九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
モチベーションビデオがスポーツ集団の集団効力感 に与える影響
永尾, 雄一
https://doi.org/10.15017/1441015
出版情報:Kyushu University, 2013, 博士(人間環境学), 課程博士 バージョン:
権利関係:Fulltext available.
氏 名 : 永 尾 雄 一
論文題名 : モチベーションビデオがスポーツ集団の集団効力感に与える影響 区 分 : 甲
論 文 内 容 の 要 旨
【研究の背景と目的】
スポーツ競技者に対するメンタルトレーニングや心理サポートでは,近年,モチベーションビデ オ (以下 MV) と呼ばれる,自分 (たち) の成功プレイや成功場面の映像で構成されたビデオが,試 合への心理的準備を目的として,作成され,用いられている.このMVの効果は,Bandura (1986,
1997) の modeling 理論に則って説明することができる.すなわち,MV による自分自身のよいプ
レイの観察は,self-modelingとなり,個人パフォーマンスと密接に関係している自己効力感を向上 させると考えられている.しかしながら,同様の効果が集団 (チーム) においても生じるのかにつ いては,まだあまり検討されていない.一般に,集団に対して用いられるMVは,視聴する選手個 人の映像である「自分自身のプレイ映像」以外に,「チームメイトのプレイ映像」や「チーム全体の 映像」で構成される.これらの映像の中で,集団に対するMVに特有の「チームメイトの映像」お よび「チーム全体の映像」は,team-modelingとなる映像であり,そのため,このような種類の映 像の視聴は,チームパフォーマンスを規定する重要な要因の一つと考えられている集団効力感の向 上に資することが予想される.そこで,本論文においては,「チームメイトの映像」および「チーム 全体の映像」の視聴が集団効力感に及ぼす影響を検討するとともに,これらの映像で構成された MV の視聴が,高いレベルで行われている実際の競技状況においても集団効力感に影響を及ぼして いるのかを明らかにすることを目的とした.
【結果の概要】
1)第1章研究Ⅰでは,様々なスポーツ競技において使用可能な,集団効力感を測定する「日本版 スポーツ集団効力感尺度 (JCEQS)」を作成し,第1章研究Ⅱにおいて,その信頼性と妥当性を確 認した.
2)チームメイトの成功場面の映像である「チームメイトの映像」を視聴することが,視聴する選 手の心理的側面にどのような影響を与えるのかを,対象者のチームメイトのプレイ映像で構成され たビデオ (チームメイト映像) と,競技とは無関係のビデオ (統制映像) を用いて実験的に検討した.
その結果,チームメイト映像の視聴前後で,選手の集団効力感が向上することが示された (第2 章 研究Ⅰ).また,具体的なスキル発揮や特定の個人に焦点づけられていない「チーム全体の映像」の 視聴も同様に,集団効力感を向上させることが示された (第 2 章研究Ⅱ).これらの結果より,
team-modelingとなりうる映像を視聴することが,選手の集団効力感の向上に有効である可能性が
示唆された.
3)上記の2)で用いられたteam-modeling映像を中心に構成されたMVを視聴することが,集団効
力感にポジティブな影響をもたらすのかを,実際のスポーツ競技状況において検討した.対象とし た集団は,比較的競技レベルの高い社会人集団競技チーム (第3章研究Ⅰ),個人競技種目の団体戦 に出場した日本代表チームの選手 (第 3 章研究Ⅱ) ,日本代表チームの一部を構成するチームスタ ッフ (第3章研究Ⅲ),および,個人競技種目の国際大会に出場する日本代表選手団 (第3章研究Ⅳ) であった。実践の結果,いずれの集団においても,試合前に team-modeling 映像を含む MV を視 聴することによって,集団効力感は向上した。このように,様々な形態のスポーツ集団において,
MV を視聴することが集団効力感を向上させるための手段として有効であることが示された。加え て,日本代表などの高い競技レベルの集団においても,MVが効果を有することが確認された.
【まとめ】
本論文で行われた研究より,「チームメイトのプレイ映像」や「チーム全体の映像」といった
team-modelingとなる映像の視聴が集団効力感を向上させること,また,これらの映像をMVとい
う形態で視聴させた場合でも,同様の影響を与えることが明らかにされた.
MVの効果については,選手個人の自己効力感に及ぼす影響は検証されているが,スポーツチー ムという集団に対する効果に関しては,これまで十分な実証的検討は行われておらず,その点で,
本論文は大変意義のあるものと考えられる.また,本論文では,team-modeling映像で構成される MV の効果が,一般的な集団競技チームだけでなく,日本代表レベルの個人競技団体戦参加チーム や選手団などといった高いレベルの,また,様々なタイプのスポーツ集団において認められた.こ れは,レベルを問わず多様なスポーツ競技場面で,MV を有効活用できることを示唆するものであ る.
【今後の課題】
1)本論文では,集団効力感に焦点を当てたが,team-modeling映像で構成されるMV の影響が予
想される心理変数として,集団凝集性なども考えられる.MV がこのような他の集団関連変数に及 ぼす影響についても検討する必要がある.
2)本論文では,主に成人からなるスポーツ集団を対象とした.しかし,同じ競技種目であっても,
年代が異なれば,MV の効果に差異があることも予想されるため,様々な年代のスポーツ集団を対 象に,MVの効果を検証していくことが望まれる.
3)実際の競技現場では,「文字 (テロップ)」や「音楽」を含んだMVが用いられることが多い.実
践場面でより有効なMVを作成するためにも,このような文字や音楽の付加的効果についても検討 していくことが求められる.