 法 に よ り一 定 の 保 護 ・待 遇 を与 え るべ き 義 務 を 負 っ て い る と い う こ と で あ る 。 この こ と は 、 国 際 法 上 確 立 した 原 則 で あ る3。 した が っ て 、投 資 受 入 国 に よ る そ の 保 護 が 不 充 分 な 場 合 、 っ ま り相 手 国 に よ る義 務 の 違 反 が あ る よ う な 場 合 に は 、 投 資 母 国 は 、投 資 受 入 国 に 対 し国 際 法 上 の 責 任 を 追 及 す る な ど の 法 的 手 段 を 講 じる こ とが で き る 。 そ の 場 合 は 、 国 家 間 の 紛 争 で あ る と い う意 味 に お い て 国 際 法 上 の 紛 争 で あ り、 そ の 解 決 手 段 も 国 際 法 上 の紛 争 解 決 手 段 が 用 い られ る こ とに な る4。
こ の よ う に 、 外 国 投 資 の 法 的 保 護 に つ い て は 、 投 資 受 入 国 の 国 内 法 に よ る保 護 と、 そ の 国 内 法 に よ る 保 護 を 義 務 づ け る と い う 意 味 で の 国 際 法 に よ る保 護 とい う、 二 重 構 造 が 認 め られ る 。 国 際 法 は 、 国 家 間 の 権 利 義 務 関 係 を規 律 す る こ と を第 一 の機 能 と して お り、 個 人 (法 人 を 含 む)の 行 為 を 直 接 に規 律 しな い の が 原 則 で あ る 。 同 じ意 味 で 、個 人 財 産 の 侵 害 な ど を 直接 に 救 済 す る こ と も な い 。 外 国 投 資 の 法 的 保 護 に っ い て は 、 こ の よ う な 二 重 構 造 を 前 提 と して 、 そ の よ う な 形 で 、 国 際 法 は 間 接 的 に 外 国 投 資 の 保 護 を 図 っ て い る の で あ る 。
2.今 年 度 報 告 書 の 目 的
で は 、 投 資 母 国 は 投 資 受 入 国 に 対 して 、 自 国 民 の 投 資 に 関 して い か な る 保 護 ・待 遇 を 求 め る こ とが で き、 投 資 受 入 国 は 自 国 領 域 内 の外 国 投 資 に 対 しい か な る 保 護 ・待 遇 を 与 え な け れ ば な ら な い の で あ ろ う か 。 両 国 の 間 に は 、 投 資 保 護 に 関 して どの よ う な 権 利 義 務 関 係 が 存 在 す る の で あ ろ う か 。 そ の 一 般 論 を 明 らか に す る こ とが 、 本 稿 の 第 一 の 目的 で あ る 。 第2節 で は 、 こ の 問 題 を 取 り扱 う 。
しか し本 研 究 会 に と って 、 日 ロ 関 係 とい う特 定 の 問 題 状 況 が 最 も重 要 な 課 題 で あ る 。 つ ま り、 わ が 国 国 民 ・企 業 に よ る ロ シ ア に お け る 投 資 ・事 業 活 動 に 関 して 、 わ が 国 は 、 ロ シ ア 連 邦 に 対 して 国 際 法 上 い か な る 保 護 ・待 遇 を 求 め る こ と が で き る の で あ ろ うか 。 こ れ を 示 す こ とが 、 本 稿 の 第 二 の 、 そ して 最 も 重 要 な 目的 で あ る 。 第3節 は 、 こ の 目的 に 資 す る
も の で あ る 。
と こ ろ で 、 昨 年1998年11月 に 、 日 ロ 間 の 投 資 問 題 を包 括 的 に 規 律 す る 「日 ロ投 資 保 護 協 定 」5が 締 結 さ れ た 。 そ の 発 効 に 向 け て 、 現 在 日本 側 の 批 准 手 続 が 終 了 して お り、 ロ シ ア 側 の 手 続 を待 つ だ け と な っ て い る 。 こ の 協 定 は 、 そ の 名 称 の 示 す 通 り、 投 資 の 法 的 保 護 と
31970年 「バ ル セ ロ ナ トラ ク シ ョ ン事 件 」 国際 司 法 裁 判 所(ICJ)判 決 は
、 次 の よ う に 述 べ る 。 「国 が 、 外 国 投 資 な い し外 国 人(自 然 人 か 法 人 か を 問 わ な い)を 自 国領 域 に受 け入 れ る場 合 、そ の 国 は 、そ の 外
国 投 資 ・外 国 人 に ま で 法 の 保 護 を広 げな けれ ば な らず 、ま た そ れ ら に与 え られ る待 遇 に 関す る 義務 を負 う。 」ICJReρorts197a,3,at32,para.33.こ の 事 件 に つ い て は 、佐 古 田 「98年 報 告 書 」98頁 注68。
4佐 古 田 「98年 報 告 書 」81 ‑82頁 。 国 際 法上 の 紛 争 解 決 手 段 につ い て 、 同83‑93頁 。 5正 式 名 称 「投 資 の促 進 及 び 保 護 に 関 す る 日本 国政 府 とロ シア 連 邦 政 府 との 間 の 協 定 」。
い う我 々 の 研 究 に と っ て 最 も重 要 な 法 的 文 書 で あ る 。 しか し、 こ の 協 定 の 字 面 を 追 っ て み て も、 そ の 意 味 す る と こ ろ は ほ とん ど分 か らな い 。 こ の 一 つ 一 つ の 条 文 が 、100年 以 上 の 国 際 社 会 の 経 験 、 つ ま り幾 度 とな く繰 り返 さ れ て き た 国 家 間紛 争 と数 多 くの 判 決 及 び 学 説 論 争 の 積 み 重 ね の 上 に 成 り立 っ て い る た め 、 そ の 積 み 重 ね を 丹 念 に 検 証 しな け れ ば 、 条 文 の 正 確 な 理 解 は で き な い の で あ る 。 した が っ て 、 上 述 の 第 一 の 目 的 で あ る一 般 論 の 理 解 の 上 に 、 第 二 の 目的 で あ る 日 ロ 関 係 とい う 各 論 が 位 置 づ け ら れ る こ と に な る 。 も と よ り本 稿 で そ の す べ て を 取 り上 げ る こ と は で き な い 。 そ の 骨 格 とな る 部 分 を 紹 介 し よ う と 思 う。
昨 年 の 「98年 報 告 書 」 で は 、 こ う い っ た投 資 紛 争 が 生 じた 場 合 ど の よ う な 解 決 方 法 が 国 際 法 上 用 意 さ れ て い る の か とい う こ と に 焦 点 を 当 て 、 国 際 紛 争 の 解 決 方 法 の 一 般 論 を 交 え つ つ 、 特 に 日 ロ 間 の 投 資 紛 争 を念 頭 に 置 い て 、 ま と め て み た 。 今 年 度 報 告 書 は 、 こ の 外 国 投資の保護 に関する国際法上の権利義務 の一般論 を示 しつつ、特 に日ロ関係 において具体 的 に ど の よ うな 権 利 義 務 関 係 が 設 定 さ れ て い る の か を 明 らか に す る も の で あ る6。
二.本 稿 の 対 象
6本 稿 で は、 「98年 報 告 書 」 と異 な り、 紙 数 の 関係 上 条 文 の 再 録 は 最 小 限 に と ど め た 。 しか し、 条 約 規 定 を よ り正 確 に理 解 す るた め に は、 条 文 で そ の 内 容 を確 認 す る こ とが 好 ま しい 。条 約 の 条 文 の 入 手 は、
通 常 の 日 本 の 国 内法 令 と異 な る特 別 な 知 識 が 必要 で あ る た め 、こ こで 条 約 の条 文 の 入 手 方 法 に つ い て 紹 介 して お く。
国 連 憲 章 や 人 権 規 約 とい った 重 要 な条 約 は 市 販 の 六 法 に も掲 載 され る が 、日米 通 商航 海 条 約 、ガ ッ ト とい っ た 多 少 専 門 的 な 条 約 は、 大 学 講 義 の教 材 と して 用 い られ る市 販 の 『条 約 集 』 に 掲 載 さ れ る。市 販 の 通 常 の条 約 集 と して は 、 小 田 滋=石 本 泰 雄 編 集 代 表 『解 説 条 約 集 』(三 省 堂 、数 年 に1度 改 訂)、 山 本 草 二 編 集 代 表 『国 際 条 約 集 』(有 斐 閣 、毎 年 改 訂)、 田畑 茂 二 郎=高 林 秀 雄 編 集 代 表 『べ 一 シ ッ ク条 約 集 』(東 信 堂 、数 年 に1度 改 訂)が あ る。 ま た 、本 稿 で扱 う よ うな 国 際経 済 法 関係 の 専 門 の 条 約 集 と して、 金 田近 二 編 『国際 経 済 条 約 集 』(ダ イヤ モ ン ド社 、1965年 、絶 版)、 高 野 雄 一=小 原 喜雄 編 『国 際 経 済 条 約 集 』(有 斐 閣 、1983年)、 小 原 喜 雄=山 手 治 之=小 室 程 夫 編 『国 際 経 済 条 約 ・法 令 集 』(東 信 堂 、1997年)が あ る。 これ ら市 販 の条 約 集 は 編 者 の 方針 に よ り掲 載 さ れ る条 約 が 異 な り、 また 日本 が 批 准 して い な い 条 約(EU条 約 な ど)や 国 連 総 会 決 議 の 訳 は 編 者 側 の私 訳 で 訳 語 が 異 な る こ とに 注 意 が 必 要 で あ る 。な お 、 特 に 日 ソ関 係 にっ い て は 、茂 田 宏=末 澤 昌 二 編 『日 ソ基 本 文 書 ・資料 集 』(世 界
の 動 き社 、1988年)と い う資 料 集 も あ る。
こ う い った 市 販 の 条 約 集 とは 別 に、外 務 省 が そ の 年 に発 効 した す べ て の 条 約 を掲 載 した 、外 務 省 条 約 局 『条 約 集(○ ○ 年 二 国 間 条 約)』 『(○ ○ 年 多 数 国 間 条 約)』 が 毎 年 発 行 され て い る。 これ は 本 稿 で も しば しば引 用 して い る 。た だ しこれ は 発 行 に数 年 か か る。 これ よ りも新 しい もの につ い て は、 『法 令 全 書 』 か条 約 が 公 布 さ れ た 日の 『官 報 』 で入 手 す る こ とに な る。 こ れ ら公 の 機 関 に よ る もの は 、英 語 文 な ど 日本 語 文 以 外 の 正 文 も掲 載 され て い る。 こ う い った 日本 語 文 以 外 の条 約 文 の 持 つ 意 味 につ い て は 、 本 文 で 後 に触 れ て い る 。 な お 、 これ らに 記 載 され る の は 当然 日本 が批 准 した条 約 に限 られ る。
日本 が 批 准 して い な い条 約 で 日本 の市 販 の 条 約 集 に も掲 載 され て い な い よ うな 条 約 に つ い て は、外 国 で 出 版 され た 条 約 集 を使 う。英 語 版 、仏 語 版 、独 語 版 な ど各 国 ご とに あ る。 ま た 、InternationalLegal Materials(1.LM)と い う商 業 雑 誌(年6回 発 行)に も 最 新 の 条 約 が 多 く掲 載 さ れ て い る 。更 に 、 国 連 に登 録 さ れ た 条 約(国 連 憲 章102条 参 照)は 、 国 連 の 発 行 す るTreatySeriesと い う条 約 集 に掲 載 さ れ 、膨 大 な 冊 数 に上 る。これ は 、最 近 イ ン タ ー ネ ッ トで も利 用 で き る よ うに な っ た 。<http:〃www.un.org/
Depts!Treaty!enter.htm>
これ らの うち 、 こ こ数 年 分 の 法 令 全 書 と外 務 省 条 約 集 の 一 部 、 国連TreatySeries以 外 は 、 商 大 図 書 館 に所 蔵 さ れ て い る。 うち い くつ か は 、 本 研 究 会 研 究 費 で購 入 した も の で あ る。
本 稿 の 対 象 は 、外 国 投 資 の 保 護 に 関 す る 国 際 法 上 の 実 体 規 則 で あ る7。そ の こ と を踏 ま え 、 次 の5点 に 留 意 して も ら い た い 。
第 一 に 、 投 資 に 関 す る 国 内 法 は 対 象 で な い 。 本 稿 は 、 ロ シ ア 国 内 で の 事 業 活 動 に 関 す る ロ シ ア 法 を 紹 介 す る も の で は な く、 ま た 、 外 国 投 資 を 行 う 日本 企 業 の 活 動 を 規 律 す る 日本 法 を扱 う も の で な い 。 同 じ く、 投 資 促 進 の た め な ど の 様 々 な 日 ロ の 法 制 度(例 え ば 貿 易 保 険 法)も 取 り扱 わ な い 。
第 土 に 、 貿 易 に 関 す る 国 際 法 を 対 象 と して い な い 。 貿 易 に 関 す る 国 際 法 と投 資 に 関 す る 国 際 法(国 際 投 資 法)は 、 全 く無 関 係 で は な く、 貿 易 の 問 題 を 規 律 す るWTO(世 界 貿 易 機 関)協 定 に お い て も投 資 の 問 題 が 規 律 さ れ る 部 分 が あ る8。 ま た 、2000年 か ら始 ま る WTO次 期 貿 易 交 渉 の 対 象 と して 、 投 資 ル ー ル が 追 加 さ れ る 方 向 が 強 ま っ て い る と報 道 さ れ て い る9。 しか し、 こ う い っ た投 資 と貿 易 の 関 連 性 は 、投 資 保 護 に 関 す る原 則 的 な 規 則 か ら離 れ 、 最 新 の 論 点 で あ り、 加 え て 立 法 論 的 な 意 味 合 い が 強 く、 日 ロ投 資 問 題 を論 じ る に 当 た っ て は か な り細 か い 話 に な る こ とか ら、 本 稿 で は 、 投 資 の 問 題 に 限 定 して 説 明 す る 。 第 三 に 、 間 接 投 資 を 対 象 と して い な い 。 一 般 に投 資 は 直 接 投 資(事 業 活 動 な ど)と 間 接 投 資(証 券 へ の 投 資 な ど)に 区 別 さ れ るlo。 通 常 、 国 際 投 資 法 の 対 象 と して 論 じ られ る の は 、 直 接 投 資 で あ る 。 ま た 、 投 資 家 とい っ た 場 合 、 事 業 活 動 を 行 う者 の 意 味 で あ る 。
第 四 に 、 投 資 の 自 由 化 、 つ ま り投 資 許 可 の 問 題 も 、 そ れ 自体 と して 扱 っ て い な い 。 投 資 保 護 は 、 す で に 国 内 に 投 下 さ れ た 財 産 等 の 保 護 を意 味 す る の に 対 し、 投 資 の 自 由化 は 、 国 外 に あ る 財 産 の 国 内 へ の投 下 を 広 く認 め る と い う も の で あ る 。 伝 統 的 に 国 際 投 資 法 が 取 り 上 げ て き た の は 投 資 保 護 の 問 題 で あ っ た が 、 最 近 、 投 資 の 自 由化(投 資 許 可)の 問 題 が 注
目 さ れ る よ う に な っ て い るll。 こ こ で は 投 資 保 護 との 関 連 で の み 、 こ の 問 題 を取 り上 げ る 。 最 後 に 、 投 資 保 護 に 関 す る 実 体 規 則 以 外 の 国 際 法 制 度 を 扱 っ て い な い 。 例 え ば 、 多 数 国 間 投 資 保 証 機 関(MIGA)12も 、 投 資 に 関 して は 重 要 な 国 際 法 制 度 で あ る が 、 投 資 保 護 そ の も の で は な い た め こ こ で は 取 り上 げ な い 。 ま た 、 投 資 紛 争 の 解 決 方 法 に つ い て は98年 報 告 書 を 参 照 して も ら い た い 。 た だ し、 日 ロ投 資 保 護 協 定 に お け る紛 争 解 決 方 法 は98年 報 告 書 で 扱 って い な い た め 、 今 回 取 り扱 っ た 。
7佐 古 田 「98年 報 告 書 」79頁
8河 合 弘 造 「貿 易 と投 資 に 関 す る 議 論 の 現 状 」 『日 本 国 際 経 済 法 学 会 年 報 』6号(1997年)224 。 ‑228頁;
T.LBrewer1S.Young,"lnvestmentIssuesattheWTO",1JournalOflntθrnationalEeonomieLaw (1998),457,
9『 日本 経 済 新 聞 』1999年5月13日 付 朝 刊 lo松 下 満 雄 『国 際 経 済 法(改 訂 版)』(有 斐 閣 。
、1996年)275頁 、 櫻 井 雅 夫 『国 際 経 済 法(新 版)』(成 文 堂 、1997年)74頁 。 ま た 、Sornarajah,確 ρ畑note1,at4ff.参 照 。 わ が 国 で の 直 接 投 資 と 間 接 投 資 の 定 義 ・取 り扱 い は 「外 国 為 替 及 び 外 国 貿 易 管 理 法 」 等 の 関 連 法 令 に よ る 。 こ れ に つ い て は 、 松 下 『同 上 書 』291頁 以 下 、 櫻 井 『同 上 書 』74頁 以 下 参 照 。 ま た 、 多 国 籍 企 業 論 の 観 点 か ら 見 た 直 接 投 資 の 意 味 に つ い て 、 本 報 告 書 關 智 一 執 筆 部 分 を 参 照 の こ と 。
ll森 川 俊 孝 「投 資 の 自 由 化 と 多 数 国 間 投 資 条 約 ・上 」 『貿 易 と 関 税 』46巻5号(1998年)19頁 。 12MIGAに つ い て は 、櫻 井 『前 掲 書 』(注10)227‑231頁 。ま た 、MIGAの ホ ー ム ペ ー ジ<http:〃www.miga.
org/>.
第2節 外国投資の保 護に関する国際法上の実体 規則
一 .概 説
1.投 資 保 護 を め ぐる 問 題 の 焦 点
歴 史 的 に見 る と 、 外 国 投 資 が 対 外 貿 易 と結 び つ き重 商 主 義 政 策 の 一 環 と して 行 わ れ た 時 期(16〜18世 紀)は 、 国 際 法 上 、 国 家 活 動 と企 業 活 動(植 民 会 社)と の 概 念 上 の 峻 別 は み られ な か っ た13。 両 者 が 区 別 さ れ る よ う に な っ た の は 、18世 紀 後 半 か ら19世 紀 の 国 民 国 家 に よ る 古 典 的 経 済 自 由 主 義 の 時 代 に 入 っ て の こ とで あ る 。 そ して 国 際 法 の 関 与 も、 私 企 業 活 動 そ れ 自体 に 対 して で は な く、上 述 の よ う な 間 接 的 な 形 に 限 定 さ れ る よ う に な っ た14。
そ の 具 体 的 な 形 態 は 、 当 該 地 域 に 存 在 す る統 治 団 体 の 法 制 度 が 文 明 国(civilizednations) の 基 準 を 満 た さ な い と して 国 際 法 主 体 性 を 否 定 し た植 民 地 制 度 、 そ の 統 治 団 体 を 国 際 法 主 体(文 明 国)と して 認 め つ つ も や は りそ の 法 制 度 の 未 熟 さ を 理 由 に相 手 国 に よ る 自 国 民 に 対 す る 裁 判 権 の 行 使 を 否 定 し た領 事 裁 判 制 度15、 そ して 、 外 交 的 保 護 権16の 三 者 で あ る 。
前 二 者 は 、 自国 民 の 身 体 ・財 産 の 保 護 を 自国 法 に よ り確 保 す る とい う仕 組 み で あ り17、
今 日で は 国 際 法 上 正 当 化 さ れ な い 。 しか し、 こ れ らの 国 際 法 制 度 は 、 い ず れ も相 手 国 法 制 度 が 未 熟 で あ る(と 投 資 母 国 が 認 識 した)場 合 に 、 投 資 母 国 が 自 国 民 の 身 体 ・財 産 の 安 全 を い か に して 確 保 す るか と い う 観 点 か ら考 案 さ れ た 制 度 で あ る 。 こ こ に 投 資 保 護 の 問 題 の 焦 点 が あ る 。 つ ま り、 相 手 国 の 領 域 内 に い る 自国 民 の保 護 は 原 則 と して 相 手 国 国 内 法 に委 ね られ る とい う こ と を前 提 に した 上 で 、 そ の 自国 国 内 法 の 保 護 水 準 と相 手 国 国 内 法 の保 護 水 準 の 間 隙 を ど の よ う に して 埋 め る の か とい う こ と で あ る 。 以 下 で 見 る 、 投 資 保 護 に 関 す る様 々 な 国 際 法 規 則 は 、 ま さ に こ の 点 を め ぐる 投 資 母 国 と投 資 受 入 国 の 間 の 、 互 い の 国 益 の ぶ つ け 合 い 中 か ら形 成 さ れ て き た の で あ る18。
2.外 国投資の保護 に関する国際法の実体規則 の概要
13山 本 草 二 「企 業 の 国 際 化 と 国 際 法 の 機 能 」 『政 治 経 済 論 叢(成 瞑 大 学)』17巻3・4号(1968年)167
‑168頁 。 ま た 、 当 時 の 東 イ ン ド会 社 の 行 為 は 国 家 の 行 為 と 完 全 に 同 化 さ れ る と し た1928年 「パ ル マ ス 島 事 件 」 常 設 仲 裁 裁 判 所 判 決(2ReρortsOflnternationa1Arbitra1Awards,829,at858)参 照 。 こ の 事 件 に つ い て 、 佐 古 田 「98年 報 告 書 」101頁 注74。
14山 本 「同 上 論 文 」168‑169頁
。
15領 事 裁 判 制 度 に つ い て 、 佐 伯 富 樹 「領 事 裁 判 」 国 際 法 学 会 編 『国 際 関 係 法 辞 典 』(三 省 堂 、1995年) 791頁 。
16外 交 的 保 護 権 に つ い て
、 佐 古 田 「98年 報 告 書 」95‑99頁 。
17松 田 竹 男 「現 代 国 際 法 に お け る 在 外 自 国 民 の 保 護 」 松 井 芳 郎=木 棚 照 一=加 藤 雅 信 編 『国 際 取 引 と 法 (山 田 錬 一 教 授 退 官 記 念)』351‑352頁 。
181 .Brownlie,llrineiplθsOfPtiblicInternationalLaw,5thed。(1998),at524,
外 国投 資 の 保 護 に 関 す る 国 際 法 の 実 体 規 則 と して 、 ま ず 、 国 際 慣 習 法 上 の 規 則 が あ る 。 こ の 慣 習 法 規 則 は 、 自 国 領 域 内 の 外 国 人 の 身 体(生 命 を含 む)及 び 財 産 に対 す る領 域 国 の 保 護 義 務 、 とい う形 で 発 展 して き た 。 そ の 外 国 人 財 産 の保 護 とい う点 が 投 資 保 護 と結 び つ くの で あ る が 、 投 資 保 護 の た め に は そ の 生 命 ・身体 の 保 護 が 大 前 提 で あ り、 そ の 意 味 で 身 体 ・財 産 の 保 護 は 一 つ の 慣 習 法 規 則 と して 形 成 さ れ て き た の で あ る 。
こ の 慣 習 法 規 則 を 基 礎 と しつ つ 、 こ れ を確 認 あ る い は こ れ に 上 乗 せ す る 形 で 、 通 商 航 海 条 約 が 締 結 さ れ る 。 通 商 航 海 条 約 は 、 相 互 に 国 民 が 行 き来 し貿 易 及 び 投 資 を 行 う た め の 二 国 間 の経 済 関 係 を 規 律 す る 基 本 的 な 法 的枠 組 み を 設 け る も の で あ る。 した が っ て 、 慣 習 法 規 則 と 同 じ く、 身 体 及 び 財 産 の 保 護 が 規 定 さ れ る が 、 特 に 財 産 保 護 に 重 き が 置 か れ る 。
更 に 、 第 二 次 大 戦 後 、 二 国 間 投 資 保 護 協 定(BilateralInvestmentTreaty;BIT)が 締 結 さ れ る よ う に な っ た 。 これ は そ の 名 称 が 示 す よ う に、 投 資 保 護 に 特 化 した 条 約 で あ る 。 前 述 の 「日 ロ 投 資 保 護 協 定 」 が これ に あ た る 。
他 方 、 こ う い っ た 二 国 間 で の 法 的 枠 組 み と は 別 に 、 投 資 問 題 を 規 律 す る こ と を 目的 と す る 多 数 国 間 条 約 の 作 成 が 、 戦 後 直 後 か ら(例 え ば1948年 国 際 貿 易 機 関 憲 章19)こ れ まで 何 度 も 試 み られ て き た 。 しか し、 そ の 試 み は 、 地 域 間 経 済 協 力 を 除 き、 い ず れ も 失 敗 に終 わ っ て い る。最 近 で も、98年 報 告 書 で も取 り上 げ た 多 数 国 間 投 資 協 定(MAI)の 作 成 交 渉 は 、 昨 年12月 に 中止 が 正 式 に 決 定 さ れ た20。 しか し、 同 じ く98年 報 告 書 で 紹 介 した1994年
「エ ネ ル ギ ー 憲 章 条 約 」 は98年4月 に 発 効 し、 ま た 昨 年11月 に ア ジ ア 太 平 洋 経 済 協 力 (APEC)に ロ シ ア 連 邦 が 正 式 加 盟 す る な ど、二 国 間 関 係 に と ど ま ら な い 動 き が 、 日 ロ の 投 資 環 境 を め ぐ り徐 々 に で は あ る が 進 み つ つ あ る 。
以 上 が 、 投 資 保 護 に 関 す る実 体 規 則 の 大 枠 で あ る 。 以 下 で は 、 こ れ らを 順 に取 り脳上 げ る が 、 多 数 国 間 の 枠 組 み に つ い て は 、 日 ロ 間 の 投 資 聞 題 を扱 う と い う本 研 究 会 の 目的 及 び 紙 数 の 関 係 上 、 エ ネ ル ギ ー 憲 章 条 約 の み を紹 介 す る こ と と す る 。
二.国 際 慣 習 法
1.自 国 領 域 内 の 外 国 人 保 護 の 義 務
(1)自 国領域内外国人保護義務の実定性
19国 際 貿 易 機 関 憲 章 は
、 目的 の 一 つ に投 資 の た め の 資 本 の 国 際 的 移 動 の奨 励 が あ っ た(1条2項)。 そ の た め の 具 体 的 な 規 定 が 、11条 の 一部 と12条 で あ る 。
20『 日本 経 済 新 聞 』1998年12月5日 付 朝 刊
。 交 渉 が 成 功 しなか っ た理 由 に つ い て 、 映 画産 業 の 保 護 ・ 育 成 を して い る フ ラ ンス が ハ リウ ッ ド資 本 に よ る ア メ リカ 文 化 の 侵 食 を 嫌 っ た こ と、及 び 、環 境 保 護 団 体 がMAIに 大 反 対 を した こ と が 挙 げ られ て い る(『 朝 日新 聞 』1999年2月18日 付 朝 刊)。 ま た 、 小 寺 彰 「多 数 国 間投 資 協 定(MAI)一 投 資 自 由化 体 制 の 意 義 と課 題 一」 『日本 国 際 経 済 法 学会 年 報 』7号
(1998年)1‑2頁 参 照 。
国 家 は 、 外 国 人 の 入 国 を認 め る か ど うか 、 ま た 国 内 で 経 済 活 動 を 認 め る か に つ い て 広 範 な 裁 量 を 持 つ(国 内 管 轄 事 項(amatterofdomesticjurisdiction))21。 しか し、 一 旦 自 国 領 域 内 に 外 国 人 を 受 け 入 れ 、 国 内 で の 事 業 活 動 を 認 め た 場 合 に は 、 そ の 国 は 、 自 国 領 域 内 の 外 国 人 の 身 体 及 び 財 産 に 対 し、 一 定 の 保 護 を 与 え な け れ ば な らな い 。 こ の 保 護 義 務 が 国 際 慣 習 法 上 確 立 し て い る と い う こ とは 、 判 例 、 学 説 上 も 異 論 な く認 め られ て い る22。
領 域 国 ・投 資 受 入 国 は 、 そ の 外 国 人 に対 し国 際 法 の 要 求 す る 一 定 水 準 の 保 護 を 与 え な い 場 合 に は 、 そ の 外 国 人 の 本 国 に よ っ て 、 国 際 違 法 行 為 を 行 っ た と して 国 際 法 上 の 責 任 が 追 及 され う る(外 交 的 保 護 権 の 行 使)。 外 交 的 保 護 権 は 、 結 果 に お い て 、 国 家 権 力 の 庇 護 の も と に 自国 資 本 の 海 外 進 出 を 図 る だ け で な く、 文 明 国 ・先 進 国 に と っ て 、 自国 民 に 対 し、 現 地 国 民 以 上 の 保 護 と い う特 権 を付 与 す る よ う、 投 資 受 入 国 に 強 制 す る役 割 を有 し た23。
こ の 慣 習 法 上 の 義 務(「 相 当 の 注 意 」 義 務(dutyof"duediligence")と 言 わ れ る こ と も あ る)に 違 反 し た と して こ れ ま で 国 の 責 任 が 問 題 と な っ た 事 例 の 多 くは 、 こ う い っ た 国 内 に い る 外 国 人 ・外 国 財 産 を め ぐっ て の 争 い で あ っ た24。 そ れ だ け 、 そ の 保 護 に 関 す る 国 際 法 規 則 を め ぐ り多 くの 判 例 、 国 家 実 行 及 び 学 説 の 蓄 積 が あ る25。
(2)義 務 の 内 容
(a)保 護 の 程 度
領 域 国 ・投 資 受 入 国 が 外 国 人 に 対 して 与 え な け れ ば な らな い 保 護 の 程 度 に つ い て 、 国 際 標 準 主 義(internationalminimumstalldard)と 国 内標 準 主 義(11ationalstandard)の 対 立 が あ る26。 前 者 は 、 保 護 の 程 度 は 先 進 国 と同 レ ベ ル に す べ き で あ る と い う考 え 方 で あ
り、 言 う ま で も な く先 進 国 側 の 立 場 で あ る 。 こ れ に 対 し後 者 は 、 保 護 の 程 度 は 自 国 民 と 同 程 度 で あ れ ば 足 り る とい う考 え 方 で あ り、 これ は 途 上 国 及 び 社 会 主 義 国 の 主 張 す る 立 場 で あ る 。 こ の 対 立 は 、19世 紀 か ら20世 紀 初 頭 に か け て 西 欧 列 強 とラ テ ン ア メ リカ 諸 国 との 問 で 生 じ、 ま た1960年 代 か ら70年 代 に か け て 、後 述 の外 国 人 資 産 の 国 有 化 ・収 用 を め く』
り先 進 国 とア ジ ア ・ア フ リカ 諸 国 ・社 会 主 義 国 と の 間 で 再 燃 した 、 か な り根 の 深 い 争 点 で
21Brownhe
,suρranote18,at522;Opρ θnheim'sIntθrnatゴonalLavv,9thed.,voLI,Peace(byR.
JenningsandA.Watts),(1992),at897‑898,904‑906.
22山 本 草 二 『国 際 法(新 版)』(有 斐 閣
、1994年)516頁 、opPenheim,ibid.,at910‑911;前 記 「パ ル マ ス 島 事 件 」判 決(注13)。 特 に 投 資 保 護 に 関 し て 、前 記 「バ ル セ ロ ナ ト ラ ク シ ョ ン 事 件 」判 決(注3)。
23桜 井 雅 夫 『国 際 投 資 法 の 研 究 』(ア ジ ア 経 済 研 究 所
、1968年)19頁 。 24Brownlie
,supranote18,at522.
25そ の 判 決 を 大 量 に 紹 介 し た も の と して
、 波 多 野 里 望=東 壽 太 郎 編 『国 際 判 例 研 究 国 家 責 任 』(三 省 堂 、1990年)が あ る 。 な お 、 こ こ で は 紹 介 す る 余 裕 が な い が 、 こ れ ま で 慣 習 法 規 則 の 法 典 化 ・定 式 化 を 試 み た 作 業 が 、 様 々 な 場 で 繰 り返 し行 わ れ て き た 。 そ の 膨 大 な 作 業 は 、 学 問 的 に 大 き な 価 値 が あ る 。 26Akθhurst'sModernIntroduetiontoInternationalLaw
,7thed.(byP.Malanczuk),(1997),at260;
Brownlie,suρranote18,at526‑531.ま た 、 小 畑 郁 「国 際 標 準 主 義 」 「国 内 標 準 主 義 」 『国 際 関 係 法
辞 典 』(注15)281頁 及 び310頁 。
あ る27。 この 対 立 に つ い て は 、 本 稿 で 後 に何 度 か 触 れ る。
こ の よ う に そ の 保 護 の 程 度 に っ い て 各 国 で 意 見 の 一 致 は 見 られ な い が 、 一 般 に、 国 際 裁 判 で は 国 際 標 準 主 義 が 適 用 さ れ る と言 わ れ て い る28。 い ず れ に せ よ、 少 な く と も、 こ こ で の 争 い は 、 国 内標 準 、 つ ま り自 国 民 と同 じ程 度 の 保 護 を 与 え る べ き義 務 が あ る こ と が 前 提 で あ り、 そ れ 以 上 の 保 護 義 務 の 有 無 を め ぐ る 見 解 の 対 立 とい う こ とで あ る 。
(b)保 護 の 内 容
国 家 は 、 自 国領 域 内 の 外 国 人 の 身 体 ま た は 財 産 に危 害 が 加 え られ な い よ う に 事 前 に 防 止 し、 危 害 が 加 え られ た 場 合 に は 、 事 後 に そ の 行 為 者 を 逮 捕 ・処 罰 し、 及 び 行 為 者 の 賠 償 責 任 を追 及 し う る よ う 国 内 手 続 を被 害 者 に利 用 さ せ な け れ ば な ら な い29。 言 い か え る と、 刑 事 事 件 の 場 合 は 事 前 の 防 止 義 務 及 び 事 後 の 逮 捕 ・処 罰 義 務 、 民 事 事 件 に つ い て は 、 事 後 的
な 救 済 手 続 の 提 供 義 務 、 と い う こ とで あ る 。
した が っ て 、 少 な く と も 自国 民 と 同程 度 の 保 護 が 与 え られ る と い っ て も 、 選 挙 権 とい っ た 政 治 的 権 利 は も と よ り、 土 地 ・船 舶 ・航 空 機 な ど の 所 有 権 、労 働 権 、特 殊 な 産 業 分 野(軍 事 産 業 、 運 輸 産 業 、 通 信 産 業 、 金 融 産 業 な ど)で の 営 業 の 自 由 、 専 門 的 な 職 種 な ど は 、 外 国 人 に 対 して 制 限 を課 す こ とが で き る30。 ま た 、 こ の 義 務 は 自 国 領 域 内 に 所 在 す る 外 国 人
の保 護 の 義 務 で あ る か ら、 自国 領 域 外 の 外 国 人 ま で は 保 護 の 対 象 に な らな い 。
我 々 に と っ て よ り関 心 が あ る の は 、 民 事 救 済 に つ い て で あ る 。 これ に つ い て 、 も う 少 し 詳 し く見 て み よ う 。 冒 頭 で 述 べ た よ う に 、 外 国 投 資 家 は 、 そ の 財 産 に 何 らか の被 害 を 受 け
た 場 合 、 ま ず 、 裁 判 所 そ の 他 の 救 済 機 関 に お い て 、 自 己 の 権 利 の 実 現 を 主 張 しあ る い は 損 害 の 賠 償 を 求 め る の が 基 本 で あ る 。 領 域 国 は 、 慣 習 法 上 の 義 務 と して そ の た め の 手 続 を 用 意 しな け れ ば な ら な い 。 しか し逆 に 、 そ の 手 続 が 進 め られ て い る段 階 で は 、 被 害 者 の 本 国 は 外 交 的 保 護 権 を 行 使 す る こ と が で きな い(国 内 的 救 済 の 原 則)31。 こ う い っ た 救 済 手 続 が 国 際 法 の 要 求 す る 内 容 を 満 た さ な い 場 合 は 、 特 に 「裁 判 拒 否(denialofjustice)」 と呼 ば れ 、 国 際 違 法 行 為 を構 成 す る32。 例 え ば 、 外 国 人 で あ る と い う理 由で そ の 訴 え が 拒 否 さ れ る場 合 、 裁 判 手 続 が 著 し く不 正 規 で あ る 場 合(外 国 人 で あ る こ と が 理 由 で 不 当 に 審 理 や 判 決 が 遅 延 さ れ る な ど)、裁 判 の 判 決 が 明 白 に 不 当 で あ る 場 合 、裁 判 所 が 買 収 さ れ た 場 合 な ど が こ れ に あ た る33。 こ の 点 に つ い て も、 国 際 標 準 主 義 と国 内標 準 主 義 の 対 立 が あ る34。
27Akehurst
,ゴゐゴd.,at260‑261.
28Akehurst
,ゴbid.,at260;D.J.Harris,(]asesandMateria7sonInternationa1Law,5thed.(1998),at 523。
Akehurst,理 ρ畑note26,at259;田 畑 茂 二 郎 『国 際 法1(新 版)』(有 斐 閣 、1973年)417頁 参 照 。 Harhs,suρranote28,at520;Brownhe,supranote18,at522.
国 内 的 救 済 の 原 則 に つ い て は 、 佐 古 田 「98年 報 告 書 」98‑99頁 。 薬 師 寺 公 夫 「裁 判 拒 否 」 『国 際 関 係 法 辞 典 』(注15)363頁 。 Akehurst,supranote26,at261;田 畑 『前 掲 書 』(注29)435頁 。
4田 畑 『同 上 書 』436頁 、 薬 師 寺 「裁 判 拒 否 」(前 掲 注32)363頁 。 本 稿 で は 詳 し く取 り上 げ な い が 、
生 命 ・身 体 の 保 護 、財 産 権 の 保 護 、 裁 判 手 続 の 保 障 と い っ た 問 題 は 国 際 人 権 法 の 主 要 な 関 心 事 で あ る こ
以 上 が 自国 領 域 内 外 国 人 保 護 義 務 の 概 略 で あ る が 、 こ の 義 務 の 特 殊 な 類 型 と して 、 経 済 開 発 協 定 の 一 方 的 破 棄 と外 国 資 産 の 国 有 化 ・収 用 の 問 題 が 、 国 際 法 上 特 別 の 論 点 を 形 成 し て い る 。 こ こ で 項 を 改 め て こ の 問 題 を取 り上 げ た い 。
2.経 済 開 発 協 定 の 一 方 的 破 棄 と外 国 資 産 の 国 有 化 ・収 用
(1)背 景 と法 的 争 点
第 二 次 大 戦 後 、外 国 人 財 産 の 保 護 に 関 して 実 際 に 多 くの 国 際 紛 争 を 発 生 さ せ た の が 、「経 済 開 発 協 定 」 の 一 方 的 破 棄 及 び そ れ に 続 く外 国 資 産 の 国 有 化 ・収 用 とい う特 定 の 問 題 状 況 で あ っ た 。 途 上 国 に お い て 、 石 油 資 源 な ど 天 然 資 源 の 開 発 ・販 売 は 、 途 上 国 政 府 と先 進 国 企 業 の 間 で 締 結 さ れ た 契 約(経 済 開 発 協 定(economicdevelopmentagreement)35)に よ り、先 進 国 企 業 に独 占 的 に 委 ね ら れ 、ま た 石 油 関 連 施 設 な ど天 然 資 源 開 発 に 関 す る 施 設 も、
従 前 は 先 進 国 企 業 の 所 有 ・経 営 で あ る こ と が 多 か っ た 。そ して 、そ の 状 態 を 維 持 した の が 、 外 交 的 保 護 権 の 制 度 で あ っ た 。 経 済 開 発 協 定 は 、 途 上 国 側 か ら見 れ ば 、 こ の よ う に先 進 国 に 対 す る経 済 的 従 属 を 強 制 さ れ る道 具 で あ っ た が 、 投 資 家 側 か ら見 れ ば 、 不 安 定 な 要 因 を 抱 え る 危 険 な 契 約 で あ っ た36。
戦 後 に な っ て 、 途 上 国 は 、 先 進 国 企 業 と の 経 済 開 発 協 定 を 一 方 的 に破 棄 し、 天 然 資 源 開 発 施 設 の 国 有 化 ・収 用 とい う強 硬 手 段 に踏 み 切 る よ う に な っ た 。 そ の 契 機 に な っ た の が 、 1951年 の イ ラ ン に よ る ア ン グ ロ イ ラ ニ ア ン石 油 会 社 施 設 の 国 有 化 で あ り37、そ の 後 も途 上
とか ら、 自国 領 域 内外 国 人 保 護 の 義務 に人 権 保 障 を結 び つ け て 論 じられ る こ とが あ る 。な お 、 ロ シ ア連 邦 も 日本 も、1966年 国際 人権A規 約 及 びB規 約 を批 准 して い る 。
35経 済 開 発 協 定 とは、 国 家 また は そ の 公 企 業 と外 国 の私 人 ・私 企 業 との 間 で 、 当 該 国 家 の 領 域 にお け る 公 益 事 業 の 建 設 や 運 営 あ る い は 天然 資 源 の 開 発 な どの た め に 締 結 さ れ る 契約 の総 称 で あ る(川 岸 繁 雄
「コ ンセ ッシ ョ ン」 『国際 関係 法 辞 典 』(注15)357頁)。 こ の 種 の 契 約 は 、他 に、 コンセ ッション ・ 特 許(concession)、 国 家契 約 、 利 権 協 定 な どの 呼 称 が 与 え られ る こ とが あ る 。
36安 藤 勝 美 「経 済 開 発 協 定 の 不 安 的 要 因 と安 定 化 政 策 」 安 藤 勝 美 編 『経 済 開 発 協 定 の 法 的 諸 問 題 』(ア ジ ア 経 済 研 究所 、1985年)178‑182頁 、 黒 田 秀 治 「経 済 開 発 協 定 の 再 交 渉 」 『早 稲 田大 学 法研 論 集 』 50号(1989年)245‑247頁 。
37中 川 淳 司 『資 源 国 有化 紛 争 の 法 過 程 』(国 際 書 院、1990年)13頁 。 この 事 件 に つ い て は 、佐 古 田 「98 年 報 告 書 」89頁 注35、 中 川 淳 司 「イ ラ ン石 油 国 有 化 事 件 」 『国 際 関 係 法 辞 典 』(注15)46頁 。な お 、 この 事 件 に 関 し、同石 油 会 社 自 身 が 各 国 国 内裁 判 所 で 石 油 に対 す る所 有 権 を 争 って い る 。そ の う ち 代 表 的 な2判 決 の概 要 と出 典 を記 して お く。 これ らの 判 決 につ い て 、 田畑 茂 二 郎=太 寿 堂 鼎 編 『ケ ー ス ブ
ッ ク国 際法(新 版)』(有 信 堂 高 文 社 、1987年)243‑245頁(安 藤 仁 介 担 当)参 照 。
・1953年 ア デ ン最 高 裁 判 所 判 決(201nternationalLawReρorts(hereinaftercitedas"1 .L.R.")1953 (1957),316)。 ア デ ン(当 時 英 国植 民 地 、 現 イ エ メ ン共 和 国)最 高 裁 は 、 外 国 人 財 産 の 収 用 の 際 の 補 償 に 関 す る国 際 法 に依 拠 して ア デ ン 内 にお け るイ ラ ン法 の 有 効 性 を否 定 し、アデ ンに 所 在 す るイ ラ ンか
らの石 油 が 同社 の財 産 で あ る こ と を認 め た 。
・1953年 東 京 高 等 裁 判 所 判 決(『 下 級 裁 判 所 民 事 裁 判 例 集 』4巻1269頁 以 下 、20LL.R.ibid,305)。
ア ング ロ イ ラ ニ ア ン石 油 会 社 が 、 日本 国 内 に所 在 す るイ ラ ン か らの 石 油 の 返 還 請 求 訴 訟 を 提 起 した が 、 東 京地 裁 は こ の 請 求 を認 め な か っ た 。控 訴 審 で あ る東 京 高 裁 は、外 国 人 財 産 の収 用 の 際 の 補 償 に 関す る
国 際 法 規 則 を 認 め つ つ 、外 国 が 形 式 上 適 法 な 手 続 を経 て 制 定 した法 律 に つ い て第 三 国 の裁 判 所 が そ の 有 効 ・無 効 を判 断 す る こ とは で きな い と して 、 ア ング ロ イ ラニ ア ン社 の 請 求 を退 け た 。
国 側 は 、 相 次 い で 協 定 の 一 方 的 破 棄 及 び 外 国 資 産 の 国 有 化 ・収 用 を 行 っ た38,39。 先 進 国 側 は 上 記 自国 領 域 内 外 国 人 保 護 義 務 に 違 反 す る と して 外 交 的 保 護 権 を行 使 し、 当 然 、 大 規 模 な 国 際 紛 争 が 生 じ る こ と と な る 。 更 に途 上 国 側 は 、 こ う い っ た 個 別 の 強 硬 手 段 に 訴 え る だ け で な く、 多 数 を 占 め る よ う に な っ た 国 連 の 場 で 、 こ の よ う な 一 方 的 破 棄 、 国 有 化 ・収 用 の 根 拠 とな る 国 際 法 上 の 権 利(「 天 然 資 源 に 対 す る恒 久 的 主 権 」 と呼 ば れ る)を 繰 り返 し主 張 し、 そ の 立 場 を 国 連 総 会 決 議 と い う形 で 示 す よ う に な っ た の で あ る40。
こ こで の 法 的 争 点 は 、 上 述 の 自 国 領 域 内 外 国 人 の 保 護 の 文 脈 に お い て 、 特 に 外 国 人 財 産 の 保 護 義 務 の 違 反 は い か な る 場 合 に 生 じる の か 、 とい う こ とで あ る 。 そ して 、 ま さ に こ の 問 題 を め ぐっ て 、 国 際 標 準 主 義 と 国 内標 準 主 義 の 伝 統 的 な 対 立 が 、 再 燃 した の で あ る 。
と こ ろ で 、 経 済 開 発 協 定 の 一 方 的 破 棄 と外 国 人 資 産 の 国 有 化 ・収 用 は 、 現 象 と して は 一 連 の 過 程 で あ る が 、 法 理 論 的 に は3つ に 分 け られ る 。 す な わ ち 、 経 済 開 発 協 定 の 一 方 的 破 棄 は 、 契 約 の 違 反 と鉱 業 権 な ど の 所 有 権 的 権 利 の 剥 奪 を 、 外 国 人 資 産 の 国 有 化 ・収 用 は 、 外 国 人 の 所 有 権 の 剥 奪 を意 味 す る 。 こ の う ち 、 所 有 権 的権 利 の 剥 奪 に つ い て は 国 有 化 ・収 用 に擬 して 扱 わ れ 、 実 際 に は 契 約 の 違 反 の 部 分 と国 有 化 ・収 用 の 部 分 と に つ い て そ れ ぞ れ 合 法 性 基 準 が 論 じ られ て い る 。 そ の 契 約 の 違 反 の 問 題 の 部 分 は 、 経 済 開 発 協 定 の 法 的 性 質 を め ぐる 問 題 で あ る が 、 高 度 に理 論 的 で あ る た め 、 こ こ で は 省 略 す る41。
な お 、 今 日で は 、 経 済 開 発 協 定 は 、 従 前 の よ うな 資 源 開 発 に 関 す る 事 項 の 一 切 を 独 占 的 に 安 価 な 対 価 で 認 め る と い っ た 植 民 地 的 要 素 を持 っ た 内 容 と は 異 な る 、 協 定 当 事 者 双 方 の 納 得 の い くよ う な よ り現 代 的 な 合 意 形 態 を 持 っ よ う に な っ て きて い る 。 そ れ らは 、 現 代 的 コ ンセ ヅシ ョ ン 、 合 弁 協 定 、 生 産 物 分 与 協 定 、 請 負 協 定 な ど に 分 類 さ れ る が 、 投 資 受 入 国 に よ る 資 源 開 発 事 業 へ の 関 与 が 強 化 さ れ た こ と、 受 入 国側(国 営 企 業)が 事 業 に参 加 す る よ う に な っ た こ と、 国 側 の 利 潤 の 取 り分 が か な り増 加 した こ とな ど が 、 指 摘 さ れ て い る42。
38戦 争 に まで 発 展 した もの と して は
、1956年 の エ ジ プ トに よ るス エ ズ 運 河 国 有 化 が あ る(第 二 次 中東 戦 争)。 この 事 件 に つ い て は、香 西 茂 「ス エ ズ 国有 化 の 法 的 諸 問題 」 田 岡良 一=田 畑 茂 二 郎 監 修 『外 国 資 産 国 有化 と 国 際法 』(日 本 国 際 問 題 研 究所 、1964年)56頁 以 下 。 ま た 、仲 裁 裁 判 所 で 扱 わ れ た 著 名 な 事 例 と して 、1973年 か ら1977年 に 出 され た3つ の 「リ ビア 国 有 化 事 件 」 判 決(1973年 「BP社 対 リ
ビア事 件 」 判 決(531.LR(1979),297);1977年 「テ キ サ コ石 油 会 社 対 リビ ア 事 件 」(lbid.,389);
1977年 「リア ム コ 対 リ ビア 事 件 」(201.L.M.(1981),1,))が あ る 。 これ らの 判 決 の 法 的 争 点 の 分 析 と して 、 吉 井 淳 「コ ンセ ッシ ョ ン協 定 と国 有化 」 安 藤 編 『前 掲 書 』(注36)31頁 以 下 参 照 。
391990年 公 刊 の 著 書 に よ る と、 第 二 次 大 戦 後 、 資 源 開 発 の た め の合 意 が 投 資 受 入 国 に よ り一 方 的 に破 棄 され た事 件 の 数 は243件 で 、そ の う ち外 国 企 業 が撤 退 を 余 儀 な くさ れ た もの が26件 とい う結 果 が 示 さ れ て い る。 中川 『前 掲 書 』(注37)15頁 、185頁 。
40桐 山孝 信 「天 然 の 富 と資 源 に対 す る永 久 的主 権 」 『国 際 関係 法 辞 典 』(注15)571頁
。 そ の 結 実 が 、 1974年 国 連 総 会 決 議 「新 国 際経 済 秩 序 樹 立 宣 言 」 で あ る 。 この 決 議 は 、 先 進 国が 反 対 ・棄 権 す る 中、
途 上 国 と社 会 主 義 国 の 圧 倒 的 賛成 多 数 に よ り採 択 され た 。賛 成120、 反 対6(西 独 、 英 、米 な ど)、 棄 権10(カ ナ ダ 、 仏 、 伊 、 日本 な ど)。
41詳 し くは、 中川 『前 掲 書 』(注37)65頁 以 下 。 ま た佐 古 田 「98年 報 告 書 」106頁 。
42中 川 『前 掲 書 』(注37)58‑64頁 。 な お 、 ロ シ ア 連 邦 の 生 産 物 分 与 法 に 基 づ い て 、サ ハ リ ンエ ナ ジー な どの企 業 が ロ シ ア 政 府 と締 結 した サ ハ リ ン石 油 ・ガス 開発 に関 す る生 産 物 分 与 協 定 は、現 代 的 な 経 済 開発 協 定 に位 置 付 け られ よ う 。
(2)外 国資産の国有化 ・収用の合法性基準
ま ず 前 提 問 題 と して 、 外 国 人 資 産 の 国 有 化 ・収 用 は そ れ 自体 国 際 法 上 禁 止 さ れ て い る か ど う か が 問 題 とな る が 、 結 論 的 に は 、 これ は 領 域 主 権 の 属 性 で あ り禁 止 さ れ な い と理 解 さ れ て い る43。 した が っ て 、 争 点 は 、 国 有 化 ・収 用 の 合 法 性 基 準 で あ る 。
こ の 点 に つ き 、 これ らが 国 際 法 上 合 法 とな る た め に は 、 次 の3つ の 要 件 を 満 た さ な け れ ば な ら な い と い う こ とは 、 先 例 上 も学 説 上 も 一 般 に 認 め られ て い る44。 す な わ ち 、 ① 公 益 目的 で あ る こ と、 ② 外 国 人 に対 して 差 別 的 で な い こ と、 及 び ③ 補 償 を伴 う こ と 、 で あ る 。 こ の う ち特 に 先 進 国 と途 上 国 の 間 で 激 し く争 わ れ た の は 、 補 償 の 内 容 と金 額 の 算 定 方 式 に つ い て で あ っ た 。先 進 国 は 、い わ ゆ る 「ハ ル 補 償 方 式(Hullformula)」 を 支 持 して き た 。
これ は 、 補 償 は 、 「迅 速 、 適 当 か っ 効 果 的 な(prompt,adequateandeffective)」 も の で な け れ ば な ら な い と い う考 え 方 で あ る45。 「迅 速 」 は 、 現 金 に よ る 即 時 の 支 払 い を 、 「適 当 」 と は そ の 所 有 権 剥 奪 の 時 の 取 引 価 額 及 び 支 払 い 日 ま で の 利 子 を付 した 支 払 い で あ る こ と、
「効 果 的 」 とは 、国 際 交 換 性 の あ る 通 貨 ま た は 被 収 用 者 の 本 国 の 通 貨 に よ る 支 払 い を指 す も の と理 解 さ れ て い る46。 こ の 方 式 が 、 つ ま り国 際 標 準 主 義 とい う こ とで あ る 。
こ の 方 式 に 対 し、 途 上 国 側 は 強 く反 発 した 。 こ の 途 上 国 の 立 場 は 、 特 に1974年 国 連 総 会 決 議 「国 家 の 経 済 的 権 利 義 務 憲 章 」2条2項 に 示 さ れ て い る47。
こ の 補 償 の 基 準 に つ い て は 、 上 述 の ハ ル 補 償 方 式 は す べ て の 国 の 承 認 が 得 ら れ て い な い とい う意 味 で そ の 実 定 法 性 を失 っ て い る と い え る に せ よ、 こ の1974年 決 議 で 規 定 さ れ た 基 準 も 同 じ意 味 で 国 際 法 上 の 規 則 と して 確 立 して い る と は 言 い が た く、 ま た 実 際 の 判 例 ・
国 家 実 行 上 も ほ と ん ど採 用 さ れ て い な い48。 今 日で は 、 先 進 国 も 含 め た 多 くの 国 の 支 持 を 受 け て 成 立 した1962年 国 連 総 会 決 議 「天 然 資 源 に対 す る恒 久 的 主 権 」(決 議1803(XVII)) 4項49が 現 行 法 を 示 す とい う見 方 が 有 力 で あ り50、国 際 裁 判 で も これ に 依 拠 した 解 決 が 図 ら れ て い る51。
43田 畑 茂 二 郎 「国 有 化 を め ぐ る 国 際 法 上 の 問 題 点 」 田 岡=田 畑 監 修 『前 掲 書 』(注38)7‑9頁 、 山 本 『前 掲 書 』(注22)522頁 。 そ れ で も な お 、 途 上 国 側 は 、 国 連 内 で の 数 の 力 を 背 景 に 、 繰 り返 し、 「天 然 資 源 に 対 す る 恒 久 的 主 権 」 を 先 進 国 側 に 認 め る よ う 迫 っ た 。
44田 畑 「同 上 論 文 」9頁 、 中 川 『前 掲 書 』(注37)177‑180頁 。 た だ し 、 旧 共 産 諸 国 や 一 部 の 学 説 は 補 償 の 義 務 を 否 定 し た 。 田 畑 ・25‑28頁 、 中 川 ・179‑180頁 。
45Harris
,suρranote28,at569.こ の 名 称 は 、1938年 及 び1940年 に 、 メ キ シ コ に よ る 農 地 と 石 油 産 業 の 国 有 化 に 反 対 し て 米 国 国 務 長 官 ハ ル が メ キ シ コ 政 府 に 対 し て 送 っ た 通 牒 ・書 簡 に 示 さ れ た 補 償 の 合 法 性 基 準 に 由 来 す る 。
46Harris
,supranote28,at568;山 本 『前 掲 書 』(注22)525頁 。
47「 自 国 の 関 連 法 令 及 び 自 国 が 関 係 あ る と認 め る す べ て の 事 情 を 考 慮 して 、 適 度 な(appropriate)補 償 を 支 払 う 」 。 つ ま り、 国 際 法 の 関 与 を 否 定 し 、 国 が 自 由 に 補 償 額 ・支 払 方 法 を 決 定 で き る と 主 張 し た 。 48Harris
,suρranote28,at570;中 川 『前 掲 書 』(注37)171頁 。
49「 … 所 有 者 は 、 … 国 際 法 に 従 っ て 適 度 な(appropriate)補 償 の 支 払 い を 受 け る 。 」 50Brownhe
,supranote18,at546.
51Harlris
,supranote28,at570‑571.
三 、通 商 航 海 条 約
通 商 航 海 条 約 は 、 通 常 、 貿 易 、 投 資 及 び 船 舶 の 待 遇 に 関 す る両 国 の 基 本 的 ・一 般 的 権 利 義 務 を規 定 す る52。 投 資 保 護 に 関 して も多 くの 規 定 を 持 つ53が 、 こ こ で は 、特 に 身 体 及 び 財 産 の 保 護 、 裁 判 を 受 け る 権 利 、 国 有 化 ・収 用 に 関 す る 規 定 及 び 国 民 ・会 社 の 範 囲 に つ い て 、 1953年 日米 通 商 航 海 条 約 と1979年 「日比 通 商 航 海 条 約 」 を 例 に 見 て お き た い54。 な お 、 通 商 航 海 条 約 に お け る紛 争 解 決 方 法 に つ い て は 、98年 報 告 書 を参 照 して も らい た い55。
1.通 商 航 海 条 約 に よ る投 資 保 護 の 内 容
(1)身 体及び財産の保護
身 体 の 保 護 に つ い て は 、 「国 際 法 の 要 求 す る保 護 及 び 保 障(protectionandsecurity)よ り少 くな い 不 断 の(mostconstant)保 護 及 び 保 障 」 が 与 え ら れ る(日 米 条 約2条1項 、 日比 条 約2条1項)。 こ こ で い う 国 際 法 と は 国 際 慣 習 法 を 指 す 。 こ れ に 対 し、 財 産 に 関 し て は 「不 断 の 保 護 及 び 保 障 」 との み 示 さ れ て い る(日 米 条 約6条1項 、 日比 条 約4条)。
1989年 にICJが 判 決 を 行 っ た 後 述 の 「シ シ リー 電 子 工 業 会 社 事 件 」(米 国 対 イ タ リア) で は 、米 伊 通 商 航 海 条 約 の 解 釈 が 問 題 とな っ た 。 こ の条 約 は 、 身 体 ・財 産 と も に 、 「国 際 法 の 要 求 す る 完 全 な 保 護 及 び 保 障 」 と 「不 断 の 保 護 及 び 保 障 」 が 与 え られ る と規 定 した(5 条1項)。 裁 判 所 は 、 前 者 は 国 際 標 準 主 義 を 指 す と し、 後 者 に つ い て は 、 財 産 が い か な る 状 況 に お い て も妨 害 され な い とい う保 障 を 与 え る もの で は な い と い う判 断 を 示 した56。
(2)裁 判 を 受 け る 権 利
慣 習 法 上 、 国 内 法 制 度 に よ る救 済 措 置 が 不 十 分 で あ る 場 合 に は 、 裁 判 拒 否 と して 国 際 違 法 行 為 を 構 成 す る 。 通 商 航 海 条 約 で は 、 裁 判 を 受 け る権 利 に つ い て 、 身 体 ・財 産 の 保 護 と は 別 の 規 定 を設 け て い る 。
日米 条 約 で は 裁 判 を 受 け る 権 利 等 に つ い て 、 「内 国 民 待 遇 」 と 「最 恵 国 待 遇 」が 与 え られ る と規 定 す る(4条1項)。 日比 条 約 で は 、 「第 三 国 の 国 民 及 び 会 社 に 与 え られ る待 遇 よ り
52佐 古 田 「98年 報 告 書 」102頁 。
53吉 野 文 六 「通 商 航 海 条 約 と そ の 動 向 」 『法 律 時 報 』32巻6号(1960年)20‑21頁
、 小 田 滋 「通 商 条 約 に お け る 財 産 収 用 ・企 業 国 有 化 に 対 す る 保 障 に っ い て 」 『ジ ュ リ ス ト』305号(1964年)32‑35頁 。 54日 米 条 約 は
、 市 販 の 条 約 集 に 掲 載 さ れ て い る 。 日 比 条 約 は 、 高 野=小 原 編 『国 際 経 済 条 約 集 』(注6) 87頁 、 外 務 省 条 約 局 『条 約 集(昭 和55年 二 国 間 条 約)』(1981年)1017頁 。
55佐 古 田 「98年 報 告 書 」106‑107頁
56ZC .JReρorts1989,15,at66,para.111;at65,para.108.ま 。 た 、 投 資 保 護 協 定 に 関 して1990年 「ア
ジ ア 農 作 物 会 社 対 ス リ ラ ン カ 事 件 」ICSID仲 裁 裁 判 所 判 決(後 述 注117)参 照 。
も不 利 で な い 待 遇 」 が 与 え られ る とす る(3条1項)が 、 こ れ は 「最 恵 国 待 遇 」 の こ と を 指 す 。 これ らの 用 語 に つ い て は 後 に 説 明 す る 。
(3)国 有 化 ・収 用
慣 習 法 上 、 国 有 化 ・収 用 に 関 して は 、 大 きな 対 立 が あ る こ とは 、 す で に 見 た 通 りで あ る 。 通 商 航 海 条 約 で は 、 財 産 の 保 護 の 規 定 の 中 で 、 特 に 詳 し く規 定 し て い る 。
日 米 条 約(6条3項)、 日比 条 約(議 定 書8項)と も に 、 国 有 化 ・収 用 の 条 件 と して 、 公 益 目的 と 「正 当 な(just)」 補 償 の 概 念 が 用 い られ て い る 。 そ の 補 償 に つ い て も 、ハ ル 補 償 方 式 に近 い 内 容 が 定 め られ て い る 。 ま た 、 日米 条 約6条4項 で は 、 こ れ に 加 え て 、 内 国 民 待 遇 と最 恵 国 待 遇 が 保 障 さ れ て い る 。
(4)国 民及 び会社 の範 囲
保 護 の 対 象 とな る の は 、 一 方 の 締 約 国 の 国 民 及 び 会 社 で あ る 。 い ず れ の 者 を 自国 民 ・自 国 会 社 とす る か は 各 国 の 国 内 法 が 決 定 す る事 項(国 内管 轄 事 項)で あ り、 国 際 法 は 原 則 と
して こ れ に 関 与 し な い57。 この 点 に つ い て 特 に 問 題 と な る の は 、 会 社 の 範 囲 で あ る 。 各 国 の 国 内 法 で は 、自国 籍 が 付 与 さ れ る 法 人 は 、そ の 法 人 が 設 立 さ れ る 国 とす る 立 場(英 米 法 系 諸 国)、 事 業 活 動 の 拠 点(主 た る 事 務 所 の 所 在 地)の あ る 国 とす る 立 場(ヨ ー ロ ッ パ 大 陸 法 系 諸 国)、 及 び 経 営 支 配 権 を 有 す る者 の 国 籍 国 と す る 立 場 が あ る58。 日米 通 商 航 海 条 約 は 、 そ の う ち 第 一 の 設 立 準 拠 地 基 準 に 立 っ て お り(22条3項)、 ま た、 前 記 「バ ル セ ロ ナ トラ ク シ ョ ン 事 件 」 判 決 は 、 伝 統 的 規 則 に よ る と法 人 の 外 交 的 保 護 権 が 与 え られ る の は 法 人 が 設 立 さ れ た 国 と事 務 所 が 登 記 さ れ て い る 国 で あ る と して 、 第 一 の 設 立 準 拠 地 基 準 と 第 二 の 活 動 本 拠 地 基 準 が 原 則 で あ る 旨述 べ た59。 こ れ らの 立 場 に従 う と、 第 三 の経 営 支 配 基 準 と の ギ ャ ッ プ が 問 題 と な る 。 具 体 的 に は 、 現 地 法 人 の 保 護 と株 主 の 保 護 で あ り、 実 際 に 裁 判 で も 争 わ れ た 。
(a)1982年 「ア メ リカ 住 友 商 事 事 件 」 米 国 連 邦 最 高 裁 判 所 判 決60
こ の 事 件 で は 、 米 国 の 国 内 裁 判 所 で1953年 日米 通 商 航 海 条 約 の 解 釈 が 問 題 と な っ た 。 ア メ リカ 住 友 商 事 は 日本 の 商 社 の 子 会 社 で 米 国 現 地 法 人 で あ っ た 。 そ の 管 理 職 が ほ とん ど
57山 本 『前 掲 書 』(注22)502頁 。 58山 本 『同 上 書 』509頁 。
5gI .C.el二Reports1970,at42,para.70.
60457UnitedStatθsReρorts(1982)
,176.同 年 に 類 似 し た 事 件(「 ア メ リ カ 伊 藤 忠 商 事 事 件 」)の 最 高
裁 判 決 が あ り(lbid.,1128)、 両 事 件 は 一 緒 に 扱 わ れ る こ と が 多 い 。 こ れ ら の 事 件 に つ い て 、 櫻 井 『前
掲 書(国 際 経 済 法)』(注10)298‑305頁 参 照 。
日 本 人 男 性 で あ り、 こ の こ とは 国 籍 ・性 に よ る 雇 用 差 別 を 禁 止 す る 米 国1964年 公 民 権 法 な ど に違 反 す る と して 、 そ の 従 業 員 が 会 社 を 相 手 に 訴 え た 。
同 社 は 、 親 会 社 の 属 す る 日本 が 米 国 と締 結 した 日 米 通 商 航 海 条 約8条1項(高 級 職 員 な ど の 選 定 の 自 由 を 認 め た 規 定)に よ り、 公 民 権 法 が 課 す 義 務 か ら 免 除 さ れ て い る と主 張 し た が 、1982年 に 米 国 連 邦 最 高 裁 は 、 条 約22条3項(一 方 の 締 約 国 の 法 令 に 基 づ き成 立 し た 会 社 を そ の 国 の 会 社 と す る とい う規 定)の 下 で は 、 同社 は 米 国 の 会 社 で あ り 日本 の 会 社 で は な い か ら条 約8条1項 の 対 象 で は な い と して 、 同 社 の 主 張 を 認 め な か っ た 。 つ ま り、
現 地 法 人 は 、 通 商 航 海 条 約 に よ る 保 護 の 対 象 と さ れ な か っ た の で あ る 。
(b)1989年 「シ シ リー 電 子 工 業 会 社 事 件 」(米 国 対 イ タ リア)国 際 司 法 裁 判 所 判 決61 米 国 法 人2社 が100%所 有 す る イ タ リア 法 人 シ シ リー 電 子 工 業 会 社(ELSI)が 破 産 す る に至 っ た の は 、1948年 の 米 伊 通 商 航 海 条 約 及 び1951年 追 加 協 定 に 違 反 す る イ タ リア 政 府 の 行 為 に 原 因 が あ る と して 、 米 国 が損 害 賠 償 を 求 め て 提 訴 した 事 件 で あ る 。 裁 判 所 は 、 米 国 の 主 張 す る よ うな 条 約 違 反 の 事 実 は な い と して 、 米 国 の 請 求 を 棄 却 した 。
株 主 の 保 護 と い う 点 で 興 味 深 い の は 、 裁 判 所 の 立 論 で あ る 。 裁 判 所 は 、 米 国 の 立 論 に 依 拠 して 、 条 約 上 の 保 護 がELSIの 株 主 で あ る 米2社 に 与 え られ る か ど う か を 問 題 と し、 更 に 条 約5条1項 の 保 護 の 対 象 とな る財 産 に はELSIそ の もの の 実 体 に まで 及 ぶ とい う こ と に した 上 で こ の 問 題 を 検 討 して い る62。 っ ま り、 米 国 は イ タ リア 法 人 で あ るELSIの 条 約 に よ る保 護 を 求 め た の で は な く、 あ くま で も株 主 で あ る米 国 法 人 の保 護 を 求 め そ の 保 護 の 範 囲 はELSIそ の も の と い う構 成 を した の で あ り、 ま た裁 判 所 も これ に依 っ た の で あ る。
これ は 、ELSIは イ タ リア 法 人 で あ り米 国 法 人 で な い た め 米 国 の 外 交 的 保 護 権 行 使 の 要 件 を 満 た さ な い とい う考 え に依 拠 しつ つ も、 「財 産 」の 範 囲 を 株 主 の 権 利 ・利 益 を 越 え た 現 地 法 人 の 権 利 ・利 益 ま で 拡 張 した も の で あ り、 事 実 上 、 経 営 支 配 基 準 に よ る 外 交 的 保 護 権 行 使 を 認 め た 、 と い う こ と に な る63。 しか し、 小 田判 事 は 、 裁 判 所 の こ の よ う な 立 論 を 批 判 して 、 条 約 は 会 社 の 株 主 の 地 位 と権 利 を保 障 した も の で は な い と しつ つ 、 た だ し、 条 約 で 現 地 法 人 の 保 護 を 求 め る こ と が で き る とい う 意 見 を 示 し た64。
2.通 商航海条約 の意義 と限界
(1)内 国民待遇 と最恵国待遇