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自然気胸に対する胸腔鏡手術 ―再発防止に向けて ―

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Academic year: 2021

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自然気胸に対する胸腔鏡手術

再発防止に向けて

昭和大学医学部外科学講座(呼吸器外科学部門)

片岡 大輔  富田 由里  氷室 直哉 廣野 素子  野 中 誠  門倉 光隆

は じ め に

 胸腔鏡手術は呼吸器外科領域でも気腫性肺嚢胞を はじめ肺悪性腫瘍,縦隔腫瘍など多くの疾患に対し て行われている.自然気胸に対する外科的治療も現 在では胸腔鏡手術が一般的に行われている.従来の 開胸手術に比べ手術侵襲が少ないため,術後疼痛が 軽減され,早期退院,早期の社会復帰が可能となっ 1).一方で術後再発率が高いことが問題となって いる2‑4)

 現在の再発予防の取り組みを中心に自然気胸に対 する治療を述べる.

自然気胸に対する治療

 気胸では肺の虚脱の程度をレントゲン所見から軽 度虚脱,中等度虚脱,高度虚脱に分類する.軽度虚 脱症例は保存的に経過観察を行うが,中等度・高度 虚脱症例では胸腔ドレナージを行う(表 1).胸腔 ドレナージとは,胸腔内に貯留した空気,胸水を排 除し虚脱した肺を拡げる治療で,注射針を用いる穿 刺脱気と胸腔内にトロッカーカテーテルなどの胸腔 ドレーンを挿入する方法がある.自然気胸の場合,

肺からの空気の漏れは通常 2 日程度で停止するのが 一般的であるが,一度肺瘻が閉鎖しても再発するこ とも多く,20 〜 30%は 1 年以内に,最終的には約 50%が再発するといわれている.遷延する肺漏に対 しては胸膜癒着術や手術気管支閉塞術の適応とな る.胸膜癒着術はミノマイシンや OK432 など薬品 や自己血,フィブリン糊などを胸腔内に注入して臓 側胸膜に炎症を惹起し肺瘻を閉鎖する方法である.

胸膜癒着術の効果がみられず肺漏が続く場合には手 術の適応となる.しかしながら,肺漏の原因となる

ブラの存在が不明瞭の時やハイリスク症例で全身麻 酔による手術が困難な場合には繰り返し胸膜癒着術 を選択することも多い.また,同様に全身麻酔下の 手術が困難な場合には気管支閉塞術を行うこともあ 5).これは気管支鏡下にバルーンカテーテルを用 いて気管支を閉塞し責任気管支を同定し,そこに気 管支塞栓子を閉塞する方法である.側副換気が多い 場合には責任気管支の特定が困難となる.

 胸膜癒着術も気管支閉塞術も確実性に乏しい治療 である.気胸の手術には根治的な治療が求められて いるので,耐術能に問題がなければ胸腔鏡手術が選 択される.

気胸に対する外科的治療

 外科的治療には胸腔鏡下のブラ切除が一般的に行 われているが,病変に応じて結紮術,熱凝固療法,

レーザー焼灼術,シート製材の貼付,生体糊を用い た癒着療法なども行われる.従来,気胸に対する手 術適応は,1)肺漏が遷延する気胸.2)ドレナージ をしても膨張不良の肺.3)再発を繰り返す気胸.4)

血胸の合併する気胸.5)両側同時気胸.6)社会的 適応.とされてきた(表 2).自然気胸に対して胸腔 鏡下手術(Video-assisted thoracic surgery ;  VATS)

が導入されてからは CT 上でブラの存在が明らかで あれば初回発症例や肺瘻が閉鎖していても手術が施 行される症例が増えた.特に反対側にも明らかなブ ラが認められ,両側同時気胸のリスクがある症例で は,初回発症であっても積極的に手術が施行される ことが望ましいと考えられている.

 気胸に対して行われる手術には,遷延する肺漏を 止めるために行う手術と再発を予防するために行う 手術とがあり,それぞれ分けて考える必要がある.

昭和医会誌 第72巻 第

4

号〔

407‑410

頁,2012

407

特  集 呼吸器疾患の診断・治療における低侵襲性手術の現況

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片 岡 大 輔・ほか

408 高齢者では脆弱になった気腫性病変が破綻したため に発症したケースが多く,再発防止の観点よりも肺 漏を停止させることが主な目的となるため責任病変 に対する治療が優先される.癒着の奥に存在するブ ラは手前の癒着を剥離しないと切除できないことも 多いが,癒着剥離によって新たな肺瘻を作る可能性 があるため,ブラがあっても肺漏がなければ必ずし も切除手術の適応としなくてもよい.一方,若年者 に対する治療では肺漏が遷延する場合は肺瘻の閉鎖 が目的となるが,術後の再発予防も重要なので,責 任病変だけではなく,すべての気腫性病変(ブラ)

を切除の対象として考える必要がある.また,特に 25 歳未満の若年者は 25 歳以上に比べ術後再発する 可能性が有意に高く,25 歳未満の若年者に対して は手術中に何らかの再発予防策を追加して行う必要 があるとするものもいる6)

ブラの診断

 胸部エックス線写真で気胸の診断は得られるが,

ブラの局在は CT で明らかになる.マルチスライス 64 列 CT で 1 mm スライスに画像を構築しブラを 確認する.水平断だけでなく,矢状断,前額断の画 像を構築することによってブラの存在を確認しやす くなる(Fig. 1).

 術前にブラの部位,大きさ,個数などを把握して おくことが術中の見落とし防止につながる.

手術術式の選択

 胸腔内に高度な癒着が存在する場合は胸腔内への スコープや鉗子の挿入が不可能なので開胸操作を加 えなければならないこともある.したがって剥離困 難な癒着がないことが胸腔鏡手術の条件である.し かし,術前に癒着の有無を正確に診断することは困 難であり,実際には手術時に判断せざるを得ないこ とも多い.また,たとえ癒着していても,小開胸を 併用することによって剥離操作が可能であれば,剥 離したのちに胸腔鏡手術の継続が可能となる.胸腔 内の奥の病変,胸壁裏面の病変は開胸手術では視野 が得にくい部位であるが,胸腔鏡を使用することに よってそれらの病変をモニター上で確認することが できる.

 気胸の手術では胸腔鏡手術で完遂することがほと 表 1 自然気胸の手術適応

1)空気漏れの持続例 2)膨張不全肺 3)再発を繰り返す症例 4)著明な血胸 5)両側性気胸 6)社会的適応

表 2 自然気胸の程度と治療

エックス線所見 治 療

軽 度(Ⅰ度) 肺尖が鎖骨レベルまたはそれより頭側にある 肺虚脱が軽度であり臨床所見が乏しい場合は経過観察 中等度(Ⅱ度) 肺尖が鎖骨レベルより下にある 肺虚脱が中等度以上であれば,胸腔ドレナージ 高 度(Ⅲ度) 全虚脱またはこれに近いもの 肺虚脱が中等度以上であれば,胸腔ドレナージ

Fig. 1

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自然気胸に対する胸腔鏡手術

409 んどであるが,リスク回避のためや,病変の見落と しを防止するために開胸操作が必要ならば.いつで も開胸できるように器械と心の準備を忘れてはなら ない.

術中管理

 左右分離肺換気による全身麻酔が必要である.術 中に肺を膨張させたり虚脱させたりを繰り返すこと が病変の確認には必要である.気胸の手術には気管 支に対する操作がないので,ブロッカーバルーンに よる分離肺換気でもよい.また,左気胸に対して左 用の分離換気チューブを用いてもよい.

 気腫肺のなかにブラが存在する場合,ブラだけで なくその周囲に存在する気腫肺の局在を正確に把握 することが見落とし防止につながる.気腫肺の局在 を確認するためには高頻度換気が有用である.高頻 度換気下では末梢気道が拡がるため,肺を過膨張さ せなくてもブラやその周囲の気腫肺が拡張しやすく なる.縦隔側にある病変を確認するためには肺を圧 排しなければならないこともあるが,高頻度換気下 では肺を圧排した状態でもブラや気腫肺を確認しや すい.わずかな変化も見逃さないように,肺の膨張 と虚脱を繰り返しながら丹念に探すことが重要でそ の際は,金属製の鉗子の使用は避けてエンドコット ン等の綿棒を用いて愛護的に行うのがよい.

 肺を切除する際には肺を虚脱させなければならな いが,虚脱した状態では気腫肺の範囲を正確に同定 することは困難である.虚脱させた状態で気腫肺の 範囲を正確に把握することが確実な病変部の切除に 必 要 で あ る. こ れ に 対 し て は Salient  Monopolar 

Sealer(以下 SMS)(Fig.  2)の使用が効果的であ 7).SMS はある程度含気のある状態でも軽く圧排 するだけで焼灼できるため目標病変を見逃すことな く,また SMS で焼灼することによって気腫性変化 のある胸膜表面は白色調に変化して正常肺胸膜部位 との境界が明瞭となり,肺を虚脱してステープラを 用いる際にも白色調を呈した病変部の同定は容易で

(Fig.  3),病変を遺残させることや,病変部を横断 して切除してしまうような可能性は低くなる.

Fig. 2

Fig. 3

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片 岡 大 輔・ほか

410 自動縫合器

 自動縫合器は胸腔鏡手術では欠かすことができな いものである.適切に使用すれば信頼できるもので あるが,組織を多く挟みすぎた場合や,挟んだ組織 の厚みが一定とならず,カートリッジの先端と根元 で組織の厚みが異なる場合には縫合不全,術後肺漏 の原因となる.使用するカートリッジやデバイスの 決定は状況に応じて適正に行われなければならな い.最近では先端カートリッジの角度を変えられる ステープラもある.単に病変を切除できるかどうか ではなく,切除後に拡がった肺の全体像をイメージ してスムーズなラインになるような切除ラインを決 定しなければならない.

再発防止に向けて

 われわれは 2006 年から SMS を用いて焼灼術を 施行している.焼灼術の目的は,熱変性による胸膜 の肥厚と,それに伴う胸膜補強効果,さらに胸膜の 収縮による縫縮効果を期待することである.焼灼手 法によっては過度な熱変性による組織侵襲がみられ るため,より安全で安定した効果の得られる手法が 求められる.SMS による焼灼術は生理食塩水を滴 下しながら胸膜を非接触で焼灼するため,過度な高 温にならず,安定した胸膜補強効果や,さらに嚢胞 壁の収縮で縫縮効果も認められる.また,この焼灼 により嚢胞壁が縮小することを利用して巨大ブラ病 変奥側の視野を確保することでブラ切除が容易とな る.さらに焼灼によって白色調に変化することを利 用してブラ周囲に存在する気腫性病変の局在を明ら かにしてから切除することにより,病変の見逃しを 防止し,適切な切除線でのステープリングが実行で きると考えている.

お わ り に

 低侵襲を追求しても,治療の質を損なうことがあ ればそれは姑息術であり根治術ではなくなってしま う.気胸に対する胸腔鏡手術では,低侵襲手術を行 いながら術後再発をなくさなければならないのであ る.

 気腫性変化は喫煙などの外的因子によって,ま た,年齢とともに進行する.気腫性病変の存在が気 胸の原因の一つとなっているため,気胸は再発する 可能性がある.気胸の治療においてはそのことを念 頭に行わなければならない.

文  献

1) Takeno Y : Present status of spontaneous pneu- mothorax  in  Japan. 

  6:81‑85, 2000.

2) 門倉光隆,神尾義人,北見明彦,ほか:自然気 胸の胸腔鏡下術後再発因子と再発回避に対する 検討.日気胸嚢胞性肺会誌 6:53‑56,2004.

3) 川村雅文,小林紘一:自然気胸術後再発に対す る考察 再発率と胸膜癒着術との狭間での新し いアプローチの基礎研究.日胸臨 63:1134‑

1141,2004.

4) 栗原正利,伊坂泰嗣,藤田 敦,ほか:自然気 胸に対する胸腔鏡手術の長期成績 術後再発の 検討.JSES 2:185‑190,1997.

5) 渡辺洋一:気管支充填術.気管支学 27:475‑

478,2005.

6) 森山重治,奥谷大介:原発性自然気胸における 再発危険因子の検討.日気胸嚢胞性肺会誌 10:

96‑100,2010.

7) 片岡大輔,門倉光隆,富田由里,ほか:Tissue  Link 社製モノポーラ・シーラー(TLMS)によ る胸膜焼灼術の臨床経験.日気胸嚢胞性肺会誌 

9:132‑137,2009.

8) 片岡大輔,富田由里,深山素子,ほか:気腫性 嚢胞に対する手術の工夫 気腫性肺嚢胞に対す る焼灼術の治療効果.胸部外科 64:323‑329,

2011.

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