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鈴 木 満 直

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(1)

〈 研 究 ノ ー ト〉

ハ イ エ ク 貨 幣 論 の 再 検 討

木 満 直

1

自 由 裁 量 な 金 融 政 策 の 是 非 を め ぐ っ て,自 由 裁 量 な 政 策 を 主 張 す る ケ イ ン ズ お よ び ケ イ ン ジ ア ン,た と え ば ハ ロ ッ ド,ピ ッ ク ス と.非 自 由 裁 量 も し くは 自 動 的 政 策 を 主 張 す る フ リ ー ドマ ン を 代 表 とす る シ カ ゴ学 派 と の 間 に 活 発 な 論 争 が な さ れ て い る こ と は 周 知 の 事 実 で あ る が,こ の よ うな 視 角 か らの 論 争 は 決 し て 新 し い も の で は な い 。1930年 に もケイ ンズ とハィエ クな どの間 にな された のであ る。現代論争 の意味 内容 を少 しで も(1)

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浮 彫 りに す る こ と を 目 的 に し て,ハ イ エ ク貨 幣 論 を 再 検 討 す る。

2

ハイエ クは ,ケ イ ンズと同様に,フ ィッシ ャーに よって代表 され る機械的貨幣 数量説 批判か ら出発 し,ウ ィクセルに よって暗示 された貨幣的 動態理論 を発展 させた。 その要 点 を説 明 し,若 干検討 を加え る ことにす る。

「従 来の 「貨幣的 理論」 の発展 につい て,ハ イエ クは これ を三つ の形態 に分 け てい る のであ って,そ の第一 は フ ィッシ ャーに よ って代表 せ られ る如 き機械的数量 説であ り, 第二 はいわ ゆ る所 得説にみ られ る貨幣数量変動 の連続的影響説 であ り,第 三 は利子率 を 基礎 とす る貨幣数量 お よび物価 の変動 理論な らびに資本形成説 であ る。 この うち第二 お よび第三の ものにつ い ては,彼 自身 の構想に積極 的にせ よ消極的 にせ よ何等か の暗示 を

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与 え 」 て い る の で あ る 。 す な わ ち,第 一 に つ い て は,貨 幣 量 の 変 動 が 「同 時 に か つ 同 方

*原 稿 受 領1970年5月6日

(1)J.T.Hicks,CriticaiEssaysinMonetaryTheory,1967,preface.〔 江 沢 ・鬼 木 訳,貨 幣 理 論1 宮 崎 義 一・,『 近 代 経 済 学 の 史 的 展 開 』 昭 和42年,PP.43‑44.

(2)F,A.Hayek,Price&Production,1931【 豊 崎 稔 訳,貨 幣 と 生 産 】

EAHayek,PureTheorツofCapital,1941[一 ・谷 藤 一 郎 訳,ハ イ エ ク 資 本 の 純 粋 理 論1 (3)高 橋 泰 蔵 『貨 幣 的 経 済 理 論 の 新 展 開 』 昭 和16年,P・91・

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向にむか って総 ての価格 に均等 に もし くは とにか く公平 に作用 す る諸傾 向」があ る と主 張 す る ところに,特 徴 と欠 点があ ると指 摘す る。第二は,ミ ーゼスな どに よって主張 さ れ た説で,貨 幣量変動 の影 響を研究す るにあた って,個 々人 の決定に対す るそ の影響 に 多 くの考慮 を払 ってい る点に メ リッ トを認めなが らも,貨 幣量 増減 の貨幣 の流れにつ い て明白なス ケ ッチがなか った と批判す る。第三はい うまで もな くウ ィクセルに代表 され る説 であ って,自 然利子率 と貨幣利子率 との関係か ら,貨 幣量変動 に よる一般物 価水準 へ の影響 を 考 察 してい るのであ る。 この説 に対す る批判 は つ ぎの とお りであ るが ,第 一 ,第 二 について も妥 当す ると考え ることがで きる。

「貨幣 の物 価な らび に生産 への影響が一一般物 価水 準の変動 と無 関係に存 在す る多 くの 場 合が考え られ る。 この可能 性を考慮す ると,貨 幣量 の変 動はそれが物価 水準 に影響 し よ うがす まいが殆 ん ど常 に相対 価格に影響 す る ことは明瞭 であ る。そ して生産 の数量 と 方 向 とを決定 す るものが相対価 格であ る ことは疑 問の余地 はないか ら,貨 幣量 の変動は

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また必然 的 に生産 に影響を与 え る」。 したが って,「 貨幣理 論の発 展は近 き将来におい て 貨 幣 と物 価水準 との直接的 関係の説明か ら分 離す るのみな らず,さ らに理 論的分析 の 目 的か ら一 般物価水準 な る概念 を放棄 し,そ の代 りに相対価 格の変化 の原因 お よびそ の生

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産 に対 す る影響 を考 察す るであろ うことを確 信す る」 と述 べてい る。 この よ うな傾 向が ケイ ソズ 『貨 幣論』にみ られ る ことは周知 の とお りであ る。 螂"

ハイエ クは ,以 上 の根 拠か ら,「貨 幣を量的 に 取 り扱 うことに よって 財 の世界 を一休 としてみた数量説 の態 度に反対 し,こ れを 生産 構造 として と らえ,貨 幣 の循環 の変化 に

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よる生産 構造 の変化 を解 こ う」 とす る貨幣的動態 理論を展開 したのであ る。 ハイエ クの 生産構 造図 はつ ぎの とお りであ る。

図 は,商 品が一・生産段 階か ら次の生産段階 へ等間隔で断 続的に推移す ると仮定 し,各 生産段 階 ご とに貨 幣表 示で8単 位ずつ本源的 生産手段 が投 入 され,4段 階 の中間生産物 を経 由 して,消 費財段 階 で40単 位 の消費財が産 出 され,そ れ が家計所 得40単 位 の支 出 に よ って 購 入 され る。 消 費 財 産 出額40と 中 間 生 産 物 消耗 額80と の比1対2は 生 産 の迂 回化 を示 す。

(4)Hayek,Price,P5[訳.P27】

(5)Hayek,op.cit,P24【 訳.P.00.]

{6〕Hayek,op.clt,PP.25‑26[訳.PP61‑62.1

{7〕 天 利 長 三 『金 融 経 済 論 』 昭 和35年,p.189

ケ イ ン ズ に つ い て は,貨 幣 価 値 の 「経 済 セ体 に 対 す る 意 味 を 強 調 し た 」 と 述 べ て お ら れ る 。

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また 図は,「 商 品 の循還 を示す ためばか りでな く,同 様 に また この生産過程 を誘導す る貨 幣の運動 の 説 明に も使 用で ぎ る。 商 品は この図 では 上か ら下へ と 運動す るのに反 し,貨 幣は反対 の方 向に循還す ることに注意せ ねば な らぬ 。 したが って,ま ず第 一に消 費財 の購入に支払わ れた貨幣は いず れ も ここか ら上 部へ循還 し,結 局い ろいろの中間的 循還 ののち,本 源的 生産 手段 の所有 者に支払われ,そ こか らまた消費財購入 に支払われ

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るとい うよ うに循還す るの であ る」。 図 に よって代表 され る ハイエ クの生産構 造観は, 周知 の とお り,固 定 資本設備 の存在 を無視 してい るか ら,単 線 的 もし くは単純 再生産 と 呼ばれ てい る。

3

図 の よ うな 均 衡 状 態(完 全 雇 用)か ら 出 発 し て,ハ イ エ ク は,貨 幣 数 量 の 変 化 す る こ と の な い 家 計 の 自発 的 変 化 に よ っ て,消 費 者 が そ の 所 得 の4分 の1に 相 当 す る だ け 貯 蓄

(8)Hayek,op.cit.,P.41.[訳.P.82.1

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一54一 第21巻 第1号

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し投 資 した場 合を考察す る。消費財需要 と中間 生産物需 要 との比 例関係は40対80か 30対90,す なわ ち1対2か ら1対3に 変化す ることにな る。 中間生産物 に支 出 され る 付加的 貨幣10は,消 費財 の最終産 出物 が それ らの購 入に用 い られ る30に 減 じた貨 幣額 に対 して損失 な しに売 られ るよ うに使用 され ねばな らない。 この よ うな ことが可能 なの は,消 費財に対す る需 要 に比 して中間生産物 に対す る需 要が増加 した と同 じ割 合 を もっ て,生 産迂 回 の平均的 長 さが延長 され る場合 にほかな らない とす る。 この よ うな 自発的 貯蓄に よる生産構造 の変化は,消 費財 価格 の下 落,中 間生産物 価格 の上昇 とい う形 で行 なわ れ持 続性を有 し,安 定的 であ ると主張す る。なお,こ の議 論は貨幣 の流通速度 も不 変で あ るこ とを前提 に してい る。

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この ケースにおけ る相対価 格お よび生産構造 の変化 と均衡点へ の移動につ いてはつ ぎ の よ うな説 明が あ る。 「中 間生産物需 要 の上昇 と消費財 需要 の下 落 との直接的 効果は, 中間生産物価格が 相対 的に上昇 し,消 費財価格が 相対 的に下落す るであ ろ うとい うこと であ る。 しか し,中 間生産物 の諸価格が同程度 に上 昇す る こともなければ,例 外 な しに 上 昇す る こともないであろ う。消費財に最 も接近す る生産段階 におい ては,消 費財価格 の下 落効果は各種 の中間生産物 の購 入に利用 で きる資金増加効 果 よ りもより強 く感ず る であろ う。それゆ え,こ の生産段階 の生産物価格 は下 落す るであろ うが,消 費財 価格ほ どには下 落 しないであ ろ う。 これ は最終二段階 の価格 差を狭 め る ことを意味す る。 しか し,こ の価格差 の縮少は,高 次段階 に比 して最終段階 での資金利 用の利益 を小 にす るで あ ろ う。それゆ え,そ こで使用 され ていた資金 の一 部は よ り高度 の生産段階 へ と移転 さ れ ることにな る。 この資 金需 要 のシ フ トは高次 の生産 段階 において価格騰貴 の強 き傾 向 を ひ きお こ し,さ らに この傾 向は一つ の生産段階 よ り他の生産段階 へ と強 くな るか ら, 消費財 か ら出発 した 価格下落 の傾 向を直 ちに克服 す るであ ろ う。 最終 的効果 は,低 次の生産段階 での価格下落 と高次の生産段階 での価格 の騰 貴の結果,各 種 の生産

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段階間 の価格の開 きが一 様に減少す ることにな るであろ う」。「各 生産段 階 の価格差 が均 衡 し利 子率に一致す るな らば,相 対価格 関係は均衡す る。 この利 子率 がいわゆ る均 衡利

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子〜 ハイエ クにおけ る自然利 子一 に ほかな らな い」。

と ころで この場合,ハ イエ クの 主 張す る よ うに 貨 幣は受動的 で 中立 的な のであろ う か。 つ ぎの よ うな 批 判が で るのは当然で あ る。 「従来 消費に費 された40の 貨幣 が今や 30に 減 じ,10は 貯蓄 され て 中間 生産物 の購入 に充当 され る。 この貨幣 の流れ の分布の 変化が,そ れ に相応す る種 々の生産段階 へ の財貨 の分 布を伴 う限 り,貨 幣形態 におけ る 貯蓄は,実 物 形態 におけ る貯 蓄 と同 じ作用 をなす もの と見 られ る。実際,消 費性 向の減 退 に よる財貨 の余剰が,生 産 目的 のため に適当に各段階 に分けれ るとす るな らば,そ の 結果は全 くハイエ クの説 くが如 くで あろ う。 しか し貨幣経 済 の機構 におい てかか る財貨 の再分布が いか に して可能 であ るか。そ の過 程が 円滑 に行なわ れ うるが ためには,消 費 支出 の減少 に よって資本財 部門の企業者 に全体 と して従来 よ りも一 層多 くの貨幣が 供給 され うる こと,す なわち 消費性向 の減退 が全体 としての貯蓄量 の増加を ともな うことを 必 要 とす る。 しか るに消費 支出 の減少は産 業的流通に おけ る貨幣数量 を減ず るのみ であ

(9)Hayek,op・ σ砿PP70‑71[訳,124‑126.】

(10)矢 尾 次 郎 「貨 幣 的 経 済 理 論 の 基 本 問 題 」 昭 和39年,p.119.

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って,全 体 と しての貯蓄量 を増加せ しめ るものではな い。そ の ことは 消費財生産者間 に おけ る流通 を考 えれば,容 易に理解 され るであ ろ う。 消費減少 のために一消 費 財生産者 の売 上高が減 じ,そ の収入が減ず る場合に,そ の影響は他 の消費財生産者 の貨 幣受取高 に波及す るを まぬ がれな いであろ う。すなわ ち,消 費支 出の減少 は 消費財部 門 におけ る企 業者 の所得 を減少せ しめ るのみであ って,全 体 の貯蓄量は投 資量が変化せ ざ る限 り変化 す る ことは ない。 前例に おいて 消費 者の側に おけ る10の 貯蓄 の増加は,消 費財生産者 の側におけ る10の 損失に よって相殺 され,全 体 としての 貯蓄 量は少 しも増

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加 しない のであ るか ら,生 産手段需要 が10だ け増加す るが ごときはあ りえない」。

ピックスは この問題はつ ぎの よ うに 大胆 に解釈すれば よい とい う。 す なわ ち,「 利 潤 か らの貯蓄 性向が上昇 した と仮定 しよ う。議論 を単純 化す るた めに,市 場利 子率が それ に応 じて低下 す る としよ う。 この低下は きわめ て速 かに生 じ,そ のた め消費財物価 水準 は不変 に とどま り うると考え て さしつ かえな い としよ う。利 子率 の下 落は労働 の限界生 産力を上昇 させ,そ の結果 実質賃 金が上 昇す るであろ う。 しか し,労 働 生産性 の上 昇は 資 本集約度 の高い生産分野 におけ る方が,資 本集約度 の低い分野 におけ る よ りも高い。

したが って,限 界生産 力の均等が 回復す るには,資 本 集約度 の よ り高 い生産分野 へ労働 が移動 しな ければな らな い。すなわ ち,消 費財 の生産 か ら投 資財 の生産へ と労働 が移動 す る ことになろ う。 この移動 は消費財供給 の減少に 直接 の効果をお よぼす とは 限 らない,と い うのが ハイエ クの議論 の本質 的 な部 分であ る。現 行の供給は,主 と して 過去にな され た仕事に 関す る問題 であ り,こ れ は変 化を受け ない。 しか し(ハ

ィエ クが主 張す る よ うに),消 費財 生産か らの労働 の引 きあげが 消費財 の供 給を減少 さ せず には おかない時が くるに ちが いない。 したが って,も し 「ブーム」が継 続す るもの

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とす る と,貯 蓄性 向が一段 と上昇す る必要が あ る」。

以上 の ピックス解釈 をその ま ま妥 当 と認めれば,消 費性 向の継 続的 な変 化を前提 とす る ことにな り,ハ イ エ クの 主 張す る よ うな 生産構 造 の変 化の 持 続性は支持 で きな くな り,生 産構 造は 不安定 とな る。 他方,ピ ッ クスの 解釈 にはかな りな 無理が み とめ られ る。利潤 か らの貯蓄性 向の上昇が 消費財物 価水 準の不変に 関係す るのは,通 常 つ ぎの よ うな場合 であろ う。す なわ ち,消 費財産 業が利 子率 の急 速な低下 か ら好況 を予想 し,価 格 低落を 回避 し,そ のた めに財庫 を増大 させ る場合 であ る。 その結果,予 想 は逆 転 し利

(11)鬼 頭 仁 三 郎 「貨 幣 と 利 子 の 動 態 」 昭 和17年.PP.292‑293.

(12)Hicks,op.cit.,PP211・‑212[訳292‑294.】

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子率 引下げ に よる投資需要 を相殺 し,貯 蓄はlo以 下 にな るであ ろ う。 その ことが生産 構 造お よび各種物 価に微妙 な影 響を与 え ることは無視 で きない。いずれ に して も,ハ イ エ クの主張 と異な り,自 発 的貯 蓄 の場合 で も,容 易に均衡せず,生 産構造 は不安定的 と な るであろ う。 また,消 費財物 価水準 の不変 な場合には,貨 幣数量を一定 とすれば,流 通速度が増 大す る傾 向にあ り,ハ ィエ クの前提 と矛盾す る ことに な る。

ハイエ クの生産構造 の変 化 の行なわれ る第2の 方法は 銀行 の信用造 出に よる ものであ って,そ の典型的場合 は 自発的貯蓄が ないのに銀行 の信 用造 出に よって新 投 資の行 なわ れ る場合 であ る。 ハイエ クは,自 発的貯蓄 の場合 と異な り,生 産構造 は不 安定 であ ると ず る。す なわち,一 定 の単 位時間 に生産 され る消費財 の価 値(貨 幣)と 生産手段 の価 値 が,そ れ ぞれ40対80に おい て均衡 してい る ときに,銀 行信用40が 与 え られ,こ れ に よって最初 の消費財 と 中間生産物 との 需要 の比率 の40対80が40対120,す なわ ち 自 発的 貯蓄の場合 と同様に1対2が1対3に 変化す ることにな る。 しか し,消 費者が そ の 消 費支出の割合 を 自発的 に 変 え よ うとしな いな らば(変 え るとは思われ ない),そ の比 は やが て1対2に 戻 る ことに な る。 ハイエ クは,銀 行信用は投 資の真 の増加 を導 くもの ではな く,か か る生産構造 の変 化はつねに恐慌 の形を と って現わ れ るとす る。はた して そ うであろ うか。 自発的貯蓄 に よ らない ので あ るか ら,消 費財 需要が相対に 増大 す る こ とには異論は ない。 しか し,「 資本財部門 の企 業者はそ の全 部を一度 に使用 す るので な く,新 投資に は相当 の時間を必 要 とす るか ら,そ の進行につ れ て企業者支 出は徐 々に増 加 してい・くのであ る。それ に ともな って生産 参加者 の貨 幣所 得 も増加 してい くか ら,消 費財需要 も新投 資に40の 貨幣が 費 された のち に 急激 に増加す るのではな く,最 初か ら

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次第に増加 して行 くもの と考 えねば な らない」。 そ うだ とす る と,貨 幣量 の増大 のす べ

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て が 物 価 上 昇 に 寄 与 す る の で は な く,一 部 は 生 産 性 の 増 大 に も 貢 献 す る こ と に な ろ う。

以 上2,3で の ハ イ エ ク の 貨 幣 的 動 態 理 論 の 要 点 の 検 討 に よ っ て,ハ イ エ ク の 研 究 意 図 は 明 らか に で き た と 思 う。

(13}鬼 頭 仁 三 郎,上 掲 書 。p290・

(14)景 気 の 下 方 に つ い て の 研 究 は 全 く 不 十 分 な の で 無 視 し た 。 同 様 な 主 張 を す る 研 究 に っ ぎ の も の が あ る 。

Hicks,op.cit,P.214【 訳,P.297.]

G,Haberler,ProsPerityandl)epression,1957,chap.2.1松 ・加 藤 ・ll」本 ・笹 原 訳 「景 気 変 動 論 』 昭 和41年

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一58一 第21巻 第1号

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ところで,こ こで特 に問題 に しよ うと してい るのは,ハ イエ ク の 生産構 造論 で もな く,物 価 変動論 で もない。い うまで もな く,自 由戴 量な金融政策 の是 非 とい う視角か ら のハイエ ク貨幣理論 の再検討 であ る。そ のた めの準備 として生 産構造論 お よび物価変動 論 を取 り上 げた のであ る。 したが って,以 上 の検討 を基礎 に した別 の視角 か らの補足的 検討が必 要にな る。

ハイエ クに よれば ,前 述 した よ うに,「 貨幣 の流れの変化は貨 幣 の所得 よ り消費支 出 にいた る過程に おいて新 たな る貯蓄 と投 資 との行 なわ れ る ことに よってお こる ものであ るが,こ れ に二つ の場合が 区別せ られ る。 一 つは 新 たな る条件 に 適応 して行 なわ れ る

「自発的貯 蓄」 に よるものであ り,他 はかか る事情 とは独立に,い わば純 粋に貨幣 的な または金融的 要因た る信用 造出に よる ものであ って,「 強制貯蓄」 と呼ばれ る。 この前 者は貯蓄 と投 資 とが一致 し,生 産構造 の変化 が均衡的に行 なわれ る場合 であ り,こ れ に 対 して後者は投 資が 貯蓄 を伴わず に 貨 幣経済 に 特殊 な動態過程を 生ぜ しめ るもの であ

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る 」。 貯 蓄 と投 資 と の 関 係 か ら 貨 幣 の 流 れ を 問 題 に した の は,ケ イ ン ズ のr貨 幣 論 』 と と も に 貨 幣 の 循 還 過 程 の 分 析 に 基 礎 を お く当 時 の貨 幣 理 論 の 一 つ の 特 徴 で あ っ た の で あ る 。

こ の よ うな 視 角 か らみ た ハ イ エ ク貨 幣 理 論 の 特 徴 を 最 も浮 彫 りに し て い る の は,ハ エ ク の ケ イ ン ズ 『貨 幣 論 』 批 判 に 答 え た ケ イ ン ズ の 主 張 で あ る と思 う。 す な わ ち,「 ハ イ エ ク博 士 に よ れ ば,自 発 的 貯 蓄 は つ ね に 投 資 とな る 。 こ れ は,貯 蓄 の 増 大 は 私 が 投 資 財 と呼 び,ハ イ エ ク博 士 が 中 間 生 産 物 と 呼 び,ロ パ ー トソ ン氏 が 機 械 と 呼 ぶ も の の 購 入 に 向 け られ る 購 買 力 の 純 増 を 意 味 す る か らで あ る。 し か し,こ れ か らた だ ち に,自 発 的 貯 蓄 と 投 資 が つ ね に 等 し い と い う こ と に は な らな い 。 銀 行 制 度 が 貨 幣 供 給 を 増 加 させ る な らば,付 加 的 資 金 は 自発 的 貯 蓄 以 上 の 投 資 を 可 能 な ら し め る で あ ろ う。 そ の 結 果,投 資 は 貯 蓄 を 超 過 す る こ と に な る 。 銀 行 制 度 が 貨 幣 供 給 を 減 少 せ しめ る と き に は,逆 の 現 象 が お こ る 。 か く て,彼 の 見 解 で は,貯 蓄 と 投 資 の 不 均 衡 は,必 然 的 に 銀 行 制 度 の 行 動 結 果 と い う こ と に な る 。 均 衡 状 態 か ら 出 発 す れ ば,他 の ケ ー ス は お こ ら な い 。 投 資 の 超 過 も し くは 不 足 は ま さ し く貨 幣 量 の 変 化 に 等 し く,そ の 場 合,投 資 は 自発 的 貯 蓄 プ ラ ス も し くは マ イ ナ ス 貨 幣 量 の 変 化 に 等 しい,と 彼 は 想 定 し て い る 。 私(ケ イ ン ズ)

(15)高橋 泰蔵,上 掲 書。p.129.

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の分 析は これ とは異 な る。私 の意見 では,貯 蓄 と投 資 とは,銀 行制度側に ハイエ ク博士 に よって定義 された よ うな中立性 か らの離 悦が な くて も,た ん に公 衆側 の貯蓄率 の変化 もし くは企業側 の投 資率の変化 の結 果 と して,不 均 等にな る ことが で きる。 した が って 貨幣 の有 効量が不変 であ って も,二 つの率が均等 にな るよ うな 自動 的 メカニズ ムは経 済

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制度 には在存 しな い」。 ハ イエ クの 貨 幣観は 「貨幣が 生産 ・分配 にたい して独 自の影 響 をあ たえない場合,換 言すれば,貨 幣 なき 自然経 済 と同 じ状態が,貨 幣経 済におい て実現 す る場合 の貨 幣を指 し,貨 幣は,こ の よ うな中立状態 にあ る場合に最 もよ くそ の機能 を 果 し うるとい うのであ る。 この理 論 の きざ しは,遠 くウ ィクセルに見 出 され るが,そ のち ミーゼ ス,ハ イエ クに うけつがれ ていた 。ハイエ クに よる と,実 物経済 におい ては, 資本 にた いす る需給が均衡利 子率 の成立 に よって達成 され るため,迂 回生産が適度 にお こなわれ,生 産 部門に不 均衡が 生 じない ところか ら,貨 幣経済 におい て も,銀 行が中立 性 をた もち,貨 幣数量 を不 変 とす る と,生 産は 自動的 に適度 にお こなわれ るわ けで,貨 幣 政策 の 目標 は この よ うな中立 貨 幣の実現 にお くべ きだ とした。 したが って,彼 は,こ の 貨 幣の中立性 を侵す信用政策 を とれば 、貨 幣的な面か ら,生 産 の比 例的 関係に対 して不 自然 な影 響をお よぼ し生産 と資本 の誤用 か ら恐慌 が お こるとみた。 いいかえ ると,銀 行 の付加的信用 の造 出に よる資本形成 は,強 制貯蓄 に もとつ くもので あ り,こ の場合 の価 格の上昇 は一時 的 で,生 産要 因の所得 の増加につれ て反 作用 を うむ か ら,こ れを さけ る

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ため に,自 発 的貯蓄 と同額 の投 資 をなす ことを強調 した」。 したが って,ハ ィ エ クの貨 幣理 論は,実 物経 済 に極 め て近 い と ころで貨 幣経済 を と らえた結果,貨 幣の機能 を極 め て受 動的 な もの とみ な し,自 発 的貯蓄 は必ず投 資に等 し く,そ れ を撹 乱す る銀行 の信用 は回避すべ きであ る と主張 したいわば実物経 済的傾 向 の強い理論で あ るといえ る。

逆 に ケイ ンズの貨 幣理 論は,前 述 の彼 の 主張 か ら想繰 で き るよ うに 極 め て貨 幣的で あ ったた めに,貯 蓄 と投 資は必 ず しも均等 にな らな いか ら,最 適価格 水準を維持す るた めに は貯蓄 と投 資 の均等が必 要で あ り,そ のため には,公 開市場操 作,銀 行利子政策, 割 引政策 な どの 自由裁量政策(短 期政 策)が 必要で あ ると力説 した ものといえ る。

5

ハ イ エ クは な に ゅ え に ,ケ イ ンズ と同 様 に,機 械 的 数 量 説 を 批 判 し,ウ ィクセ ル に よ っ

(16)JMKeynes,"ThePureTheoryofMoney;'Econemica,Nov.1931,PP.391‑393.

(17)天 利 長 三,上 掲 書 。pp・170‑171.

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一60一 第21巻 第1号

て暗示 された貨 幣的動態理論 を発展 させた に もかかわ らず,他 の点は別 に して ケイ ンズ と対 立す る 自動 的金融 政策,す なわち,金 本位 に依存す ることに よる自動的調節 を金融 政策 の 目標 とす べ しと主張 したので あろ うか。 さきに も指 摘 した よ うに,実 物 経 済に近 い ところで貨 幣経済 を と らえ,貨 幣の機能 を極め て受 動的 とみな した結 果,自 発的貯蓄 に よる生産構造 の変化 の分析が 極め て不十 分 とな り,銀 行の信用創造 の破壊的側面 を過 大評 価 したか らにほかな らな い と思 う。それ ゆえ,貨 幣数 量 と流通速度 の積一・定 とい う 中立 貨 幣論にた ち,『物 価 と生産 』につ いで発表 された著書 『利 潤,利 子お よび投 資』に おい ては,分 析対 象を貨 幣経 済か ら実物経 済へ と逃避す る ことがで きた のであ る。

他 方,貨 幣経済の正 しい像 は貨 幣経済 におけ る非貨 幣的側面を と り入れ る ことな しに 、 はえがかれ ない。 ケイ ンズの分析が,ハ イエ クに おけ るよ うな実物経 済分析 の場 を も包 容 したな らば,ケ イ ンズの貨 幣分析,も し くは金融政策 はあ るい は異 な った方向 に発展 したか もしれ ない し,異 な らない と して も説得力 の強 い ものに な った か も しれな いで あ

(18) ろ う。

最 後 に,ケ イ ン ズ の 貨 幣 理 論 に 対 す る 検 討 が 多 少 不 十 分 に 終 っ て し ま っ て い る こ と は,別 稿 で と り上 げ る た め で あ る こ とを 指 摘 し て お く。

㈹R・Harrod,Money,1969.に.こ の よ う な 方 向 へ の ケ イ ン ズ 経 済 学 の 拡 張 解 釈 が み ら れ る。

参照

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