069 JR EAST Technical Review-No.4
お客さまは駅構内を移動する際に、様々な情報に助けられて列車に乗り目的地に到着する。目的地に到着するまでの円滑な 移動を助けるものが、案内サインである。駅構内、列車での円滑な移動を確保するためには、エスカレーター・エレベーター などを設置するハード面に加え、情報案内サービス等のソフト面とが、相互に重なり合ってはじめて意味を為すものとなる。
2000年5月17日に公布、同年11月15日に施行された「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化 の促進に関する法律」(以下、「交通バリアフリー法」)では、交通弱者の方々への円滑な移動を確保することが重要な課題と なっており、今回は現在フロンティアサービス研究所の研究テーマの1つである「案内サイン」に関するアクセシビリティ
(お客さまにとっての駅の利用しやすさ)の研究の報告をする。
Special edition paper
案内サインのアクセシビリティ
澤 剛* 高井利之**
桝 柳
●キーワード:案内サイン・バリアフリー・ユニバーサルデザイン
JR東日本では、お客さまが目的地に到着するまでの情報提 供手段として、案内のための各種サインやインフォメーションカウ ンター等を設置している。駅案内サインについては、1988年の 新宿・秋葉原駅における試行、および1990年のデザインマニュ アルの作成を経て順次、整備を行ってきた。しかし、マニュアル の策定から十数年が経過しその一部が、お客さまのニーズに マッチしなくなってきた。特に「バリアフリー」または「ユニバー サルデザイン」という考え方から、分かりやすさ・見やすさという 点で、文字等の表記方法やピクトグラム活用の必要性が浮き 彫りになってきている。また、情報を掲示する位置や情報の内 容についても改善する必要があった。
そこで、J R 東日本では案内サインマニュアルの見直しを行 い、見直したマニュアルを踏まえ、各駅の案内サイン整備を進 めている。また、新設・改築・改修された駅についてはもとより、
サインのみの整備も順次改良を行っている。
案内サインはなぜ必要なのか。案内サインは人の移動を補 助するものであるので、案内サインが最小限であってもお客さま の移動に不便が生じないような空間構成であるべきである。
例えば、「すべての駅において、改札に入ったらすぐにトイレが 見える。そのトイレの右側が必ず男性用で左側が必ず女性用」
となり、それが一般的になれば、トイレへの誘導サインの必要性 が無くなり、視覚障害者の方へも必然的に配慮が行われてい る事となる。しかし、すべての駅をそのような空間にするのは不 可能である。事実、多くの駅の空間が構造上の理由により 様々な平面形状をしている。また、駅という経営資源の活用等 のため、様々な設備の見直し・改修を繰り返しており、現在では 生活サービス事業として駅構内にも店舗を展開しており、駅空 間の複雑さが増しているケースもある。そのわかりにくさを軽減 するためにも案内サインは必要不可欠な設備の一つなので ある。
国鉄時代は、サインマニュアルである「鉄道掲示基準規程」
により、写真(図1)にあるような、国鉄統一の案内サインが掲出 されていた。
1 はじめに
2 案内サインの必要性
3 駅案内サイン整備の経緯
図1:国鉄時代統一の案内サイン
(左側写真:吊下げ式サイン 右側写真:階段脇サイン)
*JR東日本研究開発センター フロンティアサービス研究所
**ジェイアール東日本メカトロニクス株式会社(元フロンティアサービス研究所)
1987年4月の国鉄分割民営化後に、JR各社に引き継がれ たマニュアルには「鉄道掲示規程」が定められている。その規 程の内容については、国鉄時代のものとほとんど変わらず、JR 各社すべて同じ内容であった。国鉄のサインマニュアル(鉄道 掲示基準規程)の問題点をあげる。
○同一駅構内にある乗り換え他社線への案内がない。
○フェイスデザイン(サイン板面の内容)としてのサイン規程 しかなく、お客さま動線による案内サインのシステム化はさ れていなかった。
○英字表記規程が駅名に対してだけである。
○色彩についての規程が少ない。
○国鉄時代のサインは地が黒に切抜き文字の内部照明式 であったが、文字の色を白色等で統一していない為、地と 文字との輝度差が不明瞭であった。
○文字の大きさ、案内サインの配置などについて、「適宜」と いうあいまいな表現を使用している。
以上のように、案内サインマニュアルとしては、あいまいな部分 が多く見受けられた。また、今日の考え方にはマッチしない面 があった。
その後民営化を経て、1990年頃、JR各社それぞれが独自の マニュアルを制定している。お客さまの目に触れるものである 案内サインは、お客様の円滑な移動の補助のためのみにとどま らず、駅舎内空間の環境形成・JR各社のCI(コーポレートアイ デンティティ)のためにも非常に重要な役割を果たしてきたので あった。そのため、より分かりやすい・見やすい案内サインへの 改革が必要となった。
3.1 駅案内サイン整備状況
今日、「バリアフリー」または「ユニバーサルデザイン」という考 え方にもあるように、我が国では、諸外国に例を見ないほど急速 に高齢化が進展し、2010年には国民の4人に1人が65歳以上 の高齢者となる本格的な高齢社会が到来すると予測されてい る。また、身体障害者が社会の様々な活動に参加する機会を 確保することが求められていること等から、高齢者、身体障害 者が自立した日常生活及び社会生活を営むことができる環境 を整備することが急務となっている。駅環境も例外ではなく、高 齢者・身体障害者の方以外でも、怪我をしているお客さま・子供 づれのお客さま・重い荷物をお持ちのお客さま等、移動制約者 の方に対する配慮も必要となってくる。
2002年のサッカーワールドカップがひとつの契機となったが、
更なる国際化の対応も必要とされている。駅の利便性、快適 性をより向上してゆくためにも、さまざまなお客さまに対応したこ とを配慮した上で、デザインマニュアルの改訂を行い、駅案内 サインの整備をすることが急務となってきた。JR東日本におい て1990年に制定された「JR東日本サインマニュアル」の改訂
を行うとともに、各駅での案内サイン整備(図2・表1)を順次進 めてきた。
お客さまの声の中に、駅構内の案内がわかりにくいというもの がしばしばあげられる。駅構内の案内はなぜわかりにくいと言 われるのか。その理由として、次の4点があげられる。
1)ホーム・出入口が多く、案内すべき情報が多い。
多数の改札口・ホームがあるため案内サインに表示する 情報も多くなり、お客さまの必要とする情報が検索しづら いことが原因である。
2)駅の増改築・複層化・他社線との乗換え等のため、単純な 空間構成になっていない。
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4 現状の駅案内サインの問題点
図2:左上,のりば誘導標,番線記名標 右上,ホーム誘導標 左下,可変情報サイン/発車標 右下,出口・のりかえ案内標
年度 整備概要
1987年 「鉄道掲示規程制定」
1988年 新宿・秋葉原駅サイン制定
1990年 「JR東日本デザインマニュアル」制定 1996年 渋谷・長野駅サイン整備
1998年 新橋・仙台駅サイン整備
池袋・高田馬場・浜松町・品川駅サイン整備 山手線内 ホーム時刻表整備
デザインマニュアル改定案作成 2000年 東京・新宿・御茶ノ水駅サイン整備 2001年 案内サインマニュアル改定
上野駅サイン整備(駅ビル:アトレ開業)
ワールドカップ対応(中国語韓国表記)
案内サインマニュアル追加
拠点駅整備計画(東京・新宿・渋谷・池袋駅)
阿佐ヶ谷・津田沼駅改良でサイン整備
大宮・立川駅等コスモスプランでサイン整備予定 横浜駅改良でサイン整備
順次、駅案内サイン整備を行う 1999年
2002年
2003年
表1:案内サイン整備表
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特集論文-7
例として東京駅・上野駅のように、高架下と地下のコン コースが複層化しており、不慣れなお客さまにはわかりに くい複雑な空間(形状)となっている駅があげられる。
3)有料広告、駅ポスター等が多く、案内サイン(写真3)有料 広告等と案内サインとのしっかりしたすみわけがなされて いないため、案内サインが重なってしまう、広告に埋もれて しまう例など、視覚的に案内サインを見にくくしている。
4)案内サインの表示方法に統一性がない。(図3)
駅によってはまだ整備しきれていない箇所や独自のデ ザインの案内サインが掲示されているために統一性がな く、お客さまの混乱を招く恐れがある。デザインを統一する ことによって、必要とする情報をお客さまがどこに行っても すばやく理解することができるようにしてゆく必要がある。
案内サインの抱える問題点は、フェイスデザインについてだけ ではなく、駅の構造やサインの配置等に起因するものもある。問 題点は、特にターミナル駅や複数の会社の路線が同居してい る駅に多く見られ、また新宿駅のように5つの他社線との乗入 れがあるために、限られた面積に表示するために情報がどうし ても多くなり、お客さまにとって見にくいものとなってしまうという 点も上げられる。また、案内サインについてだけではなく、3)の 有料広告等との関係についても、今回改訂(2002年)された案 内サインマニュアルにも概念図程度で、まだ多くの問題を抱え ており、その他にも案内所インフォメーションカウンターの設置位 置等の問題もある。
2002年度、フロンティアサービス研究所では「快適性を高め る駅のトータルデザイン」というテーマで「 駅空間の快適化」の 実現に向けての現実的解決策を得ることを目的としての実態 把握を行った。今回は「駅の快適性」を構成している要素を分 類しそれぞれについての実態調査を行い、定量的な洗い出し をした。
5.1 「快適性の要素」概要
「快適性を高める駅のトータルデザイン」で「駅の快適性」に 影響を与える要因は3つの要素(図5)で構成したものとして考 えられた。
これらは駅空間を利用するという観点での快適性を上記の 分け方より、相対的に読み取ることが出来ると考えた為である。
上記の概念を3つの軸として、駅空間・設備の今後の理想 としての全体像を描き出すこととした。
「快適な移動」・・・移動しやすい駅形状、移動をサポートする 駅設備等の検討
「情報の適切な提供」・・・広告、サインのあり方等
「快適な環境」・・・熱環境・光環境・音環境、デザイン等 5.2 「快適性の研究」概要
今回、実態調査研究として「首都圏の駅」に主眼を置き、「快 適な移動」 「 情報の適切な提供」の要素として『案内サインに 関する調査(筑波大学,芸術学系との共同研究)』を行った。
次に「快適な環境」として『熱環境』・『光環境(横浜国立大学,
工学部建築学教室との共同研究)』『音環境』に関する調査 を行った。また、お客さまの実態調査として『お客さま意識調査』
を行い、各調査との相互関係を結ぶ為の補足的な要素とした。
駅の快適性に関わる重要な要素の一つとしての『首都圏の拠 点駅におけるサインに関する調査研究』として、わかりやすい駅 案内サインの検討を行った。本研究は筑波大学,芸術学系(代 表西川潔教授)との共同研究となる。
2002年度からの2ヵ年計画調査研究とし、2002年度の研究 目的は、JR東日本の首都圏拠点駅の利便性と快適性を増進 するために、サイン及びその他の掲出物がどのように在るべき かを提案することにある。
2002年度の調査及び結果は以下の通りである。
6.1 駅構内の空間形状と代表的な移動経路の把握
4の2 )でも述べた通り、東京、上野、新宿駅等の平面形状が 複雑で分かりづらいものとなっていた。また、案内表示の設置 位置が悪いものがあった。特に路線図、時刻表は、お客さまが 滞留する箇所に設置し、分かりやすい空間把握をお客さまに 提供するべきである。
6.2 お客さまに向けた案内に関するアンケート調査 図3:広告・サインのすみわけ、表示方法の無統一性
【快適な
移動
】【
情報
の適切な提供】 【快適な環境
】図4:「駅の快適性」要素
5 快適性を高める駅のトータルデザイン
6 「サインに関する調査研究」概要
お客さまに対し、案内表示に関するアンケート調査を行い、有 効回答402件であった。得られた主な意見は次のとおりである。
1)駅構造が複雑であるほど、場所に関する案内表示の必要 性が高い。例えば、現在位置の分かるサインで構内案内 図等を分かりやすく、見やすい位置に設置する。
2)案内表示については、広告や看板との競合を解消する方 法が望まれ、誘導表示については、矢印の改良と距離情 報の追記、駅構内図についての不満が高く、設置とフェイ スデザインが分かりづらいという意見であった。また電光式 発車時刻表(LED)には停車駅の表示が求められていた。
3)駅員やインフォメーションセンターなどの人的案内資源の 有効性が確かめられた。特に有人改札、案内所で配布し ているリーフレット型の構内案内図は評価が高く、今後は 認知度を高めてゆくことが課題となった。
4)絵文字や色による識別よりも文字情報の方が分かりやす いという結果も少なからずあった。実際に使われている色 の中には視認性が悪いものや色数が多いため識別がし づらいことが指摘されていた。現状の色による識別システ ムの効果に疑問が持たれる結果となった。ピクトグラムも同 様である。
これらの結果を基に各整備対象駅に対する部分的な現状 把握(お客さまへのヒヤリング等)をもう少し詳細につめる形で 行い、総合的な項目(リーフレット型、構内案内図等)も含めて 改善する必要がある。
6.3 駅社員に向けた案内に関するアンケート調査
駅社員に対しても同様に、案内表示に関するアンケート調査 を行い、有効回答が127件であった。得られた結論は次のよう にまとめられる。
1)お客さまからの質問は駅の構造や発着する列車の特色
(何分発等)を表している。東京駅では場所(ホーム、トイレ 等)に関する質問が多く、上野駅・大宮駅では列車に関す る質問(発車番線、停車駅)などが多い。
2)駅員が口頭で行う案内にも、駅の構造等の特色が表れて いる。案内に便利だと思うものとして、手渡し可能な構内 案内図や路線図、ランドマーク、足元に張られた路線別に 色で識別されるテープをあげていた。
3)誘導表示に関する要望として、複数の行き先を案内する 板面の仕切り線を目立つものにする、誘導項目別に矢印 を使うなど等のフェイスデザインに関するもの、有料広告と の関連に触れるものがあった。
4)誘導表示以外では、構内案内図をもっと目立つ位置に設 置して欲しいという要望が上野駅から上げられており、上 野駅では駅員手作りの案内サインに肯定的で、実際に貼 り紙の実施率が高いことなどが挙げられた。
これらの結果を基に今後は各駅の必要な案内サインの優先 順位を定め、設置方法・掲出内容に関する検討を密に行って ゆく必要性が出てくる。
6.4 お客さまのサイン利用実態及び経路探索行動把握のため の予備実験
駅での乗換行動などを課題とし て与え、アイマークレコーダーやI C レコーダー(図5)などを使い、行動 や視線を記録する実験を行った。
実験の結果、次のことが明らかに なった。
1)不慣れな乗換行動での、サインの重要性が確かめられた。
特に経路の確認のために頻繁にサインを見ていた。
2)目的駅への路線確認のために路線図が必要とされてい る。特に、停車駅の案内が必要である。
3)サインが視野に入っていても、認知されず見落とされてい る例が見られた。認知されやすいサインの要件を明らか にする必要がある。
4)実験方法の適切さが確認された。
6.3同様に整備する案内サインの優先順位をつけ整備改善 項目を絞り込んで行く必要がある。
1)サインシステムあるいはサインの基本計画に係わる問題。
情報を伝達するという構造が、矢印で誘導するという方向 系を主としたサインで構成されているため、サインの記載 事項が多くなり、また設置箇所も多くなる。この双方をいか に少なく効率的に設置することが最大の課題である。これ らの課題に対する改善として案内サインの設置場所や形 式、案内所(インフォメーション)のあり方、ランドマーク系の サインの配置など、案内サインシステムを新設・改修する駅 には十分な検討や計画することが必要となる。
2)サインのメンテナンスについて、増改修が多い駅にとって追 補的なサイン、古いサイン、手作りのサインが多く見られる ため、今後修正をする案内サインに関してもシステムに統 合するという見直しが今後必要となる。
これら二つの課題を改善するために2003年度の計画ではさ らにフェイスデザインの検証や案内サインのシステム自体の検 証等を検討している。
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参考文献
1)「公共交通機関旅客施設の移動円滑化整備ガイド ライン」、交通エコロジーモビリティ財団、2001.
2)鴨志田厚子他:「高齢者にわかりやすい駅のサイン 計画」 財団法人共用品推進機構、1999p.28〜p.52.
図5:アイマークレコーダー