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メタバースを利用した外国語学習に関する研究
李, 相穆
九州大学大学院言語文化研究院 : 准教授
https://doi.org/10.15017/4777916
出版情報:言語科学. 57, pp.55-60, 2022-03-23. 九州大学大学院言語文化研究院 バージョン:
権利関係:
メタバースを利用した外国語学習に関する研究
李 相 穆
1 .
はじめにコロナによる世界的パンデミックの影秤で学校教育は二年近くオンライン授業を強いられる ようになった。この間、学生も教員も平時では考えられなかった不便さを経験することになった が、その経験はアフターコロナにおける教育のあり方を考える上で非常に貴重なリソースとなる だろう。「教室での対面授業こそが正規の授業だ」と思われる時代はもう終わったと言っても過言 ではない。オンラインを通じて行われる学習は教師と学生が時間や場所の制約を受けないため、
対面授業では不可能だった学習が可能になったからである。
Seemiller & Grace(2017)は現代の若い学習者ば情報へのアクセス方法やコミュニケーション方 法が既存の世代とまったく異なるだけでなく、学習の動機や学習の方法、社会的関係の形成につ いても異なる点が多いと述べている。このような特徴を持っているMZ世代が教育の対象になる と教師の役割も知識の提供者という立場から、学習を促進させ学習を補助する学習設計者に変化 し、学習者は自己主導型学習、相互学習の主体になるという見解もある(Jang,2021)。このような 変化をもたらす原動力は科学技術の発展にあり、特にメタバース(Metaverse)は現在と未来の技術 の中心に位置しているといえるだろう。
メタバースとは(Metaverse)ニール・スティープの小説「スノウ・クラッシュ」 (1992年)で使用 された言薬で、上位概念を表す「メタ(meta)」という接頭語と「世界(ユニバース:Universe)」を合 わせた造語である。この小説では、主人公がゴーグル型のディスプレイを装着してメタバース(3 次元仮想空間)内に侵入し、コンピュータウイルスと実際のウイルスに関する謎に挑む過程が描か れている(井関,2011)。現在では、インターネット上に構築された3次元の仮想空間に入ってコミ ュニケーションを行うことが可能なシステムを意味するようになった。メタバースではその言葉 が持っている意味通り、自分を代弁するアバター(Avatar)が現実の世界のように描かれた仮想世界 の中で他のアバターとやり取りをしながら活動するという点で既存のオンライン空間とは一線 を画す。アバターが活動する世界では現実の世界と同じく探検、冒険、コミュニケーションが可 能で、設定した目標を達成した時は現実の世界と同じく達成感を得るごともできる。仮想空間で 行われているのはそこに移した教室授業だけではなく、学生自らが主体的にコミュニケーション
を取りながら学習やゲームといった目的を達成することが可能である。
パンデミックの影響でオンライン授業が一般化される中、授業のプラットフォームとして急浮 上したZOOMやGoogleMeetのようなリアルタイム会議システムも現実の世界をそのまま反映さ せて学習者と授業を進めるという意味でメタバースの一つである。しかし、学生と教員がお互い
に顔を合わせることで実際の授業に参加しているような没入感を得ることはなかなか難しい。そ の理由の一つは、学生の頻がスクリーンに表示されるものの、教室で授業を受けているという空 間的な位置を頭の中で描きにくいからだろう。特に外国語学習場面においてはオンライン会議シ ステムではロールプレイやグループ活動などを行うことが容易ではない。教員の発言に同時に学 生二人が答えた場合、誰の発言だったのかを特定することは簡単ではない。学生同士で顔を見な がら会話をしている場合でも、同じ空間に存在するという共有の感覚が欠如しているため不自然 さを生じる。そこで本研究では、新しい学習空間として注目されつつあるメタバースを利用した 授業にはどのようなメリット、デメリットがあるのかを考察し、未来の外国語教育を考えてみる
ごとにする。
2 .
オンライン会議システムを利用した授業のメリットと問題点大学でもオンライン授業が始まってから二年を迎えようとするが、教師、学習者ともにオンラ イン教育についての意識は大きく変化したように思われる。対面授業の補助手段としてしか位置 付けられてこなかったオンライン授業は対面授業に代わる可能性があると感じている人も多く なった。同時に、オンライン授業のデメリットや限界をより強く認識した教師、学生もいるだろ う。パンデミックのオンライン授業で一番多く使われていたのはZOOMやMicrosoftTeams、Google Meetのようなオンライン会議システムである。画面越しで顔を見ながらリアルタイムでインタラ
クションができるため遠隔授業からくる孤立感を解消することができた。特に外国語教育では教 師が学習者の発音や発話を聞いて確認してフィードバックをしなければならない。会話クラスで は ZOOMのブレイクアウトルーム機能を使うと学習者同士で習った会話を練習することも可能 である。
しかし、このようなオンライン会議システムを利用した授業にも限界が感じるようになった。
オンライン授業では学生と教員とのやりとりを円滑に行いにくく、複数の学生が同時に教師に話 しかけた場合はその学生を特定することが難しい。学生やグループを特定して何かを指示するこ とも困難である。このように実際の会話同様のインタラクションができないためオンライン授業 の否定的な評価につながりやすく、学生も教員も消極的になりがちである。結局、教員は一方的 に授業を進め、学生は音声をミュートにして授業に参加するといった不自然な形で授業が行われ ている。学生同士の活動を促すためにブレイクアウトルームを利用することも可能だが、決めら れた人数でしかできず、グループ間の移動はそれほど簡単ではない。
3 .
メタバースの特徴2のオンライン会議システムの間題点や限界を克服するための一つの方法としてメタバースが 期待されている。メタバースとはネットに構築された仮想空間にアバターという自分に変わるも のを利用して仮想世界の中で活動ができる。メタバースはVRや仮想空間と言われることが多い
が、 VRや仮想空間はメタバースを構成する技術や下位概念でありメタバースはより広い意味の デジタル化された世界を意味する。メタバースが誕生した当初は VRの技術を活用した仮想現実 を目指していたが、人々が考えていた「デジタル化された地球」という期待より VRの技術の進 歩が遅れた。そのため物理的に現実の VRのような感覚は得られないが経済的な実用性と大衆的 なアクセスを考慮した異なる形態のメタバースが登場するようになった。先述のようにメタバー スは非常に広い意味をもっているためそれを構成する様々な技術について見ることにする。
(1)拡張現実(AugmentedReality)
図1は拡張現実の例として「ポケモンGO」という携帯用のゲームである。スマホのカメラ画 面にキャラクターやテキスト情報を表示することで現実世界
,
を拡張して表現している。拡張現実(AR)の歴史は1901年に 遡ることができる。ライマン・フランク・ボームは「キャラ クター・マーカー」という電子デバイスを考案し現実を写し た映像に人が作ったデータをつけて表示することを試みた。
その後本格的にARという用語が一般に知られるようになっ た。そして 1990年代末アメリカの航空機製造社のBoeingが 飛行機の組み立て過程で仮想のイメージを利用したのが初め てのARだと言われている。観光地でスマホのカメラを当て ると観光地の説明が表示され、英語の看板をカメラから見る と翻訳された日本語が見えるアプリのようなものもARの一 つだということができる。 ARの特徴は、 ARが現実を基盤と
しているため現実がないと存在できないことである。
図 1. ARの例(ポケモンGO)
(2)ライフログ(LifeLogging)
ライフログとは人間の生活を長期に渡りデジタルデータとして記録することで、趣味、健康な どの個人の全般的な記録を意味する。現在よく使われているSNSがもっとも代表的な例になるが それだけではない。スマホを持ち歩くと自動的に記録される位置情報や買い物情報、ウェブペー ジの閲覧履歴などもLifeLoggingの一つである。単純な記録だとも捉えることもできるがライフ ログでは現実に幻想的な要素、つまり現実位の自分とは異なる存在としての自我で活動する。
(3)ミラー・ワールド(MirrorWorlds)
ミラー・ワールドはデジタルメディアに現実の情報を描画する方法をさす。 GoogleEarthのよ うなデジタル情報の上に、 3Dのミラーワールドを表示することを意味する。仮想の空間の上に現 実の世界の情報を加えてより見やすくて効率的に表示することがポイントである。拡張現実と区
別が難しい場合があるが現実情報に幻想的な情報を加えるのが拡張現実だとしたらミラー・ワー ルドは仮想空間に現実情報をマッチングさせることで成り立つ。
(4)仮想世界(VirtualWorlds)
仮想世界は映画やゲームの中に存在する仮想空間を言う。仮想世界では自分に変わるアバター を媒介として現実では経験し難い探検や冒険をすることができ、仮想世界に参加している参加者 との交流を固ることもできる。現実では味わえなかった解放感や人に認めてもらいたい欲求を満 たすことができる。目標を設定してそれを達成することで得られる満足感も現実世界ではなかな か得られないものであると考えられる。 NAVERZが運営している「ZEPETO(ゼペット)」は仮想 世界のいい例である。 ZEPETOの中の様々なワールドに入ってチャットや音声、メッセージを交 換できたりアイテムを購入することなどもできる。
オンライン会議システムに限界点を感じますます発展しているメタバースの種類について概 続した。新しい技術に対する過剰な期待感はその技術の効果の検証を妨げたりもする。教育の現 場で活用するためにはそれぞれのメディアがもつ効果を検証する必要があると思われる。
4.メ タ バ ー ス の 外 国 語 学 習 で の 利 用
Jang(2021)では韓国語学習者23名を対象とした韓国語の授業にメタバースを活用した韓国語授 業を紹介した。会話能力の向上を目的とした授業で韓国語教材の会話部分だけをメタバース (Gather Town)を利用して行った。授業の構成を図1に示す。
表1. Gather Townを活用した韓国語の会話授業の構成(Jang, 2022)
課題の準備 課題設定 課題随行 課題評価
・オプジェクトに写真及び ・画面共有 ・グループ別会話練習 ・スポットフイトを使用し 動画をリンク ・ホワイトボード活用 ・会話が設定された実生活 て発表
・画面共有 ・スポットライトを使わす 空間を回りながら練習 ・ホワイトボードを活用し
練習 た教師のフィードバック
・教室で全体の発話の練習 提供
メタバースを利用した授業の課題評価の段階では、メタバースの中で教師や友達の前で発表さ せ、実際の授業との同じ効果があるのかを考察するため質間紙調査で学生の授業についての感想 を聞いた。学生からのメタバースを使った韓国語授業についての感想のうち、いくつか肯定的な 意見と否定的な意見を紹介する。肯定的な意見としては「GatherTownの自分の部屋を飾ることが できてよかった」との意見と「設定されている場面に自分が没入している感じがしてよかった」
との意見があった。否定的な意見としては「最初操作に慣れるのに時間がかかった」、「それぞれ の設定場面に移動するのが大変だ」との意見があった。 Jang(2021)ではメタバースを利用した韓国 語教育はまだ初歩段階にあると思われるものの、これから時間と空間を超えた教育という側面か ら考え、海外居住学習者、会社員など決まった時間、決まった場所でひらかれる授業に参加でき ない学習者の需要を満たす代案になるだろうと予測している。
オンライン会議システムを使った会識システムはCALL教材が抱えていたフィードバックの間 題やインタラクションの間題を解決してくれたが、授業参加者が同じ空間を共有しているという 感覚の欠如による没入感の不足もある。またカメラを使うことによるプライバシー問類も解決し なければならないことである。
メタバースが持っている空間移動性を調べるため、 Jeong,Lim &Ryu(2021)ではメタバースのメ リットと言える空間移動性と社会的な相互作用がオンライン授業の間題点に役に立つかを調べ た。この研究ではメタバースでの空間移動性は学習空間での共存性を高めるのに肯定的な影響を 及ぼしていて、その結果によると移動が多くなるほど学習空間についての認識レベルが高くなっ ていると述べた。しかし、空間感覚の形成において必ずしも正の相関を表さなかった。これは空 間移動性だけでは学習共存感を説明することができないことを示唆している。
メタバースというバーチャル空間に入って現実とは異なる要素を持ちながらも現実を拡張し たような活動ができるといのは様々な理由で教育への効果が期待される。まずメタバースが持っ ている娯楽性は新しいメディアというメリットだけでなく学生自らがワールドを開設、構築でき いろんな活動を体験することができるという点で無限の可能性を潜めていると考えられる。そこ から得られる楽しさは退屈になりがちな教室授業の補助教材としての役割を果たしてくれるだ ろう。そして外国語学習においては、対面で外国語を使うことからくる緊張や心配からある程度 解放されることもできると考えられる。実際の外国語使用の場に出る諌習としては極めて有効に 活用できると考えられる。また外国語使用の場面や状況別会話のロールプレイでもただの役割分 担の練習にとどまらずワールドやアバターを変えやることによってもっと没入感を得ることが 可能であると思われる。
5.終わりに
本稿ではコロナのパンデミックによるメタバースの普及とそれを外国語教育現場で活かすた めの研究を取り上げ、メタバースの外国語教育での有効性について述べた。メタバースという技 術は予想より 5年から 10年も先に出てきた言われるほどまだ不完全な部分が多い。つまり必要 性に迫られ始まったというような感じもする。例えばVRを利用するためにはHMD(HeadMount Display)を利用しなければならないが、まだグラフィックも完全に没入するほどの画質には至っ てない。誰もが簡単にメタバースを体験し楽しむためには時間がかかると思われる。またメタバ ースやVRの使用時間による疲労感、現実との乖離による学習者への精神的影響についてのさら なる研究が必要である。
参考文献
Corey Seemiller,Meghan Grace. 2017. Generation Z: Educating and Engaging the Next Generation of Students, About Campus 22(3), pp.21‑26.
Jang, Jiyeong. 2021. A Study on a Korean Speaking Class Based on Metaverse ‑Using Gather.town. Journal of Korean Language Education 32‑4: 279‑301.
Yuseon Jeong, Taehyeong Lim&Jeeheon Ryu. 2021. The Effects of Spatial Mobility on Metaverse Based Online Clas on Learning Presence and Interest Development in Higher Education The Journal of Educational Information and Media 2021, Vol 27, No 3, pp.1167‑1188.
井関文一(2011)3次元仮想空間と教育次世代インターネットの効用,新・実学ジャーナル.pp.1‑2. (https://www.nodai.ac.jp/hoj in/j ournal/images/j̲ 1104/p 1. pdt)
召付せ,剋喝立(2021).叶