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屈曲位 中間位 伸展位

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2014年度新潟リハビリテーション大学大学院修士論文

若年健常者の頸部角度変化が最大口唇閉鎖力と最大舌圧に及ぼす影響

Influence of Changes in the Neck Angle on the Maximal Lip Closure Strength and Tongue Pressure in Young Healthy Subjects

新潟リハビリテーション大学大学院 リハビリテーション研究科 リハビリテーション医療学専攻

摂食・嚥下障害コース 学籍番号 G12002

中山 正

指導教員 山村 千絵 教授

提出日 2015年 1月 23 日

(2)

Niigata University of Rehabilitation Graduate School of Rehabilitation

Master’s Thesis in 2014

Influence of Changes in the Neck Angle on the Maximal Lip Closure Strength and Tongue Pressure in Young Healthy Subjects

Department of Eating Disorder and Dysphagia Graduate School of Rehabilitation

Niigata University of Rehabilitation

University Register Number G12002 Tadashi Nakayama

Advisor Chie Yamamura

Date of Submission January 23,2015

(3)

(4)

修士論文の要旨

学位の種類 修 士 氏 名 中山 正

修士論文課題

若年健常者の頸部角度変化が最大口唇閉鎖力と最大舌圧に及ぼす影響

研 究 目 的

摂食嚥下障害者の中には、口唇閉鎖力や舌圧の低下が原因で摂食嚥下に困難 を生じている人たちがいる。彼らの口唇閉鎖力や舌圧を、間接訓練によって増 加させると嚥下機能が改善(むせや誤嚥の防止等)するとの報告がある。一方、

嚥下障害者の食事中に考慮すべき重要な項目のひとつに、頭頸部・体幹等の姿 勢調整があり、頭頸部の姿勢としては頸部屈曲位に設定されることが多い。し かし、この姿勢をとることで、円滑な嚥下を助けるために必要な口唇閉鎖力や 舌圧を効果的に発揮できるかどうかについては不明である。本研究では、頸部 屈曲位が、口唇閉鎖力や舌圧を効果的に発揮できる姿勢かどうかについて、安 全性を鑑みて若年健常成人を用いて定量的に検討することとした。

対 象・方 法

対象は健常成人男女 30 名(男性 15 名、女性 15 名、平均年齢 27.0±6.0 歳)

とした。被験者は端座位とし、頸部の姿勢は、中間位、屈曲位、伸展位のいず れかをとらせ、口唇閉鎖力測定器「リップデカムR/LDC-110・コスモ計器社製」

および舌圧測定器「TPM-01・JMS 社」を用いて、最大口唇閉鎖力、最大舌圧を 測定した。実験手順は以下の通りである。

変動係数の測定:基準姿勢(中間位)における最大口唇閉鎖力と最大舌圧に ついて、9 回連続測定時の変動係数を通法通りに求めた。

客観的測定(口唇閉鎖力と舌圧):各頸部姿勢における最大口唇閉鎖力と最大 舌圧を 3 回ずつランダムに測定し、そのうちの最大値を測定値とした。

主観的スケール(「口唇の閉じやすさ」と「舌の力の入れやすさ」):「口唇の 閉じやすさ」「舌の力の入れやすさ」を1~10 のスケールを用いて主観的に回答

(5)

させた。

統計学的解析には Grapah Pad Prism 5J を用いた。①中間位での最大口唇閉 鎖力と最大舌圧の平均値を男女間で比較するため、対応のない 2 群の t 検定を 実施した。②最大口唇閉鎖力と最大舌圧を 3 つの姿勢間で比較するため、One-way ANOVA を実施した。③個人ごとの最大口唇閉鎖力と最大舌圧を姿勢間で比較す るため、One-way ANOVA を実施した。さらに有意差が認められたケースに対し ては Tukey の多重比較検定を行い、有意水準は 5%とした。

さらに、客観的測定と主観的スケールの対応、口唇閉鎖力と舌圧の相関、口 唇閉鎖力(あるいは舌圧)と生体計測の相関、「口唇の閉じやすさ」(あるいは「舌 の力の入れやすさ」)と生体計測についても調べた。

結 果

変動係数:口唇閉鎖力、舌圧の変動係数はともに 0.08 であった。

客観的測定(口唇閉鎖力):中間位での男性の平均値は 13.1±3.9N、女性の 平均値は 10.7±2.8N であり、男女間に有意差はなかった(p=0.226)。男女合 わせた全体で、姿勢別の比較を行ったところ、屈曲位では 12.1±3.7N、中間位 では 11.9±3.5N、伸展位では 12.0±3.6N となり、姿勢の違いによる有意差はな かった(p=0.964)。個人ごとに見ると、被験者 5 人において、姿勢の違いに よる有意差が認められた。

客観的測定(舌圧):中間位での男性の平均値は 45.8±11.3kPa、女性の平 均値は 31.5±9.2kPa であり、男性の方が有意に大きかった(p<0.001)。男女 に分けて、姿勢別の比較を行ったところ、男性では、屈曲位で 46.1±11.5kPa、

中間位で 45.8±11.3kPa、伸展位で 45.8±9.9kPa となり、姿勢の違いによる有 意差はなかった(p=0.996)。女性では、屈曲位で 31.4±9.7kPa、中間位で 31.5

±9.2kPa、伸展位 30.7±9.7kPa、となり、姿勢の違いによる有意差はなかった

(p=0.967)。個人ごとに見ると、被験者 4 人において、姿勢の違いによる有 意差が認められた。

主 観的 ス ケ ー ル (「 口 唇の 閉 じ や すさ 」): 男女 間 に 有 意 差 は な かっ た ( p=

0.476)。男女合わせた全体で、姿勢別の比較を行ったところ、中間位が伸展位 より有意に閉じやすいと感じる結果となった(p<0.01)。

主観的スケール(「舌の力の入れやすさ」):中間位での「舌の力の入れやすさ」

(6)

は、男女間に有意差はなかった(p=0.828)。男女合わせた全体で、姿勢別の比 較を行ったところ、中間位(p<0.01)や屈曲位(p<0.05)が伸展位より有意 に力を入れやすいと感じる結果となった。

客観的測定値と主観的スケールの対応:口唇閉鎖力と「口唇の閉じやすさ」

および舌圧と「舌の力の入れやすさ」の一致率は、ともに 16.66%であった。

口唇閉鎖力と舌圧の相関:スピアマン順位相関係数は 0.247 となり、相関は なかった(p=0.188)。

口唇閉鎖力と生体計測の相関:口唇閉鎖力と全頭高に弱い相関が認められた

(rs=0.363、p<0.05)。

舌圧と生体計測の相関:舌圧と身長(rs=0.628、p<0.001)、全頭高(rs=0.595、

p<0.001)、頬骨弓幅(rs=0.437、p<0.05)に相関が認められた。

「口唇の閉じやすさ」(「舌の力の入れやすさ」)と生体計測:「口唇の閉 じやすさ」と「舌の力の入れやすさ」には、どの生体計測の項目とも相関が認 められなかった。

考 察

最大口唇閉鎖力と最大舌圧の変動係数は、いずれも 0.08 と、比較的安定した 測定が行えていたと考えられる。また、それらの測定値は、先行研究の測定値 と大きくかけ離れていなかったことより、データーは適切に採取されたと考え られる。

姿勢別の口唇閉鎖力、舌圧の測定では、ともに、姿勢間で測定値に有意差は 認められなかった。中間位から屈曲位へと姿勢を変えても、最大圧が低くなる ことはないことから、安全面から屈曲位をとらせた場合も、伸展位も含めた他 の姿勢と同程度の最大圧が発揮できると考えられた。

本研究では、被験者への負担を考慮し、測定は最大舌圧のみとした。しかし、

最大舌圧と嚥下時舌圧とでは異なるふるまいをすることがあると言われている ことから、総合的に摂食嚥下機能への影響を考慮する際には、両方の圧を、同 実験系で測定し比較することが望ましいと思われた。今後、検討していきたい。

なお、個人ごとに調べた結果では、本研究でも、姿勢による有意差が見られ た被験者がいた。人によっては、力が発揮しにくい姿勢がある場合もあるので、

臨床では、可能であるならば、姿勢を変えながら患者の口唇閉鎖力や舌圧を測

(7)

定していき、変化がみられる時は、考慮が必要になってくる場合もあると考え る。

客観的測定値と主観的スケールの一致率は、低かった。測定値と被験者の主 観に対応が見られなかったことから、臨床では、患者の訴えだけを手掛かりに して判断するべきではないことが強調された。

結 論

頸部姿勢に関係なく、口唇閉鎖力や舌圧はどの姿勢でも、ほぼ同じであった。

また、客観的測定値と主観的スケールの不一致から、口唇が閉じやすい、舌に 力を入れやすいと感じる姿勢が、大きな力を出すことのできる姿勢であるとは 限らないことも明らかになった。臨床現場では、患者の主観に頼るのみでなく、

実際に機能測定を行い、口唇閉鎖力や舌圧をより効果的に発揮できる頸部 姿勢 を設定することが望ましいであろう。

(8)

目次

緒言---9

対象---10

方法---10

1.測定姿勢---10

2.測定方法---10

2-1)変動係数の測定---11

2-2)客観的測定(口唇閉鎖力と舌圧)---11

2-3)主観的スケール(「口唇の閉じやすさ」と「舌の力の入れやすさ」--12

3.データ解析と統計学的検討---12

3-1)客観的測定(口唇閉鎖力と舌圧)---12

3-2)主観的スケール---12

3-3)客観的測定値(口唇閉鎖力と舌圧)と主観的スケールの対応---12

3-4)口唇閉鎖力と舌圧の相関---12

3-5)口唇閉鎖力と生体計測の相関---13

3-6)舌圧と生体計測の相関---13

3-7)「口唇の閉じやすさ」と生体計測---13

3-8)「舌の力の入れやすさ」と生体計測---13

結果---13

1.変動係数---13

2.客観的測定---13

2-1)口唇閉鎖力---13

2-2)舌圧---14

3.主観的スケール---14

3-1)「口唇の閉じやすさ」---14

3-2)「舌の力の入れやすさ」---14

4.客観的測定値と主観的スケールの対応---15

5.口唇閉鎖力と舌圧の相関---15

6.口唇閉鎖力と生体計測の相関---15

7.舌圧と生体計測の相関---15

(9)

8.「口唇の閉じやすさ」と生体計測---15

9.「舌の力の入れやすさ」と生体計測---15

考察--- 16

1.頸部姿勢---16

2.最大口唇閉鎖力と最大舌圧の測定時間と測定回数---17

3.変動係数の測定---17

4.口唇閉鎖力および舌圧測定値の妥当性---18

5.姿勢変化と口唇閉鎖力、舌圧---19

6.客観的測定値と主観的スケールの対応---20

7.口唇閉鎖力と舌圧の相関---20

8.客観的測定と生体計測の相関---21

9.臨床応用としての有用性と今後の課題---21

結論---22

引用文献---24

謝辞---28

図---29

Abstract---44

(10)

緒言

摂食嚥下障害者の中には、口腔期の問題として、口唇閉鎖力や舌圧、咀嚼や 嚥下に困難を生じている人たちがいる 1)。彼らに、口輪筋や舌筋を鍛える間接 訓練を行ったところ、むせや誤嚥が顕著に減少し、摂食嚥下機能が改善したと の報告がある 2-6)。これらの研究では、例えば、被験者にラビリントレーナー(コ ンビウェルネス株式会社)という、大きなおしゃぶりのような訓練器具を吸わ せる訓練を行わせており、訓練の継続により、口唇閉鎖力や舌圧が上昇したこ とが示されている 2-6)。摂食嚥下の間接訓練は、筋力改善と運動改善の原則に従 って行われるが、目的の機能を改善させるには、より実際の運動に近い運動を 十分な負荷をかけ、一定期間継続して行わせることが必須であると言われてい る 7)

一方、摂食嚥下障害者の食事中に考慮すべき重要な項目のひとつに、頭頸部・

体幹等の姿勢調整がある。中でも頭頸部の姿勢は機能解剖学的に 8 種類(頭部 屈曲、頭部伸展、頸部屈曲、頸部伸展、複合屈曲、複合伸展、頸部回旋、頸部 側傾)に分けられ、姿勢ごとに摂食嚥下に際して異なる機能的な意味を持つと の報告がある 8-11)。食事中の頭頸部の姿勢については、個々の症例に応じて調 節の必要があるとされているが、頸部屈曲位に設定されることが多い。この姿 勢は主に、気道と食道の位置関係(角度)の観点から、誤嚥を防いだり、嚥下 後咽頭残留を減少させたりすることができる等の理由から採用される 12)。しか し、この姿勢をとることで、円滑な嚥下を助けるために必要な口唇閉鎖力や舌 圧を、十分効果的に発揮できるかどうかについては、不明である。近年、摂食 嚥下機能と頭頸部の姿勢の関係について調べた研究では、頭位を前傾 30°、中 間位、後傾 30°に変化させ、パン摂取時の口輪筋を含む口腔周囲筋筋活動の協 調パターンの違いをみた研究 13)や、中間位、頭部屈曲、頸部屈曲、複合屈曲位 での水分嚥下時の舌圧と舌骨上筋群活動について調べた研究 14)がみられるもの の、頭頸部の角度の違いと最大口唇閉鎖力や最大舌圧との関係について、定量 的に調べた研究は、著者が知る限り存在しない。

本研究では、摂食嚥下障害者の食事中の頭頸部姿勢として設定されることの 多い頸部屈曲位が、口唇閉鎖力や舌圧を効果的に発揮できる姿勢かどうかにつ いて、安全性を鑑みて若年健常成人を用いて定量的に検討することとした。

(11)

10

対象

被験者候補は、新潟リハビリテーション大学の学部生、大学院生、教職員お よび医療法人新成医会・総合リハビリテーションセンター・みどり病院(新潟 市中央区神道寺)リハビリテーション部スタッフの中から選出した。被験者候 補に対しては事前にアンケートを実施し、唇・舌をはじめとする顎口腔領域に、

機能的・器質的な異常のない者、かつ、頸部のほか姿勢維持に関わる脊椎や脊 髄に疾患がない者、さらに脳血管障害等を有しない、健常若年者を実験の対象 として抽出した。対象者には、本研究の趣旨、方法、注意事項等を書面および 口頭にて説明し、研究参加の同意を得られた 30 名(男性 15 名、女性 15 名)を 被験者とした。男女合わせた被験者の平均年齢は 27.0±6.0 歳であった。男女 別の平均年齢は、男性で 27.1±6.9 歳、女性で 26.9±5.2 歳であった。

方法

本研究は新潟リハビリテーション大学倫理委員会と総合リハビリテーショ ンセンター・みどり病院倫理委員会の承認を得て実施した。

1. 測定姿勢

被験者は椅子に座らせ、体幹姿勢は端座位とした。

頸部姿勢は、中間位、屈曲位 40 度(以下、屈曲位)、伸展位 40 度(以下、

伸展位)(図 1-a・b・c)のいずれかをとらせた。頸の角度は、東大型角度計

(Goniometer TTM-KO、以下、角度計 図 1)を用いて測定し、設定した。中間 位は肩峰と外耳孔を結ぶ線が床面に対して垂直となる頸部姿勢であり、これを 基準頸部姿勢とした。

2. 測定方法

すべての測定は、午後 17 時から 20 時までの時間帯に、新潟リハビリテーシ ョン大学大学院棟の摂食嚥下障害実験実習室と総合リハビリテーションセンタ ー・みどり病院言語聴覚療法室にて実施した。

実験前に、各被験者の生体計測(身長、最大頭長、全頭高、頬骨弓幅)15)を 行った。実験時の頸部姿勢は、中間位、屈曲位、伸展位の中からランダムに設 定し、各姿勢における最大口唇閉鎖力(以下、口唇閉鎖力)と最大舌圧(以下、

舌圧)を測定した。なお本研究では、舌の先端挙上運動時に硬口蓋とで生じる 圧力を舌圧とした。測定に用いた器具は、口唇閉鎖力測定器(リップデカムR

(12)

11

/LDC-110・コスモ計器 図 2)16-18)および舌圧測定器(TPM-01・JMS 社 図 3)

19-21)である。測定時間は、口唇閉鎖力、舌圧ともに、7 秒間とした 22)。さらに、

測定中の「口唇の閉じやすさ」と「舌の力の入れやすさ」について、各測定の 直後に、主観的スケール(図 4)23)を用いて回答させた。

口唇閉鎖力測定と「口唇の閉じやすさ」についての回答は同一日に行わせ、

日を改めて舌圧測定と「舌の力の入れやすさ」についての回答を同一日に行わ せた。すなわち、疲労の影響を可及的に避けるために、測定は項目別に 2 日間 に分けて実施した。

姿勢の設定や力の測定は、すべて同一の験者が行った。測定に際しては、1 回目を練習とし、2回目以降に採取された値を測定値として採用した。測定間 の休憩は3分 24)とした。以下に、実験手順の詳細を示す。

2-1)変動係数の測定

本実験でのデータ採取時には、頸部姿勢を変えながら9回連続して測定して いくので、その際に、疲労や学習の影響あるいは測定器具のセンサーの当たり 方の違い等によって測定値が変動する可能性はないか、あらかじめ調べておく 必要があった。このため、口唇閉鎖力および舌圧について、基準姿勢(中間位)

における9回連続測定時の変動係数を通法どおりに求め、値のばらつきを検討 した。

この実験では、被験者へは「これから 9 回、首の位置を変えずに、唇を閉じ ること(もしくは、舌を挙げること)をしますので、精一杯行って下さい。」と 指示を出した。

2-2)客観的測定(口唇閉鎖力と舌圧)

各頸部姿勢(中間位、屈曲位、伸展位)における口唇閉鎖力と舌圧を3回ず つランダムに測定し、そのうちの最大値 25、 26)を測定値として採用した。

口唇閉鎖力測定器は、測定器のセンサー部に口唇の台座「ダックリン」を装 着し、被験者に台座をくわえてもらい、上下顎の歯を咬合させない状態で、上 唇と下唇を最大の力で閉鎖させ測定した。また、舌圧は測定器のプローブ先端 にあるバルーン基部の硬質リング部を上下切歯で軽く噛んで固定させ、バルー ンを舌の先端と硬口蓋間に挟んで、最大の力で口蓋に向かって圧迫させ測定し た。

(13)

12

被験者へは「これから 9 回、首の位置を変えて、唇を閉じること(もしくは、

舌を挙げること)をしますので、精一杯行って下さい。」と指示を出した。

2-3)主観的スケール(「口唇の閉じやすさ」と「舌の力の入れやすさ」)

「口唇の閉じやすさ」と「舌の力の入れやすさ」について、1~10 のスケール を用いて主観的に回答させた。その際、時間をかけずに直感で回答させるよう にした。

3. データ解析と統計学的検討

統計学的検討には統計解析用ソフトウエア Prism 5J(Gragh Pad 社)を使用 した。

3-1)客観的測定(口唇閉鎖力と舌圧)

口唇閉鎖力と舌圧に関し、①基準姿勢である中間位での平均値を男女間で比 較するために、対応のない 2 群の t 検定を実施した。②3 つの姿勢間で平均値 を比較するために、One-way ANOVA を実施した。③個人別の値を3つの姿勢間 で比較するために、One-way ANOVA を実施した。さらに有意差が認められたケ ースに対しては Tukey の多重比較検定を行った。有意水準は 5%とした。

3-2)主観的スケール

「口唇の閉じやすさ」と「舌の力の入れやすさ」に関し、①基準姿勢である 中間位での平均値を男女間で比較するために、対応のない 2 群の t 検定を実施 した。②3 つの姿勢間で平均値を比較するために、One-way ANOVA を実施した。

さらに有意差が認められた項目に対しては Tukey の多重比較検定を行った。有 意水準は 5%とした。

3-3)客観的測定(口唇閉鎖力と舌圧)と主観的スケールの対応

本研究では、口唇閉鎖力(あるいは舌圧)が高かった姿勢の順番が、A 姿勢、

B 姿勢、C 姿勢(A,B,C は、中間位、屈曲位、伸展位のいずれか)だった時に、

「口唇の閉じやすさ」(あるいは「舌の力の入れやすさ」)の点数が高かった姿 勢の順番も、A 姿勢、B 姿勢、C 姿勢というふうに、完全に一致した場合に、

「客観的測定値と主観的スケールに対応あり」と定義した。そして、全施行に 対する「対応あり」の施行の割合を求め、これを便宜的に「一致率」とした。

3-4)口唇閉鎖力と舌圧の相関

口唇閉鎖力の大きい被験者は舌圧も大きく、口唇閉鎖力が小さい被験者は舌

(14)

13

圧も小さいのか、両者の値の相関を知るために、中間位の姿勢をとらせた、異 なる被験者における口唇閉鎖力と舌圧について、スピアマン順位相関係数を求 めた。

3-5)口唇閉鎖力と生体計測の相関

口唇閉鎖力の大小と生体計測(身長、最大頭長、全頭高、頬骨弓幅)値の大 小の間に相関があるかを調べるため、両者間のスピアマン順位相関係数を求め た。

3-6)舌圧と生体計測の相関

舌圧の大小と生体計測(身長、最大頭長、全頭高、頬骨弓幅)値の大小の間 に相関があるかを調べるため、両者間のスピアマン順位相関係数を求めた。

3-7)「口唇の閉じやすさ」と生体計測

「口唇の閉じやすさ」と生体計測(身長、最大頭長、全頭高、頬骨弓幅)値 の大小の間に相関があるかを調べるため、両者間のスピアマン順位相関係数を 求めた。

3-8)「舌の力の入れやすさ」と生体計測

「舌の力の入れやすさ」と生体計測(身長、最大頭長、全頭高、頬骨弓幅)

値の大の間に相関があるかを調べるため、両者間のスピアマン順位相関係数を 求めた。

結果 1. 変動係数

口唇閉鎖力の変動係数(全員分の平均値)は 0.08 であった。うち、男性のみ の値から求めた変動係数は 0.07、女性のみの値から求めた変動係数は 0.09 で あった。舌圧の変動係数(全員分の平均値)は 0.08 であった。うち、男性のみ の値から求めた変動係数は 0.07、女性のみの値から求めた変動係数は 0.10 で あった。

2. 客観的測定 2-1)口唇閉鎖力

中間位での男性の平均値は 13.1±3.9N、女性の平均値は 10.7±2.8N であり、

男女間に有意差はなかった(p=0.226)(図 5)。性差がなかったので、男女合 わせた全体で、姿勢別の比較を行ったところ、屈曲位では 12.1±3.7N、中間位

(15)

14

では 11.9±3.5N、伸展位では 12.0±3.6N となり、姿勢の違いによる有意差は なかった(p=0.964)(図 6)。そこで、個人ごとに姿勢別の比較を行ったとこ ろ、被験者 1、3、16、22、26 において、姿勢の違いによる有意差がみられた(図 7)。被験者 1 と 26 では屈曲位の値が伸展位の値より有意に大きかった(p<0.05)。

被験者 3 では伸展位の値が中間位と屈曲位の値よりも有意に大きかった( p<

0.001)。被験者 16 では中間位の値が伸展位の値より有意に大きかった( p<

0.05)。被験者 22 では伸展位の値が屈曲位の値より有意に大きかった(p<0.05)。

2-2.舌圧

中間位での男性の平均値は 45.8±11.3kPa、女性の平均値は 31.5±9.2kPa で あり、男性の方が有意に大きい値となった(p<0.001)(図 8)。性差が見られ たので、男女に分けて、姿勢別の比較を行った。男性では、 屈曲位で 46.1±

11.5kPa、中間位で 45.8±11.3kPa、伸展位で 45.8±9.9kPa、となり、姿勢の違 いによる有意差はなかった(p=0.996)(図 9-a)。女性では、屈曲位で 31.4±

9.7kPa、中間位で 31.5±9.2kPa、伸展位 30.7±9.7kPa、となり、姿勢の違いに よる有意差はなかった(p=0.967)(図 9-b)。そこで、個人ごとに姿勢別の比 較を行ったところ、被験者 10、16、21、29 において、姿勢の違いによる有意差 がみられた(図 10)。被験者 10 では伸展位の値が中間位と屈曲位の値よりも有 意に大きかった(p<0.05)。被験者 16 では屈曲位の値が中間位の値より有意に 大きかった(p<0.01)。被験者 21 では中間位と伸展位の値が屈曲位の値より有 意に大きかった(p<0.05)。被験者 29 では中間位の値が屈曲位(p<0.05)や 伸展位(p<0.01)の値より有意に大きかった。

3.主観的スケール

3-1.「口唇の閉じやすさ」

中間位での「口唇の閉じやすさ」は、男性平均 6.7±1.7、女性平均 6.3±1.7 であり、男女間に有意差はなかった(p=0.476)。性差がなかったので、男女合 わせた全体で、姿勢別の比較を行ったところ、中間位が伸展位より有意に閉じ やすいと感じる結果となった(p<0.01)(図 11)。

3-2.「舌の力の入れやすさ」)

中間位での「舌の力の入れやすさ」は、男性平均 7.0±1.5、女性平均 6.9±

1.8 であり、男女間に有意差はなかった(p=0.828)。性差がなかったので、男

(16)

15

女合わせた全体で、姿勢別の比較を行ったところ、中間位(p<0.01)や屈曲位

(p<0.05)が伸展位より有意に力を入れやすいと感じる結果となった(図 12)。

4.客観的測定値と主観的スケールの対応

客観的測定値と主観的スケールの一致率は、口唇閉鎖力と「口唇の閉じやす さ」および舌圧と「舌の力の入れやすさ」ともに 16.66%であった。姿勢によ る客観的測定値に有意差があった被験者のみに注目すれば、口唇閉鎖力と「口 唇の閉じやすさ」の一致率は 20%、舌圧と「舌の力の入れやすさ」の一致率は 50%であった。

5.口唇閉鎖力と舌圧の相関

中間位での口唇閉鎖力と舌圧のスピアマン順位相関係数は 0.247 となり、相 関関係はなかった(p=0.188)(図 13)。

6.口唇閉鎖力と生体計測の相関

中間位での口唇閉鎖力と生体計測(身長、最大頭長、全頭高、頬骨弓幅)の スピアマン順位相関係数を求めたところ、口唇閉鎖力と全頭高に弱い相関関係 が認められた(rs=0.363、p<0.05)(図 14)。

7.舌圧と生体計測の相関

中間位での舌圧と生体計測(身長、最大頭長、全頭高、頬骨弓幅)のスピア マン順位相関係数を求めたところ、舌圧と身長(rs=0.628、p<0.001)(図 15-a)、

全頭高(rs=0.595、p<0.001)(図 15-b)、頬骨弓幅(rs=0.437、p<0.05)

(図 15-c)に相関関係が認められた。

8.「口唇の閉じやすさ」と生体計測

「口唇の閉じやすさ」と生体計測(身長、最大頭長、全頭高、頬骨弓幅)の スピアマン順位相関係数を求めたところ、「口唇の閉じやすさ」は、どの項目 とも相関関係が認められなかった。

9.「舌の力の入れやすさ」と生体計測

「舌の力の入れやすさ」と生体計測(身長、最大頭長、全頭高、頬骨弓幅)

のスピアマン順位相関係数を求めたところ、「舌の力の入れやすさ」は、どの 項目とも相関関係が認められなかった。

(17)

16

考察 1.頸部姿勢

本研究では、頸部姿勢を、中間位、屈曲位 40 度、伸展位 40 度に変化させて、

口唇閉鎖力や舌圧の測定を行った。われわれが日常の食事中にとっている頸部 姿勢は、屈曲位と中間位の姿勢が多く、コップや缶ジュース、ペットボトルか らの飲水時には、伸展位が多くみられる。このように、健常者でも無意識のう ちに、頸部姿勢を中間位以外の飲食しやすい姿勢に変化させている。そして、

摂食嚥下障害者では、個々の症例に応じて、頸部姿勢を調節しながら訓練や飲 食を行わせており、とりわけ、頸部屈曲位に設定される症例が多い。リクライ ング位での摂食では、頸部を屈曲したまま顎をやや突出させる頸部前屈突出位 がとられることもある 12)

ここで屈曲位に着目すると、頭頸部は、軸椎-環椎関節の上位頸椎と、第 3

~7 頚椎までの下位頸椎の 2 ヵ所で屈曲が可能なため 7)、機能解剖学的に、頭 部屈曲位、頸部屈曲位、両者の複合である複合屈曲位に分類される 8-9)。そし て、摂食嚥下の臨床にあっては、それらの姿勢をきちんと区別して考えること が重要であると言われている。設定されることの多い頸部屈曲位では、前頸部 の緊張がゆるみ、喉頭蓋谷が広がるため、嚥下前誤嚥の防止効果が高くなると 言われているが、複合屈曲位では、かえって飲みにくいことがあると言われて いる 12)

本研究における屈曲位は、食事や訓練場面で多く用いられる頸部屈曲位とし た。頭部屈曲位や複合屈曲位は、臨床でも、あまり用いられない 8-9)。さらに、

本研究では、屈曲角度を 40 度に設定した。頸部の運動範囲は、日本整形外科学 会と日本リハビリテーション学会の参考可動域角度によれば、屈曲位が 60 度、

伸展位が 50 度とされている 27)。これを鑑み、最大可動域より小さい角度範囲 内で、40 度を採用した。実際の臨床場面でも、体幹の姿勢にもよるが、頸部屈 曲 0~40 度程度に設定して、食事や訓練を行わせる事が多い。本研究で設定し た屈曲位 40 度というのは、その中でも大きく屈曲させた位置に相当する。

一方、伸展位の角度も屈曲位の角度と合わせるために、40 度とした。乾らが、

頸部角度を変えて嚥下時嚥下筋と頸部筋の筋活動を調べた研究では、「伸展位 40 度は嚥下しにくい(が嚥下可能)」との結果が報告されている 23)。したが

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って、伸展位 40 度も、嚥下可能な伸展位の最大角度に近いであろうと予想され る。なお、伸展位は、嚥下障害者の訓練や食事の場面で設定されることは少な いが、屈曲位と相対する姿勢であるため、口唇閉鎖力や舌圧の大きさに変化が みられるかもしれないと考え、本研究における測定姿勢に含めることにした。

2.最大口唇閉鎖力と最大舌圧の測定時間と測定回数

本研究では、口唇閉鎖力と舌圧の測定時間は7秒に設定した。口唇閉鎖力を 測定した過去の研究において、野呂ら 18)の報告では測定時間は記載されておら ず、中田ら 28、 29)の報告では 30 秒とされている。舌圧を測定した研究では、武 内ら 21)や西尾 30)らの報告において、約 5~7 秒との記載がある。口唇閉鎖力と 舌圧の両方を測定した、吉川ら 22)の報告では、いずれも7秒とされている。以 上を鑑み、本研究でも口唇閉鎖力と舌圧の両方を測定することから、吉川ら 22)

の報告を参考に、両者の測定時間を7秒に揃えて実施することにした。事前に、

30 秒などの長い測定時間で試してみたところ、被験者への負担が大きいと感じ られた。負担や疲労の影響が少ないデータを得るためにも、7秒は妥当であっ たと考えられる。

測定回数については、本研究では、口唇閉鎖力、舌圧とも 3 回ずつとし、3 回の測定値の最大値を解析対象の値として採用した。この方法は、大矢ら 25)や 福岡ら 26)の報告と同じ方法である。

3.変動係数の測定

本研究において、姿勢別に有意差のある測定値が記録された場合でも、その 背景に疲労や学習の影響、あるいは、測定器具のセンサーの当たり方の違い等 が隠れていて、真の変化を増強もしくは減弱させていないか等を、あらかじめ 調べておくことは、測定値の信憑性を高めるために必要と考えられた。そこで、

予備実験において、変動係数を求めることにした。変動係数は、全試行の値の 標準偏差を平均値で割って算出する。体育や理学療法の領域においても、筋持 久力の評価方法のひとつとして、変動係数が用いられている 31、 32)。そして、

変動係数を用いた評価方法が、他の評価方法(たとえば、最大ピークトルク法 や平均ピークトルク法)よりも妥当性が高いことが報告されている 31、 32)

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福井ら33)が、高齢者の最大口唇閉鎖力と最大舌圧を 5 回ずつ測定した時の変 動係数は、それぞれ 0.38,0.10 であったと報告されている。さらに、冨田ら 34)

が成人男女で最大口唇閉鎖力を測定した際の変動係数は、男性で 0.16、女性で 0.12 であったと報告されている。本研究では、被験者の年齢や測定回数など の実験条件は異なるが、最大口唇閉鎖力と最大舌圧の変動係数は、いずれも 0.08 と、福井らや冨田らの報告より小さい値となり、比較的安定した測定が行えて いたことが推察される。すなわち、疲労や学習、あるいは測定器具のセンサー の当たり方の違い等について、測定値への影響は、わずかであり、測定値の解 析にあたって考慮しなくてよいレベルであったと考えられた。

4.口唇閉鎖力および舌圧測定値の妥当性

前田ら35)は、163 名の若年者(平均 23.0±1.0 歳)で、フランクフルト平面 が床面に平行になる姿勢で口唇閉鎖力を測定しており、男性で 11.1±4.1N、女 性で 7.6±2.8N と、男性の方が有意に高かったと報告している。本研究でも、

中間位における口唇閉鎖力について、性差は有意なレベルではなかったものの、

男性の平均値が 13.1±3.9N、女性の平均値が 10.7±2.8N と、男性の方が若干 大きい傾向にあった。また、本研究の測定値の方が、前田らの測定値より大き めであったが、本研究は3回測定の最大値、前田らは3回測定の平均値 を計測 値としていることによると考えられる。

舌圧測定では、Utanohara ら 20)が 20~59 歳の健常者の最大舌圧が、男性平 均で 45kPa、女性平均で 37kPa と、男性が有意に高かったと報告している。青 木ら 36)が、健常者 107 名(平均年齢 39.3±12.7 歳)を対象に最大舌圧を測定 した研究でも、男性平均 40.4±7.7kPa、女性平均 33.8±7.0kPa と、男性は女 性より有意に高く、強弱の評価判定を行う際には、性別等を考慮した方が良い と述べている。本研究でも、男性の平均値は 45.8±11.3kPa、女性の平均値は 31.5±9.2kPa であり、先行研究と同様に、男性が有意に高く、測定値も近似し ていた。

本研究の測定値が先行研究の測定値と大きくかけ離れていないことより、本 研究において、データは適切に採取されたと考えられた。さらに舌圧の解析時 は、男女分けて判定を行うことが妥当と考えられ、そのように行った。

(20)

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5.姿勢変化と口唇閉鎖力、舌圧

姿勢別の口唇閉鎖力、舌圧の測定ともに、姿勢間で測定値に有意差は認めら れなかった。すなわち、健常者が飲食時にとることが多い頸部屈曲位~中間位、

また嚥下障害者の訓練時に設定することが多い頸部屈曲位と、どの姿勢をとっ た場合も、発揮できる最大圧はほとんど変わりない結果が示された。中間位か ら屈曲位へと姿勢を変えても、最大圧が低くなることはないことから、安全面 から屈曲位をとらせた場合も、伸展位も含めた他の姿勢と同程度の最大圧が発 揮できると考えられた。当初は、屈曲位で高い値となることを予測して研究を 開始したのであったが、そのような結果とはならなかったものの、低下はみら れなかった。

一方、舌圧に関しては、先行研究で、測定時の頭頸部姿勢の変化により舌圧 測定値が変化したという報告 37)がある。この研究では、本研究で測定した最大 舌圧ではなく、嚥下時舌圧を測定し、屈曲位が中間位よりも強い力が出たと報 告している。本研究で用いた舌圧測定器では、最大舌圧とともに嚥下時舌圧を 測定することも可能であったが、被験者への負担を考慮し、測定は最大舌圧の みとした。しかし、食塊送り込み時における舌のアンカー機能を有効に発揮す るためには、最大舌圧と嚥下時舌圧の両方が重要であることが示唆されている

36)。Robbins ら 38)は、舌圧の予備能力を報告し、加齢により最大舌圧は低下す るが、嚥下時舌圧は一定であると述べている。また、最大舌圧では性別間に有 意差があるものの、嚥下時舌圧では性別間に有意差がないという報告がある 36)。 以上より、最大舌圧と嚥下時舌圧とでは異なるふるまいをすることがあること から、総合的に摂食嚥下機能への影響を考慮する際には、両方の圧を、同実験 系で測定し比較することが望ましいと思われた。今後、検討していきたい。

なお、個人ごとに調べた結果では、本研究でも、姿勢による有意差が見られ た被験者がいた。しかし、その傾向はばらばらで、一貫した方向性は見いだせ なかった。また、傾向がばらばらの理由を、生体計測値の違いと関連付けるこ ともできなかった。

このように、人によっては、力が発揮しにくい姿勢がある場合もあるので、

臨床では、可能であるならば、姿勢を変えながら患者の口唇閉鎖力や舌圧を測

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20

定していき、変化がみられる時は、考慮が必要になってくる場合もあると考え る。

6.客観的測定値と主観的スケールの対応

客観的測定値と主観的スケールの一致率は、低かった。つまり、実際に発揮 される口唇閉鎖力と「口唇の閉じやすさ」の感覚、および舌圧と「舌の力の入 れやすさ」の感覚の対応は、ほとんどみられなかったということである。過去 の研究では、口唇閉鎖力や舌圧についての客観的測定値と主観的スケールを対 応させた報告は見当たらない。他の領域での報告では、頭頸部姿勢変化による 呼吸機能および咳嗽検査と問診の結果の対応をみたもの 39)や、嚥下筋および頸 部筋の筋活動と嚥下困難感の対応をみたもの 23)などがあり、いずれの場合も、

客観的測定値と主観的スケールは、よく一致していたと報告されている。

本研究で一致しなかった明確な理由は不明であるが、口唇閉鎖力や舌圧の形 成に関与している筋群の活動の仕方、あるいは顎顔面硬組織形態の違いなどが、

被験者にさまざまなバリエーションを持った感覚を生じさせたのかもしれない。

口唇閉鎖力には、口腔周囲筋、特に口輪筋の強さが大きく影響する 40)ほか、上 下顎前歯の位置や植立方向 41、42)、また下唇形態と関連が深いこと 35)が報告され ている。舌圧形成に関与する筋としては、Palmer ら43)が舌骨上筋群の顎舌骨筋、

顎二腹筋前腹と内舌筋を挙げ、それらの筋活動と舌圧値の関連性を報告してい る。

測定値と被験者の主観に対応が見られなかったことから、臨床では、患者の 訴えだけを手掛かりにして判断するべきではないことが強調された。

7.口唇閉鎖力と舌圧の相関

本研究では、口唇閉鎖力と舌圧の有意な相関は見られなかった。先行研究では、

女性において有意な相関はなかったという報告 1)や、有意な相関があったとの 報告 44)がある。女性で相関がなかったと報告している研究 1)では、女性の口唇 閉鎖力と舌圧の値が低かったことが原因であると考察しているが、値の記載が なく詳細は不明である。臨床では、口唇閉鎖力と舌圧の両方が向上することに より嚥下能力が改善される。本研究結果のように、口唇と舌の機能圧に相関が

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21

ないのであれば、両方の機能が低い時には、口唇閉鎖訓練 45)および舌背拳上訓 練 46)の両方を実施しないと、効果的な機能向上が望めないといえる。

8.客観的測定と生体計測の相関

口唇閉鎖力と生体計測の関係では、「口唇閉鎖力と全頭高」に弱い相関が認め られた。また、舌圧と生体計測の関係では、「舌圧と身長・全頭高・頬骨弓幅」

に相関が認められた。つまり、全頭高が大きい人ほど、口唇閉鎖力も大きく、

身長・全頭高・頬骨弓幅が大きい人ほど、舌圧も大きいという結果になった。

過去の報告では、最大舌前方可動域と身長、頬骨弓幅との間に正の相関関係を 認めたというもの 47)や、口唇閉鎖力と側面顔面形態との関連48)を報告している ものがある。顎顔面口腔領域の形態や大きさが、測定値の大小に影響する場合 があることが本研究でも示された。

また、姿勢変化による測定値との関連で、本研究では、全体平均で見た場合 には、姿勢変化による口唇閉鎖力や舌圧に有意差は認められなかったが、個別 に見ると、有意差が認めたられ人が一部いた。そのような人たちに、生体計測 上の特徴がないか調べてみたが、規則性を見出すことはできなかった。被験者 数を増やし、さらに確認する必要がある。

9.臨床応用としての有用性と今後の課題

本研究の結果から、頸部姿勢は、屈曲位、中間位、伸展位に関係なく、口唇 閉鎖力や舌圧はどの姿勢でも同程度であることわかった。しかし、口唇閉鎖力 と舌圧の客観的測定値と主観的スケールの不一致から、口唇が閉じやすい、舌 に力を入れやすい姿勢で、必ずしも大きな力を出せるわけではないことも明ら かになった。臨床現場では、患者の主観に頼るのみでなく、実際に機能測定を 行い、口唇閉鎖力や舌圧をより効果的に発揮できる頸部姿勢を設定することが 望ましいであろう。

近年、歯科の分野でラビリントレーナー2-6)、パタカラ 49)、ペコぱんだ 50)な どの口唇閉鎖力や舌圧を向上させる口腔機能訓練器具が多く開発されている。

しかし、これら器具を用いて口腔機能訓練を実施する際の、頭頸部の角度を含 めた姿勢については特に指示がなく、さまざまな姿勢で使用されている。今後

(23)

22

の課題として、訓練効果を、より大きく期待できるような訓練姿勢を見出すべ く、単発ではなく、機能圧の経時的な変化を調査していきたい。

結論

食事中の頭頸部姿勢として設定されることの多い頸部屈曲位は、最大口唇閉 鎖力や最大舌圧を効果的に発揮できる姿勢かどうかについて検討するため、若 年健常者を用い、頸部屈曲位、正中位、伸展位での測定値を比較した。結果は 以下の通りであった。

1)最大口唇閉鎖力は、全体平均で見ると姿勢の違いによる有意差はなかった。

個別に見ると、30 人中 5 人に姿勢の違いによる有意差が認められたが、明確 な特徴はなかった。

2)最大舌圧は男性が女性より有意に大きかった。男女共に姿勢の違いによる有 意差はなかった。個別に見ると、30 人中 4 人に姿勢の違いによる有意差が認 められたが、明確な特徴はなかった。

3)主観的スケールである「口唇の閉じやすさ」は、中間位が伸展位よりも閉じ やすいとの回答が有意に多かった。

4)主観的スケールである「舌の力の入れやすさ」は、中間位が伸展位より、ま た屈曲位が伸展位よりも力を入れやすいとの回答が有意に多かった。

5)口唇閉鎖力の大小と「口唇の閉じやすさ」の感覚、および舌圧の大小と「舌 の力の入れやすさ」の感覚の一致率は 16.66%と低かった。

6)口唇閉鎖力と生体計測の相関では、「口唇閉鎖力と全頭高」に弱い相関が認 められた。

7)舌圧と生体計測の相関では、「舌圧と身長・全頭高・頬骨弓幅」に相関が認 められた。

頸部姿勢に関係なく、口唇閉鎖力や舌圧はどの姿勢でも、ほぼ同じであった。

また、客観的測定値と主観的スケールは一致せず、口唇が閉じやすい、舌に力

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を入れやすいと感じる姿勢が、大きな力を出すことのできる姿勢であるとは限 らないことも明らかになった。臨床現場では、患者の主観に頼るのみでなく、

実際に機能測定を行い、口唇閉鎖力や舌圧をより効果的に発揮できる頸部姿勢 を設定することが望ましいであろう。

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(29)

28

謝辞

本論文の作成にあたり、提出期限が近くに迫っても、ひとつひとつ丁寧に、

熱心に、そして最後まで考えぬくことを教えてくれました、新潟リハビリテー ション大学大学院リハビリテーション研究科科長山村千絵先生に心から感謝を 申し上げます。さらに本研究の実験に快く被験者になっていただいた新潟リハ ビリテーション大学の学部生と大学院生及び教職員、また日頃いっしょに臨床 現場で汗を流している総合リハビリテーションセンター・みどり病院のリハビ リテーション部スタッフのみなさまへ厚く御礼を申し上げます。

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図 1.頸部姿勢

図 1-a 中間位

図 1-b屈曲位 40度 図 1-c 伸展位 40 度

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30

図 2.口唇閉鎖力の測定器具

口唇閉鎖力測定器「リップデカムR/LDC-110・コスモ計器社製」

(32)

31

図 3.舌圧の測定器具

舌圧測定器「TPM-01・JMS 社」

(33)

32

図 4.主観的スケール

0 口唇が閉じにくい(舌の力が入れにくい)

1 2 3 4 5 6 7 8 9

10 口唇が閉じやすい(舌の力が入れやすい)

口唇の閉じやすさ(舌の力の入れやすさ)の Rating scale

(34)

33

図 5.中間位での男女別口唇閉鎖力の比較

NS:有意差なし。

男性:13.1±3.9(N)

女性:10.7±2.8(N)

Unpaired t test data

Male

Female 0

5 10 15 20

(N) NS

(sex)

(35)

34

図 6.姿勢別口唇閉鎖力の比較

NS:有意差なし。

屈曲位:12.1±3.7(N)

中間位:11.9±3.5(N)

伸展位:12.0±3.6(N)

屈曲位 中間位 伸展位

0 5 10 15 (N) 20

(頸部姿勢) NS

(36)

35

図 7.姿勢別の口唇閉鎖力で有意差が認められた被験者

NS:有意差なし

***:p<0.001

*:p<0.05

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18

屈曲位 中間位 伸展位

被験者1 被験者3 被験者16 被験者22 被験者26

屈曲位 vs 中間位 中間位 vs 伸展位 屈曲位 vs 伸展位

被験者1 NS NS *

被験者 3 NS *** ***

被験者 16 NS * NS

被験者 22 NS NS *

被験者 26 NS NS *

(N) (頸部姿勢)

(37)

36

図 8.中間位での男女別舌圧の比較

***:p<0.001

男性:45.8±11.3(kPa)

女性:31.5±9.2(kPa)

(kPa)

***

(sex)

(38)

37

図 9.姿勢別舌圧の比較

NS:有意差なし。

図9-a. 男性姿勢別舌圧の比較

屈曲位:46.1±11.5(kPa)

中間位:45.8±11.3(kPa)

伸展位:45.8±9.9(kPa)

NS:有意差なし。

図9-b. 女性姿勢別舌圧の比較

屈曲位:31.4±9.7(kPa)

中間位:31.5±9.2(kPa)

伸展位:30.7±9.7(kPa)

屈曲位 中間位 伸展位

0 20 40 60 80

屈曲位 中間位 伸展位

0 10 20 30 40 50 (kPa)

(kPa)

(頸部姿勢)

(頸部姿勢) NS

NS

(39)

38

図 10.姿勢別の舌圧で有意差が認められた被験者

屈曲位 vs 中間位 中間位 vs 伸展位 屈曲位 vs 伸展位

被験者 10 NS * *

被験者 16 ** NS NS

被験者 21 * NS *

被験者 29 * ** NS

NS:有意差なし

**:p<0.01

*:p<0.05

0 10 20 30 40 50 60 70

屈曲位 中間位 伸展位

10 16 21 29

(kPa) (頸部姿勢)

(40)

39

図 11.主観的スケール:姿勢別口唇の閉じやすさ

NS:有意差なし

**:p<0.01 屈曲位:5.8±2.2 中間位:6.5±1.8 伸展位:4.8±2.3

屈曲位 中間位 伸展位

0 2 4 6 8

10

**

口唇の閉じやすさ

(頸部姿勢) NS

NS

(41)

40

図 12.主観的スケール:姿勢別舌の力の入れやすさ

NS:有意差なし

**:p<0.01

*:p<0.05 屈曲位:6.7±2.8 中間位:6.9±1.6 伸展位:5.0±2.6

屈曲位 中間位 伸展位

0 2 4 6 8 10

舌の力の入れやすさ

*

**

(頸部姿勢) NS

(42)

41

図 13.口唇閉鎖力と舌圧の相関グラフ

中間位舌圧と中間位口唇閉鎖力に相関関係はない(スピアマン順位相関係数)。

0 5 10 15 20 25

0 20 40 60 80

口唇閉鎖力 舌圧

rs=0.247 n=30 p=0.188 NS

(N) (kPa)

(43)

42

図 14.口唇閉鎖力(中間位)と生体測定(全高頭)の相関

口唇閉鎖力(中間位)と全頭高に弱い相関関係が認められた(スピアマン順位 相関係数)。

20 22 24 26 28

0 5 10 15 20 25

全頭高

(N) rs=0.363

n=30 p=0.049

*:p<0.05

(cm)

(44)

43

図 15-a.舌圧(中間位)と生体測定(身長)の相関

舌圧(中間位)と身長に相関関係が認められた(スピアマン順位相関係数)。

図 15-b.舌圧(中間位)と生体測定(全頭高)の相関

舌圧(中間位)と全頭高に相関関係が認められた(スピアマン順位相関係数)。

図 15-c.舌圧(中間位)と生体測定(頬骨弓幅)の相関

舌圧(中間位)と頬骨弓幅に相関関係が認められた(スピアマン順位相関係数)。

1 4 0 1 6 0 1 8 0 2 0 0

0 2 0 4 0 6 0 8 0

身 長

rs=0.628 n=30 p=0.0002

***:p<0.001 (kPa)

2 0 2 2 2 4 2 6 2 8

0 2 0 4 0 6 0 8 0

全 頭 高

rs=0.595 n=30 p=0.0005

***:p<0.001 (kPa)

0 5 1 0 1 5 2 0

0 2 0 4 0 6 0 8 0

頬 骨 弓 幅

rs=0.437 n=30 p=0.016

*:p<0.05 (kPa)

(cm)

(cm)

(cm)

(45)

44

Influence of changes in the neck angle on the maximal lip closure strength and tongue pressure in young healthy subjects

Tadashi Nakayama

Department of Eating Disorder and Dysphagia Graduate School of Rehabilitation

Niigata University of Rehabilitation

Neck bending is sometimes recommended for the head and neck position to

prevent meal aspiration in patients with dysphagia. However, it remains

unclear whether this position effectively exerts lip closure strength and

tongue pressure necessary for smooth swallowing. In this study, basic

experiments were carried out to investigate how neck positioning would

influence lip closure strength and tongue pressure in healthy subjects.

The subjects comprised healthy adults (15 males and females each; average

age, 27 ± 6 years). They were asked to be seated and change their neck

position from the 40-degree bent position to the intermediate position to the

40-degree extended position, and the maximal lip closure strength and

(46)

45

tongue pressure were measured with a lip closure monitor

(LipDeCam®/LDC-100, Cosmo) and a tongue pressure monitor (TPM-01,

JMS). Moreover, “easiness to close lips” and “easiness to apply force to the

tongue” during measurement were subjectively evaluated in 10 grades.

(1) Lip closure strength: No gender difference was observed. Overall,

positioning yielded no significant difference. Individually, some subjects

showed a statistical difference. (2) Tongue pressure: Tongue pressure was

significantly higher in males than in females (p < 0.001). Positioning yielded

no statistical difference in either males or females. Individually, some

subjects showed a statistical difference. (3) Easiness to close lips: There was

no gender difference. Overall, it was significantly easier to close lips in the

intermediate position than in the extended position (p < 0.01). (4) Easiness

to apply force to the tongue: There was no gender difference. Overall, it was

significantly easier to apply force in the intermediate position than in the

extended position (p < 0.01) and in the bent position than in the extended

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