ISSN 1882-2460
本誌において個人名による掲載文のうち意見にわたる部分は、筆者の個人見解である。
●
ぶどう特集 ―食農リサーチ―
●生鮮ぶどうの輸入増加と国内消費 福田彩乃 2
豪州ぶどうの生産と対日貿易 原 理紗 4
果樹苗木生産の特徴と課題
―ぶどうに焦点を当てて― 福田彩乃 6
早期成園化や安定生産に向けた新たな栽培技術
―盛土式根圏制御栽培の開発と特徴― 趙 玉亮 8 ぶどうの差別化のための品質評価手法
―岡山県の事例と最近の技術開発― 原 理紗 10
●
農林水産業 ●
経営の継続性を考慮した合作社の運営
―土而奇禽業専業合作社(中国)の事例― 若林剛志 12 土地改良区を中心とした農地集積の条件
―埼玉県西吉見南部土地改良区の事例― 亀岡鉱平 14
若手が学ぶ「浜の起業家養成塾」 田口さつき 16
歴史からたどる漁業制度の変遷 その 11
―漁業権の公的制約― 田口さつき 18
●
農漁協・森組 ●
大分県JAべっぷ日出の情報システム
―「小さく産んで大きく育てる」システム開発・管理体制― 藤田研二郎 20 新設部署を通じた漁協の業務改善・改革
―兵庫県但馬漁協― 尾中謙治 22
ソフト事業の多角化を経た漁業生産への回帰
―大阪府岡田浦漁協― 亀岡鉱平 24
朝市をきっかけとした漁協の事業展開
―大阪府田尻漁協― 尾中謙治 26
日本のブドウ品種改良の進展と ʻシャインマスカットʼ の育成
日本大学 生物資源科学部 生命農学科 教授 山田昌彦 28
お母さんの手料理と風土を楽しむ農泊
―伊豆沼農産の取組み(宮城県登米市)― 佐藤彩生 30
当社の定期刊行物に掲載された論文を紹介するコーナー 32
雄勝町渚泊推進協議会の取組みと今後の展望
雄勝町渚泊推進協議会 代表 阿部久良 34
■
あぜみち ■
■ レポート ■
■ 寄 稿 ■
■ 最近の調査研究から ■
■ 現地ルポルタージュ ■
農中総研 調査と情報
2019.5 (第72号)
〈ぶどう特集〉 ─食農リサーチ─
である (第1図) 。
オーストラリア産はこれまで輸入禁止であ ったが、14年に一部品種を条件付きで解禁し たことが増加要因となっている。
一方、アメリカでは高収量で種無し大粒の 新品種への作付転換が進んでおり、そうした 品種が簡便性を重視する国内消費者に受け入 れられたことが一因とみられる。日本向け輸 出が盛んなカルフォルニア州では、米国農務 省の農業研究局 (ARS) が作出した新品種の「ス カーレットロイヤル」や「オータムキング」の 面積が、5年間で大きく増加している (第1表) 。
2
世帯主の年齢別の消費動向
両国からの輸入時期をみると、南半球に位 置するオーストラリア産が上期 (1〜6月) で、
北半球のアメリカ産は国産と競合する下期 (7
〜12月) である (第2図) 。
上期と下期の1世帯あたり月平均購入量を 世帯主の年齢別に比較したのが第2表である。
まず下期の購入量を見ると、世帯主が49歳 までの世帯は、60歳以上の2分の1程度と少 なく、ぶどう消費はほかの果物と同様に高齢 主に生食に仕向けられる生鮮ぶどうの輸入
量は、ここ数年で急増している。海外産地の 動向に詳しい青果物専門の輸入商社への聞き 取り等に基づいて、輸入増加の要因を消費動 向に注目して分析する。
1
オーストラリア産とアメリカ産の 輸入増加
2018年 の 生 鮮 ぶ ど う の 輸 入 量 は37千 ト ン で、国内生産量 (162千トン) の2割に相当する。
輸入が大きく増加したのは16年からで、オー ストラリア産とアメリカ産の伸長によるもの
研究員 福田彩乃
生鮮ぶどうの輸入増加と国内消費
12年 17年 17年/
12年比 1 フレーム シードレス
(Flame Seedless)
7,380 6,003 −18.7 2 クリムゾン シードレス
(Crimson Seedless)
5,232 3,363 −35.7 3 スカーレット ロイヤル
(Scarlet Royal)
1,017 2,733 168.7 4 レッドグローブ
(Red Globe)
4,302 2,849 −33.8 5 オータムキング
(Autumn King)
647 2,333 260.7 その他 13,391 15,827 18.2 合計 31,969 33,108 3.6
資料 USDA CALIFORNIA Grape Acreage Report第1表 カルフォルニア州の生鮮ぶどうの品種別、
結果樹面積 (上位5品種)
(単位 ha、%)
40 35 30 25 20 15 10 5 0
(千トン)
2010年 11 12 13 14 15 16 17 18 資料 財務省「貿易統計」
第1図 生鮮ぶどうの輸入量の推移
その他 チリ
オーストラリア アメリカ
2220 18 1614 1210 8 64 20
(千トン)
1月 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 資料 輸入数量は財務省「貿易統計」、国産の出回り量は農林水産省
「青果物卸売市場調査」の卸売数量
(注) 18年の国産の出回り量は19年3月時点で未公表のため17年 値を参考に作成。
第2図 月別の輸入量と国産の出回り量 (2018年)
メキシコ チリ
オーストラリア
アメリカ 国産
ことで通年での調達に取り組む意向である。
4
国内生産は新品種に期待
ぶどうの輸入量が急増するなか、国内の経 営体はシャインマスカット等の高価格品種を 生産することで消費者からの支持確保に取り 組んできた (注) 。
今後も輸入は増大が見込まれ、中長期的に は通年流通が進むとみられるなかで、国産は より一層、付加価値を高めていく必要がある だろう。
例えば石川県の「ルビーロマン」に見られ るような、高級品種の開発も重要と考える。
当品種は巨峰の約2倍の大きさが特徴で、出 回り量が少ないこと等から希少な品種として 高値で販売されている。また島根、長野、山 梨の行政や民間等でシャインマスカットを片 親として交配した赤色の皮ごと食べられる品 種の開発が進んでいる。赤系の大粒品種の生 産は、夏の暑さで着色が難しいことから少な く、皮ごと食べられる品種 (シャインマスカッ ト(緑系)、ナガノパープル(黒系)) に並ぶ赤系品 種として期待が高まっている。出荷の本格化 は20年以降と見込まれており、こうした新品 種の生産への取組みが国産ぶどうの振興につ ながっていくものとして、注目していく必要 がある。
(ふくだ あやの)
者層が牽引してきたことがわかる。
しかし輸入物が中心となる上期は、どの世 代でも同程度の購入量となっている。データ の制約から、国内消費を輸入と国産に分けて 把握することは難しいが、上期の消費動向を みると、この時期の輸入ぶどうは幅広い世代 で受け入れられている。
50歳以上世帯の年間購入量は10年前と比べ て減少するなか、39歳までは5割以上増加し ており (第3表) 、若年層の消費拡大が輸入増 加につながったと考えられる。
3
輸入の今後の見通し
19年以降の上期の輸入は、TPP11の発効に 伴う関税の即時撤廃によって増加が予想され る。19年1〜2月の輸入量はチリ産が前年同 期比で7割増加している。オーストラリア産 は伸びていないものの、現在、日本政府と品 種制限撤廃に関する協議を進めており、協議 の行方によっては拡大の可能性がある。
また、輸入は国産の端境期が中心だったが、
16年頃から下期のアメリカの輸入量も増加し つつある。
輸入商社によると、輸入は国産と比べて安 価で、多くの世代から年間を通して一定の消費 があることから、輸入国や品種を組み合わせる
(注)
福田彩乃(2018「顕著な変化が見られるぶどうの) 主要品種と輸入」『農中総研 調査と情報』7月号上期
(1〜6月)下期
(7〜12月)〜29歳 16 63
30〜39 65 153
40〜49 60 174
50〜59 62 273
60〜69 73 409
70〜 69 427
資料 総務省「家計調査年報」
(注) 2人以上の世帯の全国平均値。
第2表 世帯主の年齢別ぶどうの
1世帯あたり月平均購入量 (2018年)
(単位 g)
10年 17年 17年/10年比
〜29歳 382 604 58.1
30〜39 967 1,454 50.4
40〜49 1,348 1,512 12.2 50〜59 2,054 1,727 −15.9 60〜69 3,713 3,137 −15.5 70〜 3,291 2,882 −12.4
資料 第2表に同じ第3表 世帯主の年齢階級別
ぶどうの1世帯あたり年間購入量
(単位 g、%)
〈ぶどう特集〉 ─食農リサーチ─
8割を占める(18年)。
輸出量の9割強は南部のビクトリア州で生 産されており、特にサンレイシア地域で多い。
当地域でのぶどう生産は、1940年代、イタリ アから移住した生産者によって開始された。
現在も、その第2、第3代の子孫が引き継い だ1千戸の家族経営体を中心に生産されてい る。
85年には、生産者、加工会社、販売会社で構 成 さ れ るAustralian Table Grape Association
(以下「ATGA」) が設立。生食ぶどうの生産技 術や新品種の検討、政府との交渉を通じて、
生産と輸出の拡大を図ってきた。
1
豪州産ぶどうの輸入が急増
豪州産ぶどうの輸入は、豪州に生息するチ チュウカイミバエ等の防疫上の理由から禁止 されてきたが、2014年2月以降、3品種 (写真1)
に限定して解禁された。14年の輸入量は251ト ンであったが、16年は9千トンに急増。18年 には11千トンとなり、同じ南半球に位置する チリ (9千トン) を抜いて、アメリカ (16千トン)
に次ぐ第2位の輸入相手国となっている。
2
世界第10位のぶどう輸出国
17年の豪州のぶどう生産全体 (1,824千トン)
のうち、生食向けは179千トンで1割に満たな いが、その6割にあたる107千トンが輸出され ており、世界第10位の生食ぶどうの輸出国に なっている (第1表) 。
輸出量はこの5年間で年々増加しており、
19年は過去最高の137千トンに達すると予測さ れている (第1図) 。輸出先は地理的に近いア ジアが中心で、中国 (輸出量の39%) 、インドネ シア (15%) 、日本 (8%) 、香港 (7%) 、ベトナ ム (5%) 、タイ (5%) の上位6つの国と地域で
前 研究員 原 理紗
豪州ぶどうの生産と対日貿易
第1表 豪州の生食ぶどうの需給構造 (2017)
生産量 179
輸入量 15
供給量全体 194
国内消費量 87
輸出量 107
消費量全体 194
(参考)
ぶどう全体の生産量
(生食以外のワインぶどう、干しぶどうも含む)
1,824
資料 USDA(2018)
、FAOSTAT(単位 千トン)
写真
1日本向けに輸出されている豪州産ぶどう品種
(出典:ATGA Webページ)
クリムゾン・
シードレス
トンプソン・
シードレス
レッドグローブ
160 140 120 100 80 60 40 20 0
(千トン)
(予測)
2014年 15 16 17 18 19
資料 USDA
(2018)
第1図 豪州の生食ぶどう輸出量の推移
るほか、19年にはメロディ・シードレスをは じめ多くの新品種が収穫可能となる (第2表) 。
対日輸出は3品種に制限されているが、17 年、豪州は制限撤廃を日本に要請し、現在協 議が進められている。ATGAは、より多くの 新品種を提案できるようになれば、対日輸出 量は倍増すると予測している。
4
関税撤廃により対日輸出に追い風
ぶどうの対日輸出の関税は、14年時点で11 月 〜 2 月 は 8%、 3 月 〜10月 は17%あ っ た。
15年の日豪EPA発効以降、11月〜2月の関税 は徐々に下がり、18年4月には2.9%となった。
さ ら に18年12月、TPP11が 発 効 し た こ と で、
関税は撤廃された。したがって、今後、豪州 産の価格競争力は一層強まるといえる。
この機会にATGAは、SNS等を活用したデ ジタルマーケティングや店頭キャンペーンを 強化しており、日本の消費者に向けて高品質 な豪州産ぶどうをPRすることで、輸出拡大を 目指している。
このように、日本の豪州産ぶどうの輸入は 今後も伸びることが予測される。出回り時期 が重なる国産の柑橘類等は、その動向に注意 する必要があるだろう。
3
高品質生産のための検査と品種
豪州の生食ぶどうは、90年代後半に生産が 急速に拡大した。当時は、酸っぱいぶどうや、
味がしないぶどうが混入することがあったと いう。その反省から、ATGAが西オーストラ リア州政府に依頼して、2001年に熟度の最低 基準を導入した。各農家で収穫前に糖度と酸 度の検査を行うことを義務づけて、基準を満 たしたもののみを流通させることで、品質確 保に取り組んでいる。糖度の最低基準をみる と、日本と同程度
(注)
の水準であり、例えば、ト ンプソン・シードレスは17.5%以上、クリムゾ ン・シードレスは18.0%以上と定められてい る。
さらに、消費者のニーズに合う、皮ごと食 べられる種がない甘いぶどうの生産量と品種 数を拡充することで、需要拡大を図っている。
従来からの人気品種の植え付けを増やしてい
(注)
岡山県のシャインマスカットの糖度の最低基準 は、18.0%以上。<参考文献>
・ Australian Table Grape Association (2019) 「国際貿 易促進セミナー」2019年2月開催
・ Department of primary Industries and Regional Development, Government of Western Australia
(2018) Minimum standards of maturity for table grapes in Western Australia
・ USDA (2018) Australia Fresh Deciduous Fruit ‒ Table Grapes
・ USDA (2018) Fresh Deciduous Fruit: World Markets and Trade (Apples, Grapes, & Pears)
・ 東京税関 (2016)「生鮮ぶどうの輸入」
(はら りさ)
生鮮ぶどうの品種 果皮の色 糖度の 最低基準
生産量 2018年
(実績)
2019年
(予測)
クリムゾン・シードレス 赤 18.0 70 75 トンプソン・シードレス 緑 17.5 48 52 メニンジー・シードレス 緑 15.0 30 32
レッドグローブ 赤 15.0 30 30
フレーム・シードレス 赤 16.0 5 5
ラリー・シードレス 赤 16.0 5 5
アイボリー・シードレス 緑 16.0 0 2 アリソン・シードレス 赤 18.0 0 2
スイート・グローブ 緑 18.0 0 2
プリンスティン 緑 16.0 1 2
メロディ ・シードレス 黒 18.5 0 2
出典 ATGA(2019)
および Department of primary Industries andRegional Development, Government of Western Australia
(2018)
より作成(注) 糖度はBrix糖度。最低基準は2019年1月〜8月収穫のぶどうに 適用されるもの。
第2表 主な品種の糖度基準と生産量
(単位 %、千トン)
〈ぶどう特集〉 ─食農リサーチ─
等で生産できなくなり、ほかの生産者から購 入した苗木の販売 (苗木の取次ぎ) を行うケー スが増えているという。
都道府県別に会員数を見ると、柑橘類の苗 木産地がある福岡は60会員ほどと最も多い。
また、山形、茨城、長野、埼玉、愛知、和歌 山は各県10〜20会員と比較的多い。
ぶどう苗木は上記地域を中心に生産されて いるが、山形、山梨からの供給量が多い。ぶ どう苗木専作の生産者もいるが、複数品目の 果樹苗木を生産するのが一般的である。
2
ぶどう苗木の生産工程
苗木は、耐病性確保や樹勢・樹形の調整の ため販売品種の枝 (穂木) を台木に接いで、半 年から1年の養成を経て供給される。
具体的には、2〜3年かけて母樹を育成し、
接ぎ木に必要な穂木と台木を採取する (第1図
①) 。そして、4月までに接ぎ木した苗木 (②)
中長期的にぶどうの作付面積が減少するな か、近年、シャインマスカットへの改植や醸 造用ぶどうの生産が拡大しており、ぶどうの 苗木需要が高まっている。しかし苗木生産に 関する統計はないため、その実態把握は難し い。そこで、複数の果樹苗木生産者への聞き 取りに基づいて概要を整理したうえで、ぶど う苗木生産者の事例から課題を把握する。
1
ぶどう苗木の生産構造
果樹の品種開発は主に国や県が行い、苗木 生産は民間が担っている。種苗業者 (ぶどう等 の苗木生産者や販売者) が苗木をJAや卸売業者 等に販売する場合は、農林水産大臣への「種 苗業者の届出」が必要である。
果樹苗木の生産や販売に従事する個人・法 人で構成される (一社) 日本果樹種苗協会の業 者会員数は2018年時点で186である。
聞き取りによると、会員のなかには高齢化
研究員 福田彩乃
果樹苗木生産の特徴と課題
─ ぶどうに焦点を当てて ─
第1図 ぶどう苗木の生産工程 穂木の
母樹
資料 聞き取りを基に筆者作成
(写真:筆者撮影)
台木の 母樹
①母樹の育成 2〜3年
〜4月 5〜6月 〜6月 6〜12月
1年
②接ぎ木 ③発芽・発根 ④移植 ⑤養成
どう作付面積が中長期的に減少するなかで醸 造用などの需要の変化に対応していくことが 課題となっている。
4
(有)芦澤農園の事例
こうした課題への具体的な対応を、ぶどう 苗木の主産地である山形県長井市で年間10万 本を生産する(有)芦澤農園を事例としてみて みたい。
当社は1990年代後半からほかの苗木生産者 の依頼で醸造用の受託生産を始めた。今後も 生食用の需要が減少することを予想し、様々 な苗木需要へ対応していくことが重要と考え た。苗木生産の技術習得には数年かかること から、30代の若手労働力を確保し、パートを 含む労働力を10人まで増加してきた。作付面 積 を 大 き く 拡 大 す る こ と が 難 し い な か で、
徐々に生食用から醸造用の生産へとシフトさ せ、現在、生産量の6〜7割が醸造用である。
数年前に受注先の苗木生産者が廃業したこ とを機に、大手ワイナリーや全国の新規ワイ ナリーから直接受注している。
本事例は、中長期的に生食用の苗木需要が 縮小する局面において、労働力の確保や作付 面積の割合を変化させることで、醸造用ぶど うの苗木需要の拡大を経営のなかに取り込ん でいる。
醸造用ぶどうの苗木需要の高まりは一時的 との見方もあるが、当社は、今後も補植や改 植で一定の需要があると見込んでいるという。
今後の経営展開に引き続き注目していく必 要がある。
(ふくだ あやの)
を5〜6月にハウス等で加温し、発芽・発根 させる (③) 。発根後、ほ場に移植 (④) 、養成 し (⑤) 、10〜12月に苗木として販売可能とな る。苗木生産の大部分は手作業で行われてお り、穂木・台木の確保を含めると販売まで3
〜4年を要する。
りんご等ほかの果樹苗木と比べて、ぶどう 苗木は穂木と台木の活着率が5〜6割程度と 低く、歩留まりが悪い。また養生中の新
しんしょう
梢の管 理に、棚や支柱に固定する作業 (誘引) や新芽 のかき取り (芽かき) など多くの時間を要する。
3
生食用と醸造用で販売方法が異なる 聞き取りによると、生食用と醸造用の苗木 は生産工程が同じだが、販売方法は異なる。
生食用は各生産者が過去の販売実績等に基 づいて年初に接ぎ木し、供給可能量の見通し が立つ9月頃から注文を受け付ける。見込み 生産のため、生産が注文量を上回った場合、
余剰分は苗木生産者の負担で処分することに なる。
一方、醸造用は受注生産が基本で、苗木生 産者の処分負担は少ないという。ただし、1 本あたりの販売価格は生食用の半分以下で、
利益率は低いという特徴がある。
こうした特徴を踏まえ、苗木生産者は、ぶ
法人化 2000年
経営面積 4ha
母樹園 1ha
苗木取りほ場 3ha
生産本数 10万本
労働力 10人
資料 聞き取りを基に筆者作成
(注) 労働力はパートを含む。
第1表 (有)芦澤農園の経営概要
〈ぶどう特集〉 ─食農リサーチ─
2
技術の概要
(1) 培土
地面と隔離して培土を用いることで、土壌 病害の回避が可能である (第1表) 。培土は、
通気性や水肥保持などから赤玉土とバーク堆 肥の容積比率は2対1とする。また、盛土の 崩れや草生え、雨水等を防ぐため、マルチシ ートをかける必要がある。
(2) 密植
根圏と樹形をコントロールすることで密植 が可能である。栽培マニュアルによれば、10a あたりの定植本数は200本前後で慣行栽培より 数倍多い。
(3) せん定
一般にぶどう栽培では、様々なせん定手法 で樹形をコントロールする。樹齢、樹の生育 状況や理想的な樹形を考慮したせん定が求め られるため、新規栽培者にとってその習得が 難しい。一方、盛土式は短
たんしょう
梢せん定手法 (注2) を採 用するため、技術習得のハードルが低い。
(4) 樹の仕立て
慣行栽培の場合、樹の仕立ては平棚を採用 ぶどう栽培は多くの労働時間が必要なだけ
でなく、せん定、摘粒等で高度な技術が求め られる。一方、高齢化や後継者不足が深刻化 するなか、新規就農者でも習得が容易な栽培 方法の開発が重要となっている。
以下、こうした新たな栽培技術の一つであ る「盛土式根圏制御栽培法」について紹介す る。根圏とは、植物の根から影響を受ける土 壌領域をいう。同栽培法は、遮根シートの上 に培土を盛土にして根圏のサイズを制限し、
養水分を管理し生育を制御する方法である。
新たな担い手も取り組みやすく、早期成園化 (注1)
や収量の安定性といったメリットから同栽培 法には注目が集まっている。
1
開発経緯
栃木県農業試験場は、モンパ病等土壌病害 の回避、早期成園化および生産性の向上、高 品質果実生産を図るため、1991年から根圏制 御栽培の研究を開始した。当初、ポットで梨 の栽培試験を行ったが、果実の肥大化に支障 が出たため、遮根シートの上に培土を盛り、
そこに苗木を栽培する盛土式の栽培法を開発 した。その後、様々な果樹品目 (ぶどう、日本 なし、イチジク等) への応用に取り組んできた。
2016年 に、 同 試 験 場 が 代 表 機 関 を 務 め る
「果樹の根圏制御栽培法実践コンソーシアム」
を立ち上げ、19年に栽培の基礎要素や樹種別 の技術要点をまとめたマニュアルを公表した。
研究員 趙 玉亮
早期成園化や安定生産に向けた新たな栽培技術
─ 盛土式根圏制御栽培の開発と特徴 ─
技術的概要 メリット
培土 マルチシートや培土で地面と隔離すること
で、土壌病害の回避
密植 慣行栽培より定植できる苗木が数倍多い 短梢せん定 せん定技術を習得しやすい
Y字棚での
平行2段仕立て 空間の有効的利用
かん水や施肥 必要水量や施肥はマニュアル化され、市販 のかん水システムを用いることで対応できる
資料 ヒアリングに基づき作成第1表 盛土式根圏制御栽培法の概要とメリット
3
早期成園化や安定生産のポイント
盛土式栽培の最大のメリットは早期成園化 である。地植えの慣行栽培の場合、樹体を育 てることが優先されるため、定植から成園化 まで6〜7年を要する。一方、福島県農業総 合センターによれば、盛土式は定植2年目か ら収穫可能で、3年目には慣行栽培の成園と 同程度の収量が得られ、また、品質 (糖度、着 色等) は慣行栽培より優れているという。
ただし、制御栽培の場合、慣行栽培に比べ 貯蔵養分の蓄積が少ないため、着果の多すぎ た翌年に収穫量が落ち込む可能性があること に留意する必要がある。収量の安定性を図る ためには、適正着果が管理のポイントとなる。
4
普及上の課題と今後の展望
早期成園化を目的とし、一部の企業に同栽 培法の導入の動きがある。サントリーは醸造 用ぶどうについて長野県での同栽培法のほ場 試験を実施し、18年から山梨県内の4haの自 社ほ場で導入 (注3) したという。
しかしながら、本栽培法は、培土やY字棚、
かん水用システム等で10aあたり300万円近く の初期投資 (注4) がかかるため、農家への導入は進 んでいない。
今後、初期費用のコストダウンのほか、各 種センサーを用いてかん水状況や栽培環境を モニタリングすることで栽培管理の精密化を 図ることが普及にとって重要である。
するのが一般的である。空間の有効的利用を 図るため、同試験場は、Y字棚での平行整枝 2 段 仕 立 て を 開 発 し た ( 写 真 1) 。 地 上 か ら 80cmで主枝を一文字型とし、結果枝をY字棚 に配置することで、2〜3年で樹形が完成す るのが特徴だ。
このように、小型化された樹体が上下2段に 誘引され、作業時の動線が列方向で直線となる ため、整枝、摘粒、袋掛け等の作業効率の向上 が期待できる。コンソーシアムの一員である 福島県農業総合センターの実験によれば、ぶ どう1㎏あたりの年間作業時間は12分と、慣 行栽培の15分に比べ、2割削減できたという。
(5) かん水や施肥
かん水量は樹齢、生育ステージ、季節等に よって異なる。1日の必要水量、回数、また 施肥量はマニュアル化されており、市販のか ん水システムで対応できる。
<参考文献>
・ 果樹の根圏制御栽培法実践コンソーシアム共同研究機関
(2019)『果樹の根圏制御栽培法導入マニュアル(基礎編・
樹種編)』
・ 金原啓一(2012)「ブドウの盛土式根圏制御栽培法に関す る研究」『栃木農試研報』No.70、1〜38頁
(チョウ ギョクリョウ)
(注 1 )
苗木定植から成木までの期間を栽培技術によ って短縮することを早期成園化という。(注
2)
短梢せん定は、前年伸びた枝の基部から1〜 2芽残すせん定方法である。(注
3)
日本経済新聞(2018)「サントリーが新たにワ イン用ブドウ農園 山梨に」4月19日付を参照。(注
4)
果樹の根圏制御栽培法実践コンソーシアム共 同研究機関(2019)に提示された各項目の初期費用 に基づき計算した。写真
1Y字棚での平行整枝
2段仕立て (筆者撮影)
上段
下段
主枝
〈ぶどう特集〉 ─食農リサーチ─
生産面では、生産拡大が進むにつれ、品質 のばらつきが課題となったため、栽培方法を 統一し、品質の高位平準化を行う必要があっ た。そこで、11年に岡山県農業研究所が中心 となって「シャインマスカット栽培の手引き」
を作成し、生産目標 (第1表) を定めた。その 後、3年間にわたる展示用ほ場の設置や、共 進会の開催等、継続的な栽培支援により、県 内産地が生産目標を達成できるようになった。
流通面では、出荷規格の遵守のため、卸売 市場からのフィードバックも重視している。
県内産地の担当者が集まって、出荷したぶど うを見直す「県下統一目揃え会」の開 催や、17年からは市場関係者からの声 を積極的に聴く「改善報告制度」を導 農産物の差別化のためには、農産物の品質
の高さを消費者に伝えるための品質評価の導 入が重要である。ここではぶどうについて、
岡山県の生産から流通に至る品質向上の取組 みと、最近の品質評価をめぐる分析手法の開 発動向を紹介する。
1
品質向上の取組み事例
岡山県では、2011年に県産のシャインマス カットに対して「晴王」という商標を取得し、
JA系統と県が連携して、生産と流通の両面で 品質向上に取り組んでいる (第1図) 。
前 研究員 原 理紗
ぶどうの差別化のための品質評価手法
─ 岡山県の事例と最近の技術開発 ─
既存手法 新規手法
官能評価 機器分析
(注1)糖度計 近赤外計 岡山県
農業研究所
(注2)マクタ アメニティ (株)
(注3)利用目的 おいしさの評価 おいしさの評価 品質検査 品質検査 おいしさの評価 品質検査・
おいしさの評価 特徴
ヒト (検査員) が味の特 徴や匂いを評価する
味、匂い、食感に由来す る化学成分や物理性を 評価する
搾 汁 液の屈 折 率を基 に、糖度を評価する
光の吸収を基に、糖度 や酸度を評価する
機器分析の結果から、
官 能 評 価の結 果を推 定する
スマホ等で撮影した写 真を画像解析し、機器 分析の結果を推定する
長所
・ 人間が感じるおいしさ を基に評価
・ 味を客観的に数値化 する
・ 1人の測定者が複数 の検体を分析
・ 操作が簡便
・ 測定時間が短い
・ 栽培現場にも持ち込 み可能
・ 装置が安価
・ 非破壊の測定
・ 操作が簡便
・ 測定時間が短い
・ 栽培現場にも持ち込 み可能
・ 味を客観的に数値化 する
・ 1人の測定者が複数 の検体を分析
・ 人間が感じるおいしさ を評価
・ 非破壊の測定
・ 操作が簡便
・ 測定時間が短い
・ 装置が安価
短所
・ 検査員の味の感じ方 に個人差がある
・ 複数の検査員、複数 の検体が必要
・ 装置が高価
・ 使用は実験室内のみ ・ 検体を破壊して測定 ・ 装置が高価
・ 測定環境 (温度、湿度)
次第では精度が悪化
・ 装置が高価
・ 使用は実験室内のみ ・ 測定環境 (照明、 撮影す る角度等) を一定にする 必要があり、 屋外での 利用には工夫が必要
出典 山本(2016)
および聞き取りより作成(注) 1 機器分析とは、味覚センサー、クロマトグラフィ等による化学分析法の総称。
2 研究成果の詳細は、2019年7月に公開予定。ピオーネ、シャインマスカット、オーロラブラックの3品種について適用できる。
3 シャインマスカット、巨峰の2品種について適用できる。
第2表 青果物の品質評価手法と特徴
項目 目標
果房重 700g
果粒重 15g以上
糖度 18度以上
収量 2.1〜2.4t/10a
出典 岡山県うまいくだものづくり推進本部(2011)
(注) 糖度はBrix糖度。
第1表 シャインマスカットの生産目標
資料 中桐・森本
(2018)
を基に作成(注) 図はイメージ。
第1図 晴王の生産から流通に至る品質向上の取り組み
消費者
・ 「栽培の手引き」の作成、配付 (2011〜)
・展示用ほ場の設置 (2012〜2014)
(栽培の手引きを忠実に実行した、手本となる ほ場を公開)
・共進会の開催 (2014、2017)
・県下統一目揃え会 (年2回)
(市場からぶどうを買い戻し、品質を検証)
・改善報告制度 (随時、2017〜)
(市場が規格未達品を発見した場合、理由を写真 付きで産地へ報告)
JA系統・県・生産者組織
生産者 選果場
生産
市場
流通 栽培 収穫、箱詰め ・出荷規格の確認 ・出荷規格の確認
・売り先の選定
また、マクタアメニティ(株)の「おいしさの 見える化」アプリも注目されている。当アプリ は、既存のスマートフォンにインストールし て農産物の写真を撮ることで、画像データか ら機器分析の結果 (甘味、旨味、酸味等) が推定で きるものであり (第2図右) 、おいしさの評価と 検査の両方の場面での使用が期待されている。
これらの新規手法の特徴は、既存手法同士 の分析値をつなぐことで、より簡便でより複 雑な評価ができることである (第3図) 。機械 学習やAIの普及で、新規手法の開発はさらに 加速するだろう。ただし、その活用のために は、どのような品質の農産物を生産するか、
どのように消費者に訴求するかを明確にする 必要があり、生産から流通まで一体となって 取り組むことが重要になる。よって、冒頭の 岡山県のような連携の素地がある産地が、新 規手法の導入にも有利とみられる。新規手法 を今後、産地がどのように活用していくのか、
注目したい。
入している。
2
品質の分析手法
外観重視の出荷規格だけでなく、おいしさ 等の内部品質を評価したいというニーズは高 く、第2表に示すように、これまで様々な評 価手法が開発されてきた。
官能評価や機器分析は、味に関する詳細な データが得られることから、品種や栽培方法 ごとのおいしさの特徴を評価するのに適して いる。一方、糖度計や近赤外計は、糖度等の 限られた項目しか判別できないが、操作が簡 便で迅速な測定ができることから、収穫や出 荷時の品質検査に適している。
3
機械学習で加速する新規手法開発 近年は、機械学習
(注)
を利用して、測定が容易 な手法から、詳細なデータが得られる手法の 分析結果を推定することで、新規手法の開発 が進められている。
岡山県農業研究所では、従来までの官能評 価を機器分析で代替することで、客観的なデ ータをもとに、評価する手法を開発している
(第2図左) 。品種別の特徴をグラフ化し、味 の特徴やおいしさを消費者により分かりやす く伝えることで、県産ぶどうのPRにつなげる ねらいだ。
(注)
機械学習とは、コンピュータでデータを分析し 規則性や法則を抽出すること。<参考文献>
・ 岡山県うまいくだものづくり推進本部(2011)『シャイン マスカット栽培の手引き』
・ 中桐隆行・森本真之佑(2018)「岡山シャインマスカット ブランド化へ産地一丸」『因伯之果樹』7月号
・ 野田博行(2018)「トマトのおいしさの見える化について」
『農耕と園芸』6月号
・ 山本重夫(2016)『食品シリーズ 農産物・食品検査法の 新展開(普及版)』シーエムシー出版
(はら りさ)
資料 (左)岡山県農業研究所より提供、(右)マクタアメニティの提供 資料を基に作成
(注) 図はイメージ。
第2図 ぶどうの品質評価の新規手法 岡山県農業研究所
(イメージ図)
機器分析 官能評価の結果を推定
品種Aの味の特徴 甘味
ジューシー
酸味の 少なさ ぶどう
の香り
濃厚さ 皮離れ
マクタアメニティ (株)
(イメージ図)
アプリでの写真撮影 機器分析の結果を推定
甘味
酸味 塩味
旨味 苦味
酸っぱい
酸味の中に程良い甘味があります
55
44
33
22
11
基準値 撮影データ
8080
6060
4040
2020
00
資料 山本
(2016)
および聞き取りより作成第3図 品質評価手法の位置づけ
分析項目の複雑さ
五味 五味・食感・
糖度 香り 外観
測定 の 簡便性
マクタ アメニティ (株)
岡山県農業 研究所 糖度計
・非破壊
・屋外で 使用可
・非破壊
・室内で 使用可
・破壊
・屋外で 使用可
・破壊
・室内で 使用可 複数検体 を複数人 で評価
官能評価
(参考) 近赤外計 写真撮影
機器分析
〈レポート〉農林水産業
主任研究員 若林剛志
経営の継続性を考慮した合作社の運営
─ 土而奇禽業専業合作社 (中国) の事例 ─
理、隔離飼育に代表される衛生管理等、鶏卵 生産のために必要な対応を各々工夫しながら 行っている。これに加え、規制の変化にも目 配りしなければならない。アニマルウェルフ ェアはその1つである。国際獣疫事務局では、
採卵鶏にかかる国際基準策定を19年5月に見 込んでいる。18年9月に陸生動物衛生規約委 員会が示した基準案では、飼養にあたって止 まり木や営巣区域は備えられるべきとしてい る。飼養基準の変更は現存施設の仕様変更を 伴うだけでなく、それにあわせて飼養管理の 見直し等も必要となる場合がある。
3
合作社の取組み
同社は、こうした鶏卵の特質や採卵鶏経営 をとりまく環境変化を踏まえ、4つの特徴的 な取組みを行っている。
第1は耕畜連携である。鶏ふんは主として 園芸向けの良質な有機肥料となることから、
組合員および同社は、自ら経営する園地だけ でなく、近隣の耕種農家にもそれを供給して いる。成都市が循環型の生産体制を推進して いるなか、同社もこれに歩調を合わせると同 時に、耕畜連携が資源循環に配慮した継続性 の高い営農手段であることを鶏卵消費者への 訴求点としている。
第2に複合化を伴う飼養方法である。同社 は柑橘園を経営しつつ、その園地に鶏を放し 飼いしており、果樹作と畜産経営の複合化を 実現している (写真1) 。この複合化は、第1 の耕畜連携の例とも言える。そして、園地内 で放し飼いされた鶏の卵であることを強調す ることで、鶏卵の庭先価格は相場の5倍以上
(18年6月の聞き取り時) で取引されている。な お、放し飼いであることから親鳥 (廃鶏) の業 者への販売価格も高く、ケージ (かご) 飼いの
1土而奇 (Tuerqi) 禽業専業合作社
継続性に配慮した経営は、経営体の価値を 高めることとともに経営者に求められること である。ここでは四川省成都市にある土而奇 禽業専業合作社の運営を例に、採卵鶏経営の 継続性 (以下「継続性」) を考えてみたい。なお、
(農民) 専業合作社は、社員 (以下「組合員」) が 販購買を協同で行うという点で日本の農協と、
農業経営を行うという点で農事組合法人 (2号 法人) と類似する組織である。
2009年に7人で設立された同社の組合員数 は、18年6月時点で112人である。職員数は40 人である。同社は鶏卵の生産と販売を主な事 業としており、鶏の飼養指導、園地での果樹 作に加え農家レストランの運営も行っている。
組合員は採卵鶏を飼養しており、その平均飼 養羽数は500羽である。組合員は同社を通じて 鶏卵を販売している。特徴的なのは、組合員 が放し飼いを取り入れていることである。組 合員以外にも、同社が直営農場で3万羽の鶏 を放し飼いしている。
2
鶏卵の特質と採卵鶏の経営環境
鶏卵は差別化が難しい生産物である。取引 の大半を占める殻付き卵の価格は卵重に依存 し、鶏種によって異なる卵殻色による価格差 は少ない。特殊卵という卵の特定成分を強化 する等、飼養方法にこだわった鶏から採卵さ れた卵もあるが、多くの農場がこれに取り組 んでいるため、十分に差別化されているとは 言い難い。割卵された加工卵ともなれば、差 別化は殻付き以上に困難になる。これらは、
程度の差こそあれ日本も中国も同じである。
採卵鶏経営を取り巻く環境変化にも気を配 る必要がある。定められたルールのなかで、
各経営体は飼養鶏種選択、飼養管理、施設管
親鳥の約2.5倍となっている。
第3に多角化である。同社ではその敷地内 でレストランを経営することで、事業の多様 化を図っている。また、同社および組合員が 飼養する鶏の卵は、レストランで提供する料 理の材料として利用されており、購入前に食 味を確かめることができる。加えて、同社敷 地内は散策が可能となっており、レストラン に立ち寄ると同時に、園地と鶏の飼養風景を 垣間見ることができ、そこで採卵された鶏卵 や組合員の農場産の鶏卵を購入することもで きる。
第4に販売連携である。同社は、成都市内 の同じ地区で農畜産物を生産する生産者およ び農畜産物の加工品を製造する業者と連携し て統一ブランドを立ち上げ、電子商取引サイ ト上で鶏卵を販売している。同社のレストラ ンに立ち寄る顧客、電子商取引サイトを通じ て同社および組合員の卵を購入する顧客から 同地区内で生産する他の農畜産物も購入した いという要望があったことが立ち上げのきっ かけとなっており、同社の理事長 (組合長に相 当) によれば、ブランドの知名度は高いとのこ とである。
4
継続性のための放し飼い
こうした4つの取組みのうち、以下では経 営の複合化を伴う放し飼いに絞って継続性を 考える。
合作社では、組合員が大規模な閉鎖型鶏舎 内にケージを積み上げた採卵鶏飼養に特化し、
発展していくことは難しいと考え、09年の同 社創業以来、採卵鶏を放し飼いするという差 別化路線を歩んできた。この考え方の基礎に は、地域の人から理解を得られ、それが鶏卵 の購入につながると同時に、組合員自らも経 営を継続できるという信念がある。
放し飼いの飼養基準は、1ムー (中国の面 積単位で約667㎡/ムー) あたり100羽までとなっ ている。欧米を中心にケージフリー化の動き が見られ、EUでは鶏卵への飼養方法の明記を 義務付け、放し飼いであることを実需者が確 認できる仕組みが設けられている。また、豪 州ではフリーレンジの認定基準が100㎡あたり 100羽までとなっているが、同社の飼養面積に おける自主基準の水準はこれを上回る。今後 の環境変化の行く先は未確定だが、水準の高 さは飼養面積要件改変への緩衝機能を果たし うるし、継続性を強化することにもなりうる。
ただし、経営の複合化を伴う放し飼いは、
観光農園化が進む合作社直営農場を中心に行 われており、全ての組合員の農場で実践され ているわけではない。今のところ、複合化ま では至らないものの、継続性を考え、全組合 員が放し飼いには取り組んでいるという状況 である。
もちろん放し飼いにも課題がある。最大の 課題は個体管理であり、とりわけ外敵からの 擁護である。加えて、ケージ飼いと比べた産 卵率の低さや個体ごとの炭酸カルシウム摂取 のばらつきを考慮した卵殻強化への対応など もある。現在、同社は3人の技術員を配置し、
組合員が抱える飼養上の課題に対応している。
5
理念を柱にした今後の展開に注目
同社創業メンバーの信念に基づくこの10年 の鶏卵差別化や継続性を考慮した運営は、賛 同する組合員数の増加とそれに伴う事業規模 の拡大につながってきた。同社が基本理念を 踏まえ、かつ今後の経営環境変化にどう対応 しながら継続性を確保していくかが注目され る。
(わかばやし たかし)
写真
1園地を闊歩する鶏
〈レポート〉農林水産業
研究員 亀岡鉱平
土地改良区を中心とした農地集積の条件
─ 埼玉県西吉見南部土地改良区の事例 ─
ではなく、転用予定地の集積を通じて、維持 すべき農地を確定させる機能を持つものであ った。そのため、事業主体であった改良区が、
整備後の農地管理についても自ずと調整役を 担うことになった。加えて、改良区自身が地 域農業維持のために農地集積が必要だとの認 識を強く持っていた。また、出入作がほとん どなく、人的にも領域的にも改良区内で営農 が完結しており合意形成が図りやすかったこ とも、改良区が集積の調整役となった背景事 情として指摘できる。
改良区による集積にかかる具体的な活動内 容は、①事業内容の周知と農地所有者の懸念 の払拭 (台帳面積や境界が変わらないことの理解 醸成) 、②農地所有者・耕作者双方への事業参 加に関する意向調査、③各耕作者の経営規模 や分散状況の把握、換地を通じた集積、④小 作料の統一、といったものであった。これら を通じた現在までの集積率は、67%となって いる (第1表) 。直近では集積率の上乗せは鈍 化しているが、貸借関係を掘り起こせる農地 はほぼ出尽くした中で、自給的農家が離農し た際の農地を中間管理機構に回すという流れ が定着しているのが現状である。
農地中間管理事業の推進に関してはいくつ かのパターンが形成されているが、中には土 地改良区が中心となって事業を活用している 事例が見られる。ところで、土地改良区が農 地集積の中心的役割を担うのは、どのような 条件がそろっている場合であろうか。この点 につき、西吉見南部土地改良区の事例に即し て検討したい。
1
改良区と管内の農業の概要
西吉見南部土地改良区は、都心から1時間 強ほどの埼玉県比企郡吉見町に所在してい る。1961年に設立され、91年から06年まで実 施された県営ほ場整備事業によって敷設され た揚水機場およびパイプラインの維持管理が 現在の主業務である。このほ場整備事業には、
区画の拡大とともに、虫食い的に存在し、営 農を阻害していた転用予定地を集積する目的 もあった。また、地区面積は91.4ha、組合員 数は99人 (18年10月時点) であり、組合員資格は 土地改良法の原則通り所有者ではなく耕作者 を基礎としている。しかし、自給的農家が多 く、担い手として把握されている組合員は20 人強ほどである。管内に組織経営体、作業受 託組織のような組織体はなく、機械所有も含 め営農は戸別完結的である。
2
改良区による中間管理事業への対応 改良区が管内農地を対象とした中間管理事 業の推進役となったのには、先行したほ場整 備事業が関係している。
当地区におけるほ場整備事業は、単に担い 手農家が引き受けやすいほ場を造成するだけ
2014年度 20.8
15 36.1
16 3.4
17 0.7
18 0.3
計 61.3 集積率67%
資料 西吉見南部土地改良区提供
第1表 農地集積の実績
(単位 ha)
3
初年度の実績の背景
─まとまりのある農地の利用調整─
当地区では、中間管理事業の初年度にまとま った面積の集積に成功している。この点につい ても、先行したほ場整備事業が関係している。
当地区では、ほ場整備事業を契機として、
転作組合 (麦作組合) による転作団地が01年に 誕生した。この麦作組合では、4人の担い手 農家を中心に麦用機械は組合有、作業は戸別 単位という形態で、整備済みほ場を集積して 効率的な土地利用を行っていた。しかし、こ の麦作組合は14年に担い手の1人が逝去した ことでその後解散を余儀なくされた。組合の 解散は、麦作付地20.9haの再調整という問題 を地域に生じさせたが、受け手の確保は難航 した。その最大の理由は、担い手農家が約30 件にのぼる麦作付地所有者への小作料支払い 事務に負担感を感じたためであった。
麦作組合はほ場整備事業によって誕生した 組織であるため、解散に伴う土地利用の再調 整についても、改良区が主体となった。奇しく も同じ14年に中間管理事業が開始されたこと で、麦作組合の作付地への対処から、当地区に おける中間管理事業への対応はスタートした。
当地区の初年度の事業の実績は20.8haだった が、これは旧麦作組合の作付面積とほぼ一致 する。中間管理事業は、借り手 (担い手) の側か ら見れば、貸借関係を 「中間管理機構─借り手」
の一つに整理する効果を伴うため、麦作付地 受け入れのネックとなっていた小作料支払い 事務の煩雑さを解消する役割を果たした。こ の利点は借地一般に妥当するものであり、15年 度以降の集積の進展に際しても作用している。
4
農地所有者参画の背景
─改良区による地域農業との接点づくり─
中間管理事業の実績を上げるためには、農 地の出し手である農地所有者の協力が不可欠 である。当地区においては、水
す い ろ の り め ん
路法面の保全
活動を通じた農地所有者と地域農業の接点作 りが意味を持った。
ほ場整備事業を機に、改良区では水路法面管 理の省力化に取り組んでいる。農業者の減少・
高齢化が進展し、法面の除草作業の省力化が課 題となる中、改良区の単独事業として雑草抑制 効果のあるセンチピートグラス等の植栽が03年 から開始された。この活動はその後07年からは 農地・水・環境保全向上対策事業、14年からは 多面的機能発揮促進事業による活動へと遷移 しながら、地区内をめぐる形で継続している。
防除活動に当たっては、改良区が事務局を担 っており、事業趣旨に即して、現況の耕作者だ けではなく、土地持ち非農家ほか地域住民全体 を含めた形での活動が定着している。これは、
活動の継続の中で、水路や景観を地域資源とし て捉える意識が十分に醸成されてきたためで あると考えられる。環境保全活動を通じて農地 所有者全体が地域農業との接触を保ち続けた ことが、地域の土地利用に直結する中間管理事 業にかかる円滑な合意形成にも寄与したもの と推察される。このことは、整備された農地を 有効に利用するためには、耕作者以外の者の主 体的参画が必要であることを示唆してもいる。
5
土地改良区を中心とした農地集積の条件 中間管理事業の実施に当たって、改良区が 調整役を担った背景事情として、①先行する ほ場整備事業の存在、②改良区の範囲で営農 が完結しており、改良区が利用調整に機動的 に動いたこと、③中間管理事業で処理するのに 適切な農地がまとまりをもって存在したこと、
といった諸点を挙げることができる。③は当 地区固有の事情だが、ほ場整備事業に関連し たものでもあった。加えて、改良区は土地持ち 非農家を含む土地所有者全体との接点を有し ており、その点でも中間管理事業との関係は 順接的なものとなりやすかったと考えられる。
(かめおか こうへい)
〈レポート〉農林水産業
主任研究員 田口さつき
若手が学ぶ「浜の起業家養成塾」
義に聞き入っていた。
講義の内容は、今すぐ役に立つものと、今 後に生かせると思われるものの2種類がある という感想があった。塾生は漁船漁業や無給 餌養殖を営んでいるが、魚類養殖について学 んだ日は、「天然のヒラメに養殖魚と同じ病気 はでるのか」、「白いはずの部分が黒いヒラメ がとれるのだが原因は何か」、「病気にかかっ ている魚を食べると人間にはどのような影響 がでるのか」など、質問が絶えなかった。
講義のほか、他の塾生との意見交換で気づ かされることも多いという。漁業といっても 漁法も魚種も違うが、話していて大事なこと がみつかるそうだ。「ここでは、自分とは違う 漁業を営んでいる人、年が違う人と話し合う ことができる。漁業者は外に出たがらない。
しかし、外に出て視野を広げることは大切だ」
と、ある塾生は語った。
2
浜の未来を考える
塾生は、自分の生計だけでなく、地元の将 来への関心も高かった。「高齢化で人が減って いる」、「 (自分が養殖している) ワカメ、コンブ の値段が高いので収入は安定してきたが、こ のままうまくいくだろうか」といった心配を していた。
また、漁場について「これまでは漁業者が 多すぎて漁場の取り合いだったが、今は余裕 をもってできる。ただ、今回の漁業法の改正 により、隣の浜の優良漁場を利用したくても 若い漁業者が漁業の技術や経営について体
系的に学ぶ「浜の起業家養成塾」が2019年に 初めて開催された。講義の内容は2部構成で、
前半は「漁業編」 (1月7日〜16日) 、後半は「経 営編」 (1月28日〜2月6日) であった。
主催・運営は全国漁業協同組合連合会で、
全国の漁協系統を通じて募集した。対象者の 第一条件は「ヤル気のある若手漁師!」であ り、具体的には①満45歳未満の漁業者・新規 就業希望者、②将来中核的担い手となる意志 を有する者であり、所属漁協または漁連から の推薦で選ばれた。19年度は、延べ11人の若 手漁業者が全国から「全国漁業協同組合学校」
(開講場所) に集まった。
講義は1コマ80分で、1日に5コマ盛り込 まれ、塾生は9時半から17時40分まで集中的 に学んだ。講師陣は各分野の専門家であり、
基礎を中心に、最先端の話題も解説し、塾生 は大学水準の知識を短時間で学んだ。若い漁 業者がどのような思いで参加し、また講義か ら学んだか、一端を紹介したい。
1