継続的な賃金引上げ等によるデフレ脱却に向けて
平成28年9月30日
伊藤 元重 榊原 定征 高橋 進 新浪 剛史
資料5
1.賃金引上げを軸とする経済・財政一体改革
継続的な賃金の上昇と可処分所得の引上げを、経済・財政一体改革を通じて達成すべき最重要課題 の一つと位置付け、その実現のための施策を強力に推進すべき。
継続的な賃金上昇には、生産性の向上が不可欠。働く人の視点に立った働き方改革、成長分野の拡 大と不採算部門の再編・縮小を促進する構造改革などを併せて推進していくことが必要。
諮問会議では、働き方改革実現会議、未来投資会議と連携し、成長戦略を強力に推進するとともに、医療費等の地域差の見える化、財政のワイズ・スペンディング等の社会保障改革による社会保険料の 抑制を通じ、可処分所得の引上げに取り組むべき。
2
0.5 0.4
-1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0
2012 13 14 15 16
(前年比、%)
(年)
一般労働者
パートタイム労働者
50
55 60 65 70 75 80 85
(%)
(年度)
中小企業
中堅企業
大企業 全規模
2.継続的な賃上げに向けて
デフレ脱却・経済再生のためには、賃上げ等による物価上昇を通じて、2%の物価上昇を実現すること が重要。過去3年間の賃金引き上げのモメンタムを継続するよう、来春の春季労使交渉での賃上げの 在り方について実現会議で議論を進めるべき。
生産性変化を反映した賃金の実現に向け、仕事・役割・貢献度を重視した賃金制度への移行促進(特 に年功序列型カーブの是正)、同一労働・同一賃金の実現が不可欠。3
図表4.労働分配率の推移
図表2.一人当たり賃金の推移 図表1.賃金と物価の長期的な関係
-8 -6 -4 -2 0 2 4 6
-8 -6 -4 -2 0 2 4 6
(名目現金給与総額前年比、%)
(消費者物価(総合)前年比、%)
1998年~2012年
(デフレの生じていた期)
賃金上昇率<物価上昇率<0%
1981年~1997年(デフレ以前の時期)
賃金上昇率>物価上昇率>0%
2013年~2016年
(デフレ脱却の途中)
(備考)図表1は、総務省「消費者物価指数」、厚生労働省「毎月勤労統計」により作成。図表2は、厚生労働省「毎月勤労統計」により作成。5人以上の事業所。後方12か月移動平均。
図表3は。財務省「法人企業統計調査」により作成。図表4は、財務省「法人企業統計」により作成。金融・保険業を除く。
労働分配率=人件費/付加価値(人件費+支払利息等+動産・不動産賃借料+租税公課+営業純益)。中小企業は資本金1億円未満、中堅企業は1億円以上10億円未満、大企業は10億円以上。
200.0 514.6
244.8 377.9
0 100 200 300 400 500 600
2000 03 06 09 12 15
現 金・預 金 そ の他の 流動資 産
( 現金・ 預金を 除く)
内 部留保 (利益 剰余金 )
( 兆円)
長 期保有 株式
( 年度)
図表3.内部留保
1,910
1,734
2,036 2,026
1,700 1,750 1,800 1,850 1,900 1,950 2,000 2,050 2,100
1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015
一般労働者の総実労働時間
総実労働時間
(一般労働者とパートタイム労働者)
(時間)
1,172
1,068 1,000 1,050 1,100 1,150 1,200
20.00 22.00 24.00 26.00 28.00 30.00 32.00
1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015
パートタイム労働者の 総実労働時間(右軸)
(年)
3.生産性向上の推進 ~ワークライフバランス、長時間労働是正、健康経営等~
「日本のワークライフバランスはOECD
諸国の中で最低水準(2015
)」と報告されており、一人ひとりの望む働き 方を実現できるように、正社員化、労働時間規制、テレワーク・フレックスタイム、兼業・副業、勤務間インタバ ル等を推進すべき。
長時間労働は、低生産性や少子化、低い生活の質に直結しており、その是正に取り組むべき。長時間労働の 是正や成果主義の導入が所得向上や子育てのインセンティブになるよう、生産性向上によりもたらされた業 績の向上が適切に給与等に反映される成果の分配メカニズムの構築が重要。
働き方改革に加え、健康経営(全員健診の促進とそれを踏まえた保健事業の強化、インセンティブ付与等)を 促進し、生産性向上を実現すべき。4
~1人当たり平均労働時間は
1784時間とドイツの約1.3倍。
特に、一般労働者は約2020時間の長時間労働~
図表5.年間総実労働時間
(備考)厚労省毎月勤労統計報告 平成27年分結果報告(確報)より作成 2015年の一般労働者、パートタイム労働者の総実労働時間は月間値から年換算
17.2 20.1 23.5 26.8 29.9 33.0 36.2 37.9 36.5
27.3 25.4 25.8 1.7
2.4 3.3
3.6 3.6
3.4
3.1 2.7 2.3
1.4 1.1 0.8
15 20 25 30 35 40 45
0 2 4 6 8 10 12 14
~
19
歳20
~24
歳25
~29
歳30
~34
歳35
~39
歳40
~44
歳45
~49
歳50
~54
歳55
~59
歳60
~64
歳65
~69
歳70
歳~所定内給与額(右軸)
超過労働給与額(右軸)
超過労働給与額の割合
(万円)
(%)
図表6.年齢別にみた残業代収入
~若年・子育て世代では残業代が月給の
1
割を占める~(備考)厚労省「平成27年賃金構造基本統計調査」。「きまって支給する現金給与額」(所定内給与額と超過 労働給与額の合計)に占める超過労働給与額の割合。2015年6月分の状況。
0 5 10 15 20
男性 15~24歳
男性 25~34歳
男性 35~44歳
男性 45~54歳 男性 55~64歳 男性 65歳以上 女性
15~24歳 女性
25~34歳 女性 35~44歳 女性 45~54歳
女性 55~64歳
女性 65歳以上 短期失業者
(1年未満)
長期失業者
(1年以上)
<日本>
0 5 10 15 20
男性 16~24歳
男性 25~34歳
男性 35~44歳
男性 45~54歳 男性 55~64歳 男性 65歳以上 女性
16~24歳 女性
25~34歳 女性 35~44歳 女性 45~54歳
女性 55~64歳
女性 65歳以上
短期(27週未満)
長期(27週間以上)
<米国>
4.生産性向上の推進~設備投資、人的投資の拡大~
大企業を含むマクロの投資水準は、経常利益が高水準で推移しているにも関わらずほぼ横ばい。特に非製造業は過 去最高の経常利益額にも関わらず、その投資水準は低い。最低賃金が今後とも上昇していく中で、投資促進や働き方 改革を通じた生産性向上への取組が急務。
潜在成長力向上の源は人材の質の向上。しかしながら、企業の人材投資は減少しており、日本の公的職業訓練の水 準もOECDの平均を大幅に下回る。官民で人材への投資を活性化させる必要。
人的資本の毀損を回避するため、長期失業の解消を重点的な政策ターゲットに位置付け、新たな職能を身につけるた めの職業訓練の提供からマッチングまでシームレスな支援が不可欠。支援策が就職に結び付いたか、効果的に活用さ れたか、徹底して検証すべき。5
~日本の長期失業者は25~44歳の男性に大きく偏っている~
0.31 0.34
0.38 0.36
0.27 0.29 0.28
0.33
0.25 2.04
2.21 2.36
2.16
1.58 1.28
1.53 1.76
1.36 1.00 1.40 1.80 2.20 2.60
0.20 0.25 0.30 0.35 0.40
1983 1985 1988 1991 1995 1998 2002 2006 2011
対労働費用総額 対現金給与以外の 労働費用(目盛右)
(%) (%)
図表8.企業の人材育成・教育訓練費(労働費用に占める割合)
図表9.性別・年齢別にみた長期失業者
(備考)
~バブル期以降、企業の人材投資は減少~
図表7.マクロの企業利益と投資額
(備考)図表7は財務省「法人企業統計調査」により作成。数値は季節調整の四半期値の後方4四 半期移動平均。図表8は厚労省「就労条件総合調査」等から作成(1983年は「労働者福祉施設制度 等調査」、1985~1998年は「賃金労働時間制度等総合調査」)より作成。企業の労働費用総額、労 働費用総額から現金給与を除いた額に対する、教育訓練費の割合。図表9は27年労働力調査年報、
米国労働統計局より作成。日本銀行リサーチラボ2016年3月ペーパー「わが国の長期失業者の現 状」を参照し、2015年のデータで作成。短期/長期失業者ごとに性別・年齢層別の構成比(%)を 示したもの。
0 2 4 6 8 10 12
0 2 4 6 8 10 12
2016年4-6月期
2016年4-6月期 1991年1-3月期
(設備投資、兆円)
(経常利益、兆円)
経常利益増 1991年1-3月期
設 備 投 資 増 非製造業(金融・保険業を除く)
製造業
成長産業への転職や再就職 支援に関する主な事業の概
要
予算/執行率
労働移動支援助成金 再就職支援を職業紹介事業 者に委託したり、求職活動休 暇を付与する事業主に対し費 用や休暇賃金の一部を支給
349億円
執行率7%【H27年度】
キャリア形成促進助成金 計画に沿った訓練や人材育成 制度を導入した事業者に、経 費や訓練中の賃金の一部を 助成
271億円
執行率36%
【H27年度】
長期失業者等総合支援 事業
長期失業者等に対し、公共職 安から民間事業者にキャリア コンサル、就職セミナー等の 実施を委託
→本事業は28年度で廃止
27年度20.3億円 28年度7.3億円
支援開始者
26年度4,020人
5. 労働参加の拡大
(女性活躍、外国人材の活用)、労働のモビリティ向上に向けて
女性の労働参加率は、①保育所の定員、②女性の正規雇用比率、③男性の長時間労働の3つの地域的要因が影響。地域の実情に応じて、これら要因の改善に取り組むことが重要。
海外からの高度人材受入に加え、留学生や日本で教えたい外国人教師の活用、さらには人手不足分野で外国人をよ り活用すべき。
成長産業への円滑な転職を実効ある形で実現するため、大企業や地域金融機関等の人材を活用できる仕組みを構築すべ き。こうした労働移動に必要な支援についても、時限を切って、労働保険特会から支出すべき。また、成長産業への転職や若 年就労促進等に向けた補助金については、実効性が上がる形で制度設計を見直すべき。
希望する転職が円滑に行える環境を整備した上で、倒産や解雇時のセーフティネットを強化すべきではないか。ドイツでは紛 争解決システムとして、倒産や解雇時の対応について事業所ごとに労使間で協定を結び、セ-フティネットを強化しており、日 本でもこうした取組を参考にすべき。6
~外国人留学生のうち、日本で就職しているのは2割強~
y = 0.5936x + 43.341 (7.2) (12.3)
R² = 0.535 50.0
55.0 60.0 65.0 70.0 75.0 80.0
30.0 35.0 40.0 45.0 50.0 55.0
(女性の労働参加率、%)
(女性の正規雇用比率、%)
奈良県 兵庫県 大阪府
神奈川県 千葉県
茨城県
福井県
東京都 埼玉県
北海道
富山県
図表10.女性の正規雇用比率と労働参加率
(備考)内閣府「地域の経済2016」により作成。
女性の正規雇用比率は2012年、労働参加率は2015年
国内で進学・就職等
25,425人(64%)
図表11.外国人留学生の進路状況(2013年度)
国内で就職
9,382人(24%)
卒業(修了)留学生総数
39,650人
~女性の正規雇用意率が高いほど 労働参加率は高まる傾向~
図表12.執行率の低い補助金
~成長産業への転職や若年就労促進等に 向けた補助金の執行率は低迷~
ポイント2 一気通貫の改革の全体像を示し、
改革を後退させない
関連する制度等を包括的に見直すとともに、生産 性と賃金の引上げ、成長分野の拡大と不採算部門 の再編・縮小、社会保険料の上昇抑制と健康立国 に向けた予防への重点化等、供給・需要の両面か ら、改革を一挙に進める必要。
必要な取組の全体像と実行責任を明らかにするこ とで、改革を後退させないことが必要。
ポイント1 政労使一体
改革の実行に当たっては、賃金の継続的な引上 げと働く人の視点での働き方改革が重要。特に、生 産性上昇の成果が労働者に配分される仕組みを構 築することが、改革の実効性のカギ。
働き方改革実現会議は、関係会議と連携・役割分 担しながら、政府全体で取り組む必要。
特に、
10
月には、いわゆる130
万円の壁の106
万 円への引下げ、最低賃金の引上げが実施。これら に伴う就労調整の回避、中小企業等の価格転嫁の 円滑化に万全を期すべき。ポイント3 改革工程の明確化
働き方改革を進めるに当たって、改革工程を明示 することが重要。
方針の明確化と制度設計は迅速に、実行に向けて はある程度の準備期間等を用意し、ゴールに向けて 着実に改革を進めていくべき。
ポイント4 国及び地方自治体が先頭に立つ
国は、率先して働き方改革を進める必要がある。
同時に、都道府県ごとに、失業率や有効求人倍率、
女性や高齢者の労働参加率等に大きな違いが存在。
各都道府県が自らの現状を認識し、最低賃金の引 上げや中小企業の生産性向上支援を含め、地域の 実情を踏まえた取組を進めていくことが重要。
ポイント5 国民との対話等
働き方改革は、国民生活に直結した課題であり、
国民及びメディアに対して、取組等について周知し理 解を得ていく必要。国民各層との対話を進めるべき。
また、働き方改革への政府や企業での取組・成果 について、内外市場関係者との対話を進め、我が国 のコーポレートガバナンスの向上につなげるべき。