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全国サーベイランスに基づくわが国のプリオン病の疫学像 (1999 年~2019 年)

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厚生労働行政推進調査事業費補助金(難治性疾患政策研究事業)

(総合)分担研究報告書

研究課題:プリオン病のサーベイランスと感染予防に関する調査研究

全国サーベイランスに基づくわが国のプリオン病の疫学像

(1999 年~2019 年)

研究分担者:中村好一 自治医科大学地域医療学センター公衆衛生学部門 研究協力者:小佐見光樹 自治医科大学地域医療学センター公衆衛生学部門

研究代表者:水澤英洋 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 研究分担者:山田正仁 金沢大学医薬保健研究域医学系脳老化・神経病態学

(脳神経内科学)

研究分担者:齊藤延人 東京大学医学部附属病院脳神経外科 研究分担者:北本哲之 東北大学大学院医学系研究科病態神経学 研究分担者:金谷泰宏 東海大学医学部基盤診療学系臨床薬理学 研究分担者:原田雅史 徳島大学大学院医歯薬学研究部放射線科学分野 研究分担者:佐藤克也 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科

運動障害リハビリテーション分野(神経内科学)

研究分担者:村山繁雄 東京都健康長寿医療センター神経内科・

高齢者ブレインバンク

研究分担者:太組一朗 聖マリアンナ医科大学脳神経外科学

研究分担者:佐々木秀直 北海道大学大学院医学研究院神経病態学分野 神経内科学教室

研究分担者:青木正志 東北大学大学院医学系研究科神経・感覚器病態学講座 神経内科学

研究分担者:小野寺理 新潟大学脳研究所神経内科学 研究分担者:三條伸夫 東京医科歯科大学脳神経病態学 研究分担者:村井弘之 国際医療福祉大学医学部神経内科学

研究分担者:塚本 忠 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター病院 脳神経内科

研究分担者:田中章景 横浜市立大学大学院医学研究科神経内科学・脳卒中医学 研究分担者:道勇 学 愛知医科大学内科学講座神経内科

研究分担者:望月秀樹 大阪大学大学院医学系研究科神経内科学

研究分担者:阿部康二 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科脳神経内科学 研究分担者:松下拓也 九州大学病院神経内科

研究協力者:黒岩義之 財務省診療所

研究協力者:高橋良輔 京都大学大学院医学研究科臨床神経学

研究協力者:田村智英子 FMC東京クリニック医療情報・遺伝子カウンセリング部 認定遺伝カウンセラー

(2)

20 研究要旨

19994月から20189月までにクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)サーベイラン ス委員会でプリオン病と認定された症例は3639人にのぼり,昨年度から223人増加した.

主な病態分類別の分布は,孤発性CJD2789人(76.6%),遺伝性CJD593人(16.3%),

ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病(GSS)が144人(4.0%),硬膜移植歴を 有するCJD91人(2.5%)だった.プリオン病の罹患率は主に高齢者で年々増加してい るが,これはプリオン病の患者が真に増加しているのではなく,全国の神経内科医の間でプ リオン病の認知度が向上しているためと解釈するのが自然である.新たな検査法の導入や CJD サーベイランス委員会による診断支援体制の確立によって,以前は診断がつかずに死 亡していた症例(主に高齢層)が,適切にプリオン病と診断されるようになったことが罹患 率上昇の主な要因と考えられる。

A.研究目的

クロイツフェルト・ヤコブ病

(Creutzfeldt-Jakob disease, CJD)に 代表されるヒトプリオン病は,急速に進 行する認知機能障害,ミオクローヌスな どの神経症状を呈し,無動性無言状態を 経て死亡する致死的な神経変性疾患であ る。

本研究の目的は,プリオン病の全国サー ベイランスのデータベースを分析し,わ が国プリオン病の疫学像を概観すること にある。

B.研究方法

(サーベイランス体制・情報源)

「プリオン病のサーベイランスと感染予防 に関する調査研究班」が組織した「CJD サーベイランス委員会」により,1999 4 月以降,プリオン病の全国サーベイラ ンスが実施されている.サーベイランス の目的は,1 国内で発生する全てのプリ オン病を把握することによりわが国のプ リオン病の疫学像を明らかにすること,2 国内における変異型CJD(vCJD)の発生

を監視することの2点にある。

全国を10のブロックに分け,その各々に CJDサーベイランス委員(神経内科や精 神科の専門医)を配置し,各都道府県の CJD担当専門医(神経難病専門医)から の協力を得て,全例訪問調査による情報 収集を実施した。

サーベイランスの情報源は次の3つの経 路で入手した.①特定疾患治療研究事業 に基づく臨床調査個人票,②感染症法に 基づく届け出(5類感染症),③東北大学 に寄せられるプリオン蛋白遺伝子検索お よび長崎大学に寄せられる髄液検査の依 頼に基づく情報提供.これらを元に,全て の調査は患者もしくは家族の同意が得ら れた場合にのみ実施した。

収集されたすべての情報を CJD サーベ イランス委員会(年2回実施)で1例ず つ検討し,プリオン病かどうかの認定(最 終診断),診断の確実度,原因などを評価 した。さらに,プリオン病と認定された症 例については,死亡例を除き定期的に主 治医に調査票を送付して追跡調査を実施 した。(生存例は現在も追跡中)

(3)

(分析対象)

19994月から20199月までの期間 中に得られた7229人(プリオン病以外の 神経疾患や重複して報告された例も含ま れる)のうち,CJDサーベイランス委員 会でプリオン病と認定された3639人(昨 年度から223人増加)を分析対象とした.

なお,硬膜移植歴を有するCJDについて は,CJDサーベイランス委員会の設置以 前に実施された 1996 年の全国調査およ

1997~99 年の類縁疾患調査により

dCJDと認定された65人を合わせた合計 154人(昨年度から増加なし)を分析対象 とした。

(倫理面への配慮)

対象者の個人情報は生年月日,性別,氏名

(イニシアルのみ),住所(都道府県のみ)

のみを収集しており,個人を特定できる 情報の収集は行っていない。

CJDサーベイランスの実施には,すでに 金沢大学の倫理審査委員会で承認されて いる。

C.研究結果

(概要)

19994月から20199月までに7229 人の患者情報が収集され,3639人がプリ オン病と認定された。(2018 年から 223 人増)孤発性 CJD(sCJD)が 2789

(76.6%),遺伝性CJD(gCJD)が593 人(16.3%),ゲルストマン・ストロイス ラ ー ・ シ ャ イ ン カ ー 病 (Gerstmann- Sträussler-Scheinker 病,GSS)が144 人(4.0%),硬膜移植歴を有する CJD

(dCJD)が91人(2.5%),変異型CJD

(vCJD)が 1 人,致死性家族性不眠症

(Fatal Familial insomnia,FFI)が4人,

その他のプリオン病が 17 人だった。

dCJD の発病者は 2016 年以来認めてい ない。3639人の内,1569人(43.1%)が 男性,2070 人(56.9%)が女性だった。

(表1)

(発病者数の年次推移)

サーベイランス登録患者数と人口動態調 査によるプリオン病の死亡者数の推移を 1に示した.わが国の人口動態統計の 死因分類として使用されている第 10 修正国際疾病分類(ICD-10th)では,プ リオン病はA81.0(クロイツフェルト・ヤ コブ病)とA81.8(中枢神経系のその他の 非定型ウィルス感染症)に該当する。図1 に示す死亡数は,このどちらかの病名(コ ード)が主治医によって死亡診断書に記 載された死亡者の総数を意味している。

プリオン病はほとんどの症例が発症から 短期間で死亡するため,暦年ごとの発病 者数と死亡者数は近似すると考えている。

2000年以降,サーベイランスによる発病 者数は増加傾向である.2013 年と 2014 年の発病者数が最も多く,285人だった.

1内の2019 年度の増加数の分布から 分かるように,新規患者の情報がCJD ーベイランス委員会に提供され,プリオ ン病と認定されるまで,早くて半年,長く て数年の期間を要する。

(罹患率の年次推移)

発病者数の増加に伴い,罹患率は年々上 昇している.(図2)発病者数が最も多か

(4)

22 った2013年と2014年の罹患率は2.3(人 100万人対年間)だった。罹患率は2011 年から 2.0 を超えている。一方で年齢調 整罹患率は 2011 年以降も 1.0 程度で推 移している。

年齢階級別に罹患率を観察したところ,

罹患率の上昇は 60 歳以上の高齢者で顕 著であり,59歳以下の若年者では罹患率 はほぼ横ばいであった。(図3)

(診断の確実度)

WHO 分類に基づく主な病型ごとの診断 の確実度を図4に示す。診断の確実度は プリオン病全体では確実例とほぼ確実例

87.7%と占めているが,確実例の割合

12.0%と低かった。dCJD では確実例 の割合がその他の病型と比較して高かっ た。

(発病時の年齢)

発病時の年齢の中央値(四分位範囲)は,

sCJDでは70 歳(64~77歳),vCJD 48歳,dCJDでは62歳(49~69歳),

gCJDでは75歳(67~81歳),GSSでは 56歳(49~61歳),FFIでは55.5歳(48~75 歳)だった.(図5)GSSdCJDでは発 病時の年齢がやや若い傾向が認められた。

ただし dCJDの発病時年齢は,硬膜を移 植した年齢と異常プリオンの潜伏期間に 依存する。

(生存期間と無動性無言までの期間)

20199月までに3476人の死亡が確認 されている。発病から死亡までの期間(月)

の中央値(四分位範囲)はsCJDでは13.1 か月(6.0~23.3か月)、vCJDでは42.4

月,dCJDでは14.2か月(10.0~25.8 月),gCJDでは18.5か月(9.4~33.7 月),GSSでは63.7か月(37.9~95.5 月),FFIでは12.5か月(8.1~63.2か月)

だった。(図6)

プリオン病では無動性無言が病態の終末 像とみなされる。無動性無言に至るまで の期間(月)の中央値(四分位範囲)は,

sCJDでは3か月(2~4か月)、vCJD 23 か月,dCJD では4 か月(2~7 月),gCJDでは5か月(3~10か月),GSS では14か月(6~48.8か月)だった。(FFI 症例の無動性無言までの期間は不明)

D.考察

プリオン病の発病者数の年次推移は,諸

外国1-3)では概ね横ばいであるのに対し,

わが国では増加傾向にある。わが国にお けるプリオン病罹患率の上昇は高齢者で 顕著であり,新たな検査法の導入やCJD サーベイランス委員会による診断支援体 制の確立などにより,以前は診断がつか ずに死亡していた高齢者の進行性認知症 が,適切にプリオン病と診断されるよう になったことが罹患率上昇の主な要因と 考えられる。したがって,わが国における プリオン病罹患率の上昇は,患者の真の 増加ではなく,全国の神経内科医の間で プリオン病の認知が向上してきたためと 解釈するのが自然である4)。実際に,近 年では CJD サーベイランス委員会に報 告される症例数も増加傾向にある。

人口動態調査では近年も死亡者数は増加 しており,サーベイランスによる発病者 数も後を追って増加してくると予想され る。2005年ごろから発病者数と死亡者数

(5)

の差がほぼなくなり,2009年には発病者 数が死亡者数を上回るようになった。こ の傾向は,サーベイランスの患者捕捉率 が上昇してきていることを示している。

近年では 9割以上補足できていると推察 できる。主治医から適切に患者情報が CJD サーベイランス委員会に提供され,

正確にプリオン病と確定診断(あるいは 除外診断)されるようになってきている ことが伺える。

European Creutzfeldt-Jakob Disease Surveillance Network (EUROCJD)は,

EU諸国における国ごとのCJD死亡数の 年次推移を公開している1)。世界全体に おいて近年,プリオン病患者数の増加を 明確に示した国は,わが国と米国の 2 だけである。英国や米国では,独自のサー ベイランスシステムを構築し,CJDの発 病動向を監視している2,3)。ただし,こ れらのサーベイランスシステムは本邦の ものとは異なり,基本的には死亡例のみ を扱っている。わが国のサーベイランス では,3つの情報源(B.研究方法を参照)

をもとに直接,主治医と対象患者に調査 協力を依頼し,同意が得られた症例の追 跡調査を行っている。本研究は厳密には

「疾病サーベイランス事業」ではなく「疾 病登録事業」である。プリオン病の疾病登 録事業を行っている国はわが国以外に存 在しない。追跡調査により,発病から死亡 までの期間の分析だけでなく,臨床症状 や検査所見の詳細を把握することが可能 である.この点は本邦のプリオン病デー タベースの大きな特徴といえる。

CJDサーベイランス委員会には次の2 の課題がある。ひとつは,剖検率が低く,

確実例の割合が低いことである。プリオ ン病の確定診断は病理所見によってなさ れるため,剖検率の向上は重要な課題で ある.最近では剖検率の向上をめざして,

様々な支援や取り組みが積極的に試みら れている。

もうひとつの課題は,dCJD 発生の監視 である.1987年以降,ヒト乾燥硬膜に1 規定水酸化ナトリウムの処理が行われる ようになった以降も,少数ではあるが dCJD患者の発病が認められる5) 。これ までの調査から得られた潜伏期間を併せ て考えると,ピークは過ぎていると推測 できるが,今後も国内でdCJDの患者が 発病することが推察される。dCJD の発 病監視と追跡は,引き続きCJDサーベイ ランス委員会の重要な課題と言える。

E.結論

全国サーベイランスのデータベースを用 いて,わが国におけるプリオン病の疫学 像を明らかにした。患者数はまだ増加傾 向にあり,サーベイランスの継続が必要 である。

【参考文献】

1) EUROCJD:http://www.eurocjd.ed.ac.

uk/

2) THE NATIONAL CJD RESEARCH

& SURVEILLANCE UNIT (NCJDRSU):

http://www.cjd.ed.ac.uk/surveillance 3) National Prion Disease Pathology

SurveillanceCenter:

(6)

24 http://case.edu/med/pathology/center s/npdpsc/

4) Nakamura Y,Ae R,Takumi I,et al.Descriptive epidemiology of prion disease in Japan:1999-2012.

J Epidemiol.2015;25:8-14.

5) Ae R, Hamaguchi T, Nakamura Y, et al. Update: Dura Mater Graft- Associated Creutzfeldt-Jakob Disease — Japan, 1975–2017.

MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2018;67:274-278.

F.研究発表 1.論文発表 なし

2.学会発表

1) 小佐見光樹,阿江竜介,中村好一,牧 野伸子,青山泰子,松原優里,浜口 毅,山田正仁,水澤英洋.全国サーベ イランスに基づくわが国のプリオン病 の記述疫学(1999-2019).第30回日 本疫学会学術総会(2020220 -222日,京都),Journal of Epidemiology. 2020;30(supplement 20):115.

G.知的財産権の出願・登録状況 1.特許取得

なし

2.実用新案登録 なし

3.その他

なし

参照

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