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高耐食性溶射皮膜の開発

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Academic year: 2021

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(1)

高耐食性溶射皮膜の開発

酸腐食環境下における封孔処理施工溶射皮膜の耐食性に関する研究

1 1 2 2

御幡弘明

古賀義人

垂水清弘

野口正広

The Development of Thermal Spray Coatings with High Corrosion Resistance

A Study on the Corrosion Resistance of Thermal Spray Coatings with Sealing in the Acid Solutions Hiroaki Obata, Yoshito Koga, Kiyohiro Tarumi, Masahiro Noguchi

高速ガス溶射法(HVOF)により作製される炭化タングステン(WC)系サ−メット溶射皮膜は高い耐摩耗性を有する が,皮膜内に基材に通ずる貫通気孔が存在するため湿式腐食環境下で用いられる場合には基材に腐食が発生し,皮 膜剥離等の問題を生じている。そこで本研究では,溶射皮膜の耐食性を封孔処理法により改善し,高い耐食性・耐 摩耗性を有するWC系サーメット溶射皮膜を開発したので報告する。

1 はじめに

HVOFにより作製されるWC系サーメット溶射皮膜は優 れた耐摩耗性を有するために,製鉄,製紙等の分野に おいてロール表面の耐摩耗層として利用されている。

しかしHVOFにより作製された皮膜には基材に達する貫 通気孔が存在し,ロールが湿潤腐食環境下で使用され ると腐食液が基材表面まで浸透し,基材の腐食に起因 した溶射皮膜の剥離が生じ

1)〜4)

,製品にキズを付ける などの問題を引き起こす。

製鉄分野において,酸湿潤腐食環境に曝されるロー ルは多く,例えば連続酸洗ラインやメッキライン等で 多用されている。現状,該当ロールは厳しい腐食環境 下にあるのでHVOF溶射皮膜の適用例は少なく,貫通気 孔のないNi系自溶合金溶射(HVOF溶射とは異なり溶射 後に行う再加熱溶融処理により皮膜と基材が相互拡散 するので緻密で強い結合力のある合金皮膜が得られ る)が多く用いられている。しかしながらNi系自溶合 金溶射皮膜はHVOFにより作製されるWC系サーメット溶 射皮膜よりも耐摩耗性が劣るという欠点を有している。

そこで本研究ではHVOF溶射皮膜の耐食性を封孔処理 法(溶射皮膜の耐食性を向上させるために,有機もし くは無機系液剤を溶射皮膜に塗布し貫通気孔を防ぐ手 法)により改善し,酸湿潤腐食環境への適用について 検討したので報告する。

2 実験方法

2−1 試験片の作製と封孔処理

試験片の種類と作製方法を表−1に,溶射皮膜の化 学成分分析結果を表−2に示す。試験片A,BはHVOF溶射 法により,SS400材上へ170 m溶射後,機械研磨により µ 100 m厚さに調製した。封孔処理は,有機系封孔剤を µ 溶射後及び研磨後に塗布することにより施工した。試 験片Cは自溶合金溶射皮膜であり,溶射後再加熱溶融 処理を行い,機械研削により1.2mm厚さに調製した。

溶射後の溶射皮膜断面のSEM写真を図−1に示す。A, B皮膜中の白灰色部がWC粒子,黒灰色部がバインダー 金属成分の溶融部,黒色部が気孔もしくは試料断面の 研磨時に生じた粒子の脱落部と考えられる。一方,C 皮膜には一般的な自溶合金溶射皮膜と同様の組織が観 察された。

表−1 溶射試験片の種類と封孔処理

表−2 溶射皮膜の元素分析結果

素材:SS400

凡例 ○:封孔あり −:封孔なし

記号 溶射材料 溶射法 膜厚

(研磨後) 溶射後封孔 研磨後封孔

1 - -

A 2 WC-NiCr HVOF 100μm ○ ○

1 - -

B 2 WC-ハステロイ HVOF 100μm ○ ○

C Ni基自溶合金 自溶合金溶射 1.2mmt

封孔処理仕様

(unit: wt%)

皮膜 元素

C Fe Cr Ni W Mo O

5.55 0.13 23.8 10.64 57.6 0.006 2.13 2.92 1.54 3.18 16.22 69.3 4.52 1.08 0.76 2.86 17.17 68.4 0.019 4.16 0.12 A

B

*1 機械電子研究所 C

*2 日鉄ハード(株)

(2)

皮膜

基材 A皮膜 50μm

皮膜

基材 B皮膜 50μm

皮膜

基材 C皮膜 50μm

図−1 溶射皮膜断面のSEM写真

2−2 封孔処理溶射皮膜断面の蛍光顕微鏡観察

封孔剤の溶射皮膜内への浸透状況を評価するために蛍 光染料を含有した有機系封孔剤を用いた封孔処理を行い, 封孔処理皮膜断面の蛍光顕微鏡観察を行った。

2−3 酢酸酸性塩水噴霧試験

JIS H8502に基づく酢酸酸性塩水噴霧試験を行った。

それぞれの試験片を1時間,96時間,1000時間経過後 に表面観察を行った。

2−4 硫酸溶液中での陽分極測定

酸溶液中における溶射皮膜の耐食性を評価するため,

空気飽和0.5kmol/m 硫酸溶液中での陽分極測定を行っ

3

た。測定は前報 と同じ条件を用いた。

5)

2−5 硫酸浸漬試験前後での耐摩耗性,硬度測定ならび に皮膜表面生成物の解析

厳しい腐食環境下で使用される溶射皮膜は腐食によ り皮膜硬度等の低下が生じ,摩耗が促進される。腐食

環境下での皮膜特性の変化を評価するために,空気飽 硫酸溶液中(80℃)に7日間の浸漬した後,

和0.5kmol/m

3

それぞれの試験片の耐摩耗性(スガ式摩耗試験機,320#

SiC,荷重3kgf,2000回摺動/試験はJIS H8503に準拠)お よびビッカース硬度の測定(荷重300gf,15sec,10点測 定)を行った。摩耗試験は溶射面を,硬度測定は皮膜断 面を測定面とした。また,硫酸浸漬腐食試験前後の皮膜 表面生成物をX線回折(CuKα)により同定した。

3 結果と考察

3−1 封孔処理溶射皮膜断面の蛍光顕微鏡観察

−2に蛍光染料入り封孔剤で封孔処理したA2皮膜 図

断面の蛍光顕微鏡観察写真を示す。写真中の白点が溶 射皮膜中に浸透した封孔剤を示している。今回使用し た有機系封孔剤は溶射皮膜表面から基材近傍まで浸透 していることが確認できる。同様に封孔処理後のB2皮 膜の蛍光顕微鏡観察を行ったが , A2皮膜同様に基材近 傍まで封孔剤が浸透していることが確認できた。

皮膜

基材

100μm

−2 封孔処理皮膜(A2)の蛍光顕微鏡写真 図

3−2 酢酸酸性塩水噴霧試験

酢酸酸性塩水噴霧試験結果を表−3に示す。A1,B1皮

膜では,試験開始1時間後には基材の腐食に起因する

赤錆の発生が見られ,1000時間後にはいずれの試験片

とも溶射皮膜が基材から剥離した。A2皮膜では1000時

間後でも,基材の腐食や皮膜剥離が生じた箇所は観察

されなかった。しかし,B2皮膜では封孔処理を行った

にもかかわらず96時間後に微小な赤錆・溶射面の膨れ

が観察され,1000時間後には溶射面全面にわたって基

材の腐食による赤錆の発生が観察された。封孔処理後

の皮膜断面の蛍光顕微鏡観察結果からは,A2,B2皮膜

共に封孔剤は基材近傍まで浸透していたが,耐食性に

差が生じた理由として封孔剤と溶射皮膜成分との馴染

(3)

み性の違いが原因であると考えられる。すなわち,B2 皮膜は封孔剤との親和性が悪く,封孔が不完全となり 腐食液が皮膜内部に浸透し基材の腐食が発生したと考 えられる。

一方,自溶合金皮膜の試験片Cでは,1000時間後で も基材の腐食は生じなかったが,皮膜表面には金属光 沢がなくなり,皮膜自体の腐食溶解に伴う皮膜の変色 が観察された。

表−3 酢酸酸性塩水噴霧試験結果

3−3 硫酸溶液中での陽分極測定

0.5kmol/m 硫酸溶液中での各種溶射皮膜の陽分極測

3

定結果を図−3に示す。A1,A2皮膜では封孔処理を行う ことにより浸漬電位が貴電位側にシフトし,不働態領 域での腐食電流値も低下し,封孔処理により耐食性が 向上することが分かった。B1,B2皮膜でも封孔処理前 後によって同様の結果が得られた。一方,C皮膜では,

A皮膜及びB皮膜に比べ不働態電位域が狭く,再溶解が 起こりやすいことが分かった。従来,酸溶液中におい て用いられてきた自溶合金溶射皮膜に比べ,開発した A2皮膜は酸溶液中において極めて高い耐食性を有する ことが確認された。

図−3 硫酸溶液中での陽分極測定

3−4 硫酸浸漬試験後の耐摩耗性評価

硫酸浸漬試験前後の摩耗試験結果を図−4に,また 摩耗痕深さ測定結果を図−5に示す。なお,図−4の摩

記 号 腐 食 試 験 結 果

A 1 1 時 間 で 発 錆

2 1 0 0 0 時 間 ま で 問 題 な し B 1 1 時 間 で 発 錆

2 9 6 時 間 で 発 錆

C 1 0 0 0 時 間 後 溶 射 面 の 変 色 は 見 ら れ る も 剥 離 等 の 問 題 は 無 し

1.E-08 1.E-07 1.E-06 1.E-05 1.E-04 1.E-03 1.E-02 1.E-01

-0.4 -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

電位(Ag/AgCl Sat KCl) 腐食電 流密度(  A / c m

2

)

A1(WC-NiCr未処理) A2(WC-NiCr封孔) B1(WC-ハステロイ未処理) B2(WC-ハステロイ封孔) C(自溶合金)

A1

B1

C

B2

A2

35℃

1N-H2SO4(aeration) 還元処理:-1.0V for 5min 自然電位:for 10min 分極:0.2mV/sec to 1.0V

10

-1

10

-2

10

-3

10

-4

10

-5

10

-6

10

-7

10

-8

1.E-08 1.E-07 1.E-06 1.E-05 1.E-04 1.E-03 1.E-02 1.E-01

-0.4 -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

電位(Ag/AgCl Sat KCl) 腐食電 流密度(  A / c m

2

)

A1(WC-NiCr未処理) A2(WC-NiCr封孔) B1(WC-ハステロイ未処理) B2(WC-ハステロイ封孔) C(自溶合金)

A1

B1

C

B2

A2

35℃

1N-H2SO4(aeration) 還元処理:-1.0V for 5min 自然電位:for 10min 分極:0.2mV/sec to 1.0V

10

-1

10

-2

10

-3

10

-4

10

-5

10

-6

10

-7

10

-8

耗試験は耐摩耗性(1mg減量させるために必要な往復 回数:DS/mg)により比較した。浸漬試験前において,

自溶合金溶射皮膜Cに比べ,サーメット溶射皮膜A2で は約10倍,B2皮膜では約6倍の耐摩耗性を有している。

また7日間の硫酸浸漬腐食試験後,C皮膜では約20%

耐摩耗性が低下しているが,A2皮膜では約40%,B2皮 膜では約70%の大幅な低下が起きている。サーメット 溶射皮膜であるA2,B2皮膜ではバインダー成分である 溶融金属合金相が優先的に酸溶液に溶解するため,溶 射皮膜中にWC粒子の固定ができなくなるために,耐摩 耗性の大きな低下が発生していると考えられる。しか しながら硫酸浸漬腐食試験後においても,自溶合金溶 射皮膜Cに比べ,A2皮膜は約7倍,B2皮膜は約2倍の耐 摩耗性を有している。また,硫酸浸漬腐食試験前後に おける摩耗痕深さについて検討したところ,腐食試験 前後において自溶合金皮膜Cはサーメット溶射皮膜A2,

B2に比べ摩耗痕深さが深く,サーメット溶射皮膜が耐 摩耗性に優れていることが分かった。

図−4 摩耗試験

図−5 摩耗痕深さ

3−5 硫酸浸漬試験後の溶射皮膜断面のビッカース硬度 硫酸浸漬試験前後における溶射皮膜断面のビッカース 硬度を図−6に示す。各種溶射皮膜断面を10点測定時の平 均値,最大値,最小値を示している。封孔処理を行った サーメット溶射皮膜A2,B2では硫酸浸漬腐食試験後にお

0 50 100 150 200 250

A2 B2 C

耐摩耗性( D S / m g ) 試験前

試験後

0 10 20 30 40 50 60

A2 B2 C

摩耗 深さ (μ m ) 試験前

試験後

(4)

いても硬度値はA2皮膜で約5%,B2皮膜で約7%の低下に とどまっている。しかし,封孔処理を行わない場合は,

硫酸浸漬試験後の硬度値がA1皮膜で約65%,B1皮膜で約 20%低下している。封孔処理を行わない場合,腐食液が 皮膜内部に浸透するためバインダー成分としての金属合 金相の溶解が起こり,皮膜硬度値が急激に低下したもの と考えられる。一方,自溶合金溶射皮膜Cでは,皮膜内部 に気孔が存在しないため硫酸浸漬試験前後における硬度 値の大きな変化は見られない。しかしながら,サーメッ ト溶射皮膜A2,B2に比べると硬度は相対的に低い値を示 し,封孔処理を行ったサーメット皮膜の優位性が明らか である。

図−6 硫酸浸漬試験前後の皮膜硬度

3−6 硫酸浸漬試験後の試料表面の解析

硫酸浸漬試験前後のWC-NiCr系及びWC-ハステロイ系 0

200 400 600 800 1000 1200

試験前 無封孔 封孔

Hv

A皮膜

0 200 400 600 800 1000 1200

試験前 無封孔 封孔

Hv

A皮膜

0 200 400 600 800 1000 1200

試験前 無封孔 封孔

Hv

B皮膜

0 200 400 600 800 1000 1200

試験前 無封孔 封孔

Hv

B皮膜

0 200 400 600 800 1000 1200

試験前 試験後

Hv

C皮膜

0 200 400 600 800 1000 1200

試験前 試験後

Hv

C皮膜

図−7 硫酸浸漬試験前後の溶射皮膜のX線回折

溶射皮膜表面のX線回折測定結果を図−7に示す。WC- NiCr系では硫酸浸漬前後でNi-Cr合金相と考えられる ピークが減少しており,Ni-Cr合金相の溶解が進んで いることが示唆される。一方,WC-ハステロイ系では 硫酸浸漬前後で,WC-NiCr系と同様にNi-Cr合金相のピ ークが減少している。しかし,腐食試験後にWC-ハス

0 500 1000 1500 2000 2500

10 20 30 40 50 60 70 80

強度( C P S)

WC-NiCr (A2)

WC Ni-Cr

0 500 1000 1500 2000 2500

10 20 30 40 50 60 70 80

強度( C P S)

WC-NiCr (A2)

WC Ni-Cr

0 500 1000 1500

10 20 30 40 50 60 70 80

強度( C P S)

WC-NiCr (A2) 腐食後  

WC

0 500 1000 1500

10 20 30 40 50 60 70 80

強度( C P S)

WC-NiCr (A2) 腐食後  

WC

0 500 1000 1500

10 20 30 40 50 60 70 80

強度( C P S)

WC-ハステロイ (B2)

WC W

2

C Ni-Cr

0 500 1000 1500

10 20 30 40 50 60 70 80

強度( C P S)

WC-ハステロイ (B2)

WC W

2

C Ni-Cr

0 2000 4000 6000

10 20 30 40 50 60 70 80

強度( C P S)

WC-ハステロイ (B2) 腐食後

WC WO

3

nH

2

O

0 2000 4000 6000

10 20 30 40 50 60 70 80

強度( C P S)

WC-ハステロイ (B2) 腐食後

WC

WO

3

nH

2

O

WC

WO

3

nH

2

O

(5)

テロイ系では酸化タングステン水和物のピークが観察 され,WC-NiCr系と大きな違いが見られた。この理由 として WC-ハステロイ系ではハステロイ合金成分の溶 解が進み,皮膜表面にハステロイ成分がほとんど残存 しなくなったため,犠牲防食効果が失われタングステ ンの酸化が進んだためであると考えられる。

4 まとめ

酸腐食環境へのWC系サーメット溶射皮膜の適用につ いて検討した結果,溶射皮膜成分と馴染み性の高い封 孔剤を用いて封孔処理を行うことにより,従来湿式腐 食環境下で用いられてきたNi系自溶合金に比べ,耐食 性・耐摩耗性に優れた溶射皮膜を開発することができ た。本開発溶射皮膜ロールは,製鉄分野における連続 酸洗ライン内部の腐食環境が厳しく,また高い耐摩耗 性を要求される溶射ロールに適用できると考えられる。

5 参考文献

1) 高谷泰之, 材料, 44, 1326-31(1995).

2) 稲葉光晴, 日本材料学会腐食防食部門資料, 7-16 (1994).

3) 高谷泰之, 高温学会誌, 23, 214-221(1997).

4) 御幡弘明, 西日本腐蝕防蝕研究会第141会例会予稿集, 1-2(2001).

5) 古賀義人, 他3名:福岡県工業技術センター平成12

年度研究報告, p 59

参照

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