不登校 にな った児童 へ の遊戯療法

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富 山大学 保健 管理 セ ンター 西 村 優 紀 美

Yukillni Nishirnura: The Play Therapy of a Boy Ⅵ ho Fell intO a State of School Refusal

<言 葉で語 られないことば >

私が裕貴を知 ったのは、裕貴が小学校 1年 生の 6月 中旬。 お母 さんが、 「最近、学校 に行 きたが らない」 ことを心配 して相談 に訪れたのだ らた。

裕貴 は同 じ学年の子供達の中では大柄で、背中 を ピシッと伸 ば して歩 く姿 は、 とて も律儀 な優等 生風。大 きな声では話 さないが、穏やかにほほえ む笑顔 は、 ち ょっと恥ずか しが り屋のおませな男 の子 とい う印象であ った。

ある日の こと、私が学校 の中をぶ らぶ ら歩 いて いると、裕貴 は空 き教室の室内 ブランコで一人で 遊んでいた。今 は授業中。他 に遊ぶ子 はいない。

す っと寄 ってい くと、微笑みなが ら、‐黒板 に足 し 算を して見せて くれ る。言葉 はないが 目で私 を誘

う。私がくす ごい !算数が好 きなんだ。指 を使わ な くて もす ぐに計算で きるんだね !>と 話 しかけ ると 「かんたん !」 と言 い、次々 と式 を書 いて答 えを書 いてい く。 た しかに、 1年 生 なのに二桁の 足 し算 もで きている。黒板 いっぱいになった頃、

裕貴 は 「もんだいだ して !」 と私 に言 った。私 は 0か ら9ま での数字 を組 み合わせ、 た くさんの問 題を考えた。私が一題出 して、裕貴がす ぐに答え る。また一問題出 して、裕貴がす ぐに答えを書 く。

「さんす う だ いす き !」 <さ んす う 大 好 きな んだ !>と ことばを繰 り返す私。裕貴 は、「むず

か しいけいさんす き」 と応え る。私 は 「算数が好 きなんだね。難 しいの も平気 なんだね」 と裕貴の ことばを確かめるように繰 り返 した。 しば らくこ のや り取 りが続 いた後、探 しに来た先生 に連れ ら れて裕貴 は教室 に戻 っていった。

裕貴 は 3歳 上 の兄 と、 2歳 下の妹の 3人 兄妹 の 真ん中である。静かで リーダー シップをとること がで きる兄、末 っ子で甘え上手 な妹、兄の静かな 感 じと裕貴 の シャイな感 じの両方 を兼ね備えたよ うな父親、 ゆ っくりと静かに話 し楚々 とした雰囲 気 を持つ母親 とい うとて も素敵な家族だ。一家の 楽 しみはキ ャンプである。

裕貴 は小 さいときか ら夜泣 きがあ り、育て るの が大変だ ったとい う母親 の記憶がある。歩 き始 め ると急 に道路 に飛 び出す とい うこともあ った。 ま た、家族でどこかに出か けるとき、 レス トランで 食事 を しよ うということにな って も、必ず一度 は

「いや」 と言 い、抵抗す ることがたびたびあ った。

結局、みんなに説得 されて、一緒 に食事 をす るこ とになるのだが。妹が生 まれたのがち ょうど 2歳 過 ぎ。同 じ頃に父親の出張が続 き、母親 は乳飲み 子 と夜泣 きをする裕貴を育てるのに大変な時期だっ たとい う。兄妹二人 はとて も伸がよ く、兄の友人 と一緒 に遊んだ り、妹 と喧嘩 しなが らも一緒 に遊 ぶ ことが多 い。

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幼稚園では当番が嫌だ と言 ったことはあるが、

それ以外 に特 に問題 となることはなか った。

さて、学校 に入学後、 lヶ 月 ほど経 ったあた り か ら、お母 さんは裕貴 の様子が気 にな り始 めた。

お母 さんの話 によると、 5月 の連体明 け くらいか ら下痢 と吐 き気が続 き、熱 も出たので学校 を 2日 間休んだ とい う。 その後、 しきりに抱 っこをせが んだ。 それまでにない ことだ ったのでどうしたの だろうと不安 にな ったとい うのだ。登校 しぶ りは その延長線上 にあ らわれた ものだ った。朝起 きて も着替えを しない。何 とか登校 した日、放課後の 様子 はいつ もと同 じ。兄 と一緒 にゲームを楽 しん だ り、妹 とふざけて遊ぶ。変わ りない生活だが、

夜 も更 けてい くと母親 に抱 っこをせがむ。 ト イ レ に行 くの も怖が って、「ついて きて」 と言 う裕貴。

なんだか、裕貴が赤 ちゃんに返 ってい くよ うな不 安をお母 さんは感 じていた。 <ど うしたの ?>と 抱 っこしなが らお母 さんは裕貴 に聞 く。 <友 だち が嫌な ことを言 ったの ?>と 尋ねて も、 じっとし たまま裕貴 は話 さない。

学校では朝か ら登校 を渋 り、兄 と一緒 に玄関 ま で は行 くものの校舎の中に一歩入 ることがで きな い。担任が玄関で裕貴が来 るのを待 ち、教室 に連 れて行 くとい うかたちでなん とか 1学 期 は過 ぎて い った。

この頃教室では、裕貴 はち ょっとした失敗でへ こたれていた。給食でみそ汁を こぼ して泣 いて し ま う。絵 を描 く時には一本の線す らかけない。決 まり切 った当番 の仕事 も満足 にで きない。担任 は 放課後に母親を教室に呼んだ。授業中にできなか っ た課題 をお母 さん と裕貴が放課後 にす るのだ。み んなが帰 った静かな教室 に裕貴がぽつん と座 って いる。お母 さんの姿を見て嬉 しいよ うなほっとし て泣 きそ うな顔、 しか し、次の瞬間にぎゅっと歯 を食 い しばる硬 い表情。お母 さんがそばにいるだ けで、 さらさらと課題を して しま う裕貴 を見て、

お母 さんは<こ れまで甘やかせて きたせいだ >と 自分たちの子育てを悔やんだ。お母 さんは常勤 の 仕事を辞めなければな らな くなった。

で きないわけではないのに しない ・・0。話せ ないわけではないのに話 さない 。00。 思いがいっ ぱいあるのに、伝えることを しない裕貴。

<身 体遊 びと感情の解放 >

夏休みが終わ り、二学期が始 まると、裕貴 は何 事 もなか ったかのよ うに教室にはいることがで き た。 しか し、 9月 の終わ り頃、裕貴 は登校 したが 教室 に入 らず家 に逆戻 りを して しまった。教室 に 入 って欲 しい教師 と、教室 に入 りた くない裕貴。

教室以外 の居場所 を作 ってあげたい教師 と、教室 だけが裕貴の居場所だ とこだわ る教師。裕貴の気 持 ちをわか ってあげたい大人 と、教師の気持 ちを 裕貴 にわか って もらいたい大人。

ぎくしゃくした関係性の中で、裕貴 はついに固 まって しまった。朝、布団か ら起 きられな くな っ たのだ。行 きた くないとい う感 じではな く、裕貴

も自分の身体 を動かせな くなって しまったとい う 感 じなのだ。甘え も再 び出てきた。 お母 さんの膝

に乗 った り、頭や顔 を くっつけて くる。無理矢理 連れて行かれ る教室では、大好 きな給食 も食べ ら れな くな った。担任が話 しかけると、 目が泳 ぐ。

眼球が左右 に細か く振動す る。 お母 さんは、つい に<教 室 には連 れて行 かれ ない。 限界が来 て い る> と 感 じた。

理由は言わない。言葉 にな らないのだ。 しか し、

身体が言葉以上の ことを大人 に伝えている。

そ して、裕貴 は教室 に入 りに くい 4年 生の雅史 と相談室 に一緒 にいるようにな った。 そ こでの私 の役割 は、一緒 に遊ぶ こと。大柄だけど 1年 生の 裕貴 と、 4年 生だけど小柄 な雅史 は、私の体力で もまだ充分 にお相手がで きる。身体を持 ち上 げて グルグル回 る遊びは裕貴の大のお気 に入 りだ った。

たまに出会 うと、「ぐる ぐる して !」 と言 いに来 る。何度 も何度 もぐる ぐるをす る。 グルグルは大 人 を巻 き込 んでい った。 「グル グル して !」 に応 じて くれる大人 は、裕貴 とつながることができた。

そ してやがて遊 びはダイナ ミックな遊 びに変化 し ていった (写真 1)。

相談室 にあるソファーはダイナ ミックな遊 びに

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はもって こいの道具 だ った。裏返 しに して中に隠 れた り、そ こか ら出て きた り。汗 をい っぱいか き なが ら裕貴 はか くれんぼに熱中 した。隠れている 自分 を大人 に見つ けて もらいたい。隠れなが ら、

隠れている自分を温かいまなざ しを持 って見つ け て欲 しいのだ。

身体 と身体の接触が遊 びの中で叶え られ る。裕 貴 は周囲の大人を うま く遊 びの中で呼 び込んだの だ。

裕貴 には、 なにか伝えたい ことがある。人 に対 して表現 したいエネルギーは十分 ある。幼少の時 か ら頑固な意志があるエ ピソー ドがある。小学校 入学直後か らいっそ うかた くなになって しまうな

にかが裕貴 にはあるのだ。

彼か らのメ ッセー ジをどのような形で受 け止 め た らいいのか と悩 みつつ、私 は裕貴 に箱庭 を見せ ることに した。

初 めて箱庭のセ ッ トを見 た裕貴 は ミニチュアよ りも砂 に関心を示 した。砂を両手です くって指 の 隙間か らさ らさ らとこぼ してい く。 まるで砂を自 分の ものにす るために、手 に馴染 ませているかの ように見えた。

同 じことを何度か繰 り返 した後、裕貴 は棚 にあ る男の子の人形 を手 に取 り、その人形 を砂 の中に 埋めた。 しば らく埋 めたところを両手で押 してい たか とお もうと、砂の中か ら人形 を掘 り起 こす。

‑言 も語 らず、裕貴は人形を埋める―掘 り起 こす、

とい う動作を繰 り返 した。最後 に、人形 を砂か ら 取 り出 し、 「ふ ― っ」 と大 きな息 をつ きなが ら裕 貴 は箱庭 を離れた。私 は見ていて、砂 に埋 もれた 人形 と同 じ呼吸を味わ った。苦 しい 。・皮膚が痛 い 。・・ざらざらしている 00。 押さえるのは誰 ?・

00苦 しいよ 。0。裕貴の最後の 「ふ一っ」 とい う大 きな呼吸は、それを見ていた私の呼吸で もあっ た。苦 しさか ら解放 された安堵 の呼吸で はな く、

砂の中か ら出た後 もず っと続 いている苦 しさを想 像 させた。

翌週、裕貴 は再 び箱庭 に向か った。前回 と同 じ

「男 の子 の人形 を埋 める―出す」 とい う動作 を繰 り返 した後、今度 は男の子 の人形を警官が鉄砲で 撃つ とい う場面 を繰 り返 した8見 ていてつ らくな る。

続 いて裕貴 は、木を置 いてキ リンの親子が本の 葉 っぱを食べている場面を作 った。 <平 和だなあ

>と 私は思 う。 しか し、裕貴 はここで止まらなかっ た。片隅に白い柵を作 り、その中に鉄砲 をかまえ た警官を入れ、平和 なキ リンの親子 に向か って今 に も鉄砲 を発射 させよ うとしていた。柵 に囲 まれ たなかに、鉄砲 をかまえた警官がいる。 キ リンの 親子 はそれには気づかず木の葉を食べている。砂 ばか りの殺風景 な風景の中、 そ こにだけオア シス のよ うに緑 の木が立 っている。

その平和 を脅かす鉄砲 をかまえた人間。

写 真 1

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2 2

何 も語 らな い裕貴。 息 をのむ私。静 か に時間 は 流 れて い った。

<あ り地獄 に沈 む >

裕貴 の作 る風景 には、小 高 く盛 られ た砂 の山が 中央 にあ る。 山 を作 る作業 の次 に は、 「あ り地獄 J の プ ロセスが あ った。裕貴 はいつ もの よ うに両手 に砂 をな じませ るよ うに砂 を触 り、少 しずつ小高 い山を作 って い った。 その山のて っぺん に亀 や オ オ カ ミ、 狐 な どを置 くと、 「ここはあ り地 獄 なん や」 と言 いなが ら、 山 の頂上 に指 をつ っこみ ぐる ぐる と輪 を描 いて い く。砂 の渦 は砂 山全体 を大 き く動 か し形 を変 え、小高 か った砂 山 を円錐状 の窪 地 に して しま った。 山の頂上 に立 って いた はず の 小動 物 は足下 をす くわれ、身体 を傾 け徐 々に砂 の 渦 に飲 み込 まれ て い く。

「あ り地獄 なんや。全部沈 んで い くんや」 ・・

裕貴 は優 しげな声 で はあ るが、 強 いまなざ しで そ の様子 を見 て いた。指 で砂 を ぐる ぐる渦巻 きに し、

動物 たちをあ り地獄 に沈 めてい く。渦巻 きが静 まっ た と き、動物 たちは砂 の中だ。砂 の原野 は静 か に な り、 裕 貴 は静 か に新 た な山 を形成 す る。 「この ま まなん や」 と裕貴 は言 う。砂 の下 には動物 が埋 ま って い るに もか か わ らず、 その ままに してお く とい うのだ った。

箱庭 で使 用 す る砂 は非常 に きめが細 か く、裕貴 が 「あ り地獄」 を表現 す る ときには細 か な表現 も 可 能 にす る道 具 にな って いた。砂 をゆ っ くり回 し 始 め る と、 動物 の足 下 が ぐらつ き動 物 た ちが傾 き 始 め る。倒 れ て しま った動物 た ち は、 その身体 を 徐 々 に砂 の中 に沈 めて い き、 あ たか も逃 れ られ な い運命 に抵抗 す る こと もな く身 をゆだねて い るか の よ うな哀 しさを見 る者 に与 え る。

裕貴 が閉 じこめ られて い た教卓 とオ ル ガ シの間 の空 間 は、 彼 に と っての 「あ り地 獄」。 担任 は、

「こ こに しば ら く入 って いれ ば、 そ の後 は順調 に 教 室 にい るん です」 と言 うが、 裕貴 に と って は埋 め られ たに等 しい息苦 しさを感 じて いたに違 いな い。空 間 をのぞ き込 む大人 の顔 を彼 は どん な思 い で見上 げて いただ ろ うか。不安 と恐怖 は計 り知 れ

な い。      │ ‐       ‐

今になって、かつて裕貴が Fぐるぐるして │」

と自分の体を回して欲 しいと要求 したこと│を患い 出す。教室に行けなくなったとき、裕貴の身体は 硬直しその心までもが硬く固まってしまいそうだら た。 そんな中で行 われた、 「グル グル遊 び」 は、

硬直 した関係や硬直 して しまった自分 自身を柔 ら か く溶かすために必要 な行為だ ったよ うな気がす る。学校 の相談室や家の中で、 自分を受 け入れて くれ る大人を相手 に して ぐるぐる回す ことを要求 す ることを繰 り返 していた。その こと自体、意味 のある関わ りだ ったはずだ。

あれか ら 1年 半 た ちて、今、裕貴が行 っている のは箱庭 の中で砂 をグルグル回 しなが ら動物 たち を埋 めてい くことだ。 「あ り地獄」 とい う言葉 に お母 さん と私 は怖 さを感 じなが らも、 それを表現 している裕貴 にとって、 この行為 には必ず意味が あるはず。 ・ 。ご地面を動かす ―基盤 を覆す―破 壊の後 ―お、たたび創 る ・・・。

日常の生活 は、裕貴が教室に行かない学校生活 をどのように暮 らすかを試行錯誤 している状態だっ た。教室 に行 けない生活ではな く、教室を選択 し ない学校生活 を彼が造 ってい くのだ。つま り通常 の学校生活 という基盤を崩 し、彼が 自分 の生活の 基盤 を創 るのである。裕貴 自身が好んで選んだわ けではないが、 そのようにひ らかれて しまった道 筋を、 いったん ぐるぐるに溶か して しまわなけれ ばな らないのは必然のよ うな気がす る。

くもう一つの居場所 >

教室か ら離れて しまった裕貴 は、相談室 に毎 日 登校 していた。校舎の奥 にあるその場所 は、玄関 か らはもっとも離れた場所ではあるが、 い ったん 入 って しまえば誰の目に触れることもない場所だっ た。 そこには教員 を退職 して週 5回 相談室 に勤務 す る森先生 と、幼稚園を退職 した浅川先生がいた。

森先生 は裕貴 にとっては祖父 くらいの年齢差があ る初老の男性である。温か く包み込む とい うよ り も、懐 に飛 び込む と、 よ し !と受 け止 めて くれそ うな雰囲気がある。一方、浅川先生 は包み込むよ

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うな柔 らかな女性性 を持つ。裕貴 のお母 さんのお 姉 さん くらいの年齢だろうか。

森先生 は裕貴 にた くさんの提案を して くれた。

たとえば 1年 生の頃、文字 を書 くのを嫌が る雅史 に毛筆習字の時間を作 り、裕貴 もそれに誘 った。

初 めての ことに抵抗 の強い裕貴ではあ ったが、森 先生の無骨だが直線的な提案には素直に従 うのだっ た。そ して書 き初め大会では大 きな賞 を もらうこ とになった。森先生 はそれ以外 に も絵を描 くこと や将棋、オセロ、囲碁、 ト ランプなど多 くの遊 び に誘 って くれた。森先生 はお しゃべ りだ。「なあ、

裕貴。負 けて も次がある。負 けることを恐れ とっ ち ゃ、 うま くな らん。挑戦せんに ゃあ、 なあ。」

と独 り言 のよ うに しゃべ る。裕貴 は黙 って駒 を進 める。

浅川先生 は、裕貴をいつで もいつまで も守 って くれ る存在だ った。 ソファ‐に並んで座 り、 にこ にこしなが ら話す姿 はまるで母子観音像のよ うで あった。

裕貴にとって相談室は大 きな意味を持つ場 となっ た。将棋や囲碁、 オセロなどルールのあるゲーム で勝負す る。何度 も勝負 につ きあ って くれ る大人 がいる。だか ら、何度 も挑戦で きる。や り直 しが で きるのだ。何 も語 らな くて も駒 を進 めることで 会話がで きる。意志 を表明 し、主張す ることがで きる。相手 の思 い もまっす ぐに伝わ る。駒 を進 め てその先 にある勝敗 は結果だ。受 け入れ る しかな い。

また、 ここには不安 や心配 を癒 して くれ る存在 が い る。級友 の 目が気 にな つて仕方 が ない。何 か 言 われ な いか、誰 か に 「なん で裕貴君 だ けそ こに い るの ?」 と聞かれ た らど う しよ う。 ど きどき じ なが ら廊下 を歩 き、相談室 までたどり着 いた らほっ とす る。 ち ょっとがんば った ときに、笑顔 で迎 え て くれ る大人 が い る。 がんば りを評価 して くれ る 大人 が い るのだ。

<固 める作業へ >

裕貴 が 3年 生 の夏 の 日。 ひ と しき り小 さなぬ い ぐるみで遊 ん だ あ と、私 は裕樹 を箱庭 に誘 った。

裕樹 はに っこ りほほえみ、砂 を触 り始 めた。 山を 作 った り平 らに した り、 砂遊 びが続 く。 そ して、

そ ば にあ る棚 か ら恐竜 を取 りだ し平 らな砂 の上 に 置 き始 めた。 た くさん の恐竜 が砂 の上 に置 かれ た。

裕 樹 は砂 を大胆 に動 か し、大 きな恐竜 を砂 の中 に 埋 め よ うと した。 しか し、砂 の量 が足 りな くて恐 竜 は埋 め られ な い。 あ りった けの砂 を集 めて も恐 竜 に は何 の影響 もない。裕貴 の顔 はち ょっぴ り赤

くな った。

「水 を入 れ て もい い ?J裕 樹 は私 に尋 ね た。

「水 を入 れ た いの ?」 と私 は返 した。 「うん。」 と は ほえむ裕樹 の柔 らか な笑顔 に、私 は同 じよ うな ほ ほえみ を返 した。

裕樹 は コ ップ に水 を入 れ、 箱庭 の砂 に しみ こま せ た。 きれ いな さ らさ らした砂 は、少 し水 を含 ま せ ただ けで は変化 はないも裕樹 は水 を砂 に運 ぶ作 業 に熱 中 した。裕樹 のお母 さん と私 は、 その作業 を黙 って見 て いた:「 これ で い い」 と裕樹 が静 け さの中でつぶや いた。 静 か だ ったの は ここまで だ った。裕樹 は恐竜 を砂 に押 しつ け、投 げつ け、

ごろ ごろ転 が したし世界 が壊 されて い く感 じが し た。恐竜 だ けの世界 自体、世界 が創造 され る地球 創 生 期 の イ メー ジを連想 させ るの に、 その創生 期 の地球 が大 きな力 で動 か されて い るのであ る。

どの くらいの時間が経 っただ ろ うか 。・。箱庭 の中 は、砂 にまみれた恐竜 たちが横 たわ っていた。

砂 は箱 の外 にまで飛 び散 って い る。砂 にまみれた 恐竜 はその色 をな くして いた。

裕 貴 は、 バ ツの悪 そ うな顔 で私 を見 た。半分笑 顔 の 申 し訳 な さそ うな顔 。 「うま くい った ?」 と 尋 ね る と、 「うんJと お母 さん を見上 げて頷 いた。

少 し前 に小 さなぬ い ぐるみ で遊 ん で い た裕貴 と は、 ま った く別人 のよ うな激 しい表現 だ った。 ぬ い ぐるみ遊 びは、 ごっこ遊 びだも私 の持 って いる ぬ い ぐるみ と、裕貴 が家 か ら持 って くるぬ い ぐる み を使 って戦 い ごっこをす るのだ。机 を挟 んで対 峙 し、 ぬ い ぐるみ を動 か しなが ら、声色 を使 って 即席 のス トー リーを作 る。 ス トー リーの作 り手 は、

裕 貴 と私 。 思 わ ぬ方 向 に話 が展 開 し、二人 で笑 い 転 げた り、激 しいぬ い ぐるみ争奪戦 にな った りす

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る。真剣 に考えて言葉 を返 さないと、つま らない ス トー リーにな って しまうこともある。 まるで幼 児 の遊 びだが、見立ての中で相互的なや り取 り遊 びがで きることは、 「人 との関係性」 の修復 (あ るいは回復)に とって意味があるしそれが一転 し、

箱庭での地球滅亡 の世界である。

初秋のある日。裕貴 は大 きな袋を重そ うに持 っ てや って きた。夏休みに家族でキ ャンプに行 った ときに、河原で拾 った石を持 って きたとい う。裕 貴 にはや りたいことがあ った。 いつ もな ら、ぬい ぐるみ遊 びか ら始 まるのだが、今回 は持 って きた 石 を使 って箱庭 を作 りたいとい う。裕貴 は黙 々と 作 り始 めた。砂 を片隅に寄せ、中央 には島のよう な陸地 を作 った。大陸には石が敷 き詰め られ、 ま るで地盤を固めるかのよ うに丁寧 に布置 されてい る。海 にただよ う頼 りなげな印象の島に も石 の橋 がつながれ、が っち り固定 されている。見ていて 安心だ。 lヶ 月前 に破壊 した陸地が、石 を敷 き詰

めることで固定 されたよ うな気が した。

裕貴 は夏休みのキ ャンプで どんな体験 を したの だろう?石 を積み上 げて川の流れをせ き止 めてみ たのだろうか ?細 かな砂利 を掘 ってみたとき、中 か らじんわ り水があふれて きただろ うか ?河 原 に ある石や水、砂や魚でた くさんの原初的な体験 を したに違 いない。彼の大切 な原体験 を ここに見 た よ うな気が した。

く海の生 き物が生 まれる>

この頃か ら本格的な母子面接を行 うことになり、

学部 2年 生 の男子学生 の久 田君が面談 に加 わるこ とにな った。大人への警戒心が強 く、初 めての人 にはなかなか うち解 けない裕貴だ ったが、 ソフ ト な印象で無邪気 に遊んで くれ る久田君 にはあ っと い う間に心 を開いた。つま り、一緒 にぬい ぐるみ 遊 びに興 じて くれたのである。 1年 生 の頃に 「ぐ るぐる遊び」を して くれる大人に心を開いた裕貴。

逆 に、心 を開いた人 にだ け、「ぐる ぐる遊 び」 を させて くれたとも言え るが。 ここでは、ぬい ぐる み遊 びが彼 な りの関所 (踏み絵)だ ったよ うだ。

箱庭 はお母 さん、私、久 田君の 3人 が見守 る中

写真 5 海 の生 き物 ば か り

で作成 された。 エイやイルカ、 クジラ、サメ、オ ッ トセ イな どが水 の中で泳 いでい る。種類 はいろい ろで も仲良 くゆ った り泳 いでい る様子 だ。 陸地 に 目を移 す と、椰子 の本 の様 な木 が まば らに植 えて あ る。 自然 に生 えて きたよ うな樹木 だ。人工 的 な 感 じが しな い。地球上 に陸地 と海 がで きた頃、 ま ず は海 の中 に生物 が生 まれ たのだ とい う神話 の一 場面 を見 るよ うだ。 その海 と陸地 を行 き来 す るの が ワニ。平和 な海 の生物 が狙 われて い るよ うな感 じ もす る。 裕 貴 は ワニ に はひ と言 も触 れ ず に、

「今 日は海 の生 き物 ばか り。  も っとい っぱ い泳 が せ たか ったけど、 これ以上見 あた らなか ったか ら

・・。」 と言 って箱庭 を後 に した。

現 実 的 な学校生活 は、居心地 の良 い相談室 を基 盤 にな った ものの、裕貴 を脅かす新 たな動 きがあ っ た。 つ ま り、 それぞれ の大人 の思 い 。・・裕貴 に 言葉 で表現 して欲 しい と願 う大人 、相 談室 が居心 地 良 す ぎると感 じる大人、教室 までの距離 を少 し ずつ近 づ く試 みを させ たい大人 の思 いが裕貴 に向 か って きたのだ。砂 まみれの恐竜 たちの頃 は、 ま さ しくその真 っ直 中 にあ った。

箱 庭 で遊 ん だ後 、裕 貴 とお母 さん、 久 田君、 私 は一緒 にテ ィー タイムを楽 しんだ。 ほ っとす るひ とときで あ る。気 の抜 けた時空 の中で、裕貴 がつ ぶ や いた。 「ここまで来 た らいい子 ね って言 うけ ど、次 の 日はまた、 もっと しな きゃいけない。先

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生 はにこにこしているけど、心の中では良いと思 っ ていない。思 い通 りにいかない とす ぐに怒 る。」

言葉 の奥 に隠 されたメ ッセー ジを子 どもは敏感 に 見つ ける。子 どもの ̀声

にな らない声'が 本当の 声 になってあ らわされた。

裕貴の思 いは、今、醸成 されている最中だ。声 として聞 こえて くるまで、全身か ら訴えて くる心 の声 に耳 を傾 けない と、 いつまでた って も私達 に は届かないだろう。今、裕貴 は地盤を固めている。

良 い方向に向か っている。

私 はお母 さん と話 し合 って、学校 にこう伝える ことに した。つま り、①裕貴 の思 いに耳を傾 ける 大人 の一致 した姿勢、②相談室の役割 を大切 に し なが ら学校 と してで きることを見つ ける、③大人 の思 いは ̀私

メ ッセージ' と

して伝え、決定権 は 裕貴 自身 にあると認識す ることを約束 した。裕貴 の思 いが声 になってあ らわされ、本当の意味で裕 貴の心の地盤が固 まった。

<救 急 ・保護 ・治療の必要性 >

動物や人間を埋 める活動が続 いた後、裕貴が頻 繁 に遊び始 めたのが、「救急車」「怪我 を した人」、

「病院」 だ った。他 に何 もない殺伐 と した中で、

救急隊員が黙 って怪我人 を運んでいる。裕貴 は、

多 くを語 らない。 しか し、怪我人を担架 に乗せて 救急車のそばに運ぶ動作 を繰 り返 し繰 り返 し行 っ ている裕貴 の姿 は、神聖 な儀式 を見ているような

気持 ちにさせ られた。 「こんなにた くさん ボクは 傷ついたんだよ」 とで も言 っているかのよ うだ。

そ して、 ある日を境 に救急車 は箱庭か ら消えた。

物語 にな らない段階での体験 は、象徴的な瞬間 を執拗 に繰 り返 し再現す る。前段階の身体 を使 っ た遊 びにおいて もそれは同様だ った。裕貴 は何度 も同 じ行為を要求 し、大人 はその繰 り返 しに不安 感 を持つ。場面が展開 しないことに焦 りとい らだ ちを覚えて しま う。 しか し、裕貴 に とって、 「怪 我人を見つけて、担架で運ぶ」瞬間が重要であ り、

その場面 を繰 り返 し再現す ることによって、内的 な治癒が行われているよ うな印象 を持 った。 この 場面が現れてか ら4回 目で、救急車 と怪我人、救 急隊員 は終わ った。

く悪い怪獣 >

裕貴の遊 びは、再 び活発 にな ってい った。 これ まで使わなか った 「大 きな怪獣Jが 現れたのだ。

恐竜たちがみんなで力を合わせて 「大 きな怪獣」

をや っつ けようとす るのだが、「大 きな怪獣」 は、

絶対 にや られて しまうことはない。『大 きな怪獣 は悪 い怪獣。良 い恐竜 たちがや っつ けよ うと力を 合わせるけど、悪 い怪獣 はなかなか倒れないんだ』

と裕貴 は言 う。

そ して、 4年 生の10月、何度 目かの 「悪い恐竜」

の出現場面で戦 う人 々が現れ、騎士を中心 に 「大 きな恐竜」の シンボルである大 きな木 を倒 し、つ

写 真 6 怪 我 を した人 を運 ん で い る 写真 7 悪 い怪獣がなかなかや られない

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いに 『大 きな悪 い恐竜 は、 とうとう倒 されて しま っ たんや』 と言 いなが ら、裕貴 は 「大 きな恐竜」 を 静 か に箱庭 の外 に出 した。

戦 いの場 面 に は、 長老 が遠 くか ら見守 り、戦士 達 が一 斉 に攻撃 す る中で、 いか に も強 そ うな騎士 が とどめを刺 している。 これまで と同 じように、

大 きな悪 い恐竜が蘇 って来 るような気がす るのだ ろうか、万が二 の ことを想定 して、周囲 には戦車 や戦闘機 も待機 しているも

この ころの裕貴 は、母性的な浅川先生か ら距離 を とり、 さまざまな提案を して くれ る父性 の強い 森先生 と過 ごす ことが多か った。将棋 の腕前 は上 が り、大好 きな算数 に取 り組む時間が増えた。

< 作 る>

大 きな悪 い怪獣」が消え去 った後、箱庭 は大 き く変化 していった。

家を並べ、町を作 り始 めたのだ。 ダンプカーが 砂 を運 び、『忙 しいんや。早 く作 らない と駄 目な んや』 と裕貴 は言 う。人間 は登場 しないが、 ひ っ きりな しに砂 を運ぶ二台の ダンプカーは、 とて も エネルギ ッシュだ。

学校では教室 に行 くことはな く、相談室での生 活が安定 して きた。 この ころ、相談室 には 1年 生 の拓也が通 って くるよ うにな り、裕貴 は元気 な拓 也 に触発 され ると同時に、やんち ゃな拓也のお兄 さん的な存在 になった。 もう、浅川先生 は自分で

はな く、拓也 に必要 な人だ と思 ったのか もしれな い。裕貴 と浅川先生 と森先生の トライアングルが、

拓也の存在 により少 しずつ変化 を見せてい った。

拓也 は浅川先生、裕貴 は森先生 とい うペアが形成 されたのだ。

ある日の箱庭 は、写真 9の よ うな二つの町であ る。 向 こう側 にあるのが、「古 い町」 で、手前 に あるのが、「新 しい町」である。

新 しい町には中央 に学校がある。町 は左側 に固 まってお り、道路が中途半端な位置 に一本だけ敷 かれている。学校の校舎 まではつなが っていない。

右側 には小 さな川を渡 る橋があ り、その先 には 五重塔 とそれを挟む 日本の木が立 っている。バス が走 っているが道路が通 っていないので立 ち往生 している。学校の右側 には民家が一軒建 ちている。

実際に裕貴の家 は、 まさに学校 の横 にあるのだ。

箱庭で は 「学校」、「家」、「道路」、「お店」が良 い 具合 に布置 されているが、道路でつなが っていな い。大事 な ものがそろっているがつなが っていな いという印象 を持 った。

<つ ながる >

写真10は、その 2ヶ 月後 の 4年 生 も終わる頃に 裕貴が作 った箱庭であ る。学校 はな くなっている が、道路がつ なが り町が仕上が った。『道路が足 りなか ったけど、 これで もちゃん と車 は走れる。

写 真 9 古 い町 と新 しい町

写真 8 町 を作 っている

(9)

つなが った』 と裕貴 は安心 したよ うに語 った。

箱庭 に中央 には噴水があ り、左の上 の方 に も湧 き水がある。噴水 を中心 に 3本 の木が中央 に立 っ ている。バ ランスが とれていて安定 した構図だ。

裕貴 は、 これを最後 に箱庭 を作 らな くな った。

5年 生 にな ってか らの遊 びは、 もっぱ らイ ンター ネ ッ ト。ぬい ぐるみ も箱庭 もい らないのだ。久田 君 とゲームの話 を して、 イ ンタニネ ッ トで知 りた い情報 を集 め る。久 田君 は、 「ボクがよ く知 らな いと、教えて くれる し、む しろ、 ボクが気 を遣 っ て もらっている感 じが します」 と言 うほど、言葉 のや りとりも相方向で、 キ ャッチボールになって

きた。

家で も家族 と一緒 に買 い物 に行 くと、 自分の好 きな物を一人で買いに行 くことができるようになっ て きた。思 いを言葉 にのせて表現す ること、相手 に伝えたいとい う意思を向けることがで きるよう にな って きたのだ。

く教室へ >

5年 生の久保先生 は、はきはきして女性の先生。

裕貴 の担任である。久保先生 は裕貴 に 5年 生 とし ての要求 を正 しく伝えて くれ る6た とえば、「先 生 は、裕貴 さんに も 5年 生 としてみんなが してい ることを して欲 しいと思 っています。宿泊訓練 に 一緒 に行 って欲 しいと思 っているけど、裕貴 さん はどう思 う?」 とい うよ うに私 メ ッセー ジで提案

し、裕貴 が考 え る時間 を与 えて くれ る: そ して、

最終的には裕貴が自分で決めたことを尊重してく れ るのだ。 たとえ、『宿泊訂1練には行 かない』 と い う結果で も、「わか ったよ。 じゃあ、 みんなが 宿泊訓練 を している間、裕貴 さんは裕貴 さんの宿 泊訓練を家で して欲 しいんだけどで きますか ?」

と再度 提 案 し直 し、 「みんな と同 じことがで き なか った 自分」 で はな く、 「みんな と同 じ時間 に 別の場所で宿泊訓練を した自分Jに なるようにチャ ンスを与えて くれ るのだ。宿泊訓練 は、裕貴 もス ケ ジュール表 を見 なが ら、『今 は、 カ レーを作 る 時間だ』、『今 は掃除の時間だか ら掃除を しな くて は』 と言 いなが ら、参カロす ることがで きた。 もち ろん、家で はあるが。

しか し、 この ことで裕貴 はみるみ る自信 をっけ ていった。 2学 期 には、久保先生か ら新 しい提案 があ った。 「明 日の予定 を知 ってお くといい と思 うか ら、 自分で連絡帳 に予定を書 きに来 ない ?み んなが帰 った後で もいいですよ」 とい う提案であ る。裕貴 は、 その提案を受 け入れ、終礼が終わ っ た後 に教室 に入 り、黒板 の連絡事項を書 くことが で きるよ うにな った。 クラスメニ トは全員帰 って いるわけではない。何人かが残 っている。そ して、

裕貴が書 き終わ った頃、裕貴 も含めた数人で一緒 に下校す ることがで きるよ うにな った。

指示」ではな く 「提案」である。同 じ言葉で も受 け取 る側 にとっての意味が大 き く異 なる。 自 分の思 いを尊重 して くれ ることが確認で きれば、

子 どもは大人の思 い (要求)を 受 け入れ る努力を して くれ るものだ。「行 うか行 わないか」 ではな く、「どのよ うに行 うか」 に焦点が当た ってい く。

く旅立ち 。出発 >

5年 生の終わ りの頃、 3月 15日 のことである。

この 日は、久田君が大学を卒業 して他大学 の大学 院に進学するために裕貴 と久田君の最後のセ ,シ ョ

ンの 日にな った。 このことを裕貴 はお母 さんか ら 聞いて知 っている。

いつ ものようにゲームの話やイ ンターネ ッ トで 検索を していた裕貴だが、後半 『久 しぶ りに作 り 写真 10 こ れ で走 れ る

(10)

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たい』 と言 って、 1年 ぶ りに久 田君 を箱庭 に誘 っ た。

そ して、作 ったのが写真11である。

中央 に高 くな った部分か ら飛行機が飛 び立 とう としている。手前 にはヘ リコプターも離陸を待 っ ている。新幹線 も出発間近だ。町 もにぎやかで、

左側 には日本庭園があ り、湧 き水 も豊かにあふれ 出ている。樹木 も青 々として元気だ。飛行機の下 には、 ブランコや滑 り台(砂 場など子 どもの遊 び 場が隠 されて いる。 「子 ど もの自分 を内側 に しま い込み、飛 び立つ 自分 」 と、「大学院 に旅立つ久 田君への祝福 とエール」 として見 ることがで きる 作品。 そ こにいる私 たちは静かに見守 り続 けた。

言葉では言えない思 い、感謝、祝福、 そ して、

「子 ど もの 自分」 を卒業す るとい うメ ッセー ジを 託 して くれた作品だ った8

くその後の裕貴 >

6年 生 にな り、裕貴が面接 にきたのは学期 に 1 度 にな った。久 田君がいな くな った後、他の人 に 変わることを彼 は選 ばなか った6私 は、 あの旅立 ちは自分の ことで もあ ったのだ と感 じた。 たまに 訪れる時 も、 ち ょっとした気分転換のよ うな感 じ で表情 も明 るい。

6年 生で も、裕貴 は自己決定の機会 を得て、 3 学期 には教室 にはいることがで き、中学校への体 験入学 にもみんなと一緒 に参加 し、卒業式 に も参

カロす ることがで きた。

現在、裕貴 は中学校 3年 生。風邪以外 は休 まず、

ごく普通の学校生活を送 っている。部活 は美術部 である。絵 を描 くことは、彼 にとって大切な表現 形態である。小学校 6年 間、集団生活 を体験 して こなか った裕貴 にとって、中学校生活 は戸惑 い も 多か っただろ う。

たまにお母 さんか ら報告 のメールが私 に来 る。

『お母 さん、掃除の仕方がわか らない』 と尋ね る 裕貴 に、「適 当に動 いて観察すれば ?」 と軽 く応 じるお母 さんの雰囲気がいい。 その軽 さが、裕貴 に、『そ うだね。見ているうちにわか って くるよ ね』 と現実を うま く対処す るアイデ ィアを もた ら

している。

裕貴 は遊 びを通 して語 って くれた ことは多か っ た。 まだ十分 に深 めていないが、彼 と遊んだ 「ぐ る ぐる遊 び」 と 「ぬい ぐるみ遊 び」、 そ して 「箱 庭」の表現を じっくり眺めて、裕貴の思 いを感 じ てみたいと思 っている。

(本論文中の固有名 は全て仮名である) 写真 11 旅 立 ち

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参照

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