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すり替えられた転形問題

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Academic year: 2021

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(2)

1.はじめに

 どのような社会・経済システムであれ,その構成員の生計を維持するためには,さまざ まな物資が生産される必要があり,そのためには,だれかの労働が投入されなければなら ない。このような,すべての社会・経済システムに共通に要請される,経済上の必要条件は,

宇野 [30] にしたがって,経済原則とよばれる。ところが,生産も労働も,ともに,商品 売買のルールにもとづいて編成される資本主義経済では,価格システムのはたらきをつう じて,それらの社会的編成はおこなわれる。そのさい,超過利潤の獲得をめぐる資本間の 競争は,すべての部門に共通な利潤率をもたらすような,マルクスのいう生産価格を成立 させる。そうすると,資本の価値増殖活動がさまざまな特有な現象を生じさせる資本主義 経済でも,システム存立のためには,経済原則はみたされないといけないので,まず第一 に,物的再生産条件を表現するレオンティェフ体系の解の存在が要請される。そして,こ の体系の裏面には,かならず,労働の社会的配分が随伴するので,それに双対な価値体系 の存在も保証される。

 そうすると,資本主義経済では,いっけん,私的な利潤追求に起因する生産の無政府性 が,価格決定の偶然性を帰結するようにみえるが,たとえ商品形態をとってはいても,じ つは,その根底には,経済原則の充足を意味するレオンティェフ体系とその双対である価 値体系がビルト・インされているので,これらの体系に矛盾するような価格は,棄却され る。そういう意味で,資本主義経済では,価格は,根本的には,経済原則としての労働配 分を体現する価値による規制をまぬがれえない。ところが,その規制も,厳密に遵守され るのは,生産活動にともなって損耗した生産手段の補填分と,労働力の再生産のために必 要な生活資料との部分にかぎられ,アウトプットからそれらを控除した残余である剰余の 処理にかんしては,かならずしも価値どおりの交換を必要とせず,ある程度の自由度が認 められる。その結果,資本主義経済では,価値どおりの交換はおこなわれず,超過利潤の 獲得をめぐる資本間の競争をつうじて,すべての部門に共通な利潤率をもたらす生産価格 が交換の基準となる。こうして,経済原則を体現する価値が,どのようにして,資本間の 競争の結果出現する交換の基準としての価格を規定するのかという,いわゆる「転形問題」

が問いかけられるようになるのは,自然の成り行きであろう。

すり替えられた転形問題

- Foley の解決-

永 田 聖 二

Secretly Changed Transformation Problem: Foley's Solution

Seiji NAGATA

(3)

 ベーム ・ バヴェルクによる論難とそれにたいするヒルファディングの回答を嚆矢とし て,「転形問題」の舞台は,20 世紀初頭に著され,たいした反響もよばないまま忘れ去 られた,再生産表式を利用して価値から価格への転形を証明しようと試みたボルトキェ ヴィッチの先駆的な解法から,数十年後,スウィージーによるその発掘と英訳による紹介 を契機とする戦後の転形論争をへて,スラッファ『商品による商品の生産』刊行をあいだ にはさんで,『資本論』100 周年を契機とするいわゆる「マルクス ・ ルネッサンス」ののち,

1970 年代に,線形数学の手法の援用により,あらたな様相を呈する11)。そして,80 年代 にはいって,「労働力の価値」と「貨幣の価値」との恣意的な再定義にもとづいて,伊藤 [ 8] のいう「新解釈」を提起する Foley [ 3] の方法が登場する。ところが,この「新解釈」

は,ほんらい労働価値説から論証されるべきはずの,労働タームで表現された付加価値と 投下労働との恒等的一致を,議論の前提としてはじめから仮定するといった意味で,じつ は,直感的で素朴な価値観にもとづいて「労働全収権」というスローガンを唱えたリカー ドウ派社会主義12)のレベルにまで先祖がえりする理論的後退以外のなにものでもない。し かも,交換の基準となる生産価格が価値から乖離することを理由に,この恒等関係も,価 値と数量にかんする双対性としてではなく,竹田 [ 3] が指摘するように,マクロ的な集 計量としての相等としてしか認識されていないために,生産や労働の諸条件から遊離した,

奇妙な分配メカニズムを前提とするという意味で,Kaldor [ 9] に代表される,ケンブリッ ジ型分配理論と共通の欠陥をまぬがれえない。これでは,価値論の意義は個々の商品価格 の決定を説明することにあり,集計量どうしの等値というトートロジーを主張することに はないという,ベーム ・ バヴェルクによる批判にさえ,まともに反論できないことになろ う。

 本稿では,線形数学の手法を利用して,フォーレイによる「新解釈」の再検討をおこなう。

そして,かれの解法は,ほんらい,レオンティェフ体系と価値体系との双対性にもとづい て生産 ・ 労働面から提示すべき問題を,かれ独自の定義による「貨幣の価値」や「労働力 の価値」といった「独創的」な概念で読者が幻惑されているあいだに,べつの問題に巧妙 にすり替えてるにすぎないことを示す。したがって,そのような「手品」を必要とするか れの手法では,けっして,転形問題を解決することができないことが判明する。

2.経済原則と価値

 どのような経済システムであっても,その存立のためには,物的ならびに労働力の補填 を継続しながら再生産をおこなう必要がある。このような再生産の条件を,物的補填の観 点から,産業間の投入 ‐ 産出活動として表現するものが,レオンティェフ体系

x =Ax + y (2. 1)

である。ここで,記号 xy は,それぞれ,産出量ベクトルと純生産物ベクトルであり,また,

投入係数行列 A= [aij] の第 ( i , j ) 成分は,第 j 生産物1単位あたりに必要な第 i 生産物の 投入量をあらわす。このとき,第j生産物1単位あたりに必要とされる労働投入量の一覧 1)Böhm-Bawerk [ 1], Hilferding [ 1], Bortkiewitz [ 2] 参照。 なお, 転形問題にかんするそれぞ れの時期の主要文献は, 翻訳のかたちで, 伊藤 ・ 桜井 ・ 山口編訳 [ 5] ・ [ 6] として利用できる。

また, それらの論点についての概観は, 伊藤 [ 7] や Howard [ 4] 参照。

2)リカードウ派社会主義については, たとえば, Розенберг [26] や Mengar [13] をみよ。

(4)

を記号 a0 であらわして,労働投入係数ベクトルとよべば,純生産物 y を生みだすような 産出量水準 x をもたらすために,この経済で投入される労働量 l は,総計で,

l= a0x   (2. 2)

になる。

 ところで,上式が暗示するように,物的再生産活動の背後では,かならず,その裏面と して,産業間の労働力配分も同時におこなわれている。そこで,それぞれの生産物1単位 あたりに,直接投下される労働量 a0 と,生産手段に体化された間接労働 vA との合計と して,投下労働タームで表現された,価値ベクトル v を評価することができる。

v=vA + a0     (2. 3) このとき,これら2つの体系のあいだには,i) それぞれの非負解の存在条件が,行列 IAの非負逆転可能性として,共通なかたちで表現され,しかも,

vyv (IA)xa0x = l   (2. 4) すなわち,ii) 投下労働タームで表現された純生産物価値 vy が投下労働 a0x に恒等的に一 致するといった意味で,双対性が成立する11)。このように,純生産物価値と投下労働と の恒等的一致は,レオンティェフ体系と価値体系として表現される,生産と労働との表裏 一体性から導出される一定理のはずなのであるが,のちに示すように,フォーレイは,事 実上,これを,かれの解法の出発点となる公理として採用している。

 なお,システム維持のためには,損耗された生産手段の物的補填だけでは不十分で,じ つは,労働力の再生産を保証するような追加的な条件の履行を必要とする。そこで,労 働力1単位あたりに必要な生活資料の一覧を記号 c であらわし,必要消費ベクトルと名 づければ,(2. 2) 式から,経済全体では ca0x だけの生活資料が労働力再生産のために利用 されるので,差し引き y-ca0x だけが,物的剰余としてのこされる。この剰余の一覧を,

剰余生産物とよび,記号でf あらわせば,定義から,次式が成立する。

    y = ca0x +f    (2. 5) これを (2. 1) に代入すれば,

   x= (Aca0)x f   (2. 6) をえるので,それに対応して,価値体系も次式のように書き換えられる。

   vv(Aca0) + mvca0   (2. 7) 11) 線形モデルの双対性にかんしては, たとえば, 二階堂 [24]、 塩沢 [27] など参照。 また, 永田 [16]・

[17] もみよ。

(5)

ただし,記号mは搾取率 ( 1-vc)/vc をあらわす。そうすると,双対性も,つぎの図の ように書き改められるので,物的剰余 f の存在条件と剰余価値率 m の正値条件との一致,

ならびに,投下労働タームで表現された剰余生産物価値 vf と剰余価値総額 mvca0x との恒 等的一致が帰結される。

    vfv (I- (Aca0))x mvca0x   (2. 8)

3.経済原則と価格

 前節で示されたように,価値体系 (2. 3) は,レオンティェフ体系 (2. 1) の双対として,

どのような経済システムでも,なんらかのかたちで,みたされないとけない経済原則をあ らわしているのであるが,その解決方法は,それぞれの社会・経済システムごとに異なっ てもよい。商品生産社会では,物的補填と労働力再生産の条件は,商品交換をつうじて,

販売価格からのコストの回収というかたちで処理される。そうすると,商品価格 p は,

p ≧ pA +wa0     (3. 1) をみたす非負ベクトルであればよいわけであるから,上式の両辺を賃金率wでわるとた だちにわかるように,価値ベクトル v は,この式を等号で満足する特殊な解である。と ころが,(3. 1) 式をみたす解は,なにも価値ベクトルだけにかぎらない。剰余価値の現象 形態としての利潤の獲得を目的とする資本は,この式が厳密な不等号でみたされないかぎ り,生産活動を遂行しないであろうし,とくに,資本主義経済では,超過利潤をめぐる資 本間の競争は,すべての産業に共通な利潤率 r をもたらすような,マルクスのいう生産価格 p = ( 1+r)(pAwa0)    (3. 2) の成立をうながすであろう。そこで,労働力の再生産費としての賃金率の規定を明示的に 導入すれば,賃金率は,労働力1単位あたりの必要生活資料をちょうど買えるだけの水準 に定まるので,次式が成り立つ。

w=pc    (3. 3)

これを,(3. 2) 式に代入すれば,けっきょく,

p = ( 1+r)p(Aca0)    (3. 4)

(6)

になり,利潤率 r と価格 p とは,非負行列 Aca0 にかんする非負固有値問題の解に帰 着する11)。 このとき,下図をみればわかるように,剰余生産物の正値条件は利潤率のそ れと一致する。したがって,前節の結果とあわせれば,剰余価値率の正値条件と利潤率 のそれとは同値である。この事実は「マルクスの基本定理」として,ひろく知られてい る12)。同時に,剰余生産物価額 pf は利潤総額 rp(Aca0)xに恒等的に等しいこともわかる。

    pfp(I- (Aca0))xrp(Aca0)(3. 5)

 このように,経済全体からみれば,利潤総額は剰余生産物価額に恒等的に等しい。また,

前節の結果から,剰余価値総額は剰余生産物価値に恒等的に一致する。ところが,一般に,

価値と価格とは等しくないので,剰余生産物価値と剰余生産物価額とは一致しない。もっ とも,固有ベクトルの規準化にさいして,pf=vf というルールを採用することも可能で はあるが,こんどは,ふつう総価値と総価額との相等性 pxvx はみたされない。よう するに,規準化ルールは1つしか採用できないために,一般に,投入係数行列に恣意的な 想定を設定しないかぎり,いわゆる「総計一致2命題」の両立は不可能になる。さらにい えば,固有ベクトルの規準化という観点からみれば,これら2つのルールのいずれも,他 の規準化ルールに優先されるような資格をもつ理由があるわけではなく,いずれにして も,そこにはニュメレールとしてなにを採用するかの差異があるだけにすぎない。この「総 計一致2命題」の妥当性をめぐる初期の転形論争では,マルクスへの帰依者たちは,「聖 典」である『資本論』の記述どおり,これを金科玉条の教義として遵守し,いたずらに,

両者を同時に成り立たせる条件の詮索に没頭した。これにたいして,批判者がわは,この 命題を労働価値説の根幹をゆるがすアキレス腱であるとみなして,その不成立を示すため に,命題に集中砲火をあびせてきた。ところが,うえに述べたように,この命題自体,と くに重要な意味をもつ性質のものではなく,それに拘泥すれば,かえって,実体としての 労働から規定される価値と,価値の形態である価格との差異を見落とすおそれさえある。

4)じっさい, この行列の最大非負固有値であるフロベニウス根をλとすれば, r=λ-1- 1 であり,

また, それに対応する非負固有ベクトルが価格pになる。 非負固有値問題にかんしては, たとえば,

二階堂 [24] 参照。 また, 永田 [16] もみよ。

5)マルクスの基本定理にかんしては, たとえば, 森嶋 [14], 置塩 [25], 塩沢 [27] など参照。 また,

永田 [16]・[17] もみよ。

(7)

のちに示すように,じつは,フォーレイの解法もまた,この命題の呪縛にとらわれたため に,ほんらい生産 ・ 労働面からあたえられるべき,労働力の価値規定や貨幣の価値の規定 を,マルクス自身の定義から背理して,マクロ的な流通面のみに注目して,論証に都合が よいかたちに改ざんしたうえで,命題を証明したと強弁するだけにおわる。その代償は大 きく,かれのモデルの「転形」の前後で,実体面から規定されているはずの利潤率や搾取 率の不変性が破られるという,救いようのない矛盾を露呈する。

4.フォーレイによる「貨幣の価値」と「労働力の価値」の規定

 フォーレイの「転形」手続きでキーワードとなるのは「貨幣の価値」規定である。それ は,金生産部門の生産条件を反映して実体面からとらえられた,通常使用される,貨幣の 価値を意味するわけではない。価値と価格との乖離を理由にして,それらの個別的あるい はベクトルどうしの対応関係の説明をあっさり放棄したうえで,かれは,論証ぬきに,い きなり,つぎのように宣言する。

「労働価値論は,簡潔に,生産された商品総量の付加価値の源泉はそれらを生産する のに費やされた労働である,という原則として述べることができる。現実の商品生 産に費やされた総労働時間…は商品に含まれている総付加価値の実体となるはずであ る。」11)

この宣言は,いっけん,第2節で示された,価値と数量のあいだに成立する双対性 (2. 4) を意味しているようにもみえるが,じつは,そうではない。ここでいう付加価値は,投下 労働タームではなく,価格表示であらわされたものであるから,かれのいう総付加価値と は,国民所得ないし国内総生産を意味することになる。したがって,かれは,証明もあた えず,いきなり,総投下労働と国民所得との対応関係を公理として出発する。その根拠は,

どうやら,価格は価値の形態であるということにあるらしいが,ほんらい,『資本論』では,

価値形態論は個別の商品あるいは商品の集合のあいだの価値表現の問題として提出されて いたにもかかわらず,価値と価格との乖離を理由にして,その論理はあっさりと棄却され,

集計量のあいだのマクロ的な対応関係に矮小化された価値形態論の曲解が,かれの解釈の 根底にはある12)。マルクス自身,かれのオリジナリティーを強調した価値形態論なのに,

フォーレイの解釈では,リカードウ派社会主義の主張と見分けがつかなくなるおそれさえ あろう。

 ともあれ,かれにしたがって,この「公理」から,かれのいう「貨幣の価値」規定を導 こう。かれのいう「労働価値論」によれば,「労働時間と付加価値は,同一物の二つの異なっ た側面」であり,「労働は価値を創造し,価値は貨幣によって表現される」ので13),後者 にたいする前者の比率は,貨幣1単位があらわす労働量,あるいは,貨幣1単位と交換に 取得できる労働量を意味する。そこで,この比率を「貨幣の価値」と定義するそうである が,なんのことはない。これは,じつは,新古典派経済成長論などで常套的に使用される,

6)Foley [ 3] 訳書 23-24 ページ。

7)おどろくべきことに, フォーレイは, マルクスが 「労働価値論を商品の総生産のレヴェルに位置 づけ, リカードが表現したように各々の特定商品のなかに位置づけることはしなかった」 という 暴言まで吐いている。 Foley [ 3] 訳書 25 ページ。

8)Foley [ 3] 訳書 24 ページ。

(8)

1人あたり国民所得という概念の逆数であるにすぎなく,とうてい,マルクスの価値形態 論の意義を忠実に反映しているとはおもえない。ともあれ,かれのいう「貨幣の価値」を 記号 vm であらわせば,定義から,つぎのようになる。

    vma0x/pya0x/p(IA)x    (4. 1) つづいて,フォーレイは,労働力の再生産費として通常採用される定義 (3. 3) を棄却し たうえで,かれ自身が改ざんした「労働力の価値」vw を,つぎのように規定する。

    vw wvmwa0x/py =wa0x/p(IA)x    (4. 2) この定義式は,かれによれば,賃金率wで購入できる付加価値の量を意味するということ であるが,竹田が指摘するように11),この定義自体,ケンブリッジ型分配理論で常套手 段となっている,国民所得に占める賃金分配率以外のなにものでもない。このように,か れ自身の独善的な「労働価値論」にしたがって,あえてマルクスの定義を捨て去ったあと に,フォーレイが採用した「独創的」な定義は,じつは,マクロ経済学で使用されている 1人あたり国民所得や賃金分配率という,きわめて,ありふれた常識的な定義に帰着する。

5.フォーレイによる転形問題

 フォーレイによる転形手法の核心は,「貨幣の価値」と賃金率を不変に保つ,という規 準化ルールにある。したがって,このとき,(4. 2) 式から,あきらかに,かれのいう「労 働力の価値」もまた不変に保たれることに注意せよ。いいかえれば,のちに詳細に検討す るように,かれの転形では,賃金分配率のかたちで,実質賃金率があたえられることにな る。ともあれ,かれの手続きを,線形数学の手法を援用して,順次みてゆこう。

 はじめに,かれは,レオンティェフ体系 (2. 1) の双対としての価値方程式 (2. 3) から出 発し,「貨幣の価値」(4. 1) を利用して,それを価格タームに換算しようと試みる。すなわち,

かれによれば,「貨幣の価値」vm は貨幣1単位に相当する投下労働量を意味するので,価 格にそれをかけさえすれば,価値タームに変換できる。

    vmpv    (5. 1)

したがって,価値方程式を価格タームに読み替えるには,

    p =vm-1v    (5. 2)

という換算式を利用すればよいことになる。このように,価値から価格への変換率を設定 して,転形問題を解決しようとする姿勢は,ボルトキェヴィッチの古典的手法と共通の発 想にもとづくが,後者では,価値の形態としての価格への変換率は,それぞれの商品ごと に異なった比率として設定されているのにたいして,フォーレイ ・ モデルでは,すべての 商品に共通なスカラーとしての役割しかあたえられていない。しかも,ボルトキェヴィッ チの手法では,変換率は解かれるべき未知数であったのにたいして,フォーレイは,それ を,マクロ的な数値として,先験的にあるいは経験的に所与であるとみなしている。これ らのことから,フォーレイの解法は,ボルトキェヴィッチの古典的手法の粗製コピーであ るともいえよう。このような理論的退化をもたらしたのも,かれが,マルクスの価値形態 論を理解することなく,それを総投下労働と付加価値とのマクロ的な対応関係としてのみ 矮小化してとらえてしまったことに起因する。永田 [21]・[22] で示されたように,ほんらい,

9)竹田茂夫 「解説 (1)」 (Forey [ 3] 訳書に所収 ) 参照。

(9)

ボルトキェヴィッチの手法自体,転形問題の解決には,なんら,役に立たなかったわけで あるから,その粗製コピーであるフォーレイの解法が,正しい答えを導くわけはないであ ろう。

 ともあれ,(5. 2) にしたがって,価値から変換された価格では,一般に,利潤率が不均 等になることを示そう。じっさい,産出量1単位あたりの利潤をベクトルで表示したもの を,記号πであらわして,(5. 2) 式を代入し,(2. 3) を考慮すれば,

π =p- (pA +wa0) = (vm-1w)a0vm -1(1 -vw)a0     (5. 3) である。そこで,第 j 成分以外の要素はすべてゼロである列ベクトルを記号 ej であらわ せば,第 j 部門の利潤率は πej になるので,これを単位あたり投下資本額 (pA+ wa0)ejで われば,この部門の利潤率 rj は,つぎのようになる。

      1-vw

    rj =           (5. 4)   (vAej/a0ej) +vw

一般に,部門間で資本の有機的構成 vAej/a0ej が相違することから,これらは不均等であ る。したがって,価値どおりの交換 (5. 1) は,資本間の競争が要請する利潤率の均等化に 背馳する。なお,(4. 2) 式によれば,賃金率で買い戻せる純生産物バスケットは,vw(I- A)x/a0xになるので,このデータにしたがって,搾取率 m を算定すれば,つぎのようになる。

    v(I-A)x/a0xvwv(IA)x/a0x   1vw

    m=        =       (5. 5) vwv(IA)x/a0x   vw

6.フォーレイの解法

 前節でみたように,価値どおりの交換は,一般に,利潤率均等化に反する。そこで,フォー レイは,利潤率を均等化させる価格方程式を,つぎのように定義する。

p = ( 1+r)(pAwa0) (6. 1) この式自体は,(3. 2) と同一であるから,フォーレイの「独創性」は,転形をつうじて「貨 幣の価値」を不変に保つというルールにあり,これが価値の価格への裏づけを意味するそ うである。ともあれ,このルールは,vm を一定の数値に保つような規準化

vmp(IA)x =a0x(6. 2)

としてあらわされる。ところが,かれは,賃金率も,所与の値として,不変のままにして いるので,上式の両辺に w をかければ,事実上,このルールは,かれのいう「労働力の価値」

vw にしたがって,賃金分配率データをあたえることに帰着する。(4. 2) 式から,

    w =vwp(I-A)x/a0x (6. 3) になるので,これを (6. 1) に代入すれば,つぎのようになる。

p = (1r)p(Avw(IA)xa0/a0x) (6. 4) このように,フォーレイの手法は,非負行列 Avw(I-A)xa0/a0x にかんする非負固有値 問題の解法に帰着する。この行列の確定には,産出量データが必要なため,線形経済シス テムの顕著な特徴である,価格と数量とのあいだの決定機構の独立性が侵されていること に注意せよ。

(10)

7.フォーレイの数値例

 前節まで,一般的な結論をえるために,数値例によらず,代数のみによって記述してき たフォーレイの解法の難点を,この節では,かれ自身が設定した数値例によって,再確認 しよう。はじめに,かれは,マルクスの再生産表の分類法を踏襲して,生産財生産部門と 消費財生産部門という,2部門経済を想定する。このような想定のもとでは,前者の生産 物は後者の部門には,けっして,投入されることはないので,フォーレイの想定する投入 係数行列は分解可能である11)

   1/2 1/4

    A=      a 0= [1 1] (7. 1) 0 0 ,

これらのデータから,価値ベクトルv =a 0(I-A)-1 は,

          1/2 - 1/4 -1

 v= [1 1]       = [2  3/2] (7. 2) 0 1

と計算される。なお,産出量水準は,どちらの部門も 10,000 単位に設定されているので,

価値体系の双対としての産出量体系 x =Ax +y は,つぎのようになる。

10,000   1/2 1/4 10,000    2,500

         =           +      (7. 3) 10,000 0 0 10,000 10,000 ,

l =a 0x= 20,000(7. 4)

つぎに,フォーレイは,「貨幣の価値」の初期データとして vm = 1 を指定する。そうすると,

価値ベクトルを価格に換算すれば,「貨幣の価値」の定義から,

 p vm-1v= [2  3/2] (7. 5) になる。このとき,フォーレイにしたがって,賃金率データの初期値を w = 1/2 とすれば,

「労働力の価値」は,vwwvm= 1/2 になるので,さきの数量データを利用して,かれの 転形手法を代表する行列 Avw(IA)xa 0/a0x を計算すれば,つぎのようになる。

          1/2 1/4    1/8    9/16 5/16

Avw(IA)xa 0/a0x=     + 1/2 [1 1] = (7. 6) 0 0 1/2 1/4 1/4

 この行列を利用して,はじめに,(7. 5) 式にしたがった価値どおりの交換は,利潤率均 等化の要請をみたさないことを示そう。そのために,この行列に左から価格を p かければ,

それぞれの部門の単位あたり投下資本額の一覧が計算される。

        9/16 5/16

p(Avw(IA)xa 0/a 0x) = [2 3/2]       = [3/2 1]   (7. 7) 1/4 1/4

いっぽう,産出量1単位あたりの利潤ベクトルπは,単位あたり投下資本額を,価格自身 10)行列の分解可能性については, たとえば, 二階堂 [24] 参照。 また, 永田 [17] もみよ。 なお, フォー レイは, なぜか, マルクス以来おこなわれてきている生産財生産部門=第1部門という常套的な番号 付けを無視して, 消費財生産部門に番号1を割り当てているが, 本稿では, 通常の使用法にならって,

もとの番号にもどしている。

〔 〔

(11)

から差し引いた残余なので,つぎのようになる。

               5/16 - 5/16

πp(I - (Avw(IA)xa 0/a0x)) = [2 3/2]        = [1/2 1/2]    (7. 8)          - 1/4  3/4

そうすると,それぞれ部門の残余を,対応する投下資本額でわることによって,各部門の 利潤率 rj は算定され,その結果は,それぞれ,r 1= 1/3,r 2= 1/2 になる。こうして,価 値どおりの交換は,部門間で利潤率の不均等をまねくことが確認できた。

 そこで,フォーレイは,利潤率均等化という資本の要請にしたがって,マルクスのいう 生産価格が成立しないといけないとするが,ボルトキェヴィッチの手法とは異なって,か れは,価値と価格にかんする個々の商品ごとの対応関係の確認作業を放棄してしまったの で,価値と価格との変換率という常套手段にたよることなく,いきなり,価格方程式 p = ( 1+r)(pAwa0)    (7. 9) へ移行する。そのかわり,かれは,「貨幣の価値」

    vma0x/pya0x/p(IA)x   (7. 10) を一定に保つという規準化ルールを追加するが,かれによれば,このルールは,価値と投 下労働とのあいだのマクロ的な対応関係をあらわしているそうである。ところが,第4節 で詳細に検討したように,賃金率が所与であるという想定とあわせれば,このルールは,

    vwwvmwa0x/py =wa0x/p(I-A)x   (7. 11) という,かれのいう「労働力の価値」一定という制限を加えることになるが,じつは,こ の制限は,たんに,議論の前提として,マクロ的な賃金分配率の数値をはじめから設定 することを意味するにすぎない。したがって,これらの規定は,価値と価格とのあいだの 対応関係をすこしも代表することなく,賃金分配率という,1人あたり純生産物で測定さ れた一種の実質賃金率データを初期値として指定することを意味するにすぎない。ボルト キェヴィッチの手法とおなじく,かれの方法もまた,価格方程式の領域をにとどまったま まであるにもかかわらず,「貨幣の価値」や「労働力の価値」にかんする規定を勝手に改 ざんすることによって,マクロ的にみて,あたかも,価値から価格への規制が機能してい るかのごとく,読者を欺く外観を呈しているだけにすぎない。

 ともあれ,かれの数値例にしたがって,価格を計算してみよう。第3節で示されたよう に,価格方程式 (7. 9) に「労働力の価値」規定 (7. 11) を代入すれば,

p = ( 1+r)p(Avw(IA)xa 0/a0x)    (7. 12) になるので,利潤率 r は,さきほど計算した非負行列 A+ vw(I-A)xa 0/a 0x のフロベ ニウス根λから規定される数値であり,また,それに対応する非負固有ベクトルが価格ベ

クトルp になる。フォーレイの数値例をあてはめれば,

      9/16 5/16

λ [p1 p2] = [p1 p2]         (7. 13)      1/4 1/4

になるので,この非負固有値問題の固有方程式は,つぎのようになる。

 λ- 9/16 - 5/16

          = λ- 13/16 λ+ 1/16 = 0   - 1/4 λ- 1/4

(12)

そうすると,この行列のフロベニウス根は λ= (13 +√ 105)/32

であるから,利潤率は,つぎのようになる。

r =λ-1- 1 = (11 -√ 105)/2

それに対応して,(7. 13) から,相対価格 p 1/p 2 は,フロベニウス根に規定される非負固有 ベクトルの成分比として,次式にしたがって求められる。

p 1/p 2= 4/(16 λ- 9) = (5 +√ 105)/10

さらに,フォーレイの規準化ルール (6. 10) を遵守することが必要であるから,

2,500p 1+ 10,000p 2= 20,000 これを連立させて,

p 2= 8/(4 + p 1/p 2) = (45 -√ 105)/24,  p 1= 8 - 4p 2= (3 +√ 105)/6 (7. 14)

をえる。このように,フォーレイが「貨幣の価値」や「労働力の価値」を改ざんしてまで追求 した結果も,せいぜい,絶対価格水準を定めるほかの任意のルールと同等の資格しかもたない。

 なお,マルクスの再生産表式にならって,部門分割基準として,フォーレイは,消費財 と生産財の区分を採用しているため,労働者の生活資料は第2部門の生産物のみから構成 されるとかんがえている11)。そこで,実質賃金率を測定するニュメレールとして第2生 産物を採用すれば,価値どおりの交換にしたがった転形前の体系では,(7. 5) 式から,p 2

= 3/2 であり,いっぽう,議論の前提として賃金率データ w = 1/2 があたえられている ので,実質賃金率は,w/p 2= 1/3,すなわち,1/3 単位の第2生産物ということになる。

この関係を,われわれの記号を利用して表現しなおせば,つぎのようになる。

       0 1/2 =wpc= [2 3/2]

       1/3

それでは,このニュメレールを採用したとき,フォーレイの解法によって生産価格に転形 されたのちには,実質賃金率は,どのようになるであろうか?転形後の価格システムの解 は,(7. 14) であり,また,ルール上,転形をつうじて賃金率 w は変化しないと仮定され ているので,フォーレイの数値例では,けっきょく,実質賃金率は,上昇する。

w/p 2= (45 +√ 105)/160 > 1/3 これを,われわれの記号で表現すれば,

       1

w/pe2= 1/2 [(3 +√ 105)/6 (45 -√ 105)/24]      > 1/3        0

いいかえれば,

       0

pc= [(3 +√ 105)/6 (45 -√ 105)/24]     = (45 -√ 105)/72 < 1/2 =w         1/3

11)永田 [19] で詳細に検討されたように, マルクスによる使用目的基準からの分類では, 経済の生産 構造を明確に記述しえない。 このような分類法を採用した結果, 投入係数行列は分解可能な形式 になり, ある種の限定的な性格をモデルに付与することから, このタイプのモデルを採用したこ とから導かれる命題には, そのような性格を反映したバイアスが生じる可能性が高い。

〔      

(13)

になるので,フォーレイの解法では,転形後には,必要生活資料 c を購入して余りある賃 金率水準があらえられることになる。

 これにたいして,ボルトキェヴィッチ以来,常套的な条件として採用されている,必要 生活資料をちょうど買えるだけ賃金率が支払われるとする,マルクス本来の定義にかなう 労働力の価値規定を採用すれば,転形後の価格で評価しても wpc が維持されないとい けないので,この条件を価格方程式 (7. 9) に代入すれば,

p = ( 1+ r)p(A +ca 0)(7. 15)

になるので,けっきょく,非負行列 Aca 0 にかんする非負固有値問題        1/2 1/4

λ [p 1 p 2] = [p 1 p 2]        (7. 16)       1/3 1/3

を解けばよいことになる。その固有方程式は,

 λ- 1/2 - 1/4

               = λ- 5/6 λ+ 1/12 = 0   - 1/3 λ- 1/3

になるので,フロベニウス根 λ= (5 +√ 13)/12 から,利潤率

r =λ-1- 1 = 4 -√ 13 をえる。

 フォーレイの転形手続きの結果,第2財に換算された実質賃金率 w/p2 が変化したのは なぜであろうか?さきに示したように,かれの転形では,核心となる「貨幣の価値」と「労 働力の価値」の改ざんによって,フォーレイ自身が感知できないまま,じつは,実質賃金 率は,1人あたり純生産物に換算されて表現されていたのである。したがって,「貨幣の 価値」と命名された,1人あたり純生産物タームで表現された実質賃金率 vw ならば,転 形の前後で,不変のまま保たれているのである。マルクスの再生産表式にならって,かれ は,消費財は第2生産物のみから構成されるとみなし,実質賃金率はこの生産物に換算し て表現されるべきものとかんがえたのであろうが,かれの手法では,すでに,実質賃金は,

べつのかたちで,1人あたり純生産物タームとして,あたえられていたわけである。した がって,かれは,改ざんされた「貨幣の価値」と「労働量の価値」を護持するつもりなら ば,賃金を測定するニュメレールとして,後者を採用することで統一すべきである。いっ ぽう,不毛な結果しか生みだしそうにない,かれのオリジナリティーあふれる定義を放棄 して,労働者の生活資料ベクトル c で測定された実質賃金率という,マルクス本来の意 図にかなう常套的な定義に立ち返れば,かれの手法は,ボルトキェヴィッチ以来通常使用 される価格方程式 (7. 15) に帰着することになろう。転形問題を解決したと,はしゃぎま わる孫悟空も,じつは,お釈迦様の手の中で踊っていただけにすぎない。いずれにしても,

価値による価格の規制をモデル内に明示的に導入したことにはならず,そこには,賃金を 測定する規準として,1人あたり純生産物と必要生活資料ベクトルとの,いずれを採用す るかというニュメレールの選択問題しかのこらない。

 なお,採用されるニュメレールが異なれば,実質賃金率が変化するという事実は,ちょ

(14)

うど,物価指数を作成するさい,ウェイトとしてどのような数量ベクトルを採用するかによっ て,集計量としての指数値に差異が生じるのとおなじ事情に起因する。このような指数問題を 回避する1つの方法は,スラッファが採用した標準商品で賃金を測定するという手法であろう。

8.おわりに

 これまでみてきたように,転形問題にかんするフォーレイの解法は,いちおう多部門 経済を考察の対象としてはいても,付加価値は価値の形態としての価格で表示された投 下労働であるという,イデオロギッシュな「お題目」が枕詞に添えられる以外,事実上,

Weintraub [31] に代表される,その根拠を検討することもなく,賃金分配率一定を自明な 公理として採用するケインジアンのマクロ分配理論と,なんら,見分けがつかない。マク ロ的にみた集計量として価値形態を矮小化してとらえる,フォーレイの手法は,統計上の 記述以上にはなにも含蓄しない一般物価水準という概念を常套手段とする,マクロ経済学 の不毛性に警鐘を鳴らし,その方法論上の反省をうながすといった意味で,はからずも,

反面教師の役割をはたすのかもしれない。それは,同時に,生産や労働の側面をかえりみ ることなく,有効需要論のみにたよってマクロ的な分配変数の決定問題を検討しようとす るケンブリッジ型分配理論への決別をも意味するだろう。

 フォーレイによれば,

「世界にとってのもっとも重要な科学的叙述とは,同義反復とか経験的事実の叙述で はなくて,自己規定的であると同時に世界における基礎的諸関係を照らし出す有効  な理論的諸関係である」(Foley [ 3] 訳書 15 ページ )

そうであるが,転形問題にかんする,かれ自身の解法は,この方針にあきらかに反するも のであろう。かれ自身明言しているように,

「商品生産の価値関係を理解しようとするなれば,われわれは何よりもまず,生産条 件や労働生産性のような諸要因に注意を向けなければならない」

(Foley [ 3] 訳書 41 ページ ) はずであるのに。

  

参考文献

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(15)

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