陰影による面の形成と機能的役割 [ PDF
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(2) 「凸」領域が図として知覚された割合(%). 100. 行った.. 100. 75. 75. 50. 50. 25. 25. 4.2 結果と考察 実験 6 の結果,陰影円盤で構成された刺激については, 「凸」で定義された文字は速く識別されることがわかった,. 陰影刺激. 0 0. 300. された刺激については,輝度極性について非対称な結果は. 600. 0 0. 刺激の提示時間 (ms). 300. 600. 刺激の提示時間(ms). (a). (b). 陰影 「凸」 陰影 「凹」 図として知覚された割合 (%). F (1, 5) = 24.921, p < .005(図 5) .一方,ステップ円盤で構成. 陰影刺激 ステップ刺激. ステップ刺激. ステップ 「 凸」 ステップ 「 凹」. 100. 得られなかった,F (1, 5) = 1.547, p > .05. 実験 7 の結果, 「凸」で定義された項目の探索は,速く行 われることがわかった F (1, 5) = 7.147, p < .05.一方,ステッ プ円盤で構成された刺激については非対称な探索結果は見 られなかった,F = 2.877, p > .05. 実験 6・7 の結果,スピードを要求される課題においても 形の識別を必要とする場合には「凸」優先処理がみられた.. 80 60 40 20 0 マスクなし. マスクあり. (c) 図3. 実験 1・2・3 の結果(それぞれ 3a,3b,3c) . 誤差棒は標準誤差.. 3.2 結果と考察. 視距離を変数にフリッカー刺激を観察. した結果,視距離が長い条件においては,境界成分によっ て奥行き知覚が決定されたが,視距離が短い条件において. 図 4 実験 6 で用いられた刺激.上段は陰影円盤で構成 された文字.下段はステップ円盤で構成された文字.. は,境界成分は知覚されず,フリッカーによって奥行き知. に陰影が存在する場合は,奥行き知覚に貢献しないことが. 「凸」 反応時間(ミリ秒). は,ある大きさを持った受容野が存在し,その受容野の外. 750. 750. 覚が決定された.これらのことから,陰影を処理する際に. 700. 「凹」. 700. 650. 650. 600. 600. 4. 実験 6 および 7. 550. 550. 4.1 目的. 500. 500. 示された.. 図地分凝課題では「凸」で定義された領域が図として知覚 される割合が高かった.しかし,図地判断にはスピードが 要求されなかったため,視覚系が「凸」を優先処理してい ることを示すには至らなかった.. (a). (b). 図 5 実験 6 の結果.(a) 陰影円盤条件 (b) ステップ円 盤条件.誤差棒は標準誤差.. 実験 6 では,陰影円盤で定義された文字に対する判断に ついて反応時間を指標に検討した(図 4).また, 「凸」の優. また,課題が視覚探索の場合にも「凸」優先処理がみられ. 先処理は被験者の行う課題が視覚探索課題でなかったため. た.これは,探索項目を識別する際に陰影に基づいて形を. に得られた結果であるかもしれない.そのため,陰影円盤. 識別する必要があるために,手前に定位されるために形の. 刺激で定義された文字探索項目についての視覚探索課題を. 識別が容易な「凸」が優先処理されることを示している..
(3) 5. 実験 8 および 9. 凸 垂直ターゲット 凹 垂直ターゲット. 5.1 目的 ここまで用いてきた刺激は,顔・壷や文字などのように,. 凸 斜めターゲット 凹 斜めターゲット. 1000. すべて被験者の知識にアクセスするものであった.そのた 900. め, 「凸」優先処理に知識駆動的要素が必要であるのか,そ ある.実験 8 では,複数の陰影円盤で定義された方向の識 別(図 6)を必要とする視覚探索課題,また実験 9 では,陰 影円盤で定義された面(図 7)の方向の識別課題を行った.. RT (ms). れとも形の識別のみで十分なのかについて検討する必要が 800 700. 600. 500 1. 6. 11. 図 8 実験 8 の結果 図 6 実験 8 で用いられた刺激. (左)探索項目が「凸」で. たものの,識別するべき物体が妨害刺激の後ろに存在する. 構成された刺激(右)探索項目が「凹」で構成された刺激. 場合は,輪郭線が識別物体ではなく,妨害物体に所属する ために,識別は困難になった. 本研究では,陰影を用いて同様の結果を示した.形を識 別する場合,凸で構成された面が凹で構成された面に比べ、 奥行き次元において手前に定位する.そのため,識別する べき境界線は凸領域に所属することになる.結果として凸 領域の形の識別は容易であり,凹領域の形の識別は困難と. 図 7 実験 9 で用いられた刺激. (左)面が「凸」で構成され. なった.本研究の結果は He and Nakayama (1992) の結果と. た刺激(右) 面が「凹」で構成された刺激. 同様であるが,陰影を単眼手がかりとして強力な図地分凝. 5.2 結果と考察 実験 8 においては, 「凸」で定義された探索項目の反応時 間は,「凹」で定義された探索項目の反応時間に比べ速 かった, F (1, 5) = 10.756, p < .05(図 8) . 実験 9においては, 「凸」 で定義された面の方向識別は 「凹」 の識別よりも速く行われた, F (1, 5) = 8.544, p < .05 (図 9) . これらの結果は, 「凸」の優先処理が知識駆動的要因に依 存せずに,形の識別を行うかどうかに依存することを示し ている.また,実験 8 において,視覚探索課題であるにも かかわらず「凸」の優先処理が見られたことは,課題が視 覚探索であってもその過程で形の識別が行われる場合は, 「凸」が優先処理されることを示すものである. 形の識別が必要な場合は,輪郭線の所有問題が発生する. 視覚情報は基本的に曖昧であるため,エッジがどちらの物 体に所属するものであるのかを決定する必要がある.He and Nakayama (1992) は,両眼視差で定義された刺激を用い て,形の識別が必要な視覚探索課題を行った.その結果, 識別するべき物体が妨害物体の手前に存在する場合は,輪 郭線が識別物体に所属するために,効率よく識別がなされ. 手がかりとして示唆することができた. 5. 実験 10 5.1 目的 ここまでの結果は,形の識別を行う場合には「凸」優先 処理がみられることを示している.一方,ここまでの結果 は刺激の複雑さが招いた結果であると解釈することも可能 である.実験 10 では,刺激布置は前実験とほぼ同様にした ままで,被験者の課題だけを変化させた.被験者は,提示 された面が刺激内の右側に提示されたか,左側に提示され たか(位置検出課題)を報告した. 5.2 結果と考察 面の位置を検出するに際し,面の構成要素である「凸」 「凹」の間に有意な差は見られなかった,F (1,3) = 0.759, p > .05. これらの結果は,これまでに得られた「凸」の優先処理 が刺激布置に依存しているのではなく,被験者が行う課題 に依存していることを示している.検出課題および位置検.
(4) 出課題においては,被験者は必ずしも面の形を判断する必 要がない.つまり,面の位置に関わらず,特徴勾配の崩れた. 総合考察 本研究では,陰影によって復元される 2 種類の形状, 「凸」. 位置を検出するだけで十分なのである.この結果は識別課. および「凹」に対する優先処理がそれぞれどのような条件. 題および位置検出過程の質的な差を示した研究 (Sagi &. において生じるのかについて検討した.先行研究において. Julesz, 1989; Atkinson & Brradick, 1989) を支持するものであ. は,陰影は形状を知覚する手がかりとしてのみ考えられて. る.. きた.今回の実験は,知覚された形状がその後の視覚処理 にどのように影響されているかを検討することを目的とし た.その結果, 「凸」の優先処理は課題が形の識別に関与す. 900. る場合に生じ, 「凹」の優先処理は課題が単一の陰影円盤刺. 反応時間( ミリ秒). 凸. 激を用いた視覚探索課題において生じることが明らかと. 凹. なった.. 800. このような結果は視覚系の目的指向性を示したものであ る.つまり,現在必要な課題に応じて優先される物理特徴. 700. を変更することを示している.先行研究においては,視覚 探索課題を用いて「凹」の優先処理が確認されてきた.本 研究では,図地分凝課題を用いて「凸」の優先処理が確認. 600. されてきた.つまり,陰影という特徴だけを扱う場合でも, 視覚メカニズムは直面する課題によって優先処理する物理. 500. 値を変更しているということになる. 一方,このような視覚系における選択性がどのようなメ 図 9 実験 9 の結果. 誤差棒は標準誤差. カニズムによって媒介されているかは明らかではない.一 般に情報の取捨選択は注意によってなされていると主張さ. 500. 反応時間(ミリ秒). 凸. 凹. れている.視覚探索課題では,ポップアウトするターゲッ トには注意が誘導されることが 示唆されている (Wolfe, 1994).陰影刺激を用いた視覚探索課題においては,一般に 凹ターゲットがポップアウトすることが知られており,こ. 450. の点から考えると,凹に注意が誘導されていると考えられ る. しかしながら,本研究では一貫して凸領域の優位性が示 唆された.そのため,形の識別を行う場合には凸に注意が 向くのかもしれない.しかしながら,形の識別自体に注意. 400. 資源が用いられていると考えると,視覚探索とは段階の違 う注意メカニズムが関与している可能性もあり,今後は注 意機構も交え検討する必要がある.. 図 10 実験 10 の結果.誤差棒は標準誤差. また,課題が形の識別に関与していないことも,位置検出 課題で凹凸間に差が見られなかった結果の一因であろう. 形の識別には,形に伴う輪郭線がどの領域に属しているか を視覚的に決定する必要がある.実験 8 および 9 では,境 界線の所属が凹凸領域のどちらにあるかを決定する必要が あった.そのため,手前に知覚される凸領域に境界線が所 属したものと考えられる.一方,実験 10 では,そのような 境界線の所属の決定が必要でなかった.そのため,凹凸領 域に差が生じなかったと考えられる.. 参考文献 Atkinson, J., and Braddick, O, J. (1989). ‘Where’ and ‘what’ in visual search. Perception, 18, 181-189. He, J., & Nakayama, K. (1992). Surfaces versus features in visual search. Nature, 359 (6392), 231-233. Kleffner, D., and Ramachandran, V., S. (1992). On the perception of shape from shading. Perception & Psychophysics, 52, 18-36. Sagi, D., and Julesz (1985). “Where” and “what” in vision. Science, 228, 1217-1219. Wolfe, J. M. (1994). Guided search 2.0. A revised model of visual search. Psychonomic Bulletin & Review, 1, 202-238..
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